不動産会社の業務改善 読了 25分

侵入窃盗9.8%増・空き家の窃盗は5年で約4倍|国交省「住まいの防犯リフォームガイド」が賃貸オーナーを名指しした4つの防犯力——夏の長期不在期に管理会社が動かす順番

国のガイドに「賃貸オーナー向け」と書かれたのは、そう当たり前のことではありません。侵入窃盗は2年連続で増え、空き家の窃盗は5年で約4倍になりました。賃貸でこれをやるとき、詰まるのは設備の選定ではなく、誰が付けて誰が払うかです。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
侵入窃盗9.8%増・空き家の窃盗は5年で約4倍|国交省「住まいの防犯リフォームガイド」が賃貸オーナーを名指しした4つの防犯力——夏の長期不在期に管理会社が動かす順番
目次

国が出した防犯のガイドブックに、表紙から「賃貸オーナー向け」と書かれています。国土交通省が令和8年3月24日に策定を発表した「住まいの防犯リフォームガイド」は、戸建住宅の所有者だけでなく低層集合住宅の居住者・賃貸オーナーを読者に据えました。背景には警察庁「令和7年の犯罪情勢」の数字があります。侵入窃盗は4万7,233件で前年比9.8%増空き家での窃盗は令和2年比で約4倍。ウルスタ代表として自社で210室を管理する立場から、夏の長期不在期に管理会社が何をどの順に動かすかを整理します。

【要点】3月24日のガイドが賃貸を名指しした意味

結論から。新しい義務が生まれたわけではありません。変わったのは提案の足場です。これまで賃貸物件の防犯は、管理会社の経験談かメーカーの営業資料に頼るしかありませんでした。それが今回、国土交通省と警察庁が関わった公表資料に、低層集合住宅の対策が9項目、共用部の照度が数値で並びました。オーナー提案に載せられる根拠が一段固くなった、ということです。
項目内容賃貸管理での意味
公表国土交通省が令和8年3月24日に策定を発表。発行は一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会、協力は国土交通省住宅局住宅生産課と警察庁生活安全局生活安全企画課民間団体の発行だが、国交省と警察庁が協力に名を連ねている
対象読者表紙に戸建住宅、低層集合住宅の居住者・賃貸オーナー向けと明記賃貸が想定読者に入っている点が実務上は大きい
検討体制令和7年度の既存住宅にかかる防犯性能検討委員会。委員長は樋野公宏 東京大学大学院工学系研究科教授都市計画・まちづくり・犯罪学の研究者と業界10団体が参加
枠組み犯罪の抑止に有効な4つの防犯力。領域性・監視性・抵抗性・警報性設備を単品で語らず、敷地全体で組み立てる考え方
免責ガイド自身がすべての住宅侵入犯罪の抑止を保証するものではないと明記入居者募集で断定的な表現を避ける根拠にもなる

侵入窃盗は2年連続で増えている

ガイドが背景に置いた「増加傾向」は、警察庁が令和8年2月に公表した令和7年の犯罪情勢で裏が取れます。刑法犯認知件数は77万4,142件。戦後最少だった令和3年から4年連続で前年を上回り、令和元年をも上回りました。

指標令和7年前年比賃貸管理から見た読み方
刑法犯 認知件数77万4,142件4.9%増4年連続増。令和元年水準を超えた
侵入犯罪 認知件数5万8,492件9.2%増侵入強盗・侵入窃盗・住居侵入の合計
侵入窃盗4万7,233件9.8%増侵入犯罪の約8割。本記事の主対象
強盗 認知件数1,428件増加件数は多くないが手口が悪質化
窃盗犯 認知件数51万3,931件2.5%増令和元年の水準に戻りつつある

体感の側の数字も添えます。警察庁が令和7年10月に15歳以上5,000人へ実施した治安に関するアンケート調査では、ここ10年間で治安が悪くなったと思うという回答が79.7%でした。入居者からの防犯の問い合わせが増えている実感は、世相とは整合しています。

空き家の窃盗が5年で約4倍になった

賃貸管理の視点でいちばん効くのがここです。警察庁が発生場所別に集計している空き家での窃盗犯認知件数は、統計開始の令和2年以降5年連続で前年を上回り、令和7年は1万3,971件。令和2年比で307.9%の増加です。

発生場所「空き家」令和2年令和7年前年比
合計 認知件数3,425件1万3,971件増加
うち侵入窃盗3,180件1万1,958件28.4%増
うち非侵入窃盗221件1,934件34.3%増
検挙率42.2%41.0%2.4ポイント減
被害品の内訳に、管理会社が知っておくべき変化があります。空き家の非侵入窃盗、つまり敷地内などから持ち去られたものの被害品は、室外機が702件で12.3%増、その他の機械器具等が731件で63.2%増、金属類が227件で57.6%増でした。警察庁はこれを銅等の金属価格の高騰により金属くずとして売却するために窃取されたもの、と分析しています。長期空室の物件で建物には入られていないのに室外機だけがなくなるのは、まれな話ではなくなりました。

この統計における空き家は居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物及びその敷地とされています。長期空室の賃貸住戸が該当するかは事案によりますが、実務上の狙われ方は近いと考えて手当てするほうが安全だと判断しています。

設計思想は「5分」という一つの数字

ガイドでいちばん腹落ちしたのはここです。関係機関の調査によると、侵入をあきらめる時間について2分以内と答えた被疑者が17.1%2分を超えて5分以内が51.4%。つまり建物部品が5分耐えれば約7割があきらめる、という整理です。出典は警察庁の防犯情報サイトとされています。

防犯を「破られない」で考えると費用は青天井になります。5分で考えると、投資の当たりどころが決まります。玄関の錠を1つから2つにする、クレセントをロック付きに替える、面格子を付ける。いずれも時間を稼ぐという一点で効いてきます。

4つの防犯力——領域性・監視性・抵抗性・警報性

防犯力ガイドの定義賃貸物件での具体
領域性境界を明確にし、部外者の敷地内への立ち入りを防ぐ建物側面の通路に門扉を設けて施錠する。オートロック化
監視性人の目や防犯カメラで不審な行動をチェックし、必要に応じて知らせる共用部の照度確保。センサー付きライト。カメラ付きインターホン
抵抗性短時間で突破されないよう、窓やドアなどを強化するワンドア・ツーロック。防犯フィルム。ロック付きクレセント。忍び返し
警報性部外者の侵入を、居住者や周囲の人に知らせる防犯アラーム。警報ランプ。窓用防犯ブザー

樋野教授はガイドで、侵入者は相対的に弱い箇所を狙うため、一箇所を集中的に強化するのではなく4つの視点を踏まえて全体的にバランスよく対策を講じることが大事だと述べています。玄関だけ立派で裏手の小窓が素通しというのは、費用のかけ方として筋が悪い。

低層集合住宅の9項目を管理の言葉に置き換える

ガイドは低層集合住宅の防犯強化を9項目に整理しています。これを誰が判断し、いつ動かせるかという管理会社の言葉に置き換えたものが次の表です。金額は書きません。地域と物件で変わるためです。

ガイドの項目区分判断者動かせる時期
敷地内に部外者が入りにくくする領域性オーナー外構工事。長期修繕の枠で
オートロックで住人以外の入場を制限領域性オーナー大規模。空室が多い時期に
敷地内や階段・廊下に一定の照度を確保監視性オーナー電球交換の延長で今月できる
建物周囲や共用部にセンサー付きライトや防犯カメラ監視性オーナーワイヤレス型なら工事は比較的簡単
屋内から訪問者を確認できるようにする監視性オーナー退去後の原状回復と同時が最安
錠やのぞき対策などで玄関ドアまわりを強化抵抗性オーナー退去時の鍵交換と同時に検討
ガラスやクレセント強化で窓からの侵入を防ぐ抵抗性オーナー空室工事で。1日で終わることが多い
忍び返しで上階やバルコニーへの侵入を防ぐ抵抗性オーナー雨樋・配管の点検に合わせて
防犯アラームや警報ランプ警報性オーナーまたは入居者入居者設置なら原状回復の取り決めが要る

旗竿地のアパートは通常以上の対策がいる

ガイドのコラムに、賃貸管理をしていると膝を打つ記述があります。細長い通路の奥に広がる旗竿地に建つアパートなどの賃貸住宅は、周囲の建物に囲まれやすく人目につきにくいため共用部が暗く死角が多くなり、犯罪者に目をつけられやすく通常以上の防犯対策が必要だ、というものです。樋野教授の執筆です。

旗竿地の物件は家賃が相場より安く、そのぶん防犯投資の判断が後回しになりがちです。しかし前面道路から見えない開口部が狙われやすいという指摘に照らすと、順番はむしろ逆になります。私は自社の管理物件を前面道路からの見通しが利くかどうかで二群に分け、見通しの利かない側から手を付けるようにしました。

共用部の照度には具体的な数値がある

ガイドが数値で示しているものは多くありません。そのなかで、そのまま点検表に転記できるのがこれです。

場所確保すべき平均水平面照度
共用玄関(外側)概ね20ルクス以上
共用玄関(内側)概ね50ルクス以上
共用出入口(その他)概ね20ルクス以上
共用廊下・階段概ね20ルクス以上

あわせて、20ルクスは人の顔や行動を識別できる程度50ルクスは明確に識別できる程度という目安が書かれています。照度計は数千円です。巡回時に共用玄関の内外と廊下・階段の数値を控えるだけで、提案が感覚論から数字の話に変わります。「暗いので替えましょう」と「共用玄関の内側が18ルクスで、目安の50ルクスを下回っています」とでは、通りやすさが違います。

CP部品とCPマークの見方

CP部品とは。官民合同会議により定められた人為的破壊試験において、侵入可能な開口ができるまでに5分以上の時間がかかることが確認された、防犯性能の高い建物部品です。ガラス、フィルム、サッシ、シャッター、錠など17種類があり、部品にはCPマークが付与されます。この考え方は住宅性能表示制度における防犯性にかかる性能評価にも採用されています。

賃貸の実務では、CP部品は選定の指標として使えます。相見積もりを取ると防犯フィルムひとつでも仕様の幅が大きく比較が難しいのですが、CPマークの有無を仕様書に書いておくと土俵が揃います。なおガイドは、防犯フィルムは部分貼り等では十分な防犯性能を発揮しないためプロに依頼するよう明記しています。安価な部分貼りを、あとから「対策済み」として扱わないことです。

賃貸で詰まるのは、誰が付けて誰が払うか

ここからは、ガイドには書かれていない領域です。ガイドは賃貸借契約に固有の論点までは踏み込んでいません。以下は自社の運用であり、法令上の一般的な結論ではありません。

対策自社での扱い考え方
共用部の照明・センサーライトオーナー負担共用部の維持管理として整理しやすい
共用部の防犯カメラオーナー負担設置後の運用まで含めて受託範囲を明記
玄関ドアの錠の増設オーナー負担建物の付属物にあたるため。退去時に残る
ロック付きクレセント・面格子オーナー負担同上。空室工事に組み込むのが最も安い
入居者が付ける後付け補助錠事前承諾+原状回復の取り決め下地に穴が残るものは事前に条件を書面化
入居者が付ける窓用防犯ブザー原則自由粘着・マグネット式で痕跡が残らないもの
費用負担の帰属は、所有関係と管理委託契約および賃貸借契約の内容で変わります。本記事は一般論として断定していません。とくに、既存の設備が故障している場合の修繕と、防犯性能を上げるための改良とでは扱いが異なりうるため、個別の契約書の文言にあたってください。

入居者が自分で付けた補助錠の扱い

実際に起きるのはこれです。防犯意識の高い入居者が、玄関ドアにビス留めの補助錠を自分で取り付ける。悪意はありません。しかし退去立会いで、ドア本体に穴が4つ残っていることが分かる。ここで原状回復の対象かを巡って揉めます。

私は、この論点を入居時の説明に前倒しすることにしました。入居のしおりに取り付けたい防犯設備がある場合は事前にご相談くださいという一行と、痕跡が残らないタイプの例を並べています。相談されないまま穴が開くよりも、はるかに安く済みます。

郵便受けは、いちばん手が届く対策

ガイドの論点のうち、賃貸で最も費用対効果が高いと私が考えているのが郵便受けです。犯罪者が事前の下見調査を行うなかで、個人情報の収集のために郵便受箱から郵便物を抜き取るケースが見られるとされています。銀行やカード会社、証券会社からの郵便物は、購入情報や資産状況を知らせることにつながる、と。

対策は施錠可能で、投入口から郵便物が抜き取られにくいものを選び、見通しのよい場所に設置すること。内部フラップ付き、投入口が狭く深さがあるものが挙げられています。集合ポストの交換は、オートロックの新設に比べれば桁が違います。今年度の提案に一つだけ入れるなら、私はここを選びます。

宅配を装う手口と、置き配の案内

ガイドは、近年の手口として宅配業者を装い、玄関を開けた際に押し入る情報を聞き出すため在宅時に侵入し、住人を拘束したり暴行を加えるといった例を挙げています。警察庁の犯罪情勢でも、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員が6,679人で28.4%増、うち強盗が304人。検挙人員の約3割は、SNSによる犯罪実行者募集情報が加担のきっかけになっています。

入居者に案内できる具体はこの4つです。訪問者にはまずインターホンなど非対面で対応し、相手を確認せずにドアを開けないこと。宅配物は時間指定宅配ボックスを使い、予定のない荷物は在宅中でも置き配にしてもらうこと。オートロックでの共連れは絶対にしないこと。合い鍵を郵便受け内や植木鉢の下に隠さないこと。合い鍵は鍵番号だけでつくれるとも書かれています。

ガイドが繰り返し書いているのが住宅侵入の多くは無施錠のドアや窓からであり、上層階はとくに無施錠にしやすいという点です。管理会社としては、オートロック物件ほど各戸の施錠を促す掲示が要る、と読み替えるべきところです。

募集図面に「防犯」と書くときの注意

防犯投資をしたら募集に反映したくなります。ここは慎重に扱っています。ガイド自身が、すべての住宅侵入犯罪の抑止を保証するものではないと明記しているからです。

書き方自社での可否理由
防犯ガラス設置済み設置という事実の記載。写真と併記する
CP部品の玄関ドアマークの有無で確認できる客観的事実
共用部防犯カメラ 台数と設置位置事実の記載。録画の有無も併記
安全な物件・防犯対策万全不可効果の保証と読まれうる。根拠を示せない
侵入被害ゼロ不可将来を約束する表現になりうる

設備の有無を事実として書くのは問題になりにくい。効果を約束する表現に踏み込んだ瞬間に、表示の適正さの問題になります。

入居率96.4%という数字の読み方

ガイドには、賃貸経営に直結する数字が一つ載っています。NPO法人福岡県防犯設備士協会の方のコメントとして、同協会が県・市・県警の後援を受けて実施している賃貸集合住宅を対象とした優良防犯認定制度について、協会の調べでは一般の賃貸住宅の平均入居率が81.2%なのに対し、認定物件の入居率は96.4%15%もの差がついた、というものです。

この数字は、扱いに注意が必要です。出典は当該協会の調査であり、調査対象数・地域・築年・需給条件がガイドには記載されていません。防犯認定を取ったから入居率が15ポイント上がるという因果としては読めません。認定を取ろうとするオーナーは元々管理に熱心である、という選択の偏りも考えられます。使うなら必ず出典と留保をセットで示してください。私は提案書では参考情報の欄に置いています。

夏の長期不在期に配る一枚

お盆前後は、入居者が数日から一週間、部屋を空けます。留守だと気づかせない工夫として、ガイドは郵便受けに郵便物を貯めない夜間常に暗い状態にしないことを挙げ、タイマー点灯や遠隔点灯にも触れています。

私の会社では、8月の頭に管理物件へA4一枚を投函します。内容は多くしません。多いと読まれないからです。長期不在時の郵便物の扱い、在宅時も含めた施錠、共連れをしないこと、置き配の使い方、緊急連絡先。ここに今年から合い鍵を屋外に隠さないという一行を足しました。

8月と9月の工程表

時期やること誰が
8月上旬入居者向けA4一枚の投函。長期不在の届出受付管理担当
8月上旬長期空室・原状回復待ちの住戸を一覧化。室外機の有無を確認管理担当
8月中巡回時に共用玄関の内外・廊下・階段の照度を実測して記録巡回担当
8月中前面道路からの見通しが利かない物件を抽出して優先順位付け管理責任者
8月下旬照度不足・センサーライト・集合ポストの見積取得工務担当
9月上旬オーナー報告に防犯の項を新設。実測値と見積を添付管理担当
9月中空室工事にクレセント交換・面格子を組み込めるか検討工務担当
随時退去時の鍵交換にあわせて、錠の増設可否を判断管理担当

要点は新規に予算を取りにいかないことです。照度は巡回のついでに測れ、クレセントと面格子は空室工事に載り、錠の増設は退去時の鍵交換に載ります。すでに動いている工程に相乗りさせるのが、防犯投資を前へ進める現実的な方法です。

よくある誤解

誤解1 オートロックがあれば大丈夫

ガイドは共連れを明確に否定し、オートロック付きでも玄関は在宅時でも常に施錠するよう求めています。オートロックは領域性の一手段であって、抵抗性と警報性を代替しません。

誤解2 防犯フィルムを貼れば窓は安全になる

部分貼り等の対応では十分な防犯性能を発揮しないとガイドは明記しています。工事写真を残しておかないと、あとから施工範囲が確認できません。

誤解3 空き家の被害は戸建の話

統計上の空き家は建物種別を限定していません。長期空室の集合住宅も、室外機や金属の持ち去りという点では同じ構図に置かれています。

よくある質問

Q. 防犯設備を設置する法的な義務はありますか

本ガイドは義務を課すものではなく、対策例を整理した資料です。ただし建物の安全性に関する所有者・管理者の責任は別の法令や判例の領域にあります。個別の判断は弁護士にご相談ください。

Q. 入居者から「防犯カメラを付けてほしい」と言われました

設置そのものより設置後の運用が論点になります。録画の保存期間、閲覧できる者、第三者への提供の条件を先に決めてください。撮影範囲に隣地や公道が入る場合の配慮も要ります。

Q. CP部品はどこで確認できますか

部品にはCPマークが付与されます。ガイドは5団体防犯建物部品普及促進協議会のウェブサイトを参照先として案内しています。見積書の仕様欄にCPマークの有無を書かせるのが実務上は早道です。

情報の扱いで慎重にした点

  • ガイドは義務ではありません。発行は住宅リフォーム推進協議会であり、国土交通省と警察庁は協力の立場です。本記事では規範ではなく提案の足場として扱いました。
  • 費用負担の帰属を一般論で決めていません。所有関係と管理委託契約・賃貸借契約の内容で変わるためです。
  • 入居率96.4%の数字に因果を読ませていません。出典が当該協会の調査であり、調査設計が公表資料からは確認できないためです。
  • 補助金の金額・要件を書いていません。変動しうるためです。
  • 空き家統計と長期空室の同一視を避けました。実務上の狙われ方が近い、という書き方に留めています。
  • 防犯効果を保証する表現を避けました。ガイド自身が抑止を保証するものではないと明記しているためです。

ウルスタでは、賃貸管理の現場から見た制度と実務の記事を毎日更新しています。管理物件の点検表づくりや、オーナー提案の組み立てにお使いください。https://ulsta.jp

執筆にあたって

私は宅地建物取引士として、自社で210室の賃貸住宅を管理・客付けしています。防犯は、何も起きなければ成果がゼロに見える領域です。だから提案が通りにくく、通らなかったことも記録に残りません。本記事は制度の解説ではなく社内の段取り表として書いています。設置義務の有無、費用負担の帰属、入居者による設置物の原状回復の扱い、募集広告での表示の適否、補助制度の適用可否については、国土交通省・警察庁および都道府県または市区町村の担当窓口の公表情報を確認のうえ、必要に応じて弁護士および防犯設備の専門事業者にご相談ください。記載は2026年7月時点の公開情報と自社の実務に基づいています。

本記事で参照した公表情報
  • 国土交通省 報道発表資料 令和8年3月24日「防犯リフォームで安全・安心なくらしを ~『住まいの防犯リフォームガイド』を策定~」。対象が戸建住宅の所有者や低層集合住宅の居住者・賃貸オーナー向けであること。住宅における侵入窃盗や強盗が増加傾向で手口が悪質化しているという背景。令和7年度の「既存住宅にかかる防犯性能検討委員会」で4つの防犯力の視点から整理されたこと。委員長が樋野公宏 東京大学大学院工学系研究科教授であり、田中賢 日本大学理工学部教授、小宮信夫 立正大学文学部教授および業界10団体が参加していること。
  • 国土交通省 住宅局「住まいの防犯対策をまとめた『住まいの防犯リフォームガイド』について」令和8年3月24日。4つの防犯力が領域性・監視性・抵抗性・警報性であること。発行が一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会、協力が国土交通省住宅局住宅生産課および警察庁生活安全局生活安全企画課であること。
  • 「住まいの防犯リフォームガイド」本体。2026年3月初版。4つの防犯力の定義。侵入をあきらめる時間が2分以内17.1%・2分超5分以内51.4%で、5分耐えれば約7割があきらめること(出典は警察庁の防犯情報サイト)。CP部品が人為的破壊試験で5分以上を要すると確認された建物部品であり17種類にCPマークが付与され、住宅性能表示制度の防犯性の性能評価にも採用されていること。
  • 同ガイド 低層集合住宅の防犯対策。強化項目9件と防犯機能の対応。共用出入口の平均水平面照度が共用玄関の外側 概ね20ルクス以上、内側 概ね50ルクス以上、その他の共用出入口および共用廊下・階段 概ね20ルクス以上であること。20ルクスが人の顔や行動を識別できる程度、50ルクスが明確に識別できる程度であること。
  • 同ガイド コラム「前面道路から見えない開口部が狙われやすい」。旗竿地のアパート等は共用部が暗く死角が多いため通常以上の防犯対策が必要であること。執筆は樋野公宏教授、参考文献は樋野公宏・雨宮護、都市計画報告集16巻1号、2017年。
  • 同ガイド 専門家コメント。NPO法人福岡県防犯設備士協会 藤滿弘さんによる、同協会の優良防犯認定制度について、協会の調べで一般の賃貸住宅の平均入居率81.2%に対し認定物件96.4%と15%の差がついたとの記述。
  • 同ガイド コラム「日頃の暮らしの心がけも大切です」。住宅侵入の多くは無施錠のドアや窓からで上層階はとくに無施錠にしやすいこと。共連れの禁止。訪問客への非対面対応。宅配物の時間指定・宅配ボックス・置き配。郵便受箱からの抜き取り対策。合い鍵を屋外に隠さないこと。留守だと気づかせない工夫。防犯フィルムは部分貼り等では十分な性能を発揮しないこと。巻末の免責。
  • 警察庁長官官房「令和7年の犯罪情勢」令和8年2月。刑法犯認知件数 77万4,142件(4.9%増)で4年連続増かつ令和元年超え。侵入犯罪 5万8,492件(9.2%増)。侵入窃盗 4万7,233件(9.8%増)で侵入犯罪の約8割。窃盗犯 51万3,931件(2.5%増)。強盗 1,428件。
  • 同資料 発生場所「空き家」。令和7年 1万3,971件、令和2年比 307.9%増で5年連続増。侵入窃盗 1万1,958件(28.4%増)、非侵入窃盗 1,934件(34.3%増)、検挙率41.0%。非侵入窃盗の被害品は室外機 702件、その他の機械器具等 731件、金属類 227件で、銅等の金属価格の高騰が要因と考えられる旨。空き家の定義。
  • 同資料 匿名・流動型犯罪グループによる主な資金獲得犯罪の検挙人員 6,679人(28.4%増)、うち強盗 304人、約3割はSNSの実行者募集情報が加担の経緯。体感治安の調査で、ここ10年間で治安が悪くなったと思う旨の回答が79.7%であったこと。