不動産会社の業務改善 読了 20分

インボイスの8割控除、10月から5割ではなく7割になります|令和8年度改正で経過措置は2年延長、2割特例は個人だけの3割特例へ。中小不動産会社が9月30日までに直すこと

10月から5割になると身構えていた会社に、朗報と落とし穴が同時に来ました。控除割合は7割で踏みとどまり、負担増は想定の3分の1。一方で2割特例は終わり、法人には代わりの特例がありません。外注費・サブリース・オーナー説明の三つの現場で、9月30日までに何を直すかを具体的に示します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
インボイスの8割控除、10月から5割ではなく7割になります|令和8年度改正で経過措置は2年延長、2割特例は個人だけの3割特例へ。中小不動産会社が9月30日までに直すこと
目次

免税事業者からの仕入れに使えていた8割控除は、2026年9月30日で終わります。ただし10月1日からの控除割合は、多くの方が身構えていた5割ではありません。7割です。令和8年度税制改正で、この経過措置は適用期限が2年延長され、8割・7割・5割・3割・0割という新しい時間割に組み替えられました。当社も2026年の前半までは、10月から一気に5割へ落ちる前提で外注費の予算を組んでいました。その前提が変わったので、組み直しました。本記事は、ウルスタ代表として中小不動産会社の実務に関わる立場から、改正後の正しい時間割と、9月30日までに社内で直すべきことを整理します。朗報だけの話ではありません。2割特例は予定どおり終わり、その受け皿は個人事業者にしか用意されていない、という落とし穴が同時に来ています。

5割になると身構えていた会社へ

インボイス制度が始まったとき、免税事業者からの課税仕入れについては、経過措置として仕入税額相当額の一定割合を控除できることになりました。令和5年10月1日から3年間が8割、その後3年間が5割、そして令和11年10月からは控除できなくなる。これが当初のスケジュールです。

この前提で、多くの会社が2026年10月を身構えていました。8割から5割へ、一気に3割ぶんが消える。原状回復を頼んでいる一人親方も、草刈りを頼んでいる業者も、免税事業者が少なくない。そのコストが上がる。だから登録してもらうか、取引を見直すか、値段を下げてもらうか。そうした議論を、この春に社内でした会社もあるはずです。

令和8年度税制改正で、この前提が変わりました。経過措置の適用期限が2年延長され、控除可能割合が見直されました。国税庁はこれを7・5・3割控除と呼んでいます。令和8年10月1日からの2年間は70パーセント。令和10年10月1日からの2年間が50パーセント。令和12年10月1日からの1年間が30パーセント。そして令和13年10月1日以後は控除できません。

つまり、2026年10月からの落差は、3割ぶんではなく1割ぶんです。覚悟していた負担増のおよそ3分の1で済む。ただし、これは「猶予が延びた」だけであって、免税事業者との取引をどうするかという宿題が消えたわけではありません。締切が2029年秋、そして2031年秋へと後ろにずれただけです。

【要点】改正で変わった4点

細部に入る前に、全体像を押さえます。今回の改正で不動産会社に関係するのは、次の4点です。

論点改正前の予定改正後(令和8年度税制改正)
免税事業者からの仕入れの控除割合令和8年10月から3年間50パーセント、その後0令和8年10月から2年間70パーセント。以後50・30・0と段階的に縮小し、令和13年10月に終了
経過措置の年間上限一の免税事業者等につき10億円一の免税事業者等につき1億円。超えた部分は経過措置の対象外
2割特例令和8年9月30日を含む課税期間まで予定どおり終了(変更なし)
2割特例の受け皿なし3割特例を創設。ただし個人事業者のみ、令和9年分・令和10年分の申告に限る

1点目と2点目は、皆さんが支払う側として受ける影響です。3点目と4点目は、取引先である一人親方や個人オーナーが受け取る側として受ける影響であり、管理会社としては説明を求められる論点です。順に見ます。

控除割合を決めるのは、請求書の日付ではない

実務でまず間違えるのがここです。80パーセントか70パーセントかを決めるのは、課税仕入れを行った日です。請求書の締め日でも、支払日でもありません。

たとえば、9月中に原状回復工事が完了し、引渡しを受けた。請求書は10月5日付で届き、支払いは10月末。この場合、課税仕入れを行った日は9月ですから、控除割合は80パーセントです。逆に、10月1日に着工して10月中に完了した工事は、9月中に見積書と発注書を交わしていたとしても70パーセントです。

9月から10月をまたぐ月は、この線引きで社内が必ず混乱します。会計システムの経過措置区分は、多くの製品が仕訳日付で自動判定しますが、その仕訳日付が「請求書を入力した日」になっていないかを、9月中に一度確認しておいてください。ここがずれていると、10月に入ってから9月完了ぶんが70パーセントで処理され、控除できたはずの金額を取り逃がします。金額としては大きくありませんが、税務調査で最初に見られる種類の論点です。

先に押さえておきたい前提——税込1万円未満の課税仕入れについては、少額特例により、インボイスの保存がなくても帳簿の保存だけで全額の仕入税額控除ができます。基準期間の課税売上高が1億円以下などの要件を満たす事業者が対象で、令和11年9月30日までの課税仕入れに適用されます。ここは今回の改正で変わっていません。つまり、鍵交換や電球の交換のような少額の支払いは、そもそも70パーセントの話にならない。経過措置の割合が問題になるのは、1万円以上の支払いです。この切り分けを社内で共有しておくと、余計な議論をせずに済みます。

100万円の外注費で、負担はいくら増えるのか

抽象的な話をしても腹落ちしないので、金額で確かめます。免税事業者である内装業者に、税抜100万円、税込110万円の原状回復工事を発注したとします。

この支払いに含まれる消費税相当額は10万円です。80パーセント控除なら、そのうち8万円を仕入税額控除できます。会社が実質的に負担するコストは、110万円から8万円を引いた102万円。70パーセント控除になると、控除できるのは7万円で、実質コストは103万円です。差は1万円。税込支払額に対して、およそ0.9パーセントの負担増です。

もし予定どおり50パーセントに落ちていたら、控除は5万円、実質コストは105万円で、負担増は3万円でした。覚悟していた負担増の3分の1で済む、というのが今回の改正の実質です。

次に、会社全体で見ます。免税事業者への年間支払いが税込3000万円ある管理会社を想定します。この3000万円に含まれる消費税相当額は、3000万円に10を掛けて110で割った約272万円です。80パーセント控除なら約218万円を控除でき、実質負担は約55万円。70パーセントなら控除は約191万円で、実質負担は約82万円。年間で約27万円の負担増ということになります。50パーセントだったなら約136万円が負担となり、80パーセント時点との差は約82万円でした。

年27万円という数字をどう見るかは、会社によって違います。ただ、この程度の金額のために、長年つきあってきた職人に登録を迫ったり、単価の引き下げを一方的に通告したりするのは、割に合いません。ここは冷静に判断すべき場面です。

やってはいけない交渉——公正取引委員会は、免税事業者との取引について、独占禁止法および下請法の考え方を示しています。取引上の地位が優越している事業者が、免税事業者であることを理由に、一方的に対価を引き下げたり、取引を停止したりすることは、問題となるおそれがあります。単価の見直しをするなら、双方が納得する形での協議を経ること。そして協議の記録を残すこと。負担増が年27万円であるという事実は、むしろ「急いで無理な交渉をしない」ための材料として使うべきです。

不動産会社で本当に効くのは、この3つの支払い

免税事業者への支払いといっても、どこに効くのかを特定しないと社内の作業が発散します。中小の不動産会社で経過措置が実際に効いてくるのは、次の3つです。

1つ目は、現場の外注費。原状回復、ハウスクリーニング、鍵交換、草刈り、退去後の軽微修繕、看板の設置。一人親方や小規模事業者が多く、免税事業者の比率が高い領域です。ここが金額としては最大になります。

2つ目は、事業用物件のサブリース。免税事業者である個人オーナーから店舗や事務所を一括借上げし、テナントに転貸している場合、オーナーへ支払う借上げ賃料は課税仕入れです。したがって経過措置の対象になります。金額が大きいぶん、影響も大きい。ここは10月をまたぐ月の処理を必ず確認してください。

3つ目は、駐車場や設備の賃借料。土地を更地のまま貸借する地代は非課税ですが、区画や舗装などの施設として整備された駐車場の賃借料は課税取引です。屋上のアンテナ設置料や看板の設置料も同じです。免税事業者である地主に支払っているなら、経過措置の対象になります。

逆に、居住用の家賃は非課税です。住宅として貸し付けられている物件の家賃には消費税がかかりませんから、免税事業者である個人オーナーから住宅を借り上げていても、そもそも仕入税額控除の話になりません。ここを混同して社内で大騒ぎになる会社がありますが、居住用の賃貸管理が中心の会社であれば、影響は外注費に限定されるのが普通です。まずは自社の支払先リストを、この4分類で仕分けることから始めてください。

2割特例は終わり、3割特例は個人事業者だけ

ここからは、取引先の側で起きることです。

2割特例は、免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けたことで課税事業者になった場合に、納付税額を売上税額の2割に抑えられる激変緩和措置でした。この特例は、令和8年9月30日を含む課税期間までで終わります。個人事業者であれば令和8年分、つまり2027年3月の確定申告が最後です。

その受け皿として、令和8年度改正で3割特例が創設されました。納付税額を売上税額の3割にできる特例で、令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告に適用されます。ただし、適用対象がはっきり絞られています。

3割特例の主な要件内容
事業者の区分個人事業者であること。法人は対象外
基準期間の課税売上高適用を受ける年の2年前の課税売上高が1000万円以下(令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)
登録インボイス発行事業者の登録を受けていること
適用年分令和9年分・令和10年分の申告のみ

実務で問題になるのは、法人が対象外という一点です。インボイスのために法人成りした一人社長の内装会社や、小規模な管理会社。こうした法人は、令和8年9月30日を含む事業年度で2割特例を使い切ったあと、3割特例に移れません。本則課税か簡易課税かの二択になります。

取引先にこうした法人がいる場合、来年から納税額が跳ね上がる可能性があります。それは単価の値上げ要請という形で、こちらに返ってきます。今のうちに、どの取引先が個人で、どの取引先が法人かを把握しておく。これは税務の話であると同時に、来期の外注コストの予測の話です。

簡易課税への移行が緩んだ——不動産業のみなし仕入率は40パーセント

簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5000万円以下の課税期間について、売上に係る消費税額にみなし仕入率を掛けた額を仕入税額とみなして納付税額を計算できる制度です。インボイスの保存が不要になるため、事務負担が大きく減ります。

ただし従来は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに選択届出書を出す必要がありました。年末に慌てて出し忘れて、翌年まるごと本則課税、という事故が毎年起きていた領域です。

令和8年度改正で、ここに円滑な移行措置が入りました。2割特例または3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税を選ぶ場合は、その課税期間の申告期限までに届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を適用できます。決算を締めて、本則と簡易のどちらが有利かを計算してから決められる、ということです。実務的には、これがいちばんありがたい改正かもしれません。

なお簡易課税のみなし仕入率は事業区分によって異なり、不動産業は第6種事業でみなし仕入率40パーセントです。卸売業の90パーセント、建設業などの第3種の70パーセントと比べると低い。売上に対して仕入が少ない業種と見なされているためで、仲介手数料や管理料が売上の中心である会社では、簡易課税が不利になることも珍しくありません。有利不利は必ず両方で試算してください。また簡易課税は、選択したら原則として2年間は継続適用しなければなりません。

10億円から1億円へ——見落とされがちな新しい上限

もうひとつ、静かに入った改正があります。7・5・3割控除には、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額について、年間の上限が設けられています。この上限が、10億円から1億円に引き下げられました。令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

一の相手方につき、税込で年間1億円を超えた部分については、経過措置が使えません。中小の不動産会社が、ひとつの免税事業者に年間1億円超を支払うことは通常ありませんから、多くの会社にとっては実害のない改正です。ただし、大口のサブリース案件で、免税事業者である個人オーナーから複数棟をまとめて一括借上げしているようなケースでは、念のため年間の支払額を確認しておいてください。判定は相手方ごとである点に注意が必要です。

9月30日までにやること

やることは多くありません。次の5点です。

第1に、支払先リストの棚卸し。免税事業者への支払いを、外注費・事業用サブリース・駐車場等・居住用家賃(非課税)の4つに仕分けます。金額の大きい順に並べれば、影響額はその日のうちに出ます。

第2に、会計システムの経過措置区分の確認。10月1日以後の課税仕入れが70パーセントで自動判定されるか。そして仕訳日付が請求書入力日ではなく取引日になっているか。この2点を9月中にテスト仕訳で確かめてください。

第3に、9月と10月をまたぐ工事の扱いの周知。控除割合は課税仕入れを行った日で決まる、という一文を、現場担当者と経理に共有します。9月完了ぶんは9月中に検収を上げる、という運用にしておけば混乱しません。

第4に、取引先の法人・個人の区分の把握。3割特例は個人事業者だけです。法人の取引先は来年以降の納税額が上がる可能性があり、単価交渉として返ってきます。来期予算の前提として押さえておきます。

第5に、オーナーへの説明。居住用の賃貸オーナーには基本的に影響がないこと、事業用物件のオーナーには2割特例の終了と3割特例の要件を伝えること。ここで一斉メールに頼らず、事業用の大家さんだけに個別に触れるのが、後々の信頼につながります。

よくある質問

Q1. 8割控除はいつまでですか。
令和8年9月30日までに行った課税仕入れまでです。10月1日以後の課税仕入れは70パーセントになります。

Q2. 5割になると聞いていましたが、間違いですか。
改正前の予定はそのとおりでした。令和8年度税制改正で経過措置の適用期限が2年延長され、令和8年10月からの2年間は70パーセントに見直されています。50パーセントになるのは令和10年10月からです。

Q3. 居住用の家賃を免税事業者のオーナーに支払っています。何か対応が必要ですか。
住宅の貸付けは非課税取引ですので、仕入税額控除の対象になりません。したがって経過措置の割合の影響も受けません。

Q4. 免税事業者の職人に、登録してほしいと頼んでもよいですか。
依頼すること自体は禁じられていませんが、取引上の地位を利用して一方的に登録を強要したり、応じない場合に取引を停止したりすることは、独占禁止法上問題となるおそれがあります。協議を経て、双方が納得する条件にしてください。

Q5. 当社は法人です。2割特例の後は何が使えますか。
3割特例は個人事業者に限られます。法人は本則課税か簡易課税かの選択になります。簡易課税を検討する場合、2割特例の適用を受けた翌課税期間であれば、その課税期間の申告期限までに届出書を提出することで適用できます。

Q6. 少額特例は続きますか。
令和11年9月30日までの課税仕入れについて、税込1万円未満であれば帳簿の保存のみで控除できます。今回の改正での変更はありません。

Q7. 1億円の上限は、会社全体の支払額で判定するのですか。
一のインボイス発行事業者以外の者ごとに判定します。会社全体の合計ではありません。適用は令和8年10月1日以後に開始する課税期間からです。

Q8. 経過措置を使うために、何か書類は必要ですか。
免税事業者からの課税仕入れであっても、経過措置の適用を受けるには、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存と、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載した帳簿の保存が必要です。相手方がインボイス発行事業者でないからといって、請求書を受け取らなくてよいわけではありません。ここは9月30日の前後で変わりません。

まとめ

2026年10月1日から、免税事業者からの課税仕入れに使える控除割合は、8割から7割になります。5割ではありません。令和8年度税制改正で経過措置が2年延長され、7・5・3割控除という新しい時間割に組み替えられたためです。負担増は、税込110万円の外注費でおよそ1万円。年間3000万円の支払いでおよそ27万円。覚悟していた金額の3分の1です。

ただし、猶予が延びたことと、宿題が消えたことは違います。2割特例は予定どおり終わり、その受け皿である3割特例は個人事業者にしか用意されていません。法人の取引先は、来年から納税額が上がります。そしてその負担は、単価という形でこちらに返ってきます。

9月30日までにやることは、支払先リストの棚卸しと、会計システムの区分の確認と、現場への周知だけです。半日あれば終わります。慌てて職人に登録を迫る前に、まず自社の数字を出してください。数字が出れば、急ぐ話でないことが分かります。

経過措置の割合そのものより、実務で厄介なのは「誰にいくら払っているのかが、すぐに出てこない」ことです。外注費が担当者ごとの記憶と紙の請求書に散らばっていると、影響額の試算に何日もかかります。ウルスタは、中小不動産会社の賃貸管理・売買・書類・オーナー報告を一つの画面にまとめる業務システムです。原状回復の発注も、サブリースの支払いも、オーナーへの報告も、同じ台帳の上に載ります。制度が変わるたびに社内を止めないための土台として、ご検討ください。詳細はウルスタをご覧ください。
著者:馬場生悦(宅地建物取引士)。中小不動産会社向け業務システム「ウルスタ」を運営。本記事は、国税庁が公開する令和8年度税制改正に関する資料を照合のうえ執筆しています。消費税の申告実務、特例の適用可否、有利不利の判定については、必ず顧問税理士にご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務助言ではありません。
参照した一次情報
  • 国税庁「令和8年度税制改正特集——インボイス経過措置の見直し等」(3割特例/簡易課税への円滑な移行措置/7・5・3割控除/その他の改正)
  • 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(少額特例、経過措置の適用関係)
  • 国税庁タックスアンサー「簡易課税制度」(事業区分およびみなし仕入率。不動産業は第6種事業・40パーセント)
  • 公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(独占禁止法・下請法上の考え方)
  • 消費税法および同法別表第二(住宅の貸付けに係る非課税)
  • いずれも2026年7月時点の公開情報および自社の賃貸管理・売買実務をもとに整理