不動産会社の業務改善 読了 25分

リスク評価書は令和8年度中に全宅建業者が作成完了へ|四半期フォローアップと令和8年度末の期限、2027年4月の対面ICチップ読み取り義務化——売買が年数件の会社が8月から動かす順番

賃貸中心の会社でも、売買を年に数件やれば犯収法の特定事業者です。リスク評価書は令和8年度中に全社作成が政府目標、体制整備は令和8年度末まで、対面の本人確認は2027年4月からICチップ読み取りへ。3本の期限が同時に走っています。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
リスク評価書は令和8年度中に全宅建業者が作成完了へ|四半期フォローアップと令和8年度末の期限、2027年4月の対面ICチップ読み取り義務化——売買が年数件の会社が8月から動かす順番
目次

賃貸が中心の会社でも、売買を年に数件やっていれば、犯罪収益移転防止法の「特定事業者」です。国土交通省 不動産業課の資料「犯罪収益移転防止法の概要について」令和8年4月版は、宅地建物取引業者を含む全49業種に義務が課されると明記しています。いま3本の期限が同時に走っています。リスク評価書は令和8年度中に全社作成完了が政府目標。体制整備は令和8年度末まで。対面の本人確認は2027年4月1日からICチップ読み取りが原則義務です。ウルスタ代表として自社で210室を管理し売買も扱う立場から、8月から令和9年3月までに何をどの順に動かすかを整理します。

【要点】いま同時に走っている3本の期限

結論から。「うちは売買が年に数件だから」で通せる時期が終わりつつあります。国土交通省は令和8年度以降、体制整備等について立入検査や書面審査等を通じ、状況を確認していくと業界団体あて事務連絡で明言しました。そして四半期ごとのフォローアップ調査が団体経由で回っています。令和8年7月——つまり今月が、その3回目です。
期限何を根拠
令和8年度中全ての宅建業者がリスク評価書の作成を完了することを目指す「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」令和8年1月23日 決定/施策番号223
令和8年度末未着手の事業者は体制整備の対応を完了させる国土交通省 事務連絡 令和7年6月27日「犯罪収益移転防止法等の厳正なる遵守について」
令和8年4月・7月・10月・令和9年1月リスク評価書の作成状況のフォローアップ調査を団体経由で実施国土交通省 不動産業課 令和8年4月資料
2027年4月1日対面の本人特定事項の確認でICチップ読み取りが原則義務化令和8年共同命令第1号(2026年3月6日公布)
令和10年8月FATF第5次対日相互審査同 事務連絡。政府全体で届出の推進強化を求めている背景

順番が大事です。2027年4月の改正は、機器とフローの話で、リードタイムが読めます。一方リスク評価書と体制整備は、今年度中に文書を存在させないと調査で「未作成」になる話です。着手の順番は後者が先です。

対象は売買だけ——賃貸の媒介は特定取引に入らない

ここを取り違えると、必要のない負荷をかけたり、逆に必要な取引を落とします。国交省資料は宅建業者の特定取引を宅地・建物の売買契約の締結又はその代理若しくは媒介と定義し、賃貸借契約の締結又はその代理若しくは媒介は特定取引に該当しないと明示しています。

自社の業務取引時確認取引記録
売買契約の締結・その代理・媒介必要必要
売買の媒介契約は結んだが成約に至らなかった特定取引に至らなければ不要必要となる場合がある
賃貸借の媒介・代理不要不要
賃貸住宅の管理受託不要不要
見落としがちな一行。国交省資料は「特定業務とは、宅地又は建物の売買又はその代理若しくは媒介に係るものとされていますので、特定取引に該当しないもの(例えば、売買契約の締結に至らない場合など)でも、取引記録の作成が必要となる場合があり得ます」と注意を促しています。売買の媒介を受託して流れた案件を、記録ゼロで終わらせていないか。自社ではここを一度洗いました。

「リスク評価書」は令和8年度中に全社という政府目標

リスク評価書は、犯収法第11条・規則第32条に基づく特定事業者作成書面です。法令上は努力義務です。それでもいま期限が切られているのは、閣僚会議の決定に載ったからです。

令和8年1月23日、外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議が「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を決定しました。その中の施策番号223が、令和8年度中には全ての宅建業者がリスク評価書の作成を完了することを目指すとしています。前段の施策番号222が、作成マニュアルを令和7年度中に策定するというもの。そのマニュアルが令和8年2月19日に公表された「リスク評価書作成要領(宅地建物取引業者におけるひな形)」です。

なぜ外国人政策の文書に宅建業者が出てくるのか。同対応策は「Ⅱ 国民の安全・安心のための取組み」の中で、多額の現金による不動産取得の事例が指摘される中、犯収法の枠組みを活用した外国人を含む不動産取得に係るマネー・ローンダリング対策を的確に進める、という文脈で書いています。宅建業者だけを狙った施策ではなく、土地所有等情報の透明性向上という大きな枠の一部です。

四半期ごとのフォローアップ調査は既に始まっている

国交省資料は、リスク評価書の作成状況を把握するためフォローアップ調査を四半期(令和8年4月、7月、10月、令和9年1月)ごとに団体経由で実施すると書いています。団体経由なので、宅建協会や全日から届く調査票がそれです。

実務的な意味はひとつ。「作成中」と回答し続けられる回数が、あと2回しかないということです。10月と令和9年1月。令和9年1月の回答が、令和8年度の着地としてほぼそのまま集計されます。逆算すると、10月の調査票に「作成済み」と書ける状態を9月末までに作るのが現実的な線です。

リスク評価書に何を書くのか——ひな形の項目

ひな形の構成は3部です。項目名を見れば、何を集めればよいか分かります。

項目自社で用意したもの
1宅地建物取引業務におけるリスクの基本的考え方(国のリスク評価結果等)犯罪収益移転危険度調査書とガイドラインからの引用で足りる
2の1自らの個別具体的な特性——営業エリアと地域特性、事業環境商圏の主な産業、居住者属性の傾向、来店顧客の特徴
2の2疑わしい取引の届出の分析結果過去5年の届出対象案件。ゼロならゼロと書き、理由を添える
2の3サービス・取引形態/顧客属性/国・地域のリスク評価非対面・現金取引の有無、国外居住者、反社会的勢力、北朝鮮・イラン
3取引リスクに応じた自社の対応方針届出の判断基準。1つでも該当すれば届出、迷う場合も届出

営業エリアの記述で手が止まったところ

「地域特性」を書けと言われて、最初は書けませんでした。結局、自社が過去3年に扱った売買の内訳を数えて、そこから書きました。買主の属性、決済方法、非対面で進んだ件数、法人取引の割合。数えるまで、非対面の割合が想像より高いことに気づいていませんでした。評価書の価値は文書ではなく、この作業のほうにあります。

届出がゼロの会社はどう書くか

これは多くの会社が詰まる点です。ゼロを「リスクが低い」と書くのは危険だと考えています。理由は次章の数字です。自社では、ゼロは検知の仕組みがなかった期間の記録として書き、いつからチェックリストによる判断を入れたかを併記しました。

体制整備の4点セットは、書類ではなく運用

法第11条・規則第32条が求める体制整備は4つです。事務連絡は、リスク評価書に加えて使用人に対する教育訓練の実施取引時確認の規程の作成取引時確認等の業務を統括管理する者の選任を求めています。

項目最低限の形調査で聞かれうること
リスク評価書ひな形に沿った文書1本。年1回見直し作成日、直近の見直し日
教育訓練年1回。連絡協議会の教育動画を使って可実施日、受講者名簿、教材
取引時確認の規程誰が何をどの書類で確認し、どこに残すか規程の版と改訂履歴
統括管理者氏名を決めて社内に周知選任日、周知の方法
事務連絡が中小に向けて書いた一文。「また、中小の事業者においても、代表者の関与を徹底し、現場従業員を含め、その理解を徹底させること。」——名簿と教材が残っていれば形は整いますが、代表者が内容を説明できない状態は想定されていません。ここは社長が自分でやる領域だと受け取りました。

2027年4月1日、対面の本人確認がICチップ読み取りへ

ここから機器とフローの話です。令和8年共同命令第1号2026年3月6日に公布され、2027年4月1日に施行されます。対面の本人特定事項の確認方法に、ICチップ読み取りを原則として組み込む改正です。

対面イ方式現行(2027年3月31日まで)改正後(2027年4月1日以降)
求められること顔写真付き本人確認書類1点の原本の提示写真付き・ICチップ付き本人確認書類1点の提示+ICチップ読み取り映像面表示
使える書類運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、旅券、身体障害者手帳、その他官公庁発行書類などICチップを搭載したものに限定される方向
読み取り手段不要デジタル庁の対面確認アプリや民間ツールの活用が想定

宅建の現場で何が変わるか。重要事項説明や契約の席で、免許証を目視して控えを取る運用が、そのままでは成立しなくなります。デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、対面でも公的個人認証による本人確認を進め本人確認書類のコピーは取らないこととするという方向を示しています。コピーを取って確認記録に添付する、という手癖が前提から外れます。

「2027年4月改正」は1本ではなく3本の共同命令

ここを混同すると、社内説明が噛み合いません。施行規則第6条を改正する共同命令は3本あります。

命令公布施行内容
令和7年共同命令第2号2025年6月24日施行済スマートフォン搭載マイナンバーカード(カード代替電磁的記録)を用いる方法の追加
令和7年共同命令第3号2025年6月24日2027年4月1日非対面の厳格化。画像送信によるいわゆるホ方式の廃止
令和8年共同命令第1号2026年3月6日2027年4月1日対面の厳格化。ICチップ読み取りの原則義務化、ハイリスク取引の厳格化を含む

背景にある政策文書は「国民を詐欺から守るための総合対策2.0令和7年4月22日犯罪対策閣僚会議決定です。偽造された本人確認書類による口座開設が詐欺に悪用されている実態への対応で、生成AIによる画像加工の高度化が理由に挙がっています。宅建業者は名指しの主役ではありませんが、特定事業者である以上、同じ規則の同じ号が適用されます。

廃止される4方式のうち、宅建の現場が使っているもの

廃止されるのはハ・ニ・ホ・リの4方式です。うちハとニは対面で、宅建の現場が実際に使っている可能性があります。

方式内容宅建の現場での使われ方
ハ(廃止)対面で顔写真なし本人確認書類2点の提示免許証を返納した高齢の売主。健康保険資格確認書など
ニ(廃止)対面で顔写真なし1点の提示+住所記載の補完書類の送付同上。公共料金の領収証書を添えるパターン
ホ(廃止)非対面で書類画像+容貌画像の送信遠方の相続人との非対面取引
リ(廃止)写し2点の送付+転送不要郵便郵送で済ませていた場合

つまりいちばん影響を受けるのは、高齢の売主と遠方の相続人です。相続案件の売却では、この2つが重なります。改正後は写真なし書類+転送不要郵便の方法は対象書類が身体障害者手帳などに限定される方向と報じられ、代替として住民票の写し等の原本送付+転送不要郵便が存置されます。知らずに当日を迎えると契約が止まります。

運転免許証のICロックという、窓口で必ず起きる詰まり

実務でいちばん怖いのはここです。運転免許証のICチップ読み取りには暗証番号が要りますが、交付時に設定した番号を覚えている人はほとんどいません。しかも一定回数誤るとロックがかかり、解除は警察署でしかできません

この点は全国銀行協会2025年12月26日提出のパブリックコメント意見で、窓口で顧客が大きな不便を被る場面が多発しかねないと懸念を示しています。銀行窓口で問題になることは決済の席でも同じように起きます。違うのは不動産の決済は日を改めにくい点だけです。

自社の準備方針は3つに絞りました。第一に事前案内。媒介契約時に、本人確認の方法が変わる見込みと当日の持参物を書面で渡す。第二に優先順位。マイナンバーカードを第一候補として案内する。第三に読み取れなかった場合の分岐。その場で何に切り替えるかを1枚に書き、担当者が迷わないようにする。

法人顧客は「写し」が使えなくなる

法人の本人特定事項の確認について、本人確認書類の写しの送付が認められなくなり、原本に限定される方向です。補完書類も原則として原本のみになります。

買主が資産管理会社、というのは中小の売買では珍しくありません。登記事項証明書の写しをメールで受け取って確認記録に添付する運用は、そのままでは通らなくなります。もっとも、現行でも対面には「登記情報提供サービス」を利用する方法(規則6条1項3号ロ)と「法人番号公表サイト」を利用する方法(同号ハ)があります。写しの授受から、オンライン情報の参照へ移すほうが、結局は楽です。あわせて実質的支配者の確認——資本多数決法人なら議決権の25%超を直接・間接の合計で保有する自然人——の申告様式を、いま整えておくことをおすすめします。

条文番号が振り直される——社内規程の引用が壊れる

地味ですが確実に手戻りを生む論点です。ハ・ニ・ホ・リが削られるため、施行規則6条1項1号の細分(イ・ロ・ハ…)の割り振りが全体的に振り直されます。たとえば現行の(ICチップ読み取り+容貌送信)は改正後に、公的個人認証を使う現行のは改正後になるとされています。

自社での対処。取引時確認の規程から条文番号の引用を外し、「顔写真付き本人確認書類の原本の提示を受ける方法」といった方法の記述に書き換えました。番号は改正のたびに動きますが、方法の記述は動きが小さいためです。対照が必要なときは別紙の対照表に置きます。番号の最終確認は施行規則本文と警察庁JAFICの公表資料で行うべきで、事業者の解説記事は根拠にはできません。

疑わしい取引の届出——JAFICは実態と乖離していると見ている

ここが本記事でいちばん重い数字です。国交省資料は、届出を集計しているJAFIC(警察庁犯罪収益移転対策室)の見解として、ここ数年で不動産取引を目的とする疑わしい取引は、件数で1000件以上、金額では1000億円以上と推測していると記載し、宅建業者の届出件数は実態から乖離しているのではないかと推測されると書いています。賃貸仲介のみという業態が一定割合あることを想定しても、なお乖離しているという書き方です。

同資料には、詐欺の被害金が金融口座を経て宅建業へ流れた案件で、宅建業者からの多額現金に関する届出がなく、不動産取引の流れが把握できずに捜査が遅れた実例も載っています。

判断の場面資料に書かれている扱い
チェックリストに1つでも該当疑わしい取引に該当すると判断し届出を行う
該当するか明確でなく判断に迷う該当すると判断し届出を行う
詳細が確認できていないJAFICとしては、必ずしも詳細が確認できていなくても構わない
売買契約が不成立成立・不成立にかかわらず届出
反社チェックで契約締結を回避したその場合も届出の対象
現金支払・支払い原資が不透明宅地建物取引業固有の危険要因。問題ないことが僅かでも確認できない場合は届出
届出先と、言ってはいけないこと。届出先は免許行政庁——国土交通大臣(地方整備局長等)または都道府県知事です(犯収法22条1項16号)。そして内報の禁止(法8条4項)。届出をしようとすること、または行ったことを、顧客やその関係者に漏らしてはなりません。「一応届けておきますね」は違反です。ここは研修で必ず言う一行にしています。

反社データベースの照会は原則すべての売買取引

令和7年10月2日、業界団体が「不動産業における犯罪収益移転防止等に関する措置の徹底について」を策定しました。内容は2点です。

項目内容例外
照会の対象原則としてすべての売買取引について、取引当事者が反社会的勢力に該当しないか反社DB等に照会取引金額が200万円以下の場合は照会不要
該当可能性ありの扱い原則として疑わしい取引として届出生年月日等で明らかに別人と確認できる場合は届出不要

実務でつまずくのは、照会のタイミングを業務フローのどこに置くかです。自社では媒介契約の締結前に置きました。契約後に該当可能性ありが出ると、契約締結を回避した扱いになり、届出と解除の両方を同時に扱うことになります。前に置けば、判断の余地が残ります。

確認記録と取引記録の7年保存で落ちやすいところ

確認記録は法6条、取引記録は法7条。いずれも7年間の保存です。確認記録はその契約が行われた日から、取引記録は当該取引の行われた日から起算します。様式に定めはなく、記録事項を網羅していれば任意の形で構いません。

落ちやすい点内容
非対面で受け取った書類本人確認書類の送付等を受けた場合は、これらも確認記録に添付して保存が必要
現住居が書類と違う補完書類(納税証明書、社会保険料や公共料金の領収証書など)で現住居を確認し、写しでもよいので確認記録に添付
確認済みの顧客過去に取引時確認を行い確認記録を保存していても、同一性を確かめる措置をとっていなければ再度の確認が必要
取引記録の記録事項確認記録の検索事項、取引の日付、種類、財産の価額(売買代金の額)、移転元または移転先の名義
代理人が立っている顧客に代理人がいる場合は、代理人についても本人特定事項の確認が必要(法4条4項)

FATF第5次対日相互審査という外圧

なぜ今これほど詰められているのか。事務連絡が理由を書いています。令和10年8月に政府間会合であるFATF(金融活動作業部会)による第5次の対日相互審査が予定されており、宅地建物取引業者におけるマネー・ローンダリング等対策をより一層強化していくことが求められる、と。

審査は政府に対するものですが、評価の材料は個々の事業者の実務——届出件数と体制整備の実施率です。令和8年度の期限は令和10年の審査から逆算されていると理解しています。総合的対応策の施策番号225は法人の実質的支配者の国籍等の把握強化を検討するとしており、次に来る改正の方向はここです。

8月から令和9年3月までの工程表

時期やること成果物
8月過去3年の売買案件を数え直す。件数、決済方法、非対面の割合、法人の割合。統括管理者を決めて社内に周知集計表1枚、周知記録
9月ひな形に沿ってリスク評価書を作成。取引時確認の規程から条文番号の引用を外すリスク評価書、改訂版の規程
10月フォローアップ調査に作成済みで回答。連絡協議会の教育動画で研修を実施回答控え、受講者名簿
11月反社DB照会を媒介契約締結前に置く運用に変更。届出チェックリストを契約書類に綴じ込む業務フロー図、チェックリスト
12月確認記録・取引記録の7年保存を棚卸し。添付漏れと起算日を点検棚卸し結果
令和9年1月フォローアップ調査に回答。リスク評価書の初回見直し日を決める回答控え
令和9年2月から3月2027年4月に向けたIC読み取り手段の検討を開始。顧客に渡す事前案内の文面を作る比較表、事前案内の雛形

2027年4月の対応を令和9年2月からにしているのは、それまでに宅建業者向けの追加の公表資料が出る可能性が高いと見ているためです。機器を先に買うより、まず自社が使っている確認方法の棚卸しを終えておくほうが、選択肢が広がります。

よくある誤解

誤解1 リスク評価書は努力義務だから作らなくてよい

法令上は努力義務です。ただし四半期ごとの調査で作成状況が集計され、令和8年度以降は立入検査や書面審査でも確認されます。義務か否かとは別に、未作成であることが記録される点が実務上の意味です。

誤解2 2027年4月からはマイナンバーカードがないと売買できない

そうではありません。ICチップ付き書類を持たない者への補完措置として、偽造防止措置が講じられた一定の本人確認書類(住民票の写し等)の原本送付と転送不要郵便を組み合わせる方法が存置されます。ただし全体の方向は厳格化なので、代替手順を先に決めておくことが前提です。

よくある質問

Q. 統括管理者は代表者が兼ねてよいですか

資料は選任を求めていますが、兼任を禁じる記載は見当たりません。従業員数名の会社では代表者が兼ねる形が現実的です。ただし事務連絡が代表者の関与を徹底しと書いていることから、名前だけ置く運用は想定されていないと読んでいます。

Q. リスク評価書はどのくらいの分量が必要ですか

分量の基準は示されていません。自社ではA4で6枚にしました。国のリスク評価からの引用が2枚、自社の特性と数字が2枚、対応方針が2枚です。厚くするより、自社の数字が入っているかのほうが重要だと考えています。

情報の扱いで慎重にした点

  • 2027年4月改正の宅建業者向け運用の詳細は書いていません。どの機器やアプリを使うか、読み取れない場合の具体的手順は、警察庁・国土交通省の追加の公表資料を待つ必要があるためです。本記事は確定している条文レベルの変更と、自社の準備計画を分けて書いています。
  • 条文番号の新旧対照は参考扱いにしています。この部分は事業者の解説記事に依拠しており、社内規程の改訂時は施行規則本文と警察庁JAFICの公表資料で確認が必要です。
  • リスク評価書の書き方は自社の運用として示しました。法令上の一般的な結論ではなく、分量や記載粒度の基準は公表資料からは確認できません。

ウルスタでは、中小不動産会社の実務から見た制度と段取りの記事を毎日更新しています。社内規程の改訂や研修の材料にお使いください。https://ulsta.jp

執筆にあたって

私は宅地建物取引士として、自社で210室の賃貸住宅を管理・客付けし、売買の媒介も扱っています。犯収法対応は、やっても売上が増えず、やらなくてもすぐには何も起きない領域です。だから後回しになります。本記事は制度の解説ではなく、自社の着手順を決めるために書いた社内向けの整理です。記載粒度、統括管理者の兼任、届出の該当性、2027年4月以降の確認手順については、国土交通省および警察庁JAFICの公表情報と免許行政庁の窓口を確認のうえ、必要に応じて弁護士にご相談ください。記載は2026年7月時点の公開情報と自社の実務に基づいています。

本記事で参照した公表情報
  • 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「犯罪収益移転防止法の概要について」令和8年4月。特定事業者49業種、宅建業者の特定取引の範囲、法4条・6条・7条・8条・11条の義務、対面の確認方法、実質的支配者の議決権25%超、ハイリスク取引の4類型、届出先と内報の禁止、JAFICによる件数1000件以上・金額1000億円以上との推測。
  • 同資料に抜粋掲載の国土交通省事務連絡 令和7年6月27日「犯罪収益移転防止法等の厳正なる遵守について」。FATF第5次対日相互審査、宅建業固有の危険要因、令和8年度末までの対応完了。
  • 同資料に抜粋掲載の業界団体申し合わせ 令和7年10月2日、および関係閣僚会議「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」令和8年1月23日決定 施策番号222・223・225。
  • 株式会社プリマジェスト「犯罪収益移転防止法 2027年改正を完全整理」2026年6月24日。3本の共同命令、改正後の対面イ方式、廃止4方式、条文番号の振り直し。
  • Impress Watch 2025年12月4日「対面の本人確認、マイナカードなどのICチップを必須に 27年4月から」。TRUSTDOCK「改正犯罪収益移転防止法で変わる本人確認手法の変更ポイント」2026年5月21日更新。