不動産会社の業務改善 読了 17分

フリーランス法の指導が年1,542件に|不動産会社の外注で見直す3条の明示・4条の60日・5条の禁止行為

令和7年度、フリーランス法の指導は1,542件、勧告は10件でした。違反の8割以上は支払期日と取引条件の明示です。写真撮影や清掃、図面作成などを個人に外注する不動産会社が見直す、発注時の明示事項、60日以内の支払期日の数え方、禁止行為を条文から整理しました。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
フリーランス法の指導1,542件|不動産会社の外注で見直す発注書・60日・禁止行為
目次

不動産会社が個人の職人、カメラマン、デザイナーなどに仕事を外注するとき、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、発注内容と報酬を書面か電子メール等ではっきり示し、受け取った日から60日以内に支払うことなどが求められます。公正取引委員会が2026年6月10日に公表した令和7年度の運用状況では、指導は1,542件、勧告は10件でした。違反の多くは「支払期日」と「取引条件の明示」です。この記事では、法律の3条・4条・5条を中心に、不動産会社の外注で見直す点を条文と公的資料から整理します。

令和7年度の運用状況|指導1,542件、勧告10件

フリーランス法は2024年(令和6年)11月1日に施行されました。公正取引委員会は2026年(令和8年)6月10日、令和7年度の運用状況を公表しています。主な数字は次のとおりです。

項目件数など
違反被疑事件の新規着手件数1,626件
措置件数1,552件(勧告10件、指導1,542件)
フリーランスからの違反被疑行為の申出604件
原状回復の額1,734万円
業務委託事業者への調査問題事例の多い業種の3万名を対象に実施

違反行為を類型別に見ると(延べ2,727件)、期日における報酬支払義務違反が1,135件(41.6%)、取引条件の明示義務違反が1,126件(41.3%)で、この2つで8割を超えます。続いて買いたたき250件(9.2%)、報酬の減額103件(3.8%)、不当な給付内容の変更・やり直し80件(2.9%)、不当な経済上の利益の提供要請30件(1.1%)、購入・利用強制3件(0.1%)でした。

業種別の措置件数は、情報通信業575件(37.0%)、学術研究・専門・技術サービス業326件(21.0%)、運輸業・郵便業135件(8.7%)が上位です。公表資料で不動産業の件数は示されていません。ただ、違反の中心は「発注時に条件を示していない」「支払が遅い」という、業種を問わず起こりうるものです。外注の多い不動産会社も、自社の発注のしかたを確かめておく意味があります。

対象になる相手|従業員を使用しない個人と一人社長の法人

法律が守る相手は「特定受託事業者」です。2条1項は、個人であって従業員を使用しないもの、法人であって「代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの」と定めています。一人親方の職人や、一人で会社を作っているデザイナーも含まれます。

ここでいう「従業員を使用」とは、公正取引委員会・厚生労働省の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」によると、1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいいます。

発注する側の義務は、発注者の規模で変わります。従業員を使用していない発注者(一人で営む不動産会社など)は「業務委託事業者」として3条の明示義務だけを負います。従業員を使用する個人や、2人以上の役員または従業員がいる法人は「特定業務委託事業者」(2条6項)となり、4条以下の義務も負います。

不動産会社の外注で対象になりうる例

業務委託には、物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供の委託が含まれます(2条3項)。役務の提供とは、いわゆるサービス全般をいいます。不動産会社の仕事に当てはめると、たとえば次のような外注が考えられます。

  • 物件写真の撮影、動画の撮影・編集
  • 間取り図、募集図面、チラシ、Webページの作成(情報成果物の作成)
  • 空室や共用部の清掃、退去後のハウスクリーニング
  • 原状回復や小修繕の作業を個人の職人に依頼すること
  • 翻訳、記事の執筆、システムの設定作業

建設業については、国土交通省の補助事業で作られたパンフレットが、専門工事業を営む一人親方や個人の設計士への業務委託も適用対象であり、建設業法に加えて守る義務ができたと説明しています。相手が個人か一人社長の法人かを、発注先の一覧で確かめておきます。

3条:発注したら「直ちに」条件を示す

3条1項は、業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法により明示しなければならないと定めています。口頭の依頼や電話だけでは足りません。電磁的方法について、規則2条1項は、電子メールその他の受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信により送信する方法などを定めています。

示す事項は、公正取引委員会関係の施行規則1条1項に列挙されています。主なものは次のとおりです。

示す事項不動産会社での書き方の例
双方の名称(識別できる番号等でも可)発注する会社名と、職人・カメラマンの氏名または屋号
業務委託をした日発注した日付
給付の内容物件名・部屋番号、作業の範囲、撮影カット数、納品データの形式
給付を受領する期日(期間)作業日、納品日
給付を受領する場所物件の所在地、データの納品先
検査をする場合は検査を完了する期日完了確認を行う日
報酬の額と支払期日税込・税抜の別を含む金額と、具体的な支払日
支払方法に応じた事項電子記録債権などで支払う場合に必要な事項
内容が定まらない事項があるとき定まらない理由と、定める予定の期日

報酬の具体的な金額を示すことが難しいときは、算定方法を示すことでも足ります(規則1条3項)。毎回同じ条件で発注している場合は、共通事項をあらかじめ示しておき、個別の発注ではそれを示した旨を明示する方法もあります(同条4項)。

3条の明示義務は、従業員を使用しない発注者にもかかります。発注のたびに、上の事項を書いたメールや発注書を送ることを社内の手順にしておきます。

4条:受け取った日から60日以内に支払う

4条1項は、特定業務委託事業者が業務委託をした場合の報酬の支払期日を、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつ、できる限り短い期間内で定めなければならないとしています。支払期日を定めなかったときは受領した日が、60日を超えて定めたときは受領した日から起算して60日を経過する日が、支払期日とみなされます(同条2項)。

元の発注者から受けた仕事を特定受託事業者に再委託する場合で、再委託である旨、元の発注者の名称、元の発注者からの支払期日などを3条により明示しているときは、元の発注者からの支払期日から起算して30日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めます(同条3項)。

日数の数え方

「考え方」は、60日を給付を受領した日を算入して数えるとしています。役務の提供では、一連の役務の提供が終了した日が受領した日にあたります。仮の日付で計算例を示します。

受領した日(仮)60日目月末締め翌月末払いにした場合の支払日
7月1日8月29日8月31日(受領日から数えて62日目)
7月15日9月12日8月31日(48日目)
7月31日9月28日8月31日(32日目)

単発の作業を月の初めに受け取り、翌月末に払う場合、受領日から数えると60日を超えることがあります。

月単位の締切で処理できる場合

継続して提供される役務については、「考え方」が特例を示しています。次の3つをすべて満たす場合、月単位で設定した締切対象期間の末日に役務が提供されたものとして扱い、その日から起算して60日(2か月)以内に支払うことが認められます。

  1. 報酬の支払は、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行うことが、あらかじめ合意され、3条の明示に明確に記載されていること。
  2. 3条の明示に、その期間の報酬の額、または具体的な金額を定める算定方式(役務の種類・量あたりの単価があらかじめ定められている場合に限る)が明確に記載されていること。
  3. 連続して提供する役務が同種のものであること。

毎月の定期清掃のような仕事は、この条件を満たす形で発注書を整えれば、月末締めで処理しやすくなります。条件を満たさない単発の作業は、受領日から数えて60日以内の支払日を個別に設定します。判断に迷う場合は、公正取引委員会の相談窓口で確かめます。

5条:7つの禁止行為

5条は、特定業務委託事業者が、政令で定める期間(1か月、施行令1条)以上の業務委託をした場合に、次の行為を禁じています。契約の更新で1か月以上続くことになるものも含みます。

禁止行為条文不動産会社の外注で起こりうる場面の例
受領拒否5条1項1号募集を止めたので、撮影済みの写真を受け取らない
報酬の減額5条1項2号オーナーから値引きを求められたので、作業後に報酬を減らす
返品5条1項3号受け取った成果物を、相手の責任でない理由で引き取らせる
買いたたき5条1項4号同種の仕事の通常の対価より著しく低い報酬を一方的に決める
購入・利用強制5条1項5号正当な理由なく、指定する資材やサービスを買わせる
不当な経済上の利益の提供要請5条2項1号発注と関係のない作業を無償で手伝わせる
不当な給付内容の変更・やり直し5条2項2号相手の責任でない理由で、作業内容を変えたり、無償でやり直させたりする

右の列は、条文の類型を不動産会社の業務に当てはめた例です。個々の行為が違反にあたるかは、事情によって判断されます。1号から3号と、5条2項2号は、いずれも「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」がないことが要件です。発注時の明示で作業範囲をはっきりさせておくと、後で「頼んだ・頼んでいない」の食い違いを減らせます。

募集表示、ハラスメント対策、解除の予告

フリーランス法には、厚生労働省が所管する就業環境の整備の規定もあります。

  • 募集情報の的確表示(12条):広告などで特定受託事業者を募集するときは、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
  • 育児介護等への配慮(13条):6か月以上の継続的業務委託(施行令3条)では、相手の申出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と両立できるよう必要な配慮をしなければなりません。それ以外の業務委託では配慮に努めます。
  • ハラスメント対策(14条):性的な言動、妊娠・出産に関する言動、取引上の優越的な関係を背景とした言動による就業環境の悪化について、相談に応じ適切に対応するための体制を整えます。厚生労働省の「あらまし」は、方針の明確化と周知、相談窓口の設置、事実関係の迅速な把握、被害者・行為者への措置、再発防止、プライバシーの保護、相談を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知などを挙げています。
  • 解除の30日前予告(16条):継続的業務委託の契約を解除しようとするときは、少なくとも30日前までに予告しなければなりません。相手が理由の開示を求めたときは、遅滞なく開示します。災害その他やむを得ない事由で予告が難しい場合など、厚生労働省令で定める例外があります。

業務委託でも「労働者」と判断される場合

公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態にもとづいて「労働者」かどうかが判断されるとしています。労働者にあたれば、フリーランス法ではなく労働関係法令が適用されます。

ガイドラインが示す労働基準法上の判断要素は、次のとおりです。

  • 仕事の依頼や業務の指示を受けるかどうかを、自分で決められるか(諾否の自由)。
  • 業務の内容や遂行方法について、具体的な指揮命令を受けているか。
  • 勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか(拘束性)。
  • 本人に代わって他の人が労務を提供することが認められているか(代替性)。
  • 報酬が、指揮監督のもとで一定時間労務を提供したことへの対価になっているか。
  • 補強要素として、高価な機材を本人が負担しているか、報酬の額、特定の発注者への専属性、源泉徴収を給与所得として行っているかなど。

たとえば、内見の立会いや事務作業を個人に「業務委託」で頼み、出社時間と作業場所を指定して、社員と同じように指示を出していると、実態として雇用に近づきます。契約書の名称ではなく、働き方の実態を見直します。

違反したときの流れ

公正取引委員会は、3条・4条5項・5条などに違反があると認めるときは勧告できます(8条)。勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかったときは、措置をとるよう命じることができ、命令をした場合はその旨を公表できます(9条)。命令に違反した場合や、報告をしない・虚偽の報告をした場合、検査を拒んだ場合などは、50万円以下の罰金の対象です(24条)。

外注の見直し手順

  1. 外注先の一覧を作る:相手が個人か法人か、法人なら代表者以外に役員や従業員がいるかを確かめます。
  2. 自社の区分を確かめる:従業員を使用しているか、役員が2人以上いるかで、3条だけか、4条以下も負うかが決まります。
  3. 発注のひな形を作る:規則1条1項の事項を入れたメール文面か発注書を用意し、発注のたびに送ります。
  4. 支払日を数え直す:単発の作業は受領日から60日以内か、継続的な役務は月単位締切の3条件を満たすかを確かめます。
  5. 継続取引を洗い出す:1か月以上続く取引(5条の対象)と、6か月以上続く取引(13条・16条の対象)を分けておきます。
  6. 募集表示と相談窓口を整える:外注先の募集文を見直し、ハラスメントの相談窓口を外注先にも周知します。

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 口頭や電話で依頼しているだけでは違反ですか。

3条は、書面または電磁的方法による明示を求めています。口頭や電話だけでは足りません。電子メールなど、受信する人を特定して情報を伝える方法で、規則1条1項の事項を送ります。

Q2. 一人で営む不動産会社が外注する場合も対象ですか。

従業員を使用しない発注者は「業務委託事業者」として、3条の明示義務を負います。4条の支払期日や5条の禁止行為などは、特定業務委託事業者が対象です。

Q3. 相手が法人なら関係ありませんか。

代表者以外に他の役員がなく、従業員を使用しない法人は特定受託事業者にあたります。法人かどうかだけで判断せず、体制を確かめます。

Q4. 支払期日を書かずに発注した場合はどうなりますか。

特定業務委託事業者の場合、支払期日を定めなかったときは、給付を受領した日が支払期日とみなされます(4条2項)。

Q5. 違反するとすぐに罰金ですか。

違反があると認められると、勧告、命令、公表という流れがあり、罰金(50万円以下)は命令違反や報告・検査の拒否などが対象です。令和7年度の措置1,552件のうち、勧告は10件、指導は1,542件でした。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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