「うちに任せていただければ、必ず高く売ります」——そう言って売却の媒介を預かりながら、他社からの問い合わせには「もう申し込みが入っています」と応じない。いわゆる「囲い込み」は、長く不動産業界で問題にされてきました。2025年1月、この囲い込みに正面から切り込む宅地建物取引業法施行規則の改正が施行され、レインズ(指定流通機構)への取引状況の登録が義務づけられました。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、2025年1月に始まった囲い込み規制とレインズの「ステータス管理」が、売買の媒介実務にどう効いてくるのかを、宅地建物取引士の目線で整理します。制度の細かな運用は所管行政庁とレインズの定めによりますが、日々売主と向き合う中小不動産会社こそ、変化の全体像を押さえておきたいテーマです。
2025年1月に何が変わったのか — 囲い込み規制の強化
2025年1月1日、宅地建物取引業法施行規則の改正が施行され、売買の媒介を預かった宅地建物取引業者に対して、レインズ(指定流通機構)へ物件の「取引状況」を登録し、最新の状態に保つことが義務づけられました。あわせて、売主へ交付される登録証明書にQRコードが付され、売主が自分の物件の取引状況を、その場で確かめられるしくみも整えられました。ねらいは一つです。長く業界の課題とされてきた「囲い込み」を是正し、売却の媒介をより透明にすることにあります。
これまでも、専属専任媒介契約や専任媒介契約を結んだ物件はレインズへの登録が義務でした。しかし、登録したあとの「取引状況」までは見えにくく、実際には他社からの客付けを断りながら、レインズ上は「公開中」のまま、という運用も起こり得ました。2025年1月の改正は、「登録したかどうか」だけでなく、「今どういう取引状況なのか」を登録・更新させることで、囲い込みが起きにくいしくみに踏み込んだのだと整理すると分かりやすいでしょう。売却の入口に立つ媒介業者にとって、運用の見直しが避けて通れない改正です。
2025年1月から、売買の媒介で預かった物件について、レインズへ「取引状況(ステータス)」を登録し、最新の状態に保つことが求められるようになりました。ステータスは「公開中」「書面による購入の申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」といった区分から選びます。売主には取引状況を確認できる登録証明書(QRコード付き)が交付され、専任系の媒介で登録ステータスと実際の販売状況に相違があれば、行政上の指導や処分の対象になり得ます——これが本記事の出発点です。
そもそも「囲い込み」とは何か、なぜ売主に不利なのか
「囲い込み」とは、売却の媒介を預かった業者が、他社からの購入の問い合わせや客付けを、正当な理由なく断ったり、応じなかったりする行為を指します。表向きはレインズに登録していても、他社の客付けを受け付けず、自社で買主を見つけることに固執する。その背景には、売主と買主の双方から仲介手数料を受け取る、いわゆる両手の取引を狙う動機があるとされてきました。
囲い込みがなぜ問題かというと、売主の売却機会を、業者の都合で狭めてしまうからです。本来であれば、より広く買主を募ったほうが、よい条件・早い成約につながりやすい。ところが囲い込みが起きると、他社が連れてくるかもしれない買主が排除され、結果として売却が長引いたり、値下げを余儀なくされたりするおそれがあります。売主の利益のために動くべき媒介業者が、自社の手数料を優先してしまう——ここに問題の本質があります。
もちろん、すべての両手取引が悪いわけではありません。自社で売主と買主の双方を適正に仲介すること自体は、法が認める正当な取引です。問題なのは、他社の客付けを不当に拒んでまで両手にこだわり、売主の機会を奪うことです。今回の改正は、両手取引そのものを禁じるものではなく、囲い込みという不当な囲い込み行為を、取引状況の見える化によって抑えようとするものだと理解しておくと、お客様にも誤解なく説明できます。
| 項目 | 囲い込みが起きると |
|---|---|
| 買主の広がり | 他社経由の買主が排除され、検討者の母数が狭まる |
| 売却期間 | 成約までが長引きやすく、機会を逃すおそれがある |
| 価格 | 競争が働きにくく、結果として値下げにつながる場合がある |
| 売主の納得 | 取引状況が見えず、不信感が残りやすい |
表のとおり、囲い込みのしわ寄せは、最終的に売主が受けます。だからこそ、取引状況を登録・更新させ、売主自身が確かめられるようにすることが、囲い込みを抑える現実的な手立てになるのです。
レインズの「ステータス管理」義務化の中身
改正の中心が、レインズの「ステータス管理」です。ステータスとは、物件が今どういう取引状況にあるかを、他の業者に伝えるための表示です。2025年1月以降、専属専任媒介・専任媒介で預かった物件は、レインズに登録するだけでなく、取引状況を表すステータスを最新の内容に保つことが求められます。選べるステータスは、おおむね次の三つです。
| ステータス(取引状況) | 意味の目安 |
|---|---|
| 公開中 | 購入の申込みを受け付けており、他社からの紹介も可能な状態 |
| 書面による購入の申込みあり | 書面での購入申込みを受けている状態 |
| 売主都合で一時紹介停止中 | 売主の事情により、一時的に紹介を止めている状態 |
大切なのは、このステータスを「実際の販売状況に合わせて、正しく」保つことです。たとえば、まだ申込みが入っていないのに「申込みあり」にして他社の客付けを遠ざける、といった運用は、囲い込みそのものとして問題になります。逆に、本当に申込みが入ったのに「公開中」のまま放置するのも、状況を正しく反映していないことになります。ステータスは、囲い込みを隠すための道具ではなく、取引の現状を正直に映す鏡として使うものだと考えておきたいところです。
ステータス管理の義務化で実務に効いてくるのが、レインズの登録内容と、自社が把握している販売状況を、つねに一致させておくことです。専属専任・専任で預かった物件について、申込みの有無や紹介停止の状況が変わったら、すみやかにステータスを更新する。レインズ上の表示と実態がずれていると、囲い込みを疑われ、行政上の指導や処分の対象になり得ます。どの区分にあたるか迷う場合や、運用の詳細は、レインズおよび所管行政庁の最新の定めで確認するのが確実です。
売主が状況を確認できる「登録証明書」とQRコード
もう一つの大きな柱が、売主への情報開示の強化です。媒介で物件を預かりレインズに登録すると、業者から売主へ「登録証明書」が交付されます。2025年1月の改正では、この登録証明書にQRコードが付されるようになりました。売主はスマートフォンでQRコードを読み取るだけで、自分の物件の取引状況(ステータス)を、その場で確かめられるしくみです。
これは、囲い込みを抑えるうえで大きな意味を持ちます。これまで売主は、自分の物件がレインズ上でどう扱われているのかを、業者の説明に頼るほかありませんでした。改正後は、売主自身がステータスを直接確認できます。「公開中になっているはずなのに、なぜか問い合わせが他社から来ていない」といった状況を、売主の側から見抜きやすくなったのです。媒介業者の立場からすれば、ごまかしの効かない環境になったとも言えますが、見方を変えれば、誠実に動いている会社ほど、その姿勢が売主に伝わりやすくなったということでもあります。
中小不動産会社にとって、これはむしろ追い風にできます。取引状況を正直に登録し、売主にQRコードの見方をていねいに案内する。それだけで、「この会社は隠しごとをしない」という信頼が積み上がります。透明化を負担と受け止めるのではなく、売主からの信頼を得るための、わかりやすい説明材料として活かす姿勢が、これからの差になっていきます。
媒介契約の種類と、ステータス管理の関わり方
ステータス管理の義務がどこまで及ぶかは、結んでいる媒介契約の種類によって整理しておくと分かりやすくなります。レインズへの登録義務は、専属専任媒介契約と専任媒介契約で生じ、一般媒介契約には登録義務がありません。ステータスを最新に保つ義務も、この登録義務と結びついて考えると理解しやすいでしょう。
| 媒介契約の種類 | レインズ登録 | 取引状況の管理で意識したいこと |
|---|---|---|
| 専属専任媒介契約 | 登録義務あり(契約から一定日数内) | ステータスを実態どおり最新に保つ。申込み・紹介停止の変化を反映 |
| 専任媒介契約 | 登録義務あり(契約から一定日数内) | 同上。販売状況とレインズ表示を一致させる |
| 一般媒介契約 | 登録義務はなし(任意) | 登録する場合は、表示と実態の整合を保つ意識を持つ |
専属専任・専任で物件を預かるということは、それだけ売主から強く任されているということです。だからこそ、取引状況を正しく登録・更新し、囲い込みを疑われない運用を徹底することが、預かった責任にこたえることになります。レインズへの登録は、登録して終わりではありません。申込みが入った、紹介を一時止めた、再開した——状況が動くたびに、ステータスを実態に合わせて更新する。この地道な手間が、売主の信頼と、自社の身を守ることの両方につながります。
囲い込み規制やステータス管理の義務化は、まじめに売主のために動いてきた会社を縛るものではありません。むしろ、取引状況を見える化することで、誠実に客付けに動く会社の姿勢が、売主に伝わりやすくなる改正です。他社の客付けも積極的に受け、ステータスを正直に保ち、売主にQRコードでの確認を案内する。こうした当たり前の運用を徹底できる会社ほど、「安心して任せられる」と選ばれます。透明化は、中小の会社にとって不利ではなく、誠実さを示す機会です。
現場メモ — 「他社から問い合わせが来ない」と不安がられた一件
少し前に、ある戸建ての売却を専任媒介でお預かりしたときのことです。売主の方は、以前に別の不動産会社で売却を依頼した経験があり、「前のときは、他社から全然問い合わせが来ていないようで不安だった」と、最初の面談で正直に話してくださいました。囲い込みという言葉こそ使われませんでしたが、取引が見えないことへの不信感が、強く残っている様子でした。
そこで、媒介契約を結んだあと、レインズに登録してすぐ、登録証明書をお渡しし、QRコードの読み取り方をその場で一緒に確認しました。「ここから、いつでもご自身でステータスを見られます。今は公開中になっています」と画面を見ていただいたところ、売主の表情が明らかに和らいだのを覚えています。その後も、他社からの問い合わせや内見の状況をこまめに共有し、申込みが入った段階でステータスを更新したことも、あわせてお伝えしました。
この経験で感じたのは、囲い込み規制の本当の価値は、罰則よりも「売主の不安を取り除けること」にある、ということです。取引状況を正直に見せ、売主自身が確かめられる状態をつくる。それだけで、売却という大きな決断に伴う不安が、ずいぶん小さくなります。透明化は、業者を縛るためだけのものではなく、売主に安心を届けるための道具でもあると、あらためて思いました。
中小不動産会社としての向き合い方
では、中小不動産会社はこの改正とどう向き合えばよいのでしょうか。レインズの運用や処分の判断は、レインズと所管行政庁が担う領域です。それでも、日々売主と向き合い、媒介の現場に立つ私たちには、果たすべき役割がいくつもあります。
| 向き合い方 | こんな場面で | 提供できる価値 |
|---|---|---|
| ステータスの正確な更新 | 専属専任・専任で預かった物件の管理 | レインズ表示と実態を一致させ、囲い込みの疑いを避ける |
| 登録証明書の案内 | 媒介契約直後の売主への説明 | QRコードでの確認方法を伝え、安心と信頼につなげる |
| 他社客付けの受け入れ | 問い合わせ・内見の受付 | 広く買主を募り、よい条件・早い成約につなげる |
| 状況のこまめな共有 | 売却活動の進行中 | 申込み・内見・紹介停止の動きを売主に随時報告する |
ポイントは、規制を「面倒な縛り」と身構えるのではなく、「誠実さを売主に伝えるしくみ」として前向きに使うことです。大手と比べて知名度で見劣りしがちな中小の会社こそ、取引の透明さと、こまめな報告で信頼を勝ち取れます。囲い込みをしないのは当然として、それを売主に「見える形」で示せるかどうかが、これからの選ばれ方を分けます。改正を、誠実な会社が報われる環境への一歩として活かしたいところです。
実務での進め方 — 五つのステップ
売買の媒介を専属専任・専任で預かったときの、取引状況管理のおおまかな流れを整理します。現場でつまずきやすいポイントもあわせて押さえておきましょう。
1. 期限内にレインズへ登録する。まず、媒介契約の種類に応じた期限内に、物件をレインズへ登録します。専属専任・専任は登録が義務です。登録のタイミングを逃さないよう、契約締結とセットで段取りを決めておきます。
2. 登録証明書を売主へ渡し、確認方法を案内する。交付された登録証明書を売主へお渡しし、QRコードの読み取り方と、ステータスの見方をその場で一緒に確認します。最初に案内しておくと、後の信頼が大きく変わります。
3. ステータスを実態どおりに保つ。申込みが入った、紹介を一時止めた、再開した——販売状況が変わったら、すみやかにステータスを更新します。レインズ上の表示と実態のずれをつくらないことが、囲い込みの疑いを避ける肝です。
4. 他社の客付けも前向きに受ける。他社からの問い合わせや内見の依頼には、正当な理由なく断ることなく、誠実に対応します。広く買主を募ることが、結局は売主の利益になり、自社の評判も高めます。
5. 進行状況をこまめに共有する。内見の状況や問い合わせの動きを、売主へ随時報告します。売主が「ちゃんと動いてくれている」と実感できる状態をつくることが、満足と次の紹介につながります。
よくある質問
Q1. 2025年1月から、媒介の何が変わったのですか。
売買の媒介で専属専任・専任で預かった物件について、レインズへ取引状況(ステータス)を登録し、最新の状態に保つことが義務づけられました。あわせて、売主へ交付される登録証明書にQRコードが付され、売主が自分の物件の取引状況を直接確認できるようになりました。
Q2. ステータスには、どんな区分がありますか。
おおむね「公開中」「書面による購入の申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」といった区分から選びます。大切なのは、実際の販売状況に合わせて正しく選び、状況が変わったらすみやかに更新することです。詳細はレインズの最新の定めで確認してください。
Q3. 両手取引は、禁止されたのですか。
いいえ。自社で売主・買主の双方を適正に仲介すること自体は、法が認める取引です。今回の改正が抑えようとしているのは、他社の客付けを不当に拒んで売主の機会を狭める「囲い込み」です。両手取引そのものを禁じるものではありません。
Q4. 一般媒介契約でも、ステータス管理は必要ですか。
レインズへの登録義務は、専属専任・専任媒介で生じ、一般媒介には登録義務がありません。一般媒介で任意に登録する場合は、表示と実態の整合を保つ意識を持っておくと安心です。
Q5. 登録証明書のQRコードは、何のためにありますか。
売主が、自分の物件の取引状況(ステータス)を、スマートフォンでその場で確認できるようにするためです。これにより、レインズ上の表示と実際の対応がずれていないかを、売主自身が見抜きやすくなりました。
Q6. ステータスと実態がずれていると、どうなりますか。
専属専任・専任で預かった物件で、販売状況とレインズの登録ステータスに相違があると、囲い込みを疑われ、行政上の指導や処分の対象になり得ます。状況が動いたら、すみやかにステータスを更新しておくことが大切です。
Q7. 正確な運用やステータスの扱いは、どこで確認すればよいですか。
ステータスの区分や登録の期限、処分の判断などの詳細は、運用によって変わることがあります。最終的な確認は、レインズおよび所管行政庁、国土交通省の最新の公開情報によるのが確実です。本記事は概要を大づかみにつかむためのものとお考えください。
まとめ:「取引状況を正直に見せられる会社」が、売却の相談で選ばれる
2025年1月に始まった囲い込み規制とレインズのステータス管理義務化は、売買の媒介で預かった物件の取引状況を見える化し、売却をより透明にする改正です。専属専任・専任で預かった物件はステータスを実態どおり最新に保つことが求められ、ずれがあれば行政上の指導や処分の対象になり得ます。売主には登録証明書のQRコードで取引状況を確認するしくみが整い、ごまかしの効かない環境になりました。中小不動産会社がやるべきことは、規制を面倒な縛りと身構えることではなく、ステータスを正直に更新し、他社の客付けも前向きに受け、売主にQRコードでの確認を案内して、誠実さを見える形で示すことです。透明化は、知名度で見劣りしがちな中小の会社にとって、むしろ信頼を勝ち取る機会です。取引状況を正直に見せられる会社でありたいものです。
ウルスタは、中小不動産会社の物件・顧客・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。媒介で預かった物件のレインズ登録日やステータスの更新、他社からの問い合わせ・内見の記録、売主への報告のやり取りを物件・顧客ごとに紐づけて残しておけば、ステータスの更新漏れや報告の抜けを防ぎ、囲い込みを疑われない誠実な運用を仕組みで支えられます。取引状況と対応履歴を一つの画面で見渡せる体制は、売主への透明な報告を後押しし、信頼につながります。透明化が当たり前になる時代こそ、情報を散らかさない仕組みが効いてきます。
参考: 宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令(2025年1月1日施行)に関する国土交通省の公開情報 / 指定流通機構(レインズ)への物件の取引状況(ステータス)の登録・登録証明書に関する公開情報 / 媒介契約の種類とレインズ登録義務に関する一般的な制度情報 / いわゆる囲い込み・両手取引に関する一般的な実務情報 / いずれも2026年6月時点の公開情報および自社の売買仲介実務をもとに整理