2021年7月の熱海市伊豆山の土石流災害を教訓に生まれた盛土規制法は、2023年5月の施行から3年が経ち、規制区域の指定が全国で急速に進んでいます。2026年7月1日には北海道の54市町村で新たに規制が始まり、東京都はすでにほぼ全域が規制区域です。区域に指定された瞬間から、その土地の売買には重要事項説明の追加項目が生まれ、造成や土石の堆積には許可や届出が必要になり、そして既存の盛土を「安全な状態に維持する責務」は買主にも引き継がれます。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、盛土規制法のしくみと規制区域の広がり、重要事項説明で押さえるポイント、造成地の売買で買主・売主に何をどう伝えるべきかを、宅地建物取引士の目線で整理します。
盛土規制法とは——熱海の土石流から生まれた法律
盛土規制法——正式名称は宅地造成及び特定盛土等規制法——は、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する法律です。直接のきっかけは、2021年7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害でした。逢初川の上流にあった盛土が大雨で崩落し、災害関連死を含めて28名が亡くなり、起点付近には5万立方メートルを超える人工の盛土があったとされています。
この災害を受けて国は全国の盛土の総点検を都道府県に要請し、約36,000か所が点検されました。あわせて明らかになったのが、規制の空白です。従来の宅地造成等規制法は「宅地の造成」に着目した法律で、森林や農地への盛土、建設残土の投棄などは必ずしも規制の網にかからず、自治体の条例ごとに基準もばらばらでした。そこで同法を抜本改正し、土地の用途を問わず、盛土そのものを規制する枠組みに組み替えたのが盛土規制法で、2023年5月26日に施行されています。
なぜ2026年の夏に確認するのか——区域指定が全国の日常になった
盛土規制法の規制は、法律の施行と同時に全国で始まったわけではありません。都道府県知事や政令市・中核市の長が規制区域を指定して、はじめてその場所で動き出すしくみです。施行から3年、この区域指定が全国で一気に進みました。東京都は島しょ部を含むほぼ全域を規制区域に指定済み。兵庫県や和歌山県、相模原市などは2025年に運用を開始し、そして2026年7月1日には北海道の54市町村で新たに規制が始まりました。
つまり、少し前まで「うちの商圏はまだ指定されていないから」で済んでいた地域でも、状況は毎年変わっています。区域指定は一度行われれば恒久的に効き続け、そこでの取引には後述する重要事項説明の項目が加わります。自社の商圏が規制区域に入ったのか、いつから規制が始まるのか——これを把握していないと、重要事項説明の調査漏れという宅建業法上のリスクに直結します。2026年の夏は、商圏の指定状況を一度棚卸しする適切なタイミングです。
もう一つ、混同しやすい制度との違いにも触れておきます。以前から公表されている大規模盛土造成地マップは、過去に大規模な盛土造成が行われた場所を示す「調査結果の地図」であり、それ自体に法的な規制の効力はありません。一方、盛土規制法の規制区域は、指定された瞬間から許可・届出・検査といった法的義務が発生する「規制の地図」です。両者は目的も効力も別物ですが、造成地のリスクを説明する材料としては相互に補完します。重要事項説明で扱うのは後者の規制区域ですが、大規模盛土造成地マップに該当する物件では、任意の情報提供として添えると説明の厚みが出ます。
二つの規制区域——宅地造成等工事規制区域と特定盛土等規制区域
規制区域には二つの種類があります。性格の違いを押さえておくと、重要事項説明でも説明しやすくなります。
| 区域 | どんな場所か | 規制のかかり方 |
|---|---|---|
| 宅地造成等工事規制区域 | 市街地や集落など、人家等が存在し、盛土等の崩落で被害が及びやすいエリア | 一定規模を超える盛土・切土・土石の堆積の工事は、着手前に許可が必要。中間検査・完了検査あり |
| 特定盛土等規制区域 | 市街地等からは離れているが、地形や地質から、崩落すれば人家等に危害を及ぼしうるエリア | 一定規模を超える工事は着手前の届出が基本。大規模なものは許可制に切り替わり、検査も適用 |
ポイントは、宅地かどうかを問わないことです。旧法と違い、森林への残土処分も、農地への盛土も、資材置き場の土砂の仮置きも、区域内で規模基準を超えれば規制対象になります。不動産会社の実務では「建物が建つ土地の話」と思い込みがちですが、山林や農地、駐車場用地の媒介でも関わる法律だという認識が出発点になります。
規制対象の規模——盛土1メートル・切土2メートル・500平方メートル
宅地造成等工事規制区域で許可が必要になる規模の基準は、次のように整理できます。盛土で高さ1メートルを超える崖が生じるもの。切土で高さ2メートルを超える崖が生じるもの。盛土と切土をあわせて高さ2メートルを超える崖が生じるもの。崖が生じなくても高さ2メートルを超える盛土。そして盛土・切土の面積が500平方メートルを超えるものです。あわせて、一時的な土石の堆積も、高さや面積が一定規模を超えれば規制の対象になります。
数字を見て分かるとおり、基準はかなり小さな工事から効いてきます。戸建て分譲のためのひな壇造成はもちろん、古家の解体後に敷地をならして土を入れる、傾斜地の駐車場を平らにする、といった日常的な工事でも該当し得ます。「この程度の造成なら関係ない」という思い込みが一番危ないので、区域内の案件では規模の大小にかかわらず、まず自治体の窓口かホームページで確認する習慣をおすすめします。
許可から検査、経過措置まで——区域内で動くルールの全体像
宅地造成等工事規制区域内の工事は、着手前の許可申請から始まり、一定の工程での中間検査、工事完了後の完了検査という流れで進みます。現場には許可の標識の掲示が求められ、施工状況の定期報告の対象になる工事もあります。旧法時代の「許可を取って終わり」に比べ、施工の途中段階まで行政の目が入る設計です。
規制区域の指定日に、すでに規模基準を超える盛土等の工事が行われている場合は、指定日から21日以内に都道府県知事等への届出が必要です。新たな許可は不要ですが、届出を怠れば罰則の対象になり得ます。北海道のように2026年に規制が始まった地域では、造成中の分譲地や建築条件付き土地がこの経過措置に該当する場面が現に生じます。売主・施工会社に届出の有無を確認する一手間が、引渡し後のトラブルを防ぎます。
なお、都市計画法の開発許可を受けた工事は盛土規制法の許可があったものとみなされるなど、他法令との重複を避ける調整規定もあります。個別案件でどの手続が必要かは、最終的には自治体の判断になるため、調査の記録に「いつ、どの窓口に、何を確認したか」を残すことが実務の要点です。
重要事項説明がこう変わる——区域内かどうかが最初の分かれ道
盛土規制法に基づく制限は、宅建業法35条の重要事項説明の対象となる法令上の制限に含まれています。実務の分かれ道はシンプルで、対象物件が規制区域内かどうかです。区域内であれば、宅地造成等工事規制区域か特定盛土等規制区域かの別、そして盛土等の工事に許可や届出が必要になることを説明します。買主が将来、増改築や外構工事、擁壁のやり直しをする際に手続が必要になる可能性まで伝えられると、説明の質は一段上がります。
区域の確認方法は難しくありません。多くの自治体がWebGISや地図PDFで規制区域を公表しており、住所や地番から確認できます。当社では、水害ハザードマップの確認と同じタイミングで盛土規制法の区域確認を行い、確認した日付・確認先URL・該当の有無を調査記録に残す運用にしています。区域指定は今後も追加・見直しがあり得るため、「いつ時点の情報か」を記録することが、後日の説明責任を果たすうえで効いてきます。
逆に、区域確認を怠るとどうなるか。規制区域内の物件であるにもかかわらず重要事項説明で触れなかった場合、宅建業法上の調査説明義務違反として監督処分や損害賠償請求のリスクを負います。たとえば買主が購入後に擁壁のやり直しを計画したところ、許可が必要で想定外の費用と期間がかかった——という場面で、「区域内であることを聞いていれば購入判断が変わった」と主張されれば、仲介者の立場は苦しくなります。区域指定が全国で進行中の今は、「先月までは区域外だった」が通用しない時期だからこそ、取引のたびに最新の指定状況を確認する運用が必要です。
土地所有者等の責務——買った人にも及ぶ常時安全維持
盛土規制法には、売買実務にとって見逃せない規定があります。盛土等が行われた土地の所有者等は、その土地を常時安全な状態に維持するよう努めなければならない——という責務規定です。ここでいう所有者等には、盛土を行った本人だけでなく、その後に土地を取得した人も含まれます。つまり、過去に誰かが行った盛土のリスクが、所有権とともに買主へ引き継がれる構造です。
これは「昔の造成のことは前の所有者の問題」という感覚が通用しないことを意味します。擁壁の劣化やひび割れ、排水不良のある造成地を購入した買主は、その安全維持の責務を負う立場になり、状態によっては後述の是正命令の名宛人にもなり得ます。仲介者としては、造成された形跡のある土地では、擁壁・のり面の状態と造成の経緯を調査し、買主に説明することが、紛争予防の中心になります。
この責務は、価格の話でもあります。同じ立地・同じ広さでも、検査済証が確認できる造成地と、造成の経緯が不明で擁壁に劣化が見える土地とでは、買主が引き受けるリスクの大きさが違います。将来の擁壁補修費用や是正リスクを踏まえた価格の考え方を売主に示せれば、査定の説得力が増しますし、買主に対しても「安い理由」を正直に示したうえで判断してもらえます。造成リスクを価格に翻訳して示せることは、これからの売買仲介の専門性の一つになるはずです。
是正命令と罰則——最大で懲役3年・法人には3億円
災害防止のため必要があるときは、都道府県知事等は、危険な盛土等について土地の所有者等や原因行為者に対して是正措置を命令できます。工事中の案件に対する施工停止命令や改善命令もあります。そして罰則は、旧法や条例と比べて大幅に強化されました。無許可の工事や命令違反などに対しては最大で3年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、法人には3億円以下の罰金という水準です。
この罰則水準は、条例による規制の上限を大きく超えるもので、危険な盛土を「割に合わない」ものにするという立法趣旨の表れです。不動産会社の目線では、取引対象の土地に無許可の盛土や届出漏れがあれば、買主が是正費用や手続負担を背負い込むおそれがあるということ。売買価格の妥当性にも直結するため、造成履歴の確認は価格査定の段階から組み込んでおくべき項目です。
売買実務チェック——媒介受託から決済までの七つの確認
ここまでの内容を、媒介の実務手順に落とし込みます。第一に、区域確認。物件所在地が二つの規制区域のいずれかに入っているかをWebGIS等で確認し、確認日と根拠を記録します。第二に、造成履歴の確認。登記や過去の航空写真、自治体の台帳で、盛土・切土の経緯を追います。第三に、許可・検査記録の収集。造成時の許可証や検査済証の有無を売主・分譲主に確認します。第四に、現地の目視。擁壁のひび・はらみ、のり面の湧水、排水の状態を写真つきで記録します。第五に、経過措置の確認。区域指定をまたいで工事された土地では、21日以内の届出がなされたかを確認します。第六に、重要事項説明への反映。区域の別と手続の要否、確認できた造成履歴、確認できなかった事項はその旨を明記します。第七に、引渡し後の手続案内。買主が予定する工事に許可・届出が必要になる可能性と相談窓口を伝えます。
盛土規制法は、造成だけでなく一時的な土石の堆積も規制します。資材置き場や残土の仮置き場として土地を貸す場合、区域内で規模基準を超えれば許可や届出の対象です。管理を受託している遊休地が無断で残土置き場に使われていた、という事例は現実にあります。空き地の管理受託や事業用地の媒介でも、この法律が視野に入ることを覚えておいてください。
現場メモ——検査済証が出てこない造成地
昨年、当社で戸建て用地の売却相談を受けた案件です。ひな壇造成された分譲地の一区画で、高さ2メートル弱の擁壁付き。売主に造成時の書類をお願いしたところ、権利証や建物の図面は揃っているのに、造成に関する書類だけが何も出てこない。分譲主はすでに廃業しており、自治体の窓口で確認すると、旧法時代の検査済証の記録は確認できたものの、取得には日数がかかるとのことでした。
結局、記録の取り寄せを待って、検査済証の存在と擁壁の現況写真を重要事項説明に添えて成約しましたが、痛感したのは造成関係の書類は建物の書類以上に散逸しやすいという現実です。分譲から数十年経てば、分譲主の廃業も代替わりも珍しくありません。それでも行政側の記録は残っていることが多い。「書類がないから分からない」で止めず、行政の記録まで当たる。この一手間を惜しまないことが、造成地を扱う仲介の信頼につながると考えています。
社内体制のつくり方——五つのステップ
盛土規制法対応を会社の仕組みにするための進め方を五つに整理します。第一に、商圏の区域指定マップの共有。自社の商圏の指定状況を調べ、事務所内で誰でも参照できる状態にします。第二に、物件調査チェックリストへの組み込み。区域確認・造成履歴・許可検査記録・現地目視の四点を、売買物件調査の標準項目に加えます。第三に、重要事項説明のひな形整備。区域内物件用の記載例をあらかじめ用意し、担当者ごとの記載のばらつきをなくします。第四に、指定情報の定期更新。区域指定は追加・見直しがあるため、年に一度は自治体の公表情報を確認する担当と時期を決めます。第五に、記録の一元化。いつ・誰が・何を確認したかを案件ごとに記録し、説明責任に耐える形で残します。
ウルスタは、中小不動産会社の物件・顧客・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。盛土規制法への対応の実体は、区域確認と造成履歴の調査記録の積み重ねです。どの案件で、いつ、どの資料を確認したかが案件ごとに整っていれば、重要事項説明の品質が安定し、万一の際に自社の調査義務を尽くした証拠にもなります。調査の抜けを人ではなく仕組みで防ぐことが、売買仲介の信頼の土台になります。詳しくは https://ulsta.jp をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 規制区域かどうかは、どこで確認できますか。
都道府県や政令市・中核市のホームページで、WebGISや地図PDFとして公表されています。国土交通省のポータルからも各自治体の指定状況をたどれます。確認した日付と確認先を調査記録に残しておくと、後日の説明に役立ちます。
Q2. 規制区域内の中古住宅の売買でも、何か手続が必要ですか。
売買そのものに許可や届出は不要です。規制がかかるのは盛土・切土・土石の堆積といった工事であり、既存の建物と土地を現状のまま売買する行為は対象外です。ただし重要事項説明では区域内であることと手続の枠組みを説明する必要があります。
Q3. 買主が購入後にリフォームや外構工事をする場合は。
建物内部の工事は対象外ですが、擁壁のやり直しや敷地のかさ上げなど土地の形質変更を伴う工事は、規模基準を超えれば許可や届出が必要です。購入後の計画を聞き取り、該当しそうな場合は自治体窓口への事前相談を案内してください。
Q4. 昔の造成地で検査済証が見つからない場合はどうすべきですか。
まず自治体に行政側の記録の有無を確認します。記録も確認できない場合は、その事実と現況の目視結果を重要事項説明に記載し、必要に応じて建築士等による擁壁の調査を提案します。「分からないことを分からないと明記する」ことが仲介者の防御にもなります。
Q5. 区域指定前から存在する古い盛土にも、この法律は及びますか。
及びます。所有者等の安全維持の責務や、危険な場合の是正命令は、指定前に造成された既存の盛土も対象です。工事の許可・届出は指定後の新たな工事に適用されますが、土地のリスクとしては既存盛土こそ確認が必要です。
Q6. 特定盛土等規制区域は山の中の話で、まちなかの仲介には関係ないのでは。
そうとは限りません。別荘地や郊外の分譲地、市街化調整区域の資材置き場など、まちなかの会社が扱う物件も特定盛土等規制区域に含まれることがあります。商圏の指定図を一度確認し、思い込みで判断しないことをおすすめします。
Q7. 区域指定がまだの商圏では、何もしなくてよいですか。
指定前でも準備は必要です。都道府県は基礎調査を経て順次指定を進めており、公表資料から自社商圏の指定見込み時期を把握できます。指定のタイミングを知らずに造成中の物件を仲介すると、経過措置の届出漏れに巻き込まれるおそれがあります。指定予定の公表を定期的に確認し、指定されたら調査手順を即日切り替えられるよう、チェックリストを先に整えておくのが現実的な備えです。
まとめ:区域確認を「調査の型」に組み込んだ会社が選ばれる
盛土規制法は、熱海の土石流災害を教訓に、土地の用途を問わず危険な盛土を規制する法律として2023年5月に施行され、2026年7月の北海道54市町村での規制開始が示すように、規制区域の指定は全国の日常になりつつあります。区域内では盛土・切土・土石の堆積に許可や届出が必要になり、重要事項説明の対象となる一方、既存盛土を安全に維持する責務は買主にも引き継がれます。区域確認・造成履歴・検査記録・現地目視という調査の型を持ち、確認の記録を積み重ねる会社こそが、造成地の取引で「あの会社に任せれば安心だ」という信頼を積み上げていきます。規制の広がりを負担と捉えるか、説明力で差がつく機会と捉えるか——分かれ目は、今年の商圏の棚卸しから始まります。
参考: 国土交通省「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)について」および盛土規制法の概要資料 / 北海道建設部まちづくり局都市計画課・盛土規制法に基づく規制区域の公表(2026年7月1日規制開始・54市町村) / 東京都都市整備局・盛土規制法に基づく規制 / 兵庫県・和歌山県・相模原市ほか各自治体の盛土規制法運用開始の公表資料 / 消防庁・令和3年7月静岡県熱海市土石流災害の記録 / いずれも2026年7月時点の公開情報および自社の不動産実務をもとに整理


