宅地建物の売買・交換・貸借の重要事項説明では、市町村が水防法にもとづいて作成した水害ハザードマップ(洪水・雨水出水・高潮)を提示し、その上で物件のおおむねの位置を示して説明する必要があります(宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第3号の2)。物件が浸水想定区域の外にある場合も位置を示し、水害のリスクがないと誤解されないよう配慮します。この記事では、国土交通省のQ&Aと「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」をもとに、調査から説明、記録までの手順と確認表を整理します。
説明義務の根拠|宅建業法施行規則16条の4の3第3号の2
宅地建物取引業法35条1項14号は、重要事項説明で説明すべき事項の一部を国土交通省令などに委ねています。これを受けた宅地建物取引業法施行規則16条の4の3は、第3号の2で、水防法施行規則11条1号の規定により物件が所在する市町村の長が提供する図面に物件の位置が表示されているときは、「当該図面における当該宅地又は建物の所在地」を説明事項としています。
同条の柱書では、この第3号の2が、宅地の売買・交換、建物の売買・交換、宅地の貸借、建物の貸借のいずれの説明事項にも含まれています。売買の仲介だけでなく、賃貸の仲介でも説明が必要です。
国土交通省の報道発表によると、この改正は2020年7月17日に公布され、同年8月28日に施行されました。国土交通省のQ&Aは、大規模な水災害が相次ぎ、水害リスクの情報が契約を決めるうえで重要な要素になっていることを、追加の理由に挙げています。
同じ条の第1号から第3号では、造成宅地防災区域、土砂災害警戒区域、津波災害警戒区域の中にあるかどうかも説明事項とされています。水害ハザードマップの説明は、これらの区域の説明とは別の項目です。
重要事項説明(宅建業法35条1項から3項)に違反した場合、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事は、指示や1年以内の業務停止を命じることができます(宅建業法65条1項・2項)。
対象となるハザードマップ|洪水・雨水出水・高潮
国土交通省のQ&Aでは、説明の対象となる水害ハザードマップは、水防法15条3項にもとづいて市町村が提供する、洪水・雨水出水(内水)・高潮のハザードマップだとしています。Q&Aの主な内容は次のとおりです。
| 場面 | 国土交通省Q&Aの考え方 |
|---|---|
| 現行の水防法の施行前に作られた古いマップ | 現行の水防法にもとづくマップとみなされるため、説明の対象になる |
| 河川ごとにマップが作られている | 物件の所在地が含まれるマップのそれぞれについて説明する |
| 水防法にもとづくものか分からない、洪水・雨水出水・高潮のどれか分からない | マップを作成している市町村に問い合わせる |
| ため池ハザードマップや浸水実績図 | 水防法以外の規定にもとづくマップまで説明することは求めていない |
| 市町村がマップを作成していない | その市町村では水防法にもとづく水害ハザードマップが作成されていない旨を説明する |
ため池ハザードマップや浸水実績図は説明義務の対象ではありませんが、物件の近くにため池がある場合や、過去の浸水を把握している場合に、参考として示すかどうかは社内で方針を決めておきます。
マップの集め方と最新版の確かめ方
解釈・運用の考え方の定め
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(2020年の改正で追加された「3の2」)は、説明に使う水害ハザードマップについて、物件がある市町村が配布する印刷物か、市町村のホームページなどに掲載されたものを印刷したもので、最新のものを用いることとしています。調査は、市町村のホームページなどを確認し、入手できる最新のものを用いることとされています。
市町村に照会し、マップの全部または一部を作成していない、あるいは配布や掲載をしていないことが確認できた場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになるとされています。照会した日、相手の部署、回答の内容を記録しておきます。
最新版かどうか
Q&Aでは、市町村のホームページに掲載されている水害ハザードマップを最新のものとして差し支えないとし、作成時点が分かる場合はそれを明記することが望ましいとしています。都度市町村に問い合わせる必要まではありませんが、マップの作成年月や改定の有無を控えておくと、後で確認しやすくなります。浸水想定区域が見直された場合でも、説明の時点で現存する最新のマップを使えばよいとされています。
ハザードマップポータルサイトの使い方
国土交通省のハザードマップポータルサイトには、2つの機能があります。「わがまちハザードマップ」は、市町村が法令にもとづいて作成・公開したハザードマップへのリンク集です。「重ねるハザードマップ」は、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報や土地の特徴などを、地図に重ねて表示するものです。
Q&Aでは、マップは物件のある市町村のホームページから入手でき、ハザードマップポータルサイトでも確認できるとしています。実務では、「わがまちハザードマップ」から市町村のマップにたどり着いて説明用の印刷物を用意し、「重ねるハザードマップ」は物件の周りの土砂災害や津波のリスクも含めた下調べに使う、という分け方が分かりやすいでしょう。
重要事項説明での示し方
Q&Aと解釈・運用の考え方では、説明の方法について次のように整理されています。義務とされていることと、望ましいとされていることを分けて確認します。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 必要 | 物件の位置を含む水害ハザードマップを、洪水・雨水出水・高潮のそれぞれについて提示し、物件のおおむねの位置を示す |
| 必要 | 物件が浸水想定区域の外にある場合も、マップ上の位置を示す |
| 必要 | 市町村がマップを作成していない場合は、その旨を説明する |
| 配慮 | 浸水想定区域に入っていないことをもって、水害のリスクがないと相手方が誤認しないよう配慮する |
| 望ましい | マップに記載された避難所の位置もあわせて示す。最も近い1か所だけでなく、周辺の複数の避難所を示す |
| 望ましい | マップの内容は今後変更される場合があることを補足する |
位置の示し方について、Q&Aは地番まで正確に示すことを求めるものではなく、おおむねの位置を示せば足りるとしています。マップを見せながら物件の場所を指し示す、マップ上に印をつけるといった方法が挙げられています。
誤認を防ぐ方法として、Q&Aは、マップに書かれている「雨の降り方や土地利用の変化等により地図に示した浸水区域以外のところでも浸水することがありますので、ご注意ください」といった文言を、相手方に示しながら読み上げることを例に挙げています。浸水想定区域に入っている物件で、より詳しい説明を求められた場合は、マップを作成した市町村の窓口に問い合わせるよう案内するとされています。
重要事項説明書には、「別紙のとおり。」「別添ハザードマップ参照。」などと書き、物件の位置に印をつけたマップを添付する形が想定されています。
社内手順の例|募集前の調査から説明・記録まで
担当者によって説明の内容に差が出ないよう、手順を決めておきます。次は手順の一例です。
募集前(物件の登録時)
- 物件のある市町村のホームページか「わがまちハザードマップ」で、洪水・雨水出水・高潮のマップがあるかを確認する。
- 河川ごとにマップが分かれている場合は、物件の位置が含まれるものをすべて集める。
- マップの名称、作成年月、入手したURLか入手先、入手日を物件の記録に残す。
- マップが見当たらない種類は、市町村に照会し、照会日・部署・回答を記録する。
- 「重ねるハザードマップ」で、土砂災害警戒区域や津波のリスクなど、ほかの説明事項もあわせて確認する。
契約前(説明の準備)
- 募集前に入手したマップが今も最新かを、市町村のホームページで確かめる。
- マップを印刷し、物件のおおむねの位置と周辺の避難所に印をつける。
- 重要事項説明書の該当欄に「別添ハザードマップ参照」などと書き、添付するマップの種類を列挙する。
- マップが作成されていない種類は、その旨を説明書に書く。
説明のとき
- 洪水・雨水出水・高潮の順に、マップと物件の位置を示す。
- 浸水想定区域の外であっても、マップの注意書きを読み上げ、リスクがないわけではないことを伝える。
- マップは今後変わることがあると補足する。
- 詳しい質問には、市町村の窓口を案内する。
記録と見直し
- 説明に使ったマップの写しを契約の記録と一緒に保管する。
- 市町村がマップを改定したことを知ったら、募集中の物件の記録を更新する。
- 出水期の前など時期を決めて、管理物件のマップの更新状況をまとめて確認する。
賃貸の重要事項説明で気をつけること
施行規則16条の4の3の柱書により、建物の貸借でも第3号の2は説明事項に含まれます。部屋数が多い賃貸の仲介では、同じ建物の部屋ごとに毎回マップを探すのは手間がかかるため、建物単位でマップを用意し、募集のたびに最新かどうかだけを確かめる形にすると効率的です。
水害ハザードマップの説明は、入居後の備えにもつながります。入居者に避難所の位置を伝えておくと、大雨のときの連絡もしやすくなります。出水期の前に管理物件で確認することは「梅雨入り前の賃貸物件 水害BCPチェックリスト」で整理しています。重要事項説明書全体の書き方は「重要事項説明書のテンプレート」も参考にしてください。
ウルスタくんでは、重要事項説明書や賃貸借契約書などの書類を作成し、電子サインで締結できます。物件・入居者の管理にマップの作成年月や入手日を控えておくと、次の募集のときに最新版かどうかを確かめやすくなります。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 物件が浸水想定区域の外なら、説明は不要ですか。
不要ではありません。国土交通省のQ&Aでは、所在地が浸水想定区域の外にある場合でも、水防法にもとづく水害ハザードマップにおける位置を示さなければならないとしています。あわせて、水害のリスクがないと誤認されないよう配慮します。
Q2. 洪水のマップだけ見せればよいですか。
解釈・運用の考え方では、洪水・内水(雨水出水)・高潮のそれぞれについて、物件の位置を含むマップを提示するとしています。市町村が作成していない種類は、作成されていない旨を説明します。
Q3. 市町村のホームページのマップは最新と考えてよいですか。
Q&Aでは、市町村のホームページに掲載されているマップを最新のものとして差し支えないとしています。作成時点が分かる場合は明記することが望ましいとされています。
Q4. 避難所の位置の説明は義務ですか。
義務ではありませんが、Q&Aと解釈・運用の考え方では、マップに記載された避難所の位置をあわせて示すことが望ましいとされています。Q&Aでは、物件周辺の複数の避難所を示すことが望ましいとしています。
Q5. 重ねるハザードマップの画面を見せるだけで足りますか。
解釈・運用の考え方では、市町村が配布する印刷物か、市町村のホームページなどに掲載されたものを印刷した最新のものを用いることとしています。重ねるハザードマップは下調べに使い、説明には市町村のマップを用意するのが確実です。
まとめ
水害ハザードマップの説明は、売買だけでなく賃貸の重要事項説明でも必要です。市町村が作成した洪水・雨水出水・高潮のマップを集め、物件のおおむねの位置を示し、浸水想定区域の外でもリスクがないと誤解されないよう補足します。マップの入手日や作成年月、市町村への照会の結果を記録しておくと、担当者が替わっても同じ手順で説明できます。
出典(本文で参照している資料)
- 宅地建物取引業法施行規則(第16条の4の3)
- 宅地建物取引業法(第35条、第65条)
- 水防法(第15条)
- 国土交通省 報道発表「不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化」(2020年7月17日)
- 国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の一部改正(水害リスク情報の重要事項説明への追加)に関するQ&A」
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」新旧対照(2020年改正)
- 国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の改正について」
- 国土交通省 ハザードマップポータルサイト(重ねるハザードマップ・わがまちハザードマップ)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。


