ペット可賃貸の運用は、飼育の書面承諾、管理規約の確認、原状回復の特約の3つを契約前にそろえ、入居から退去まで同じ記録でつなぐのが基本です。この記事では、国土交通省の賃貸住宅標準契約書と原状回復ガイドライン、動物愛護管理法、区分所有法、最高裁判決を確かめたうえで、中小の管理会社がそのまま使える手順と確認表にまとめました。
ペット飼育に関係する法令と契約書の条項
ペット可の運用は、オーナーが「ペット可」と決めれば自由に飼えるという形ではありません。賃貸借契約、分譲マンションなら管理規約、そして法令の3つが重なって決まります。
賃貸借契約:犬・猫の飼育は書面承諾の対象
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)」は、第8条4項で、別表第2に掲げる行為を貸主の書面による承諾なしに行ってはならないと定めています。別表第2には「観賞用の小鳥、魚等であって明らかに近隣に迷惑をかけるおそれのない動物以外の犬、猫等の動物を飼育すること」が入っています。標準契約書の形では、犬・猫の飼育は禁止ではなく「書面の承諾が要る行為」です。
一方、別表第1第5号の「猛獣、毒蛇等の明らかに近隣に迷惑をかける動物を飼育すること」は、承諾の有無にかかわらず行ってはならない行為として分けられています。なお、動物愛護管理法26条1項は、特定動物の飼養や保管について、動物園での展示など環境省令で定める目的ごとに都道府県知事の許可を求めています。
承諾の条件に違反した場合の解除について、標準契約書第10条2項は、相当の期間を定めて催告しても義務が履行されず、「本契約を継続することが困難であると認められるに至ったとき」に解除できるという形をとっています。民法594条1項(616条で賃貸借に準用)の用法遵守の義務とあわせて、承諾の条件を書面で具体的にしておくことが、後の判断の前提になります。
動物愛護管理法:飼い主の責務と自治体の関与
動物の愛護及び管理に関する法律7条1項は、飼い主(所有者・占有者)に、動物を適正に飼養し、動物が「生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」と定めています。同条3項は逸走の防止、4項は終生飼養、5項は繁殖に関する適切な措置を、それぞれ努力義務としています。
多頭飼育などで、騒音や悪臭、毛の飛散、多数の昆虫の発生によって周辺の生活環境が損なわれている事態(環境省令で定める事態)が生じたときは、都道府県知事が指導・助言、勧告、命令をすることができます(25条1項〜3項)。管理会社には室内を強制的に調べる権限がないため、こうした事態が疑われるときは、自治体の担当部署へ相談する道があることを知っておくと動きやすくなります。
犬の登録・狂犬病予防注射とマイクロチップ
犬の飼い主は、狂犬病予防法4条で市町村長への登録と鑑札の装着を、5条で年1回の予防注射と注射済票の装着を義務づけられています。登録した犬の所在地を変えたときは、30日以内の届出が必要です(4条4項)。入居時に鑑札と注射済票を確かめ、転入の届出を案内しておくと、飼い主の義務と物件のルールを同時に確認できます。
マイクロチップは、動物愛護管理法39条の2第1項で犬猫等販売業者に装着が義務づけられ、それ以外の飼い主は装着の努力義務です(同条2項)。登録を受けた人は、登録した事項に変更が生じたときは30日以内に届け出なければなりません(39条の5第8項)。
分譲マンションの1室を貸すときは管理規約が先
区分所有建物では、建物の使用に関する事項を規約で定めることができ(区分所有法30条1項)、賃借人などの占有者も、建物の使用方法について、区分所有者が規約や集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負います(46条2項)。オーナーがペット可にしたくても、規約や細則が飼育を禁止していれば、その住戸の入居者も従う必要があります。
国土交通省が公表している令和7年改正のマンション標準管理規約(複合用途型)のコメント(第18条関係)は、ペット飼育の可否は規約で定めるべき事項としています。飼育を認める場合に細則で定める事項としては、動物の種類・数の限定、届出や登録による把握、専有部分での飼育方法、共用部分の利用方法とふん尿の処理、飼育に起因する被害への責任、違反者への措置が挙げられています。募集の前に管理組合の規約と細則を取り寄せ、飼育承諾書の内容をそれに合わせます。
占有者の行為が共同の利益に反する場合、区分所有者の全員または管理組合法人は、行為の停止などを請求できます(57条4項)。障害が著しく他の方法で解決が難しいときは、集会の決議を経て、訴えで賃貸借契約の解除と専有部分の引渡しを請求する仕組みもあります(60条1項)。
身体障害者補助犬は別に扱う
身体障害者補助犬法11条は、住宅を管理する者は、居住する身体障害者がその住宅で補助犬を使用することを拒まないよう努めなければならないと定めています。標準管理規約のペット飼育禁止の規約例でも、補助犬は例外として書かれています。ペット不可の物件でも補助犬をペットと同じ基準で断らないよう、受付の手順に書いておきます。
入居審査と飼育承諾書の確認項目
審査で見るのは、その動物と飼い方が物件のルールに合うかどうかです。確認した内容は、そのまま飼育承諾書の「対象動物の特定」に使います。
| 確認項目 | 確認の方法 | 理由・根拠 |
|---|---|---|
| 動物の種類・頭数・大きさ | 申込書への記入と写真 | 書面承諾(標準契約書第8条4項・別表第2)の対象を特定するため |
| 犬の登録と予防注射 | 鑑札と注射済票を確認 | 狂犬病予防法4条・5条 |
| マイクロチップの装着と登録 | 登録証明書の有無を確認 | 動物愛護管理法39条の2・39条の5 |
| 不妊・去勢の措置 | 申込書で申告を受ける | 繁殖に関する措置の努力義務(同法7条5項) |
| 管理規約・細則の制限(分譲の場合) | 管理組合の細則と照らし合わせる | 占有者も規約の使用方法に従う(区分所有法46条2項) |
| 飼えなくなったときの預け先 | 申込書に記入 | 入院や転勤に備える。終生飼養の努力義務(同法7条4項) |
飼育承諾書に書く項目
- 承諾する動物の種類・頭数・名前・写真(追加や入れ替えは改めて書面で承諾する)
- 共用部分での扱い(抱きかかえるか、リードを短く持つか、エレベーターの使い方)
- ふん尿や毛の処理、ベランダでの飼育やブラッシングの可否
- 鳴き声や臭いの苦情があったときの連絡と改善の手順
- 損傷や汚損があったときの負担の考え方(次の章の特約)
- 条件に違反したときの扱い(書面で改善を求め、改善されない場合は承諾の取消しや契約の解除を検討すること)
承諾は口頭で済ませず、入居者の署名(電子サインを含む)をもらい、契約書と一緒に保管します。入居審査全体の進め方は入居審査マニュアルで扱っています。
原状回復の特約は範囲を具体的に書いて説明する
民法621条は、賃借人の原状回復義務から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除いています。そのうえで、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、ペットにより柱やクロスにキズが付いたり臭いが付着したりしている場合は賃借人負担(区分B)と考えられるとしています。
ただしガイドラインは、賃借人負担の部分でも経過年数を考慮するとしています。クロスは6年で残存価値1円となるような負担割合を算定し、張替えは、毀損させた箇所を含む一面分までは賃借人負担としてもやむを得ないとしています。特約がないまま、新品への張替え費用をそのまま請求すると、この考え方と合わなくなります。
ガイドラインの参考資料(令和5年3月)は、ペット飼育可の物件で、ペットによるひどいキズや汚れは経過年数を考慮せず賃借人負担とする特約が設けられる場合があることに触れ、こうした特約の有効性は個別の判断が必要で、入居前の確認が大切だとしています。
通常損耗まで賃借人の負担とする特約について、最高裁平成17年12月16日判決(平成16(受)1573)は、賃借人が負担する損耗の範囲が契約書の条項自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭で説明し、賃借人がそれを明確に認識して合意の内容としたと認められるなど、明確な合意が必要だと判断しています。ガイドラインも、賃借人に特別の負担を課す特約の要件として、特約の必要性と合理的な理由があること、賃借人が通常の原状回復を超える義務を負うと認識していること、義務を負う意思表示をしていることの3つを挙げています。消費者契約法10条にも注意が必要です。
| 特約で決めること | 書き方の考え方 |
|---|---|
| 対象 | 「ペットによる引っかき傷、かじり跡、尿による汚損と臭い」のように具体的に書く |
| 部位 | 柱、建具、クロス、床など、どの部位が対象かを書く |
| 経過年数 | 考慮するか、しないかを明記する |
| 費用の決め方 | 単価や算定方法を書くか、見積りにもとづくことを書く |
| 説明の記録 | 説明した日と、借主が内容を確認した署名を残す |
標準契約書の別表第5も、特約は「民法第90条並びに消費者契約法第8条、第8条の2、第9条及び第10条に反しない内容に限ります」と書いています。
鳴き声・臭い・共用部の苦情を受けたときの手順
| 段階 | やること | 残す記録 |
|---|---|---|
| 受付 | 日時、場所、内容(鳴き声・臭い・ふん尿・毛)、申告者を聞き取る | 受付票 |
| 事実確認 | 共用部分を確認し、申告のあった時間帯に現地で確かめる | 写真、確認した日時 |
| 飼い主への連絡 | 飼育承諾書の条項を示して改善を依頼する。申告者の名前は出さない | 送った文面 |
| 改善の確認 | 一定の期間をおいて、申告者に状況を聞き、現地を確かめる | 確認の結果 |
| 改善されないとき | 書面で期間を定めて催告する。分譲では管理組合と連携し、オーナーと解除の要否を話し合う | 催告書の写し、協議の記録 |
室内に入って確かめたいときは、標準契約書第16条1項のとおり、あらかじめ入居者の承諾を得ます。承諾なしに入れるのは、火災の延焼を防ぐ必要があるときなど緊急の場合で(同条4項)、不在時に入ったときは後で通知します。無断飼育が疑われる場合も、合鍵で入って確かめるのではなく、書面で事実を問い合わせ、承諾の申請か飼育の中止を求めます。
鳴き声の苦情は、騒音の苦情として扱う方が整理しやすい場合もあります。騒音の手順は賃貸の騒音クレーム対応の手順にまとめています。
退去精算で入居時の記録を使う
退去時は、入居時のチェックリストと写真と比べて、入居中に生じた損傷かどうかを確かめます。ガイドラインは、入居時と退去時にチェックリストを作り、当事者が立ち会って十分に確認すること、平面図への記入や写真などを併せて使うことが重要だとしています。ペットの臭いは写真に写らないため、現地で確かめた結果を文章で残します。
精算は、ガイドラインの様式例「原状回復の精算明細書」のように、対象箇所、修繕内容、工事費用、経過年数、負担割合を並べて示します。敷金は、賃貸借が終了し物件の返還を受けたときに、未払いの債務を差し引いた残額を返還する義務があります(民法622条の2第1項)。精算の進め方は原状回復・退去精算の実務、オンラインで立ち会う方法は退去立会いのオンライン化で詳しく扱っています。
避けたい対応
- 入居者の承諾なく合鍵で室内に入る(標準契約書第16条)
- 口頭だけで飼育を承諾し、対象の動物や条件を書面に残さない
- 特約がないのに、経過年数を考えずに新品への交換費用を請求する
- 補助犬をペットと同じ基準で断る(身体障害者補助犬法11条)
- 苦情の申告者の名前を飼い主に伝える
記録をそろえる
ペット可の運用で残したい記録は、申込時の情報、飼育承諾書、入居時の写真とチェックリスト、苦情の受付と対応、退去時の確認の5つです。ウルスタくんでは、物件・入居者の管理に入居者ごとの情報を残し、賃貸借契約書などの書類を作って電子サインで締結できます。承諾の条件と苦情対応の経過を同じ入居者の記録にまとめておくと、退去精算やオーナーへの説明で探す手間が減ります。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. ペット不可の物件をペット可に変えるときは、何から確認しますか?
分譲マンションの1室なら、まず管理規約と細則で飼育が認められているかを確かめます(区分所有法46条2項)。1棟の物件なら、飼育承諾書の書式、原状回復の特約、共用部分のルールを先に作ってから募集を始めます。既存の入居者には、共用部分のルールと苦情の連絡先を書面で知らせておきます。
Q2. 飼育を認める動物の種類や頭数を限定してもよいですか?
標準契約書の形では犬・猫の飼育は書面承諾の対象なので、承諾の範囲として種類・頭数・大きさを決めることができます。限定する場合は募集図面と承諾書に同じ条件を書きます。補助犬は別に扱います。
Q3. 入居中に飼う動物が増えたり、変わったりしたら?
承諾書で対象の動物を特定しているので、追加や入れ替えは改めて書面で承諾します。犬の場合は、登録と予防注射の確認も同じときに行います。
Q4. ペットの臭いはどこまで借主の負担になりますか?
ガイドラインは、ペットによりクロスなどに臭いが付着している場合を賃借人負担(区分B)と考えられるとしています。ただし経過年数は考慮します。経過年数を考慮しない負担にするなら、特約で範囲を具体的に書き、契約時に説明しておく必要があります。
Q5. 敷金を多めに預かれば、精算のもめごとは防げますか?
敷金の額を増やしても、借主が負担する範囲が広がるわけではありません。民法622条の2のとおり、未払いの債務を差し引いた残額は返還します。もめごとを防ぐのは、預かる額よりも、入居時の記録と特約の説明です。
出典(本文で参照している資料)
- 民法(e-Gov法令検索):594条、616条、621条、622条の2
- 動物の愛護及び管理に関する法律(e-Gov法令検索):7条、25条、26条、39条の2、39条の5
- 狂犬病予防法(e-Gov法令検索):4条、5条
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索):30条、46条、57条、60条
- 身体障害者補助犬法(e-Gov法令検索):11条
- 消費者契約法(e-Gov法令検索):10条
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」について/賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・家賃債務保証業者型)
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料(令和5年3月)
- 国土交通省 令和7年マンション標準管理規約(複合用途型)改正
- 最高裁判所 平成17年12月16日判決(平成16(受)1573)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。


