家賃査定 読了 14分

【2026年10月】家賃値上げ要請の経験者が17.2%に|管理会社の実務

リクルートの2026年調査で家賃値上げ要請の経験者は17.2%(前年比4.6pt増)、全10エリアで前年を上回りました。値上げで退去した人は7.6%。数字と、根拠の示し方・記録の残し方など管理会社の実務を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
目次

株式会社リクルートのSUUMOリサーチセンターは2026年10月22日、「賃貸住宅の居住実態・ニーズ調査(2026年)」を公表し、家賃の値上げ要請を経験した入居者が全体の17.2%で、前年から4.6ポイント増えたと発表しました。調査は全国10エリアすべてで前年を上回り、平均の値上げ額は家賃10万円未満の層で3,000円台、10万〜20万円未満の層で5,000円台です。値上げに納得できず退去した人は7.6%でした。本稿は、公表資料(調査結果PDF)に書かれている数字だけを整理し、管理会社が値上げを進めるときに確認したい手順をまとめます。

発表の中身|値上げ要請は17.2%、全エリアで前年超え

公表資料の冒頭にまとめられている家賃値上げの結果は次の4点です。

  • 家賃の値上げ要請を経験した人は全体の17.2%で、前年から4.6ポイント増えました。設問は「現在お住まいの賃貸住宅について、大家さんや管理会社から家賃の値上げに関するお知らせが届いたことはあるか」です。
  • 更新時期が直近の層ほど割合が高く、半年以内に更新した層では25.2%でした。築年数が浅い物件の入居者や、犬・猫を飼っている入居者でも全体より高い傾向があるとしています。
  • 全10エリアで前年を上回りました。一都三県は19.4%(前年比3.2ポイント増)です。資料は「家賃の値上げは全国的な動きとなっている」と書いています。
  • 平均値上げ額(合意した額、または断った要請額)は、家賃10万円未満の層で3,000円台、10万〜20万円未満の層で5,000円台です。

SUUMO副編集長による解説では、値上げの背景として建築・修繕コスト、固定資産税、金利の上昇などでオーナーの負担が増していることを挙げています。また地方圏では、大手ハウスメーカーの物件や、好立地・築浅といった需要の高い物件を中心に値上げが行われている傾向があるとしています。そのうえで、値上げ交渉では値上げの理由や周辺の家賃相場などの客観情報を丁寧に伝え、借主・貸主双方が納得できる形で進めることが重要だとまとめています。

調査の概要と、数字を読むときの注意

項目内容
公表日2026年10月22日
実施株式会社リクルート SUUMOリサーチセンター(調査実施機関は株式会社マクロミル)
方法調査会社モニタを使ったインターネット調査
調査期間スクリーニング調査 2026年3月26日〜31日/本調査 2026年5月13日〜18日
対象18歳以上で、直近半年〜5年以内に今の賃貸住宅に住み始め、2026年4月末までに引っ越す予定がなく、物件選びに関与した人
地域全国10エリア(一都三県/関西/東海/北海道/東北/北関東/甲信越北陸/中国/四国/九州)
有効回答数スクリーニング調査 150,045サンプル/本調査 5,082サンプル
集計エリア×年代別の人口構成比(令和2年国勢調査)にもとづくウエイト補正後の数値

読むときの注意が3つあります。1つ目に、これは入居者への意識・経験の調査で、成約賃料や改定後の賃料の統計ではありません。2つ目に、前年の比較対象は資料上「一般セル(n=1,222)」とされており、今年の5,082サンプルとは集計の土台が同じではありません。3つ目に、資料は補正後のサンプル数が50以下の項目を参考値として扱うとしています。下の家賃帯別の表では、該当する行に「参考値」と付けました。

エリア別・家賃帯別の数字

エリア別|値上げ要請を経験した割合

エリア2026年2025年差
全体17.2%12.6%+4.6pt
一都三県19.4%16.2%+3.2pt
関西17.3%10.5%+6.8pt
東海18.6%12.4%+6.2pt
北海道10.5%9.6%+0.9pt
東北14.4%6.8%+7.6pt
北関東14.4%11.9%+2.5pt
甲信越北陸19.3%15.5%+3.8pt
中国13.4%8.7%+4.7pt
四国20.1%8.5%+11.6pt
九州16.5%9.9%+6.6pt

前年からの増え幅が最も大きいのは四国(11.6ポイント増)、次いで東北(7.6ポイント増)、関西(6.8ポイント増)です。四国は回答数が少ないエリア(補正前174サンプル)である点に注意が必要です。

家賃帯別|平均値上げ額

平均値上げ額は、値上げ要請を受けた人のうち「値上げ額は覚えていない」を除いた回答から算出されています。金額は回答の選択肢(金額のレンジ)の中央値を使った推計平均です(「30,000円以上」は30,000円として計算)。

家賃帯算出の人数平均値上げ額扱い
3万円未満383,924円参考値
3〜4万円未満393,246円参考値
4〜5万円未満773,671円—
5〜6万円未満1073,159円—
6〜7万円未満1193,333円—
7〜8万円未満1013,788円—
8〜9万円未満663,822円—
9〜10万円未満573,717円—
10〜12万円未満724,736円—
12〜14万円未満356,891円参考値
14〜16万円未満215,113円参考値
16〜18万円未満145,562円参考値
18〜20万円未満125,137円参考値
20万円以上2911,412円参考値

人数が50を超える家賃4万〜12万円の帯では、平均値上げ額は3,159円〜4,736円の範囲に収まっています。家賃に対する比率に直すと、家賃5万円台で月3,000円台は数%の改定にあたり、少なくない額です。

入居者はどう対応したか|退去は7.6%

前の住まいで家賃値上げの連絡があった人(717人)に、最後に連絡があったときの対応を聞いた結果です。

前の住まいでの対応割合
特に交渉せず、提示どおり受け入れた67.4%
交渉したが、最終的に提示どおりの金額で受け入れた12.2%
交渉して、提示より低い金額で受け入れた7.8%
交渉(拒否)して、値上げせずに住み続けた3.3%
納得できず、それをきっかけに退去した7.6%
その他1.7%

8割近く(67.4%と12.2%の合計79.6%)が提示どおりの金額で受け入れています。一方で、値上げに納得できず退去した人は7.6%でした。退去した人(54人)が挙げた理由で最も多いのは「提示された金額が自分の予算(支払える限界)を超えていたため」の36.3%です。解説では、退去した人の2〜3割が「周辺の相場と比べて高いと感じた」「管理会社やオーナーの交渉の進め方や対応に納得がいかなかった」をそれぞれ挙げているとしています。退去理由の設問は回答者が54人と少ないため、割合の細かな差よりも「何が理由に挙がったか」を読むのが適切です。

設備・性能の数字|独立洗面台・断熱・外装修繕

同じ調査には、オーナーへの設備投資の提案で使える数字も並んでいます。いずれも入居者の意向を聞いたもので、その家賃で成約することを示すものではありません。

  • 水回り: 同じ1Kで水回りが異なる3つの間取りのうち、「シャワーブース+独立トイレ+独立洗面台」を1位に選んだ人は58.4%。そのうち78.9%が、3点ユニットバスの物件より「家賃が高くても選ぶ」と回答しました。10〜20代では26.7%が「家賃が1万円以上高くても選ぶ」としています。
  • 外観より内装・設備: 「外観は古いが内装・設備は新しい」物件を選ぶ人は59.5%で、「外観は新しいが内装・設備は古い」物件(22.3%)を上回りました。
  • 外装修繕: 築30年程度の物件で外装を修繕した場合、修繕済みの物件を選ぶ人(82.1%)が許容する家賃の上昇額は、推計平均で月額4,616円です。
  • 断熱: 入居後に「冬場の底冷え」を不満とした人は31.6%、「脱衣所などの温度差」は31.2%。次の住まい探しで断熱性能を重視したい人は60.7%でした。
  • ZEH賃貸: 認知度は35.3%(前年から6.2ポイント増)で、2021年の調査開始以降で最高。家賃が1〜2割程度上がっても検討したい人は25.5%(前年から2.0ポイント増)です。築2年未満の物件に住む人のうち、省エネ性能ラベルを検討・判断の材料にした人は19.7%でした。

賃貸管理の実務で何をするか

今回の調査は新しい義務を定めるものではありません。値上げ要請が広がっているという数字を前提に、管理会社が手順を見直すときの確認点を5つ挙げます。

  1. 値上げの根拠を、法律の考え方に沿って書面にする。借地借家法第32条は、租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の変動その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較により賃料が不相当となったときに、将来に向かって増額を請求できると定めています(e-Gov法令検索)。通知文には、固定資産税や修繕費などオーナー側の負担の変化と、周辺の類似物件の賃料という2種類の根拠を分けて書くと、調査で退去理由に挙がった「相場と比べて高い」という受け止めに答えやすくなります。周辺相場の資料作りは、ウルスタくんの家賃査定AI(近隣の類似成約事例と適正賃料のレンジを表示)でできます。
  2. 契約書の条項を先に確かめる。賃料改定の条項や、一定期間増額しない旨の特約があるかを確認します。借地借家法第32条第1項ただし書きは、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合はその定めに従うとしています。定期借家契約で賃料改定の特約がある場合も、その定めを確認します。
  3. 通知の時期を更新の案内と合わせて設計する。調査では更新時期が直近の層ほど値上げ要請の経験が多く、半年以内に更新した層で25.2%でした。更新案内と同時に出すのか、別に出すのかをオーナーと決め、入居者が検討できる期間を取った日程を組みます。
  4. 交渉の経過と合意を記録に残す。合意した場合は改定後の賃料と適用開始日を書面(覚書など)で取り交わします。協議が調わない場合、借地借家法第32条第2項により、増額請求を受けた入居者は裁判が確定するまで自分が相当と認める額を支払えば足ります。賃料の増減を裁判で争う場合は、まず調停を申し立てる決まりです(民事調停法第24条の2)。こうした流れを、値上げを決める前にオーナーに説明しておきます。
  5. 退去と空室の費用を並べてオーナーに示す。調査では値上げをきっかけに退去した人が7.6%いました。増額分の年間の収入と、退去が出た場合の空室期間・原状回復・募集にかかる費用を、物件ごとの実績で並べて比べる資料を作ると、オーナーが改定幅を決めやすくなります。あわせて、独立洗面台や断熱改修など、入居者が家賃の上乗せを許容すると答えた設備投資も選択肢として示せます。

賃料改定の進め方全体は「賃料増額・賃料改定マニュアル 2026」でも整理しています。

よくある質問

Q1. 17.2%は「家賃が上がった人」の割合ですか。

いいえ。17.2%は、今住んでいる賃貸住宅について、大家さんや管理会社から家賃の値上げに関するお知らせが届いたことがある人の割合です。届いた人の中には、交渉して値上げせずに住み続けた人や、受け入れていない人も含まれます。

Q2. 平均値上げ額はどのように計算されていますか。

最終的に合意した値上げ額、または断った値上げ要請額を金額のレンジで聞き、各レンジの中央値に人数をかけて平均した推計値です。「30,000円以上」は30,000円として計算されています。補正後の人数が50以下の家賃帯は参考値です。

Q3. 管理会社に新しく課される義務はありますか。

ありません。今回の公表は民間企業による入居者調査で、法令や行政の通知ではありません。賃料の増額については、従来どおり借地借家法第32条と契約書の定めに沿って進めます。

Q4. 首都圏以外でも値上げ要請は増えていますか。

調査では全10エリアで前年を上回りました。一都三県は19.4%、関西17.3%、東海18.6%、九州16.5%などです。ただし回答数が少ないエリアもあり、前年の集計の土台も今年と同じではないため、エリア間の細かな差は幅を持って見る必要があります。

要点は三つです。リクルートの2026年調査で、家賃の値上げ要請を経験した入居者は17.2%と前年から4.6ポイント増え、全10エリアで前年を上回ったこと。8割近くは提示どおりに受け入れている一方、7.6%は値上げをきっかけに退去していること。管理会社が手を入れられるのは、根拠の示し方・通知の時期・記録の残し方・オーナーへの費用比較の4点であることです。

この記事は 2026-10-23 時点の情報です。同じ日に公表された「首都圏賃貸契約者動向調査(2025年度)」の内容は本稿では扱っていません。

出典(本文で参照している資料)

本稿の数字は、すべて2026年10月23日に開いて読んだ次の資料にもとづきます。

本稿で使った内容資料
公表日、値上げ要請の経験率(全体・エリア別・前年比)、平均値上げ額、前の住まいでの対応、退去理由、設備・性能に関する数字、調査概要株式会社リクルート SUUMOリサーチセンター「賃貸住宅の居住実態・ニーズ調査(2026年)」(2026年10月22日、PDF)
公表資料の掲載ページ株式会社リクルート「住まい」の調査・データ一覧
借賃増減請求権(第32条)、増額しない特約、協議が調わない場合の支払いe-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号)
賃料増減請求事件の調停前置(第24条の2)e-Gov法令検索「民事調停法」(昭和26年法律第222号)

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