2026年4月1日から、不動産登記法の改正で 住所等変更登記の義務化 が始まりました。所有権登記名義人が氏名・名称・住所を変更したときは、変更日から2年以内に変更登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象となります。施行直後でまだ実務に落ちていないオーナーが大多数で、「うちの物件は登記住所が古いままだ」と気づいた瞬間に、管理会社へ問い合わせが殺到する局面が必ず来ます。私はウルスタの代表をしながら宅建業を営み、自社で210室規模の賃貸物件を運営しています。所有権登記の住所が変わっていない物件が10%超あったため、施行前に全件棚卸しを実施しました。本記事では、中小不動産会社・賃貸管理会社の社長と担当者が今すぐ着手すべき7つの実務対応、オーナー説明スクリプト、棚卸しチェックリスト、相続登記義務化との違い、典型的な失敗パターンまでを、現場視点で詳しく整理します。
2026年4月施行・住所等変更登記義務化の概要
所有者不明土地問題の対策として、2021年に成立した改正不動産登記法のうち、最後に施行されたのが住所等変更登記の義務化です。相続登記義務化(2024年4月施行)に続く第二弾で、生前の住所変更・氏名変更も対象となるため、影響範囲はむしろ広いと言えます。
押さえるべき3つのキーポイント
- 義務発生時点:所有権登記名義人が住所・氏名・名称を変更した日
- 申請期限:変更日から2年以内に変更登記を申請する
- 違反時のペナルティ:正当な理由なく怠った場合、5万円以下の過料
この義務は個人・法人いずれも対象です。法人の場合、商号変更・本店移転を行った場合に登記簿の所有者欄を更新しなければなりません。地方の中小不動産会社で「親会社の合併で商号が変わったが、所有不動産の登記簿は旧商号のまま」というケースは少なくありません。これも当然対象になります。
なぜ義務化されたのか — 所有者不明土地問題
国土交通省の推計では、所有者不明土地は2016年時点で日本国土の約20%、九州本島より広い面積に上るとされてきました。所有者の追跡コストが膨大になり、公共事業・防災・空き家対策のあらゆる場面で支障が出ます。所有者不明の主因は以下の2つです。
- 相続登記が放置され、世代交代で連絡が取れなくなる
- 住所変更登記がされず、登記簿上の住所と実住所が乖離する
2024年4月施行の相続登記義務化では(1)を解決し、2026年4月の住所等変更登記義務化では(2)を解決する、という二段構えになっています。
住所変更を職権で更新する制度(検索情報申出)
義務化と同時に、所有者の住所変更情報を法務局が他の公的データから取得できる仕組みも整備されました。具体的には、所有権登記名義人があらかじめ「検索用情報」(生年月日や住所等)を法務局に届け出ておくと、住基ネットや商業登記情報と連携し、住所変更があった場合に法務局が職権で登記を更新します。これは個人の所有者にとって便利な仕組みですが、申出をしておかないと自動更新されないため、引き続き手動で2年以内の変更登記が必要になります。
相続登記義務化との違い — 数字で押さえる
多くのオーナーが「相続登記はもう済ませた」と言いますが、住所等変更登記とは別物です。期限・対象・罰則を比較表で整理します。
| 項目 | 相続登記義務化 | 住所等変更登記義務化 |
|---|---|---|
| 施行日 | 2024年4月1日 | 2026年4月1日 |
| 対象事由 | 相続による所有権取得 | 所有者の住所・氏名・名称の変更 |
| 申請期限 | 取得を知った日から3年以内 | 変更日から2年以内 |
| 過料 | 10万円以下 | 5万円以下 |
| 遡及適用 | あり(施行前の相続も対象) | あり(施行前の住所変更も対象、経過措置あり) |
| 救済制度 | 相続人申告登記 | 検索用情報申出による職権更新 |
遡及適用がある点が重要です。2026年4月1日より前に住所が変わっていた所有者も、施行から2年以内(2028年4月1日まで)に変更登記を申請する必要があります。「うちは10年前に住所変わったけど登記直してない」というオーナーも例外ではなく、むしろ最初の駆け込みターゲットになります。
中小不動産会社・賃貸管理会社が直面する5つの実務影響
「これは法務局の話でうちは関係ない」と思っているなら危険です。賃貸管理・売買仲介の現場では、施行直後の数か月で以下の5つの局面が同時多発します。
影響 1:オーナーからの問い合わせ急増
テレビ・新聞報道で「過料5万円」というキーワードが流れた瞬間、所有者向け窓口に「うちは大丈夫?」という問い合わせが集中します。相続登記義務化のときも、施行直後の3か月で問い合わせ件数が普段の3〜5倍に増えた管理会社が複数ありました。中小管理会社にとっては営業時間が問い合わせ対応に圧迫される事態が容易に予想されます。
影響 2:管理委託契約・賃貸借契約の所有者表示と登記簿のズレ
多くの賃貸借契約書には「貸主」として登記簿上の所有者の氏名・住所が記載されています。所有者の住所変更が登記に反映されていない場合、契約書の住所と登記簿の住所が一致しない状態が発生します。これは契約自体の有効性に影響することは稀ですが、敷金返還訴訟・滞納回収訴訟・抵当権設定など法的場面で「本人特定」に余計な労力を要します。管理会社の善管注意義務として、施行を機に所有者情報の最新化を進めるのが賢明です。
影響 3:売買仲介時の「変更登記前置」
所有者が住所変更を済ませていない物件を売却するときは、所有権移転登記の前提として住所変更登記が必要になります。これは義務化前から実務上必要だった手続きですが、義務化を契機に「住所変更が放置されている物件」が一気に表面化します。仲介時の登記費用見積もりに「住所変更登記分」を必ず含める運用へシフトする必要があります。
影響 4:法人オーナーの本店移転・商号変更フォロー
法人オーナー(資産管理会社・地主の同族会社)は、商号変更や本店移転をしても所有不動産の登記を後回しにするケースが多発しています。施行前に、自社の管理する法人物件をリストアップし、登記簿の本店住所と現在の本店住所が一致しているかを必ず確認しましょう。
影響 5:賃貸契約の連帯保証人・敷金返還先の住所更新
義務化の対象は「所有権登記名義人」ですが、賃貸現場ではついでに「連帯保証人の住所変更通知」「退去時の敷金返還先口座の確認」といった周辺対応も活発になります。「住所変えた人は管理会社に教えてね」という啓発キャンペーンを義務化を入口に展開すれば、入居者・保証人情報の鮮度を上げる絶好の機会になります。
今すぐ着手すべき7つの実務対応
ここからが本記事の核心です。施行直後に管理会社・仲介会社が取るべき7つの実務対応を、優先度順に整理します。
対応 1:管理する全オーナーの登記簿住所を棚卸しする(最優先)
まずは自社が管理している全物件のオーナーについて、登記簿に記載されている住所と、契約書・台帳・連絡先に記録されている住所が一致しているかを全件チェックします。私の自社では210室分の登記簿を発行(オンライン申請なら1通334円)し、Excelで突合した結果、登記住所と現住所が異なるオーナーが約12%いました。地方の地主、資産管理会社オーナー、海外居住オーナーで特に乖離が多い傾向です。
対応 2:オーナー全員に案内文を送付する
棚卸し結果に基づき、ズレのあるオーナーには個別に案内文を、それ以外のオーナーにも「制度開始のお知らせ」として一斉案内を送ります。書面+メール+LINE(登録あれば)の3経路を使うのが基本です。実例の文例は「オーナー向け案内文テンプレ」で後述します。
対応 3:司法書士の事前提携・紹介ルートを確保する
オーナーから「変更登記を頼みたい」という相談が来たとき、その場で司法書士を紹介できる体制が理想です。提携司法書士に料金表(変更登記1件あたり1〜2万円が相場)を確認し、紹介手数料・キックバックの有無も整理しておきます。紹介体制を整えるだけで、オーナーの信頼度が大きく上がります。
対応 4:法人オーナー向けの本店移転・商号変更チェックを実施する
個人オーナーよりも法人オーナーの方が見落としが多いため、別口でフォローします。商業登記情報(オンライン300円)を取得し、所有不動産登記の本店住所・商号と突合します。気づきベースで進めると漏れるため、法人オーナー全社に対して同じ確認手順を回すのがコツです。
対応 5:管理委託契約書・賃貸借契約書の住所欄表記をルール化する
新規契約・更新契約のタイミングで、登記簿住所を優先表記するか、現住所と登記住所を併記するかをルール化します。私の会社では「貸主住所:(登記簿住所)/連絡先住所:(現住所)」という併記方式を採用しています。これだと住所変更が登記に反映されていない期間でも、契約書面と登記簿の整合性が保ちやすくなります。
対応 6:オーナー向け説明会・ウェビナーを企画する
1対1で個別案内するのは負荷が大きいため、30分〜1時間のオーナー向け説明会を月1回ペースで開催すると効率的です。アジェンダは「制度の概要15分/うちの物件の状況10分/よくある質問10分/個別質問15分」が基本構成。会場でも、Zoomでも、参加できなければ録画配布でも構いません。説明会経由で取得した連絡を「個別相談予約」へ繋げる導線にすると、リピート提案の起点になります。
対応 7:自社の保有物件・社宅・本店登記を点検する
管理対象の他に、自社が所有する物件(賃貸事業用・社宅・本店)も登記簿住所が現在の本店と一致しているかを確認します。不動産会社が自身の登記を放置していると、士業からの信頼に直結します。施行直後の3か月以内に、自社分の点検を完了させましょう。
オーナー向け案内文テンプレートと説明スクリプト
実際にオーナーに送付する案内文の文例を共有します。書面・メール共通で使える内容にしてあります。
▼ オーナー向け案内文テンプレ(標準)
件名:【重要】住所等変更登記の義務化(2026年4月施行)について 平素より大変お世話になっております。○○不動産・賃貸管理担当の○○です。 2026年4月1日より、不動産登記法の改正で「住所等変更登記の義務化」が始まりました。 所有者の住所・氏名・名称が変わった場合、変更日から2年以内に変更登記を申請しないと、5万円以下の過料の対象となります。 弊社では、管理を承っているオーナー様の登記住所と現住所の整合確認を進めております。お手数をおかけしますが、下記についてご教示いただけますと幸いです。 【ご確認事項】 (1)登記簿上のご住所から、引越し・本店移転がございましたか (2)ご結婚・改姓・商号変更がございましたか (3)2026年4月以降、変更予定がございますか 「該当あり」の場合、お付き合いのある司法書士をご紹介できます。費用は1件あたり1〜2万円程度が相場です。 ご連絡お待ちしております。
個別に電話・対面で説明する場合は、以下のスクリプトを土台にしてください。
▼ 電話・対面の説明スクリプト
「○○様、いつもお世話になっております。今日は不動産登記の義務化のお話で、5分だけお時間いただけますでしょうか。 実は4月から法律が変わりまして、所有者の住所が変わった場合、2年以内に登記を直さないと過料がかかる可能性があります。○○様のご所有物件の登記簿を確認させていただいたところ、現在の登記住所が ○○ になっています。これは現住所とお間違いないでしょうか。 (一致している場合) → 「ありがとうございます。今後ご住所が変わったときは、ご一報ください。提携の司法書士もご紹介できます」 (一致していない場合) → 「ありがとうございます。お手続きが必要かもしれません。提携の司法書士をご紹介できますし、費用も1〜2万円程度ですので、ご希望でしたら段取りいたします」」
既存物件ファイル棚卸しチェックリスト10項目
管理する全物件・全オーナーについて、以下の10項目をExcelで一覧化することから始めます。私の会社では「コラム棚卸シート」と呼んでおり、四半期ごとに更新する仕組みを作りました。
所有者情報・登記情報 棚卸しチェックリスト10項目
- 1. 物件名・所在地
- 2. 所有権登記名義人(個人・法人区分)
- 3. 登記簿上の住所
- 4. 弊社の管理台帳上の住所
- 5. オーナーの現住所(最新ヒアリング)
- 6. 3〜5の整合性 ◯/△/×
- 7. 法人の場合:商号・本店住所の整合性
- 8. 直近の住所・氏名・商号変更の有無と時期
- 9. 検索用情報申出済みかどうか
- 10. 司法書士紹介・対応状況メモ
このうち6番(整合性)が「△」「×」のオーナーから優先的にコンタクトを取ります。「◯」のオーナーには、検索用情報申出(9番)を案内する形で接点を作るのが現実的です。
典型的な失敗パターン3つと回避策
失敗パターン 1:「告知だけして終わり」になる
「制度のお知らせ」を一斉送信して終わるパターンです。オーナーの大半は「自分には関係ない」と思って読み流します。個別の登記簿確認結果を添えて連絡することで、初めて「自分ごと」になります。一斉送信+個別連絡の二段構えが必須です。
失敗パターン 2:司法書士紹介後の追跡をしない
「司法書士を紹介したら終わり」では、オーナーが手続きを完了したかわかりません。紹介から2週間後・1か月後・3か月後にフォロー連絡を入れる仕組みを台帳に組み込みます。完了確認を取って初めて、管理会社としての責任を果たしたと言えます。
失敗パターン 3:自社の登記を後回しにする
オーナーには案内するのに、自社の本店移転や代表取締役の住所変更を後回しにしている管理会社をしばしば見ます。これは士業や提携先からの信頼を確実に下げます。「まず自社、それからオーナー」の順で進めるのが鉄則です。
90日ロードマップ — 中小管理会社向け実装計画
住所等変更登記義務化対応 90日ロードマップ
- 1〜30日目:自社所有・自社本店登記の点検 → 司法書士提携 → 棚卸シート設計 → 全管理オーナーの登記簿取得開始
- 31〜60日目:登記住所と管理台帳住所の突合 → ズレありオーナーへ個別連絡 → ズレなしオーナーへ一斉案内 → 法人オーナーの本店登記突合
- 61〜90日目:オーナー説明会開催(月1回) → 司法書士紹介・対応状況の追跡 → 検索用情報申出の案内 → 棚卸シートの完成度100%へ
90日で実装完了が理想ですが、管理戸数が500戸を超える会社では120〜150日かけても問題ありません。重要なのは定例化で、四半期ごとに棚卸しを更新する運用に乗せることです。
よくある質問 5問と現場の回答
Q1. 「2年以内」は厳格に運用されるのですか?
A. 過料は法務局の運用に委ねられており、即座に5万円が課されるわけではありません。一般的には登記官からの催告(書面で「○○月までに登記してください」)があり、それを正当な理由なく無視した場合に過料相当事件として裁判所に通知される流れです。ただし、「催告が来てから動けばいい」と考えるのは危険で、催告から手続き完了まで数週間〜数か月かかるため、催告前に対応するのが基本です。
Q2. 検索用情報申出をすれば、変更登記は不要ですか?
A. 個人の所有者については、法務局が住基ネット情報をもとに住所変更を職権で更新します。ただし職権更新までにタイムラグがあるため、急ぎで売買予定がある場合や法務局からの催告に間に合わせる必要がある場合は、自分で変更登記を申請する方が確実です。法人の所有者については、検索用情報申出による職権更新の対象範囲が個人ほど広くないため、法人物件は自主的な変更登記を基本とした方が安全です。
Q3. 海外に居住しているオーナーはどうすればいいですか?
A. 海外居住者でも義務の対象です。住民票を抜いて海外に転出した場合、日本での住民登録上の住所は除票となり、登記住所と一致しなくなります。在留証明書(在外公館で発行)と署名証明書(パスポートや本人確認資料)を揃えて変更登記を申請する流れです。手続きが複雑なため、国際業務に対応した司法書士への紹介が望ましく、紹介費用も1〜2万円ではなく3〜5万円ほどになる場合があります。
Q4. 「結婚で姓が変わった」のもこの義務の対象ですか?
A. はい、氏名変更も対象です。婚姻・離婚・養子縁組などで氏名が変わった場合、2年以内に変更登記を申請しなければなりません。手続きには戸籍謄本・住民票(または戸籍の附票)が必要です。氏名変更と住所変更を同時に行う場合は1件の申請で済むことが多く、登録免許税は不動産1個につき1,000円が原則ですが、申請書の組み方は司法書士に確認するのが安全です。
Q5. 管理会社が代行で変更登記を申請することはできますか?
A. 司法書士または弁護士の資格がない者が、報酬を得て他人の登記申請を代理することは司法書士法違反となります。管理会社が報酬を取らずに「使者」としてオーナーから預かった申請書を法務局に届けるのは可能ですが、書類作成・押印代理・代理人欄記入などをすると違反になります。実務上は、提携司法書士を紹介し、オーナーと司法書士の直接契約とするのが一般的です。なお、自社所有物件の変更登記は本人申請として可能です。
まとめ — 「義務化」を顧客接点強化のチャンスに変える
住所等変更登記の義務化は、表面的には「面倒な事務手続き」に見えますが、視点を変えればオーナーとの定期的な接点を作り直す絶好の機会です。普段はリーシングや家賃送金のやり取りしかしていないオーナーに、「制度のお知らせ」を口実に直接連絡し、登記の状況を一緒に確認することで、信頼関係が一段深まります。
私の会社では施行前の3か月で全オーナーに棚卸し連絡を入れた結果、新規の管理委託相談が3件・売却相談が2件発生しました。「うちの方も見直したいから」「他社管理だけど登記が古いって聞いたから相談したくて」という形で、義務化が営業のドアノックになったわけです。
2026〜2028年は「住所変更登記の駆け込み2年間」になります。施行直後の今、行動した管理会社が一番得をする局面です。本記事のチェックリストを土台に、自社の棚卸しを今すぐ始めてください。
著者から一言:私は宅建士として10年以上、賃貸管理・売買仲介の現場に立ってきました。相続登記義務化(2024年施行)のときも、施行前後でオーナー対応に追われた経験があります。今回の住所等変更登記義務化は、施行範囲がさらに広く、対応しないオーナーも倍以上いると感じています。
私が ウルスタ で日々「中小不動産会社の業務効率化」を考えるのは、こうした義務化対応のような新しい実務を、現場の担当者が無理なく回せる仕組みに乗せたいからです。「登記簿住所と管理台帳住所のズレを自動検出するアラート」「オーナー向け案内文の自動生成」「司法書士紹介の進捗管理」――こうした機能を統合管理で進めたい方は、ウルスタ の機能紹介ページ もぜひご覧ください。


