不動産会社の業務改善 読了 21分

事業承継税制の計画期限は延びたが贈与と相続の期限は延びていない|資産保有型会社・事業実態要件・宅建業免許は承継されない——中小不動産会社の承継逆算スケジュール

計画の提出期限が延びた、という話だけが伝わっています。延びていないのは、贈与と相続そのものの期限です。しかも不動産会社は、業種の性格上この制度から外れやすい。宅建業の免許が承継されないことも含め、いま逆算しておくべき順番を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
事業承継税制の計画期限は延びたが贈与と相続の期限は延びていない|資産保有型会社・事業実態要件・宅建業免許は承継されない——中小不動産会社の承継逆算スケジュール
目次

事業承継税制の計画の提出期限が延びました、という話が業界紙をにぎわせています。けれども、延びていないものがあります。贈与と相続そのものの期限です。令和8年度の税制改正で、法人版事業承継税制の特例承継計画の提出期限は2027年9月30日まで延長されました。一方で、特例措置の対象となる贈与および相続は2027年12月31日までという線が動いていません。計画を出せる期間は延びたのに、実行の締切は延びていない。この二つを同じものだと思って構えていると、計画は間に合ったが贈与が間に合わなかった、という最悪の形になります。本記事では、ウルスタ代表として中小の不動産会社の実務に関わる立場から、この制度が不動産会社にとって使えるのか使えないのかという業種固有の判定と、宅地建物取引業の免許が承継されないという見落とされがちな論点を、逆算の順番で整理します。

なぜ、承継の話を夏のうちに始めるのか

賃貸の現場は、夏がいちばん静かです。3月の繁忙期は終わり、9月の秋需要はまだ来ていない。この時期にしか、腰を据えて数字と向き合う時間は取れません。そして今年の夏には、例年にない事情が重なっています。

帝国データバンクが2025年に公表した全国の調査では、不動産業の後継者不在率は51.1パーセントとされています。二社に一社は、次を継ぐ人が決まっていない。宅地建物取引業は代表者の人格に依存する部分が大きく、免許も専任の宅地建物取引士も、代表個人と結びついて運用されてきた会社が少なくありません。その状態のまま代表が倒れると、会社は動かなくなります。

そこに、税制の期限が重なります。特例措置の対象になる贈与と相続は2027年12月31日まで。株価の算定、認定の申請、贈与契約と登記、そして納税猶予の手続き。逆算すると、動き出しの適期はもう来ています

【要点】延びたものと、延びていないもの

この記事の結論を先に置きます。延びたのは計画の提出期限だけです。実行の期限は動いていません。そして、不動産会社の多くはそもそもこの制度の対象から外れる可能性があります。まず外れるかどうかを確かめてから、期限の話に進んでください。
項目内容実務での意味
特例承継計画の提出期限2027年9月30日まで延長。法人版について令和8年度の税制改正で措置計画づくりに時間の余裕ができた。ただし余裕は計画の側だけ
贈与・相続の適用期限2027年12月31日のまま。延長されていない実行の締切は変わらない。ここが本記事の主眼
計画と実行の間隔最短で3か月弱しかない設計になりうる計画を期限ぎりぎりに出すと、贈与の実務が押し出される
対象になる会社資産保有型会社および資産運用型会社は原則として対象外不動産会社はここに引っかかりやすい。最初に判定する
宅地建物取引業の免許承継されない。合併による解散および個人業者の死亡で失効する税の話とは別に、免許の段取りが要る

事業承継税制は三つの段でできている

制度の名前は聞いたことがあっても、手続きの形を正確に把握している経営者は多くありません。大きく三つの段があります。

第一段——特例承継計画を出す

後継者を誰にするか、承継後の経営をどうするかを書いた計画を、認定経営革新等支援機関の所見を付けて都道府県知事に提出します。ここでいう支援機関は、多くの場合は顧問の税理士事務所や金融機関です。この提出の期限が2027年9月30日まで延びました。

第二段——贈与または相続を実行し、認定を受ける

実際に自社株を後継者へ渡します。この贈与または相続が2027年12月31日までに行われている必要があります。そのうえで都道府県知事の認定を受け、税務署へ申告します。ここが今回のいちばんの要点です。計画の期限だけを覚えて安心していると、この段で落ちます。

第三段——猶予を続ける

納税猶予はあくまで猶予であって、その場で税がなくなるわけではありません。承継後も報告と届出を継続し、要件を満たし続ける必要があります。途中で要件を外すと、猶予されていた税額と利子税をまとめて納めることになります。ここを理解せずに入ると、後年に資金繰りの事故が起きます。

猶予は、走り続けることを前提にした制度です。会社を畳む、株を第三者へ売る、後継者が退任する。こうした将来の可能性が高い会社では、猶予を選ばずに素直に納税したほうが結果的に軽く済むこともあります。制度を使うことが目的化しないよう、入口で必ず比較してください。

不動産会社が最初にぶつかる壁——資産保有型会社と資産運用型会社

ここからが、不動産会社に固有の話です。事業承継税制には、資産の器になっているだけの会社を対象から外すという考え方があります。該当すると原則として使えません。

区分判定のものさし不動産会社での典型
資産保有型会社特定資産の額が総資産の額の70パーセント以上自社所有の賃貸物件と現預金が資産の大半を占める会社
資産運用型会社特定資産の運用収入が総収入金額の75パーセント以上売上のほとんどが自社物件の賃料収入という会社
特定資産に含まれるもの有価証券、自ら使用していない不動産、現預金など自社で使っていない賃貸用不動産はここに入る
該当した場合原則として特例措置の対象外ただし事業実態要件を満たせば、該当しないものとして扱われる

仲介と管理を主業にしている宅建業者であれば、売上の中心は仲介手数料と管理報酬です。この場合は資産運用型会社の判定にはかかりにくい。問題は、管理会社と資産保有会社が同じ法人に同居しているケースです。先代が買い集めた賃貸物件を会社名義で持ち、その賃料が売上の大半を占めている。中小の不動産会社では珍しくない形ですが、この形はまっすぐ資産運用型会社の判定に向かいます。

壁を越えるための事業実態要件、その三つ

ただし、逃げ道が用意されています。資産保有型会社または資産運用型会社に当たっても、次の三つをすべて満たせば、該当しないものとして扱われます。事業実態要件と呼ばれます。

要件不動産会社での確認どころ
常時使用する従業員が5人以上。後継者と生計を一にする親族は除いて数える家族経営の会社ではここが最大の関門。次章で詳述
事務所、店舗、工場その他これらに類する施設を所有または賃借している店舗を構えていれば通常は満たす。自宅兼事務所は要確認
贈与または相続の日まで引き続き3年以上、その事業を行っている承継のために新設した法人では満たせない

三つのうち、二番目と三番目は事業をしている会社ならたいてい満たします。実務上のボトルネックは、ほぼ一番目に集中します

従業員5人をどう数えるか

ここでいう常時使用する従業員は、頭数ではありません。実務上は厚生年金保険および健康保険の被保険者であることが数える基準とされています。つまり社会保険に入っている人だけが数えられます。

そして後継者と生計を一にする親族は除かれます。社長の配偶者が経理をしている、長男が営業をしている、といった構成は不動産会社では非常に多いのですが、後継者を長男に据えるなら、その長男と生計を一にする親族は頭数から抜けます。実質的に数えられるのは、外部から雇っている社員だけということになりかねません。

ここで2026年10月の社会保険の適用拡大が効いてきます。短時間労働者の加入要件から月額8.8万円という賃金要件が外れるため、これまで社会保険の外にいたパートの方が被保険者になる可能性があります。承継の観点からは、これは追い風になりうる話です。ただし企業規模要件がありますから、自動的に全員が対象になるわけではありません。加入判定の構造は別記事で詳しく扱っています。

宅地建物取引業の免許は、承継されない

税の議論に気を取られていると、いちばん足元の論点を落とします。宅地建物取引業の免許は、相続でも合併でも承継されません。株を渡す話と、免許を続ける話は、まったく別の手続きです。

場面免許はどうなるか必要な手続き
法人の代表者が交代する失効しない。法人が免許権者だから役員の変更届。専任の宅地建物取引士の異動があればその届出も
個人業者が亡くなった死亡の時点で失効相続人が、死亡を知った日から30日以内に廃業等の届出。事業を続けるなら新規で免許を取り直す
合併により法人が解散した解散の時点で失効消滅する法人の代表役員だった者が30日以内に届出。存続法人の免許で営業する
廃業、合併以外の解散、破産届出をした時点で失効それぞれ定められた者が30日以内に届出

表のいちばん上の行が、実務で最も重要です。法人化してあれば、代表者が交代しても免許は続きます。逆に個人事業のまま高齢の代表が営業しているなら、その方が亡くなった瞬間に免許が消えます。承継を考えるなら、法人成りは税の話ではなく免許の継続性の話として検討する価値があります

なお、免許が失効しても、すでに締結した契約を結了させる目的の範囲では、宅地建物取引業者とみなされます。進行中の売買や媒介がその日で無に帰すわけではありません。ただし新規の受注はできません。仕掛かりの案件がある状態で失効すると、現場は相当に混乱します。

賃貸住宅管理業の登録と業務管理者

管理戸数が一定以上あって賃貸住宅管理業の登録を受けている会社は、もう一つの登録を並行して管理する必要があります。登録は5年ごとの更新であり、こちらも会社に紐づく行政上の地位です。代表者や役員が変わった場合の変更の届出、営業所または事務所ごとに置く業務管理者の要件、これらを承継の工程表に必ず載せてください。

業務管理者の要件を、退任する先代個人が満たしていたという会社は要注意です。先代が抜けた瞬間に、営業所に業務管理者がいない状態が生まれます。後継者側で資格と講習の要件を先に整えておく必要があります。

専任の宅地建物取引士という、もう一つの制約

宅地建物取引業では、事務所ごとに業務に従事する者の5人に1人以上の割合で、専任の宅地建物取引士を置かなければなりません。中小の会社では、代表者本人が専任の宅地建物取引士を兼ねている構成がよくあります。

代表が引退して事務所から離れると、この割合が崩れます。専任性は、その事務所に常勤して専ら業務に従事していることを求めるものですから、名前だけ残す運用はできません。承継の日程を決める前に、後継者側で誰が専任になるのかを確定させ、必要なら試験と登録の時間を逆算しておく必要があります。試験は年に一度しかありません。ここは一年単位で効いてくる制約です。

承継先の三つの選択肢と、それぞれの詰まり方

選択肢向いている会社詰まりやすい点
親族内承継後継者が社内にいて、既に実務を担っている事業実態要件の従業員5人が、親族除外で足りなくなる。他の相続人との調整
従業員承継番頭格の社員がいる。取引先も顔を知っている株の買取り資金。個人保証の引継ぎ。金融機関の同意
第三者への譲渡後継者が社内にいない。管理戸数という資産がある免許と登録の切替。オーナーへの説明。管理受託契約の承継の可否

第三者への譲渡を選ぶ場合、株式譲渡なら法人格が変わらないので免許は続きます。事業譲渡の形にすると、免許も登録も管理受託契約も個別に組み替えることになり、実務の負担が跳ね上がります。どちらの形を採るかで、必要な手続きの量が桁で変わります。

また、個人保証の問題を忘れないでください。先代の個人保証が残ったまま代表だけ交代すると、退いた後も先代が債務を背負い続けます。経営者保証に関するガイドラインの枠組みで、金融機関と保証の解除を交渉する時間を工程に入れておいてください。

2027年12月から逆算した工程表

時期やること落とすと起きること
2026年夏資産保有型・資産運用型の判定と事業実態要件の自己点検。後継者の意思確認そもそも制度が使えないことに、直前で気づく
2026年秋から冬自社株の評価。免許と登録と専任者の現況整理。金融機関へ初回相談株価の見込みが立たず、贈与の規模を決められない
2027年前半特例承継計画の作成。支援機関の所見取得。個人保証の解除交渉計画づくりが年後半に押し出される
2027年9月30日特例承継計画の提出期限特例措置の入口を失う
2027年12月31日贈与または相続の実行期限計画を出していても特例措置に乗れない
2028年以降認定申請、申告、継続届出と年次報告猶予の取消しと、利子税を含む一括納付
制度の解説ではなく、自社の順番に落とす。承継は税、免許、登録、人、資金の五つが同時に動きます。どれか一つが遅れると全部が止まります。中小の不動産会社が制度を段取りに翻訳するための記事を、ウルスタで継続して公開しています。詳しくは ulsta.jp をご覧ください。

つまずきやすい落とし穴

計画の提出期限と実行の期限を混同する。本記事の主題です。2027年9月30日は計画、2027年12月31日は贈与と相続。並べて壁に貼っておくくらいでちょうどよいと思います。

資産保有型の判定を、決算書を見ずに感覚で済ませる。自社所有の賃貸物件がある会社は、必ず数字で確かめてください。売却直後で現預金が膨らんでいる期には、思わぬ形で70パーセントを超えることがあります。

従業員5人を、社会保険の加入状況を見ずに数える。名簿上は7人いても、被保険者が3人しかいなければ足りません。しかも後継者と生計を一にする親族は除きます。

免許と登録を、税理士に任せたつもりでいる。免許と登録は行政書士および都道府県の担当課の領域です。税の側で完璧に組んでも、免許が切れれば営業できません。

猶予を、免除だと思って入る。猶予は継続要件と報告義務を伴う長い関係です。将来の売却や廃業の可能性が高いなら、入らない判断も合理的です。

制度の理解で慎重に扱う点

期限と要件の細部は、必ず一次情報で確認してください。特例承継計画の提出期限の延長は令和8年度の税制改正によるものですが、対象となる制度の範囲や手続きの細目は、中小企業庁および国税庁の公表資料で確かめる必要があります。本記事は全体像の整理であり、個別の適用可否を保証するものではありません。

個人版の事業承継税制は別の制度です。個人事業者向けには個人版事業承継税制があり、計画の名称も期限も法人版とは別に定められています。本記事は法人版を前提に書いています。個人事業のまま宅地建物取引業を営んでいる方は、法人版の話をそのまま当てはめないでください。

資産保有型会社の判定は、期末だけの話ではありません。判定の時期や対象期間には決まりがあり、一時点の決算書だけで結論を出すことはできません。顧問税理士に、判定の対象となる期間を明示したうえで見てもらってください。

株価の算定と税額の試算は、税理士の職域です。本記事では具体的な金額も税率も示していません。自社株の評価は会社の規模区分や業種区分で方法が変わり、不動産の保有割合が高い会社には固有の論点もあります。概算であっても、社内の見立てで動かないでください。

免許と登録の手続きの詳細は、免許権者に確認してください。届出の様式や添付書類は都道府県によって運用に差があります。本記事に書いた30日という期間は法定のものですが、実際の書類は事前に窓口へ確認するのが確実です。

よくある質問

計画さえ出しておけば、贈与は後からゆっくりでよいのですか

いいえ。特例措置の対象となる贈与と相続は2027年12月31日までです。計画の提出期限が延びたことと、実行の期限は別です。むしろ計画を遅く出すほど、実行までの時間が短くなります。

自社ビルを持っていると、もう使えないのでしょうか

自ら使用している不動産は特定資産に含まれません。問題になるのは自ら使用していない賃貸用の不動産です。自社が事務所として使っているフロアと、賃貸に出しているフロアでは扱いが違います。ここは決算書ではなく、物件ごとの使用実態で整理する必要があります。

従業員が4人しかいません。承継のために雇えばよいですか

数合わせのためだけの雇用はおすすめしません。人件費は毎年発生する固定費であり、猶予を続ける限り要件も見続けることになります。制度に合わせて会社を歪めるより、制度を使わない前提で税額を試算し、比較したうえで決めてください

先代が亡くなってから考えても間に合いますか

相続でも特例措置は使えますが、個人業者であれば免許はその時点で失効します。法人であっても、専任の宅地建物取引士や業務管理者が先代だった場合、体制がその日から欠けます。相続後に整えるのは、平時に整えるより何倍も難しくなります。

後継者がいません。何から始めればよいですか

まず管理受託契約と管理戸数を、外から見える形に整理することです。第三者への譲渡を検討する場合でも、管理の実態が属人的なままでは評価されません。オーナーとの契約書、更新の履歴、入居者情報、これらが揃っている会社は選択肢が広がります。

今週からやることリスト

やること誰が目安
直近3期の決算書で、特定資産の割合と運用収入の割合をざっと出す代表と顧問税理士1週間
社会保険の被保険者名簿を出し、後継者と生計を一にする親族を除いて数える総務2日
免許証と登録の有効期間、専任の宅地建物取引士と業務管理者の氏名を一枚にまとめる総務2日
先代の個人保証が付いている借入を、金融機関ごとに洗い出す代表1週間
後継者候補と、承継の意思について一度きちんと話す代表今月中
顧問税理士に、特例措置を使う場合と使わない場合の比較を依頼する代表今四半期

承継は、決めることが多いから先延ばしになります。けれども先延ばしにできる期間には、今回はっきりと終わりが書かれています。まずは決算書と名簿を出すところから、この夏に始めてください。

執筆にあたって

私は宅地建物取引士として、中小の不動産会社の実務に関わっています。承継の相談を受けるとき、税の話から入る方がほとんどですが、実際に会社を止めるのは免許と人の側であることが多い、というのが現場での実感です。本記事は制度の全体像と社内の段取りの整理であり、個別の適用可否、株価の算定、税額の試算については税理士に、免許および登録の手続きについては行政書士および免許権者にご確認ください。記載は2026年7月時点の公開情報と自社の実務に基づいています。

本記事で参照した制度の要点
  • 法人版事業承継税制の特例措置について、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されたこと。令和8年度の税制改正による措置。
  • 特例措置の対象となる贈与および相続の期限は2027年12月31日であり、延長されていないこと。
  • 資産保有型会社は特定資産の額が総資産の70パーセント以上、資産運用型会社は特定資産の運用収入が総収入金額の75パーセント以上であること。
  • 事業実態要件は、常時使用する従業員が5人以上であること、事務所等を所有または賃借していること、3年以上継続して事業を行っていることの三つ。
  • 宅地建物取引業法における廃業等の届出。合併による解散および個人業者の死亡ではその時点で免許が失効し、30日以内の届出が必要であること。既に締結した契約を結了する目的の範囲では宅地建物取引業者とみなされること。
  • 不動産業の後継者不在率は51.1パーセント。帝国データバンクによる2025年の全国調査。