制度・法改正 読了 17分

カスタマーハラスメント対策が2026年10月1日に義務化|改正労働施策総合推進法33条と厚労省指針を、賃貸管理の入居者・オーナー対応に落とす

改正労働施策総合推進法33条の施行で、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策は事業主の義務です。指針の3要素と講ずべき措置を条文と厚生労働省の資料で確かめ、入居者・オーナー・近隣住民・協力会社への対応手順の例に落とします。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
カスタマーハラスメント対策の義務化2026|賃貸管理会社の入居者・オーナー対応
目次

2026年10月1日から、労働者を雇う事業主は、顧客等による「社会通念上許容される範囲を超えた言動」から従業員を守るための雇用管理上の措置を講じることが義務になりました。根拠は改正後の労働施策総合推進法33条と、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)です。入居者・オーナー・近隣住民・協力会社と毎日やり取りする賃貸管理会社は、方針の明文化、対処の手順、相談窓口、記録の4つから整えるのが出発点です。

何が変わったか:条文で確認する

根拠となる改正法は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)です。厚生労働省のページによると、公布は令和7年6月11日、カスタマーハラスメント対策の部分は令和8年(2026年)10月1日に施行されました。

中心になるのは改正後の労働施策総合推進法33条1項です。事業主は、職場で行われる「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動」であって、労働者の業務の性質などに照らして「社会通念上許容される範囲を超えたもの」によって就業環境が害されないよう、相談に応じて適切に対応するための体制の整備、抑止のための措置、その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない、と定めています。条文に事業規模による限定はありません。

条定めていること賃貸管理会社に関係する点
33条1項顧客等言動から労働者を守る雇用管理上の措置(体制の整備、抑止の措置など)の義務入居者・オーナー・近隣住民などへの対応で、従業員を守る仕組みを持つ
33条2項相談したこと、事実確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止「担当者の対応が悪い」と決めつけて相談者を不利に扱わない
33条3項他の事業主から措置の実施に必要な協力を求められたら応じる努力義務清掃会社や修繕業者から、入居者の言動について確認を求められたときの対応
33条4項厚生労働大臣が指針を定める具体的な措置の中身は指針(告示第51号)で確認する
34条国、事業主、労働者、顧客等の責務(関心と理解、言動への注意など)自社の従業員が協力会社の作業員に強く当たらないよう注意する
35条〜38条紛争解決の特例、都道府県労働局長による助言・指導・勧告、紛争調整委員会による調停従業員が労働局に援助や調停を求めることがある
42条厚生労働大臣の助言・指導・勧告。33条1項・2項などに違反し、勧告に従わないときは公表できる措置を講じないまま勧告に従わないと、社名の公表があり得る

34条5項は、顧客等の側にも、労働者に対する言動が就業環境を害さないよう必要な注意を払う努力義務を置きました。ただし、これは努力義務です。入居者やオーナーに罰則が科される条文ではありません。義務の主な受け手は、従業員を雇っている事業主です。

カスタマーハラスメントに当たるかの判断

指針は、次の3つの要素をすべて満たすものをカスタマーハラスメントとしています。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 労働者が従事する業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

指針は、正当な苦情の申し入れはこれに当たらないと明記しています。設備の故障の指摘や、説明不足への不満は、内容が正当であれば通常の業務として受け止めるべきものです。

「範囲を超えた」かどうかの見方

指針は、言動の目的、労働者側の問題行動の有無や程度、経緯や状況、業種・業態、業務の内容、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況などを総合的に考えるとしています。そのうえで「言動の内容」と「手段や態様」の2つの面から見て、どちらか一方が範囲を超えていれば該当し得るとしています。事業主側の不適切な対応がきっかけになった場合は、その点も考慮されます。

区分指針の典型例賃貸管理で考えられる場面の例
内容が範囲を超える理由のない要求、業務と関係のない要求担当者の私的な連絡先を執拗に求める
内容が範囲を超える契約の範囲を超える要求(著しい減額要求など)契約にない工事を管理料の範囲で無償で行うよう繰り返し迫る
内容が範囲を超える対応が困難・不可能な要求、不当な損害賠償要求因果関係のない損害の賠償を担当者個人に求める
手段・態様が範囲を超える身体的な攻撃、脅迫・中傷・人格否定、SNSへの投稿のほのめかし「名前をネットにさらす」と言って要求を通そうとする
手段・態様が範囲を超える大声などの威圧的な言動、継続的・執拗な言動、居座りや電話での拘束同じ要求の電話を毎日長時間かけ続ける、店舗に居座る

右の列は、指針の類型を賃貸管理に当てはめた例です。実際に当たるかどうかは、個々の経緯を見て判断します。

「職場」と「就業環境が害される」の範囲

指針は「職場」を、労働者が業務を遂行する場所としています。通常働いている事務所以外に、顧客の自宅や取引先の事務所も含み、オンラインでの対応も対象です。厚生労働省のQ&A(問3)も、業務で訪問した顧客宅での言動が「職場」に含まれるとしています。退去立会いや修繕の立会いで入る入居者の部屋も、従業員にとっては職場です。

「就業環境が害される」は、平均的な労働者の感じ方を基準に、看過できない程度の支障が生じているかで判断します。強い苦痛を与える言動なら、1回でも該当し得るとされています。

入居者・オーナー・近隣住民は「顧客等」に入るか

33条1項は「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」と幅広く定めています。指針は例として、サービスの利用者、問い合わせをした人、取引先の担当者、施設の利用者やその家族、近隣住民を挙げています。Q&A(問1)は、今後サービスを利用する可能性がある潜在的な顧客の言動も対象になり得るとしています。

  • 入居者:管理会社が提供する管理サービスを日々受ける立場で、「事業に関係を有する者」に入ると考えられます。
  • 入居希望者・問い合わせ客:Q&A問1の潜在的な顧客に当たります。内見の案内中の言動も対象になり得ます。
  • オーナー:管理受託契約の相手方であり、「取引の相手方」に当たると考えられます。契約の範囲を超える要求は、指針の典型例そのものです。
  • 近隣住民:指針が例に挙げています。騒音やごみの苦情の窓口になる管理会社には関係が深い類型です。
  • 協力会社の担当者:取引先の担当者として例に挙がっています。

反対に、管理会社の従業員が協力会社の作業員に強い言動をとれば、自社が「顧客等」の側になります。34条2項・3項は、事業主と役員にも、他の事業主が雇う労働者への言動に注意する努力義務を置いています。指針も、方針を定める際に、他社の労働者や個人事業主に対する言動についても同じ方針を併記することが望ましいとしています。

事業主が講ずべき措置と、賃貸管理会社での準備

指針の「4 事業主が講ずべき雇用管理上の措置」を、賃貸管理会社の準備に置き換えると次のとおりです。右の列は準備の例で、指針が求める最低限の形ではありません。

指針の区分指針が求めること賃貸管理会社での準備の例
⑴イ 方針の明確化と周知カスタマーハラスメントには毅然と対応し、労働者を守る方針を明確にし、管理監督者を含む全員に周知する代表名の方針文を作り、社内掲示と社内チャットで共有する。ホームページへの掲載も検討する
⑴ロ 対処内容の周知あらかじめ定めた対処の内容を周知する(報告、1人で対応させない、録音・録画、退去を求める、警察への通報など)電話・来店・訪問ごとに「誰に報告し、どこで打ち切るか」を1枚の手順書にする
⑵イ 相談窓口相談窓口をあらかじめ定め、周知する。他のハラスメントの窓口と一体でもよいパワハラ・セクハラの窓口と同じ担当者にし、外部の窓口も選択肢にする
⑵ロ 担当者の適切な対応該当するか微妙な場合も広く相談に応じる「この程度で」と言わずに聞く。相談の記録様式を決める
⑶イ 事実関係の確認迅速かつ正確に確認する。客観的な証拠は個人情報保護法に沿って扱う通話録音、メール、LINEの履歴、立会いの記録を時系列でまとめる
⑶ロ 被害者への配慮上司が代わって対応する、行為者と引き離す、担当の変更、メンタルヘルスの相談など担当替えの判断者を決めておく。オーナー担当の交代も選択肢に入れる
⑶ハ 再発防止方針を改めて周知し、原因となった説明不足やサービスの問題も見直す。事案を記録し共有する原因が自社の説明不足なら、案内文や契約時の説明を直す
⑷ 抑止の措置特に悪質なものへの対処方針を定め、体制を整える(警察への通報、警告文、サービス提供の拒否、出入り禁止、仮処分の申立てなど)警告文の文例と、弁護士に相談する基準を決めておく
⑸イ プライバシーの保護相談者などのプライバシーを守る措置を講じ、周知する相談記録を閲覧できる人を限る
⑸ロ 不利益取扱いの禁止相談や協力、労働局への相談などを理由に不利益に扱わないことを定め、周知する就業規則や社内規程に書き、周知する

Q&Aには、小さな会社の実務に関わる回答もあります。従業員が1人の店舗でも、繰り返しの要求には退去を求める、犯罪に当たる行為は警察に通報する、本社と情報を共有するといった対処方針を定めることが適切とされています(問14)。出入り禁止は対処方針にもとづく個別の判断で、講じることが求められているものではありません(問15・問16)。既存の就業規則の規定(信用失墜行為や服務規律など)で対応できるなら、カスタマーハラスメント専用の規定は必須ではないとされています(問18)。

指針は、措置を講じる際に消費者法制や障害者差別解消法との関係に留意するよう求めています。障害の特性による言動を一律にハラスメントと扱わないよう、相談の段階で状況を確かめることが大切です。

場面ごとの手順の例

ここからは、指針の「対処内容」を賃貸管理の場面に当てはめた手順の例です。会社の人数や業務の分け方に合わせて調整してください。

電話・メッセージでの対応

  • 要求の内容を確認し、契約や規約にもとづいて説明する。説明は記録に残す。
  • 十分に説明しても同じ要求が続く場合に、どの時点で上司に引き継ぐか、通話を終えるかを手順書で決めておく。
  • 録音する場合は、利用目的を決めて、個人情報保護法に沿って扱う。
  • 脅迫に当たる発言があれば、管理監督者に直ちに報告し、警察への相談を検討する。

退去立会い・修繕立会い

入居者の部屋は従業員の職場です(Q&A問3)。対立が予想される立会いは2人で行く、上司と電話がつながる状態にしておく、身の危険を感じたら立会いを中断してよいと決めておく、といった準備が考えられます。原状回復の費用負担で意見が分かれるのは通常の交渉の範囲です。主張の内容ではなく、手段や態様が範囲を超えた場合に対処の対象になります。立会いの進め方は退去立会いのマニュアルも参考にしてください。

オーナー対応

オーナーは管理会社にとって大切な取引先です。それでも、契約にない業務を無償で求め続ける、担当者を人格否定するといった言動は、指針の典型例に当たり得ます。管理受託契約書で業務の範囲を確かめ、範囲外の業務は見積もりを出す、担当者を交代する、代表や上司が同席するといった対処を事前に決めておくと、担当者が1人で抱え込まずに済みます。

近隣住民・SNS

近隣住民は指針が例に挙げる「顧客等」です。苦情の内容が正当なら、通常の業務として対応します。一方で、SNSへの悪評の投稿をほのめかして要求を通そうとする言動は、指針が精神的な攻撃の例に挙げています。投稿を見つけた場合の確認と記録の方法も決めておくと慌てずに済みます。

協力会社・清掃員が被害を受けたとき

清掃会社や修繕業者の作業員が入居者から暴言を受けることもあります。その会社から事実確認への協力を求められたら、33条3項により応じる努力義務があります。指針は、協力を求められたことを理由に契約を解除するなど、相手の会社を不利に扱うことは望ましくないとしています。

まだ整っていない会社の着手順

施行日はすでに過ぎています。まだ整っていない場合は、次の順で進めると、指針の項目を漏れなく押さえやすくなります。

  1. 方針文を作り、全員に周知する(指針4⑴イ)。
  2. 電話・来店・訪問ごとの対処の手順を1枚にまとめ、周知する(4⑴ロ、4⑷)。
  3. 相談窓口の担当者を決め、周知する(4⑵)。
  4. 相談と事案の記録様式を決め、閲覧できる人を限る(4⑶、4⑸イ)。
  5. 就業規則に不利益取扱いの禁止と、既存の懲戒規定で対応できるかを確認する(4⑸ロ、Q&A問18)。
  6. 研修を行い、運用状況を定期的に見直す(指針6⑵は、アンケートや意見交換による見直しを望ましい取組としています)。

記録は、入居者やオーナーとのやり取りが顧客ごとにまとまっていると確認しやすくなります。ウルスタくんの顧客管理や物件・入居者の管理には、問い合わせや対応の経過を顧客・物件ごとに残しておけます。誰がいつ何を説明したかが後から追えることは、事実確認(指針4⑶イ)の土台になります。

よくある質問

Q1. 従業員が数名の小さな管理会社も対象ですか

33条1項に事業規模による限定はありません。厚生労働省のQ&A(問14)は、従業員1名の店舗でも対処方針を定めることが適切としています。

Q2. オーナーからの無理な要求もカスタマーハラスメントになりますか

オーナーは「取引の相手方」に当たると考えられます。契約の範囲を超える要求や人格否定などで、3つの要素を満たせば該当し得ます。正当な指摘や契約にもとづく要望は対象外です。

Q3. 入居者のクレームを断ってもよいのですか

正当な苦情は対象外で、通常の業務として対応します。内容は正当でも、大声で長時間拘束する、脅すといった手段や態様が範囲を超えれば、その部分は対処の対象です。

Q4. 悪質な入居者に出入り禁止や契約解除はできますか

Q&A(問15〜問17)は、出入り禁止は必須の措置ではなく、法改正で事業主に新しい権利が生まれたわけでもないとしています。賃貸借契約の解除は、この法律とは別に、契約と民事の法律の問題として弁護士に相談してください。

Q5. 措置を講じていないとどうなりますか

厚生労働大臣は助言・指導・勧告ができ、33条1項・2項に違反して勧告に従わない事業主は公表され得ます(42条)。従業員は都道府県労働局に援助(36条)や調停(37条)を求めることもできます。

Q6. 就業規則を書き換える必要はありますか

Q&A(問18)は、既存の規定で対応できるならカスタマーハラスメント専用の規定は必須ではないとしています。不利益取扱いの禁止を定めて周知することは指針の措置に含まれるため、規程のどこに書くかは確認してください。

まとめ

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策は事業主の義務です。賃貸管理会社は、入居者・オーナー・近隣住民・協力会社という幅広い「顧客等」と接します。方針、対処の手順、相談窓口、記録の4つを先に整え、正当な苦情には誠実に応じながら、範囲を超えた言動からは従業員を守る。この線引きを社内で共有することが、指針の求める体制の中心です。録音や記録の扱いは個人情報保護法の改正と顧客データ管理もあわせて確認してください。

筆者は宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士です。自社で賃貸住宅210戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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