住み替えの売り先行・買い先行は好みで選ぶものではなく、今の家のローン残高と売却の見込み、手元資金、使う税金の特例の組み合わせから選ぶものです。売り先行は資金計画が固まりやすく、買い先行は次の家を確保しやすい一方で、二重の支払いや特例の期限に注意が要ります。特に、旧居の売却で3,000万円特別控除を使うと、新居の住宅ローン控除が使えない期間があるため、売る前に確認しておく必要があります。
住み替えの3つの進め方
住み替えは「今の家を売る」と「次の家を買う」を組み合わせる取引です。どちらを先に決済するかで、資金の流れと負担が変わります。
| 進め方 | 仕組み | 主な利点 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 売り先行 | 今の家の売却を先に決め、その代金で次の家を買う | 売却額が確定してから購入額を決められる。ローンの二重払いが起きにくい | 引渡しまでに次の家が決まらないと、仮住まいと2回の引越しが必要になる |
| 買い先行 | 次の家を先に買い、今の家は後から売る | 気に入った家を逃さない。空き家にしてから売り出せる | 売れるまで旧居と新居の支払いが重なる。売却額が想定を下回ると資金計画が崩れる |
| 同時進行 | 売却と購入の決済日を同じ日か近い日に合わせる | 二重の支払いと仮住まいの両方を抑えられる | 買主・売主・金融機関の日程調整が難しい。一方が遅れると全体がずれる |
売り先行の進め方と注意点
売り先行の強みは、売却額が確定した状態で次の家の予算を組めることです。今の家にローンが残っている場合、売却代金で完済できるかどうかが先に分かります。
一方で、売買契約で決めた引渡し日までに次の家が見つからなければ、仮住まいが必要になります。対策としては、買主と合意できれば引渡し日を後ろに設定する、売買契約に引渡しの猶予を定める特約を入れる、といった方法があります。どこまで猶予できるかは買主の事情しだいなので、売り出しの段階から引渡し時期の希望を伝えておくのが現実的です。
仮住まいの家賃、2回分の引越し費用、荷物の一時保管料も、売り先行の総費用に入れて比べます。
買い先行の進め方と注意点
買い先行では、新居の代金を払った時点で旧居はまだ売れていません。旧居にローンが残っていれば、売れるまで旧居と新居の返済が重なります。
仮の数字で計算例を示します。旧居のローン返済が月8万円、新居のローン返済が月10万円、旧居が売れるまで6か月かかったとすると、その間の返済は(8万円+10万円)×6か月=108万円です。旧居の固定資産税や管理費・修繕積立金(マンションの場合)も重なります。売却期間が延びるほど負担が増えるので、売り出し価格の見直し時期を先に決めておくことが大切です。
税金の面では、旧居に住まなくなってから売るまでの期間に期限があります。3,000万円特別控除や譲渡損失の特例は、旧居に住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件の1つです(詳しくは後の節)。
購入契約に、旧居が一定の期日までに一定の価格で売れなかったときは購入契約を解除できる特約(一般に「買換え特約」と呼ばれます)を入れる方法もあります。売主が応じるかどうかは交渉しだいで、解除の条件や期日を契約書にはっきり書くことが前提です。
同時進行の進め方と注意点
同時進行は、旧居の売買契約と新居の売買契約を並行して進め、決済日を合わせる方法です。旧居の売却代金を新居の購入代金に充て、その日のうちに旧居のローンを完済して抵当権を抹消する流れが一般的です。
買主の住宅ローン審査、自分の新居のローン審査、旧居のローンの完済手続き、新居の売主の引越しなど、関係者が多いため日程の調整が鍵になります。どちらかの契約が流れたときにどうするか(もう一方の契約を解除できるか)を、契約の前に確かめておきます。
つなぎ融資・住み替えローン・買取保証の仕組み
ここでは一般的な仕組みだけを説明します。金利、手数料、融資の上限、審査の基準は金融機関や不動産会社ごとに異なるため、個別に確認してください。
| 手段 | 一般的な仕組み | 確認したい点 |
|---|---|---|
| つなぎ融資 | 新居の代金などを短期間借り、旧居の売却代金で返す融資 | 返済期限までに売れなかった場合の扱い、利息と手数料の総額 |
| 住み替えローン(買い替えローン) | 旧居のローンの残り(売却代金で返しきれない分)を新居のローンにまとめて借りる | 借入額が新居の価格を上回ることになるため、審査の条件と毎月の返済額 |
| 買取保証 | 一定期間に仲介で売れなかったとき、あらかじめ決めた価格で不動産会社が買い取る | 買取価格の水準、期間、買取の条件。仲介での売却見込み額との差 |
金利の環境も変わっています。日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.25%程度で推移するよう促す方針を決めました(7月31日の会合では1.0%程度)。変動金利で借りる場合は、返済額が将来変わり得る前提で資金計画を立てます。オーナーや顧客への説明の仕方は日銀利上げをオーナーにどう説明するかでも整理しています。
税金の特例(国税庁タックスアンサーで確認)
住み替えでは、旧居を売ったときの譲渡所得の特例と、新居の住宅ローン控除の組み合わせが問題になります。以下は国税庁タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)の内容です。適用できるかの最終判断は、税理士か税務署に確認してください。
3,000万円特別控除(No.3302)
自分が住んでいる家屋やその敷地を売ったとき、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です。主な要件は次のとおりです。
- 現に住んでいる家屋か、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売った年の前年と前々年に、この特例やマイホームの譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例を受けていないこと
- 売った年、その前年と前々年に、マイホームの買換えや交換の特例を受けていないこと
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に売ったものでないこと
- この特例を受けることだけを目的に入居した家屋、一時的な仮住まい、別荘などは対象外
適用を受けるには確定申告が必要です。
買換えで譲渡損失が出たとき(No.3370)
旧居を売って損失が出て、新居を買った場合は、損失をその年の給与所得などと損益通算し、控除しきれない分を翌年以後3年内に繰り越せる特例があります。主な要件は次のとおりです。
- 旧居の所有期間が、売った年の1月1日で5年を超えていること
- 新居を、売った年の前年1月1日から売った年の翌年12月31日までに取得すること
- 新居の床面積が50平方メートル以上であること
- 新居を取得した年の翌年12月31日までに住むこと(見込みを含む)
- 新居を取得した年の12月31日に、新居について償還期間10年以上の住宅ローンがあること
- 繰越控除は、合計所得金額が3,000万円以下の年に限られること
国税庁は、この特例と住宅ローン控除は併用できるとしています。
買換えをしない場合の譲渡損失(No.3390)
ローン残高を下回る価格で旧居を売り、損失が出た場合の特例です。新居の取得は要件ではありません。売買契約日の前日に償還期間10年以上の住宅ローンの残高があり、譲渡価額がその残高を下回っていることなどが要件で、損益通算できる額はローン残高から売却価額を差し引いた額が限度です。所有期間5年超の要件もあります。
特定のマイホームの買換え特例(No.3355)
売却益への課税を将来に繰り延べる特例です。非課税になるわけではなく、新居を将来売るときに課税されます。令和9年12月31日までの売却が対象で、所有期間10年超、居住期間10年以上、売却代金1億円以下、新居の床面積50平方メートル以上・敷地500平方メートル以下などの要件があります。売った年とその前年・前々年に3,000万円特別控除を受けていないことも要件です。
住宅ローン控除との関係(No.1211-1)
新居で住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けるには、住み始めた年とその前2年、その後3年の計6年間に、居住用財産の3,000万円特別控除、長期譲渡所得の課税の特例、特定の居住用財産の買換え・交換の特例を受けていないことが要件の1つです。控除を受ける年の12月31日まで引き続き住んでいることも共通の要件です。
| 旧居の売却で使う特例 | 新居の住宅ローン控除 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 3,000万円特別控除 | 住み始めた年と前2年・後3年に受けると、住宅ローン控除は受けられない | どちらが有利か、売却益の見込みと控除額の見込みで比べる |
| 特定のマイホームの買換え特例 | 同じく6年間の制限の対象 | 課税の繰延べであることを理解したうえで選ぶ |
| 買換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除 | 併用できる(No.3370) | 新居の10年以上のローン、床面積、入居時期の要件 |
売り先行か買い先行かで、旧居を売る年と新居に住み始める年がずれることがあります。どの年にどの特例を使うかで結果が変わるため、日程を決める前に税理士に試算を依頼するのが安全です。住宅ローン控除の制度そのものは住宅ローン控除2026の解説で詳しく扱っています。
売り先行か買い先行かを決める判断の軸
| 判断の軸 | 売り先行が向く状況 | 買い先行が向く状況 |
|---|---|---|
| 旧居のローン残高 | 売却代金で完済できるか分からない | 残高がない、または少ない |
| 手元資金 | 新居の頭金を売却代金に頼る | 二重の支払いに一定期間耐えられる |
| 旧居の売れやすさ | 売却に時間がかかりそう、価格の見通しが立たない | 需要がある地域で、価格の見通しが立ちやすい |
| 新居の条件 | 条件に幅があり、時期を待てる | 学区や立地など、逃したくない物件がある |
| 税金の特例 | 3,000万円特別控除を使う予定で、住宅ローン控除との比較が済んでいる | 住まなくなってから売るまでの期限内に売れる見込みがある |
不動産会社としての進め方の例
- 聞き取り:旧居のローン残高、手元資金、新居の希望条件、時期の希望を確認する。
- 旧居の査定と売却期間の見通しを示す。価格を下げる判断の時期も先に決める。
- 新居の資金計画を、売却額が見通しを下回った場合も含めて作る。
- 税金の特例は、どの年に何を使うかを税理士・税務署に確認してもらう。
- 契約書に、引渡し猶予や買換え特約など必要な特約を入れるかを売主・買主と調整する。
- 決済日を、金融機関と司法書士を含めて調整する。
売却と購入の書類、日程、顧客とのやり取りが1件の住み替えに集まるため、情報を1か所にまとめておくと抜けを防げます。ウルスタくんでは、顧客管理と、重要事項説明書・売買契約書などの書類作成と電子サインを使えます。
よくある質問
Q1. 売り先行だと仮住まいは避けられませんか
引渡し日を後ろに設定できる買主が見つかれば、仮住まいを避けられることがあります。引渡しの猶予を定める特約を入れる方法もありますが、買主の合意が前提です。
Q2. 買い先行で旧居を空き家にしてから売っても、3,000万円特別控除は使えますか
住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、要件の1つを満たします。ほかの要件もあるため、国税庁タックスアンサーNo.3302で確認してください。
Q3. 旧居を売って損が出たら、何か使える特例はありますか
新居を買う場合はNo.3370、買わない場合でローン残高を下回る価格で売ったときはNo.3390の損益通算・繰越控除の特例があります。所有期間5年超などの要件があります。
Q4. 3,000万円特別控除と住宅ローン控除は両方使えますか
新居に住み始めた年とその前2年・後3年の間に3,000万円特別控除を受けると、新居の住宅ローン控除は受けられません(No.1211-1)。どちらが有利かは個別に試算します。
Q5. つなぎ融資の金利はどのくらいですか
金融機関や商品によって異なるため、この記事では示しません。利息と手数料の総額、返済期限までに売れなかった場合の扱いを確認してください。
Q6. 買取保証は使ったほうがよいですか
売れ残りの不安を減らせる一方で、買取価格は事前に決めた水準になります。仲介で売れる見込みの価格と比べ、期間と条件を書面で確かめてから判断します。
まとめ
住み替えの進め方は、ローン残高、手元資金、旧居の売れやすさ、新居の条件、税金の特例の5つから決まります。売り先行は資金面の安心、買い先行は物件選びの自由が利点で、同時進行はその中間です。どの方法でも、旧居を売る年と新居に住む年の組み合わせで税金の結果が変わるため、日程を決める前に特例の要件を確かめることが欠かせません。
筆者は宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士です。自社で賃貸住宅210戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。
出典(本文で参照している資料)
- 国税庁 タックスアンサーNo.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
- 国税庁 タックスアンサーNo.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
- 国税庁 タックスアンサーNo.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)
- 日本銀行「当面の金融政策運営について」(2026年7月31日)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
