「地震保険って、入った方がいいんでしょうか」「火災保険に入っていれば、地震のときも大丈夫ですよね」——売買でも賃貸でも、お客様から地震保険についてこう聞かれる場面は少なくありません。結論から言えば、通常の火災保険では地震を原因とする損害は補償されず、地震・噴火・津波に備えるには、火災保険とセットで地震保険に加入する必要があります。近年は南海トラフや首都直下地震への関心が高く、保険料の地域差も広がる中で、買主や入居者、賃貸オーナーから地震保険について相談を受ける機会が増えています。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、2026年時点の地震保険の基本を、宅地建物取引士の目線で整理します。保険の最終的な設計や加入判断は保険会社・代理店の領分ですが、住宅という大きな買い物に最初に立ち会う中小不動産会社こそ、制度の大枠を正しく押さえ、安心して相談に応じられる準備をしておきたいテーマです。
そもそも地震保険とは — 火災保険とセットで備える
地震保険は、地震・噴火、またはこれらによる津波を原因とする、建物や家財の損害に備えるための保険です。まず押さえておきたいのは、通常の火災保険だけでは、地震を原因とする火災や倒壊、津波による流失といった損害は補償されないという点です。たとえば地震で発生した火災で建物が焼けてしまった場合、火災保険だけでは保険金が支払われないことがあります。この「地震による損害」の備えを担うのが、地震保険です。
もう一つの大きな特徴は、地震保険は単独では加入できず、火災保険とセットで契約するという点です。すでに火災保険に加入している場合は、その契約に地震保険を付帯する形で、途中からでも加入できるのが一般的です。地震保険は地震保険法に基づき、政府と民間の保険会社が共同で運営する公共性の高い制度で、巨大地震が起きても保険金が支払われるよう、政府が再保険という形で関わっています。そのため、地震保険の基本的な補償内容や保険料の考え方は、どの保険会社で加入しても基本的に同じです。「どの会社の地震保険がお得か」という比較の発想にはなじみにくい、という点も、お客様に説明するときに役立ちます。
地震保険は、地震・噴火・津波を原因とする建物・家財の損害に備える保険で、火災保険とセットで加入します。地震保険法に基づき政府と民間が共同運営しているため、補償内容や保険料の基本は、どの保険会社で入っても基本的に同じです。保険金額は火災保険の保険金額の30%から50%の範囲で設定し、建物は5,000万円、家財は1,000万円が上限の目安です。以下の数値は2026年6月時点の一般的な制度内容に基づく目安であり、最終的な補償内容や保険料は、保険会社・代理店および契約条件で確認するのが確実です。
何が補償され、保険金額はいくらまでか
地震保険で補償の対象となるのは、居住用の建物と、その中にある家財です。具体的には、地震・噴火・津波を原因とする、火災・損壊・埋没・流失による損害が対象になります。地震で建物が傾いた、地震に伴う火災で焼けた、津波で家財が流された、といったケースが想定されます。一方で、店舗や事務所のみに使う建物や、現金・有価証券、一個または一組の価額が高額な貴金属・美術品などは、対象外とされるのが一般的です。
保険金額は、自由に設定できるわけではありません。地震保険の保険金額は、セットで契約する火災保険の保険金額の30%から50%の範囲で決めるのが基本で、さらに建物は5,000万円、家財は1,000万円という上限が設けられています。たとえば火災保険で建物2,000万円の契約をしている場合、地震保険はその30%から50%にあたる600万円から1,000万円の範囲で設定する、という形です。ここは、お客様が「火災保険と同じ額が地震でも出る」と誤解しやすいところです。地震保険は、火災保険の半分までを目安に、生活の再建を後押しするための備えという位置づけであることを、最初に正しく伝えておきたいポイントです。
| 項目 | 内容の目安 |
|---|---|
| 加入の仕方 | 火災保険とセット(単独では加入できない) |
| 補償の原因 | 地震・噴火・これらによる津波 |
| 対象 | 居住用の建物・家財(火災・損壊・埋没・流失) |
| 保険金額 | 火災保険金額の30%から50%の範囲 |
| 上限 | 建物5,000万円・家財1,000万円 |
損害区分と支払割合 — 四つの区分で決まる
地震保険で実務上もっとも誤解が生まれやすいのが、保険金の支払われ方です。地震保険は、火災保険のように実際の修理費を細かく算定して支払うのではなく、建物や家財の損害の程度を区分し、その区分に応じて保険金額の一定割合を支払うしくみになっています。2017年1月以降を始期とする契約では、損害の程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の四つに区分します。それぞれの支払割合の目安は、次のとおりです。
| 損害区分 | 支払われる保険金(地震保険金額に対する目安) |
|---|---|
| 全損 | 100% |
| 大半損 | 60% |
| 小半損 | 30% |
| 一部損 | 5% |
この四区分は、2016年12月31日以前を始期とする契約の「全損・半損・一部損」の三区分を、より細かくしたものです。建物の損害の程度は、主要構造部(柱・はり・屋根・基礎など)の損害が時価に対してどの程度かといった基準で判定され、家財は損害を受けた家財の程度で判定されます。実際の認定は保険会社の調査によって行われます。ここでお客様に正しく伝えたいのは、「一部損でも保険金額の5%が支払われる」一方で、「修理費の満額が出るわけではない」という点です。地震保険は損害を完全に元どおりにするためのものというより、被災後の当面の生活再建を支えるための備えである、という性格を理解しておくと、加入の判断や、いざというときの期待値の調整がしやすくなります。
地震保険は、損害区分に応じて地震保険金額の一定割合(全損100%・大半損60%・小半損30%・一部損5%が目安)を支払うしくみで、実際の修理費をそのまま補償するものではありません。さらに保険金額自体が火災保険の半分までを目安としているため、「地震ですべてが元どおりになる」わけではありません。重要なのは、不動産会社がこの点を曖昧にせず、地震保険は生活再建の足がかりという位置づけであることを、加入前に正しく伝えておくことです。期待値を最初に整えておくことが、被災後の「思っていたより少ない」というトラブルを防ぎます。
保険料を下げる四つの割引制度
地震保険の保険料は、建物の構造と所在地(都道府県)によって決まりますが、住宅の耐震性能などに応じて保険料を割り引く制度が設けられています。割引の種類は四つあり、建築年割引・耐震等級割引・免震建築物割引・耐震診断割引です。割引率は建物の性能に応じて10%から50%で、いずれか一つだけが適用され、複数を重ねて使うことはできません。
| 割引制度 | 対象の目安 | 割引率の目安 |
|---|---|---|
| 建築年割引 | 1981年6月1日以降に新築された建物 | 10% |
| 耐震等級割引 | 耐震等級1・2・3に応じて | 10%・30%・50% |
| 免震建築物割引 | 免震建築物に該当する建物 | 50% |
| 耐震診断割引 | 耐震診断や耐震改修で基準を満たした建物 | 10% |
実務で効いてくるのは、これらの割引を受けるには、それぞれ確認書類が必要になるという点です。建築年割引であれば建築年月が分かる書類(登記簿謄本や建築確認書など)、耐震等級割引であれば住宅性能評価書や認定書類、といった具合です。売買や賃貸の現場で、私たちが扱う物件の建築年や耐震性能の情報を、買主・入居者・オーナーに早めに整理して示せれば、お客様が地震保険の割引を取りこぼさずに済みます。とくに2000年以降の比較的新しい住宅や、住宅性能評価を受けた住宅では、耐震等級割引で保険料が大きく変わることがあります。割引率や適用条件、必要書類の詳細は改定や保険会社の取り扱いで変わり得るため、最終的には保険会社・代理店で確認してもらうのが確実です。
保険料の地域差と最近の動き
地震保険の保険料は、損害保険料率算出機構が算出する基準料率をもとに決められ、建物の構造(耐火・非耐火)と、所在地の都道府県によって差がつきます。地震のリスクが高いと評価される地域ほど保険料は高く、リスクが相対的に低い地域では安くなる、という考え方です。近年は、地震リスクの評価が見直される中で、全国一律の動きというより、都道府県・構造ごとに値上げと値下げが分かれ、地域差が広がる傾向が見られます。値下げとなる地域がある一方で、リスクの高い地域では大きく値上げとなる場合もあります。
お客様の中には、数年前のイメージで「地震保険は高い」あるいは「うちの地域は安い」と思い込んでいる方もいます。保険料は改定によって変わるため、現時点の保険料は、必ず最新の情報で確認することが大切です。不動産会社としては、保険料の具体的な金額を断定するのではなく、「地域や構造、建築年や耐震性能で保険料は変わるので、見積もりを取って確認しましょう」と促すのが適切な距離感です。最新の基準料率や改定の状況は、損害保険料率算出機構や各保険会社の公開情報で確認できます。
地震保険料控除という後押し
地震保険には、税制上の優遇もあります。1年間に支払った地震保険料に応じて、所得税と住民税の負担が軽くなる、地震保険料控除という制度です。所得税では支払った地震保険料の全額(上限5万円)、住民税では支払額の2分の1(上限2万5,000円)が、所得から控除されるのが目安です。年末調整や確定申告の際に、保険会社から送られてくる控除証明書を使って手続きをします。
金額としては大きくないものの、地震への備えをすると税の負担も少し軽くなるという点は、加入を迷っているお客様の背中をそっと押す材料になります。買主や入居者に地震保険の話をするとき、「保険料の一部は地震保険料控除の対象になりますよ」と一言添えられると、説明にぐっと厚みが出ます。ただし、控除額の正確な計算や適用は税の領域ですので、詳しくは控除証明書や税務署・税理士で確認していただくよう案内します。不動産会社は、制度があることを正しく伝え、専門家につなぐ立場にとどめておくのが安全です。
現場メモ — 「火災保険に入っているから大丈夫」と言われた一件
少し前に、中古の戸建てを購入されたお客様の引き渡し前後で、火災保険の手続きについてお話ししたときのことです。地震保険についてもおすすめしたところ、ご主人から「火災保険にはちゃんと入るから、地震保険は別にいいかな。火災保険に入っていれば、地震のときも何とかなるでしょう」と言われました。火災保険があれば地震の損害もカバーされる、と思っておられた様子でした。
そこで、通常の火災保険では地震を原因とする火災や倒壊は補償されないこと、地震・噴火・津波に備えるには地震保険を付帯する必要があることを、その場でていねいにお伝えしました。あわせて、保険金額は火災保険の半分までが目安であること、損害区分に応じた割合で支払われること、購入された住宅は比較的新しく耐震等級割引が使える可能性があることも添えました。最終的な設計は保険代理店で見積もりを取って決めていただくことを前提に、判断材料を整理してお渡ししたのです。ご主人は「火災保険だけでは地震はカバーされないとは知らなかった」と驚かれ、後日、地震保険も付帯して契約されたと伺いました。
この経験で感じたのは、地震保険をめぐる誤解の多くが、「火災保険に入っていれば地震も大丈夫」という思い込みから来ている、ということです。私たちがやるべきは、保険商品を売り込むことではありません。「火災保険と地震保険は別物であること」「地震保険は生活再建の足がかりであること」という大枠を、誤解なく整理して示すこと。それだけで、お客様は自分にとって必要な備えを、納得して選べるようになります。
中小不動産会社としての向き合い方
では、中小不動産会社は地震保険とどう向き合えばよいのでしょうか。保険の設計や加入の最終判断は、保険会社や代理店が担う領域です。それでも、住宅という大きな買い物や、住まいの契約に最初に立ち会う私たちには、果たせる役割がいくつもあります。とくに賃貸では、入居者に家財の地震保険を、オーナーに建物の備えを、それぞれの立場で考えてもらうきっかけづくりができます。
| 向き合い方 | こんな場面で | 提供できる価値 |
|---|---|---|
| 火災保険との違いを正しく伝える | 買主・入居者への保険案内時 | 「火災保険だけでは地震は対象外」という誤解を解く |
| 建築年・耐震性能の情報整理 | 物件案内・重要事項説明の前後 | 割引の取りこぼしを防ぐ判断材料を示す |
| 支払いのしくみを説明する | 加入を迷うお客様への説明時 | 損害区分と支払割合の期待値を整える |
| 保険会社・代理店へつなぐ | 正確な保険料・補償設計が必要なとき | 専門家へ橋渡しし、断定によるトラブルを避ける |
ポイントは、地震保険を「保険屋さんの仕事」と切り離すのではなく、「お客様の不安に先回りして応える、信頼づくりの接点」として活かすことです。お客様の多くは、地震保険の基本すら正確には知りません。だからこそ、最初に誤解なく整理してくれた会社は、強く信頼されます。保険の設計は代理店に任せつつ、「正しく伝えて、つなぐ」を丁寧にやれる会社こそ、これからの住まい選びで選ばれていきます。
実務での進め方 — 五つのステップ
買主や入居者、賃貸オーナーから地震に関する備えの相談を受けたときに、どう動けばよいか、おおまかな流れを整理します。現場でつまずきやすいポイントもあわせて押さえておきましょう。
1. 火災保険との違いを最初に伝える。まず、通常の火災保険では地震を原因とする損害が補償されないこと、地震・噴火・津波に備えるには地震保険を火災保険とセットで契約する必要があることを、落ち着いて案内します。「火災保険があれば大丈夫」という思い込みを、最初に解いておきます。
2. 保険金額のしくみを説明する。地震保険の保険金額は火災保険の30%から50%の範囲で、建物5,000万円・家財1,000万円が上限の目安であることを伝えます。「火災保険と同額が出る」という誤解を、ここで整えます。
3. 物件の建築年・耐震性能の情報を整理する。扱う物件の建築年月や耐震等級、免震・耐震改修の有無など、割引に関わる情報を整理して示します。割引は重複して使えないため、どの割引が使えそうかの目安も添えると親切です。額そのものは断定しません。
4. 支払いの期待値を整える。地震保険は損害区分に応じた割合で支払われ、修理費の満額が出るわけではないことを、加入前に伝えます。「生活再建の足がかり」という位置づけを共有しておきます。
5. 正確な見積もり・設計は保険会社・代理店へつなぐ。具体的な保険料や補償の設計は、保険会社や代理店で見積もりを取って決めてもらうよう案内します。不動産会社が金額や補償を断定しないことが、後の「聞いていた話と違う」というトラブルを防ぎ、結果として信頼を守ります。
よくある質問
Q1. 火災保険に入っていれば、地震のときも補償されますか。
いいえ。通常の火災保険では、地震・噴火・津波を原因とする火災や損壊、流失といった損害は補償されないのが基本です。地震に備えるには、火災保険とセットで地震保険に加入する必要があります。
Q2. 地震保険は単独で加入できますか。
できません。地震保険は火災保険とセットで契約する制度です。すでに火災保険に加入している場合は、その契約に途中から付帯する形で加入できるのが一般的です。
Q3. 保険金額はいくらまで設定できますか。
セットで契約する火災保険の保険金額の30%から50%の範囲で設定するのが基本で、建物は5,000万円、家財は1,000万円が上限の目安です。火災保険と同額にはできない点に注意が必要です。
Q4. 保険金はどのように支払われますか。
損害の程度を全損・大半損・小半損・一部損の四つに区分し、それぞれ地震保険金額の100%・60%・30%・5%を目安に支払われます。実際の修理費をそのまま補償するしくみではありません。
Q5. 保険料を安くする方法はありますか。
建築年割引・耐震等級割引・免震建築物割引・耐震診断割引の四つの割引制度があり、建物の性能に応じて10%から50%の割引が適用されます。いずれか一つのみで、重複はできません。確認書類が必要です。
Q6. 会社によって地震保険の保険料は違いますか。
地震保険は政府と民間が共同で運営する制度で、基準料率に基づくため、補償内容や保険料の基本はどの保険会社で加入しても基本的に同じです。割引の取り扱いや手続きで差が出ることはありますが、「どこが一番安いか」を比較する性格の商品ではありません。
Q7. 正確な保険料や補償内容は、どこで確認すればよいですか。
保険料は地域や構造、建築年や耐震性能、改定の状況で変わります。最終的な確認は、保険会社・代理店での見積もりや、損害保険料率算出機構などの最新の公開情報によるのが確実です。本記事は概要を大づかみにつかむためのものとお考えください。
まとめ:「地震保険の大枠を、誤解なく伝えられる会社」が選ばれる
地震保険は、地震・噴火・津波を原因とする建物・家財の損害に備える保険で、火災保険とセットで加入します。政府と民間が共同で運営しているため、補償内容や保険料の基本はどの保険会社でも基本的に同じです。保険金額は火災保険の30%から50%の範囲で、建物5,000万円・家財1,000万円が上限の目安。保険金は損害区分(全損100%・大半損60%・小半損30%・一部損5%)に応じて支払われ、修理費の満額が出るわけではありません。建築年・耐震等級・免震・耐震診断の四つの割引制度で保険料は10%から50%軽くなり、地震保険料控除という税の優遇もあります。中小不動産会社がやるべきことは、保険を売り込むことではなく、火災保険との違いや支払いのしくみという大枠を誤解なく伝え、建築年や耐震性能といった判断材料を整理し、正確な設計と見積もりは保険会社・代理店につなぐことです。お客様の不安の多くは、「火災保険があれば地震も大丈夫」という思い込みから来ています。最初に正しく整理して伝えてくれた会社は、強く信頼されます。地震保険の大枠を、誤解なく伝えられる会社でありたいものです。
ウルスタは、中小不動産会社の物件・顧客・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。扱う物件の建築年月や耐震等級、免震・耐震改修の有無といった情報を、物件・顧客ごとに紐づけて残しておけば、地震保険の割引に関わる判断材料をその場で整理して示せます。誰にどこまで保険の説明をしたか、保険会社・代理店につないだ記録も残しておけば、「聞いていた話と違う」という行き違いを防げます。火災保険と地震保険の違いを正しく伝え、専門家へなめらかにつなぐ体制は、買主・入居者・オーナーからの信頼につながります。
参考: 財務省「地震保険制度の概要」 / 損害保険料率算出機構「地震保険基準料率」に関する公開情報 / 日本損害保険協会「地震保険 損害の認定基準」 / 地震保険法に基づく政府・民間共同運営および損害区分(全損・大半損・小半損・一部損)・支払割合に関する一般的な制度情報 / 建築年割引・耐震等級割引・免震建築物割引・耐震診断割引に関する一般的な制度情報 / 地震保険料控除(所得税・住民税)に関する一般的な制度情報 / いずれも2026年6月時点の公開情報および自社の不動産実務をもとに整理


