不動産会社の業務改善 読了 25分

感震ブレーカー設置率20%から「おおむね設置」へ|首都直下地震の基本計画が11年ぶりに変更——9月1日までに賃貸管理会社が動かす4タイプの選び分けと入居者周知

感震ブレーカーの設置率は、緊急対策区域の都県で20%。これを令和17年度までに「おおむね設置」にする、と6月12日の閣議決定で決まりました。賃貸物件でこれをやるとき、詰まるのは技術ではなく、誰が付けて誰が払うかです。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
感震ブレーカー設置率20%から「おおむね設置」へ|首都直下地震の基本計画が11年ぶりに変更——9月1日までに賃貸管理会社が動かす4タイプの選び分けと入居者周知
目次

緊急対策区域の都県で、感震ブレーカーの設置率は20%です。これを令和17年度までに「おおむね設置」にする——そう書かれた計画が、6月12日に閣議決定されました。首都直下地震緊急対策推進基本計画が、平成27年3月の策定から約11年ぶりに変更されました。新しい被害想定では、死者数と全壊・焼失棟数の約7割が火災によるものとされています。ウルスタ代表として自社で210室を管理する立場から、9月1日の防災の日までに管理会社が何を段取りするかを整理します。

【要点】6月12日に閣議決定されたもの

結論から。変わったのは目標の書きぶりです。感震ブレーカーの設置率は、これまで数値目標として大きく扱われてきませんでした。それが今回、緊急対策区域の都県で20%【令和6年】から令和17年度までに「おおむね設置」という具体目標として明記されました。賃貸管理の現場から見れば、これはオーナーへの提案書に載せられる根拠が一つ増えたということです。
項目内容賃貸管理での意味
計画の変更首都直下地震緊急対策推進基本計画を令和8年6月12日に閣議決定で変更。現行計画は平成27年3月策定約11年ぶり。前回の計画で動いていた社内資料は古い
減災目標今後10年で死者数 約1万8千人から半減以上、全壊棟数 約40万棟から半減以上「おおむね半減」から「半減以上」へ表現が強まった
具体目標の数47個から189個へ充実化民間が関わる目標が大幅に増えた
感震ブレーカー設置率 20%【令和6年】から おおむね設置【令和17年】本記事の主題
地震時管制運転装置設置率 48%【令和6年】から 70%【令和17年】エレベーターのある物件が対象
マンションの防災訓練年1回以上実施の割合 51%【令和5年】から 100%【令和15年】管理組合だけでなく賃貸でも問われる

被害想定は小さくなった。それでも火災が7割

今回の変更は、令和7年12月19日に公表された首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書を踏まえたものです。対象は都心南部直下地震、マグニチュード7.3。東京圏の人口 約3,690万人、建物棟数 約965万棟という前提です。

被害平成25年想定令和7年想定方向
死者数約2.3万人約1.8万人
全壊・焼失棟数約61万棟約40万棟
停電軒数約1,200万軒約1,600万軒
避難者数約720万人約480万人
経済的被害約95兆円約83兆円

耐震化が進んだぶん、多くの数字は下がりました。ただし停電軒数だけが増えています。そして——ここが本題ですが——死者数と全壊・焼失棟数の約7割は火災によるものだと明記されています。建物が潰れて亡くなるより、燃えて亡くなるほうが多いという想定です。

数字の読み方に注意してください。これらは一定の条件下の試算です。想定は冬・夕方・風速8m/sの最大値であり、実際の被害がこの通りになるという意味ではありません。オーナーへの説明では条件付きの試算である旨を必ず添えてください。数字を単独で切り出すと、不安を煽る資料になります。

なぜ感震ブレーカーが名指しされたのか

火災が7割を占めるとして、その火元はどこか。国土交通省が令和8年1月27日に内閣官房・内閣府・総務省・経済産業省と同時発表した資料に、過去の実績が載っています。

地震地震火災の総数うち電気に起因割合
阪神・淡路大震災139件85件約61%
東日本大震災108件58件約54%

装置が防げる範囲は、思ったより狭い

感震ブレーカーは、一般的に震度5強以上の地震を検知した際に自動的にブレーカーを落として電気の供給を遮断する装置です。ここで正確に押さえておきたいのは、防げる範囲です。同資料は、感震ブレーカーを設置することで防止できるのは二次配線を除く分電盤以降の火災である、としています。

つまり万能ではありません。曖昧にしたまま「付ければ火事が防げます」と説明すると、あとで齟齬が出ます。防げる範囲と防げない範囲を分けて伝えるほうが、結果的に信用されます。

20%から「おおむね設置」へ

今回の基本計画では、具体目標が47個から189個に増えました。そのなかで、電気に起因する出火の防止として掲げられたのが感震ブレーカーです。

感震ブレーカーの設置率 緊急対策区域(都県) 20%【令和6年】から おおむね設置【令和17年】

「おおむね設置」という書きぶりに注目してください。100%とは書いていません。住宅の耐震化率が「耐震性が不十分なものをおおむね解消」とされているのと同じ発想で、設置は所有者の判断で行われるものだからです。義務化されたわけではない、という点は正確に伝えてください。

対象は1都9県309市区町村

首都直下地震緊急対策区域は、平成26年3月に指定された1都9県309市区町村です。まずは自社の管理エリアがこの区域に入るかを確認してください。入っていなければ今回の目標の直接の対象ではありません。

ただし区域外だから関係ない、とはなりません。第1次国土強靱化実施中期計画(令和7年6月閣議決定)でも、密集市街地の火災予防・被害軽減の一環として感震ブレーカーの設置推進が位置付けられています。

4つのタイプの選び分け

感震ブレーカーには4つのタイプがあり、価格が10倍以上違います。賃貸物件でどれを選ぶかは、費用の問題であると同時に誰が施工するかの問題です。

タイプ価格の目安電気工事特徴
分電盤タイプ(内蔵型)約5万円〜8万円必要感震性能が高く、専門工事業者による設置のため作動の信頼性が高い
分電盤タイプ(後付型)約2万円必要分電盤に感震機能を外付け。漏電ブレーカーが設置されている場合に設置可能
コンセントタイプ約5,000円〜2万円差込型は不要/埋込型は必要作動時も未設置のコンセントへの通電は確保される
簡易タイプ3,000円〜4,000円程度不要ばねの作動や重りの落下でブレーカーを落とす。ユーザー自ら取付け

分電盤タイプは建物側の話

分電盤タイプは電気工事が必要です。したがって賃貸では建物所有者側の工事になります。作動の信頼性が高く、感震後に3分程度の待機時間が設定されていて、その間は照明が確保されます。待機時間は変更可能です。

ただし待機時間の後は建物全体にわたり通電が遮断されます。在宅用医療機器等を使う入居者がいる場合、停電に対処できるようバッテリー等を備えることが必要です。設置前に把握しておかないと事故につながります。

コンセントタイプと簡易タイプは室内側

コンセントタイプは作動の信頼性のばらつきが小さく、作動時も未設置のコンセントへの通電は確保されるため通電の遮断に伴う避難等の支障は小さいとされます。一方でコンセント以外の配線、コンセントまでの屋内配線、未設置のコンセントで発生する火災は予防できません。

簡易タイプは工事不要で最も安価ですが、ユーザー自ら取付けるため作動の信頼性にばらつきが生じるおそれがあるとされています。作動すると通電が一斉に遮断されるため、別途避難用の照明等の確保が必要です。既設分電盤の形状によっては取付けが困難な場合もあります。

賃貸で詰まるのは技術ではない

持ち家なら「買って付ける」で終わる話が、賃貸だと止まります。

論点詰まりどころ整理の方向
誰が設置するか分電盤タイプは電気工事。入居者が勝手に触れない建物側の設備としてオーナー工事で扱う
誰が払うか入居者の安全のための工事だが、資産に付く建物に残る設備はオーナー、可搬のものは入居者という切り分けが説明しやすい
退去時どうするか入居者が付けた簡易タイプの扱い入居時の案内文に、置いていくか持ち帰るかを先に書く
入居中の物件にどう入るか分電盤は室内にあることが多い更新時期や設備交換のタイミングに合わせる
空室と入居中で差が出る空室から順に付けると設置率がまだらになる棟単位ではなく戸単位で台帳管理する
現実的な線引き。自社では、分電盤タイプは建物設備としてオーナー側、簡易タイプとコンセント差込型は入居者が自分で選べるものとして案内文に載せる、という整理にしています。これは法令上の切り分けではなく運用上の切り分けです。契約内容によっては別の整理が適切な場合があります。

付ければ安全、ではない

資料には注意点がはっきり書かれています。むしろこちらを先に入居者へ配るべきだと考えています。

注意点内容
それでもブレーカーは切る設置の有無に関わらず、避難する際にはブレーカーを切ることも重要
復電時の確認事前にガス漏れ等がないことの確認と、電気製品の安全の確認が必要
夜間の照明作動時に避難用照明が確保できない可能性。足元灯や懐中電灯を常備
作動は震度分布どおりではない設置場所の揺れは構造・耐震免震機能・階層・壁の剛性・開口部の位置で大きく異なる

最後の項目は特に重要です。資料は、実際の作動は必ずしも各地の計測震度分布と同等に作動するものではないとし、屋内で家具の転倒等が生じる程度の大きな揺れが発生した場合に電熱器具等への通電が遮断されることを期待するものである点について、設置者における理解と周知を図る必要があると明記しています。「震度5強で必ず落ちます」とは説明しないでください。

復電のほうが怖い

管理会社が実際に手を取られるのは、設置そのものより地震のあとです。感震ブレーカーが作動して電気が止まった物件から、入居者の電話が一斉に来ます。そこで「ブレーカーを上げてください」とだけ答えると、それが通電火災の引き金になりえます。

復電の手順を、いま文面にしておいてください。ガス漏れがないこと、電気製品が転倒したり水に濡れたりしていないこと、暖房器具のスイッチが入ったままになっていないこと。この確認を経てからブレーカーを戻す、という順番です。地震が起きてから文面を考えると間に合いません。緊急連絡の一次対応マニュアルに追記するのは、今週できます。

災害時の一次対応の組み立て方は賃貸管理のBCP——災害時に止めない体制のつくり方で扱っています。感震ブレーカーの復電手順は、そこに一節足すだけで済みます。

自治体の補助はどこにあるか

国から個人への直接の補助という形にはなっていません。動いているのは自治体と、それを支える国の枠組みです。

省庁取組
経済産業省電気事業法に基づき登録調査機関などが各家庭を訪問して漏電等の調査を行う際に、感震ブレーカーの冊子を併せて配布する取組を令和7年度から開始
総務省消防庁自治体の普及啓発活動費用に特別交付税措置。令和7年度補正予算で、密集市街地を抱える自治体が購入・取付を計画的に支援する場合に支援
国土交通省住宅市街地総合整備事業(密集住宅市街地整備型)等により、自治体の取組をソフト対策として支援

国の資料に著しく危険な密集市街地の未解消地区を有する地方公共団体として挙がるのは、令和5年度末時点で次の15市区です。川口市、浦安市、品川区、北区、横浜市、大津市、京都市、大阪市、豊中市、門真市、寝屋川市、東大阪市、神戸市、高知市、長崎市。

このうち補助制度の窓口が国の資料に掲載されているのは令和8年1月時点で品川区・北区・横浜市の3件です。ただしこの一覧は密集市街地を基準としたもので、補助を出す自治体がこの3件しかないという意味ではありません。制度の有無・金額・要件は変わります。管理エリアの防災担当課に直接確認してください。

電気設備の調査に相乗りする

経済産業省の取組は、管理会社から見ると使い道があります。電気事業法に基づく調査で、調査員が各戸を訪問する機会があり、その際に感震ブレーカーの冊子が配られる仕組みが令和7年度から始まっています。入居者への周知の足場が一つ用意されているということです。独自に全戸へ案内を送るより、調査時期に合わせて掲示を出すほうが読まれます。共用部の電気契約を共用部電気料金の見直し——請求書の読み方から始めるで扱ったときと同じで、すでに動いている工程に乗せるのが最も安く済みます。

エレベーターの2つの装置は別物

ここは現場で頻繁に混同されます。基本計画に出てくる地震時管制運転装置と、国土交通省が別途調査している戸開走行保護装置は、まったく違う装置です。

装置目的数字
地震時管制運転装置地震を検知して最寄り階に停止させ、閉じ込めを防ぐ設置率 48%【令和6年】から 70%【令和17年】が基本計画の目標
戸開走行保護装置戸が開いたまま走行する事故を防ぐ令和6年度の定期報告 775,705台のうち306,394台。設置率39.5%

戸開走行保護装置は、平成18年6月の東京都港区の事故を契機に平成21年9月以降に新設されるエレベーターへ義務付けられました。それ以前のものは全面的な撤去・新設を行う場合に義務付けられます。つまり既設のままなら義務ではありません。設置率が4割にとどまるのはそのためです。

補助の枠が広がっています。令和7年度補正予算で、戸開走行保護装置の設置等に対する補助対象限度額が25%引き上げられました。ただし民間の所有者が活用するには、その自治体に既設エレベーター改修の補助制度が整備されている必要があります。制度の有無は自治体によって異なるため、対象物件のある自治体へ直接お問い合わせください。

防災訓練51%と在宅避難への転換

基本計画には、賃貸管理に直接関わる目標がもう一つあります。年1回以上防災訓練を実施しているマンションの割合が51%【令和5年】から100%【令和15年】へという目標です。

基本的方針では在宅避難・広域的避難・フェーズフリーが強調・追加され、「場所(避難所)の支援」から「人(避難者等)への支援」へ考え方を転換する旨が明記されました。被災者の多様化として高齢者、子ども、外国人、マンション住民が挙げられています。

避難所に行かず自宅に留まる前提が強まる、ということです。すると建物が使える状態で残っているかが、これまで以上に管理会社の責任範囲に食い込みます。全国目標として家具の固定率38%から100%【令和17年】、食料品3日分以上の備蓄60%から100%、飲料水70%から100%も掲げられており、これらは入居者向けの案内文にそのまま使える数字です。

オーナー提案書の組み立て

提案書は、順番を間違えると営業に見えます。自社では次の順で組みます。

載せるもの意図
16月12日の閣議決定と、設置率20%から「おおむね設置」への目標自社の営業ではなく国の方針が動いたことを先に置く
2死者と全壊・焼失棟数の約7割が火災、電気火災は阪神で約61%・東日本で約54%なぜ電気なのかを1行で示す
3義務化ではないことを明記誤解を先に潰す。ここを飛ばすと信用を失う
44タイプの価格表と、建物側か室内側かの切り分け判断材料を渡す
5自治体の補助の有無は確認中と書く不確かな金額を書かない
6防げる範囲は分電盤以降であること、作動は震度分布どおりではないこと過大な期待を作らない

費用の説明そのものの組み立てはオーナーへの修繕費説明——納得を得る資料の組み立て方と同じ考え方です。金額より先に、なぜ今なのかを1枚に収めてください。

8月と9月の工程表

今週。管理物件を緊急対策区域の内か外かで仕分けます。次に、分電盤が室内にあるか共用部にあるかを図面で確認。ここまでは机の上で終わります。あわせて、復電手順の文面を緊急連絡マニュアルに追記します。
8月中。管理エリアの防災担当課へ、補助制度の有無を電話で確認。あれば要件と受付期間を控えます。並行して、エレベーターのある物件の地震時管制運転装置の有無を保守会社に照会。台帳に欄がなければ、この機会に作ってください。
9月1日まで。入居者向けの一枚を配布します。内容は、感震ブレーカーとは何か、簡易タイプなら自分で付けられること、そして復電時の確認手順。防災の日は、案内を送っても営業と受け取られない数少ない日です。オーナーへの提案書は、この配布実績を添えて9月中に出します。

よくある誤解

誤解実際
感震ブレーカーが義務化された義務化ではありません。基本計画の具体目標であり、目標の書きぶりも100%ではなく「おおむね設置」です
付ければ地震火災を防げる防げるのは二次配線を除く分電盤以降の火災です
震度5強で必ず作動する設置場所の揺れは構造・階層・壁の剛性等で異なり、計測震度分布と同等に作動するものではありません
作動すれば安全に避難できる分電盤タイプと簡易タイプは建物全体または一斉に遮断されます。夜間は照明が失われます
被害想定が下がったから安心停電軒数は約1,200万軒から約1,600万軒へ増えています
エレベーターの安全装置は全部同じ地震時管制運転装置と戸開走行保護装置は別物です
補助は国から個人に出る国は自治体を支援する枠組みです。個人への補助は自治体の制度を確認してください

よくある質問

入居者が簡易タイプを勝手に付けても問題ありませんか

簡易タイプは電気工事不要とされていますが、既設分電盤の形状によっては取付けが困難な場合があると国の資料も注記しています。分電盤の契約上の扱いは物件ごとに異なり、一般論では決められません。入居時の案内文で、事前に一報を入れてもらう運用にしておくのが実務的です。

オーナーが費用を出さない場合はどうしますか

義務ではないため、最終的には所有者の判断です。ただし提案した記録は残してください。提案して判断された状態と、そもそも伝えていない状態では、後日の位置づけがまったく違います。

区域外の物件にも案内すべきですか

直接の対象は緊急対策区域ですが、電気に起因する出火は区域に限った話ではありません。阪神・淡路も東日本も区域外の地震です。費用のかからない周知——復電手順の案内と簡易タイプの告知——は、区域を問わず出す価値があると考えています。

情報の扱いで慎重にした点

あえて断定しなかったところを書いておきます。

義務化とは書いていません。基本計画の具体目標であり、設置は所有者の判断によるものです。補助金の金額と要件も書いていません。国の資料に窓口が掲載されているのは3件ですが、これは密集市街地を基準とした一覧であり、補助を出す自治体がこの3件に限られるという意味ではありません。

誰が費用を負担すべきかを一般論で決めていません。賃貸借契約と管理委託契約の内容、分電盤の位置づけ、建物の構造で変わります。本文の切り分けは自社の運用であり、法令上の結論ではありません。

被害想定の数字を単独で使っていません。冬・夕方・風速8m/sの最大値であり、一定の条件下の試算である旨を本文に明記しました。地震時管制運転装置と戸開走行保護装置は意図的に分けて記載しました。混同したまま保守会社に照会すると、噛み合わない回答が返ってきます。

制度の解説ではなく、自社の段取りに落とす。閣議決定のニュースは、入居者への一枚と台帳の一欄になって初めて仕事になります。中小の不動産会社が制度を段取りへ翻訳するための記事を、ウルスタで継続して公開しています。詳しくは ulsta.jp をご覧ください。

最後に一つ。この案内を配っても、地震が来なければ何も起きません。来ても、防げたかどうかは誰にも分かりません。それでも、復電手順の紙一枚を配ったかどうかで、あの日の電話の中身は変わります。9月1日は、その紙を配る口実として、年に一度しかない日です。

執筆にあたって

私は宅地建物取引士として、自社で210室の賃貸住宅を管理・客付けしています。防災は、やってもオーナーの収支に一円も乗らない領域です。だからこそ後回しになり、後回しにしたことが記録にも残りません。本記事は制度の解説ではなく社内の段取り表として書いています。感震ブレーカーの設置義務の有無、費用負担の帰属、分電盤の扱い、補助制度の適用可否、エレベーターの改修義務については、内閣府・国土交通省および都道府県または市区町村の担当窓口の公表情報を確認のうえ、必要に応じて弁護士および電気工事業者にご相談ください。記載は2026年7月時点の公開情報と自社の実務に基づいています。

本記事で参照した公表情報
  • 内閣府政策統括官(防災担当)「首都直下地震緊急対策推進基本計画の変更(令和8年6月12日 閣議決定)説明資料」。現行計画が平成27年3月策定であること、首都直下地震対策検討ワーキンググループの令和7年12月19日報告書を踏まえた変更であること、緊急対策区域が1都9県309市区町村であること、対象地震が都心南部直下地震であること。
  • 同資料 新たな被害想定。死者数 約2.3万人から約1.8万人、全壊・焼失棟数 約61万棟から約40万棟、停電軒数 約1,200万軒から約1,600万軒、避難者数 約720万人から約480万人、経済的被害 約95兆円から約83兆円。いずれも冬・夕方・風速8m/sの最大値であり一定の条件下の試算である旨の留意書き。死者数と全壊・焼失棟数の約7割が火災によるものであること。
  • 同資料 変更のポイントおよび具体目標。減災目標が死者数 約1万8千人から半減以上、全壊棟数 約40万棟から半減以上であること。具体目標が47個から189個へ充実化されたこと。感震ブレーカーの設置率 緊急対策区域(都県)20%【令和6年】からおおむね設置【令和17年】。地震時管制運転装置の設置率 48%から70%【令和17年】。防災訓練を年1回以上実施しているマンションの割合 51%から100%【令和15年】。住宅の耐震化率 92%から耐震性が不十分なものをおおむね解消【令和17年】。家具の固定率 全国38%から100%。食料品3日分以上備蓄 60%から100%、飲料水 70%から100%。
  • 同資料 基本的方針。在宅避難・広域的避難・フェーズフリーの強調、場所の支援から人への支援への転換、被災者の多様化として高齢者・子ども・外国人・マンション住民が挙げられていること。
  • 国土交通省 報道発表資料 令和8年1月27日「感震ブレーカーの設置促進に向けた取組の強化」および添付PDF。内閣官房・内閣府・総務省・経済産業省との同時発表であること。震度5強以上を検知して自動的にブレーカーを落とす装置であること。防止できるのは二次配線を除く分電盤以降の火災であること。
  • 同資料 別紙1。4タイプの機器概要・価格・特徴・注意点。分電盤タイプ内蔵型 約5万円から8万円、後付型 約2万円、コンセントタイプ 約5,000円から2万円、簡易タイプ 3,000円から4,000円程度。待機時間3分程度と在宅用医療機器への留意。未設置コンセントへの通電確保と予防できない範囲。避難時のブレーカー遮断、復電時のガス漏れ確認と電気製品の安全確認、夜間の照明の常備、作動が計測震度分布と同等ではない旨の周知の必要性。あわせて過去の地震における火災の発生状況として、阪神・淡路大震災 139件のうち電気火災85件(約61%)、東日本大震災 108件のうち電気関係58件(約54%)。
  • 同資料 各省庁の取組および別紙2・別紙3。経済産業省による電気事業法に基づく調査時の冊子配布(令和7年度開始)、総務省消防庁の特別交付税措置と令和7年度補正予算による支援、国土交通省の住宅市街地総合整備事業。第1次国土強靱化実施中期計画(令和7年6月閣議決定)における位置付けと令和12年までの目標。密集市街地の未解消地区を有する地方公共団体15市区の一覧と、補助窓口が掲載されているのが令和8年1月時点で品川区・北区・横浜市の3件であること。
  • 国土交通省 報道発表資料 令和8年1月28日「エレベーターへの戸開走行保護装置の設置率は4割」。令和6年度に定期検査報告が行われた775,705台のうち306,394台に設置、設置率39.5%。平成18年6月の東京都港区の事故を契機に平成21年9月以降の新設に義務付け、既設は全面的な撤去・新設を行う場合に義務付け。令和7年度補正予算で補助対象限度額を25%引き上げ。民間の所有者等の活用には地方公共団体に補助制度が整備されている必要があること。