梅雨や大雨の前に賃貸管理会社がやることは、物件ごとの水害リスクをハザードマップで把握し、排水まわりを点検し、火災保険の水災補償と管理受託契約の緊急時対応をオーナーと確認しておくことです。2026年5月下旬からは気象庁の防災気象情報が新しくなり、レベル4に「危険警報」が置かれました。この記事では、民法、宅地建物取引業法施行規則、国土交通省の標準管理受託契約書などの一次情報をもとに、梅雨前の点検項目と、入居者・オーナーへの連絡の手順をまとめます。
雨漏り・浸水が起きたときの法的な立場
点検の前に、被害が出たときに誰が何を負うのかを整理しておくと、オーナーとの事前の取り決めがしやすくなります。
| 場面 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 修繕 | 民法606条1項 | 貸主は、使用・収益に必要な修繕をする義務を負う。借主の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は除く |
| 借主からの連絡 | 民法615条 | 修繕が必要なとき、借主は遅滞なく貸主に通知する。貸主がすでに知っているときは不要 |
| 使えない部分の家賃 | 民法611条 | 借主の責めによらず一部が使えなくなったときは、使えない部分の割合に応じて賃料が減額される。残りの部分で目的を達せられなければ借主は解除できる |
| 塀・擁壁などの事故 | 民法717条1項 | 土地の工作物の設置・保存の瑕疵で他人に損害を与えたときは、占有者、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が賠償責任を負う |
| 管理会社の緊急対応 | 賃貸住宅標準管理受託契約書11条 | 災害や事故で緊急に必要な業務で、貸主の承認を得る時間的な余裕がないものは、承認なしで実施できる。その場合は速やかに書面で業務内容と費用を通知する |
雨漏りや設備の故障は、貸主の修繕義務と賃料減額の両方に関わります。梅雨前の点検は、オーナーの修繕費と賃料の減額を小さくするための予防策と考えると、オーナーにも説明しやすくなります。
ハザードマップで物件ごとのリスクを把握する
調べ方
国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」には2つの機能があります。「重ねるハザードマップ」では洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報などを地図に重ねて表示でき、「わがまちハザードマップ」では市町村が作ったハザードマップを探せます。管理物件の住所を順に入れ、洪水(河川の氾濫)、雨水出水(内水)、土砂災害の区域に入っているかを一覧にしておくと、大雨のときにどの物件から確認すべきかがすぐ分かります。
重要事項説明での扱い
2020年8月28日から、売買・交換だけでなく賃貸の仲介でも、水害ハザードマップでの物件の位置を重要事項として説明することが義務になっています。根拠は宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第3号の2で、水防法施行規則11条1号に基づき市町村長が提供する図面に物件の位置が表示されているときは、その図面での所在地を説明します。
国土交通省の発表では、洪水・雨水出水・高潮のハザードマップを示して物件のおおむねの位置を示すこと、市町村が提供する最新のものを使うこと、避難所の位置もあわせて示すことが望ましいこと、浸水想定区域の外にあっても水害のリスクがないと相手方が誤認しないようにすることが求められています。管理会社が客付けも行う場合は、管理物件のハザードマップ一覧をそのまま重要事項説明の準備に使えます。
2026年から変わった気象庁の防災気象情報
気象庁は2026年5月下旬から、新しい防災気象情報の運用を始めました。氾濫、大雨、土砂災害、高潮について、情報の名前に警戒レベルが付き、レベルとの対応が分かりやすくなっています。
| 警戒レベル | 情報の種類 |
|---|---|
| レベル5 | 特別警報 |
| レベル4 | 危険警報(新設) |
| レベル3 | 警報 |
| レベル2 | 注意報 |
気象庁は「レベル4までに危険な場所から全員避難」と呼びかけています。避難の情報が出ていなくても、キキクル(危険度分布)や川の水位の情報で危険度を確かめるよう案内しています。入居者への案内文を作るときは、古い名称(大雨警報など)だけで書かず、新しいレベルの表現に合わせておきます。
梅雨前に点検する建物・設備のチェックリスト
以下は、国の資料ではなく、一般的な建物の構造から考えた点検の例です。物件の構造や築年数に合わせて取捨選択してください。
| 場所 | 確認すること | 理由・備考 |
|---|---|---|
| 屋上・陸屋根 | 排水口(ドレン)の落ち葉や土の詰まり、防水層のふくれ・ひび割れ | 排水口が詰まると屋上に水がたまり、雨漏りにつながる |
| バルコニー・共用廊下 | 排水口の詰まり、入居者の私物が排水口をふさいでいないか | 私物の移動は入居者に依頼する。専有部分に入るときは事前に通知し承諾を得る |
| 雨樋 | 外れ・割れ・詰まり、たて樋の継ぎ目 | あふれた水が外壁を伝い、室内への浸水の原因になる |
| 外壁・サッシまわり | ひび割れ、シーリング(目地)の切れ・やせ | 雨漏りの入口になりやすい箇所 |
| 敷地の排水桝・側溝 | 泥や落ち葉の堆積、ふたの破損 | 敷地内の排水が追いつかないと1階や半地下に水が入る |
| 1階・半地下・地下の住戸 | 出入口の段差、止水板や土のうの保管場所と数 | 浸水想定区域や雨水出水の区域にある物件を優先する |
| 電気・ポンプ設備 | 受水槽・加圧ポンプ・排水ポンプの作動、設備が低い位置にないか | 停電や浸水で給水・排水が止まると全戸に影響する。保守会社の連絡先を一覧にする |
| ブロック塀・擁壁 | 傾き、ひび、水抜き穴の詰まり | 倒壊で第三者に損害を与えると所有者の責任になりうる(民法717条) |
| 機械式駐車場 | ピットの排水ポンプ、浸水時の車の移動の案内 | ピットに水がたまると車両の被害につながる |
点検の結果は写真付きで記録し、修繕が必要なものはオーナーに見積もりとともに報告します。修繕の実施はオーナーの判断と費用負担になるため、梅雨入りの前に決めてもらえるよう、点検は早めに始めます。
点検の段取りの例
次は時期ごとの段取りの一例です。梅雨入りの時期は地域や年によって違うため、気象庁の発表を見ながら調整してください。
- 梅雨入りの1〜2か月前:管理物件のハザードマップ一覧を更新し、火災保険の水災補償と管理受託契約の緊急時対応をオーナーごとに確認する
- 梅雨入り前:屋上・バルコニー・雨樋・排水桝の点検と清掃。修繕が必要なものはオーナーに見積もりとともに報告する
- 梅雨・台風の時期:大雨が予想されるたびに入居者へ注意を呼びかけ、応急処置を頼む業者と連絡がつくようにしておく
- 大雨の後と季節の終わり:被害の確認と記録。今回の点検で見つかったことを次の年の点検表に反映する
火災保険の水災補償と水災等地
建物の火災保険はオーナーが契約しているのが一般的ですが、水災補償が付いているかどうか、どんな条件で支払われるかは契約によって異なります。保険証券と約款で次の点を確認し、オーナーと共有しておきます。
- 水災補償が付いているか
- 支払いの条件(浸水の程度や損害の割合など)と、自己負担額
- 建物だけでなく、共用部分の設備や門・塀が対象に入っているか
- 事故の連絡先と、連絡までに用意する写真などの資料
保険料の参考になる「水災等地」も知っておくと、オーナーへの説明に役立ちます。損害保険料率算出機構は、住宅向け火災保険の参考純率で水災料率を市区町村別に1等地から5等地の5区分に細分化しており、保険料が最も高い地域は最も安い地域の約1.2倍になると説明しています。同機構のサイトで所在地の水災等地を検索できます。ただし、実際の保険料と扱いは保険会社ごとに異なるため、契約先の保険会社に確認します。
入居者の家財は、入居者が加入する保険の対象です。入居時に加入を案内している保険に水災の補償があるかも、あわせて確認しておくと、被害が出たときの説明がスムーズになります。
管理受託契約の緊急時対応を確かめる
国土交通省の賃貸住宅標準管理受託契約書は、11条で緊急時の業務を定めています。災害や事故で緊急に必要な業務で、貸主の承認を受ける時間的な余裕がないものは、承認を受けずに実施できます。その場合、管理会社は速やかに書面で業務の内容と費用の額を貸主に通知し、貸主は費用を支払います。ただし、管理会社の責めによる事故の場合は除かれます。
また17条は、管理業務のために住戸に立ち入るときは、あらかじめ入居者に通知し承諾を得ることとしつつ、防災等の緊急を要するときはこの限りでないとしています。
自社の管理受託契約書が標準契約書と同じ内容になっているかを確認し、梅雨の前にオーナーと次の点をすり合わせておくと、当日の判断が早くなります。
- 承認なしで対応してよい範囲(応急処置の内容や金額の目安)
- 夜間・休日の連絡方法と、連絡がつかないときの扱い
- 応急処置を頼む業者の候補
- 報告の方法(書面、写真の添付)
入居者・オーナーへの連絡の手順
大雨の前(梅雨入り前後)
入居者には、掲示とメッセージで次の点を短く伝えます。バルコニーの排水口の周りに物を置かないこと、雨漏りや水の浸入に気づいたらすぐ連絡すること(民法615条の通知にも当たります)、ハザードマップで自分の住まいの区域と避難場所を確認しておくこと。浸水想定区域にある物件では、1階の入居者に止水板や土のうの置き場所も伝えます。
大雨の最中
入居者と社員の安全を優先し、レベル4(危険警報)の段階では危険な場所での点検や作業をしません。入居者には気象庁や自治体の情報を確認し、必要なら避難するよう呼びかけます。
大雨の後
- 浸水想定区域や過去に雨漏りがあった物件から順に、被害の有無を確認する
- 被害は日時が分かる写真で記録する(保険の請求と、オーナーへの報告に使う)
- 応急処置が必要なものは、事前の取り決めの範囲で手配し、書面で報告する
- 保険会社への連絡をオーナーに依頼する、または契約で決めた範囲で代行する
- 使えない部分が出た住戸は、賃料の減額(民法611条)の相談に備え、使えなかった範囲と期間を記録する
連絡先の一覧づくりには、ふだんの管理データがそのまま使えます。ウルスタくんの物件・入居者の管理に入居者とオーナーの連絡先をまとめておけば、物件ごとに連絡が必要な相手をすぐに確認できます。
連絡文の例(入居者向け、短く):「大雨が予想されています。バルコニーの排水口の周りに物を置かないようお願いします。雨漏りや水の浸入に気づいたら、すぐにご連絡ください。」
よくある質問
Q1. 浸水想定区域の外にある物件でも、重要事項説明でハザードマップを示す必要がありますか。
市町村が提供する水害ハザードマップに物件の位置が表示されていれば、その図面での所在地を説明します(宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第3号の2)。国土交通省は、区域外であっても水害のリスクがないと誤認させないよう求めています。
Q2. 雨漏りの修繕費は誰が負担しますか。
使用・収益に必要な修繕は貸主(オーナー)の義務です(民法606条1項)。借主の責めに帰すべき事由で必要になった場合は除きます。
Q3. 浸水で住めなくなった部屋の家賃はどうなりますか。
借主の責めによらず一部が使えなくなったときは、使えない部分の割合に応じて賃料が減額されます(民法611条1項)。残りの部分で住めない場合、借主は契約を解除できます(同条2項)。
Q4. オーナーの承認なしで応急工事をしてよいですか。
管理受託契約に標準管理受託契約書11条と同じ定めがあれば、緊急に必要で承認を受ける時間がないものは承認なしで実施でき、速やかに書面で通知します。自社の契約書の条文を確認してください。
Q5. 水災補償の保険料は地域で違いますか。
損害保険料率算出機構の参考純率では、水災料率が市区町村別に5区分に分かれ、最も高い地域は最も安い地域の約1.2倍です。実際の保険料は保険会社ごとに異なります。
出典(本文で参照している資料)
- 民法(e-Gov法令検索)606条、611条、615条、717条
- 宅地建物取引業法施行規則(e-Gov法令検索)16条の4の3
- 国土交通省:不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化
- 国土交通省:ハザードマップポータルサイト
- 気象庁:新たな防災気象情報について(令和8年〜)
- 気象庁:新たな防災気象情報の運用について(報道発表)
- 国土交通省:賃貸住宅標準管理受託契約書
- 損害保険料率算出機構:水災等地検索
- 損害保険料率算出機構:住宅向け火災保険参考純率の水災料率を細分化します(2023年6月)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。


