賃貸管理 読了 25分

単身高齢者を断らないために2026|残置物の処理等に関するモデル契約条項で死亡後の契約解除と残置物処理を先に決める契約実務を中小不動産の目線で整理

相続人が分からない単身入居者の死亡後がこわくて貸せない——その不安に、国は残置物の処理等に関するモデル契約条項で答えを用意しています。死亡後の契約解除と残置物処理を入居前に決めておく仕組みを、中小不動産の実務目線で解説します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
単身高齢者を断らないために2026|残置物の処理等に関するモデル契約条項で死亡後の契約解除と残置物処理を先に決める契約実務を中小不動産の目線で整理
目次

相続人がいるのか分からない単身の高齢者を、亡くなったあとが不安だからという理由で入居審査で断ってしまう——そんな場面が、中小不動産や管理会社の現場でいまも続いています。高齢の単身世帯はこれから増え続け、内閣府の高齢社会白書によれば、六十五歳以上の一人暮らしは少なくとも二〇四〇年まで増加し、いずれ六十五歳以上のおよそ四人に一人が独居になると見込まれています。空室が当たり前になりつつある時代に、要配慮者を受け入れられる会社ほど強くなる。その一方で、貸す側の不安は現実のものです。この不安に、国は答えを用意しています。国土交通省と法務省がまとめた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。しかも二〇二五年十月一日に施行された改正住宅セーフティネット法で、この仕組みは居住支援法人という受け皿とともに一段と動かしやすくなりました。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、単身高齢者の入居時に「死亡後の契約解除と残置物」を先に決めておく契約実務を、宅地建物取引士の目線で整理します。

なぜいま「単身高齢者を断らない」ことが経営課題になるのか

この十数年、賃貸の現場では入居者の高齢化と単身化が静かに進んできました。子世帯と離れて暮らす高齢の親、配偶者に先立たれた一人暮らし、生涯未婚のまま年齢を重ねた方——理由はさまざまですが、単身の高齢者が部屋を探す場面は確実に増えています。内閣府の高齢社会白書は、六十五歳以上の一人暮らしが少なくとも二〇四〇年まで増え続け、やがて六十五歳以上のおよそ四人に一人が独居になると見込んでいます。人口が減り、空室を埋めることが経営の最優先課題になっている今、この層を受け入れられるかどうかは、そのまま稼働率に跳ね返ります。

ところが実際には、単身高齢者の入居申込みが断られる場面が後を絶ちません。理由の多くは、亡くなったあとがどうなるのか分からないという不安です。とりわけ相続人の有無や所在がはっきりしない方の場合、貸主は室内の家財をどう片づけ、契約をどう終わらせればよいのか見通せず、審査の段階でためらってしまいます。この不安は的外れではありません。だからこそ国は、貸す側の不安を制度で和らげ、要配慮者の居住の安定を図ろうとしています。受け入れたいが不安だという現場の本音に向き合うための道具が、残置物の処理等に関するモデル契約条項です。

【要点】残置物モデル契約条項の全体像を一枚で

細部に入る前に、この仕組みの全体像を俯瞰します。押さえるべきは、なぜ貸せなくなるのかという問題の所在、それに対する制度の答え、契約の骨格、受任者の選び方、そして制度としての裏づけの五点です。

論点内容実務の勘所
なぜ貸せないか賃借人が亡くなると賃借権も室内の残置物の所有権も相続人へ承継される。相続人が不明だと契約解除も残置物処分も進まない問題は死亡後に起きるが、対策は入居前の契約で先に打っておく
制度の答え国土交通省と法務省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」で、死亡後の解除と残置物処理を委任として先に定めておく令和三年に策定され、令和七年十月にガイドブックやQ&Aが改訂された
契約の骨格解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約という二つの委任契約に分かれている二つを同じ受任者にまとめることも、別々に頼むこともできる
受任者は誰か推定相続人か、居住支援法人や社会福祉法人などの第三者が望ましいとされる貸主自身が受任者になると解除で利益相反に立つため避けるのが基本
制度の裏づけ二〇二五年十月施行の改正住宅セーフティネット法で、居住支援法人の業務に残置物処理が加わったその実施ではモデル契約条項の活用が基本とされ、使いやすさが増した

五つの論点は、別々の知識ではなく一本の線でつながっています。死亡後に生じる面倒を、入居前の契約であらかじめ引き受け手を決めておくことで小さくする。その引き受け手が受任者であり、役割を二つの委任契約に整理し、貸主以外の第三者に担ってもらう。そして二〇二五年十月の法改正で、その第三者として居住支援法人という受け皿が制度に位置づけられた。この流れを理解すると、単身高齢者の受入れは根性論ではなく、契約設計の問題として扱えるようになります。

入居者が亡くなると何が起きるか——賃借権も残置物も相続される

まず法律上の出発点を押さえます。賃借人が亡くなっても、その方が持っていた賃借権、つまり部屋を借りる権利は当然には消えず、相続の対象として相続人へ引き継がれます。同時に、室内に残された家具や家電、衣類といった家財、すなわち残置物の所有権も相続人へ承継されます。したがって、貸主が次の入居者のために部屋を片づけたくても、他人の所有物である残置物を勝手に処分することはできません。契約を終わらせるにも、相続人を相手に手続を踏む必要があります。

相続人がいて連絡も取れるなら、話は比較的シンプルです。協議して契約を解除し、残置物を引き取ってもらうか処分の同意を得れば、部屋は片づきます。問題は、相続人がいるのか分からない、いても所在が知れない、全員が相続を放棄しているといった場面です。この場合、貸主は相手方のいないまま宙づりになります。家賃の不払いがあっても貸主が実力で鍵を替えたり荷物を運び出したりする自力救済は固く禁じられていますが、亡くなったあとの残置物も、まったく同じ理屈で勝手に触れないのです。

相続人が分からないときの「正規ルート」の重さ

相続人の有無や所在が分からないまま、貸主が正規の手続だけで部屋を取り戻そうとすると、道のりはかなり重くなります。典型的には、家庭裁判所に相続財産清算人(令和五年の民法改正の前は相続財産管理人と呼ばれていました)の選任を申し立て、選ばれた清算人を相手に契約の清算や残置物の引取りを進めることになります。申立てには予納金が必要で、事案によっては数十万円規模の負担が生じますし、手続には数か月から年単位の時間がかかることも珍しくありません。その間、部屋は塞がったままで、次の募集はできません。

この負担の重さこそが、単身高齢者の入居がためらわれる根っこにあります。滞りなく暮らしてくれている間は問題がないのに、万一のときの後始末が読めないから審査を厳しくし、結果として住まいを必要とする高齢者が締め出される。この悪循環を断つには、後始末の引き受け手と手順を、契約であらかじめ定めておくしかありません。事後に重い手続へ突入するのではなく、事前に軽い契約で備える。その具体的な道具が、次に述べるモデル契約条項です。

残置物の処理等に関するモデル契約条項とは——二つの委任契約

残置物の処理等に関するモデル契約条項は、令和三年六月に国土交通省と法務省が共同で策定した契約書式のひな形です。単身高齢者が亡くなったあとに、契約関係と残置物を円滑に処理できるよう、賃借人本人と受任者との間で、いわゆる死後事務委任契約などを結んでおくためのものです。想定されている利用場面は、単身の高齢者、目安としては六十歳以上の方の入居時、つまり賃貸借契約を結ぶそのタイミングです。使うことは義務ではありませんが、合理的な委任契約を結びやすくするものとして、国は広く普及に努めています。

このモデル契約条項の最大の特徴は、目的の異なる二つの委任契約に分けて設計されている点です。一つは、亡くなったあとに賃貸借契約を終わらせる解除関係事務委任契約。もう一つは、室内の残置物を片づける残置物関係事務委託契約です。契約を分けているのは、解除という法律行為と片づけという事実行為とでは、性質も、任せるのにふさわしい相手も異なり得るからです。二つを同じ受任者に一本の契約書でまとめて頼むことも、役割ごとに別々の受任者へ分けて頼むこともできます。次の項で、それぞれの中身を見ていきます。

二つの委任契約は、それぞれ何を委ねるのか

一つ目の解除関係事務委任契約では、受任者に対し、賃借人が亡くなったあとに賃貸借契約を解除する代理権を与えておきます。これにより、本人の死亡後、相続人を探し出して交渉するという迂遠な段取りを踏まなくても、あらかじめ選んでおいた受任者が契約を終わらせられます。契約という入口を確実に閉じられることが、貸主にとっては大きな安心につながります。

二つ目の残置物関係事務委託契約では、受任者に対し、死亡後の残置物の廃棄や、指定した送り先への送付といった事務を委託します。ここには丁寧な歯止めが設けられています。受任者は、賃借人の死亡から一定の期間が経過し(モデル契約条項では、死亡からおおむね三か月程度の保管期間が目安として置かれています)、かつ賃貸借契約が終了したあとでなければ、残置物を処分できません。しかも、何でも捨ててよいわけではありません。賃借人が生前に「これは捨てないでほしい」と指定した品、いわゆる指定残置物は廃棄の対象から外し、相続人へ渡せるよう努めます。それ以外を廃棄する際も、売ってお金に換えられそうな換価できる残置物は、できるだけ換価するよう努める必要があります。故人の意思と相続人の利益に配慮しながら片づける、という設計思想が組み込まれています。

受任者は誰がなるべきか——「貸主以外の第三者」が基本

この仕組みの成否を左右するのが、受任者を誰にするかです。モデル契約条項では、受任者の第一候補として賃借人の推定相続人が挙げられていますが、身寄りのない単身高齢者では、そもそも頼める推定相続人がいないことが少なくありません。その場合には、居住支援法人や、居住支援を行う社会福祉法人のような第三者に受任者を担ってもらうことが想定されています。管理会社が受任者になれる余地もあり、そうなれば万一のときも管理側の主導で速やかに片づけを進められます。

受任者は、貸主以外の第三者から選ぶのが基本
ここで外してはならない勘所があります。賃貸人、すなわち貸主自身が受任者になるのは避けるべきだ、という点です。解除関係事務は、契約を終わらせるかどうかという判断を含みます。貸したい貸主と、終わらせる役割の受任者が同一人物では、利益が相反する関係に立ってしまいます。だからこそモデル契約条項は、貸主以外の第三者を受任者に据えることを基本とし、推定相続人か、居住支援法人などの第三者を想定しています。中小不動産としては、自社が管理者として受任者を引き受けられるのか、それとも地域の居住支援法人につなぐのかを、あらかじめ整理しておくと動きが速くなります。

二〇二五年十月の改正セーフティネット法——居住支援法人による残置物処理

この分野で見逃せない動きが、二〇二五年、令和七年十月一日に施行された改正住宅セーフティネット法です。この改正で、居住支援法人が行える業務に、入居者からの委託にもとづく残置物処理が新たに加えられました。これまで残置物の片づけを誰に頼めばよいのか、受任者の確保に悩んでいた現場にとって、地域の居住支援法人という受け皿が制度として明確になった意味は小さくありません。そして国土交通省は、この居住支援法人による残置物処理を実施するにあたっては、残置物の処理等に関するモデル契約条項を活用することを基本とする、と示しています。つまり、法改正と契約書式が噛み合う形で運用が動き出したのです。

制度の更新はこれだけではありません。モデル契約条項の活用ガイドブックは令和七年十月に第二版へ、大家さん向けの単身入居者の受入れガイドも同月に第五版へと改訂され、よくある質問をまとめたQ&Aも同月に更新されました。令和六年六月に内閣官房がまとめた高齢者等終身サポート事業者ガイドラインでも、このモデル契約条項が紹介されています。点在していた資料と制度が、居住支援法人という担い手とともに一つの流れに束ねられてきた——それがいまの局面で、単身高齢者の受入れは、個々の貸主の善意任せではなく、制度に支えられた選択肢になりつつあります。

契約書式の四類型と、賃貸借契約の特約

実際に使う段になると、どの書式を選ぶかが悩みどころになります。国土交通省は、そのまま使える契約書式を大きく四つ用意しています。一つ目は、解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を、同一の受任者との間で一通にまとめて結ぶ書式です。受任者を一人に集約できるなら、これが最もシンプルです。二つ目と三つ目は、二つの委任契約を別々の受任者と結ぶ場合の書式で、解除関係だけ、残置物関係だけ、をそれぞれ独立して契約できます。そして四つ目が、これらの委任契約の締結を前提に、関連する事項を賃貸借契約書のなかへ特約条項として盛り込む際の記載例です。

中小不動産の実務では、まず受任者を一人にまとめられそうかを見極め、まとめられるなら一つ目の書式を軸に検討するのが分かりやすいでしょう。役割を分けたいときに二つ目と三つ目を使い分けます。いずれの場合も、賃貸借契約書の側に四つ目の特約の記載例を反映させ、本体の契約と委任契約が矛盾なくつながるようにします。書式はいずれも国土交通省のウェブサイトから入手でき、条文ごとの解説も付いています。自社のひな形に組み込む前に、顧問の専門家に一度目を通してもらうと安心です。

運用でつまずきやすい点と、現場の工夫

制度としてよくできている一方で、現場に落とすと戸惑う場面もあります。第一に、受任者の確保です。推定相続人が第一候補とされるものの、身寄りのない方では頼めず、かといって管理会社がすべて引き受けるのも負担が重い。ここは、地域の居住支援法人や居住支援協議会とのつながりを日頃から作っておくことで、いざというときの選択肢を広げられます。第二に、指定残置物の保管です。捨てないでほしいと指定された品を一定期間預かるとなると、量によっては保管場所の確保が要りますし、期間も短くはありません。あらかじめ保管の範囲や方法を受任者と取り決めておくと、後の負担が読めます。

第三に、案外むずかしいのが、入居者本人に「残したい物」と「捨ててよい物」を決めてもらうことです。健康なうちに自らの死後を想像して仕分けをするのは、高齢の方であればなおさら気の重い作業です。残してほしい物のリストを作る、目印のシールを貼る、特定の場所にまとめておくといった方法が示されていますが、実際に行えるかは人により異なります。だからこそ、入居時に事務的に書類を交わして終わりにせず、なぜこの契約を結ぶのかを時間をかけて説明することが欠かせません。孤独死保険や家財整理の事業者、見守りサービスと組み合わせれば、備えはさらに厚くなります。

中小不動産・管理会社が整える受入れ体制

ここまでを、自社の受入れ体制づくりに落とし込みます。出発点は、オーナーへの説明です。単身高齢者を断ってきたオーナーの多くは、亡くなったあとの後始末を恐れています。その恐れに対し、モデル契約条項と居住支援法人という受け皿を使えば後始末の道筋をあらかじめ引ける、と具体的に示す。空室を長く抱えるより備えを整えて受け入れるほうが稼働率も安定する、という経営の観点まで添えれば、判断は動きやすくなります。次に、受任者候補となる地域の居住支援法人や社会福祉法人との関係づくりです。日頃からつながっておけば、いざ申込みが来たときに慌てません。

単身高齢者の受入れは、入居者情報と契約類型を台帳で管理できてこそ回る
ウルスタは、中小不動産会社の物件・オーナー・入居者・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。どの入居者がどの契約類型で、緊急連絡先は誰か、受任者は確保できているか、見守りや保険はどう組み合わせているか。単身高齢者の受入れは、こうした情報がひとつの画面に整っていて初めて安心して回せます。担当者が代わっても備えの状況が引き継がれ、万一のときにも、どの手順を踏めばよいかが記録からたどれます。受け入れる勇気を、記録と仕組みで支える。詳しくは https://ulsta.jp をご覧ください。

確認チェック七つ——単身高齢者の受入れを整えるために

単身高齢者の入居相談を、流れに沿った七つの確認に落とし込みます。第一に、入居者に頼める推定相続人がいるか、いなければ受任者を誰に担ってもらうかを確認する。第二に、地域の居住支援法人や居住支援協議会とのつながりがあるか、なければつくり始める。第三に、解除関係と残置物関係の二つの委任契約を、同一の受任者にまとめるか別々にするかを決める。第四に、国土交通省の四つの契約書式のうちどれを使い、賃貸借契約書に特約をどう反映するかを整理する。第五に、指定残置物の保管の範囲と期間、換価や送付の取り扱いを受任者と取り決める。第六に、少額短期保険や家財整理、見守りサービスを、どこまで組み合わせるかを検討する。第七に、以上の内容を入居者本人へ丁寧に説明し、書類の締結と説明の経緯を記録に残す。契約設計や相続・登記にわたる個別の法的判断が必要な場面では、弁護士や司法書士への相談を前提に案内します。

現場メモ——保証人のいない八十代の入居をどう受けたか

先日も、身寄りがなく連帯保証人も立てられないという八十代の単身男性について、入居できる部屋はないかという相談を受けました。以前の私なら、亡くなったあとの後始末を思って二の足を踏んでいたかもしれません。けれど今回は、まずオーナーに、残置物の処理等に関するモデル契約条項という仕組みと、地域の居住支援法人が受任者や見守りの担い手になり得ることを説明しました。後始末の道筋を先に引けると分かると、オーナーの表情が明らかに和らいだのを覚えています。

そのうえで、二つの委任契約を一通にまとめる書式を軸に、居住支援法人に受任者を引き受けてもらい、賃貸借契約書には対応する特約条項を添えました。あわせて、孤独死保険と月に一度の見守り連絡を組み合わせています。結果として、無事にご入居いただき、オーナーも納得のうえで貸し出せました。断らずに済んだのは、私の度胸ではなく、制度と契約の裏づけがあったからです。受け入れる勇気は、仕組みで支えられる。そう実感した一件でした。

よくある質問(FAQ)

Q1. 残置物の処理等に関するモデル契約条項は、必ず使わなければならないのですか。
いいえ。使うことが法令で義務づけられているものではありません。あくまで、単身高齢者の死亡後の契約解除と残置物処理を円滑にするために国が用意したひな形で、任意に活用するものです。ただし、これを用いると合理的な内容の委任契約を結びやすく、貸主の不安の軽減にもつながるため、国は広く普及に努めています。

Q2. 貸主である私が、そのまま受任者になってはいけないのですか。
避けるのが基本です。解除関係事務は契約を終わらせる判断を含むため、貸したい貸主が受任者を兼ねると利益相反の関係に立ちます。モデル契約条項は、推定相続人か、居住支援法人などの貸主以外の第三者を受任者に据えることを想定しています。管理会社が受任者を担える余地はあります。

Q3. 受任者になってくれる人が見つかりません。どうすればよいですか。
二〇二五年十月に施行された改正住宅セーフティネット法で、居住支援法人の業務に残置物処理が加わりました。地域の居住支援法人や居住支援協議会に相談すると、受任者や見守りの担い手が見つかることがあります。日頃からつながりを作っておくと、申込みが来たときに慌てずに済みます。

Q4. 入居者が亡くなったら、受任者はすぐに部屋を片づけてよいのですか。
すぐには片づけられません。受任者は、賃借人の死亡から一定の期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了したあとでなければ残置物を処分できないとされています。しかも、本人が捨てないでほしいと指定した指定残置物は対象から外し、相続人へ渡せるよう努めます。換価できる物は換価に努める必要もあります。

Q5. この契約を結べば、孤独死そのものや告知義務の問題も解決しますか。
別の話として整理してください。モデル契約条項は、死亡後の契約解除と残置物処理を円滑にする仕組みです。孤独死が起きたあとの初動や特殊清掃、心理的瑕疵の告知をめぐる判断は、それぞれ別の枠組みで考える必要があります。告知の実務は国土交通省のガイドラインにそって別途整えます。

Q6. 中小不動産や管理会社は、どこまで関与できますか。
担えるのは、オーナーへの説明、受任者候補となる居住支援法人などとの橋渡し、契約書式の選定と賃貸借契約への反映の支援、見守りや保険の組み合わせの提案、そして経緯の記録です。契約設計の細部や、相続・登記・訴訟にわたる法的判断は、弁護士や司法書士の領域です。役割の線を引き、専門家と連携するのが安全です。

まとめ:受け入れる勇気は、入居前の契約で支えられる

単身高齢者の入居をためらわせてきた最大の理由は、亡くなったあとの後始末が読めないという不安でしたが、その不安は、入居前にひとつの契約を結んでおくことで、あらかじめ引き受け手と手順を決めておける段階に来ています。残置物の処理等に関するモデル契約条項は、死亡後の契約解除と残置物処理を、解除関係と残置物関係の二つの委任契約に整理し、貸主以外の第三者を受任者に据えて備える仕組みです。二〇二五年十月に施行された改正住宅セーフティネット法で、居住支援法人という受け皿が制度に位置づけられ、ガイドブックやQ&Aも同じ時期に改訂されました。事後の重い手続で慌てるのではなく、事前の軽い契約で備える。まずは、自社が管理する物件で、受任者を誰に頼めるか、地域にどんな居住支援法人があるかを書き出すところから始めてみてください。受け入れる勇気は、根性ではなく、記録と契約と地域のつながりで支えられます。

著者: 馬場生悦(宅地建物取引士)。ウルスタ代表。中小不動産会社向けの実務メディアを運営する傍ら、自社で宅地建物取引業を営み、賃貸住宅の管理・客付けおよび戸建て・区分マンションを含む売買仲介と、オーナー・入居者の相談に携わる。本記事は、国土交通省・法務省の残置物の処理等に関するモデル契約条項と、二〇二五年十月に施行された改正住宅セーフティネット法をふまえ、単身高齢者の入居受入れをめぐる契約実務について、2026年7月時点の公開情報と自社での実務経験に基づき整理したものである。委任契約の個別の設計、指定残置物の取り扱い、相続・登記にわたる判断など、事案に応じた法的判断は、弁護士・司法書士などの専門家にご確認いただきたい。本記事は特定の契約や事業者を勧めるものではなく、判断の材料を整理することを目的としている。

参考: 国土交通省・法務省——残置物の処理等に関するモデル契約条項(令和三年六月策定)およびその契約書式・条文解説 / 国土交通省——残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック(令和七年十月・第二版)、大家さんのための単身入居者の受入れガイド(令和七年十月・第五版)、モデル契約条項に係るQ&A(令和七年十月更新) / 改正住宅セーフティネット法——居住支援法人の業務への残置物処理の追加(令和七年十月一日施行)およびモデル契約条項の活用 / 内閣官房——高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(令和六年六月) / 内閣府——高齢社会白書(単身高齢世帯の動向) / 民法——相続財産清算人など相続財産の管理および清算に関する規定 / いずれも2026年7月時点の公開情報および自社の不動産実務をもとに整理