賃貸物件の動画や360度画像を募集に使うときは、不動産の表示に関する公正競争規約の「写真又は動画」のルールに沿って、原則として取引する物件そのものを写し、加工やCGはその旨を明示することが前提です。成約した部屋の動画を載せ続けるとおとり広告の問題になり、他人が撮った素材や入居者の写り込みは著作権や個人情報の問題になります。AIで編集・生成する場合も、同じルールが当てはまります。
動画・360度画像で何が変わるか
物件動画や360度画像は、間取り図と静止画だけでは伝わりにくい部屋のつながりや広さの感覚、日当たりの様子を、内見の前に見てもらうための手段です。遠方からの住み替えや、平日に内見の時間をとりにくい入居希望者にとって、候補を絞る材料になります。
一方で、見せる情報が増えるほど、表示のルールに触れる場面も増えます。写真1枚なら気づく加工も、動画や360度画像では見落としやすく、掲載先も物件ポータル、自社サイト、SNS、動画サイトと広がりがちです。ここでは、使い方より先に、守るべきルールを条文で確認します。
表示規約の写真・動画のルール
不動産の広告には、宅地建物取引業法と景品表示法のほか、業界の自主ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」(以下、表示規約)と同施行規則が適用されます。表示規約4条は、「表示」を、顧客を誘引するための手段として事業者が行う広告表示と定義し、媒体としてインターネットによる広告表示を最初に挙げています。物件ポータルや自社サイトに載せる動画・360度画像も、この「表示」に当たります。
| ルール | 根拠 | 動画・360度画像での確認点 |
|---|---|---|
| 写真・動画は取引するものを表示する | 施行規則9条22号 | 募集している部屋そのものを撮る。別の部屋の映像を使うのは例外の条件に当たる場合だけ |
| CG・見取図・完成図・完成予想図はその旨を明示し、周囲の状況は現況に反する表示をしない | 施行規則9条23号 | 家具の合成や空の差し替えをしたら「CG」「イメージ」と分かるように示す |
| 写真・動画・CGなどで、規模・形状・構造などを事実と違う、または実際より優良と誤認させる表示をしない | 表示規約23条1項42号 | 広角で実際より広く見せる、傷や設備の不具合を消す加工に注意する |
| 眺望・景観の写真・動画・CGで、事実と違う、または実際より優良と誤認させる表示をしない | 表示規約23条1項43号 | 別の階や別の部屋からの眺めを使わない。見えない景色を合成しない |
| 誇大広告等の禁止 | 宅地建物取引業法32条 | 所在、規模、形質、環境、交通などについて著しく事実に相違する表示や、著しく優良・有利と誤認させる表示をしない |
| 不当な表示の禁止 | 景品表示法5条 | 実際より著しく優良と示す表示(1号)、著しく有利と誤認される表示(2号)、指定告示(3号)に当たらないようにする |
別の建物の写真・動画を使える例外
施行規則9条22号のただし書は、取引する建物が建築工事の完了前であるなど、その建物の写真・動画を使えない事情がある場合に限って、取引する建物を施工する者が過去に施工した建物の写真・動画を使えるとしています。その場合も、外観は構造・階数・仕様が同一で規模・形状・色などが類似するもの、内部は写す部分の規模・仕様・形状などが同一のものに限られ、他の建物である旨の明示が要ります。
この例外は主に新築を想定した書き方です。既存の賃貸住宅で、同じ建物の別の部屋や同じ間取りの別の部屋の映像を使いたい場合は、例外の条件に当たるかを所属する地区の不動産公正取引協議会に確かめてから判断するのが安全です。
おとり広告にしない運用
表示規約21条は、次の3つの広告表示を禁じています。
- 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示
- 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示
- 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示
景品表示法5条3号にもとづく告示「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公正取引委員会告示第14号)も同じ3つの類型を定めており、消費者庁は2号の例として売約済みの物件を挙げています。さらに表示規約24条は、継続して行う広告で内容に変更があったときは、速やかに修正するか表示を取りやめることを求めています。
動画や360度画像は、物件ポータル以外の場所にも載せることが多いため、成約したときに下げ忘れが起きやすい素材です。次のような運用が考えられます。
- 物件ごとに「どの媒体に、どの素材を載せたか」の掲載先一覧を作る。
- 申込み・成約の連絡を受けたら、その一覧を見て全媒体から取り下げ、取り下げた日を記録する。
- SNSや動画サイトに載せた動画も、募集の広告として使ったものは取り下げの対象に含める。
- 次の募集で同じ部屋の動画を使い回す場合は、設備や内装が変わっていないかを確かめてから使う。
AIで編集・生成するときの注意
家具を合成して生活のイメージを見せる、曇り空を青空に差し替える、写り込んだ私物や電線を消す、といった編集は、画像編集ソフトやAIの機能で手軽にできるようになりました。道具が何であっても、表示規約の判断は同じです。
- 家具の合成・内装の変更:施行規則9条23号のCGに当たると考え、画像の中や近くに合成である旨を示します。合成した家具で部屋が実際より広く見える構図は、表示規約23条1項42号の観点から避けます。
- 傷・汚れ・設備の不具合の消去:実物より良く見せることになるため、募集する状態のまま写すのが基本です。補修が済んでいないなら、補修後に撮り直します。
- 空や眺望の差し替え:眺望・景観の表示は表示規約23条1項43号の対象です。窓からの景色の合成はしません。
- 説明文やナレーションの自動生成:駅からの距離、面積、設備などの事実は、生成された文をそのまま使わず、物件資料と照らして確かめます。誤りがあれば宅地建物取引業法32条や景品表示法5条の問題になり得ます。
生成AIのサービスに入居者や申込者の個人情報を入力する場合について、個人情報保護委員会は「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)で、特定された利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること、入力した個人データがサービス提供事業者の機械学習に使われないことなどを十分に確認することを求めています。
著作権・写り込み・個人情報の注意
著作権:誰が撮った素材か
著作権法10条1項は、著作物の例として映画の著作物(7号)と写真の著作物(8号)を挙げています。著作者は複製する権利(21条)と、インターネットで送信できる状態にすることを含む公衆送信の権利(23条)を持ちます。前の管理会社や他の仲介会社が撮った写真・動画、オーナーが知人に頼んで撮った映像を使うときは、撮影した人から利用の許諾を得ているかを確かめます。撮影を外注する場合は、使える媒体と期間、編集してよいかを契約に書いておくと、後で迷いません。
建物の外観については、著作権法46条が、建築の著作物は建築による複製などの一定の場合を除いて利用できるとしています。室内に飾られた絵画やポスターなどの作品は、撮影の前に外しておくのが無難です。
写り込みと個人情報
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、個人情報の例として「防犯カメラに記録された情報等本人が判別できる映像情報」を挙げています。共用部や周辺の撮影で通行人や他の入居者の顔が判別できる映像は、個人情報に当たり得ます。
- 撮影は人の少ない時間帯を選び、顔が判別できる人が写ったらその部分を使わないか、ぼかす。
- 表札、郵便受けの名前、掲示物、駐車場の車なども写さないようにする。
- 入居中の部屋を撮る場合は、入居者の承諾を得て、私物が写らない範囲で撮る。
- 360度画像は撮影者自身や周囲の映り込みに気づきにくいため、公開前に全方向を確認する。
顧客の個人情報の扱い全般は改正個人情報保護法と不動産会社の顧客データ管理でも扱っています。
撮影から掲載・取り下げまでの手順の例
- 事前の確認:オーナーの承諾、入居中なら入居者の承諾、撮影する範囲を決める。
- 撮影:募集する部屋そのものを撮る。人や表札、私物が写らないようにする。
- 編集:加工した箇所を記録し、合成やCGはその旨を表示する。
- 掲載前の確認:表示規約で必要な表示事項と、動画・画像の内容が物件資料と一致しているかを照らす。
- 掲載:掲載先一覧に媒体と掲載日を記録する。
- 取り下げ:申込み・成約の連絡を受けたら、一覧の全媒体から速やかに下げ、日付を記録する。
- 保管:素材と許諾の記録を物件ごとに保管し、次の募集で使えるかを判断できるようにする。
| 確認項目 | 確認する内容 | 根拠・参考 |
|---|---|---|
| 写っている部屋 | 募集している部屋そのものか | 施行規則9条22号 |
| 加工・合成 | CGや合成である旨を表示しているか。広さや状態を誤認させないか | 施行規則9条23号、表示規約23条1項42号 |
| 眺望 | その部屋から実際に見える景色か | 表示規約23条1項43号 |
| 掲載の継続 | 成約・申込み済みの部屋が残っていないか | 表示規約21条・24条、昭和55年公正取引委員会告示第14号 |
| 素材の権利 | 撮影者の許諾、外注契約での利用範囲 | 著作権法21条・23条 |
| 写り込み | 人の顔、表札、私物が判別できないか | 個人情報保護委員会 ガイドライン(通則編) |
ウルスタくんには、物件・入居者の管理、募集図面(マイソク)、業者間流通(ウルスタBB)、お部屋探しサイト(ヘヤスタ)の機能があります。どの物件をどこで募集しているかを物件の情報とあわせて把握しておくと、成約時の取り下げの確認がしやすくなります。
よくある質問
Q1. 同じ間取りの別の部屋の動画を使ってもよいですか
施行規則9条22号は、写真・動画は取引するものを表示するのが原則で、例外は建築工事の完了前などの事情があり、条件を満たし、他の建物である旨を明示する場合に限っています。既存の部屋で使いたい場合は、所属する地区の不動産公正取引協議会に確かめてください。
Q2. 家具を合成した画像は使えますか
合成であることを明示し、部屋の広さや状態を実際より良く見せない範囲で使う考え方になります(施行規則9条23号、表示規約23条1項42号)。
Q3. 成約後もSNSに動画を残しておくと問題になりますか
募集の広告として載せたものなら、成約後に残すと取引できない物件の表示になり得ます。表示規約21条・24条を踏まえ、速やかに取り下げるか、募集を終えたことが分かる形に改めてください。
Q4. オーナーが撮った写真や動画はそのまま使えますか
撮影したのがオーナー本人でなければ、撮影者の許諾が要ります。オーナー本人が撮った場合も、募集に使ってよい範囲を確かめておくと安心です。
Q5. 360度画像に入居者の私物が写ってしまいました
公開前なら撮り直すか、該当部分を処理します。公開後に気づいた場合は、いったん掲載を止めてから差し替えます。
Q6. AIで作った物件紹介文は使ってよいですか
使うこと自体は禁じられていませんが、面積、駅からの距離、設備などの事実は物件資料と照らして確かめます。内容の責任は広告を出す会社にあります。
まとめ
物件動画や360度画像は、内見前に部屋を知ってもらう有力な手段です。ただし、表示規約の上では写真・動画の一種として扱われ、取引する物件そのものを写す、加工は明示する、成約したら速やかに下げる、という基本はそのまま当てはまります。AIでの編集や文章の生成も同じ物差しで判断し、著作権と写り込みの確認を撮影の手順に組み込んでおくことが、安心して使い続けるための土台になります。
筆者は宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士です。自社で賃貸住宅210戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。
出典(本文で参照している資料)
- 不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」:規約4条、21条、23条1項42号・43号、24条、施行規則9条22号・23号
- 不動産公正取引協議会連合会「公正競争規約の紹介」
- 消費者庁「不動産のおとり広告に関する表示」
- 不当景品類及び不当表示防止法(e-Gov法令検索):5条
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索):32条
- 著作権法(e-Gov法令検索):10条1項7号・8号、21条、23条、46条
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。