「物件動画があれば反響が変わるのは分かっている。でも、撮って、編集して、書き出す時間が現場にない」——賃貸の客付けをやってきた中小不動産会社なら、一度はこの壁にぶつかったはずです。2026年6月、リコーとLIFULLが連携し、360度カメラ「RICOH THETA」で撮影した空間データをもとに、AIが賃貸物件の集客動画を自動生成する機能をLIFULL HOME'S賃貸で開始すると発表しました。すでに手元にあるパノラマ画像を起点に、編集の手間をほとんど増やさずに「内見に近い体験」を伝える動画が出来上がる、という仕組みです。本記事は、ウルスタの代表として宅建業を営みつつ、自社で210室規模の賃貸住宅を管理・客付けする立場から、(1)今回の発表で何が変わるのか、(2)なぜ「動画の自動生成」が中小に効くのか、(3)自社とオーナーに跳ね返る論点、(4)現場で活かす実務SOP(5ステップ)、(5)物件タイプ別の使い分け、(6)避けるべき5つのNG、(7)よくある質問7問までを、現場が今日から準備できる粒度で整理します。ツールの仕様は今後変わり得るため、導入時は必ず提供元の最新情報を確認してください。
リコー×LIFULLの動画自動生成で「何が」変わるのか — 3つのポイント
まず押さえたいのは、この発表が「動画制作の外注先がもう一つ増えた」という話ではなく、撮影済みの360度データを起点に、編集工程をAIに肩代わりさせる仕組みだという点です。中小不動産会社がまずやるべきことは、この取り組みの中身を「撮影データの再利用」「編集工程の自動化」「ポータル連動」の3つで整理し、自社の客付けフローのどこに差し込めるかを考えることです。現場に効いてくるのは、おおむね次の三つに集約されます。
ポイント1:既に手元にあるパノラマ画像を再利用できる
ひとつめは、撮影データの再利用です。多くの会社がすでにVR内見やパノラマ掲載のために360度写真を撮っており、その同じデータを動画の素材として使い回せるのが今回の肝です。動画のためにわざわざ別撮りをするのではなく、撮影は一度で済ませ、そこから静止画・パノラマ・動画と複数の訴求手段を生み出す。撮影という最も時間のかかる工程を増やさずにアウトプットを増やせる点が、人数の少ない現場にとって現実的です。
ポイント2:編集工程をAIが肩代わりする
ふたつめは、編集の自動化です。これまで動画が後回しになっていた最大の理由は、撮影そのものよりも、カット割り・テロップ・書き出しといった編集に時間がかかるからでした。今回の仕組みでは、AIが空間データから物件の特徴や見せ場を解析し、動画を自動で組み立てます。編集スキルのある担当者が社内にいなくても、一定品質の動画が出てくる。属人的な編集作業から会社を解放できる可能性がある、という意味で前向きに捉えています。
ポイント3:大手ポータルの掲載動線に乗る
みっつめは、ポータル連動です。生成した動画が大手賃貸ポータルの掲載フローに組み込まれることで、作った動画を「どこで見せるか」という出口まで含めて用意される点が実務的です。中小会社が動画を内製しても、見てもらえる場所がなければ意味がありません。集客の母数が大きいポータル上で動画を見せられるなら、作る労力が反響に直結しやすくなります。自社サイトやSNSと組み合わせれば、訴求の面はさらに広がります。
正直に言うと、第一印象は「ついにここまで来たか」でした。当社でも内見前のパノラマは整えてきましたが、動画はどうしても後回しでした。撮影して、編集して、書き出して、を一物件ずつやる時間が現場にはなく、「動画はうちは無理」で止まっていた口です。駆け出しの頃、先輩から「内見の数が決まれば成約は後からついてくる」と叩き込まれましたが、逆に言えば内見まで来てもらえない物件は、どれだけ条件が良くても存在しないのと同じでした。動画で「内見に近い体験」を先に届けられるなら、それは内見の質を上げる前に、内見そのものの母数を増やす話になります。現場の肌感覚として、これは効きます。
なぜ今、動画の自動生成が中小不動産会社に効くのか — 3つの背景
背景を理解しておくと、オーナーへの説明にも説得力が出ます。動画の自動生成が今の中小現場に刺さる要因は、(1)動画制作の内製ハードルの高さ、(2)深刻化する人手不足、(3)内見前に意思決定が進む入居検討行動の3つです。いずれも一過性ではなく構造的なものなので、「うちには関係ない」と構えるより、使える前提で準備を整えておくのが正解です。
背景1:動画制作の内製ハードルが高すぎた
第一に、内製の難しさです。物件のリッチコンテンツ作りは、現場でいつも後回しになる仕事の代表格でした。間取り図と静止画を数枚並べてコメントを少し書いて掲載する。本当は動画があれば反響が変わると分かっていても、撮影・編集・書き出しを一物件ずつやる時間がない。結局「動画はうちは無理」で止まる会社がほとんどでした。撮影データを起点に編集負荷を増やさず動画を一つ増やせるなら、この長年の言い訳を一つ崩せます。
背景2:人手不足で「充実」と「効率」の両立が難しい
第二に、人手不足です。物件情報を充実させたいが、その手間をかける人がいない——この「充実と効率の両立」のジレンマは、大手より、むしろ人数の少ない中小の管理会社・仲介会社ほど切実です。新しい媒体や手法が出るたびに、やりたくても手が回らずに見送ってきた会社は多いはずです。すでにある撮影データを起点に、人の作業を増やさずに訴求手段を一つ増やせる仕組みは、この構造的な制約に正面から効きます。
背景3:入居検討は「内見前」に大きく進む
第三に、入居検討行動の変化です。入居希望者は、内見に行く前にスマートフォンで物件を比較し、見に行く物件を絞り込みます。静止画と文章だけでは伝わらない部屋の広がりや動線が、動画なら短時間で伝わる。内見前の段階で「ここは見に行く価値がある」と思ってもらえるかどうかが、内見数、ひいては成約数を左右します。動画は、内見の質を上げる前に、内見そのものの母数を増やすための手段だと位置づけると、投資対効果が見えやすくなります。
自社の客付けとオーナー提案に効いてくる論点
ここまでの動きが、現場の実務にどう跳ね返るのかを整理します。結論から言えば、効いてくるのは「客付けスピードと反響の質」「空室対策の手札」「オーナーへの提案力」の3点です。賃貸を扱う中小会社なら、いずれも必ず当たります。
論点1:客付けのスピードと反響の質が上がる
動画があると、入居希望者は内見前に部屋のイメージを掴めるため、問い合わせの段階での温度感が上がります。「とりあえず見てみたい」ではなく「ここに決めたいので確認したい」という問い合わせが増えれば、内見から成約までの歩留まりが改善します。限られた人数で客付けを回す中小会社にとって、反響の量だけでなく質が上がることは、現場の負担軽減に直結します。
論点2:値下げの前に試せる空室対策が一枚増える
空室が長引いたとき、家賃を下げる以外の打ち手をどれだけ持っているかは、管理会社の力量そのものです。「この物件は動画でこう見せて募集します」と具体的に語れる会社は、値下げを提案する前に試せる手札を一枚多く持っていることになります。賃料を下げればオーナーの収益は確実に減りますが、見せ方を変えるだけなら収益を守ったまま反響を狙える。空室対策の引き出しとして、動画は有力な選択肢になります。
論点3:オーナーへの提案材料になる
意外と見落とされがちですが、こうした集客手段はオーナーへの提案材料にもなります。管理を任せてもらえるかどうかは、空室が出たときに「どう埋めるか」を具体的に語れるかで決まります。「御社の物件は動画でこう訴求します」と提案できる会社は、それだけで一段強い。新しい集客手法を自社の標準メニューに組み込み、オーナーに説明できる状態にしておくことが、管理受託の競争力につながります。
当社でこの種の新しい集客手法を取り入れるとき、いつも痛感するのは「導入そのものより、その手前の段取りに時間が奪われる」ということです。撮影データがスタッフ個人の端末に散らばっていたり、物件と募集状況がエクセル台帳に閉じ込められていたりすると、せっかく動画が自動で作れても、肝心の物件を探す・データを集めるところで止まってしまう。逆に、撮影と物件管理の段取りさえ整っていれば、新しいツールは驚くほどすんなり現場に乗ります。新しい武器が出たときに「うちは無理」となるか「すぐ試せる」となるかは、ツールの性能ではなく、足元の業務がどれだけ整っているかで決まる——これが10年やってきた実感です。
現場で活かすための実務SOP(5ステップ)
では、この仕組みを自社の業務にどう落とし込むか。ツールが賢くなるほど効いてくるのは「その手前の業務が整っているか」です。動画が自動で出来ても、募集状況や反響の管理がバラバラなら、せっかくの問い合わせを取りこぼします。今日から整えられる順番で、5つのステップに整理します。
ステップ1:撮影の手順を標準化する
まず、360度撮影の手順を社内で標準化します。誰が撮っても一定品質のデータが残るように、撮影位置・高さ・明るさ・撮る部屋の順番を簡単な手順書にまとめておくのが出発点です。動画の品質は、AIの性能だけでなく、入力となる撮影データの質に左右されます。退去後の原状回復が終わったタイミングで撮影を組み込むなど、既存の業務フローのどこで撮るかも決めておきましょう。
ステップ2:撮影データを一元管理する
次に、撮影した360度データを物件ごとに一元管理します。データがスタッフ個人のスマホやバラバラのフォルダに散らばっていると、動画を作りたいときにすぐ使えません。物件と撮影データ、募集状況がひもづいた状態を保つことが、動画を含むコンテンツをスピーディに回す前提になります。物件と入居状況がエクセル台帳に閉じ込められたままだと、集客側を強化しても社内の情報がつながらないので、ここは早めに整えたいところです。
ステップ3:動画を生成し、出す場所を決める
撮影データから動画を生成したら、それをどこで見せるかを決めます。大手ポータルの掲載動線に乗せるのは基本として、自社サイトやSNS、オーナーへの報告資料など、同じ動画を複数の場所で使い回す前提で運用設計をすると、一本の動画から得られる反響が増えます。動画を「作って終わり」にせず、出口を複数用意することが、労力を反響に変える鍵です。
ステップ4:反響を計測し、効いているかを確かめる
動画を出したら、反響がどう変わったかを必ず計測します。動画を載せた物件と載せていない物件で、問い合わせ数・内見数・成約までの日数を比べるだけでも、効果の有無は見えてきます。「なんとなく良さそう」で終わらせず、数字で確かめることが、オーナーへの説明にも、社内での横展開の判断にも効きます。最初は数物件で試し、効果を確認してから広げるのが現実的です。
ステップ5:取りこぼさない追客体制を整える
最後に、増えた反響を取りこぼさない体制を整えます。動画で問い合わせが増えても、次回アクション・期限・担当が曖昧なままだと、せっかくの反響を追い切れません。動画はあくまで入り口を広げる手段であり、その先で確実に成約につなげるのは、追客の運用設計です。集客側を強化するなら、受け側の体制もセットで見直しておくことが、効果を最大化します。
物件タイプ別の使い分け
代表的な4つの場面について、活用の方向性を整理します。自社が扱う物件と体制に合わせて、無理のない範囲から取り入れてください。
ケースA:単身向けワンルーム中心の場合
単身向けは、検討から決定までのスピードが速く、内見前に絞り込まれる傾向が強い物件です。動画で部屋の広がりや日当たり、共用部までの動線を短時間で伝えられると、内見前の絞り込みで選ばれやすくなります。テンポよく見せる短尺の動画が向きます。
ケースB:ファミリー向け物件の場合
ファミリー向けは、各部屋の用途や収納、生活動線が決め手になります。動画で間取り全体のつながりや部屋から部屋への移動を見せると、文章や静止画では伝わりにくい暮らしのイメージが届きます。内見の手間が大きい層だからこそ、内見前の納得感づくりに動画が効きます。
ケースC:初めて動画を導入する場合
これまで動画を作ってこなかった会社は、まず数物件で試し、撮影から生成、掲載、反響計測までの一連の流れを小さく回してみるのが現実的です。いきなり全物件に広げず、効果を確認しながら手順を自社に合わせて整えていくほうが、無理なく定着します。
ケースD:すでにパノラマ撮影をしている場合
すでにVR内見やパノラマ掲載のために撮影をしている会社は、その既存データを動画の素材として活かせる可能性が高く、最も導入のハードルが低い立場です。撮影をやり直す必要がないぶん、まずは手元のデータで動画を生成し、反響への効果を確かめるところから始められます。
動画活用で避けるべき5つのNG
最後に、動画導入の場面で現場がやりがちな失敗を5つ挙げておきます。いずれも「ツールが現場を救ってくれる」と過信することから生じるものです。
NG1:撮影手順を決めずに各自バラバラに撮る
撮影位置や明るさが物件ごとにバラバラだと、生成される動画の品質も安定しません。誰が撮っても一定品質になるよう、最低限の撮影手順を先に決めておきましょう。
NG2:作って終わりにして出口を用意しない
動画を作っても、見てもらえる場所を用意しなければ反響にはつながりません。ポータル・自社サイト・SNS・オーナー報告など、出す場所を先に決めてから生成する習慣をつけましょう。
NG3:効果を計測せず感覚で続ける
「なんとなく良さそう」で続けると、効いているのか分からないまま手間だけが残ります。動画あり・なしで反響を比べ、数字で効果を確かめてから横展開を判断しましょう。
NG4:受け側の追客体制を整えないまま反響だけ増やす
動画で問い合わせが増えても、追客の運用がザルだと取りこぼします。集客側を強化するなら、次回アクション・期限・担当を整える追客体制をセットで見直しましょう。
NG5:撮影データを個人任せで散らかす
撮影データがスタッフ個人の端末に散らばると、使いたいときにすぐ動画化できません。物件・撮影データ・募集状況をひもづけて一元管理し、会社の資産として残しましょう。
よくある質問
Q1. 動画の自動生成は、いつから使えるのですか。
リコーとLIFULLは、LIFULL HOME'S賃貸において、360度空間データからAIで物件動画を自動生成する機能を2026年6月より開始すると発表しています。提供条件や対応範囲は今後変わり得るため、導入時は提供元の最新情報を必ず確認してください。
Q2. 動画のために、また別の撮影が必要になりますか。
今回の仕組みは、360度カメラで撮影した空間データを起点にAIが動画を生成するもので、すでにパノラマ撮影をしている会社は、その既存データを活かせる可能性があります。動画専用の別撮りを前提とせず、撮影を一度で済ませて複数の訴求手段を生み出す発想が合います。
Q3. 編集スキルのある担当者が社内にいなくても使えますか。
編集工程をAIが肩代わりする仕組みのため、編集スキルを持つ担当者がいなくても一定品質の動画が得られる点が特徴です。ただし、入力となる撮影データの質は動画の品質に影響するため、撮影の手順を整えておくことが大切です。
Q4. 中小の会社でも導入する意味はありますか。
むしろ人数の少ない中小ほど意味があります。物件情報の充実と効率化の両立は、人手の限られた現場ほど切実なテーマです。すでにある撮影データを起点に、人の作業を増やさずに訴求手段を増やせる点が、中小の構造的な制約に効きます。
Q5. 動画を入れれば、必ず成約は増えますか。
動画は内見の母数を増やすための手段であり、それ単体で成約を保証するものではありません。増えた反響を取りこぼさない追客体制や、適切な賃料設定とセットで初めて成約につながります。動画あり・なしで反響を計測し、効果を確かめながら活用してください。
Q6. まず何から始めればよいですか。
撮影手順の標準化と、撮影データの一元管理からです。動画が自動で作れるようになっても、その手前の業務が散らかっていると効果が出ません。数物件で試し、撮影から生成、掲載、反響計測までの流れを小さく回してから広げるのが現実的です。
Q7. オーナーにはどう説明すればよいですか。
「空室が出た際に、値下げの前に動画でこう訴求します」と、具体的な空室対策の手札として説明するのが効果的です。賃料を下げずに反響を狙える選択肢が増えることは、オーナーの収益を守る提案になります。効果を計測した数字があれば、説明の説得力はさらに増します。
まとめ:ツールを活かせるよう、足元の段取りを整えた会社が勝つ
リコー×LIFULLの動画自動生成は、「動画はうちには無理」という中小不動産会社の長年の言い訳を一つ崩してくれる動きです。撮影済みの360度データを起点に、編集の手間をほとんど増やさずに集客動画を生み出せるなら、内見前の絞り込みで選ばれる確率を上げ、値下げの前に試せる空室対策を一枚増やし、オーナーへの提案力を高められます。ただし、ツールが現場を救ってくれるわけではありません。救ってくれるのは、撮影手順を標準化し、撮影データを一元管理し、反響を計測し、取りこぼさない追客体制を整えた——つまりツールを活かせるよう業務を整えた現場だけです。新しいニュースを見たときこそ、自分の足元の段取りを見直す。まずは撮影手順を一枚にまとめ、数物件で試すところから始めてみてください。地味な整備ですが、新しい武器を反響に変えられるかどうかは、結局この土台で決まります。今日も一件、丁寧に積み上げていきましょう。
参照: リコー「LIFULLと連携し360度空間データとAIで賃貸物件の動画コンテンツを自動生成する取り組みを開始」(2026年5月11日) / LIFULL「LIFULL HOME'S賃貸、360度空間データから物件動画をAIで自動生成する機能を2026年6月より開始」 / 各社報道発表資料(2026年5月時点の公開情報)


