この制度は家賃補助ではありません。令和8年熊本地震により災害救助法が適用され、熊本県と熊本市が賃貸型応急住宅、いわゆる「みなし仮設住宅」の受付を始めました。民間の賃貸住宅を行政が借り上げ、被災者に無償で提供する仕組みです。最初に間違えられるのは、家賃上限の性格です。県のQ&Aは、上限を超える金額について入居者が差額を支払うということには「なり得ない」と書いています。補助ではなく現物支給だからです。この一行を理解しているかどうかで、仲介の現場が空回りするかどうかが決まります。
災害救助法の適用日は7月28日。制度はもう動いている
熊本県が公表している「令和8年熊本地震 賃貸型応急住宅に係るQ&A」の最初の設問に、日付が書かれています。被災時点、すなわち災害救助法の適用日は7月28日です。本稿の日付は2026年8月20日ですから、適用日から23日が経過した時点になります。
この23日は実務上わりに重い数字です。被災した方の多くは、行政の受付が整うのを待たずに部屋を探し始めます。県のQ&Aにも「発災後直ぐに民間アパートに入居したが、そのまま賃貸型応急住宅として扱ってもらえるか」という設問が立っている。制度が動き出す前に成立してしまった契約をどう扱うかが、最初から論点になっています。
骨格も先に置きます。行政が民間賃貸住宅を借り上げ、被災者に無償で提供する。賃料を払うのは行政で、入居者は家賃を負担しません。ただし物件を用意するのは行政ではなく、被災者自身が探します。そして県の要件には「不動産仲介業者が斡旋した住宅であること」という項目がある。仲介会社が関与しないと成立しない設計です。
賃貸型応急住宅は災害救助法にもとづく仕組みで、どの都道府県でも起こり得ます。自分の営業エリアで同じことが起きたときに何を聞かれるかを、いま読んでおくための記事として書きました。
【要点】仲介・管理会社が最初に押さえる3点
| 押さえること | 制度に書かれていること |
|---|---|
| 家賃上限を超えた部屋は、差額を入居者が足しても使えない。「あと3千円だけご負担いただければ」が成立しない | 県のQ&Aは、家賃補助ではなく現物支給する制度であり、限度額を超える金額について入居者が差額を支払うということには「なり得ない」と明記している |
| 借主は行政。契約は被災者・貸主・行政の三者による定期建物賃貸借になる。通常の契約書式は使わない | 県は「被災者・貸主・県の三者契約が必要です。県が借主となります」と記載。熊本市の様式にも「定期建物賃貸借住宅契約についての説明」が含まれる |
| 貸主が同意しなければ、そこで終わる。行政が貸主を説得してくれるわけではない | 県のQ&Aは、三者の合意形成が必要であり、貸主の同意が得られないということであれば契約の締結はできない、制度の説明は可能だがあくまで貸主から納得をいただいてからの契約になる、としている |
熊本県と熊本市は別建て。県の対象区域は20市町村
実務で最初につまずくのがここです。熊本県の制度と熊本市の制度は、別に動いています。県のページの対象区域には、はっきりと「※熊本市を除く」と書かれています。
県の対象区域は、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市、美里町、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、氷川町、芦北町、津奈木町。9市・10町・1村の合計20市町村で、これに熊本市を加えれば21市町村です。熊本市については市が借上げの主体になり、問い合わせ先も市の住宅政策課になります。
申込書の提出先は被災元の市町村です。県のQ&Aは、A町で被災してB市の物件に入居する場合の提出先はA町だと答えています。物件の所在地ではなく被災した場所が基準になる。入居先の窓口に持ち込んでも受け付けられません。
家賃上限は4段階。1円でも超えたら対象外
家賃の上限額は入居人数に応じて4段階で、熊本県と熊本市で同額が設定されています。
| 入居人数 | 家賃上限(月額) | 前の段階との差 |
|---|---|---|
| 1人(単身)の世帯 | 5万5千円 | — |
| 2人の世帯 | 6万5千円 | 1万円 |
| 3〜4人の世帯 | 9万5千円 | 3万円 |
| 5人以上の世帯 | 13万円 | 3万5千円 |
県のページには、この表のすぐ後に括弧書きでこう書かれています。「次の額を超過するものは認められず、超過分を個人負担することも不可」。二重に否定されています。超過する物件は認められない。超過分を個人が負担することもできない。
理由もQ&Aに書かれています。「この制度は『家賃補助』ではなく、応急仮設住宅を『現物支給』する制度です。物件は県が借り上げるため、限度額を超える金額について入居者が差額を支払う、ということにはなり得ません」。建設型の仮設住宅に「建築費を自己負担するので広くしてほしい」と言えないのと同じ理屈です。
実務に翻訳すると、単身の方に家賃5万6千円の部屋を提案することはできません。差額千円を本人が払う、家族が払う、会社が払う、いずれも制度の外に出ます。予算6万円のお客様に6万3千円の部屋を見せて少し無理をしていただく、という提案が成り立つ世界から来ると、この壁を忘れます。ピックアップの時点で上限超過を候補から落とす。これを最初のルールにしないと、内見まで進んでから戻ることになります。
線引きは周辺にも一貫しています。入居者が負担するのは光熱水費、専用設備の使用料、故意または過失による損害の修繕費、駐車場料金、ペット飼育料、自治会費など。いずれも住宅そのものではなく、使い方に付随する費用です。
貸主が同意しなければ、そこで終わる
県の要件には「貸主から同意を得ているもの」とあります。この同意が何の同意なのか、Q&Aが具体的に説明しています。本制度に則って住宅を借りることについての同意であり、次の3点を理解してもらう必要がある、とされています。
- 家賃上限額等の条件があること
- 三者契約となるため、契約形態が通常と異なること(行政が借上げ、入居者に提供する)
- それに伴い、契約書の様式が通常の契約と異なること
そして、貸主が契約に応じない場合について、こう書かれています。「三者の合意形成が必要です。貸主の同意が得られないということであれば、契約の締結はできません。県から貸主に対し、制度の説明等を行うことは可能ですが、あくまで貸主様から納得をいただいてからの契約となります」。
ここは管理会社の仕事です。説明はしてくれるが、説得はしない。オーナーが気にする点は経験上だいたい決まっていて、誰が家賃を払うのか、原状回復はどうなるか、期間が終わったらどうなるか、そして書式が違うことによる手間。このうち原状回復と期間満了後の扱いには、制度側に明示的な答えがあります。定期建物賃貸借そのものの実務は定期借家契約の実務で扱っています。
費用は誰が持つのか——熊本市の負担明細
熊本市のページには、市が負担する費用の明細が表で公開されています。
| 項目 | 市の負担 |
|---|---|
| 賃料 | 入居人数に応じた上限額の範囲内 |
| 共益費(管理費) | 貸主または仲介事業者との契約に不可欠なものに限る |
| 退去修繕負担金(敷金) | 家賃の2か月分以内。退去時における原状回復(通常損耗、経年劣化を含む)に要する費用とし、退去時に返還請求を行わない |
| 礼金 | 家賃の1か月分以内 |
| 仲介手数料 | 家賃の0.55か月分以内 |
| 鍵交換費 | 実負担額。通常徴収している額であり、社会通念上必要な金額を限度とする |
| 損害保険料 | 市が包括契約に基づき加入する |
目を引くのは退去修繕負担金の設計です。名称は敷金ですが性格が違います。家賃の2か月分以内を上限に退去時の原状回復費用として支払い、行政は退去時に返還請求を行わない。しかも通常損耗と経年劣化を含む、と明記されています。つまり預り金ではなく渡し切りの原状回復費です。通常の敷金精算で最も揉める線引きを議論しない設計になっている。オーナーへの説明では前向きな材料になります。通常の考え方は原状回復と敷金精算で整理しました。
ただし、入居者の故意・過失による損壊の修繕費で退去修繕負担金では賄えなかった不足額は入居者負担です。渡し切りだから何でも許される、ではありません。
仲介手数料0.55か月という数字の読み方
仲介手数料は家賃の0.55か月分以内です。宅地建物取引業法の報酬額の上限が賃貸で借賃の1.1か月分(税込)であることを踏まえると、その半分にあたります。金額に直しておきます。
| 世帯 | 家賃上限 | 仲介手数料の上限(0.55か月) | 退去修繕負担金の上限(2か月) |
|---|---|---|---|
| 1人(単身) | 5万5千円 | 3万250円 | 11万円 |
| 2人 | 6万5千円 | 3万5,750円 | 13万円 |
| 3〜4人 | 9万5千円 | 5万2,250円 | 19万円 |
| 5人以上 | 13万円 | 7万1,500円 | 26万円 |
通常案件と比べて厚い数字ではありません。一方で書類の量ははっきり多い。採算だけで見れば楽な仕事ではない、という前提は正直に置いたほうがいいと思います。それでも動く理由は別にあります。
火災保険は行政が包括契約する。ただし家財補償はない
損害保険は行政が包括契約に基づいて加入します。入居者が自分で保険会社を選んで加入する形ではありません。加入のタイミングには2パターンあり、県のQ&Aの記載が明快です。新規の場合は入居初日分から県が加入。切替の場合は三者契約成立日を保険加入日とし、入居日から三者契約成立日までの期間に入居者が加入していた火災保険料は入居者負担になります。
補償内容にはっきりした注意書きがあります。県が加入する保険は借家人賠償責任等の最低限の補償であり、家財補償、類焼補償がありません。家財補償等が必要な場合は必要に応じ別途入居者が加入してください、と書かれています。
ここは入居時の説明でいちばん抜けやすいところです。「保険は行政が入るので大丈夫です」で終わらせると、家財が無補償のまま2年間が過ぎます。被災して家財を失った方が次の住まいで揃え直すわけですから、必要性はむしろ高い。制度が入るのは借家人賠償までだ、と言い切る一文を案内書に入れておくべきです。賃貸の火災保険まわりの動きは火災保険料率改定と賃貸管理でも扱いました。
耐震性は書類で確認される
県の要件は「原則、耐震性が確認されている住宅であること」です。熊本市はさらに具体的で、新耐震基準で建設(昭和56年6月1日以降に着工)された住宅、または耐震診断・耐震改修等により耐震性が確認できる住宅としています。手続きも指定されていて、「物件概要説明書にて耐震性をチェックのうえ、証明するものの写しの提出が必要」とあります。チェックだけでなく証明書類の写しを添える。着工日が分かる資料を貸主の手元から出してもらう作業が発生します。
例外的な扱いもあります。県のQ&Aは切替の場合について、原則として耐震性を有している住宅が対象だが、既に個人で契約している等のやむを得ない事情がある場合等は、管理会社等により賃貸可能と確認された住宅については対象とする場合があるとしています。判断の起点が管理会社に置かれている点は認識しておくべきです。
入居期間は2年。応急修理を併用すると6か月
| ケース | 入居期間 |
|---|---|
| 原則 | 入居日から2年以内 |
| 住宅の応急修理制度を併用する場合 | 応急修理を申し込んだ日から原則6か月以内 |
期間の途中でも退去が必要になる条件が明示されています。恒久的な住まいを確保した場合、断水等のライフラインが復旧した場合、応急修理が完了した場合は、速やかに退去する必要があります。2年は「住んでよい上限」であって「住める期間」ではありません。
2年をフルに使った場合の公費負担を家賃だけで概算すると、単身の上限5万5千円なら24か月で132万円、5人以上の上限13万円なら312万円。ここに退去修繕負担金、礼金、仲介手数料、鍵交換費、保険料が乗ります。一戸あたりの公費が小さくないことは、運用が厳格であることの背景として理解しておくといいと思います。
満了後の扱いも制度側に書かれています。引き続き同じ物件に住みたい場合は、貸主と入居者の二者間で新たに賃貸借契約を締結する必要があります。三者契約は定期建物賃貸借ですから自動更新はありません。つまり2年後に、通常契約への切り替え相談が一斉に発生する。手数料は0.55か月分ですが、関係は2年続く、ということでもあります。
順番を間違えると、使えなくなる制度がある
| 組み合わせ | 可否 |
|---|---|
| 賃貸型応急住宅と建設型応急住宅 | 併用不可。賃貸型に入居する方は、新たに建設型に入居することはできない |
| 賃貸型応急住宅と住宅の応急修理制度 | 併用可。ただし必ず先に応急修理を申し込む必要がある |
| 賃貸型応急住宅と障害物の除去制度 | 障害物の除去制度を利用していないことが、賃貸型の入居要件になっている |
2つめが特に重要です。県のQ&Aは「必ず先に応急修理の申し込みを行っていただき、応急修理の期間が1か月を超える程度の工事になる場合に賃貸型応急住宅が利用できます」と書き、続けて「先に賃貸型応急住宅に申し込みをされた場合、応急修理制度の利用ができなくなります」と明記しています。
お客様が窓口に行く前に、仲介の側でこれを言えるかどうか。「自宅を直して戻る予定があるなら、応急修理の申込みを先に済ませてから来てください」の一言で、順序の事故はほぼ防げます。逆に、これを言わずに賃貸型を先行させると修理の公費が使えなくなる。取り返しのつかない種類の親切です。
切替——7月28日以降の個人契約は巻き取れる
冒頭の論点に戻ります。制度の受付が始まる前に、自分で部屋を借りてしまった人をどうするか。答えは「巻き取れる」です。
熊本市は令和8年7月28日以降にすでに個人で契約して入居している場合でも、入居対象者の要件と賃貸型応急住宅の条件に適合し貸主の同意が得られれば、被災者・熊本市(借主)・物件所有者(貸主)の三者が契約を締結することで入居日に遡って本事業の対象とすることができる、としています。県も、7月28日以降に契約されて入居済の場合は三者契約を結び直すことで支払済の費用のうち県負担分の一部を遡って精算できるとしています。
手順は、前の契約を解除し、行政・貸主・入居者で三者契約を締結し直す形です。県のQ&Aは、その前提として住宅所有者と仲介業者の協力が必要になると書いています。管理会社が担うのは実質的に3つ。貸主の同意を取ること。前契約の解除と新契約の段取りを組むこと。支払済み費用の精算を貸主・入居者間で調整すること。いずれも行政が代行する部分ではありません。
切替にも条件があります。県のQ&Aは、既に個人で契約して入居済でも家賃が上限を超過している場合は原則として対象外だと答えています。上限のルールは切替でも緩みません。
遡及できない費用がある。ここが揉める
切替でいちばん説明が必要なのは遡及の範囲です。熊本市は明確に線を引いています。「ただし、仲介手数料、賃貸物件保証金、火災保険料等については遡及できません」。県のQ&Aは費目ごとの扱いを書いています。
| 費目 | 切替時の扱い(県のQ&A) |
|---|---|
| 家賃、共益費(または管理費)、礼金、退去修繕負担金、鍵交換費用 | 三者契約締結後、貸主から入居者へ返金されることが基本 |
| 火災保険料、賃貸物件保証金、仲介手数料 | 約款、契約、商習慣等に基づき返還されないことが一般的 |
そのうえで県は、民民の契約に基づき入居者が支払った家賃・一時金等の精算方法は入居者と貸主で協議のうえ合意を図ってください、としています。行政は精算の当事者になりません。返金の話し合いは、実際には管理会社が間に入って進めることになります。
この非対称は事前に説明しないと必ず揉めます。入居者から見れば「遡って対象になった」と聞いているのに、仲介手数料と保険料と保証金は戻ってこない。戻る費目と戻らない費目を一枚の紙にして、切替の相談の最初に渡すのが安全です。後から口頭で説明すると、後出しに聞こえます。
対象にならない物件・契約形態
| 類型 | 可否 |
|---|---|
| 戸建て住宅(空き家) | 該当する |
| 個人住宅の一室を提供するような間借り | 賃貸住宅と認められないため該当しない |
| 下宿、寮 | 対象とならない |
| 会社が借上げて補助する形(貸主と法人の契約) | 社宅とみなされるため利用できない |
戸建ての空き家が対象になる点は実務上わりに大きいと思います。単身の上限5万5千円で探すと、共同住宅だけでは候補が尽きることがある。管理受託している戸建てや、売却相談で預かったまま動いていない空き家に選択肢が残っている場合があります。空き家の活用そのものは空き家と管理業のビジネスモデルで書きました。
世帯の数え方——分割は原則不可、未就学児は0.5人
家賃上限が人数で決まる以上、人数の数え方が金額を決めます。県のQ&Aは、1世帯を2世帯に分けてそれぞれ申し込むことは原則としてできないとしています。供与は被災した世帯を基本に考えること、限られた戸数をできる限り多くの方に提供する観点から世帯を分けることは好ましくないこと、が理由です。判断のベースは罹災証明書。逆に2世帯を1世帯にして申し込むことは可能とされています(2世帯ともに要件を満たす必要があります)。
熊本市には人数換算の特則があります。小学校入学年齢に達しない未就学児が2人以上の場合は、1人あたり0.5人(小数点以下四捨五入)として換算する。市のページの例示では、未就学児1人は0人、2人は1人、3人は2人、4人は2人です。
注意すべきは、この換算が人数を減らす方向に働くことです。大人2人と未就学児3人の世帯は実人数5人で13万円の枠に見えますが、未就学児3人は換算で2人になるため、合計4人として9万5千円が上限になります。数え方ひとつで上限が3万5千円下がる計算です。実人数で絞り込んでから窓口で覆されるのがいちばん時間を失うので、人数の確定は窓口で先に取ってください。
提出書類を、仲介側の段取りに翻訳する
| 段階 | 仲介・管理側が関わる主なもの |
|---|---|
| 申込時 | 同意書(様式第3号)は貸主の押印が必要。切替の場合は「切替契約に係る同意書」(様式第6号)に貸主と入居者の押印と現契約書の写し |
| 契約時 | 賃貸型応急住宅賃貸借契約書(様式第9号)を3部、貸主と入居者の押印・割印。重要事項説明書の写し。請求委任及び口座振替支払依頼書(貸主用・仲介業者用)と通帳の写し。定期建物賃貸借住宅契約についての説明(様式第11号) |
| 退去時 | 仮設住宅等使用終了届(様式第12号)を、退去日または契約満了日のいずれか早い日の40日前までに提出。入居者が提出できない場合は貸主が終了確認書(様式第12号の2)を提出 |
全段階に共通する注記があります。「仲介業者等が貸主を代理する場合は、代理することを証する書類(代理委託契約書の写し等)が必要です」。管理受託している物件で管理会社が窓口になる場合、代理権の証明を求められるということです。
手元の管理委託契約書のどこに代理権の記載があるか、いま確認しておくといいと思います。災害が起きてから探すと、探すこと自体に数日かかります。うちも自社で210室を管理していますが、書式のどこに何が書いてあるかを平時に把握しているかどうかで非常時の初速が変わるのは、何度も経験しました。
熊本以外の会社が、いま読み替えておくこと
賃貸型応急住宅は災害救助法にもとづく仕組みです。細部の金額や様式は都道府県ごとに定められますが、骨格は共通しています。行政が借主になること、上限があること、貸主の同意が要ること、被災者が自分で物件を探すこと、仲介が斡旋すること。だとすれば、平時にやれることは3つに絞れます。
- 管理委託契約書の代理権の条項がどこにあるかを確認しておく。災害時に真っ先に求められる書類です
- 耐震性を証明できる書類がある物件と、ない物件を仕分けておく。昭和56年6月1日という基準日で線を引けるかどうかを、いま把握しておく
- オーナー向けの説明の型を一枚だけ作っておく。家賃は行政が払う、契約は三者、書式は行政のもの、期間は2年、原状回復は渡し切り。この5点で最初の説明は足ります
宅地建物取引業の免許や賃貸住宅管理業の登録そのものについても、被災時には有効期間の延長という別の制度が動きます。この点は特定非常災害と許可等の有効期間延長で扱いました。被災地の側だけでなく、被災地に免許を持つ会社の側にも手続きがあります。
よくある質問
Q. 申込みの期限はいつまでですか。
A. 県のQ&Aは、現時点では申込期限は設定していないが、住宅の応急修理等関係制度の状況等を踏まえて改めてお知らせする、としています。期限が「まだない」だけで、「ずっとない」わけではありません。
Q. 罹災証明書がまだ手元にありません。申し込めますか。
A. 熊本市は、住宅が全壊等で罹災証明書が手元にない方のうち、被災住宅の写真により一見して「全壊」である旨が確認できるなどの場合は、罹災証明書の提出を省略し事後の提出が可能としています。県のQ&Aは、罹災証明書は写しの提出で構わないとしています。
数字の出典と、書かなかったこと
| 項目 | 出典 |
|---|---|
| 制度概要、対象区域20市町村、家賃上限4段階、超過分の個人負担不可、貸主の同意、仲介業者の斡旋、入居期間2年、三者契約 | 熊本県 健康福祉政策課「令和8年熊本地震に係る賃貸型応急住宅の供与について」(2026年7月31日更新) |
| 災害救助法適用日7月28日、現物支給の説明、貸主が応じない場合、対象外の類型、火災保険の加入時期と補償範囲、世帯の分割と統合、応急修理との順序、切替時の費目別の返金、申込期限、提出先 | 熊本県「令和8年熊本地震 賃貸型応急住宅に係るQ&A」 |
| 費用負担の明細、新耐震基準の基準日、未就学児0.5人換算、様式番号、終了届40日前、遡及できない費目、満了後の二者契約 | 熊本市 住宅政策課「令和8年熊本地震に係る賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)の供与について」(2026年8月17日最終更新) |
本稿で算出した派生値は次のとおりです。令和8年7月28日から本稿の日付2026年8月20日まで23日。対象区域は9市・10町・1村で20市町村、熊本市を加えて21市町村。家賃上限の段差は1万円、3万円、3万5千円。仲介手数料0.55か月分は、5万5千円で3万250円、6万5千円で3万5,750円、9万5千円で5万2,250円、13万円で7万1,500円。退去修繕負担金2か月分は11万円、13万円、19万円、26万円。入居期間2年を24か月として、家賃の公費負担は単身の上限で132万円、5人以上の上限で312万円。なお、熊本県以外の都道府県の家賃上限額と、申込みの締切日は書いていません。細部は都道府県ごとに定められ、締切は現時点で設定されていないと公表されているためです。
この記事の核心は金額ではありません。賃貸型応急住宅は「安く借りる制度」ではなく「行政が借りて渡す制度」だ、という構造です。補助なら差額を埋められます。現物支給なら埋められません。この違いが、家賃上限の厳格さにも、三者契約という形にも、貸主の同意が要ることにも、遡及の範囲が費目で切られていることにも、一貫して現れています。細部を全部覚える必要はありません。ただ、この一本の線だけは、災害が起きる前に頭に入れておく価値があります。
本稿は熊本県および熊本市の公表資料にもとづく一般的な整理であり、個別の入居可否や費用負担を判断するものではありません。要件・必要書類・期限は自治体および災害ごとに異なりますので、実際の手続きは被災元の市町村および都道府県の窓口にご確認ください。賃貸管理と売買仲介の実務はウルスタのコラムで書いています。


