災害が起きると、期限は自動で止まると思われがちです。実際には、政令が公布されて初めて動きます。令和8年8月7日、国土交通省が告示を公布しました。令和8年熊本地震の被災者が持つ許可等について、有効期間を令和9年1月27日まで延長するというものです。対象には宅地建物取引業者の免許、賃貸住宅管理業者の登録、宅地建物取引士証が含まれています。
8月7日に公布された告示が動かしたもの
令和8年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生しました。気象庁はこれを「令和8年熊本地震」と命名しています。同日、熊本県は10市10町1村に災害救助法の適用を決定しました。
それから10日後の8月7日、政府は令和8年政令第260号を公布・施行しました。この地震による災害を特定非常災害として指定し、あわせて5つの特別措置を適用する政令です。同じ日、国土交通省は告示第1037号を公布し、国土交通省が所管する許可等のうち、どれが有効期間の延長の対象になるのかを具体的に指定しました。
この告示に、宅地建物取引業者の免許が載っています。賃貸住宅管理業者の登録も、宅地建物取引士証も、マンション管理業者の登録も、家賃債務保証業者の登録も載っています。
本稿は、この2つの文書を実務の言葉に置き換えるものです。被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに、事業を続けるために必要な手続の整理として書いています。
【要点】不動産会社にとっての3行
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 免許・登録・士証の期限 | 令和8年7月28日以後に満了するものは、令和9年1月27日まで延長。ただし対象者は告示で限定されている |
| 届出義務などの期限 | 7月28日以後に履行期限が来た義務を果たせなかった場合、令和8年11月27日までに履行すれば行政上・刑事上の責任を問われない |
| 誰が対象か | 原則として特定被災地域内に主たる事務所(または住所・主たる営業所)を有する者。特定被災地域=災害救助法が適用された市町村の区域 |
この記事は令和8年8月9日時点で公表されている政令・告示・県の発表に基づいて書いています。被害状況や適用市町村は今後変わる可能性があります。実際の手続では、必ず所管の窓口で最新の情報を確認してください。
特定非常災害とは何か
「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(平成8年法律第85号)という法律があります。阪神・淡路大震災の翌年に作られたもので、通称は特定非常災害特別措置法です。
この法律の作りは少し変わっています。法律の中に「こういう災害のときはこうする」という措置がひととおり用意されていて、実際にどの災害へ適用するかは、そのつど政令で指定するという二段構えになっています。
つまり、地震が起きただけでは何も動きません。政令が出て初めて、期限が延びたり、免責が発生したりします。今回はそれが8月7日でした。地震から10日、という間隔が空いている理由もここにあります。
政令で指定できる措置は5つです。
| 条文 | 措置の内容 |
|---|---|
| 法3条 | 行政上の権利利益に係る満了日の延長(許可・免許・登録などの有効期間) |
| 法4条 | 期限内に履行されなかった行政上の義務の免責 |
| 法5条 | 法人の破産手続開始の決定の特例 |
| 法6条 | 相続の承認または放棄をすべき期間の特例 |
| 法7条 | 民事調停法による調停の申立手数料の特例 |
今回の政令は、この5つをすべて適用しています。順番に見ます。
措置1 — 許可等の有効期間は令和9年1月27日まで
いちばん実務に直結するのがこれです。法3条に基づき、令和8年7月28日以後に満了する許可等の有効期間が、令和9年1月27日まで延長されました。
理由は単純です。事務所が倒壊した、書類が取り出せない、担当者が避難所にいる。そういう状況で更新の手続を取れというのは無理があります。だから期限のほうを後ろへずらす、という発想です。
ここで重要なのは、法3条は「延長できる」という枠組みだけを定めていて、実際にどの許可等が対象になるかは各省庁の告示で個別に指定されるという点です。国土交通省の分がその告示第1037号です。
対象になる許認可の一覧
告示に列挙されたもののうち、不動産業と住宅関連に関わるものを抜き出します。延長後の満了日は、いずれも令和9年1月27日です。
| 許可等 | 根拠 | 告示に書かれた対象者 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業者の免許 | 宅建業法3条1項 | 特定被災地域内に主たる事務所を有する者 |
| 宅地建物取引士証の交付 | 宅建業法22条の2第1項 | 特定被災地域内に住所を有する者 |
| 賃貸住宅管理業者の登録 | 賃貸住宅管理業法3条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所または事務所を有する者 |
| マンション管理業者の登録 | マンション管理適正化法44条1項 | 特定被災地域内に主たる事務所を有する者 |
| 管理業務主任者証の交付 | 同法60条1項 | 特定被災地域内に住所を有する者 |
| 住宅宿泊管理業者の登録 | 住宅宿泊事業法22条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所または事務所を有する者 |
| 家賃債務保証業者の登録 | 家賃債務保証業者登録規程3条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所または事務所を有する者 |
| 不動産鑑定業者の登録 | 不動産鑑定評価法22条1項 | 特定被災地域内に主たる事務所を有する者 |
| 不動産投資顧問業の登録 | 不動産投資顧問業登録規程3条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所を有する者 |
| 小規模不動産特定共同事業の登録 | 不動産特定共同事業法41条1項 | 特定被災地域内に主たる事務所を有する者 |
| サービス付き高齢者向け住宅事業の登録 | 高齢者住まい法5条1項 | 特定被災地域内に主たる事務所を有する者 |
| 建設業の許可 | 建設業法3条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所を有する者 |
| 経営事項審査 | 建設業法27条の23第1項 | 特定被災地域内に主たる営業所を有する者 |
| 解体工事業の登録 | 建設リサイクル法21条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所を有する者 |
| 浄化槽工事業の登録 | 浄化槽法21条1項 | 特定被災地域内に主たる営業所を有する者 |
| 建築士事務所の登録 | 建築士法23条1項 | 特定被災地域内に建築士事務所を有する者 |
| 指定給水装置工事事業者の指定 | 水道法16条の2第1項 | 特定被災地域内に事業所を有する者 |
この表は不動産・住宅・建築に関係するものだけを抜いたものです。告示にはこのほか、海上運送、道路運送、測量、自動車登録など、幅広い分野の許可等が並んでいます。修繕や原状回復を発注する相手の許可も止まっている可能性がある、という視点は持っておいてよいと思います。
「対象者」の書き分けが、そのまま線引きになる
上の表の右列を、もう一度見てください。表現が3種類に分かれています。
| 書き方 | 該当する許可等 | 読み方 |
|---|---|---|
| 主たる事務所を有する者 | 宅建業免許、マンション管理業、不動産鑑定業ほか | 本店が被災地域内にあるか。支店だけでは足りない |
| 主たる営業所または事務所を有する者 | 賃貸住宅管理業、住宅宿泊管理業、家賃債務保証業 | 登録上の主たる拠点が被災地域内にあるか |
| 住所を有する者 | 宅地建物取引士証、管理業務主任者証 | 会社ではなく、本人の住所で判定する |
この違いは、実際の判定でそのまま効きます。
たとえば本店を福岡市に置き、宇城市に支店を出している宅建業者。宅建業免許は「主たる事務所」で見るので、告示の指定対象には入りません。一方、その支店に勤める宅地建物取引士が宇城市に住んでいれば、その人の取引士証は「住所」で見るので入ります。会社と個人で結論が割れる、ということが普通に起きます。
「うちは被災地に店があるから全部延びている」という理解は、危険です。許可の種類ごとに、判定の基準になる場所が違います。
特定被災地域とは、災害救助法が適用された21市町村
告示の末尾に、備考としてこう書かれています。特定被災地域とは、令和8年熊本地震に際し災害救助法が適用された市町村の区域をいう、と。
熊本県の発表によれば、令和8年7月28日付で適用されたのは次のとおりです。県の発表では9市10町1村とされ、これとは別に熊本市が適用の手続・公表を行ったため、合計は10市10町1村の21市町村になります。
| 区分 | 市町村 |
|---|---|
| 市(10) | 熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市 |
| 町(10) | 美里町、大津町、菊陽町、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、氷川町、芦北町、津奈木町 |
| 村(1) | 西原村 |
実務上の注意が2つあります。
1つ目。災害救助法の適用は、被害の実情に応じて後から追加されることがあります。今回も熊本市は別枠で公表されました。自社の所在地が最初のリストに入っていなくても、更新の相談をする前に県の最新ページを確認する価値があります。
2つ目。震度と適用範囲は一致しません。震度7を観測したのは宇城市と氷川町でしたが、適用は21市町村に及んでいます。逆に、揺れを感じた市町村がすべて入っているわけでもありません。感覚ではなく、リストで判定してください。
指定の外にいても、申出で延びる場合がある
国土交通省の報道発表資料には、参考として次の一文が置かれています。
指定された特定権利利益や対象者以外であっても、令和8年熊本地震の被害者の方については、申出により、満了日の延長が認められる場合がありますので、特定権利利益を所管する部局にお問い合わせください。
これは実務的には大きな一文です。告示の表に自社が当てはまらなくても、被害を受けたのであれば、申し出る道が残されているということだからです。
たとえば主たる事務所は被災地域の外にあるが、業務の中心だった支店と保管書類が使えなくなった会社。告示の指定対象ではありませんが、事情を説明して相談する余地があります。逆に言えば、黙っていれば延びません。ここは待ちの姿勢だと損をします。
措置2 — 11月27日までに履行すれば、責任を問われない
法4条2項の措置です。令和8年7月28日以後に法令上の履行期限が到来する義務を果たせなかった場合でも、それが今回の地震によるものと認められるときは、令和8年11月27日までに履行すれば、行政上および刑事上の責任を問われません。
ここでいう義務とは、たとえば次のようなものです。
| 例 | 根拠となる場面 |
|---|---|
| 宅建業者の変更の届出 | 役員・専任取引士・事務所の変更があったとき |
| 賃貸住宅管理業者の変更の届出 | 商号、営業所、業務管理者の変更があったとき |
| 各種の事業報告書の提出 | 年度ごとの提出義務があるもの |
| 廃業等の届出 | 営業を続けられなくなったとき |
総務省の資料でも、この措置の例として「事業報告書の提出、店舗の休廃止の届出のような履行期限のある法令上の義務」が挙げられています。
「延長」と「免責」は、別の仕組みです
ここを混ぜると事故になります。
| 措置1(法3条) | 措置2(法4条) | |
|---|---|---|
| 対象 | 許可・免許・登録などの有効期間 | 届出・報告などの履行義務 |
| 効果 | 満了日そのものが後ろへ動く | 期限は過ぎるが、責任を問われない |
| 期日 | 令和9年1月27日 | 令和8年11月27日 |
| 対象者の指定 | 告示で個別に指定 | 「地震によるものと認められるとき」という要件 |
期日が2か月ずれています。免責のほうが早い。届出をずっと後回しにして「免許が1月まで延びているから大丈夫」と考えると、11月27日を越えた時点で免責の枠から外れます。
そしてもう一点。免責は履行しなくてよいという意味ではありません。11月27日までに履行することが条件です。義務そのものは残っています。
措置3 — 法人の破産手続開始は令和10年7月27日まで
法5条の措置です。今回の地震で債務超過となった法人については、債権者から破産手続開始の申立てがあったとしても、支払不能の場合を除き、令和10年7月27日までは破産手続開始の決定をすることができません。
地震で建物という資産を失うと、帳簿上は一気に債務超過になります。それだけを理由に会社を畳ませない、という趣旨で、2年間の猶予が置かれています。取引先や協力業者の与信を見るときの前提でもある点は、押さえておいてよいと思います。
措置4 — 相続の熟慮期間は令和9年3月31日まで
法6条の措置です。特定非常災害発生日である令和8年7月28日において、災害救助法が適用された区域に住所を有していた相続人については、相続の承認または放棄をすべき期間が令和9年3月31日まで伸長されました。
通常、相続の承認・放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です。この3か月が、一律に令和9年3月31日まで延びます。
相続の相談を受ける立場の会社にとって、これは押さえておくべき期日です。ただし、対象は「相続人の住所」で判定します。被相続人がどこに住んでいたか、不動産がどこにあるかではありません。熊本の実家を相続する東京在住の相続人は、この伸長の対象になりません。
この点は誤解が生まれやすいところです。「熊本の物件だから3月まで待てる」と伝えてしまうと、期間を徒過させる原因になります。
措置5 — 民事調停の申立手数料は令和11年6月30日まで不要
法7条の措置です。特定非常災害発生日において災害救助法が適用された区域に住所等を有していた者が、この災害に起因する民事の紛争について、令和11年6月30日までの間に民事調停の申立てをする場合、申立手数料が不要になります。
原状回復や修繕負担、賃料の取扱いで折り合わないとき、調停という選択肢のコストが下がる、ということです。
期日が5つある、という事実の扱い方
ここまでを1枚にします。
| 何が | いつまで | 誰が |
|---|---|---|
| 届出・報告などの義務の免責 | 令和8年11月27日 | 地震により履行できなかったと認められる者 |
| 許可・免許・登録・士証の有効期間 | 令和9年1月27日 | 告示で指定された対象者 |
| 相続の承認・放棄の熟慮期間 | 令和9年3月31日 | 7月28日時点で適用区域に住所があった相続人 |
| 法人の破産手続開始の決定の制限 | 令和10年7月27日 | 地震により債務超過となった法人 |
| 民事調停の申立手数料の免除 | 令和11年6月30日 | 適用区域に住所等があった者 |
5つの期日が、11月・1月・3月・7月・6月とばらばらに並んでいます。これを頭で覚えようとしないでください。該当しそうなものだけを抜き出して、社内のカレンダーに入れる。それだけで足ります。
被災地の会社が、今週やること
順番に意味があります。上から順に。
| 順 | やること | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 1 | 自社の所在地が21市町村に入るかを確認する | 熊本県の災害救助法適用ページ(追加があり得る) |
| 2 | 免許・登録・士証の満了日を全部書き出す | 免許証、登録通知書、取引士証の現物 |
| 3 | 7月28日以後に満了するものへ印を付ける | 手元の一覧 |
| 4 | 印の付いたものが告示の対象者に当たるかを判定する | 本記事の一覧表と、判定の基準になる場所 |
| 5 | 対象外だが被害を受けたものは、所管部局へ申し出る | 報道発表資料の別紙「問い合わせ先一覧」 |
| 6 | 7月28日以後に期限が来た届出・報告を洗い出す | 11月27日を目標に、順次提出 |
ここで意外と時間を取られるのが2番です。免許の満了日を即答できる会社は多くありません。被災していないときにやっておくべき作業が、被災してから必要になる。この記事の後半で、その点に戻ります。
更新申請そのものは、消えていません
いちばん誤解されやすいところなので、独立した章にします。
延長されたのは満了日であって、更新申請の義務ではありません。令和9年1月27日までに更新の手続を済ませなければ、そこで失効します。5か月の猶予が与えられた、という理解が正確です。
とくに賃貸住宅管理業者の登録は注意が必要です。この登録は有効期間5年で、平常時であれば満了日の90日前から30日前までという60日間の窓の中でしか更新申請ができません。この窓の考え方が延長後の満了日にどう当てはまるかは、所管の地方整備局に確認するのが確実です。
登録更新の平常時の段取りは賃貸住宅管理業の登録更新、2026年が最初の一斉更新期と賃貸住宅管理業の登録は5年で切れるで整理しています。2026年は制度施行から5年目にあたり、全国で初回更新が集中している年でもあります。初回更新ラッシュと被災が重なった会社は、通常より確認すべきことが多くなります。
賃貸管理の実務 — 建物が損傷したときの賃料と契約
ここからは、許認可を離れて建物の話です。特定非常災害の政令とは別の、民法の話になります。
| 状態 | 民法上の扱い |
|---|---|
| 賃借物の一部が使用できなくなった(借主に帰責事由なし) | 民法611条1項。使用できなくなった部分の割合に応じて、賃料は当然に減額される |
| 残りの部分だけでは契約の目的を達せられない | 民法611条2項。借主は契約を解除できる |
| 賃借物の全部が滅失し、使用収益できなくなった | 民法616条の2。賃貸借は当然に終了する |
3行目が重要です。全部滅失の場合、解約の通知も合意も要りません。契約は自動的に終わります。「まだ解約手続をしていないから賃料は発生している」という説明は成り立ちません。
1行目の当然減額は、請求の有無にかかわらず発生します。管理会社としては、入居者から言われる前に状態を確認し、記録し、オーナーへ説明する順番になります。地震以外の場面も含めた減額の運用は設備故障の賃料減額リスク2026で整理しています。
あわせて、罹災証明書の申請は入居者本人が行うものであり、管理会社が代行するものではありません。ただし建物の被災状況の写真と日付は、管理会社の側にも残しておく価値があります。後で負担区分を話すときの共通の土台になります。
オーナーからの問い合わせに、何を答えるか
被災地の外にある会社にも、オーナーからの連絡は来ます。熊本に物件を持っている県外オーナー、あるいは今回の地震を見て自分の物件が心配になったオーナーです。
| 聞かれること | 答えの骨 |
|---|---|
| 家賃は取れなくなるのか | 使用できない部分の割合に応じて当然に減額される。全部滅失なら契約は終了する |
| 修繕はいつまでにやるのか | 貸主に修繕義務がある。ただし業者も被災しているため、着手時期は見通しを分けて伝える |
| 保険はどこまで出るのか | 火災保険だけでは地震による損害は対象外。地震保険の付帯の有無と、損害区分の判定による |
| 解体費用はどうなるのか | 被災家屋の公費解体の制度がある。対象と手続は自治体ごとに異なるため、市町村へ確認する |
地震保険の仕組みと損害区分の考え方は地震保険2026|火災保険とのセット・損害区分・割引制度にまとめています。火災保険に入っているから大丈夫、という誤解はいまだに多いので、平常時の更新案内のたびに一言添えておくのが結局はいちばん早いと思います。
被災地の外の会社が、この機会に点検しておくこと
今回の告示は熊本の話です。ですが、そこから引き出せる教訓は場所を選びません。
整理すると、被災したときに会社が困るのは次の3点でした。
| 困りごと | 平常時にできる対策 |
|---|---|
| 免許・登録・士証の満了日が分からない | 満了日の一覧をクラウド上に持ち、紙の現物と分離しておく |
| 届出の期限が来ているのか判断できない | 年次で発生する提出物をカレンダー化する |
| 物件と入居者の連絡先が事務所の中にしかない | 台帳をクラウド化し、事務所へ入れなくても照会できる状態にする |
3つとも、災害対策として特別なことをしているわけではありません。日常の業務をどこに置いているか、という話です。お盆や年末年始のような休業期間の体制づくりと、発想はほぼ同じです。休業中の緊急対応の設計は酷暑とお盆が重なる夏の賃貸管理で扱っています。
満了日を、人ではなく台帳で持つ
免許の満了日を覚えているのは、たいてい特定の1人です。その人が休むと分からなくなり、辞めると誰も分からなくなります。災害のときは、その人自身が被災します。台帳に載せるべき項目は、そう多くありません。
| 項目 | 備考 |
|---|---|
| 許認可の名称 | 宅建業免許、賃貸住宅管理業登録など |
| 番号 | 免許証番号・登録番号 |
| 取得日と満了日 | 満了日は日付型で持つ。文字列にしない |
| 更新申請の受付期間 | 登録の種類ごとに窓の幅が違う |
| 所管窓口 | 都道府県か地方整備局か |
| 担当者と副担当 | 1人にしない |
これを1枚の表にして、満了日の6か月前と3か月前にリマインドが飛ぶようにしておく。それだけで、今回のような場面で最初にやるべき作業がすでに終わっている状態になります。
やってはいけない4つ
| やってはいけないこと | なぜ |
|---|---|
| 「災害だから期限は全部延びた」と社内に伝える | 延びたのは告示で指定された許可等のみ。対象者の要件もある |
| 延長されたからと、更新申請を止める | 令和9年1月27日までに手続を済ませなければ失効する |
| 届出を1月まで放置する | 免責の期限は11月27日。2か月早い |
| 相続の相談で「令和9年3月まで大丈夫」と断定する | 判定は相続人の住所。物件の所在地ではない |
よくある質問
Q. 支店だけが被災地域内にあります。宅建業免許は延びますか。
告示の指定対象は「主たる事務所を有する者」です。支店のみでは指定対象に入りません。ただし実際に被害を受けているのであれば、申出による延長の相談ができます。所管の窓口へ事情を伝えてください。
Q. 取引士証の更新が9月に来ます。住所は熊本市です。
宅地建物取引士証の交付は「特定被災地域内に住所を有する者」が対象です。熊本市は災害救助法の適用市町村なので、令和8年7月28日以後に満了するものは令和9年1月27日まで延びる扱いになります。ただし法定講習の受講時期との関係があるため、都道府県の宅建協会または担当部署に確認してください。
Q. 延長された分、更新手数料は変わりますか。
今回の措置は有効期間の延長であり、手数料の減免を定めるものではありません。手数料の扱いは所管窓口の案内によります。
Q. 特定非常災害の指定は、これまでにも例がありますか。
あります。この法律は平成8年に作られ、過去の大規模災害でも指定されてきました。今回が初めての運用ではありません。ただし、どの措置を適用するか、期日をどこに置くかは災害ごとに政令で決まります。前例をそのまま当てはめないでください。
Q. 被災地の物件を売買するとき、重要事項説明で何を言うべきですか。
今回の政令は取引の説明義務を変えるものではありません。ただし建物の被災の程度、応急危険度判定の結果、罹災証明の区分、修繕の履歴は、買主の判断に影響します。調査して分かったことを、分かった範囲として正確に伝える。この原則が変わることはありません。
出典と、日付の扱いについて
本稿が依拠した一次資料は次のとおりです。
| 資料 | 発出 |
|---|---|
| 「令和8年熊本地震における被害者の有する許可等の有効期間の延長について」(報道発表資料および別添の告示) | 国土交通省 令和8年8月7日 |
| 国土交通省告示第1037号 | 令和8年8月7日 |
| 「令和8年熊本地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」(令和8年政令第260号)の公布・施行 | 総務省 令和8年8月7日 |
| 「令和8年熊本地震に係る災害救助法の適用について」 | 熊本県 令和8年7月28日 |
| 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成8年法律第85号) | 3条・4条・5条・6条・7条 |
最後に、日付の扱いについて一言だけ。
本稿は令和8年8月9日時点の公表資料に基づいています。災害救助法の適用市町村は追加されることがあり、その場合は特定被災地域の範囲も連動して変わります。また、各省庁が所管する許可等の指定は今後追加される可能性があります。
この記事は判断の出発点として使い、実際の手続の前には、必ず所管窓口の最新の案内で確認してください。期限に関わる話で、記事を根拠に動くのは危ない。それは平常時でも被災時でも変わりません。
ほかの実務テーマはウルスタくんコラム一覧にまとめています。


