「平日は都市で働き、週末は地方の家で過ごす」——そんな二地域居住という暮らし方を、国が法律で後押しする時代になりました。2024年11月1日に施行された改正広域的地域活性化基盤整備法、いわゆる二地域居住促進法は、市町村による特定居住促進計画の作成、NPOや不動産会社などを市町村長が指定する二地域居住等支援法人、そして関係者が集まる協議会という三つの制度を新設しました。国はこの計画と支援法人をそれぞれ5年間で累計600件・600法人まで積み上げる目標を掲げており、施行から1年半あまりが経った今、各地で指定の動きが広がりつつあります。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、二地域居住促進法の全体像と、中小不動産会社がこの流れを空き家の掘り起こし・仲介・管理受託という商機に変えるための実務を、宅地建物取引士の目線で整理します。都市部の会社にとっても地方部の会社にとっても、これは他人事ではありません。
二地域居住とは — 移住ではない、もう一つの人の流れ
二地域居住とは、都市部と地方部の双方に拠点を持ち、定期的に地方部で過ごしたり働いたりする暮らし方です。国土交通省は、都市と地方に二つの拠点を持つ新しいライフスタイルの一つとして位置づけています。よく似た言葉に移住がありますが、移住が生活の本拠ごと地方に移すことを指すのに対し、二地域居住は都市の本拠を残したまま、地方にもう一つの拠点を加える点が異なります。住民票を移さないことが多く、地方の側から見れば定住人口ではなく、いわゆる関係人口を増やす取り組みにあたります。
背景にあるのは、リモートワークの定着と価値観の変化です。週の一部を地方で働き、残りを都市で過ごすという働き方が現実の選択肢になり、自然の多い環境を求める子育て世帯や、将来の移住の前段階として地方との関わりを持ちたい層の関心が高まっています。一方、地方部にとっては、深刻化する人口減少の中で、空き家や遊休農地の活用、地域の担い手やコミュニティの活性化につながる人の流れとして期待されています。人が減る時代に、家と地域の使い手を外から迎える仕組み——それが二地域居住の促進です。
二地域居住促進法とは — 改正広活法が2024年11月に施行
この二地域居住を制度として後押しするのが、広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律です。2024年5月に成立し、同年11月1日に施行されました。もとの法律名が長いため、通称として改正広活法や二地域居住促進法と呼ばれています。
改正の柱は、二地域居住の促進に関する仕組みを法律上はじめて正面から位置づけたことです。具体的には、市町村が二地域居住の受け入れ方針をまとめる特定居住促進計画、二地域居住者を支える民間の担い手を市町村長が指定する二地域居住等支援法人、そして関係者が計画づくりを話し合う協議会という三つの制度が創設されました。自治体どうしの連携、官と民の連携、地域の関係者の連携という三つの方向から、受け入れ側の体制を整える構えです。
二地域居住促進法(改正広域的地域活性化基盤整備法)は2024年11月1日施行。市町村が作成する特定居住促進計画、NPOや不動産会社などの民間を市町村長が指定する二地域居住等支援法人、市町村・都道府県・支援法人・地域住民などで構成する協議会という三つの制度を新設しました。国は施行後5年間で計画600件・支援法人600法人の累計目標を掲げています。制度の運用は自治体ごとに進み方が異なるため、営業エリアの市町村の動きを確認することが実務の出発点になります。
なぜ今 押さえるのか — 施行から1年半、動きは自治体ごとに具体化
この法律を今あらためて押さえておく理由は、制度が紙の上の話から、営業エリアごとの具体的な動きに変わり始めているからです。施行は2024年11月。それから1年半あまりが経ち、都道府県の計画に二地域居住の事項を位置づけたうえで、市町村が特定居住促進計画を作成し、支援法人の指定を始める——という流れが各地で進みつつあります。国が掲げる5年間で600件・600法人という目標を考えれば、この先も指定の裾野は広がっていくと見られます。
もう一つの理由は、季節です。夏は移住や二拠点生活の相談が動く時期であり、休暇で地方に滞在した経験が「ここにもう一つの拠点を持てないか」という具体的な相談に変わりやすい。都市部の会社には顧客を送り出す側として、地方部の会社には受け入れる側として、二地域居住の地図を持っているかどうかが相談の質を分けます。制度の中身を知らないままでは、自治体の窓口や補助の存在を案内できず、せっかくの相談を「うちでは扱いにくい」と手放すことになりかねません。
三つの新制度の全体像 — 計画・支援法人・協議会
三つの制度は、それぞれ主体と役割が異なります。まず全体像を表で押さえましょう。
| 制度 | 主体 | 内容 | 不動産会社との接点 |
|---|---|---|---|
| 特定居住促進計画 | 市町村が作成 | 二地域居住の受け入れ方針や求める二地域居住者像をまとめ公表。地域とのマッチングの土台 | 営業エリアの計画の有無・中身が、物件提案や集客の前提情報になる |
| 二地域居住等支援法人 | 市町村長が指定 | 住まい・なりわい・コミュニティを提供するNPO・民間企業などを指定。計画の作成・変更の提案も可能 | 不動産会社そのものが指定対象になり得る。地域での公的な立ち位置を得られる |
| 協議会 | 市町村が組織 | 計画づくりのため関係者が協議。都道府県・支援法人・地域住民・交通事業者・商工会議所・農協などが構成員 | 構成員として想定される。地域の情報と人脈が集まる場になる |
三つに共通するのは、受け入れの体制づくりを地域ぐるみで進めるという発想です。二地域居住者にとっての最大の壁は、物件が見つからない、地域の情報が分からない、いざというとき頼れる相手がいないという三点に集約されます。計画が方針を示し、支援法人が実務を担い、協議会が関係者をつなぐ。この三点セットの中に、住まいの専門家である不動産会社の席が最初から用意されていることが、この法律の大きな特徴です。
二地域居住等支援法人 — 不動産会社が主役になれる制度
三つの制度の中で、中小不動産会社にとって最も重要なのが支援法人の指定制度です。指定の対象は、二地域居住者に住まい・なりわい・コミュニティを提供する法人。具体的には、二地域居住に関する情報提供、住宅の提供やコワーキングスペースといった施設の整備、調査研究や普及啓発などの活動が挙げられており、NPO法人だけでなく不動産会社などの民間企業も指定対象です。空き家の仲介や管理、賃貸借の実務は、まさに住まいの提供そのものであり、地域の不動産会社は最有力の担い手といえます。
指定を受けた法人には、市町村長に対して特定居住促進計画の作成や変更を提案できる権限が与えられます。つまり、地域の受け入れ方針づくりに、民間の立場から正式に関与できるということです。日々の実務で把握している空き家の分布、所有者の意向、都市部からの問い合わせの傾向——こうした現場の情報を計画に反映させる回路が、法律上用意されています。加えて、法整備と連動して、空き家を地域交流施設に活用する取り組みへの補助など、関連する支援事業も設けられています。使える支援の中身は年度や自治体により異なるため、営業エリアの市町村の窓口で最新情報を確かめるのが確実です。
中小不動産会社にとっての商機 — 空き家・仲介・管理の三層
二地域居住の広がりは、中小不動産会社に三つの層の商機をもたらします。第一に、空き家の掘り起こし。二地域居住の受け皿になるのは、多くの場合、既存の空き家です。売るか貸すか決めかねて放置されていた物件も、「週末だけ使いたい」という需要が加わることで、賃貸借や売買の候補に変わります。所有者への声かけの理由が一つ増えるということです。第二に、仲介そのもの。都市部の顧客と地方部の物件をつなぐ取引は、オンライン内見や生活情報の提供など手間はかかりますが、競合が少なく、地域に根ざした会社の強みが最も生きる領域です。第三に、管理受託。二地域居住者は物件に不在の期間が長いため、通風・通水・見回りといった管理サービスの需要が生まれます。仲介で終わらず、月々の管理料という継続収益につながるのがこの分野の特徴です。
そして、これらの土台になるのが支援法人という立ち位置です。市町村長の指定を受けることは、地域の受け入れ体制の一員として公的に位置づけられることを意味します。自治体の相談窓口や移住フェアから紹介を受けられる関係を築ければ、広告費をかけずに、確度の高い相談が自治体経由で届く導線になり得ます。
なお、この商機は地方部の会社だけのものではありません。都市部の会社にとっても、既存顧客からの「週末の拠点を持ちたい」という相談は、住み替えや資産形成の相談と同じ入口に立つ話です。自社のエリア外であれば、現地の会社と連携して案内する形になりますが、相談の一次受けとして地図を示せるかどうかで、顧客との関係の深さは変わります。都市側と地方側の会社が顧客と物件を持ち寄る連携は、この分野で今後増えていく形だと考えています。
ウルスタは、中小不動産会社の物件・顧客・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。空き家所有者への声かけの経緯、都市部からの二地域居住相談の希望条件、管理受託物件の巡回記録——こうした情報が担当者ごとのメモに散らばると、せっかくの掘り起こしが続きません。物件と顧客に紐づけて記録し、誰が見ても分かる状態にしておくことが、息の長い二地域居住ビジネスの土台になります。詳しくは https://ulsta.jp をご覧ください。
現場メモ — 「貸すのは不安」を管理とセットで解いた話
昨年、都市部にお住まいの40代のご夫婦から、「電車で1時間半くらいの範囲で、週末を過ごせる古い戸建てを探している」という相談を受けました。心当たりがあったのは、相続で空き家になったまま3年ほど放置されていた郊外の戸建てです。所有者に賃貸の意向を確かめると、返ってきたのは「知らない人に貸して、荒らされたら困る」という不安でした。
そこで当社は、賃貸借の仲介に月1回の巡回管理をセットにして提案しました。毎月の通風と通水、外回りの確認、写真付きの報告書。借主のご夫婦にとっても、不在期間の家の状態を第三者が見てくれる安心につながります。所有者は「そこまでしてくれるなら」と貸すことを決め、契約に至りました。印象的だったのは、その後の広がりです。近隣の空き家の所有者から「うちも同じようにできないか」という相談が二件続き、ご夫婦からは知人の紹介がありました。二地域居住の取引は、一件の成約が点で終わらず、地域の空き家と都市の需要の両側に線として広がっていく——それを実感した出来事でした。
実務での進め方 — 五つのステップ
二地域居住を自社の商機にするための進め方を、五つのステップに整理します。第一に、自治体の動きの確認。営業エリアの市町村が特定居住促進計画を作成しているか、支援法人の指定や協議会の組織を始めているかを、市町村の窓口やホームページで確かめます。第二に、在庫の棚卸し。過去に扱った空き家や、売るか貸すか決めかねている所有者のリストを見直し、二地域居住向けという新しい出口を添えて声をかけ直します。第三に、情報の出し方の工夫。都市部の検討者に届くよう、物件情報に周辺の生活情報や地域との関わり方を添え、オンラインでの内見や相談に対応できる体制を整えます。第四に、契約実務の設計。不在期間の長さを前提に、定期借家の活用、設備の状態と修繕範囲の明確化、建物状況調査の活用などを検討し、貸し手・借り手双方の不安を契約で手当てします。第五に、管理サービスの商品化。巡回・通風・通水・報告のメニューと料金を定め、仲介とセットで提案できる形にしておきます。
五つのうち、最初の一歩は間違いなく第一ステップです。自治体がどこまで動いているかで、打てる手も使える支援も変わります。協議会が組織されるなら構成員として手を挙げる、支援法人の指定が始まるなら要件を確かめる。地域で最初に動いた不動産会社が、そのまま地域の窓口になっていくのがこの分野の実情です。
注意点 — 移住との違い、ローンと税制、管理の重さ
商機の裏側にある注意点も、正直に押さえておきましょう。まず、二地域居住の拠点は生活の本拠ではないため、住宅に関する優遇の多くが移住や自宅取得と同じようには使えません。たとえば住宅ローン控除は自己の居住の用に供する住宅が前提であり、週末だけ使うセカンドハウスは原則として対象外です。借入れも、一般の住宅ローンではなくセカンドハウス向けのローンなどが選択肢になり、金利や条件は金融機関により異なります。一方で、毎月1日以上居住の用に供するようなセカンドハウスは、いわゆる別荘とは区別され、不動産取得税や固定資産税の住宅用地の特例などの軽減の対象になり得るとされています。扱いは自治体や個別の事情によるため、断定せず、県税事務所や市町村の窓口で確かめる案内が確実です。
次に、物件側のリスクです。長く空き家だった建物は、雨漏りや設備の傷みを抱えていることが多く、現況の説明と契約不適合責任の範囲の設計を丁寧に行わないと、遠方の借主・買主との間でトラブルになりやすい。建物状況調査や既存住宅売買瑕疵保険の活用も含め、状態を見える化してから取引に乗せることが、結局は近道です。最後に、管理の重さ。巡回管理は継続収益になる一方、台風のあとの駆けつけなど手間も現実にあります。受けられる範囲をメニューとして明確にし、できないことはできないと最初に示すことが、長続きの条件です。
二地域居住促進法は受け入れ体制の枠組みを定めた法律であり、個別の補助や税の扱いを一律に約束するものではありません。計画の有無、支援法人の指定状況、使える支援事業は市町村ごとに異なり、年度によっても変わります。顧客への案内では「この地域ではこうなっている」と確かめたうえで伝え、税や登記の個別判断は税理士・司法書士など専門家へつなぐ姿勢を崩さないことが、信頼につながります。
よくある質問
Q1. 二地域居住促進法とはどんな法律ですか。
正式には広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律で、2024年11月1日に施行されました。市町村による特定居住促進計画、市町村長が指定する二地域居住等支援法人、関係者による協議会という三つの制度を新設し、二地域居住の受け入れ体制づくりを後押しします。
Q2. 二地域居住と移住はどう違いますか。
移住は生活の本拠を地方に移すことですが、二地域居住は都市の本拠を残したまま地方にもう一つの拠点を持つ暮らし方です。住民票を移さないことが多く、地方から見れば関係人口を増やす取り組みにあたります。
Q3. 不動産会社も支援法人に指定されますか。
指定対象になり得ます。二地域居住者に住まい・なりわい・コミュニティを提供するNPOや民間企業が対象とされており、住宅の提供や情報提供を担う不動産会社は有力な候補です。指定を受けると、特定居住促進計画の作成・変更を市町村長に提案することもできます。
Q4. 支援法人になると何が変わりますか。
地域の受け入れ体制の一員として公的に位置づけられ、自治体の窓口や移住関連のイベントとの連携がしやすくなります。また、計画への提案権を通じて、現場で把握している空き家や需要の情報を地域の方針に反映させる回路が持てます。
Q5. 二地域居住の拠点にも住宅ローン控除は使えますか。
原則として使えません。住宅ローン控除は自己の居住の用に供する住宅が前提のため、週末利用のセカンドハウスは対象外です。借入れはセカンドハウス向けローンなどが選択肢になります。一方、毎月1日以上居住するようなセカンドハウスは別荘と区別され、税の面で軽減の対象になり得る場合があります。個別の扱いは税務署や自治体にご確認ください。
Q6. 中小不動産会社はまず何から始めるべきですか。
営業エリアの市町村が特定居住促進計画や支援法人の指定にどこまで動いているかの確認が出発点です。そのうえで、手持ちの空き家情報の棚卸しと所有者への声かけ、管理サービスの商品化を進めると、相談を受けられる体制が整います。
まとめ:受け入れ体制の席に、最初に座る
二地域居住促進法は、都市と地方に二つの拠点を持つ暮らし方を、特定居住促進計画・二地域居住等支援法人・協議会という三つの制度で後押しする法律です。2024年11月の施行から1年半あまりが経ち、国が掲げる5年間で計画600件・支援法人600法人という目標に向けて、自治体ごとの動きが具体化しつつあります。空き家の掘り起こし、都市と地方をつなぐ仲介、不在期間を支える管理受託——住まいの専門家である中小不動産会社には、この仕組みの中に最初から席が用意されています。注意すべきは、セカンドハウスには住宅ローン控除が原則使えないなど自宅取得とは異なるルールがあること、長期空き家の状態リスクを見える化してから取引に乗せること、そして補助や税の扱いは自治体ごと・年度ごとに異なるため断定せず確かめて案内することです。人が減る時代の地域の不動産業にとって、二地域居住は数少ない、外から需要がやってくる分野です。自治体の動きを確かめ、空き家と管理の体制を整え、受け入れ体制の席に最初に座ること。それが、地域で選ばれ続ける会社への確かな一歩になります。
参考: 広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部改正(2024年5月成立・同年11月1日施行)に関する国土交通省の公表情報 / 特定居住促進計画・二地域居住等支援法人・協議会の各制度の概要に関する国土交通省の運用ガイドラインおよび報道発表 / 計画600件・支援法人600法人という5年間の目標に関する国土交通省の公表情報 / セカンドハウスと別荘の税務上の取り扱いに関する一般的な整理 / いずれも2026年7月時点の公開情報および自社の不動産実務をもとに整理