生産緑地は、都市計画の告示から30年が経つと所有者が市町村長に買取りを申し出られるようになり(生産緑地法10条)、特定生産緑地に指定されると、その時期が10年ずつ先に延びます(同法10条の2・10条の3)。国土交通省の調査では、1992年(平成4年)に定められた生産緑地9,273haのうち89.3%が特定生産緑地に指定されました(2022年12月末時点)。この記事では、生産緑地法の条文と国土交通省・農林水産省・国税庁の資料をもとに、指定の要件、特定生産緑地のしくみ、税の扱い、買取申出の流れ、相続と出口の考え方を整理します。
生産緑地とは|市街化区域の中で守られる農地
生産緑地は、市街化区域の中にある農地等のうち、都市計画で生産緑地地区に定められたものです。生産緑地法3条1項は、指定の条件として、公害や災害の防止など良好な生活環境の確保に相当の効用があり、公共施設等の敷地に適していること、500平方メートル以上の規模であること、農林漁業を続けられる条件を備えていることを挙げています。
面積の条件は、市町村が条例で別に定めることができます(同条2項)。その基準は生産緑地法施行令3条で「300平方メートル以上500平方メートル未満の一定の規模以上の区域」とされているため、条例のある市町村では300平方メートル以上で指定されている場合があります。
指定されると、所有者などには次の義務と制限がかかります。
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 管理義務 | 使用・収益をする権利を持つ人は、生産緑地を農地等として管理しなければならない | 生産緑地法7条1項 |
| 行為制限 | 建築物などの新築・改築・増築、宅地の造成などの土地の形質の変更、水面の埋立てなどは、市町村長の許可がなければできない | 同法8条1項 |
| 買取りの申出 | 告示から30年経過後、または主たる従事者の死亡・故障のとき、市町村長に時価での買取りを申し出られる | 同法10条 |
生産緑地法8条1項の制限は、宅地建物取引業法施行令3条1項に挙げられた法令上の制限の一つです。生産緑地を含む土地の売買や、隣接地の取引を仲介するときは、重要事項説明の対象になるかを確認します。
2022年問題のその後|約9割が特定生産緑地へ
生産緑地の多くは、1992年(平成4年)に一斉に定められました。告示から30年が経つ2022年に買取りの申出が一度に出て、宅地が大量に供給されるのではないかと言われたのが、いわゆる2022年問題です。
国土交通省は2023年2月14日、「平成4年に定められた生産緑地の約9割が特定生産緑地に指定されました」と発表しました。同省の調査(2022年12月末時点)では、1992年に定められた生産緑地9,273haのうち8,282ha、89.3%が特定生産緑地に指定され、指定されなかったのは991ha(10.7%)でした。
指定されなかった約1割の生産緑地は、いつでも買取りの申出ができる状態にあります。ただ、申出をしても、市町村が買い取るか、農業を続けたい人に引き継がれる手続きを経てから行為制限が外れるため、すぐに宅地になるわけではありません。流れは後で説明します。
特定生産緑地のしくみ|指定・延長・解除
特定生産緑地は、2017年の「都市緑地法等の一部を改正する法律」(平成29年法律第26号)による生産緑地法の改正で設けられた制度です。条文上の流れは次のとおりです。
- 申出基準日:都市計画の告示の日から起算して30年を経過する日です(生産緑地法10条1項)。この日以後、買取りの申出ができます。
- 指定:市町村長は、申出基準日が近づいた生産緑地のうち、保全が特に有効と認めるものを特定生産緑地に指定できます(同法10条の2第1項)。指定は申出基準日までに行い、指定の期限は申出基準日から10年を経過する日です(同条2項)。
- 同意と手続:指定には、所有者などの農地等利害関係人の同意と、市町村都市計画審議会の意見を聴くことが必要です(同条3項)。
- 延長:指定の期限が近づいたとき、市町村長は期限を10年延長でき、その後も同様に延長できます(同法10条の3)。延長にも所有者などの同意が必要です(同条3項による準用)。
- 買取りの申出:特定生産緑地は、申出基準日ではなく、指定の期限の日(指定期限日)以後に買取りの申出ができるようになります(同法10条の5による読み替え)。
- 解除:周辺の公園・緑地の整備状況の変化などで指定の理由がなくなったときは、市町村長は指定を解除しなければなりません(同法10条の6)。
実務で大事なのは、指定が申出基準日までに限られることです。国土交通省の「特定生産緑地指定の手引き」でも、指定は申出基準日までに行うものとされています。申出基準日を過ぎて指定を受けなかった生産緑地は、後から特定生産緑地にすることはできません。1992年以外の年に定められた生産緑地も、それぞれの告示日から30年で申出基準日を迎えるため、地区ごとに日付を確かめる必要があります。
指定するか、しないかで変わる税
国土交通省の「特定生産緑地指定の手引き」では、指定の有無による税の扱いを次のように説明しています。
| 税目 | 特定生産緑地に指定した場合 | 指定しなかった場合 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 農地評価・農地課税が続く | 宅地並み課税になる。三大都市圏特定市では激変緩和措置として、初年度0.2、2年目0.4、3年目0.6、4年目0.8を乗じる |
| 相続税の納税猶予 | 次の相続でも適用を受けられる | 現在納税猶予の適用を受けている人に限り猶予は続くが、次の相続人には適用されない |
相続税の納税猶予は、国税庁のタックスアンサーNo.4147「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」で説明されている制度です(租税特別措置法70条の6など)。農業を営んでいた人から農地等を相続し、相続人が農業を続ける場合に、農業投資価格を超える部分に対応する相続税の納税が猶予され、相続人の死亡などのときに免除されます。
国税庁の資料「農地等についての相続税の納税猶予及び免除等」では、1991年1月1日時点で三大都市圏の特定市の区域内にあった市街化区域内の農地のうち、生産緑地地区内の農地などの「都市営農農地等」に当たらないもの(特定市街化区域農地等)は、特例の対象から外れるとされています。また、生産緑地法10条などによる買取りの申出がされたものや、特定生産緑地の指定がされなかったものは、生産緑地であっても都市営農農地等から外れる扱いになります。指定を見送る判断は、次の相続での納税猶予を手放すことでもあります。
買取申出から行為制限が外れるまで
買取りの申出ができるのは、次のどちらかに当たる場合です(生産緑地法10条)。
- 告示の日から30年を経過したとき(特定生産緑地は指定期限日以後)
- 告示の日以後に、その生産緑地の農林漁業の主たる従事者が死亡したとき、または農林漁業に従事できなくなる故障を負ったとき
申出の後は、次の順で進みます。
| 段階 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 買取りの申出 | 所有者が市町村長に、時価で買い取るよう申し出る | 生産緑地法10条 |
| 買い取るかの通知 | 市町村長は、特別の事情がない限り時価で買い取るものとされる。申出の日から1か月以内に、買い取る旨か買い取らない旨を書面で通知する。買取りを希望する地方公共団体などを相手方に定めることもある | 同法11条・12条1項 |
| 価格の協議 | 買い取る場合の時価は、買い取る側と所有者が協議して定める | 同法12条3項 |
| 農業者へのあっせん | 買い取らない場合、市町村長は農林漁業に従事したい人が取得できるよう、あっせんに努める | 同法13条 |
| 行為制限の解除 | 申出の日から3か月以内に所有権の移転(相続などを除く)がなかったときは、7条から9条までの規定(管理義務・行為制限など)が適用されなくなる | 同法14条 |
行為制限が外れても、土地はなお市街化区域内の農地です。宅地にするには農地転用の手続きが要ります。市街化区域内の農地は、あらかじめ農業委員会に届け出れば、許可を受けずに転用できます(農地法4条1項7号、売買などを伴う場合は5条1項6号)。
主たる従事者の死亡による申出は、相続の場面で使われます。ただし、相続人が納税猶予を受けた生産緑地について買取りの申出をすると、国税庁の資料では納税猶予の打切り事由に当たるとされています。申出をするかどうかは、相続税の申告を担当する税理士と先に相談します。
相続のときに確かめること
生産緑地を持つ人が亡くなったとき、相続人には大きく分けて、農業を続けて納税猶予を受ける道と、買取りの申出をして土地を処分する道があります。国税庁の資料では、納税猶予を受けた後に、特例の対象となった農地等を譲渡・贈与・転用した場合や、その面積が一定の割合(20%)を超える場合、農業経営を廃止した場合などに、猶予が打ち切られ、猶予されていた税額と利子税を納めることになると説明されています。
相続の相談を受けたときは、次の点を最初に確かめます。
- その農地が生産緑地か、特定生産緑地か。市町村の都市計画担当課で、告示日、申出基準日、指定期限日を確かめる。
- 亡くなった人が納税猶予を受けていたか。受けていた場合、相続人が引き継ぐ形で猶予を受けるかどうか。
- 相続人の中に農業を続ける人がいるか。続けない場合、貸す方法(次の節)を検討するか、買取りの申出をするか。
- 相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内。相続税法27条1項)までに方針を決められるか。
相続税の評価の考え方は、路線価の記事でも触れています。生産緑地の具体的な評価額は、税理士に確認してください。
都市農地の出口|売る・貸す・続ける
売る
買取りの申出をして14条の規定で行為制限が外れれば、農地転用の届出をして宅地として売ることができます。相続税の納税猶予を受けていない場合は、この流れが基本になります。猶予を受けている場合は、打切りによって納める税額と利子税を見込んでから判断します。
貸す
2018年9月1日に施行された「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」により、生産緑地は、借り手が作る耕作の事業計画について市区町村長の認定を受けて貸すことができるようになりました。農林水産省の案内では、この方法で貸した場合は貸付期間が終われば農地が所有者に返ってくること(法定更新の適用がない)、認定を受けた計画に従った貸付けであれば相続税の納税猶予の対象になること(税務署への届出が必要)が示されています。市民農園として貸す方法もあります。
続ける
特定生産緑地の指定を受け、10年ごとに延長していく方法です。延長するかどうかは、指定期限日が近づくたびに所有者の同意をもとに判断されます。家族の誰が農業を続けるのか、続けられなくなったときにどうするのかを、指定期限日の前に話し合っておくことが大切です。
不動産会社が相談を受けたときの手順
中小の不動産会社が生産緑地に関わるのは、相続や売却の相談、隣接地の取引、特定生産緑地の指定期限を前にした相談などです。手順の例を示します。
- 区分を確かめる。市町村の都市計画図や担当課で、生産緑地か特定生産緑地か、告示日・申出基準日・指定期限日を確かめます。
- 納税猶予の有無を聞く。所有者が相続税の納税猶予を受けているかを確かめます。受けている場合は、譲渡や買取りの申出が打切りにつながるため、税理士と一緒に進めます。
- 家族の意向を整理する。農業を続けるか、貸すか、売るかを、相続人を含めて話し合ってもらいます。
- 手続きの順番を示す。売る場合は、買取りの申出、1か月以内の通知、3か月の経過、農地転用の届出という順番と期間を説明します。
- 重要事項説明に備える。生産緑地法の行為制限が残っている間は、法令上の制限として説明が必要です。売買の時期と制限が外れる時期の関係を確かめます。
借地や底地が絡む土地の整理については、借地権・底地の売却の記事もあわせて読んでください。
このテーマの全体像は「不動産のコンプライアンス実務ガイド2026|宅建業法・管理業法・個人情報・犯収法」にまとめています。
よくある質問
Q1. 申出基準日を過ぎた後に、特定生産緑地の指定を受けられますか。
受けられません。特定生産緑地の指定は申出基準日までに行うものとされています(生産緑地法10条の2第2項)。
Q2. 特定生産緑地は、10年の間に買取りの申出ができますか。
告示から30年を理由とする申出は、指定期限日以後になります(同法10条の5)。主たる従事者の死亡や故障を理由とする申出は、同法10条2項の場合に当たればできます。
Q3. 買取りの申出をすれば、市町村が買い取ってくれますか。
市町村長は特別の事情がない限り時価で買い取るものとされていますが(同法11条1項)、買い取らない旨の通知がされることもあります。買い取られず、申出から3か月以内に所有権の移転がなければ、行為制限が外れます(同法14条)。
Q4. 指定を受けなかった場合、固定資産税はすぐに宅地並みになりますか。
国土交通省の手引きでは、宅地並み課税になるとしたうえで、三大都市圏特定市では初年度から4年目まで0.2から0.8を乗じる激変緩和措置があると説明されています。
Q5. 生産緑地を人に貸すと、納税猶予は打ち切られますか。
都市農地の貸借の円滑化に関する法律にもとづく認定を受けた計画に従って貸す場合は、納税猶予の対象になると農林水産省・国税庁の資料で説明されています。税務署への届出などの手続きがあるため、貸す前に税理士に確認してください。
出典(本文で参照している資料)
- 生産緑地法(3条、7条、8条、10条〜14条)
- 生産緑地法施行令(3条)
- 国土交通省「平成4年に定められた生産緑地の約9割が特定生産緑地に指定されました」(2023年2月14日)
- 国土交通省「特定生産緑地の指定状況に関する調査結果(令和4年12月末時点)」
- 国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」
- 国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
- 国税庁「農地等についての相続税の納税猶予及び免除等」
- 農林水産省 都市農地の貸借の円滑化に関する法律について
- 相続税法(27条)
- 農地法(4条1項7号、5条1項6号)
- 宅地建物取引業法施行令(3条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。