借地上の建物を売ると土地の賃借権も一緒に移るため、地主(借地権設定者)の承諾が必要で、地主が承諾しないときは、裁判所に承諾に代わる許可を求める「借地非訟」の手続があります(民法612条、借地借家法19条)。反対に、地主が底地を売るときは、借地人の承諾は要りません(民法605条の3)。この記事では、借地借家法の条文、裁判所の案内、国税庁の借地権・貸宅地の評価の資料をもとに、借地権と底地を売るときの手続、旧法と新法の違い、借地権割合の読み方、不動産会社の進め方を整理します。承諾料などの金額の相場は、確かめられる公的資料がないため書いていません。
借地権と底地|1つの土地に重なる2つの権利
借地借家法2条1号は、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定めています。土地を貸している人が借地権設定者(地主)、借りている人が借地権者(借地人)です。借地権が付いた土地の所有権を、実務では底地と呼びます。国税庁の財産評価では、借地権などの目的になっている宅地を「貸宅地」と呼んでいます。
借地権の多くは土地の賃借権です。この記事では賃借権の借地権を前提に説明します。
借地権は、借地権そのものの登記がなくても、土地の上に借地人の名義で登記された建物があれば、第三者に対抗できます(借地借家法10条1項)。地主が底地を売った場合でも、建物の登記があれば、借地人は新しい所有者に借地権を主張できます。借地権を買う側から見ると、建物の登記名義が借地人本人になっているかは最初に確かめたい点です。
旧法の借地権と、借地借家法の借地権
借地借家法(平成3年法律第90号)は1992年(平成4年)8月に施行されました(国土交通白書 平成14年度版)。それより前は借地法などの旧法が適用されていました。借地借家法の附則は、施行前に生じた事項にも原則として新法を適用するとしつつ、施行前に設定された借地権について、建物の朽廃による借地権の消滅や、借地契約の更新に関しては、従前の例によるとしています(附則4条〜6条)。
このため、施行前に設定された借地権(いわゆる旧法借地権)は、更新後の期間などを旧法の規定で考える必要があります。施行後に設定された借地権の期間は、借地借家法で次のように定められています。
| 項目 | 借地借家法の定め | 条文 |
|---|---|---|
| 当初の存続期間 | 30年。契約でこれより長い期間を定めたときはその期間 | 借地借家法3条 |
| 更新後の期間 | 最初の更新は20年、2回目以降は10年。当事者がこれより長い期間を定めたときはその期間 | 同法4条 |
| 一般定期借地権 | 存続期間を50年以上とし、更新や建物買取請求をしない旨を定められる | 同法22条1項 |
| 建物買取請求 | 期間が満了して更新がないとき、借地人は地主に建物を時価で買い取るよう請求できる | 同法13条1項 |
旧法の借地権か、新法の借地権か、定期借地権かで、更新の有無や期間が変わり、売却のしやすさや買主の判断も変わります。契約書の日付、更新の履歴、契約の種類を最初に確かめます。契約書が見つからない場合は、地代の領収書や過去の更新時のやり取りから、設定時期を推定する材料を集めます。
借地権を売るとき|地主の承諾と借地非訟
原則は地主の承諾
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡すことができず、承諾なしに第三者に使用させると、賃貸人は契約を解除できます(民法612条)。借地上の建物を売ると、建物と一緒に土地の賃借権も買主に移るため、地主の承諾が必要になります。
承諾を得ないまま建物を売ると、契約を解除されるおそれがあります。地主が譲渡を承諾しない場合、建物を取得した買主は地主に建物の時価での買取りを請求できますが(借地借家法14条)、土地を使い続けられるとは限りません。売買契約の前に、地主の承諾が得られる見込みを確かめておくことが基本です。
承諾が得られないときは裁判所の許可(借地借家法19条)
借地人が建物を第三者に譲渡しようとする場合で、その第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないのに、地主が承諾しないときは、裁判所は、借地人の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができます(借地借家法19条1項)。裁判所は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件の変更を命じたり、許可を財産上の給付にかからせたりすることができます(同項後段)。
裁判所は、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮して判断します(同条2項)。また、地主は、裁判所が定める期間内に、自ら建物と賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることができ、その場合、裁判所は相当の対価などを定めて地主への譲渡を命じることができます(同条3項、いわゆる介入権)。
条文が「譲渡しようとする場合」としているとおり、この申立ては売る前にします。管轄は、借地の所在地を管轄する地方裁判所です(同法41条。当事者の合意があれば簡易裁判所)。
借地非訟の種類と流れ
東京地方裁判所民事第22部の案内では、借地非訟事件として次のものが挙げられています。
| 事件 | 根拠 | どんなときに使うか |
|---|---|---|
| 借地条件変更申立事件 | 借地借家法17条1項 | 木造に限る条件を変えて、別の構造の建物を建てたい |
| 増改築許可申立事件 | 同法17条2項 | 増改築を制限する特約があり、地主が承諾しない |
| 土地の賃借権譲渡・転貸の許可申立事件 | 同法19条1項 | 建物を売りたいが、地主が賃借権の譲渡を承諾しない |
| 競売・公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件 | 同法20条 | 競売で建物を取得した人が、地主の承諾を得られない。建物の代金を支払った後2か月以内に限る |
| 借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件 | 同法19条3項 | 借地人の申立てに対して、地主が自ら買い受けたい |
同部の案内では、手続は申立書の提出で始まり、審問期日を経て、弁護士・不動産鑑定士などで構成される鑑定委員会の意見を聴いたうえで、和解や決定で終わると説明されています。決定に不服がある場合は、送達から2週間以内に即時抗告ができるとされています。
財産上の給付(いわゆる承諾料)の額は、裁判所が事案ごとに鑑定委員会の意見などを踏まえて判断するもので、一律の基準や相場を示した公的な資料は確認できませんでした。金額の見通しは、借地の案件を扱う弁護士や不動産鑑定士に相談します。
底地を売るとき
底地を売るときは、借地人の承諾は要りません。不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人の合意により譲受人に移転させることができます(民法605条の3)。また、借地人が建物の登記などで対抗要件を備えている場合、底地が譲渡されると賃貸人たる地位は譲受人に移転します(同法605条の2第1項)。
新しい地主が地位の移転を借地人に主張するには、底地の所有権移転登記が必要です(民法605条の2第3項、605条の3で準用)。地代の振込先が変わるため、借地人への通知の方法を売主と買主の間で決めておきます。
底地の買主にとっては、地代の額、更新の時期、旧法か新法か、建物の状態、借地人との関係が、収益と将来の見通しを左右します。地代が周辺と比べて不相当になっている場合、当事者は将来に向かって地代の増減を請求できます(借地借家法11条1項)。ただし、請求すれば希望どおりに変わるわけではなく、協議や調停・裁判を経ることがあります。
底地の整理には、地主が借地人から借地権を買い取る、借地人が底地を買い取る、地主と借地人が協力して借地権と底地を同時に第三者へ売る、といった方法があります。どの方法も当事者双方の合意が前提です。
借地権割合と評価|路線価図の記号
相続税・贈与税の財産評価では、借地権の価額は、借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、借地権割合を乗じて求めます(国税庁タックスアンサーNo.4611、財産評価基本通達27)。借地権割合は、借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額などをもとに、地域ごとに国税局長が定めます。
路線価図では、路線価の数字の後ろにアルファベットで借地権割合が表示されます。国税庁の「路線価図の説明」による記号と割合は次のとおりです。路線価は1平方メートル当たりの価額を千円単位で表示しています。
| 記号 | 借地権割合 |
|---|---|
| A | 90% |
| B | 80% |
| C | 70% |
| D | 60% |
| E | 50% |
| F | 40% |
| G | 30% |
貸宅地(底地)の価額は、自用地としての価額から、自用地としての価額に借地権割合を乗じた額を差し引いて求めます(国税庁タックスアンサーNo.4613)。
仮の数字で計算例を示します。路線価図に「200D」とある道路に面した、奥行きなどの補正がない100平方メートルの土地で考えます。自用地としての価額は200,000円×100平方メートル=20,000,000円です。借地権割合はDなので60%で、借地権の価額は20,000,000円×60%=12,000,000円、貸宅地の価額は20,000,000円-12,000,000円=8,000,000円になります。
注意したいのは、これが相続税・贈与税のための評価だということです。売買の価格は当事者の合意で決まり、評価額と一致するとは限りません。また、財産評価基本通達27のただし書は、権利金などの一時金を支払う借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域にある借地権は評価しないとしています。路線価や評価の基本は路線価の記事でも説明しています。
不動産会社が売却相談を受けたときの手順
借地権付き建物や底地の売却相談は、相続をきっかけに持ち込まれることが多くあります。地主と借地人の間の権利の調整を代理して交渉することは弁護士の領域なので、不動産会社は事実の確認、選択肢の整理、売買の実務を担います。手順の例を示します。
- 契約と権利を確かめる。土地の賃貸借契約書(設定時期、期間、更新の履歴、増改築や譲渡に関する特約)、地代の額と支払状況を確かめます。旧法か新法か、定期借地権かを判断する材料になります。
- 登記を確かめる。土地と建物の登記事項証明書で、底地の所有者、建物の名義、抵当権などを確かめます。建物の名義が亡くなった人のままなら、相続登記が先に必要です。
- 地主(または借地人)の意向を聞く。借地権を売る場合は地主が承諾するか、地主自身が買い取る意向があるかを確かめます。底地を売る場合は、借地人が底地を買う意向があるかを確かめます。
- 承諾が得られないときの道を示す。借地借家法19条の借地非訟があること、売る前に申し立てる手続であることを説明し、弁護士につなぎます。
- 売買契約の条件を整える。地主の承諾や裁判所の許可が得られることを売買の条件にするなど、取引の順番を契約書に反映させます。
相続した借地や底地が共有になっている場合は共有不動産の分割の記事、生産緑地を含む土地の整理は生産緑地と特定生産緑地の記事、引き取り手のない土地については相続土地国庫帰属制度の記事もあわせて読んでください。
このテーマの全体像は「不動産のコンプライアンス実務ガイド2026|宅建業法・管理業法・個人情報・犯収法」にまとめています。
よくある質問
Q1. 地主の承諾なしに借地上の建物を売れますか。
土地の賃借権の譲渡には地主の承諾が必要で、承諾なしに第三者に使用させると契約を解除されるおそれがあります(民法612条)。承諾が得られないときは、売る前に裁判所に承諾に代わる許可を申し立てる方法があります(借地借家法19条1項)。
Q2. 借地非訟で許可が出るとき、承諾料はいくらになりますか。
裁判所は許可を財産上の給付にかからせることができますが(借地借家法19条1項)、額は事案ごとの判断です。一律の基準を示した公的な資料は確認できませんでした。弁護士や不動産鑑定士に見通しを相談してください。
Q3. 地主が底地を売るとき、借地人の同意は必要ですか。
必要ありません。賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人の合意で移転させることができます(民法605条の3)。新しい地主が地位を借地人に主張するには、所有権移転登記が必要です。
Q4. 旧法の借地権かどうかは、どう見分けますか。
借地権が設定された時期で判断します。借地借家法は1992年8月に施行され、それより前に設定された借地権の更新などには従前の例が適用されます(附則6条など)。契約書の日付や更新の履歴を確かめてください。
Q5. 路線価図の借地権割合は、売買価格の目安になりますか。
借地権割合は相続税・贈与税の財産評価のために国税局長が定める割合です。売買価格は当事者の合意で決まり、評価額と一致するとは限りません。
出典(本文で参照している資料)
- 借地借家法(2条、3条、4条、10条、11条、13条、14条、17条、19条、20条、22条、41条、附則4条〜6条)
- 民法(605条の2、605条の3、612条)
- 東京地方裁判所民事第22部 借地非訟事件について
- 東京地方裁判所民事第22部 借地非訟事件手続の流れ
- 国税庁 No.4611 借地権の評価
- 国税庁 No.4613 貸宅地の評価
- 国税庁 財産評価基本通達27(借地権の評価)
- 国税庁 路線価図の説明
- 国土交通白書 平成14年度版(借地借家法の施行時期)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。


