制度・法改正 読了 14分

公益通報者保護法改正はいつから?2026年12月1日施行|不動産会社の対応

改正公益通報者保護法は2026年12月1日施行。通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰や1年以内の推定は会社の規模に関係なくかかります。施行日・経過措置と、不動産会社が見直す点を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
目次

改正公益通報者保護法は2026年12月1日に施行されます。対象は従業員を雇う全ての事業者で、不動産会社・賃貸管理会社も例外ではありません。施行日からは、公益通報を理由に従業員を解雇・懲戒した人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科され、会社にも3,000万円以下の罰金がかかります。通報後1年以内の解雇・懲戒は「通報を理由とするもの」と推定され、業務委託しているフリーランスも保護の対象に入ります。常時使用する労働者が300人以下の会社は、窓口づくりなどの体制整備は引き続き努力義務ですが、罰則と禁止行為は規模に関係なくかかります。この記事では、いつから何が変わるか、施行前と施行後で扱いが分かれる点、施行日までに見直すことを表で整理します。

結論|いつから・誰が対象・何をすればよいか

  • いつから:2026年12月1日(火)です。改正法(令和7年法律第62号)は2025年6月11日に公布され、施行期日を定める政令で12月1日と決まりました。
  • 誰が対象:労働者を使う全ての事業者です。従業員数による線引きがあるのは、窓口の設置や公益通報対応業務従事者の指定といった体制整備の義務だけです(常時使用する労働者が300人を超える事業者は義務、300人以下は努力義務)。解雇・懲戒への刑事罰、通報妨害と通報者探しの禁止は、規模に関係なくかかります。
  • 何をすればよいか:就業規則や誓約書に「通報しない」と読める条項がないかの確認、通報者を探さない運用の取り決め、業務委託しているフリーランスへの窓口の周知、そして解雇・懲戒の判断の記録の残し方の見直しです。300人を超える会社は、従事者の指定と体制の周知ができているかを確かめます。

施行日と経過措置の表

日付出来事実務への意味
2025年6月11日改正法(令和7年法律第62号)公布施行は公布から1年6か月以内の政令で定める日とされた
2025年12月施行期日を定める政令が公布施行日が2026年12月1日に決まった
2026年3月31日法定指針の一部改正(内閣府告示第15号)周知すべき事項、通報妨害・通報者探索の防止、フリーランスへの周知が指針に加わった
2026年12月1日改正法の施行刑事罰・推定規定・フリーランスの保護・妨害と探索の禁止が始まる
施行前にした行為罰則は従前の例による(附則7条)施行前の解雇・懲戒に新しい刑事罰はかからない
施行前にした合意通報しない合意を無効とする規定は、施行後の合意に適用(附則5条)施行後に結ぶ誓約書・契約から無効の対象になる
施行前にされた通報罰則以外の新しい規定は、施行前の通報にも原則として適用(附則2条)施行前の通報を理由に、施行後に解雇・懲戒すれば新しい規定の対象になる
施行後3年を目途政府が施行状況を検討(附則9条)次の見直しの中身はまだ決まっていません

経過措置で押さえたいのは、「いつ通報されたか」ではなく「いつ解雇・懲戒したか」「いつ合意したか」で新旧が分かれる点です。施行前に受けた通報であっても、12月1日以降に解雇や懲戒をすれば、改正後の規定で判断されます。

何が変わるか|5つの改正点

1. 解雇・懲戒に刑事罰がつく

公益通報をしたことを理由に労働者を解雇し、または懲戒した者は、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(改正後21条1項)。両罰規定で、法人には3,000万円以下の罰金が科されます(23条)。これまでも通報を理由とする解雇は無効で、不利益な取扱いは禁止されていましたが、刑事罰はありませんでした。刑事罰の対象は「解雇」と「懲戒」で、配置転換や減給など懲戒以外の不利益取扱いは、引き続き禁止されているものの刑事罰の対象ではありません。

2. 通報後1年以内の解雇・懲戒は「通報が理由」と推定される

通報から1年以内に行われた解雇・懲戒は、公益通報を理由とするものと推定されます(改正後3条3項)。報道機関など事業者の外への通報(いわゆる3号通報)の場合は、事業者がその通報を知った日から1年以内です。推定されるということは、裁判などで争いになったとき、通報とは別の理由で解雇・懲戒したことを会社の側が示す必要があるということです。

3. フリーランスが保護の対象に入る

事業者から業務委託を受けているフリーランス(特定受託事業者取引適正化法2条の特定受託業務従事者)と、業務委託が終わってから1年以内の人が、公益通報者に加わりました(改正後2条)。通報を理由とする契約の解除、取引の数量を減らすこと、取引の停止、報酬の減額などが禁止されます(改正後5条)。不動産会社では、物件撮影や図面作成、原状回復の手配、客付けの営業などを個人に業務委託している場合が当てはまり得ます。

4. 通報を妨げること、通報者を探すことの禁止

正当な理由なく、労働者等に公益通報をしない旨の合意を求めること、通報したら不利益に扱うと告げることなどが禁止されます(改正後11条の2)。これに反する合意その他の法律行為は無効です。また、正当な理由なく、公益通報者であることを明らかにするよう求めるなど、通報者を特定する目的の行為も禁止されます(11条の3)。事業者の外への通報が保護される条件の1つに「公益通報をしないよう正当な理由なく要求されたこと」があるため、妨げる行為は、かえって外部への通報を保護される形にします。

5. 体制整備の実効性を上げる仕組み

体制整備の義務の例示として、労働者等への体制の周知が条文に明記されました(改正後11条2項)。公益通報対応業務従事者を定める義務に違反した事業者には、内閣総理大臣(権限は消費者庁に委任)が勧告し、従わなければ命令・公表ができ(15条の2)、命令違反は30万円以下の罰金です。報告徴収に加えて立入検査の権限が設けられ(16条)、報告の拒否・虚偽報告・検査の拒否も30万円以下の罰金になります。

会社の規模で変わること・変わらないこと

項目常時使用する労働者300人超300人以下
内部の受付窓口など体制整備義務努力義務
公益通報対応業務従事者の指定義務(違反に勧告・命令、命令違反に罰金)努力義務
体制の周知義務の内容として明記努力義務
通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰かかるかかる
1年以内の解雇・懲戒の推定かかるかかる
通報妨害・通報者探索の禁止かかるかかる
フリーランスへの不利益取扱いの禁止かかるかかる
報告徴収・立入検査対象対象

従業員数人から数十人の不動産会社の多くは、右の列に当たります。窓口を作ることは努力義務のままでも、通報した人をどう扱うかについてのルールは、大きな会社と同じものがかかるというのが今回の改正の形です。従事者に指定された人が通報者を特定させる事項を漏らした場合の30万円以下の罰金は、改正前からある規定です。

不動産会社で通報の対象になる法律

公益通報の対象になるのは、法律の別表と政令で定められた法律に違反する犯罪行為や過料の対象となる行為、または最終的に刑罰や過料につながる行為です。e-Gov法令検索で「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」を見ると、不動産会社の業務に関わる法律として次のものが含まれています。

法律関わる業務
宅地建物取引業法売買・賃貸の仲介、広告、重要事項説明、契約書面
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律賃貸住宅の管理受託、サブリース
マンションの管理の適正化の推進に関する法律分譲マンションの管理受託
建築基準法・建築士法修繕・改修の発注、設計の依頼
住宅の品質確保の促進等に関する法律新築住宅の性能表示、紛争処理
犯罪による収益の移転防止に関する法律売買の取引時確認と記録

このほか、消費者庁のハンドブックでは、個人情報保護法や労働基準法も対象法律の例として挙げられています。対象法律の一覧は消費者庁が50音順のPDFで公表しています。どの事実が通報の対象になるかは条文ごとに罰則の有無で決まるため、個別の判断は一覧と条文で確かめてください。

施行日までに見直すこと

消費者庁の法定指針(改正後)と公益通報ハンドブックが求める体制をもとに、300人以下の会社でも施行日までに見直しておきたい点を並べます。窓口の設置そのものは努力義務ですが、下の1〜4は禁止規定と刑事罰に関わるため、規模に関係なく確かめる意味があります。

見直すこと確かめる中身関係する規定
1. 誓約書・就業規則・業務委託契約の条項「社外に一切口外しない」「行政機関に申告しない」など、公益通報をしない合意と読める書き方がないか11条の2(施行後の合意は無効)
2. 通報者を探さない取り決め行政から照会が来たときなどに、誰が通報したかを聞き出したり調べたりしない運用を、経営者と管理職で共有しているか11条の3
3. 解雇・懲戒の判断の記録解雇・懲戒の理由と経過を、判断した時点で書面に残しているか(通報後1年以内は推定がかかる)3条3項、21条1項
4. フリーランスとの取引業務委託している個人に、通報先を知らせているか。契約を切る・発注を減らすときの理由を残しているか2条、5条、法定指針
5. 受付窓口と周知窓口の連絡先、調査で利益相反を除く方法、不利益取扱いの防止、妨害・探索の防止を、従業員・役員・退職者・フリーランスに知らせているか11条、法定指針(300人以下は努力義務)
6. 従事者の指定通報を受けて通報者の名前などを知る人を、本人が分かる方法(書面など)で指定し、守秘義務と罰則を伝えているか11条、15条の2(300人超は義務)
7. 記録の保管と是正の通知対応の記録を保管し、書面で通報した人に是正の結果を知らせる手順があるか法定指針

社内で窓口を担う人を置けない規模の会社では、窓口を社外の弁護士などに委託する方法もあります。消費者庁は、体制づくりの参考として「導入支援キット」を案内しています。

なお、宅地建物取引業法の監督処分の状況は、国土交通省が毎年公表しています(宅建業法の施行状況調査2026|監督処分163件)。個人情報の扱いについては、個人情報保護委員会の漏えい対策の注意喚起もあわせて見直すと、社内ルールの棚卸しを一度で済ませられます。

よくある質問

Q1. 従業員10人の不動産会社でも、12月1日から何か義務が増えますか

窓口の設置や従事者の指定は、常時使用する労働者が300人以下なら引き続き努力義務です。一方で、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰、通報後1年以内の解雇・懲戒の推定、通報妨害と通報者探しの禁止、フリーランスへの不利益取扱いの禁止は、規模に関係なくかかります。

Q2. 入社時の誓約書に「会社の情報を外部に漏らさない」とあります。無効になりますか

改正後11条の2で無効になるのは、正当な理由なく求められた「公益通報をしない旨の合意」などです。また、無効の規定は施行後にされた合意に適用され、施行前の合意には適用されません(附則5条)。秘密保持の条項がすべて無効になるわけではありませんが、行政機関への申告まで禁じていると読める書き方は、12月1日以降に結ぶ書面から見直しておくのが安全です。個別の条項の扱いは弁護士に確かめてください。

Q3. 業務委託の営業担当(個人)も保護されますか

特定受託事業者取引適正化法2条の特定受託業務従事者に当たる個人で、事業者と業務委託の関係にある人、または業務委託が終わってから1年以内の人は、公益通報者として保護されます。通報を理由とする契約の解除、取引数量の削減、取引の停止、報酬の減額などは禁止です。

Q4. 施行前に受けた通報について、施行後に処分すると罰則がかかりますか

罰則は、施行前にした行為には従前の例によるとされています(附則7条)。一方、罰則以外の改正後の規定は、施行前にされた通報にも原則として適用されます(附則2条)。施行後に解雇や懲戒をした場合は、その行為が改正後の規定の対象になります。

Q5. 次の改正は決まっていますか

まだ決まっていません。改正法の附則で、政府は施行後3年を目途に施行状況を踏まえて検討し、必要があれば措置を講じるとされています。

出典(本文で参照している資料)

本稿で使った内容資料
改正法の経過(2025年6月11日公布)、施行日2026年12月1日、改正法・要綱・新旧対照条文・法定指針の掲載消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
施行期日を定める政令の公布消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が公布されました
改正点(刑事罰、推定規定、フリーランス、通報妨害・探索の禁止、勧告・命令・立入検査、法人3,000万円以下の罰金)、法定指針の改正点消費者庁「改正概要(公益通報者保護法、法定指針)」
条文ごとの改正内容、罰則の内容消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律 要綱」
附則(施行期日、経過措置、検討規定)消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律」
法定指針の改正(令和8年3月31日内閣府告示第15号)と体制整備の項目消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針」
300人以下は努力義務、従事者の指定方法と守秘義務、外部通報の保護要件、フリーランスの範囲消費者庁「公益通報ハンドブック 改正法(令和8年12月施行)準拠版」
通報の対象となる法律(宅地建物取引業法、賃貸住宅管理業法、マンション管理適正化法、建築基準法、建築士法、品確法、犯罪収益移転防止法)e-Gov法令検索「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」
通報の対象となる法律の一覧(50音順)消費者庁「公益通報者保護法において通報の対象となる法律について」

この記事は2026-10-20時点の情報です。

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