所有不動産記録証明制度は、ある人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記官が全国の登記記録から検索して一覧にした証明書を交付する制度で、2026年2月2日に始まりました。請求できるのは本人と、その相続人などの一般承継人です(不動産登記法119条の2)。手数料は検索条件1件・1通ごとにかかり、氏名や住所が登記と一致しない不動産は一覧に出てきません。この記事では、法務省の案内をもとに、請求できる人、手数料、検索のしくみと限界、相続登記・住所変更登記の義務化とのつながりを整理します。
所有不動産記録証明制度とは|不動産登記法119条の2
これまで、亡くなった人がどこに不動産を持っていたかを調べるには、固定資産税の納税通知書や権利証を手がかりに、市区町村ごとに名寄帳を取り寄せるのが一般的でした。名寄帳は市区町村単位の帳簿なので、手がかりのない市区町村にある不動産は見落とされやすいという弱点がありました。
所有不動産記録証明制度は、この弱点を補うために、令和3年の民法・不動産登記法の改正で設けられた制度です。不動産登記法119条の2第1項は、「何人も」、登記官に手数料を納めて、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について、登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面の交付を請求できると定めています。同条2項は、相続人その他の一般承継人が、亡くなった人(被承継人)に係る証明書を請求できるとしています。
法務省の案内では、この証明書は、請求した人が指定した検索条件(氏名・住所など)にもとづいて、登記官がシステムで検索した結果を一覧にしたものと説明されています。制度の開始日は2026年(令和8年)2月2日です。
「何人も」とありますが、請求できるのは自分が登記名義人になっている不動産についてだけです。他人の所有不動産を一覧にする制度ではありません。不動産会社がオーナーのために取得する場合は、後で説明する代理人としての請求になります。
請求できる人・請求先・必要書類
法務省の制度ページでは、請求できる人を次のように示しています。
| 請求する人 | 根拠 | 主な添付書類(法務省の案内) |
|---|---|---|
| 所有権の登記名義人本人(法人を含む) | 不動産登記法119条の2第1項 | 印鑑証明書または本人確認書類の写し。過去の氏名・住所を検索条件にする場合は、それが分かる戸籍・除籍謄本、住民票の写し、戸籍の附票の写しなど |
| 相続人その他の一般承継人(法人を含む) | 同条2項 | 上記に加えて、相続関係が分かる戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写し、会社法人等番号(法人の場合)など |
| 上記の代理人 | 法務省の案内 | 上記に加えて、請求人が実印を押した委任状と、その印鑑証明書 |
法定相続情報番号、戸籍電子証明書提供用識別符号または除籍電子証明書提供用識別符号を取得している場合は、それらを提供することで書類の提出に代えることができるとされています。法定相続情報一覧図をすでに作っている相続人は、まずそれを使えるかを確認すると手間が減ります。
請求先について、法律は「法務大臣の指定する登記所」としています(同条3項)。法務省の案内では、全国の法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)で請求でき、書面(窓口・郵送)のほかオンラインでも請求できます。亡くなった人の住所地や不動産の所在地の法務局でなくても、近くの法務局で請求できます。
手数料と請求方法|検索条件の数だけ積み上がる
手数料は、検索条件1件につき、1通当たりで計算します。法務省の制度ページに書かれている額は次のとおりです。
| 請求方法 | 交付の受け方 | 手数料(検索条件1件・1通当たり) |
|---|---|---|
| 書面請求(窓口・郵送) | 窓口または郵送 | 1,600円(収入印紙で納付) |
| オンライン請求 | 郵送で受け取る | 1,500円 |
| オンライン請求 | 窓口で受け取る | 1,470円 |
1枚の請求書で複数の検索条件を指定できますが、1つの検索条件の欄に複数の氏名や住所をまとめて書くことはできません。亡くなった人が何度か引っ越している場合、住所ごとに検索条件を分けることになり、そのぶん手数料が増えます。
仮の数字で計算例を示します。亡くなった人の最後の住所と、過去の住所2か所の計3つを検索条件にして、書面で1通請求すると、1,600円×3件=4,800円です。検索条件を4件にすれば6,400円です。
該当する不動産が見つからなかった場合でも、手数料は返ってきません。検索条件をいくつ立てるかは、住民票の除票や戸籍の附票で住所の移り変わりを確かめてから決めると、無駄が少なくなります。
検索のしくみ|氏名の前方一致と住所の照合
法務省の案内によると、検索では次のいずれかに当てはまる人が登記名義人になっている不動産が抽出されます。
- 氏名または名称が前方一致し、かつ、住所の市区町村までが一致している人
- 氏名または名称が前方一致し、かつ、住所の末尾5文字が一致している人
ローマ字氏名を検索条件に加えた場合はローマ字氏名の完全一致、会社法人等番号を加えた場合は番号の完全一致で抽出されます。また、JISの範囲外の文字(いわゆる外字)は、所定の縮退マップにもとづいて範囲内の文字に変換して検索されると説明されています。
このしくみから分かるのは、登記されている氏名・住所と、検索条件に書いた氏名・住所が一致しないと、その不動産は抽出されないということです。法務省も、登記名義人として検索条件と異なる氏名・住所で記録されている不動産は一覧に入らず、氏名・住所で検索する仕様上、網羅性には限界があると明記しています。逆に、検索条件が一致する同姓同名の別人の不動産が抽出される場合もあるとされています。
たとえば、30年前に買った土地の登記が当時の住所のままで、その後住所変更登記をしていない場合、現在の住所だけで検索してもその土地は出てきません。過去の住所を検索条件に加える必要があります。婚姻などで氏が変わった人も同じです。
証明書に出てこない不動産
法務省の案内では、次の不動産は検索結果に出てこないとされています。
| 出てこないもの | 理由 | 補う方法の例 |
|---|---|---|
| 表示に関する登記だけで、所有権の登記がない不動産 | 所有権の登記がされている不動産に限って検索するため | 市区町村の名寄帳、登記事項証明書の表題部 |
| 登記簿がコンピュータ化されていない不動産 | システム検索の対象外 | 権利証、古い売買契約書、名寄帳 |
| 検索時点で登記に反映されていない不動産 | 審査中の登記申請がある場合など | 時期をおいて請求し直す、申請中の登記の内容を確認 |
| 検索条件と異なる氏名・住所で登記されている不動産 | 氏名・住所で照合する仕様のため | 過去の住所・旧姓を検索条件に加える |
また、証明書が示すのは、その人が所有権の登記名義人として記録されている不動産です。共有持分の不動産の扱いや、記載される事項の詳細は、法務省が公開している請求書の記載例や通達で確認できます。
名寄帳・登記事項証明書と合わせて確かめる
所有不動産記録証明書は全国を横断して検索できる反面、登記の情報だけが頼りです。一方、名寄帳は、地方税法387条1項にもとづき市町村が固定資産課税台帳をもとに備える帳簿で、その市町村内の土地・家屋を所有者ごとにまとめたものです。名寄帳は市町村ごとに請求する必要がありますが、登記とは別の課税の記録から確かめられます。
2つの資料は性質が違うため、相続財産の洗い出しでは次のように組み合わせると漏れを減らせます。
- 所有不動産記録証明書で、全国の所有権登記のある不動産の候補を一覧にする。
- 一覧に出た不動産の登記事項証明書を取り、所在・地番・持分・権利関係(抵当権など)を確かめる。
- 固定資産税の納税通知書が届いていた市区町村の名寄帳を取り、一覧と突き合わせる。登記のない家屋や、一覧に出なかった土地がないかを見る。
- 権利証、古い売買契約書、預金通帳の固定資産税の引き落とし記録など、手元の資料と照らし合わせる。
それでも見つからない不動産が残る可能性はあります。相続人には、調べた範囲と使った資料を記録として渡しておくと、後で新しい不動産が見つかったときにも経緯を説明しやすくなります。
相続登記・住所変更登記の義務化とのつながり
この制度は、登記の申請義務化と同じ改正の流れの中にあります。所有不動産記録証明書で不動産が見つかれば、相続登記の申請義務が問題になります。また、登記の住所が古いままだと証明書に出てこないため、住所変更登記の義務化とも関係します。
| 義務 | 条文 | 期限 | 過料 | 開始 |
|---|---|---|---|---|
| 相続登記の申請 | 不動産登記法76条の2 | 相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内 | 10万円以下(同法164条1項) | 2024年4月1日。それより前の相続で未登記のものは2027年3月31日まで |
| 住所・氏名の変更登記の申請 | 同法76条の5 | 変更があった日から2年以内 | 5万円以下(同法164条2項) | 2026年4月1日。それより前の変更は2028年3月31日まで |
相続登記の義務化については、法務省の案内で、過料が科されないための「正当な理由」の例(相続人が非常に多い、遺産の帰属に争いがある、など)や、自分が相続人であることを申し出る相続人申告登記も説明されています。住所変更登記については、2026年4月から、登記官が住民基本台帳ネットワークで住所の変更を確かめて職権で登記する「スマート変更登記」が始まり、その前提となる検索用情報の申出は2025年4月21日から受け付けられています。法務大臣の記者会見では、検索用情報の申出をしておけば住所等変更登記の義務違反に問われなくなると説明されています。
オーナーが存命のうちに住所変更登記を済ませておけば、将来相続人が所有不動産記録証明書を請求したときに、不動産が一覧に出やすくなります。住所変更登記の実務は、住所等変更登記の義務化の記事でまとめています。
不動産会社が使うときの手順
中小の不動産会社がこの制度に関わるのは、主にオーナーの相続の相談を受けたときです。証明書を請求できるのは本人か相続人で、不動産会社は代理人として請求するか、相続人に請求を勧める立場になります。手順の例を示します。
- 相続人を確かめる。戸籍や法定相続情報一覧図で相続人が誰かを確かめます。相続人の確定は司法書士などの専門家の領域なので、必要に応じてつなぎます。
- 住所と氏名の履歴を集める。亡くなった人の住民票の除票、戸籍の附票などで、過去の住所と氏名の変遷を確かめ、検索条件を決めます。
- 請求方法を決める。相続人本人が請求するか、代理人が請求するかを決めます。代理人の場合は、請求人の実印を押した委任状と印鑑証明書を用意します。
- 証明書と名寄帳を突き合わせる。一覧の不動産ごとに登記事項証明書を取り、名寄帳や手元の資料と照らし合わせます。
- 次の手続きを整理する。相続登記の期限、売却・賃貸の継続・手放すといった方針を相続人と整理します。売却や管理の相談はここから始まります。
相続した土地を手放したい場合は相続土地国庫帰属制度の記事、相続した空き家については相続した空き家の記事、相続人どうしの共有になった不動産については共有不動産の分割の記事も参考にしてください。
オーナーの所有物件を把握しておくことは、相続のときだけでなく、日ごろの管理でも役に立ちます。ウルスタくんの物件・入居者の管理と顧客管理では、オーナーごとに管理物件や連絡先をまとめて記録できます。証明書で分かった物件の情報を整理しておく場所として使えます。
このテーマの全体像は「不動産のコンプライアンス実務ガイド2026|宅建業法・管理業法・個人情報・犯収法」にまとめています。
よくある質問
Q1. 不動産会社が自分でオーナーの所有不動産記録証明書を請求できますか。
請求できるのは所有権の登記名義人本人と、その相続人などの一般承継人です(不動産登記法119条の2)。不動産会社が請求するときは、本人または相続人の代理人として、実印を押した委任状と印鑑証明書を添えて請求します。
Q2. どこの法務局に請求すればよいですか。
法務省の案内では、全国の法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)で請求でき、オンラインでも請求できます。亡くなった人の住所地や不動産の所在地を管轄する法務局でなくてもかまいません。
Q3. 証明書に出てこなければ、不動産はないと考えてよいですか。
いいえ。所有権の登記がない不動産、コンピュータ化されていない登記簿の不動産、検索条件と異なる氏名・住所で登記されている不動産は出てきません。名寄帳や手元の資料と合わせて確かめます。
Q4. 手数料はいくらかかりますか。
検索条件1件・1通当たり、書面請求は1,600円、オンライン請求で郵送交付は1,500円、窓口交付は1,470円です。検索条件を増やすとその数だけ手数料がかかり、該当がなくても返ってきません。
Q5. 共有持分の不動産も一覧に出ますか。
証明書は、請求に係る人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を対象にしています。共有者の一人として登記されている場合の記載のされ方は、法務省が公開している請求書の記載例や通達、請求先の法務局で確認してください。
まとめ
所有不動産記録証明制度は、2026年2月2日に始まった、登記名義人ごとに全国の不動産を一覧にする制度です。請求できるのは本人と相続人などで、手数料は検索条件の数だけかかります。氏名・住所が登記と一致しない不動産は出てこないため、過去の住所を検索条件に加え、名寄帳や登記事項証明書と突き合わせて使うことが大切です。オーナーには、存命のうちに住所変更登記を済ませておくことも勧めておくと、将来の相続人の負担が軽くなります。
出典(本文で参照している資料)
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」
- 法務省 所有不動産記録証明制度 パンフレット
- 新潟地方法務局 所有不動産記録証明制度の案内(令和8年2月2日開始)
- 不動産登記法(119条の2、76条の2、76条の5、164条)
- 地方税法(387条 名寄帳)
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 名古屋法務局 住所等変更登記の義務化の案内
- 法務大臣閣議後記者会見の概要(住所等変更登記の義務化・スマート変更登記)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。