2026年10月5日以後に申請する所有権の登記では、新しく所有者になる人の「国籍等」を検索用情報として申し出ることが必要になります。外国籍の方だけの話ではありません。日本人の買主も全員が対象です。根拠は2026年3月31日に公布された不動産登記規則の一部を改正する省令です。しかも電子申請であっても、国籍等については書面等による証明情報の提供が必要とされています。電子証明書では省略できません。ウルスタ代表として自社で210室を管理し売買の媒介も扱う立場から、9月中に決済フローのどこへ書類手配を差し込むかを整理します。
【要点】10月5日に何が変わるのか
| 項目 | 2026年10月4日まで | 2026年10月5日以後 |
|---|---|---|
| 検索用情報の申出項目 | 氏名・住所・出生の年月日等 | これに国籍等が加わる |
| 申出をする人の範囲 | 国内に住所を有する者 | 国内住所の有無を問わない |
| 国籍等の証明情報 | —— | 書面等による提供が必要 |
| 電子証明書による省略 | 一部の証明情報で可 | 国籍等については不可 |
| 登記事項証明書への記載 | —— | 記載されない |
法的根拠は不動産登記規則第158条の38、第158条の39および第158条の40の改正です。改正省令は法務省令第二十三号として、2026年3月31日付の官報に公布されたとされています。
そもそも検索用情報とは何だったのか
この制度を理解するには、2026年4月に始まった仕組みから見る必要があります。所有権の登記名義人は、氏名や住所が変わったら2年以内に変更登記を申請する義務を負うようになりました。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象です。
ただ、引っ越すたびに登記を出せというのは重い。そこで、登記官が職権で変更登記をできる仕組みが同時に用意されました。そのために必要なのが検索用情報です。氏名・住所・出生の年月日等をあらかじめ登記所に届けておけば、住基ネットの情報と突き合わせて登記官が住所変更を拾える、という設計になっています。
追加されるのは1項目。しかし対象者は買主全員
制度としては、申出項目が5つから6つに増えるだけです。ところが実務の負荷は項目数に比例しません。理由は2つあります。
1つめは対象者が全員だからです。外国籍の買主に限った話であれば、年に数件の特殊案件として処理できました。日本人も含めた全買主が対象となると、これは例外処理ではなく標準フローの改訂になります。
2つめは証明情報が要るからです。国籍等を証する市町村長等の公務員が職務上作成した情報の提供が求められます。ない場合はそれに代わる情報です。ここが決済当日の書類の枚数を変えます。
「国籍」ではなく「国籍等」と書かれている理由
条文が国籍等となっているのには理由があります。改正省令では、国籍の属する国のほか、出入国管理及び難民認定法第2条第5号ロに規定する地域を含む概念として定義されています。台湾などがこれにあたります。
国家として承認されていない地域の出身者についても適切に記録するための配慮に基づくもの、と説明されています。顧客から「国籍を書けと言われたが自分の場合はどうなるのか」と聞かれる場面が出てくるはずです。制度上の言葉が「国籍等」であることを知っているだけで、その場の受け答えが変わります。
対象になる登記の範囲
| 登記の種類 | 今回の申出対象か |
|---|---|
| 売買による所有権移転登記 | 対象——買主が自然人の場合 |
| 相続による所有権移転登記 | 対象——名義人になる相続人 |
| 贈与による所有権移転登記 | 対象 |
| 新築建物の所有権保存登記 | 対象 |
| 合体による登記・所有権の更正の登記 | 対象 |
| 抵当権の設定・抹消 | 所有権の登記名義人が変わらないため対象外 |
| 買主が法人の場合 | 今回の規則改正は自然人が対象 |
売買仲介から見ると、新築の保存登記も、中古の移転登記も、相続案件の名義変更も、すべて対象に入ると考えたほうが安全です。所有権が動いて自然人が名義人になる場面は、ほぼ拾われます。
電子証明書では省略できない。ここが実務の急所
この1点が、司法書士との連携でいちばん効きます。近年、決済の登記申請はオンライン化が進み、紙の添付書類を減らす方向で運用が組まれてきました。そこへ、電子化の枠から外れる書類が1種類戻ってくる形になります。
決済当日の持ち物リストが変わる
買主に「当日これを持ってきてください」と伝えるリストがあるはずです。そこへ1行足す作業が、9月中にやっておくべきことの筆頭になります。案内書のテンプレート、メールの定型文、決済前日の確認電話のスクリプト——書類名を書いてある場所は、思っているより多いものです。
証明情報として何を用意するのか
| 買主の区分 | 証明情報として想定されるもの |
|---|---|
| 日本国籍の方 | 戸籍謄本——本籍地の都道府県が確認できるもの、旅券、本籍記載の住民票など |
| 外国籍の方 | 旅券、国籍記載の住民票など |
| 上記がない場合 | 公務員が職務上作成した情報に代わる情報 |
なお、申し出た国籍等が本人のものであることを登記官が確認できる事項を申請情報の内容とした場合は、証明情報の提供が不要になるとされています。ただし電子証明書による省略はできません。
海外在住者も対象に——国内住所要件の撤廃
これまで検索用情報の申出は国内に住所を有する者に限定されていました。今回の改正でこの要件が削除されます。海外在住の方も申出の対象に含まれることになります。
影響が出るのは在外邦人が買主になる案件と、相続人の一部が海外にいる相続登記です。前者は投資用物件の購入で実際にあります。後者は空き家の相続案件でよく出てきます。どちらも書類の取得に領事館が絡むと、日数の読みが一気に難しくなります。
登記事項証明書には載らない。顧客説明の第一声はここ
顧客説明で最初に伝えるべきはこれです。「国籍を出せ」と言われて身構えない人はいません。登記簿に載って誰でも見られるようになるわけではないという一言を先に置くだけで、その後の会話が落ち着きます。順番を逆にすると、必要書類の説明が全部届かなくなります。
なぜこの改正が入ったのか——2つの目的
説明されている狙いは2つです。1つは外国人による不動産保有の実態把握。国土の適切な利用および管理の観点から、保有の実態を正確に把握する必要があるという整理です。この改正は、2025年11月4日の関係閣僚会議における内閣総理大臣指示を踏まえた一連の政省令改正の一部にあたります。
もう1つは相続登記の円滑化です。所有権の登記名義人が死亡した場合、適用される準拠法はその者の国籍によって定まります。あらかじめ国籍等を把握しておけば、遺産分割後の登記手続きが迅速化される、という理屈です。日本人も対象になっている理由は、こちらの目的で説明がつきます。
2026年の登記制度は4月と10月の二段構えになっている
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年4月1日 | 住所・氏名変更登記の義務化——2年以内、5万円以下の過料 |
| 2026年4月1日 | 登記官の職権による変更登記——いわゆるスマート変更登記 |
| 2026年4月1日 | 所有不動産記録証明制度の運用開始 |
| 2026年4月1日 | 重要土地等調査法施行規則・国土利用計画法施行規則の改正——法人の届出強化 |
| 2026年10月5日 | 検索用情報への国籍等の追加・国内住所要件の撤廃 |
| 2027年4月1日 | 森林法施行規則の改正——林地台帳の記載事項に国籍等を追加 |
4月の変更を社内に周知しきる前に10月が来る、という会社は多いはずです。4月分の説明資料をまだ作っていないなら、10月分とまとめて1本にしたほうが早いと考えています。顧客から見れば、どちらも「登記まわりで何か増えた」という同じ話です。
決済フローのどこに差し込むか
自社で議論した結果、差し込む場所は3か所という整理になりました。
契約から決済までのリードタイムを見直す
本籍地が現住所と離れている買主は珍しくありません。戸籍謄本を郵送請求すると、往復で1週間から2週間を見るのが普通です。広域交付の仕組みを使える場合もありますが、案件ごとに事情が違います。
問題は、これが従来の決済準備に入っていなかった作業だという点です。融資の本審査、火災保険の付保、住民票の移動——買主にお願いする作業は既にいくつもあります。そこへ1つ増えることを前提に、案内のタイミングを前倒しする必要があります。
9月末と10月上旬で扱いが分かれる
実務上、決済当日にオンライン申請まで完了させる運用が一般的ですから、多くの案件では決済日と申請日がほぼ一致します。それでも10月上旬に決済が入っている案件は、9月のうちに司法書士と扱いを確認しておくのが安全です。境目の1週間は、聞いておけば済む話が、聞いていないと事故になります。
登記完了までの日数が延びる可能性
東京司法書士会のパブリックコメント意見書では、検索用情報の確認作業が増えることで登記事務処理日数が延びる可能性が指摘されています。登記所の側で確認する項目が増える以上、これは自然な懸念です。
どれだけ延びるかの数値は、現時点では誰にも分かりません。ただ、登記完了証や登記識別情報の受領を前提に動く後続の手続き——買主の住所変更、火災保険の証券差替え、賃貸中物件のオーナーチェンジ通知——を、余裕を持って組んでおく理由にはなります。
外国籍の買主がいる案件で先に確認すること
外国籍の買主が関わる取引では、国籍等の証明書類の準備状況を契約段階から確認しておくことが、取引を円滑に進める鍵になります。旅券の有効期限が切れている、住民票に国籍の記載がない、といった事情は決済直前に出てくると詰みます。
自社では、犯収法の取引時確認で本人確認書類を受け取る場面と、この確認をまとめる方向で検討しています。同じ書類を2回もらうのは、こちらにとっても相手にとっても手間です。ただし取得目的が違う以上、記録の残し方は分けて考える必要があると理解しています。
買主が法人の場合——今回の対象外だが別の制度がある
今回の不動産登記規則の改正は自然人が対象です。法人が買主になる場合、この申出義務の枠には入りません。
ただし法人については、重要土地等調査法施行規則および国土利用計画法施行規則の改正により、代表者・役員・議決権の過半数を占める者の国籍等に関する届出が2026年4月1日から強化されています。別の制度が別の場面で動いているという理解が要ります。届出の要件は制度ごとに異なりますので、該当しそうな案件は個別に確認してください。
すでに所有している人はどうなるか
現在すでに所有権の登記名義人となっている方に、直ちに義務が生じるわけではありません。新たな登記申請を行わない限り、この改正が求めるものはありません。
一方で、任意の申出が可能とされています。改正後の規則第158条の40による申出で、海外在住の方も申出ができます。将来の相続登記を見据えた備えとして位置づけられています。オーナーからの相談で相続の話が出たとき、選択肢の1つとして知っておく価値はあります。
8月から10月までの工程表
| 時期 | やること |
|---|---|
| 8月上旬 | 10月以降に決済予定の案件を一覧化する。買主の国籍・居住地を確認 |
| 8月中旬 | 提携司法書士に、書類の運用と決済当日の段取りを照会する |
| 8月下旬 | 買主向け必要書類案内のテンプレートを改訂する |
| 9月上旬 | 営業・契約担当への社内周知。決済前日確認のスクリプトを更新 |
| 9月中旬 | 10月上旬決済の案件について、買主へ書類手配を依頼する |
| 9月下旬 | 通達・書式の公表があれば内容を反映し、案内を差し替える |
| 10月上旬 | 最初の数件を通し、実際に詰まった箇所を記録に残す |
この工程でいちばん軽視されやすいのは8月中旬の司法書士への照会です。制度の条文を自社で読み込むより、実際に申請を出す人に「当日どうしますか」と聞いたほうが、はるかに早く実務が固まります。
よくある誤解
よくある質問
Q1. 二重国籍の買主はどう申し出るのか。
複数の国籍を有する場合の具体的な取扱いは、今後の通達等で示される見込みとされています。現時点で自社が答えを出すべき論点ではありません。該当しそうな案件が出たら、早い段階で司法書士に投げてください。
Q2. 申出をしなかったらどうなるのか。
国籍等は検索用情報の必須項目となるため、提供しない場合は登記申請が受理されない可能性があります。補正で足りるのか却下になるのかといった運用の細部は、通達を待つ部分です。実務としては、出せる状態にしておく以外の選択肢はありません。
Q3. 相続登記では誰の国籍等を届け出るのか。
新制度上の申出対象は、新たに所有権の登記名義人となる相続人側の国籍等です。なお、外国籍の被相続人が関わる相続登記では、別途、本国法に関する資料の検討が必要になる場合があります。
Q4. 仲介会社として、どこまで踏み込むべきか。
登記申請は司法書士の職域です。仲介会社の役割は、必要な書類が決済日までに揃うように段取りを組むことだと整理しています。制度の細部を説明しきろうとするより、案内書に1行足して手配を早めるほうが、実際の事故を防ぎます。
情報の扱いで慎重にした点
本記事は登記実務の専門的判断を代替するものではありません。次の点は意識的に断定を避けています。
- 施行日2026年10月5日および公布日2026年3月31日は、司法書士事務所の解説に基づく記載です。官報および法務省サイトの原典は本記事の執筆時点で未確認であり、実務では最新の公式情報をご確認ください。
- 添付書類の具体的な組み合わせは、今後の通達および書式の公表によって固まる部分があります。本文の書類例は想定される候補であり、確定した一覧ではありません。
- 二重国籍者の届出方法は通達待ちであり、手順を書いていません。
- 申出を欠いた場合の補正・却下の運用は断定していません。
- 登記完了までの日数がどれだけ延びるかは、可能性の指摘にとどめ、数値を書いていません。
- 法人が買主となる場合の届出制度は、別制度が存在する旨を示すにとどめ、要件の詳細は書いていません。
ウルスタでは、中小不動産会社の実務から見た制度と段取りの記事を毎日更新しています。社内の書式改訂や説明資料の材料にお使いください。https://ulsta.jp
- 司法書士法人 不動産名義変更手続センター「不動産登記の国籍等提供義務化——2026年10月施行の要件・必要書類・実務フロー」最終更新2026年4月1日。不動産登記規則の一部を改正する省令——法務省令第二十三号——が2026年3月31日付官報に公布され、国籍等の提供義務化に関する規定の施行日は2026年10月5日である旨。所有権の保存・移転・更正等の登記で登記名義人となる自然人が日本人・外国人の区別なく対象である旨。国籍等の定義に出入国管理及び難民認定法第2条第5号ロの地域を含む旨。電子証明書による証明情報の省略が認められない旨。国内住所要件が削除された旨。登記事項証明書に記載されない旨。不動産登記規則第158条の38・第158条の39・第158条の40の改正である旨。東京司法書士会の意見書で登記事務処理日数が延びる可能性が指摘されている旨。二重国籍の取扱いは今後の通達による旨。
- 長島・大野・常松法律事務所 宮城栄司「不動産関連取引における国籍の届出等の義務化」NO&T Real Estate Legal Update No.15、2025年12月25日。2025年11月4日の関係閣僚会議における内閣総理大臣指示を踏まえた一連の政省令改正である旨。不動産登記規則第158条の39第1項の改正前の枠組みと、法務大臣が検索用情報管理ファイルを備え記録対象が自然人に限られる旨。国内に住所を有するか否かにかかわらず国籍を検索用情報として申し出ることが必要になる旨。不動産登記法第76条の5・第76条の6・第164条第2項の内容。重要土地等調査法施行規則および国土利用計画法施行規則の改正が2026年4月1日施行、森林法施行規則の改正が2027年4月1日施行である旨。


