2026年、外国人・非居住者による不動産取得のルールが一斉に動いています。外為法の省令改正により、2026年4月1日以降の取得からは居住目的を含むすべての取引で取得後20日以内の報告が必要になり、法務省は移転登記の際に国籍情報の提供を求める運用を2026年度中に始めます。重要土地等調査法でも法人の役員国籍に着目した届出の強化が始まりました。海外マネーの流入が続くなか、買主が非居住者である売買は、都市部だけでなく地方の投資物件や別荘地でも珍しくなくなりました。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、外為法の事後報告のしくみと2026年改正の中身、登記・重要土地等調査法の動き、そして仲介会社が押さえるべき実務対応を、宅地建物取引士の目線で整理します。
なぜいま動くのか——外国人取得の「実態が分からない」への対応
円安基調と海外投資家の日本不動産への関心の高まりを背景に、外国人・海外居住者による取得は都心のタワーマンションから地方のリゾート、山林まで広がっています。ところが、日本には外国人の不動産取得を包括的に把握する統計が存在せず、「どの国の誰が、どこをどれだけ持っているのか分からない」という状態が長く続いてきました。政府は2025年秋以降この実態把握の強化へ大きく舵を切り、既存の枠組みを広げる形で対応策を進めています。
柱は三つです。第一に、外為法に基づく非居住者の不動産取得報告の厳格化。財務省が2025年12月に省令改正を行い、2026年4月1日以降の取得分から免除規定が撤廃されました。第二に、不動産登記時の国籍情報の提供義務化。法務省が省令を改正し、2026年度中に運用が始まる予定です。第三に、重要土地等調査法や森林の取得に関する国籍届出の強化。防衛関係施設周辺などの重要土地や森林について、法人の役員構成の国籍まで踏み込んだ届出が2026年度から求められます。いずれも「取引を禁止する」規制ではなく「実態を把握する」ための制度ですが、手続を怠れば罰則があり、仲介会社が知らなかったでは済まされません。政府には外国人政策を担当する大臣も置かれ、把握した取得実態の公表まで検討されていると報じられており、この分野の制度整備は2026年度以降も続く見通しです。
大前提——「外国人かどうか」ではなく「居住者か非居住者か」
最初に押さえるべきは、外為法の報告義務の主体は国籍ではなく居住性で決まることです。報告が必要なのは「非居住者」、つまり生活の本拠が日本国外にある個人や、外国に主たる事務所を置く法人です。外国籍でも日本に住んで生活している人は「居住者」であり、外為法の取得報告は不要です。逆に、日本人でも海外赴任などで国外に居住していれば非居住者として報告義務を負います。
現場で誤解が最も多いのがこの点です。「外国人のお客様ではないから関係ない」と思い込み、海外駐在中の日本人投資家の購入で報告が漏れる——という事故が起こりやすい構図です。判定に迷う場合は、勤務先・滞在期間・住民票の有無などから総合的に判断されるため、媒介受託の段階で買主の居住地と滞在状況を確認し、微妙なケースは日本銀行や専門家への確認につなぐのが安全です。
外為法の事後報告のしくみ——取得後20日以内・日銀経由で財務大臣へ
外為法では、非居住者が本邦にある不動産またはこれに関する権利を取得した場合、「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」——別紙様式第二十二——を取得後20日以内に、日本銀行を経由して財務大臣に提出する必要があります。対象は所有権の取得に限らず、抵当権や賃借権などの権利の取得も含まれる点に注意してください。
報告書の作成・提出は取得者本人のほか、居住者である代理人——不動産仲介業者など——による提出も認められています。書面のほかオンライン提出も可能で、2026年4月1日以降の取得分からはExcel様式も用意されました。財務省は2026年2月にリーフレットとFAQを公表し、全国宅地建物取引業協会連合会などの業界団体を通じて会員会社への周知を進めています。報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合は、外為法の罰則——6か月以下の懲役または50万円以下の罰金——の対象になり得ます。
報告書に記載するのは、取得者の氏名・住所といった基本情報のほか、不動産の所在や種類、取得の時期、対価の額などです。売買契約書と登記情報が手元にあれば、作成自体はそれほど難しくありません。財務省と日本銀行が記入の手引を公表しているため、初めての案件では手引と照らし合わせながら埋めるのが確実です。仲介会社が代理提出まで受任しない場合でも、契約書の写しなど必要資料を買主に整理して渡すだけで、報告のハードルは大きく下がります。
2026年4月改正の中身——居住目的の免除が撤廃され「全件報告」に
2026年3月31日までの取得については、非居住者本人やその親族・使用人が居住するための取得、非営利目的の取得、事務所用の取得などには報告の免除がありました。実務上は「投資用は報告、自宅用は不要」という整理で運用されてきたわけです。今回の省令改正でこの免除規定が撤廃され、2026年4月1日以降の取得は目的を問わず全件報告になりました。
背景には、居住目的と称して取得された物件が実際には投資・投機に使われても把握できない、という制度の穴への指摘があります。なお、セカンドハウスや別荘はもともと免除の対象外であり、従来から報告が必要でした。仲介会社としては「2026年4月からは、非居住者の買主であれば理由を問わず報告があるもの」と覚えてしまうのが実務的です。取得の類型ごとに要否を判断する必要がなくなった分、案内はむしろシンプルになったと言えます。
三つの制度を一枚で整理する
| 制度 | 対象 | タイミング | 内容 |
|---|---|---|---|
| 外為法の取得報告 | 非居住者——国籍を問わない | 取得後20日以内 | 様式第二十二を日銀経由で財務大臣へ提出。2026年4月から免除撤廃で全件報告。代理提出可 |
| 登記時の国籍情報 | 不動産を取得する個人——外国籍の場合 | 移転登記の申請時 | 売買や相続などの移転登記の際に国籍情報を提供。2026年度中に運用開始予定 |
| 重要土地等調査法の事前届出 | 特別注視区域内の200平方メートル以上の土地・建物の契約当事者——双方 | 契約締結前 | 氏名・国籍・利用目的等を国へ事前届出。違反は6か月以下の懲役または100万円以下の罰金 |
性格の違いに注目してください。外為法は「取得後の報告」、登記は「登記手続のなかでの情報提供」、重要土地等調査法は「契約前の届出」です。タイミングが三様である以上、案件のどの段階で何を確認するかを調査の型として持っていないと、どれかが必ず漏れます。
登記でも国籍情報——2026年度から運用開始へ
法務省は、個人が売買や相続などで不動産を取得して移転登記を申請する際に、国籍情報の提供を義務付ける方針を公表しました。パブリックコメントを経て省令を改正し、2026年度中に運用を始める予定です。登記記録と国籍が結び付くことで、外国人の取得実態を登記側からも把握できるようにする狙いです。
実務への影響は、書類準備の一手間です。外国籍の買主については、在留カードやパスポートなど国籍を確認できる書類を決済までに揃える段取りが必要になります。登記申請を担う司法書士との事前共有が肝心で、決済当日に「国籍確認書類が足りない」と判明する事態だけは避けたいところです。運用開始時期や必要書類の詳細は今後の公表資料で確定していくため、司法書士との定例のやり取りのなかで最新情報を確認する運用をおすすめします。
重要土地等調査法——特別注視区域の事前届出を調査の型に
2022年9月に全面施行された重要土地等調査法は、自衛隊基地や原子力発電所など重要施設の周囲おおむね1,000メートルの区域や国境離島等を「注視区域」に、そのうち特に重要性の高い場所を「特別注視区域」に指定し、土地等の利用状況を国が調査する法律です。仲介実務に直結するのは、特別注視区域内にある200平方メートル以上の土地・建物の売買等では、契約当事者双方に国への事前届出義務があることです。届出を怠ったり虚偽の届出をしたりすれば、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になります。買主の国籍を問わず適用される義務であり、日本人同士の取引でも必要です。
さらに2026年4月からは、法人が重要土地や大規模な土地・森林を取得する際、代表者の国籍に加えて役員の過半数が同一国籍の場合にも届出が求められる方向で強化が進み、森林については個人の取得でも国籍の登録が始まります。区域の該当確認は内閣府の公表資料や閲覧システムで行えます。物件調査のチェックリストに「注視区域・特別注視区域の該当確認」の一行を加え、確認日と確認先を記録する——これだけで届出漏れのリスクは大きく下がります。
特別注視区域・注視区域の該当は、宅建業法の重要事項説明で説明すべき法令上の制限として扱われます。一方、外為法の取得報告は買主自身の義務であり重説の法定記載事項ではありませんが、知らずに罰則を受けるのは買主です。重説とは別に、媒介業務に付随する情報提供として書面で案内し、案内した事実を記録に残す——この二段構えが、買主保護と自社防衛の両方に効きます。
非居住者との取引で必ず出る周辺論点——源泉徴収と本人確認
非居住者が関わる売買では、外為法以外にも定番の論点があります。代表が源泉徴収です。こちらは非居住者が「売主」の場合の話で、買主は売買代金の支払時に原則として10.21パーセントを源泉徴収して税務署に納付する義務を負います。買主が個人で自己やその親族の居住用に取得し、代金が1億円以下の場合は不要という例外はありますが、要件判定は個別性が高く、税理士への確認を必ず挟むべき領域です。買主側の仲介に入った場合、この案内を落とすと買主が納税義務を負ったまま気付かない、という深刻な事故につながります。
もう一つが本人確認と決済の段取りです。犯罪収益移転防止法の取引時確認は非居住者でも当然必要で、海外在住者は本人確認書類や印鑑証明に代わる署名証明の取得に時間がかかります。売買代金の海外送金は着金までのタイムラグや金融機関の追加確認が発生しやすく、着金確認前に所有権移転を進めるわけにはいきません。決済日は余裕を持って設定し、送金の段取りを金融機関・司法書士と事前にすり合わせておくことが、非居住者案件を円滑に閉じるコツです。
外為法の報告対象は所有権だけでなく賃借権などの権利の取得も含みます。非居住者である外国法人が事務所や店舗を借りる場合など、賃貸借契約でも報告が必要になる場面があります。売買部門だけでなく賃貸部門にも「非居住者が借主になる契約は外為法の確認を通す」というルールを共有しておくと、思わぬ漏れを防げます。
仲介実務チェック七つ——媒介受託から決済まで
ここまでの内容を、案件の流れに沿った七つのチェックに落とし込みます。第一に、媒介受託時に買主・売主の居住性を判定する。居住地・滞在状況・住民票を確認し、判定結果を媒介記録に残します。第二に、非居住者の買主には外為法報告を契約前に書面で案内する。20日以内・様式第二十二・日銀経由という要点と、報告は買主自身の義務であることを明記します。第三に、代理提出を受けるかどうかの社内方針を決めておく。受ける場合は報告書の控えを案件記録に残し、受けない場合は提出先の情報を案内します。第四に、物件調査で注視区域・特別注視区域の該当を確認する。該当すれば200平方メートル以上かを測り、事前届出のスケジュールを契約日程に織り込みます。第五に、外国籍の買主の登記必要書類を司法書士と早期に共有する。国籍情報の提供開始をにらみ、在留カードやパスポートの写しの準備を前倒しします。第六に、売主が非居住者なら源泉徴収の要否を買主・税理士と確認する。第七に、案内・確認・提出のすべてを日付入りで記録化する。制度対応の実体は、この記録の積み重ねです。
現場メモ——「自分が非居住者だという自覚がなかった」
以前、シンガポールに赴任中の日本人投資家から都内の区分マンション購入の媒介を受けたことがあります。日本国籍で、日本語のやり取りで、国内に納税管理人も置いている方でした。決済の段取りを詰める段階で司法書士から「この方は非居住者ですから外為法の報告の案内はされていますか」と指摘され、正直に言えばそこで初めて調べ直しました。ご本人も「外国人向けの制度だと思っていた」と驚かれていた——この感覚のずれこそが、この制度の落とし穴だと痛感した案件です。
当時は投資用だったため免除の論点はありませんでしたが、2026年4月以降は居住用でも全件報告です。つまり「海外赴任中に日本の自宅を買っておく」という、ごくありふれた取引がすべて報告対象になりました。買主の属性を聞く最初の面談で居住性まで確認する癖を付けておけば、後工程は淡々と進みます。逆にここを飛ばすと、決済直前のばたつきや、最悪の場合は買主の報告漏れという形で返ってきます。
社内体制五ステップ——報告漏れを人ではなく仕組みで防ぐ
ステップ一、媒介受託書式に居住性の確認欄を設ける。氏名・国籍の下に「生活の本拠は国内か国外か」のチェックを置くだけで、判定が業務フローに組み込まれます。ステップ二、非居住者向けの案内文書テンプレートを整備する。外為法報告・登記書類・源泉徴収の三点セットを一枚にまとめ、契約前に交付します。ステップ三、物件調査チェックリストに区域確認を追加する。注視区域・特別注視区域・面積要件の三項目です。ステップ四、司法書士・税理士・金融機関の連携先リストを作る。非居住者案件の経験がある専門家を事前に把握しておくと、初動が速くなります。ステップ五、制度アップデートの当番を決める。登記の国籍情報や重要土地の届出強化は2026年度中も動きが続くため、四半期に一度、財務省・法務省・内閣府の公表資料を確認する担当を置きます。
ウルスタは、中小不動産会社の物件・顧客・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。非居住者案件の実務の実体は、居住性の判定・区域確認・案内交付・提出控えという記録の積み重ねです。どの案件で、いつ、誰に、何を案内したかが案件ごとに整っていれば、制度改正が続いても対応品質は安定し、万一の際に自社の説明義務を尽くした証拠にもなります。詳しくは https://ulsta.jp をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本に住んでいる外国籍のお客様が購入する場合、外為法の報告は必要ですか。
不要です。日本に生活の本拠がある方は居住者であり、外為法の取得報告の対象になりません。ただし移転登記の際の国籍情報の提供は、外国籍の方を対象に2026年度から始まる見込みです。
Q2. 報告書は誰が提出するのですか。仲介会社の義務ですか。
提出義務者は取得者である非居住者本人です。仲介会社に法律上の提出義務はありませんが、居住者である代理人として提出を受任することは認められています。受任の有無にかかわらず、義務の存在を案内することが仲介の付加価値になります。
Q3. 2026年3月以前に取得した物件について、今から報告が必要ですか。
免除撤廃が適用されるのは2026年4月1日以降の取得分です。それ以前の取得は当時のルールで判断されます。当時免除に該当しない取得で報告を失念していた場合は、気付いた時点で速やかに日本銀行へ相談することをおすすめします。
Q4. 賃貸借契約でも報告が必要と聞きました。本当ですか。
本当です。報告対象は不動産に関する権利の取得を含み、賃借権も該当します。非居住者や外国法人が借主になる契約では、報告の要否を日本銀行の資料で確認してください。
Q5. セカンドハウスや別荘の購入はどう扱われますか。
セカンドハウスや別荘はもともと居住目的の免除の対象外で、従来から報告が必要でした。2026年4月以降は本宅・別荘の区別なく全件報告なので、迷う余地はなくなっています。
Q6. 特別注視区域かどうかは、どこで確認できますか。
内閣府のホームページで指定区域の一覧と図面が公表されており、指定区域の閲覧システムでも確認できます。確認した日付と確認先を物件調査の記録に残しておきましょう。
Q7. 買主が報告を怠った場合、仲介会社の責任になりますか。
報告義務そのものは買主にあり、仲介会社が罰則を受ける立場ではありません。ただし、知っていれば当然案内すべき制度を案内しなかった場合、説明義務を巡る紛争の火種になり得ます。案内した事実と日付を記録しておくことが、実務的な防御線です。
まとめ:居住性の確認を「最初の一問」に
2026年、外国人・非居住者の不動産取得を巡る制度は、外為法の全件報告化、登記時の国籍情報の提供、重要土地等調査法の届出強化という三つの軸で一斉に動いています。共通するのは、取引を禁じるのではなく実態を把握するための制度であり、手続の主役は買主・売主本人だという点です。仲介会社の役割は、媒介受託の最初の面談で居住性を確認し、必要な報告・届出・書類を早い段階で見通し、案内の記録を残すこと。国際化する取引を「難しい案件」ではなく「型のある案件」に変えられた会社が、これからの非居住者マーケットで選ばれていきます。まずは媒介受託書式に、居住性の確認欄を一行加えるところから始めてみてください。
参考: 財務省「非居住者による本邦の不動産等取得に係る報告」制度概要・リーフレット・FAQ(2026年2月) / 日本銀行・外為法の報告制度 / 財務省による外国為替の取引等の報告に関する省令の改正(2025年12月) / 法務省・不動産登記における国籍情報の提供に関する公表資料および報道(日本経済新聞ほか) / 内閣府・重要土地等調査法(注視区域・特別注視区域の指定状況、届出制度) / 全国宅地建物取引業協会連合会・外為法に基づく報告書提出の周知 / いずれも2026年7月時点の公開情報および自社の不動産実務をもとに整理


