不動産会社の業務改善 読了 26分

2,000㎡未満の取引は、いま届出の外にある——国土利用計画法の届出面積引き下げ提言を、売買仲介の段取りから読む

届出面積が下がる、という一行の提言です。ですが根拠になった全国調査を開くと、不適切な土地利用として報告された事案のうち、面積が判明した1,023件の約半分が2,000㎡未満でした。現行のいちばん厳しい閾値でも網にかからない。そして取得前に気づけていたのは1.3%だけです。仲介の段取りが、どこで一段増えるのかを整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
国土利用計画法の届出面積引き下げ2026|売買仲介の実務
目次

売買契約を結んだ2週間後に、買主が役所へ紙を出す。その紙が必要になる取引の下限が、下がろうとしています。国土交通省の「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」が、令和8年7月31日の第5回会議で取りまとめに入りました。柱のひとつが国土利用計画法の届出対象面積の引き下げです。制度の話に見えますが、効いてくるのは契約書を交わした翌週の段取りのほうです。

提言の一行を、契約日から数えて読む

有識者会議の資料は、読み始めると眠くなる種類の文書です。国土の適正な利用。土地政策の課題の移行。役割分担。街の不動産会社の一日とは接点がなさそうに見えます。

ですが今回の提言には、実務に直で触れる部分があります。国土利用計画法に基づく土地取引の届出について、対象となる面積の要件を引き下げるという方向づけです。閾値が下がるということは、これまで「うちの扱う規模では関係のない制度」だった取引が、関係のある取引に変わるということでもあります。

本稿は、提言そのものよりも、根拠として同じ会議に出された全国調査の生データを読みます。そこに、引き下げがどのくらいの幅になりうるかを推し量る材料が入っているからです。

【要点】売買仲介にとっての3点

読み取れること数字・根拠
問題になった土地の約半分は、現行のいちばん低い閾値にも届いていない面積が判明した1,023件のうち510件(49.9%)が2,000㎡未満。市街化区域の届出基準ですら網にかからない規模
取得の段階で止められた事案は、ほぼ無い認知のタイミングの回答1,422件のうち「土地取得前」は18件(1.3%)。「使用開始後一定期間後」が781件(54.9%)で最多
問題は市街化区域ではなく、その外側で起きている都市計画区域の指定区域別で市街化調整区域が851件。市街化区域は95件にとどまる

数字はすべて、令和8年7月31日の第5回会議に資料1として提出された「土地の取得及び利用実態に関する全国調査結果(まとめ)」に基づきます。割合は本稿で計算した派生値です。計算の前提は最後の章にまとめました。

いま届出が要るのは、どこからか

まず現行制度を確認します。国土利用計画法の事後届出は、一定規模以上の土地について権利を取得する契約(対価を伴うもの)を結んだ場合に、買主が届け出るものです。

土地の区分面積要件(一団の土地)
市街化区域内2,000㎡以上
市街化区域以外の都市計画区域5,000㎡以上
都市計画区域以外の区域10,000㎡以上

対象となる権利は所有権だけではありません。地上権、賃借権、またはこれらの権利の取得を目的とする権利が含まれます。契約の形も幅があります。売買、交換、営業譲渡、譲渡担保の設定、代物弁済、共有持分の譲渡、地位の譲渡、権利金等の授受のある地上権・賃借権、信託受益権の譲渡、予約完結権や買戻権の譲渡。そしてこれらの契約の予約も同様に対象です。

ここは実務で取りこぼしが出やすいところです。「所有権の売買しか対象にならない」と覚えていると、権利金のある事業用定期借地の設定で面積が閾値を超えたときに気づけません。

適用除外もあります。当事者の一方または双方が国等である場合など法第23条第2項に該当するとき、農地法第3条第1項の許可を要する場合など施行令で定められた場合は届出が不要です。

期限は14日。起算日は決済日ではなく契約日

ここが実務でいちばん事故になる箇所です。

届出は、契約した日を含めて14日以内。火曜に契約したら、翌々週の月曜まで。14日目が土日祝で市町村の窓口が閉まっている場合は、その翌日までとされています。

起算日は契約を締結した日です。移転登記の日でも、引渡日でも、残代金決済日でもありません。

売買仲介の頭の中では、契約から決済まで1か月というリズムが標準です。そのリズムのままでいると、決済の準備をしている最中に届出期限が過ぎます。契約日から14日目は、たいてい「まだ何も動いていない」時期に落ちます。

提出先は土地の所在する市町村の窓口です。届出書は3部(うち1部が届出人控え)。添付書類は、位置図(5万分の1程度)、周辺状況図(5千分の1程度)、形状図(公図・測量図等)、契約書の写しまたはこれに代わる書類が各2部。代理人が出す場合は委任状が要ります。押印は、令和3年1月1日から届出書・委任状ともに不要です。

受理された届出は市町村長の意見を付して都道府県へ送られ、都道府県が利用目的を審査します。土地利用基本計画に適合しない場合は利用目的の変更を勧告されることがあり、勧告は受理日から3週間以内(延長通知があればその期間内)。勧告しない場合の通知は原則ありませんが、届出書の「その他参考となるべき事項」欄に希望を書けば不勧告通知が出ます。

この「不勧告通知を求められる」という一行には使い道があります。買主が金融機関や社内稟議に対して「行政から是正を求められていない」ことを示したい場合、口頭ではなく紙で持てるからです。

届出をしないと、何が起きるか

期限内に届出をしない場合、または偽りの届出をした場合には、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金が定められています。

実際に刑事罰まで至る例は稀ですが、仲介会社にとっての本当のリスクはそこではありません。「言われていなかった」と買主に言われることです。届出義務者は買主であって仲介業者ではない、というのは法律上の整理としては正しい。ですが、契約の場に専門家として立ち会っていて一言も触れなかったという事実は、後から見ると弁解しにくい形をしています。面積要件が下がれば、この「触れなかった」が起きる母数が増えます。

なぜ面積要件が議題になったのか

会議の設置趣旨には、こう書かれています。かつての土地政策の課題は、高度成長期の宅地供給や土地需要の調整、バブル期の投機的取引や地価高騰の抑止に重点があった。現在は人口減少による土地需要の減少などを背景に、土地の適切な利用や管理へ課題が移行しつつある。加えて、不適切な土地利用の発生や外国人による土地取得への懸念をきっかけに、国土の適正な利用に関する国民の意識が高まっている。そのうえで現行制度の枠にとらわれず、国民が求める情報を十分に把握できているか把握した情報を課題解決に有効活用できているかという観点から検討する、としています。

つまり出発点は規制強化そのものではなく、情報の把握です。届出面積の引き下げは、規制の網ではなく情報の網を細かくする、という位置づけで語られています。そして情報を細かくしたい理由が、次の全国調査に出ています。

全国調査1,527件——何が報告されたのか

令和8年4月17日から5月15日にかけて、全都道府県・全市区町村の1,794自治体を対象にアンケートが行われました。回答は1,046自治体。そのうち438自治体から1,527件の「不適切な土地利用」の事例が報告されています。

回答率は58.3%です。「不適切」の定義は自治体まかせではなく、5つの類型が示されています。法令等に違反したもの(形式的ミスをすぐ補正したものなど実態上問題のないものを除く)、周辺環境が現に悪化しているもの、土地利用に関する計画等に適合していないもの、住民トラブル等が発生しているもの(自治体が問題ないと認識しているものを除く)、その他自治体が不適切と認識しているもの。

不適切と判断した理由(複数回答)件数
法令等に違反している1,277
住民トラブルや住民から行政への苦情等が発生している526
周辺環境が現に悪化している262
土地利用に関する計画等に適合していない73
その他52

法令違反が突出しています。感覚や印象で「不適切」と言っているのではなく、何らかの法令に引っかかっている事案が主体だということです。

報告された「不適切な土地利用」の中身

何に使われていたのか。ここは実務者の肌感覚と照らして読むと面白い部分です。

土地利用の内容(複数回答)件数
廃棄物の保管所320
土砂置場277
資材置場204
スクラップヤード189
その他の置場127
駐車場125
解体資材のヤード95
電力・ガス等の供給施設(太陽光・風力を含む)73
墓地・霊園24
その他の土地利用429

残りは、民泊または民泊類似施設8件、ホテル・リゾート施設7件、蓄電池施設6件、データセンター3件、別荘3件、ラブホテル1件。「その他」429件の中身は、住宅48件、事務所37件、店舗33件、工場32件、倉庫30件と続きます。

置場とヤードで、上位が埋まっています。廃棄物の保管所、土砂置場、資材置場、スクラップヤード、その他の置場、解体資材のヤード。この6つを足すと1,212件。世間の話題になりやすいデータセンターや別荘は、件数としては1桁でした。

ここは仲介の現場で当てが付く話です。値段が付きにくい調整区域の土地に、置場としての引き合いが来る。宅建業者から見れば、動かない在庫が動く話でもあります。その取引の多くが、いまは届出の外にある——というのが次の章です。

面積の分布が、いちばん雄弁だった

調査は、不適切な土地利用がなされている土地の面積も聞いています。この設問の回答は1,313件(うち「不明」290件)で、面積が判明したのは1,023件でした。

面積区分件数累積件数累積割合(判明1,023件比)
500㎡未満14514514.2%
500-1,000㎡未満17131630.9%
1,000-1,500㎡未満11443042.0%
1,500-2,000㎡未満8051049.9%
2,000-2,500㎡未満5656655.3%
2,500-3,000㎡未満5862461.0%
3,000-3,500㎡未満4066464.9%
3,500-4,000㎡未満2368767.2%
4,000-4,500㎡未満3672370.7%
4,500-5,000㎡未満3275573.8%
5,000-6,000㎡未満4079577.7%
6,000-7,000㎡未満3282780.8%
7,000-8,000㎡未満1283982.0%
8,000-9,000㎡未満1685583.6%
9,000㎡-1ha未満2387885.8%
1ha以上1451,023100%

山が2つあります。1,000㎡未満に316件という小さいほうの山と、1ha以上に145件という大きいほうの山です。

現行の閾値を、この分布に重ねてみる

ここが本稿の中心です。現行の面積要件を、そのままこの分布に当ててみます。

現行の閾値その閾値未満だった事案判明1,023件に占める割合
2,000㎡(市街化区域の基準)510件49.9%
5,000㎡(市街化区域以外の都市計画区域の基準)755件73.8%
10,000㎡(都市計画区域外の基準)878件85.8%

読み方の注意。これは「届出があれば防げた」という意味ではありません。面積が閾値未満であればそもそも届出が発生しないため、行政が取引の時点でその土地を知る手がかりが国土法からは得られない、という意味です。

それでもこの表は強い。いちばん厳しい2,000㎡の基準を全区域に適用したとしても、問題になった土地の半分は依然として届出の外にある。そして実際には市街化区域外なら5,000㎡、都市計画区域外なら10,000㎡が基準ですから、実効的な網はもっと粗い。

提言が面積要件の引き下げを求めた理由は、この一枚で説明がつきます。そして引き下げ幅がどのくらいになるかを推し量る材料も、この分布です。2,000㎡へ揃えるだけでは半分しか拾えないという数字が資料に載っている以上、議論はそれより下を向く可能性があります。

市街化調整区域に851件という偏り

どの区域で起きているのか。都市計画区域の指定区域別の回答(複数回答、合計1,400)です。

区域件数構成比現行の届出基準
市街化調整区域85160.8%5,000㎡以上
非線引き都市計画区域の用途白地地域15811.3%5,000㎡以上
都市計画区域外14210.1%10,000㎡以上
不明1148.1%
市街化区域956.8%2,000㎡以上
非線引き都市計画区域の用途地域402.9%5,000㎡以上

いちばん厳しい2,000㎡の基準が適用されている市街化区域は、事案の6.8%しかありません。事案の6割が、5,000㎡という緩い基準の市街化調整区域に集中しています。基準の厳しさと問題の発生場所が、きれいに逆を向いている。

五地域区分でも農業地域606件が最多(都市地域554件、森林地域146件、複数回答)で、調整区域の話と地続きです。

ここは仲介の実務に直結します。調整区域の中規模な土地、たとえば3,000㎡や4,000㎡の売買は、いま届出が要りません。引き下げがあれば、この帯がまとめて対象化されます。地方や郊外で土地を扱っている会社ほど、影響の出方が大きい。

取得前に気づけていたのは1.3%だった

自治体が事案を認知したタイミングです。回答合計1,422件。

認知のタイミング件数割合
使用開始後一定期間後(維持管理状態の悪化)78154.9%
その他31422.1%
利用開始直後24617.3%
工事等着手前634.4%
土地取得前181.3%

「その他」の主な中身は、不明64件、工事中64件、造成中26件です。

取得前と着手前を足しても81件、5.7%。残りの94.3%は、もう始まってから気づいています。

これが提言の背骨です。事後の対応は難しい。造成が終わってから、建ってから、名義が動いてからでは止められない。だから未然防止が要る。そして未然に関与できるほぼ唯一の接点が、取引の時点である。だから国土利用計画法なのだ、という筋道になります。

私たちが立ち会っているのは、まさにその1.3%の側の瞬間です。

気づく経緯の最多は、近隣住民からの通報

認知の経緯(複数回答)は、近隣住民からの通報が724件、行政によるパトロールが500件、その他が361件。「その他」の主な中身は、他部局・行政機関からの情報提供や照会62件、所有者・関係者の相談や通報54件です。

行政が自力で見つけた500件に対し、住民から知らされた724件。行政の土地把握は、いまのところ通報に依存しています。届出という制度上の入口が働いていない領域では、そうなります。

権利が移った事由の最多は「不明」

不適切な利用をしている者に、その土地を使う権利がどう移ったか。回答合計1,458件。

権利が移転・設定された事由件数割合
不明63543.6%
所有権の売買37625.8%
賃借の契約17612.1%
その他の土地を使用する権利の取得1137.8%
所有権の相続634.3%
不法占拠553.8%
無償の借り受け302.1%
所有権の無償譲渡50.3%
賃借権の相続50.3%

事由が判明した823件に限れば、所有権の売買が376件で45.7%。判明分の半分近くが売買です。次いで賃借の契約が176件で21.4%。

「不明」が最多である、ということの意味

この設問で最も多い回答が「不明」の635件だ、という事実は、それ自体がひとつの結論です。

問題が起きている土地について、自治体は、その土地がどうやってその人の手に渡ったのかを4割以上のケースで把握できていない。

登記は動いているはずです。それでも担当部署は把握していない。登記情報は請求すれば見られますが、1,527件すべてを追う体制はどの自治体にもありません。届出という形で向こうから情報が来る仕組みがなければ、こうなります。提言が「情報の把握」を前面に置いているのは、この一列を見たからだと考えると筋が通ります。規制を強めたいというより、まず知りたいという話です。

引き下げられると、自社の取引は何件増えるか

引き下げ幅はまだ決まっていません。具体的な水準は今後の制度設計に委ねられ、国土利用計画法の改正を視野に詰められます。ですから正確な予測はできません。できるのは、自社の過去の取引を、いくつかの水準で数え直しておくことです。

仮の水準やること見えること
全区域1,000㎡過去2年の売買仲介から、地積1,000㎡以上の取引を抽出もっとも影響の大きい想定。件数が跳ねるならフローの作り直しが要る
全区域2,000㎡同、2,000㎡以上を抽出市街化区域の現行基準を全区域へ広げた場合の姿
現行のまま同、区域別の現行基準で抽出いまの該当件数。ここがゼロなら、社内に手順が存在していない可能性が高い

いちばん重要なのは3行目です。現行基準での該当件数がゼロだった会社は、届出の手順書も、チェックのタイミングも、社内に存在していません。そこへ閾値の引き下げが来ると、ゼロから1ではなく、ゼロから複数件が同時に立ち上がります。

逆に、現行基準で年に数件でも扱っている会社は、手順が既にあります。閾値が下がっても、通す件数が増えるだけです。

一団の土地——分けても、合算されます

面積要件は「一団の土地」で判定されます。ここも取りこぼしが出やすい。

ひとつの取引を複数の契約に分けても、実質的に一団と評価されれば合算されます。売主が複数、契約書が複数、決済日が別という形にしても、買主が同一で利用目的が一体であれば一団として扱われうる。「1筆ずつ買えば届出は要らない」は成立しません。閾値が下がれば、この判定が効く場面はさらに増えます。

実務としては、契約書の準備段階で買主が同一時期に周辺の土地を取得していないかを一度聞いておくのが安全です。聞かずに進んで、あとから合算で対象だったと分かるのがいちばん困ります。

買主が届出義務者である、という原則の使い方

届出義務者は権利を取得する側、つまり買主です。仲介業者ではありません。この原則は、免責のためではなく段取りの割り振りのために使うのが正しい使い方です。

タイミングやること誰が
物件受託時地積と区域区分を確認し、届出の要否を仮判定担当
買付・条件交渉時買主に届出の存在と期限を口頭で伝える担当
契約日契約書とは別紙で、届出の案内書を交付。契約日から14日目の日付を明記担当
契約日+3営業日買主へ提出状況を確認。自社で代理する場合は委任状を取得事務
契約日+10日未提出なら再度督促。窓口の休日を考慮して期限日を再計算事務
提出後控えの写しを預かり、決済書類一式に綴じる事務

この表の要点は、契約日から14日目という日付を、契約日当日に紙へ書くという一点に尽きます。日付が書かれていない案内は、読まれた瞬間に忘れられます。

代理で届出まで引き受けるかどうかは会社の判断です。引き受けるなら委任状と添付図面の準備、報酬の位置づけの整理が要る。引き受けないなら、案内書と督促の記録だけは残す。どちらでも構いませんが、決めずに毎回その場で判断する形がいちばん抜けます。

重要事項説明とは、別の話です

混同されやすいので分けておきます。

重要事項説明国土法の事後届出
根拠宅建業法35条国土利用計画法23条
義務を負う者宅建業者権利を取得する者(買主)
タイミング契約前契約後14日以内
相手買主等市町村を経由して都道府県知事
目的判断材料の提供土地利用目的の把握と是正

35条書面には法令上の制限として国土法の記載欄があります。ですがそこに書いてあることと、契約後に買主が実際に紙を出すことは別の行為です。書面に書いた時点で仕事が終わった気になるのが、いちばんありがちな抜け方です。

自治体の条例は、もう先に動いている

調査は、自治体独自の取組も聞いています。

独自の取組の形式(複数回答)件数
なし508
行政要綱189
条例176
その他57
行政関係者などによる協議会23
地域住民・企業等が参加する協議会9

そして適用されるタイミングは、土地利用段階が351件に対し、土地取得段階は84件。ここでも取得段階は少数派です。

取得前・使用前の規制で最も多いのは計画内容の行政との事前協議(217件)と他法令等の所管部局への情報提供(176件)。取得後・使用後は行政措置が269件で、その中身は指導228件、勧告111件、命令74件です。

実務上の含意はひとつです。国の制度が動く前に、地元の自治体に条例や要綱が既にある可能性がある。176自治体が条例を持っています。自社の営業エリアの市町村に土地取引の届出や事前協議の条例・要綱があるかを一度確認しておくと、国土法の改正を待たずに必要な手順が見つかります。

盛土規制法・境界・国籍等申出との並び

2026年に入ってから、土地の「入口」を締める制度改正が並んでいます。

並べると方向がはっきりします。誰が、どこを、どういう目的で取得したのかを、取引の時点で行政が把握できるようにする。国土法の届出面積引き下げは、その列の一本です。

今日からできる3つの準備

制度が固まっていない段階でやれることは限られます。ただ、ゼロではありません。

1. 過去2年の売買仲介を、地積で並べ替える。1,000㎡以上が何件、2,000㎡以上が何件かを数えます。エクセルの並べ替え1回で終わります。ここが分かっていれば、引き下げ幅が公表された日に、影響を即日で答えられます。

2. 届出の案内書を1枚つくる。面積要件の表、期限14日、起算日は契約日、提出先は市町村窓口、添付書類の一覧、罰則。これだけで足ります。現行基準でも使えますし、改正後は数字を直すだけで済みます。

3. 営業エリアの市町村について、土地取引に関する条例・要綱の有無を調べる。176自治体が条例を持っています。該当するなら、国の改正より先に対応が要ります。

どれも制度が決まるのを待つ必要のない作業で、1つ目をやると2つ目と3つ目の優先順位が自動的に決まります。

数字の出典と、本稿で計算した派生値

本稿の数字はすべて、国土交通省「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」第5回(令和8年7月31日開催)の資料1「土地の取得及び利用実態に関する全国調査結果(まとめ)」(不動産・建設経済局 土地政策課)に基づきます。届出制度の手続き部分は、国土利用計画法および都道府県が公表する事後届出の案内によります。

本稿で計算した派生値計算
面積判明1,023件各面積区分の件数の合計。設問の回答合計1,313件から「不明」290件を除いた数と一致
2,000㎡未満49.9% / 5,000㎡未満73.8% / 10,000㎡未満85.8%510÷1,023 / 755÷1,023 / 878÷1,023
土地取得前1.3%18÷1,422(認知タイミングの回答合計)
市街化調整区域60.8%851÷1,400(区域別の回答合計・複数回答)
売買45.7%(判明分)376÷823(事由の回答合計1,458から「不明」635を除いた数)
回答率58.3%1,046÷1,794

調査資料には「回答に空欄があるため、各設問の回答数は事例数や自治体数とは一致しない」と注記されています。設問ごとに母数が違うのはそのためです。本稿では設問ごとの回答合計を分母にしており、1,527件を分母にした割合は用いていません。

制度が固まる前に、何を確定させないか

最後に、書かなかったことを書いておきます。

引き下げ後の具体的な面積は、本稿では示していません。報道では面積要件の引き下げを求める方向が伝えられていますが、具体的な下げ幅は今後の制度設計に委ねられており、法改正を視野に詳細が詰められる段階です。数字を先に置くと、外れたときに社内の準備が全部やり直しになります。

また、提言の本文そのものは、執筆時点で会議ページ上「資料2(非公表)」の扱いです。本稿が根拠にしたのは、同じ会議に資料1として提出され公表された全国調査結果と、公表済みの現行制度の内容です。提言本文が公表されたら、面積要件に関する記述を必ず原文で確認してください。

そしていちばん大事なこと。この段階でお客様に「面積要件が下がります」と断定して伝えるのは早すぎます。言えるのは「国が届出の対象を広げる方向で検討している」までです。買主が土地の取得計画を持っているなら、その事実だけ渡して、確定情報が出た時点で改めて連絡する。予測を渡すと、外れたときに信頼ごと持っていかれます。

土地取引と賃貸管理の実務については、ウルスタのコラムで継続的に書いています。