「延べ面積が三百平方メートルを超える建築物に係る契約の内容」という条文の見出しが、まるごと「設計受託契約等の内容」に変わります。令和8年7月31日、建築士法の一部を改正する法律(令和8年法律第74号)が公布されました。建築設計3団体(日本建築士事務所協会連合会、日本建築士会連合会、日本建築家協会)の共同提案を受けた議員立法です。柱は2本。将来の建築士等の確保と契約の適正化。このうち契約の適正化は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令が定める日に施行されます。発注する側の猶予は、最長でも1年です。
公布は7月31日。契約の適正化は1年以内、資格要件は3年以内
国土交通省の改正概要は、施行期日を2段に分けています。「1.将来の建築士等の確保」は公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行。「2.契約の適正化」は1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行。要綱でも附則第1条として同じ整理です。
公布日が令和8年7月31日ですから、契約の適正化は遅くとも令和9年7月30日までに施行されることになります。実際の日付は政令が出るまで確定しませんが、1年後に必ず来る前提で準備する以外に選択肢はありません。
区別しておきたいのは、施行が早いのが契約側だという点です。資格要件の緩和は建築士事務所の中の話ですが、契約の適正化は設計や工事監理を頼む側の段取りを直接書き換えます。
【要点】いま押さえる3点
| 押さえること | 根拠 |
|---|---|
| 設計・工事監理の委託は、面積を問わず契約書の相互交付が必要になる | 改正後の22条の3の3。対象は「設計受託契約又は工事監理受託契約(建築士が行う設計又は工事監理に係るものに限る。)」の全て |
| 見積書の努力義務は契約書義務より網が広い。調査・鑑定や手続の代理まで含む「設計等の業務」が対象 | 新設の24条の10。建築士事務所の開設者は、報酬の算定の根拠を明らかにするための見積書を作成するよう努める |
| 発注する側にも努力義務が明記された | 改正後の22条の3の4。名宛人は「締結しようとする者」であって、事業者側に限られていない |
条文の見出しごと変わる——22条の3の3
新旧対照表を並べると、変化の性質が分かります。
| 現行 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 見出し | 延べ面積が三百平方メートルを超える建築物に係る契約の内容 | 設計受託契約等の内容 |
| 対象 | 延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る設計受託契約又は工事監理受託契約 | 設計受託契約又は工事監理受託契約(建築士が行う設計又は工事監理に係るものに限る) |
| 義務の中身 | 契約の締結に際して各号の事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付(変わらず) | |
| 変更時 | 各号の内容を変更するときも書面にして相互に交付(変わらず) | |
面積要件が消えただけではありません。「新築に係る」という限定も同時に消えています。代わりに「建築士が行う設計又は工事監理に係るものに限る」が入った。改正後の線引きは規模ではなく、建築士が関与する業務かどうかに変わります。
この書面義務は平成26年の改正(平成26年法律第92号)で導入され、平成27年6月25日に施行されました。当時は「300平方メートル超の新築」という入口を設けて大きい案件から書面化を進めた。今回はその入口を外すという判断です。
「新築とみなす」規定が消える理由
現行の22条の3の3には第3項があります。「建築物を増築し、改築し、又は建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をする場合においては、当該増築、改築、修繕又は模様替に係る部分の新築とみなして前二項の規定を適用する」という読み替え規定です。新築だけが対象だったので、増改築や大規模修繕をどう扱うかを別途書く必要がありました。
改正後、この第3項は削られます。面積の限定も新築の限定もなくなり、みなし規定を置く意味がなくなるからです。現行第4項(書面の交付に代えて電子データで提供できる規定)は繰り上がって第3項になります。
この項ずれは監督処分の条文にも波及します。建築士法26条2項1号は「開設者が第22条の3の3第1項から第4項まで又は第24条の2から第24条の8までの規定のいずれかに違反したとき」と書いていますが、これが「第1項から第3項まで」に改められます。削られた項に合わせた機械的な修正です。
実務者として押さえるべきは、「大規模の修繕」に当たるかを毎回判定する必要がなくなる点です。これまでは、その改修が建築基準法2条14号の大規模の修繕に当たるか、当たるとして新築とみなした延べ面積が300平方メートルを超えるか、という2段の判定を経て書面義務が決まりました。改正後は建築士に設計または工事監理を頼むなら書面、それだけです。
どの発注が新たに書面必須になるのか
中小不動産会社の日常業務に引き寄せると、影響が出るのは次の場面です。
| 場面 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 木造アパート1棟(延べ180平方メートル)の間取り変更を伴う改修の設計 | 面積要件を満たさず、書面義務なし | 書面必須 |
| テナントビル1フロアの内装区画変更の設計 | 新築でなく、みなし面積も小さければ義務なし | 書面必須 |
| 区分所有マンションの大規模修繕に付ける工事監理 | 新築でないため、原則として義務なし | 書面必須 |
| 建築士に頼まない、施工会社の社内担当が引く程度の内装図 | 義務なし | 「建築士が行う設計」に当たらなければ対象外 |
最後の行は注意が要ります。「建築士が行う設計又は工事監理に係るものに限る」は、建築士法上の設計・工事監理として建築士に委託する契約かどうかを指します。建築士でなければできない設計の範囲は建築士法3条から3条の3が定めており、4号特例の縮小と確認申請とあわせて確認しておくのが安全です。
書面に書く6項目
22条の3の3第1項各号は今回改正されません(要綱でも「一〜六 略」)。現行のまま、次の6項目を書面に記載して相互に交付します。
| 号 | 記載事項 |
|---|---|
| 一 | 設計受託契約にあっては、作成する設計図書の種類 |
| 二 | 工事監理受託契約にあっては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法 |
| 三 | 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士・二級建築士・木造建築士の別、並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあっては、その旨 |
| 四 | 報酬の額及び支払の時期 |
| 五 | 契約の解除に関する事項 |
| 六 | 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項(建築士法施行規則17条の38) |
発注側から見て重いのは一号と二号です。「作成する設計図書の種類」を書くとは、どこまでの図面が納品物なのかを契約時に確定させるということ。実施設計図まで含むのか、意匠だけか、構造・設備は別か。ここが曖昧なまま走った案件が、後で「その図面は別料金です」ともめる。二号も同じで、工事監理の報告をどの頻度でどの形式で受けるのかを先に決めます。五号の解除は、途中で計画が止まったときに既往分をどう精算するかの条項。改修案件は途中で止まることが珍しくないので、ここを書面化する意味は新築より大きいとすら言えます。
罰則はない。効くのは監督処分のほうです
22条の3の3に違反しても、直ちに罰金が科されるわけではありません。効くのは建築士法26条2項1号の監督処分です。都道府県知事は、建築士事務所の開設者が22条の3の3の規定に違反したときは、その開設者に対し戒告し、若しくは1年以内の期間を定めて当該建築士事務所の閉鎖を命じ、又は当該建築士事務所の登録を取り消すことができます。
見落としやすいのは、この処分の名宛人が建築士事務所の開設者であって、発注者ではない点です。行政処分を受けるのは設計事務所側で、発注する不動産会社は処分を受けません。
だからといって発注側が無関係かというと、そうではない。相互交付は、双方が署名または記名押印して互いに渡す形をとります。設計事務所が書面を用意しても、発注者が返さなければ相互交付は完成しない。社内で誰が押印判断をするのかが決まっていないと、案件が止まります。
見積書の努力義務は「設計等の業務」——契約書より網が広い
いちばん見落とされやすいのが、新設される第24条の10です。
建築士事務所の開設者は、設計等の業務に係る契約を締結しようとするときは、報酬の算定の根拠を明らかにするための見積書を作成するよう努めなければならない。
対象範囲に注目してください。22条の3の3の書面義務は「設計受託契約又は工事監理受託契約」に限られます。ところが24条の10は「設計等の業務に係る契約」と書いている。この「設計等」は建築士法23条1項が定義する言葉で、設計と工事監理だけを指しません。
| 書面の相互交付義務 (22条の3の3) | 見積書の作成努力義務 (新24条の10) | |
|---|---|---|
| 対象契約 | 設計受託契約・工事監理受託契約 | 設計等の業務に係る契約(6業務) |
| 義務の強さ | 義務(違反は監督処分の対象) | 努力義務 |
| 名宛人 | 契約の当事者双方 | 建築士事務所の開設者 |
義務としては弱く、範囲としては広い。この非対称が24条の10の性格です。施行はどちらも公布から1年以内の政令日です。
「設計等」に何が入るか(23条1項の6業務)
建築士法23条1項は、建築士等が他人の求めに応じ報酬を得て次の業務を行おうとするときは建築士事務所の登録を受けなければならないと定め、これらを総称して「設計等」と呼んでいます。
| 設計等に含まれる業務 | 不動産実務での典型例 |
|---|---|
| 設計 | 改修・増築・新築の設計図書の作成 |
| 工事監理 | 大規模修繕、外壁改修、耐震改修の監理 |
| 建築工事契約に関する事務 | 工事請負契約書のチェック |
| 建築工事の指導監督 | 施工品質の確認、是正指示 |
| 建築物に関する調査若しくは鑑定 | 耐震診断、劣化調査、実測、遵法性調査 |
| 建築物の建築に関する法令若しくは条例の規定に基づく手続の代理 | 確認申請の代理、用途変更の手続 |
太字の2つが、不動産会社が日常的に頼んでいるのに「設計」だと認識されていない業務です。売買前の遵法性調査、取得デューデリの建物調査、用途変更の可否判断と手続。建築士事務所に発注していればこれらも「設計等の業務」であり、改正後は報酬の算定根拠を明らかにした見積書が出てくるべき契約になります。
調査系の発注は、建物状況調査や石綿の事前調査のように根拠法令ごとに資格と単価の体系が違います。「調査一式 15万円」で通してきた見積が、改正後は何にいくらかかっているのかが見える形になる。
発注する側にも努力義務がかかった——22条の3の4
22条の3の4は現行にもある条文ですが、中身が書き換わります。
| 現行 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 条文 | 締結しようとする者は、第25条に規定する報酬の基準に準拠した委託代金で契約を締結するよう努めなければならない | 締結しようとする者は、第25条に規定する報酬の基準に準拠し、及び第24条の10に規定する見積書の内容その他の当該契約に係る事情を考慮して、その設計又は工事監理の委託の内容に応じた適正な委託代金で契約を締結するよう努めなければならない |
変わったのは2点。第一に、考慮すべきものに「見積書の内容その他の当該契約に係る事情」が加わった。第二に、目指す水準が「報酬の基準に準拠した委託代金」から「委託の内容に応じた適正な委託代金」に変わった。
ここが今回の改正の設計思想です。国が定めた基準の数字に寄せることが目的なのではなく、その案件で実際に必要な業務量に見合った額かどうかを見積書を見ながら判断してほしい、という組み方になっている。基準と見積書がセットで働く構造です。
そしてこの条文の名宛人は「設計受託契約又は工事監理受託契約を締結しようとする者」であり、建築士事務所側に限定されていません。発注する不動産会社も含まれます。努力義務なので違反しても処分はありませんが、法律の条文に発注者の行為規範が書き込まれた意味は小さくない。建設業法改正と修繕発注と地続きの話です。
物差しは令和6年告示第8号。ただし「約5割」しか使っていない
22条の3の4がいう「第25条に規定する報酬の基準」は、いま何かというと令和6年国土交通省告示第8号(令和6年1月9日)です。同日付で技術的助言(国住指第307号)も出ています。長く使われた平成31年国土交通省告示第98号は、令和6年告示第8号の制定により廃止されました。手元の資料が98号のままの会社は、まずここを差し替えるところからです。
骨格は次の2つです。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 実費加算方法(基本) | 直接人件費、特別経費、直接経費、間接経費、技術料等経費、消費税相当額を個別に積み上げて算出する |
| 略算方法 | このうち直接人件費・直接経費・間接経費を略算表(用途類型と床面積の合計に応じた業務量の目安)から簡便に算出する |
押さえておきたい数字が1つ。国土交通省「今後の業務報酬基準のあり方について」(業務報酬基準に関するフォローアップ会議とりまとめ)によれば、業務報酬基準を報酬算定に活用しているのは建築士事務所の約5割。同資料は「略算方法に基づき算定する業務量は、あくまでおおまかな目安であり、本来、建築士事務所ごとに、業務の実態を踏まえて、予め報酬に関するルールを定めておくことが肝要である」と書いています。
国は一律の目安を降ろす方向に舵を切った
同じとりまとめは、今後の方向としてかなり踏み込んだことを書いています。
個々の建築士事務所が実態に即した報酬の算定を行う環境整備や報酬の適正化に向けた環境整備を国と業界団体が協力して図ることを前提として、将来的には、略算方法において定める一律の業務量の目安は、廃止又は単純化を検討すべきである。
そのうえで「こうした環境が整うまでの当面の間は、国は、業務量に関する目安を示すべきである」と続けます。いますぐ廃止されるわけではないが、方向としては降ろす。代わりに国は業務量算定の「考え方」を示し、目安は参考値に位置づけを下げる。業界団体は情報を継続的に収集して開示する。個々の事務所は自分のルールを持つ——という設計です。背景には、令和6年改正で実態調査のサンプル数が少なく一部の用途類型の改定を見送らざるを得なかったこと、改修業務の定型化を試みたが業務内容にばらつきがあると分かったことがあります。
発注する側にとっての含意は明快です。「国の基準ではこうなっている」という物差しの権威は、これから相対的に弱まります。代わりに強くなるのが、目の前の見積書に書かれた算定根拠です。とりまとめ自身、「発注者における業務報酬基準の理解の促進や契約の適正化に向けた取組を進めるべきである」を再掲つきで2度書いています。名指しされているのは発注者です。
なぜ今か——一級建築士の60歳以上が44パーセント
改正概要が挙げる立法理由の1つ目は「建築士の高齢化等が進展しており、将来の建築士等を確保することが必要」。国土交通省「建築分野の担い手の動向について」の数字が、その中身を説明します。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 一級建築士事務所の数(令和5年) | 70,725事務所(減少傾向) |
| 二級建築士事務所の数(同) | 24,054事務所 |
| 木造建築士事務所の数(同) | 171事務所 |
| 所属建築士(一級)のうち60歳以上(令和6年) | 約44パーセント(平成20年は約12パーセント。15年で約3.6倍) |
| 所属建築士(一級)のうち20代(令和6年) | 2,134人(1.6パーセント) |
| 所属建築士(一級)の30年後 | 14.0万人から6.9万人へ(現在の傾向が維持される場合) |
60歳以上が44パーセント、20代が1.6パーセント。この構成比なら、30年後に半分という推計が出ても驚けません。設計の担い手が減るとは、発注する側から見れば頼める先が減るということ。契約の適正化がセットで立法された理由は、ここにあります。
資格要件の緩和は3年以内の施行
もう一方の柱、資格要件の緩和。施行は公布から3年を超えない範囲内の政令日です。
| 項目 | 現行 | 改正後 | 条項 |
|---|---|---|---|
| 一級建築士試験の受験 | 大学等を卒業した者等 | 卒業見込みで指定科目の単位を修得していれば在学中に受験可能 | 14条2号(新設) |
| 二級・木造建築士試験の受験 | 建築学科等の卒業者、または建築実務7年 | 在学中受験を追加。実務要件は2年に短縮 | 15条2号(新設)・4号 |
| 二級・木造建築士の免許登録 | 建築実務7年 | 建築実務4年 | 4条4項4号 |
| 二級から一級への免許登録 | 二級建築士としての実務4年 | 通算8年以上の実務、または高校等で建築科目を修めて卒業後6年以上の実務がある者は、二級としての実務2年 | 4条2項4号 |
建築学科を出ていない人が二級建築士を目指す場合、現行は実務7年を積んでから受験、合格して免許という経路でした。改正後は実務2年で受験でき、受験前を含めた実務4年で免許を取れる。工務店機能を持つ不動産会社にとって、社内で資格者を育てる期間が実質的に短くなります。なお改正概要の注記に中央建築士審査会で建築士試験のあり方について検討を開始とあり、試験そのものが見直される可能性があります。
建築設備士に登録制度ができる
現行の建築士法2条5項は建築設備士を「建築設備に関する知識及び技能につき国土交通大臣が定める資格を有する者」と定義していますが、改正後は「国土交通省令で定めるところにより、国土交通大臣が定める機関に登録されたもの」という要件が加わります。現行は受験時に実務経験を確認し試験合格をもって建築設備士となりました(登録は不要)。改正後は受験時には実務経験を不要とし、登録時までに積めばよいことにしたうえで、登録をもって建築設備士とする制度に変わります。
施行日と対象の一覧
| 内容 | 条項 | 施行 |
|---|---|---|
| 書面の相互交付義務から面積・新築の限定を外す | 22条の3の3 | 公布の日(令和8年7月31日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日 |
| 適正な委託代金の努力義務に見積書の考慮を追加 | 22条の3の4 | |
| 見積書作成の努力義務を新設 | 24条の10(新設) | |
| 一級建築士の資格要件緩和・在学中受験 | 4条2項4号、14条2号 | 公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日 |
| 二級・木造建築士の資格要件緩和・在学中受験 | 4条4項4号、15条2号・4号 | |
| 建築設備士の定義の見直し(登録制度) | 2条5項 |
いずれも政令で定める日であり、具体的な日付は決まっていません。「1年を超えない」「3年を超えない」という上限だけが法律で定められています。
1年以内にやること——発注側の段取り
発注する不動産会社の側でやることを並べます。
| やること | 中身 |
|---|---|
| 1. 過去1年の発注を棚卸しする | 建築士事務所に出した発注を全部リスト化する。設計・工事監理だけでなく耐震診断、劣化調査、遵法性調査、確認申請の代理、用途変更の手続まで拾う |
| 2. 書面契約がないものを数える | 見積書と発注書だけで走っていた案件がいくつあるか。それが施行後に書面必須になる母数 |
| 3. 押印の決裁ラインを決める | 誰がどの金額まで判断するのかを先に決めないと、施行直後に案件が止まる |
| 4. 電磁的方法の可否を確認する | 電子データで提供できる規定(現行4項、改正後3項)は残るが相手方の承諾が要件 |
| 5. 設計図書の種類を言語化する | 「いつもの一式で」が通らなくなる。意匠・構造・設備のどこまでか、実施設計図まで含むのかを発注側の言葉で書けるようにする |
| 6. 手元の報酬基準を差し替える | 平成31年告示第98号は廃止済み。令和6年国土交通省告示第8号に更新する |
| 7. 見積書を読む体制を作る | 直接人件費・直接経費・間接経費の区分を読める担当を1人決める |
時間がかかるのは1と5です。1は自社の発注実態を可視化する作業で、2週間はかかる。5は社内の設計知識の問題で、もっとかかる。逆に3と6は今日決められます。
ひな型は建築士事務所協会や自治体が公表していますが、埋めるときに詰まるのは一号の「作成する設計図書の種類」と四号の「報酬の額及び支払の時期」です。書式ではなく発注の中身の問題だからです。大規模修繕で設計監理方式と責任施工方式のどちらを採るかも、改正後は契約書の要否という形で跳ね返ります。
よくある質問
Q. 施行日はいつですか。
A. 未定です。政令の公布を待つことになります。
Q. 施行前に結んだ契約はどうなりますか。
A. 本稿執筆時点の公表資料からは経過措置の細部を確認できません。平成26年改正の際は、施行日前に締結された契約の当事者には適用しない旨の経過措置が置かれました。同様の整理になる可能性はありますが、確定的なことは附則を確認してからの判断になります。
Q. 建築士事務所ではない工務店に改修設計を頼む場合は。
A. 22条の3の3の対象は「建築士が行う設計又は工事監理に係る」契約です。報酬を得て設計等を業として行うには建築士事務所の登録が必要(23条1項)なので、実務上は建築士事務所登録のある相手かどうかが判断の入口になります。
Q. 設計料が上がるということですか。
A. 改正法は報酬の額を規制していません。定めたのは書面にする範囲と、根拠を明らかにする努力義務です。ただしフォローアップ会議のとりまとめには「工事費の高騰により設計変更の業務が増大しているが、こうした業務に関する報酬が適切に支払われていない」という業界側の指摘が記録されています。根拠が見えるようになった結果、これまで見えていなかった業務量が価格に反映される場面は出てきます。
出典と、書かなかったこと
| 項目 | 出典 |
|---|---|
| 改正の2本柱、施行期日(1年以内・3年以内)、資格要件緩和、建築設備士の登録制度、中央建築士審査会での検討開始 | 国土交通省「『建築士法の一部を改正する法律』の概要(令和8年法律第74号)」 |
| 条項番号、契約書の相互交付義務の対象範囲、見積書の努力義務、附則第1条 | 国土交通省「建築士法の一部を改正する法律 要綱」 |
| 22条の3の3の見出し変更、3項の削除、26条2項1号の項ずれ、22条の3の4と24条の10の条文、2条5項 | 国土交通省「建築士法の一部を改正する法律 新旧対照表」 |
| 令和6年国土交通省告示第8号、平成31年告示第98号の廃止、技術的助言(国住指第307号) | 国土交通省「設計、工事監理等に係る業務報酬基準について」 |
| 実費加算方法と略算方法、活用率約5割、一律の目安の廃止又は単純化の方向、令和6年改正で明らかとなった課題 | 国土交通省「今後の業務報酬基準のあり方について」 |
| 建築士事務所数、一級建築士の年齢構成、30年後の推計 | 国土交通省「建築分野の担い手の動向について」(建築分野の中長期的なあり方に関する懇談会 第2回 資料4) |
| 22条の3の3第1項各号、23条1項の「設計等」、平成26年改正の施行日と経過措置 | 建築士法および建築士法の一部を改正する法律(平成26年法律第92号) |
書かなかったことを明記します。六号が委ねる国土交通省令(建築士法施行規則17条の38)の各号は列挙していません。自治体が公表している記載事項様式で確認するのが実務的です。改正法の附則のうち経過措置の細部、政令で定める施行日、様式の改正も、本稿執筆時点で公表されていないため扱っていません。「1年以内」「3年以内」はいずれも法律が定めた上限であり、実際の施行日ではありません。
この改正の芯は、書面が1種類増えることではありません。設計や工事監理を「一式いくら」で頼める時代が終わるという構造です。担い手が減り、国が示す一律の物差しが降りていく。両方が同時に進むと、残るのは目の前の見積書と契約書だけになる。1年あるうちに効くのは、ひな型の入手ではなく、自社の発注を言語化する作業です。
本稿は公布された法律および国土交通省の公表資料にもとづく一般的な整理であり、個別の契約の適法性を判断するものではありません。賃貸管理と売買仲介の実務はウルスタのコラムで書いています。


