修繕積立金の目安は、国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2024年6月改訂)で、計画期間全体の平均額として、たとえば20階未満・延床面積5,000㎡未満なら月335円/㎡(事例の3分の2が235〜430円/㎡)と示されています。2024年の改訂では、段階増額積立方式について、初期額を基準額の0.6倍以上、最終額を1.1倍以内とする目安が加わりました。区分マンションの売買を仲介するときは、積立の規約と既に積み立てられている額を重要事項説明で説明し、滞納があればその額も告げます。この記事では、目安の使い方、大規模修繕の計画の見方、仲介での説明をまとめます。
修繕積立金ガイドラインの目安
国土交通省のガイドラインは、長期修繕計画の計画期間全体で集める修繕積立金の平均額を、建物の階数と延床面積で区分して示しています。最新は2024年6月7日の改訂です。
| 地上階数・建築延床面積 | 平均値 | 事例の3分の2が入る幅 |
|---|---|---|
| 20階未満・5,000㎡未満 | 335円/㎡・月 | 235〜430円/㎡・月 |
| 20階未満・5,000〜10,000㎡ | 252円/㎡・月 | 170〜320円/㎡・月 |
| 20階未満・10,000〜20,000㎡ | 271円/㎡・月 | 200〜330円/㎡・月 |
| 20階未満・20,000㎡以上 | 255円/㎡・月 | 190〜325円/㎡・月 |
| 20階以上 | 338円/㎡・月 | 240〜410円/㎡・月 |
機械式駐車場がある場合は、機種ごとの1台あたりの修繕工事費(たとえば2段昇降式は月6,450円/台)を加えて考えます。
比べる数字は「計画期間全体の平均」
ガイドラインの目安と比べるのは、今月の積立額ではなく、次の式で出す計画期間全体の平均額です。
平均額(円/㎡・月)=(計画期間当初の積立金の残高+計画期間に集める積立金の総額+専用使用料などからの繰入額の総額)÷総専有床面積÷計画期間の月数
仮の数字で計算例を示します。20階未満・延床5,000㎡未満のマンションで、専有面積70㎡の部屋なら、目安の平均値は335円×70㎡=月23,450円です。この部屋の今の積立金が月12,000円でも、長期修繕計画で将来の増額が決まっていて、計画期間の平均が目安の幅に入っていれば、直ちに不足とは言えません。逆に、今の額が目安に近くても、計画期間の後半に大きな工事が集中していて平均が足りないこともあります。
目安は、多くのマンションの計画を集めた平均と幅です。幅から外れていても、それだけで計画が誤っているとは言えません。外れている理由(設備の内容、過去の工事の時期、残高の多さなど)を長期修繕計画で確かめ、説明できるかどうかが大事です。
段階増額積立方式の0.6倍・1.1倍
積立の方法には、計画期間を通じて同じ額を集める均等積立方式と、最初は低く、段階的に上げる段階増額積立方式があります。ガイドラインは、将来にわたって安定的な積立てができる均等積立方式が望ましいとしています。
2024年の改訂では、段階増額積立方式の適切な引上げの目安として、均等積立方式にした場合の額を基準額とし、初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は基準額の1.1倍以内とすることが示されました。段階増額を採るマンションで、将来の負担が大きくなりすぎ、修繕資金が足りなくなる懸念があるためです。
仮の数字で計算例を示します。基準額が月300円/㎡なら、初期額は180円/㎡以上、最終額は330円/㎡以内が目安です。初期額が100円/㎡で、最終額が500円/㎡になる計画は、この目安から外れています。
長期修繕計画で見るところ
大規模修繕は、長期修繕計画に沿って行われます。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(2024年6月改訂)が示す主な点は次のとおりです。
- 計画期間は30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とする
- 5年程度ごとに計画を見直す
- 積立の方法は均等積立方式を基本とする
売買の場面では、計画の作成・見直しの時期、次の大規模修繕の予定時期と工事費、その時点の積立金の残高見込みを確かめます。最後の見直しから長く経っている計画は、工事費の上昇が反映されていない可能性があります。
積立金不足の現状
国土交通省の令和5年度マンション総合調査(2024年6月21日公表)では、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションの割合は36.6%で、前回の調査から1.8ポイント増えました。長期修繕計画(計画期間25年以上)に基づいて修繕積立金の額を決めているマンションは59.8%でした。
積立金が目安より低いマンションは、月々の負担が軽く見えます。しかし、将来の値上げや一時金の徴収、工事の先送りにつながる場合があります。買主にとって大事なのは、今の月額よりも、計画どおりに積み立てられる見通しがあるかどうかです。
積立金が足りないときに管理組合が取る方法
長期修繕計画と比べて積立金が足りない場合、管理組合が検討する方法は、主に次の4つです。どれを選ぶかは総会で決めるため、売買の時点で決議や検討の状況を議事録で確かめます。
| 方法 | 内容 | 買主への影響 |
|---|---|---|
| 積立金の値上げ | 月々の積立額を上げる | 購入後の毎月の負担が増える |
| 一時金の徴収 | 工事の前などにまとまった額を集める | 徴収の時期によっては、購入直後にまとまった支払いが来る |
| 借入れ | 管理組合として工事費を借りる | 返済のために積立金の値上げが続くことがある |
| 工事の内容・時期の見直し | 工事の範囲を絞る、時期をずらす | 建物の劣化が進み、後の工事費が増えることがある |
一時金がすでに決議されている場合、誰に請求されるかは決議の内容によります。議事録で徴収の時期と方法を確かめ、売買契約で売主と買主のどちらが負担するかを定めておきます。
売買の重要事項説明で説明すること
区分所有建物の売買では、宅建業法35条1項6号と施行規則16条の2が説明事項を定めています。貸借の場合は、このうち3号と8号だけです。
| 号 | 説明する事項 |
|---|---|
| 1号 | 敷地に関する権利の種類と内容 |
| 2号 | 共用部分に関する規約の定め(案を含む) |
| 3号 | 専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め |
| 4号 | 一部の者にだけ使用を許す規約の定め(専用使用権など) |
| 5号 | 修繕積立金や管理費を特定の者にだけ減免する規約の定め |
| 6号 | 計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う規約の定めがあるときは、その内容と既に積み立てられている額 |
| 7号 | 所有者が負担する通常の管理費用の額 |
| 8号 | 管理の委託先の氏名・商号と住所 |
| 9号 | 管理者等が、管理事務の委託を受けているマンション管理業者である場合は、その旨 |
| 10号 | 一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容 |
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、6号について、いわゆる大規模修繕積立金や計画修繕積立金の定めに関するもので、一般の管理費でまかなう通常の維持修繕は対象外としています。そのうえで、その区分所有建物について修繕積立金等の滞納があるときは、その額を告げることとしています。
10号の維持修繕の実施状況は、記録があるときに説明する事項です。過去の大規模修繕の時期と内容が分かれば、長期修繕計画と照らして、次の工事の時期の見当も付けやすくなります。
滞納があるときの買主への影響
区分所有法7条1項は、規約や集会の決議に基づいて他の区分所有者に対して持つ債権(管理費や修繕積立金など)について、管理組合側に先取特権を認めています。そして8条は、その債権を、債務者である区分所有者の特定承継人に対しても行使できると定めています。
つまり、売主が修繕積立金を滞納したまま部屋を売ると、買主が管理組合から滞納分を請求される可能性があります。仲介では、管理会社から滞納の有無と額を確かめ、売買契約で、売主が決済までに精算することを定めておくのが一般的な対処です。決済の場で精算する場合は、その金額を決済の明細に入れます。
滞納があるのが売主個人ではなく、マンション全体で滞納が多い場合は、積立金不足の原因にもなります。管理会社の資料で、管理組合全体の滞納の状況も確かめておくと、買主への説明が具体的になります。
仲介で集める資料と見るところ
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 管理規約・使用細則 | 修繕積立金の規約の定め、減免の定め、専用使用権、用途の制限 |
| 長期修繕計画 | 計画期間(30年以上・大規模修繕2回)、最後の見直しの時期、将来の積立額の推移、計画期間全体の平均額 |
| 総会の議事録 | 積立金の値上げ、一時金、借入れ、大規模修繕の決議や検討状況 |
| 管理会社が出す重要事項の調査報告書 | 既に積み立てられている額、管理費・積立金の額、売主の滞納の有無と額 |
| 修繕の履歴 | 過去の大規模修繕の時期と内容 |
買主への伝え方
- 今の月額だけでなく、長期修繕計画にある将来の月額を並べて示す。
- 計画期間全体の平均額をガイドラインの目安と比べ、どの区分の目安と比べたかも示す。
- 段階増額なら、初期額と最終額が0.6倍・1.1倍の目安に入っているかを示す。
- 総会で値上げや一時金が決まっている、または検討されているなら、その内容を伝える。
積立金が安いことを売りにするのではなく、将来の負担の見通しを示すことが、引渡し後のもめごとを減らします。
売却の依頼を受けたときに先にやること
売主から区分マンションの売却を頼まれたら、価格を決める前に、管理会社に重要事項の調査報告書を依頼し、長期修繕計画と直近の総会議事録を取り寄せます。積立金の値上げや一時金が決まっていると、買主の資金計画が変わり、価格交渉の材料になるためです。
売主の滞納が分かったら、決済までの精算の方法を売主と先に決めておきます。販売図面や広告に管理費・修繕積立金の額を書くときは、値上げが決まっているなら、その時期と額も併記しておくと、問い合わせの段階での誤解を防げます。
このテーマの全体像は「不動産のコンプライアンス実務ガイド2026|宅建業法・管理業法・個人情報・犯収法」にまとめています。
よくある質問
Q1. 修繕積立金が目安より低いマンションは避けるべきですか。
今の月額だけでは判断できません。計画期間全体の平均額が目安の幅に入っているか、将来の値上げが計画と総会で決まっているかを見ます。平均でも足りないなら、値上げや一時金の可能性を買主に示します。
Q2. 売主の修繕積立金の滞納は、買主が払うことになりますか。
区分所有法8条により、管理組合は滞納分を特定承継人である買主にも請求できます。売買契約で売主が決済までに精算することを定め、決済で確かめます。
Q3. 長期修繕計画がないマンションはどう説明しますか。
計画がないこと自体を事実として伝えます。修繕積立金の規約と既に積み立てられている額(施行規則16条の2第6号)、維持修繕の記録があればその内容(10号)は説明事項です。
Q4. 重要事項説明で、将来の値上げ予定まで説明しますか。
施行規則16条の2の各号に「値上げ予定」という項目はありません。ただ、総会で決まった値上げや一時金は、買主の判断に大きく関わります。調査報告書や議事録で分かった内容は、説明しておくのが無難です。
Q5. 区分マンションの賃貸の仲介でも、修繕積立金を説明しますか。
貸借の場合に説明が必要なのは、施行規則16条の2のうち3号(専有部分の利用の制限)と8号(管理の委託先)だけです。修繕積立金は借主ではなく所有者が負担するためです。
Q6. 一時金が決議済みの部屋を売るときは、どうしますか。
議事録で、一時金の額、徴収の時期と方法を確かめます。誰に請求されるかは決議の内容によるため、売買契約で売主と買主のどちらが負担するかを定め、重要事項説明でもその内容を説明しておきます。
出典(本文で参照している資料)
- 国土交通省:マンション管理について(標準管理規約・各種ガイドライン)
- 国土交通省:マンションの修繕積立金に関するガイドライン(2024年6月改訂)
- 国土交通省:長期修繕計画作成ガイドライン(2024年6月改訂)
- 国土交通省:ガイドライン改訂の公表(2024年6月7日)
- 国土交通省:令和5年度マンション総合調査結果(2024年6月21日)
- e-Gov法令検索:宅地建物取引業法施行規則(16条の2)
- 国土交通省:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(2026年4月1日以降)
- e-Gov法令検索:建物の区分所有等に関する法律(7条、8条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
