賃貸管理 読了 20分

修繕積立金不足マンションの実務2026|総会シーズンに読む調査報告書・重説・オーナー対応の型

6月はマンション管理組合の総会シーズン。約3棟に1棟が修繕積立金不足の時代、仲介は調査報告書の7項目チェックと値上げ予定の説明、管理会社はオーナーへの議案書の翻訳が武器になります。見抜き方から説明の型まで、現場の実務として解説します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
修繕積立金不足マンションの実務2026|総会シーズンに読む調査報告書・重説・オーナー対応の型
目次

6月はマンション管理組合の総会シーズンです。そして今年の総会には、例年と違う重みがあります。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、計画上の積立額に対して修繕積立金が不足しているマンションは36.6%。約3棟に1棟が「計画どおりに積み立てられていない」状態で、工事費の高騰がそれに追い打ちをかけています。修繕積立金の不足は、管理組合だけの問題ではありません。中古マンションの仲介では価格と融資と説明義務に直結し、区分所有の投資用物件を預かる管理会社にとってはオーナーのキャッシュフローを左右します。積立金の話を「管理組合の中の話」と切り離している会社ほど、引渡し後のクレームとオーナーの不信を抱え込みます。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営み、自社で210室規模の賃貸住宅も運営する立場から、修繕積立金不足マンションの見抜き方、管理に係る重要事項調査報告書の読み方、重要事項説明での扱い、そして区分オーナーへの説明実務まで、中小不動産会社の実務として整理します。

なぜ今か — 総会シーズンと「3棟に1棟が積立不足」の現在地

マンション管理組合の通常総会は、3月決算の組合が多いことから5月から6月に集中します。区分所有法は管理者に少なくとも年1回の集会の招集を義務付けており、決算から2〜3か月以内を目安に開催する組合が多いとされています。つまり6月は、修繕積立金の値上げ議案、長期修繕計画の見直し、大規模修繕の実施決議といった「お金の議案」が全国でいっせいに諮られる時期です。

その足元の数字が厳しい。国土交通省の令和5年度マンション総合調査(2024年6月公表)によると、計画上の修繕積立金の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%にのぼり、前回調査から増加しました。不足割合が20%を超えるマンションも1割を超えるとされています。さらに同調査では、高経年マンションで世帯主70歳以上の世帯が半数を超えることも示されました。積立金が足りないマンションほど、値上げ決議の合意形成が難しい住民構成になっている——これが現在地です。

マンション管理をめぐる制度の流れ(この5年)
管理計画認定制度の開始(2022年4月)、マンション管理適正評価制度の運用開始(業界団体・2022年4月)、修繕積立金ガイドラインの改定(2024年6月)、そして約23年ぶりの大規模見直しとなった区分所有法改正の施行(2026年4月)。マンションの「管理の質」を見える化し、決議を通しやすくして再生を促す方向の制度整備が続いています。管理状況が取引価格に反映される流れは、今後さらに強まります。

区分所有法改正が2026年4月に施行されてから初めての総会シーズンでもあります。所在等が不明な区分所有者を決議の母数から除外できる仕組みなど、合意形成を進めやすくする見直しが入りました(詳細は関連コラムを参照)。制度は「決められるマンション」と「決められないマンション」の差を広げる方向に動いています。仲介と管理の現場は、その差を読み取って価格と提案に翻訳する役割を担うことになります。

不足が生まれる構造 — 段階増額積立方式という時限装置

なぜ3棟に1棟も不足するのか。構造的な主因は積立方式にあります。修繕積立金の積み立て方には、計画期間を通じて月額を一定にする均等積立方式と、分譲当初は低く抑えて段階的に引き上げていく段階増額積立方式の2つがあります。新築分譲では、当初の月額負担を小さく見せられる段階増額積立方式が広く使われてきました。

問題は、段階増額積立方式が「将来の総会で値上げ決議が可決され続けること」を前提にした計画だという点です。値上げ議案は、年金生活の世帯や賃貸に出している所有者が多いマンションでは否決されたり先送りされたりしやすく、一度計画から遅れると、次の引上げ幅はさらに大きくなります。そこに近年の工事費高騰が重なり、計画自体を上方修正せざるを得なくなった。これが不足の典型的な経路です。

国土交通省は2024年6月、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」と長期修繕計画作成ガイドラインを改定し、段階増額積立方式における引上げの考え方を示しました。均等積立方式とした場合の月額を基準額として、計画初期の月額は基準額の0.6倍以上、計画最終の月額は基準額の1.1倍以内とする、というものです。極端な右肩上がりの計画を改め、実現可能な引上げ幅に収めて、最終的には均等積立方式へ誘導する趣旨とされています。長期修繕計画はおおむね5年程度ごとの見直しが推奨されており、この基準に照らして自分のマンションの計画がどの位置にあるかが、健全性を測る一つの物差しになります。

仲介実務 — 管理に係る重要事項調査報告書で見抜く

中古マンションの仲介で管理状況を調べる基本資料が、管理会社(自主管理の場合は管理組合)が発行する管理に係る重要事項調査報告書です。媒介受託後、売主の協力を得て管理会社に発行を依頼します。発行には手数料がかかり、数千円から2万円程度が目安とされます。記載されるのは、管理費・修繕積立金の月額と改定予定、売主の滞納額、組合全体の滞納状況、修繕積立金の残高、組合の借入れの有無、大規模修繕の履歴と予定、長期修繕計画の有無、管理委託の形態、保険の加入状況などです。

このうち積立金不足のシグナルとして必ず突き合わせたいのは次の点です。第一に、積立金残高と長期修繕計画の予定残高のずれ。残高の絶対額だけでは判断できません。築年数と戸数に対して、計画上いまいくら貯まっているべきかとの比較が本体です。第二に、改定予定の有無と値上げ議案の経緯。「来期から月額が上がる」「総会で増額議案が否決された」という情報は、買主の購入後の負担に直結します。第三に、組合の借入れと一時金徴収の予定。積立金で足りない工事費を借入れや一時金で賄った履歴は、不足の動かぬ証拠です。第四に、大規模修繕の実施履歴と次回予定の間隔。築年数相応の修繕がされていない場合、買主は「これから来る工事」と「足りない原資」を同時に引き受けることになります。

現場の鉄則:月額が安いマンションほど疑う
広告上は「管理費・積立金が安い物件」は魅力に見えます。しかし築20年を超えて修繕積立金が著しく低いままのマンションは、計画的な引上げができていない可能性がまず疑われます。安いことを売り文句にする前に、長期修繕計画と残高を確認するのが仲介の仕事です。「安い」は調査の入口であって、セールストークの出口ではありません。

重要事項説明 — 積立金・滞納・値上げ予定をどう扱うか

区分所有建物の売買では、宅建業法35条に基づき、計画修繕のための積立てを行う旨の規約の定めとその内容、既に積み立てられている額、売主の滞納額、管理費用の額、管理の委託先などを重要事項として説明します。ここまでは法定事項として当然として、実務で紛争を分けるのはその先です。

値上げが「決議済み」なら説明は迷いません。問題は「予定・検討中」の扱いです。調査報告書に改定予定の記載がある、総会の議案書に増額案が出ている、長期修繕計画上は2年後に引上げが予定されている——こうした情報は、買主の意思決定に影響する事項として、把握した以上は説明するのが安全です。積立金の値上げや一時金の徴収見込みをめぐっては、仲介会社の調査・説明のあり方が紛争で問われた例もあるとされます。「決まっていないから言わなくてよい」ではなく、「決まっていないが、こういう計画と議論がある」とそのまま伝えるのが実務の型です。言った言わないを避けるため、重要事項説明書の特記事項や補足資料に記載して書面で残します。

あわせて、買主の資金計画への翻訳も仲介の付加価値です。月額がいくら上がると年間負担がいくら増えるのか、住宅ローンの返済額と合算した住居費はどうなるのか。投資用なら利回りが何ポイント動くのか。数字を「管理組合の事情」から「買主の家計・収支」に翻訳して初めて、説明したことになります。

価格と融資への影響 — 管理状況は値段に出る

修繕積立金の不足は、価格査定にも織り込む必要があります。不足分は、いずれ値上げか一時金か借入れ(将来の積立金からの返済)で埋めるしかなく、それは実質的に「物件価格に上乗せされた見えない債務」だからです。同じ築年数・同じ立地でも、積立が健全なマンションと不足が深刻なマンションでは、買主が将来負担する総コストが違う以上、付くべき値段も違います。査定書に管理状況の所見を一行入れる、不足が大きい場合は将来負担を試算して価格に反映する。この一手間が、売主への説得力と買主への誠実さの両方をつくります。

融資の面でも、管理状況を評価に取り込む動きが進んでいます。管理計画認定マンションについて住宅金融支援機構の【フラット35】で金利引下げの対象になる仕組みがあるほか、金融機関がマンションの管理状況を担保評価の参考にする動きもあるとされています。「管理を買え」は長く言われてきた相場格言ですが、制度と金融がそれを数字にし始めた、というのがこの数年の変化です。

媒介受託時の管理状況チェックリスト

当社で使っている、区分所有物件の受託時チェックの型です。調査報告書と議案書を取り寄せたら、この7項目を順に確認します。

確認項目確認先見るポイント
積立金残高と計画のずれ調査報告書・長期修繕計画予定残高に対する現在残高。不足率が大きいほど将来負担は重い
月額の改定予定調査報告書・直近総会議案書決議済みの値上げ、否決・先送りの履歴、段階増額計画の今後の傾き
滞納の状況調査報告書売主個人の滞納額(買主が承継し得る)と組合全体の滞納率
借入れ・一時金調査報告書・総会資料組合借入れの残高と返済原資。一時金徴収の履歴・予定
大規模修繕の履歴と予定調査報告書・修繕履歴築年数相応の工事がされているか。次回工事と原資の見通し
長期修繕計画の鮮度管理会社・管理組合直近の見直し時期。おおむね5年ごとの見直しが目安とされる
認定・評価の取得状況管理組合・公開情報管理計画認定・管理適正評価の有無。取得済みなら説明材料になる

この7項目を受託時に確認し、所見を査定書と重説の特記に反映する。それだけで、引渡し後の「聞いていない」をほぼ封じられます。調査の発行に日数がかかることもあるため、媒介契約と同時に発行依頼まで済ませるのが段取りのコツです。

区分オーナー対応 — 値上げ議案を「読んで」説明する

賃貸管理会社にとっての修繕積立金問題は、預かっている投資用区分の収支そのものです。月額1万円の値上げは、家賃8万円の区分なら表面利回りを大きく削ります。オーナーのもとには毎年5〜6月、総会の招集通知と議案書が届きますが、賃貸に出しているオーナーほど中身を読まず、議決権も行使していないのが実情です。

ここに管理会社の出番があります。第一に、議案書の翻訳。値上げ議案・大規模修繕議案が収支にどう効くかを、月次キャッシュフローの変化として示します。第二に、議決権行使の支援。賛否はオーナーの判断ですが、「読まずに放置」と「読んだうえで賛成・反対」では結果がまったく違います。値上げ否決の積み重ねが資産価値を毀損する構造を説明できるのは、収支を預かる管理会社だけです。第三に、出口戦略への反映。積立不足が深刻で合意形成も難しいマンションなら、値上げが本格化する前の売却も含めて選択肢を示す。逆に、認定取得済みで管理が良好なら、保有継続と家賃改定の根拠になります。

毎月の送金明細しか送っていない管理会社と、総会シーズンに議案の解説を一枚添える管理会社。オーナーから見た信頼の差は、ここで決定的につきます。手間に見えますが、議案書の論点は同じマンション内なら全戸共通です。1物件分を読み込めば、同じマンションに複数戸を預かる場合はそのまま横展開でき、翌年以降は前年の解説が雛形になります。総会シーズンの議案解説は、低コストで効果の大きいオーナー向けサービスです。

認定・評価制度を「売る力」に変える

管理状況の見える化には公的な物差しが2つあります。管理計画認定制度は、マンション管理適正化法に基づき2022年4月に始まった制度で、長期修繕計画や修繕積立金の水準などの基準を満たす管理計画を地方公共団体が認定するものです。マンション管理適正評価制度は、マンション管理業協会が同時期に始めた業界の仕組みで、管理状況を6段階で評価し公表するものです。

仲介の現場では、これらを「取得しているか」を確認するだけでなく、販売図面や物件紹介で積極的に語る材料に使えます。認定マンションであれば、金利優遇の可能性や管理の健全性をエビデンス付きで説明できます。未取得でも、評価の仕組みがあること自体を買主への説明の枠組みに使えば、「管理状況を調べて選ぶ」という買い方をリードできます。管理を語れる営業は、価格でしか語れない営業と明確に差がつきます。築年数が進んだマンションが市場の中心になっていくこれからの中古流通では、なおさらです。

立場別 — 修繕積立金問題とどう向き合うか

立場問題の現れ方今やるべきこと
売主値上げ・一時金の予定が価格交渉の材料になる調査報告書と議案書を早期に開示し、価格戦略を仲介と共有する
買主購入後の値上げ・一時金を後から知らされる残高・改定予定・借入れを契約前に確認。月額の将来推移で資金計画を組む
仲介の担当説明不足が引渡し後のクレーム・紛争として跳ね返る受託時チェック7項目の運用と、予定・検討中の情報の書面化
区分オーナー値上げが賃貸収支を直撃。放置すれば資産価値も毀損議案書を読む・読めるよう管理会社に解説を求める。出口時期の再点検
自社の経営層担当者ごとに管理状況の調査レベルがばらつく調査報告書の確認項目を社内で標準化し、査定書の書式に組み込む

よくある質問

Q1. 修繕積立金が不足しているマンションは仲介を断るべきですか。
断る必要はありません。不足の事実と将来負担の見通しを調査し、価格に織り込み、買主に説明し尽くせば、取引として成立させられます。リスクは「不足していること」ではなく「不足を調べず説明しないこと」にあります。

Q2. 管理に係る重要事項調査報告書は誰がいつ取得するのですか。
媒介を受託した仲介会社が、売主(組合員)の協力のもと管理会社に発行を依頼するのが一般的です。発行までに日数がかかる場合があるため、媒介契約の締結と同時に手配するのが安全です。費用は売主負担とする例が多いものの、取り決め次第です。

Q3. 売主に管理費・積立金の滞納があります。買主に引き継がれますか。
管理費等の債務は、区分所有法上、特定承継人である買主にも請求できるとされています。実務では決済時に滞納分を精算して引渡すのが原則です。滞納額は重要事項として説明し、精算方法を契約条件で明確にしてください。

Q4. 「値上げは検討中で未決議」の場合、重説で説明する義務はありますか。
法定の説明事項として一律に義務付けられているわけではありませんが、買主の判断に重要な影響を与える事項は説明するのが裁判例の傾向を踏まえた実務対応とされます。把握した検討状況・計画は特記事項に記載して書面で伝えるのが安全です。

Q5. 適正な修繕積立金の水準はどう判断すればよいですか。
国土交通省の修繕積立金ガイドラインに、建物の階数・延床面積帯ごとの専有面積あたり月額の目安が示されています。個別のマンションの妥当性は長期修繕計画とセットでの判断になるため、目安との比較に加えて、計画の鮮度と残高のずれを確認してください。

Q6. 区分オーナーに値上げ議案への賛否を助言してもよいですか。
議決権の行使はオーナー自身の判断であり、管理会社が賛否を指示する立場にはありません。実務では、議案が収支と資産価値に与える影響を中立に整理して示し、判断材料を提供するのが適切な距離感です。

Q7. 積立金不足のマンションでも買主の住宅ローンは通りますか。
積立金不足だけで一律に否決されるわけではありませんが、金融機関が管理状況を評価に取り込む動きはあるとされています。逆に管理計画認定マンションには金利面の優遇制度もあります。個別の可否は金融機関の判断によるため、早めの事前審査で確認してください。

まとめ:議案書と調査報告書を読める会社になる

総会シーズンの今、中小不動産会社がやるべきことは三つです。区分所有物件の媒介受託時に管理状況チェック7項目を型として運用すること、値上げの予定・検討中の情報まで書面で説明し切ること、そして区分オーナーには議案書の翻訳と議決権行使の支援を提案サービスとして届けることです。修繕積立金の不足は、3棟に1棟という規模で市場に既に存在しています。避けて通ることはできませんが、読める会社にとってはリスクではなく差別化の材料です。議案書と調査報告書を読み、数字を顧客の家計と収支に翻訳する。その地道な一手間が、引渡し後の紛争を防ぎ、オーナーの信頼を積み上げます。管理の良し悪しが値段に出る時代は、管理を語れる会社に追い風です。今日も一件、丁寧に積み上げていきましょう。

物件ごとの管理情報を、担当者の記憶から会社の資産へ
ウルスタは、中小不動産会社の物件・契約・顧客情報と調査履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。調査報告書の確認結果、積立金の残高と改定予定、総会議案の要点、オーナーへの説明履歴——区分所有物件の管理情報が物件ごとに時系列で残っていれば、担当者が替わっても説明の質は落ちず、次の査定と提案にそのまま使えます。「あのマンション、積立金はどうなっていましたか」に即答できる会社を、日々の入力の延長でつくっていきましょう。

著者: 馬場生悦(宅地建物取引士)。ウルスタ代表。中小不動産会社向け実務メディアを運営する傍ら、自社で宅地建物取引業を営み、210室規模の賃貸住宅を管理・客付けする。本記事は、国土交通省の公表資料の概要、報道、専門家の解説に基づく一般的な実務整理であり、修繕積立金の水準判断、重要事項説明の記載、管理組合の決議・議決権行使への対応は個別の物件・契約関係・規約によるため、最新の公表資料およびマンション管理士・弁護士等の専門家に確認のうえ判断すること。調査結果・ガイドラインに関する記述は2026年6月11日時点の公開情報に基づく。

参考: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(2024年6月公表・修繕積立金の積立状況等) / 国土交通省 報道発表「『長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント』及び『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の改定について」(2024年6月・段階増額積立方式における適切な引上げの考え方) / 国土交通省 マンション管理・再生ポータルサイト(管理計画認定制度) / マンション管理業協会「マンション管理適正評価制度」 / 区分所有法・マンション管理適正化法・宅地建物取引業法35条 / いずれも2026年6月時点の公開情報をもとに整理