賃貸物件の備え付けエアコンが故障したら、貸主には民法606条の修繕義務があり、直るまでの期間は民法611条により賃料が減額される可能性があるため、受付から修理完了までを決まった手順で速く進めることが大切です。夏場は熱中症の危険もあり、厚生労働省は熱中症患者のおよそ半数が65歳以上の高齢者だとしています。法令、標準契約書、公的資料に沿って、管理会社の緊急対応の手順と連絡文例を整理します。
エアコン故障の対応の前提になる法律と契約
貸主の修繕義務(民法606条)
民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」と定めています。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、この限りでないとされています。備え付けのエアコンが契約上の設備であれば、その修理は原則として貸主の義務です。
入居者の通知義務と、入居者による修繕(民法615条・607条の2)
民法615条は、賃借物が修繕を要するとき、賃借人は遅滞なく賃貸人に通知しなければならないと定めています。また607条の2は、賃借人が修繕の必要を通知したか賃貸人がそれを知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、または急迫の事情があるときは、賃借人が自ら修繕できるとしています。対応が遅れると、入居者が自分で業者を手配し、その費用の扱いが問題になることがあります。
賃料の減額(民法611条)
民法611条1項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益ができなくなった場合で、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料はその部分の割合に応じて「減額される」と定めています。2020年4月1日施行の民法改正で、「その他の事由」による使用・収益の不能も対象になり、減額は請求を待たずに生じる形の定めになりました。
標準契約書の定め
国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、9条で契約期間中の修繕について、借主の責めに帰すべき事由による修繕は借主、その他は貸主が費用を負担するとしています。12条1項は一部滅失等による賃料の減額を定め、「減額の程度、期間その他必要な事項について協議する」としています。頭書(1)の設備等の欄には「冷暖房設備」の有・無を記載する欄があり、備考に設備の性能や損耗状況を書けるようになっています。
入居時に残っていた前の入居者のエアコンを、貸主の設備としないで「残置物」として扱う契約もあります。その場合は、故障時に貸主が修理する義務を負わないことを、契約書と重要事項説明で明確にしておく必要があります。どちらの扱いかが書かれていないと、故障時に負担をめぐって話がこじれます。
熱中症の観点から優先度を決める
厚生労働省の「熱中症を防ぎましょう」のページでは、屋内での対策として「エアコン等で温度を調節」「室温をこまめに確認」を挙げています。また、熱中症患者のおよそ半数は65歳以上の高齢者であり、高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくいと説明しています。
環境省は、気候変動適応法18条に基づく「熱中症警戒情報(熱中症警戒アラート)」と、19条に基づく「熱中症特別警戒情報(熱中症特別警戒アラート)」を発表します。環境省の熱中症予防情報サイトでは、屋内ではエアコン等を適切に使用し、涼しい環境で過ごすよう呼びかけています。
こうした公的な情報を踏まえ、受付の段階で次のような事情を聞き、対応の優先度を上げる判断材料にします。
- 高齢の方、乳幼児、体調の悪い方が住んでいるか。
- その日に熱中症警戒アラートが出ているか。
- 他の部屋にエアコンがあるか、代わりに過ごせる場所があるか。
体調に異変がある場合は、管理会社が判断せず、救急相談の窓口や医療機関への連絡を勧めます。
受付から修理完了までの5ステップ
ステップ1:受付で状況を聞き取る
聞き取る項目の例です。症状(冷えない、動かない、水漏れ、異音、においなど)、いつからか、室内機の銘板にあるメーカー名と型番、リモコンのエラー表示、入居者の状況(前の章の項目)を記録します。写真や動画を送ってもらえると、業者への説明が正確になります。
ステップ2:入居者にできる範囲の確認をお願いする
リモコンの電池と運転モード、ブレーカー、フィルターの汚れ、室外機の前に物がないかなど、危険のない範囲の確認をお願いします。分解や高所での作業はさせません。水漏れの場合は、運転を止めて床や家財を守ってもらいます。
ステップ3:業者を手配し、オーナーの承認を取る
管理受託契約で決めた承認の手順に従います。国土交通省の賃貸住宅標準管理受託契約書では、6条2項で、1件当たりの金額が頭書で定めた金額を超えない立替えは委託者の承諾を要せず、超えるものは事前に協議するとしています。11条は、災害や事故等で緊急に行う必要があり、承認を受ける時間的な余裕がない業務を承認なしで実施できるとし、その場合は速やかに書面で内容と費用を通知するとしています。修理か交換かの判断材料として、機器の設置年、部品の有無、修理と交換の見積をオーナーに示します。
ステップ4:修理を待つ間の配慮と進捗の連絡
修理まで日数がかかる場合は、訪問日が決まった時点、部品の手配が決まった時点など、節目ごとに入居者へ連絡します。扇風機などの貸出し、ほかの部屋の利用の提案など、代わりの手段をどこまで用意するかは、オーナーとあらかじめ決めておきます。
ステップ5:完了の確認と記録
修理後に、冷房が効くか、水漏れや異音がないかを入居者と確認します。費用、原因、負担区分、使えなかった期間を記録し、賃料減額の協議の材料にします。機器を交換した場合は、設備の一覧の型番と設置年を更新します。
賃料減額の考え方
エアコンが使えない期間について、どの程度賃料が減額されるかを定めた法令上の基準はありません。標準契約書の解説コメントも、判例等の蓄積による明確な基準がないことから、借主が貸主に通知し、適正な減額割合や期間を協議して合意の上で決めることが望ましいとしています。
協議の目安として、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)が「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を公表しています。2024年10月4日の改定で、「エアコンが作動しない」の賃料減額割合は、従来の1か月あたり5,000円から10%に変わりました。発生した季節・地域、間取りや設置台数等を考慮し、必要に応じて割合を調整するとされています。免責日数は3日です。
ガイドラインに示された計算例は、「月額賃料100,000円×賃料減額割合10%×(6日-免責日数3日)/月30日=1,000円の賃料減額」です。同ガイドラインは、法的拘束力はなく目安を示すもので、割合や免責日数は状況に応じて調整でき、使用を義務づけるものではないとしています。
実務では、減額の有無と金額をオーナーと入居者の双方と確認し、合意した内容を書面かメールで残します。管理会社が勝手に減額を約束しないよう、標準管理受託契約書14条のように、入居者との協議の前にオーナーの承諾を得る手順にしておきます。
費用は誰が負担するか
- 貸主の設備で、通常の使用による故障:貸主の負担(民法606条1項、標準契約書9条1項)。
- 入居者の責めに帰すべき事由による故障:入居者の負担(民法606条1項ただし書、標準契約書9条1項)。
- 残置物として扱う契約の機器:契約書と重要事項説明の定めによる。
- 入居者が持ち込んだエアコン:入居者の所有物で、貸主の修繕義務の対象外。
退去時の原状回復では、国土交通省の原状回復ガイドラインが参考になります。ガイドラインは、冷房用・暖房用機器(エアコン、ルームクーラー、ストーブ等)を耐用年数6年のものに分類し、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定して負担割合を算定するとしています。また、借主所有のエアコン設置による壁のビス穴・跡は通常損耗として貸主負担の例に、貸主所有のクーラーから水漏れし、借主が放置したため壁が腐食した場合は借主の負担となりうる例に挙げられています。
故障の原因が入居者の使い方にあるかどうかは、業者の所見を記録として残し、それをもとにオーナーと協議します。原因がはっきりしないまま入居者に請求するのは避けます。
入居者への連絡文例
次の文例は、物件ごとの事情に合わせて書き換えて使ってください。
受付直後の返信
○○様 エアコンの不具合について、ご連絡を受け付けました。お手数ですが、リモコンの電池と運転モード、ブレーカー、室外機の前に物がないかをご確認ください。改善しない場合は、室内機の側面などにある型番の写真をお送りください。当社から業者に手配しますので、訪問の日時が決まり次第ご連絡します。暑さで体調に不安がある場合は、無理をせずお知らせください。
業者の訪問日のご案内
○○様 エアコンの点検に、○○(業者名)が○月○日○時ごろに伺います。作業時間は○時間ほどの見込みです。室内機の下に物がある場合は、移動をお願いします。ご都合が合わない場合は、当社担当の○○までご連絡ください。
修理完了のお知らせ
○○様 エアコンの修理が完了しました。ご不便をおかけしました。しばらく使ってみて、冷え方や水漏れなどに気になる点があれば、当社までご連絡ください。
夏の前に準備しておくこと
- 設備の一覧:物件・部屋ごとに、エアコンのメーカー、型番、設置年、貸主の設備か残置物かを一覧にします。
- 契約書の確認:残置物として扱う機器は、契約書と重要事項説明に明記されているかを確認します。
- 業者の連絡先:メーカーの修理窓口、地域の空調業者など、複数の連絡先をまとめておきます。
- オーナーとの事前合意:承諾なしで進めてよい金額、交換を判断する基準、代わりの手段をどこまで用意するかを決めておきます。
- 入居者への案内:フィルターの掃除など、入居者にお願いしたい使い方を入居時や夏前に案内します。
ウルスタ株式会社の業務クラウド「ウルスタくん」では、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を作れます。承認を得たエアコンの修理費を、どの月の送金から差し引いたかをオーナーが確かめやすくなります。
よくある質問
Q1. 入居者から「今日中に直してほしい」と言われたら?
業者の空き状況で当日の修理が難しい場合もあります。いつ訪問できるかの見込みを早く伝え、代わりの手段や進捗の連絡の時期を示します。体調に不安がある方には、医療機関や救急相談窓口への連絡を勧めます。
Q2. 修理と交換はどう判断しますか?
法令上の基準はありません。機器の設置年、メーカーの部品の有無、修理と交換の見積を並べ、オーナーに判断してもらいます。
Q3. 入居者が自分で業者を呼んで修理した場合、費用はどうなりますか?
民法607条の2は、貸主が相当の期間内に修繕しないときや急迫の事情があるときに、借主が自ら修繕できると定めています。費用の扱いは、その事情と契約の定めをもとにオーナーと協議します。
Q4. エアコンが使えなかった期間の賃料は、減額しなければなりませんか?
民法611条1項の要件に当たれば、使えなかった部分の割合に応じて減額されます。程度や期間は、標準契約書12条のように協議で決めるのが一般的で、日管協のガイドラインが目安として使えます。
Q5. 残置物のエアコンが壊れたら、貸主は直さなくてよいですか?
契約書と重要事項説明で、残置物であり貸主が修理義務を負わないことが明確にされていれば、その定めによります。明記がない場合は、設備として扱われる可能性があるため、オーナーと協議します。
出典(本文で参照している資料)
- 民法(e-Gov法令検索):606条、607条の2、611条、615条
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」:頭書(1)、9条、12条
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」:6条、11条、14条
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン」改定のお知らせ
- 厚生労働省「熱中症を防ぎましょう」
- 環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症警戒アラート」
- 気候変動適応法(e-Gov法令検索):18条、19条
この記事は2026年10月7日時点の情報です。