不動産会社の業務改善 読了 25分

応募117件のうち81件が落ちている——令和8年度「空き家対策モデル事業」の採択結果を、補助金の話としてではなく事業設計の資料として読む

空き家の補助事業の採択結果が出ました。応募117件、採択36件。注目したいのは通った36件ではなく、落ちた81件のほうです。評価委員会は「なぜ評価が低かったか」を8つの型で書き残しています。それは補助金の書類の話ではなく、空き家事業そのものの設計の話でした。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
空き家対策モデル事業2026|採択36件と落選81件
目次
1. 補助金に応募しない会社こそ、この資料を読む価値がある 2. 【要点】採択結果から読み取れる3点 3. 空き家対策モデル事業とは何か——国が民間に直接カネを出す枠 4. 応募117件、採択36件、採択率30.8% 5. 前年度から応募も採択も減っている 6. テーマが3本から5本に増えた意味 7. テーマ別の採択率——通りやすいテーマと通りにくいテーマ 8. ソフトだけの提案と、ハードを含む提案 9. 地域別で見ると景色が変わる 10. 九州は9件応募して採択ゼロだった 11. 全国展開を掲げた提案は10件中1件しか通っていない 12. 評価委員会が「評価が低かった」と書いた8つの型 13. 落選8類型を、自社の空き家事業に当ててみる 14. 採択事業の共通点1——待たずに、こちらから当てにいく 15. 異業種データを入口にする——ガス閉栓、水道閉栓、車載カメラ 16. 相談446件、登録転換率約12%という現実の数字 17. 採択事業の共通点2——売れない空き家を、まず賃貸で回す 18. 採択事業の共通点3——解体を費用ではなく仕入れに変える 19. 空家等管理活用支援法人という受け皿 20. 令和8年4月に始まった制度が、もう使われ始めている 21. 来年度応募するなら、いま決めておくこと 22. 補助金を取らなくても、明日から真似できる3つ 23. 数字の出典と、本稿で計算した派生値

通った36件より、落ちた81件のほうに情報があります。国土交通省住宅局が令和8年7月8日に公表した令和8年度「空き家対策モデル事業」の採択結果です。応募117件に対して採択36件。評価委員会は、なぜ評価が低かったのかを短い文章で書き残しています。それは補助金の書類の書き方の話ではなく、空き家を事業にするときの設計の話でした。

補助金に応募しない会社こそ、この資料を読む価値がある

補助事業の採択結果は、たいてい「うちには関係ない」と思われて読まれません。応募していないのだから当然です。

ただ、この資料には別の使い道があります。国が、空き家のどこに金を出す価値があると判断したかが、36件ぶんの事業計画として並んでいる。しかも評価委員会が、落ちた提案について「こういう理由で評価が低かった」まで書いている。つまり空き家事業の当たり外れの判定基準が、公開された形で手に入るということです。

本稿は、この採択結果を申請ノウハウとしてではなく、自社で空き家を扱うときの設計資料として読みます。

【要点】採択結果から読み取れる3点

読み取れること数字
3件に2件以上が落ちている応募117件に対し採択36件。採択率30.8%、落選81件
地域を絞らない提案ほど通っていない「全国・複数地域」は10件応募して採択1件(10.0%)。地域を明示した提案の採択率とは大きく差がある
国の関心はデジタルと相続へ移りつつある前年度は3テーマ。今年度はAI・デジタルと、相続空き家の住宅地再編が独立テーマとして追加され5テーマに

空き家対策モデル事業とは何か——国が民間に直接カネを出す枠

制度としては単純です。NPOや民間事業者などが提案したモデル性の高い空き家対策の取組に対して、国が直接支援を行い、その成果を全国へ展開するというもの。自治体を経由する補助金ではなく、民間が直接応募できる点が特徴です。採択は、学識経験者等で構成される評価委員会の評価結果を踏まえて決まります。

令和8年度の募集期間は令和8年4月20日から同年5月20日までのちょうど1か月。結果の公表が令和8年7月8日ですから、締切から採択公表まではおよそ7週間でした。

なお、同じ国土交通省でも不動産・建設経済局が所管する「地域価値共創モデル事業」とは別の制度です。あちらは不動産業による地域課題解決の枠組み、こちらは住宅局・住宅総合整備課の空き家対策の枠です。

応募117件、採択36件、採択率30.8%

公表された数字はこうです。

テーマ内容応募採択採択率
テーマ1官民連携による独創的な空き家に関する相談対応の充実16件5件31.3%
テーマ2空き家に関連する新たなビジネスモデルの構築42件11件26.2%
テーマ3新たなライフスタイルや居住ニーズに対応した空き家の活用等30件12件40.0%
テーマ4空き家に関する新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用22件6件27.3%
テーマ5相続空き家の急増を見据えた実態把握・将来予測を通じた既成住宅地の再編等の試行7件2件28.6%
合計——117件36件30.8%

全体の採択率は30.8%。およそ3件に1件です。裏を返せば81件が落ちている。これは公募型の補助事業としては特別に厳しい水準ではありませんが、「出せば通る」枠ではないことははっきりしています。

前年度から応募も採択も減っている

前年度(令和7年度、令和7年8月4日公表)と並べます。

項目令和7年度令和8年度増減
応募総数137件117件−20件
採択総数49件36件−13件
採択率(本稿の計算)35.8%30.8%−5.0ポイント
テーマ数3本5本+2本

応募は137件から117件へ20件(14.6%)減、採択は49件から36件へ13件(26.5%)減。採択の減り方が応募の減り方より大きく、結果として採択率は35.8%から30.8%へ5.0ポイント下がりました。

参考までに、前年度のテーマ別はこうでした。

テーマ(令和7年度)応募採択採択率
テーマ132件7件21.9%
テーマ248件23件47.9%
テーマ357件19件33.3%

前年度のテーマ2(ビジネスモデル構築)は48件中23件が通っており、採択率は47.9%ありました。同じテーマ2が、今年度は42件中11件の26.2%まで下がっています。「空き家ビジネス」を掲げるだけでは通らなくなった、と読むのが素直でしょう。

テーマが3本から5本に増えた意味

前年度のテーマは3本でした。相談対応、ビジネスモデル、新しい居住ニーズ。今年度はここに2本が加わっています。

追加されたテーマ中身
テーマ4空き家に関する新時代のインフラ整備と、AI・デジタルなどの新技術の徹底活用
テーマ5今後の相続空き家の急増を見据えた実態把握・将来予測を通じた、多主体連携による既成住宅地の再編等の試行

テーマを独立して立てるということは、そこに応募を集めたいという意思表示です。国は、空き家の実態把握と判定をデジタルで効率化する方向と、相続空き家が急増したあとの住宅地そのものの再編に、枠を割いた。この2つは、中小の不動産会社にとっても向こう数年の論点になります。

テーマ別の採択率——通りやすいテーマと通りにくいテーマ

採択率をテーマ別に見ると、いちばん高いのがテーマ3の40.0%、いちばん低いのがテーマ2の26.2%。その差は13.8ポイントです。

テーマ2は応募が42件と最多でした。応募が集まるテーマほど採択率は下がるという、当たり前ではありますが実際に効く関係がここにあります。逆にテーマ5は応募7件しかなく、いちばん薄い。人が集まっていない枠を狙うのは、公募戦略としては王道です。

ソフトだけの提案と、ハードを含む提案

この事業には「ソフト事業」と「ソフト・ハード事業」という提案区分があります。ハードとは、実際に建物を改修したり除却したりする工事を含むものです。

提案区分応募採択採択率
ソフト事業のみ93件28件30.1%
ソフト・ハード事業24件8件33.3%
合計117件36件30.8%

ソフトのみが30.1%、ハードを含むものが33.3%。手を動かす提案のほうが、わずかに通りやすい結果でした。ただしハードを含む応募は24件(全応募の20.5%)しかなく、母数が小さいため差を過大に読むべきではありません。

テーマ別の内訳はこうです。

テーマソフトのみ(応募 / 採択)ソフト・ハード(応募 / 採択)
テーマ114件 / 4件2件 / 1件
テーマ232件 / 9件10件 / 2件
テーマ320件 / 8件10件 / 4件
テーマ421件 / 5件1件 / 1件
テーマ56件 / 2件1件 / 0件

テーマ3では、ハードを含む10件のうち4件が採択されています。実際に空き家を1軒改修してみせる提案が、居住ニーズのテーマでは評価されやすかったことになります。

地域別で見ると景色が変わる

ここからが本題です。事業地域別の応募・採択数が公表されています。

事業地域応募採択採択率
北海道3件1件33.3%
東北10件5件50.0%
関東40件10件25.0%
北陸7件4件57.1%
中部9件5件55.6%
近畿22件8件36.4%
中国4件1件25.0%
四国3件1件33.3%
九州9件0件0.0%
全国・複数地域10件1件10.0%
合計117件36件30.8%

関東が40件と応募の34.2%を占め、近畿22件と合わせると2ブロックで応募全体の53.0%です。しかし採択率で見ると、関東は25.0%と全体平均を下回っている。いちばん高いのは北陸の57.1%でした。

九州は9件応募して採択ゼロだった

この表でもっとも目を引くのは九州です。9件応募して採択0件。採択率0.0%。9ブロック中、採択がゼロなのは九州だけです。

公表資料は、なぜ九州がゼロだったのかを説明していません。提案の質の問題なのか、テーマの偏りなのか、たまたまなのかは、公表された情報からは判断できません。ここは推測を書かずに止めておきます。

ただ、事実として押さえておく価値はあります。九州で空き家事業を組み立てて国の枠を取りにいく場合、直近の実績はゼロからのスタートだということです。逆に言えば、来年度は空いている。

全国展開を掲げた提案は10件中1件しか通っていない

もうひとつ効くのが「全国・複数地域」の行です。10件応募して採択1件、10.0%。9ブロックのいずれかを指定した提案(応募107件・採択35件)と比べると、明らかに低い。

そして評価委員会の記述と重ねると、意味が見えてきます。テーマ1の落選理由には「提案内容をどのように全国的な実装につなげていくのかが不透明」とある。つまり国が求めているのは最初から全国でやることではなく、特定の地域で成立させたうえで、それが他所でも再現できると示すことです。

実際、採択された事業の多くは市町村名、さらには地区名まで絞り込んでいます。長野県塩尻市奈良井、群馬県前橋市広瀬町1~3丁目、和歌山県田辺市、山形県舟形町。面を広げるのではなく、1つの地区で完結させて、その手順書を公開する。これが通る形です。

評価委員会が「評価が低かった」と書いた8つの型

別添2には、テーマごとに「一方、こういう提案は評価が低かった」という記述があります。並べるとこうなります。

テーマ評価が低かったとされた提案の型
テーマ1提案内容をどのように全国的な実装につなげていくのかが不透明
テーマ1過年度事業の事業成果から特筆した発展が見られない
テーマ2提案内容が広範で多岐に渡り実現可能性に乏しい
テーマ2費用対効果が低い
テーマ2先行事例が多く新規性が低い
テーマ3取組が従来実施されている内容に留まっている、新規性に欠ける
テーマ3取組や実施体制の具体性に欠け、実現性に乏しい
テーマ4空き家対策の実務ニーズにマッチしておらず、有効性や実現可能性、展開性に乏しい

8つのうち書類の書き方に関するものはひとつもありません。すべて事業の中身についての指摘です。

落選8類型を、自社の空き家事業に当ててみる

この8つは、そのまま自社企画のチェックリストになります。

落選の型自社に置き換えると
全国的な実装につなげ方が不透明この取組は、隣の市でも同じ手順で回せるか。回せないなら、何が属人的なのか
過年度からの発展が見られない去年と同じことを、去年と同じ規模でやっていないか
広範で多岐に渡り実現可能性に乏しいやることが5つ以上並んでいないか。1つに絞れないのは、どれが効くか分かっていないから
費用対効果が低い1件成約するのにかかった人件費を、実際に計算したことがあるか
先行事例が多く新規性が低い同じことを、すでに市内の誰かがやっていないか
従来の内容に留まっている空き家バンクに載せて待つ、以外の入口を持っているか
実施体制の具体性に欠ける誰が何時間動くのか、名前と工数で書けるか
実務ニーズにマッチしていないこの仕組みを、現場が本当に使うか。使わない理由を潰したか

とくに「費用対効果が低い」は、空き家事業で最初につまずくところです。空き家1件の仲介手数料は低額になりがちで、それに対して調査・相続人特定・所有者説得の工数が重い。ここを数字で押さえていない提案は、評価委員会にも銀行にも通りません。空き家の仲介手数料については低廉な空家等の媒介報酬特例の記事で別途整理しています。

採択事業の共通点1——待たずに、こちらから当てにいく

採択36件の概要を読み通すと、繰り返し出てくる言い方があります。「プッシュ型」「ダイレクトアプローチ」「逆プレゼン」「掘りおこし」。

評価委員会も、テーマ1で高い評価を得た提案として「空き家予備軍や地域外に居住する空き家所有者の行動を促進するためにプッシュ型アプローチを行う提案」を挙げています。奈良県川西町の事例では、固定資産税データを活用して町外の所有者へ診断キットを直接郵送し、さらに帰省タイミングに合わせたSNS広告を出す設計になっています。

群馬県前橋市の事例に至っては「逆プレゼン会」という名前がついています。所有者を集めて相談を受けるのではなく、こちらが利活用案を作って所有者にプレゼンしに行く。評価委員会はこれを「所有者の気づき・意思決定・行動を後押しする新たなアプローチ」として評価しました。

空き家バンクに登録して問い合わせを待つ、という形は、もう新規性として認められていません。相続空き家の相談をどう受けるかについてはお盆の相続空き家相談の受け方で、季節性を踏まえた導線を書いています。

異業種データを入口にする——ガス閉栓、水道閉栓、車載カメラ

プッシュ型でいちばん難しいのは「誰に当てるか」です。採択事業は、ここを異業種が持っているデータで解いています。

採択事業やること公表されている数字
株式会社WHERE(神奈川県相模原市)水道閉栓データ・衛星データ・AI・ストリートビュー解析で空き家候補を抽出津久井地区の水道閉栓住宅1,200軒を解析し空き家候補579軒に絞込。市保有データと67%一致
日高都市ガス株式会社(埼玉県日高市)ガス閉栓の依頼を受けた時点で所有者に接触し、管理・流通へ誘導都市ガス会社が宅建業免許と空き家管理サービスを併有し、閉栓情報を起点に一気通貫化
株式会社都市空間総合研究所(和歌山県田辺市)車両・歩行者搭載の360度カメラとAIで建物単位の外観画像を収集し空き家判定ストリートビューでは取れない夜間光や細街路まで網羅。時間帯別データで居住実態を反映
株式会社西条産業情報支援センター(愛媛県西条市)空家等管理活用支援法人として市の相談窓口を運営7か月で相談446件・空き家バンク登録相談378件・現地調査および提案書作成38件。相談から登録への転換率は約12%
有限会社トノコーポレーション(福島県南相馬市)売買しづらい戸建て空き家を、まず賃貸で流通させてから売買へ接続南相馬ミライエは設立時から地元不動産業者29社と建築士会の計30社を会員として組成
合同会社ReLink(福島県須賀川市)除却現場から建築資材を救出し、別の空き家の改修へ直接移植移植資材のリユース率70%、実質利回り17.5%の循環投資スキームを実証

都市ガス会社の事例は分かりやすい。ガスの閉栓依頼は、その家が空き家になる瞬間にリアルタイムで届く情報です。日高都市ガスはすでに宅建業免許を取得しており、閉栓の連絡を受けたタイミングで所有者に接触する設計を組んでいます。評価委員会も、横展開の可能性の高さを理由に高く評価したと記しています。

相模原市の事例では、水道閉栓住宅1,200軒を解析して空き家候補579軒まで絞り込み(48.3%まで圧縮)、市の保有データと67%一致したことが確認されています。

中小の不動産会社に水道や衛星のデータは手が届きません。ただし考え方は真似できます。その家が空き家になったことを地域で最初に知る立場は誰か。新聞販売店、LPガス販売店、地元の工務店、町内会の班長。そこと関係を作れば、実質的に同じ効果を持ちます。

相談446件、登録転換率約12%という現実の数字

愛媛県西条市の事例は、空き家相談窓口の実績を数字で公表しています。ここが本稿でいちばん実務に効く部分です。

指標実績(7か月)本稿の計算
相談対応446件月あたり約63.7件
空き家バンク登録相談378件——
現地調査・提案書作成38件相談446件の8.5%
相談から登録への転換率約12%(公表値)——

市の窓口として全ての定量目標を大幅に超過達成した、と書かれている事業でも、相談から登録への転換率は約12%です。現地調査・提案書の作成まで進んだのは38件、相談全体の8.5%にすぎない。

この数字は、空き家事業の売上計画を作るときの現実的な係数になります。相談100件で登録12件。そこから成約に至るのはさらに一部。逆算すると、年に数件の成約を作るために必要な相談件数の規模が見えてきます。空き家の出口については相続した空き家の処分で、売却・賃貸・除却の判断軸を整理しています。

そして西条市の事例は、転換率が12%にとどまる原因を「情報不足と手続きの煩雑さ」と分析しています。窓口を作ることではなく、来たあとの手続きを減らすことが次の課題だ、ということです。

採択事業の共通点2——売れない空き家を、まず賃貸で回す

福島県南相馬市の事例は、賃貸管理をやっている会社にとって示唆があります。

構図はこうです。移住希望者は住宅ローンを組みにくく、まず賃貸から始めたい。一方で所有者は遠方在住で管理負担があるため売却を希望する。この需給がすれ違うため、空き家バンクでは売買成約が増えても戸建て賃貸は伸びない。

そこで採択事業は、事業者が空き家を取得・改修・賃貸化し、その後投資家等へ売却して管理は継続する循環を組んでいます。評価委員会は「売買が困難な空き家を賃貸で流通させ、その後の売買へ接続する手法」として、波及性の観点から高く評価したと記しました。

売却を希望する所有者に、いきなり売却以外の選択肢を出す。これは補助金がなくてもできる提案です。農地付き空き家のように出口が限られる物件では、とくに効きます(農地付き空き家の実務)。

採択事業の共通点3——解体を費用ではなく仕入れに変える

福島県須賀川市の事例は、除却の考え方をひっくり返しています。空き家を「都市の資材貯蔵庫」と定義し直し、解体現場から古材や建具を救出して、別の空き家の改修へ直接移植する。

公表されている目標値は移植資材のリユース率70%、実質利回り17.5%。産廃処分費を削減しつつ、建材高騰で上がった改修コストを下げるという、両側から効く設計です。福井県勝山市の事例も、解体・不動産・設計・施工・木質産廃処理を一気通貫で持つ総合建設業者が同じ発想で組んでいます。

実行のハードルは高い取組ですが、「解体費用は出ていくだけの金ではない」という前提の置き換えだけなら、解体業者との会話の仕方を変えるところから始められます。

空家等管理活用支援法人という受け皿

採択事業を読んでいて目立つのが、空家等管理活用支援法人の指定を受けた立場での応募です。改正空家法(令和5年12月施行)で新設された、市町村が指定する民間の担い手の枠組みです。

岡山県井原市の事例に至っては、空家等管理活用支援法人・特定居住支援法人・所有者不明土地利用円滑化等推進法人の3つの指定を全国で唯一併有していると書かれています。市が設置した空き家相談センターの運営を受託し、令和7年度の相談実績は93件。

指定自体が目的ではありませんが、市町村から指定を受けた立場は、所有者へのアプローチの正当性を担保します。登記情報を使ったプッシュ型は民間単独だと警戒されますが、市の指定法人という肩書きがあると受け止められ方が変わる。採択事業の多くが、この構図を前提にしています。

令和8年4月に始まった制度が、もう使われ始めている

採択事業のなかに、この4月に動き出したばかりの制度を実務検証するものが含まれています。

制度時期採択事業での使われ方
所有者不明区分所有建物管理制度令和8年4月施行区分所有長屋の管理不全空室への予防的介入(一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会)
新しい公益信託制度令和8年4月開始公益法人やNPO法人が受託者になれるようになり、空き家の流通・活用の受け皿として検証(公益社団法人奈良まちづくりセンター)
空家等管理活用支援法人改正空家法・令和5年12月施行市町村が指定する民間の担い手。採択事業の複数が指定を受けた立場で応募している

とくに所有者不明区分所有建物管理制度を使った提案は、対象が「区分所有型の長屋」という制度の谷間にあった物件です。一部住戸だけが空室になり、行政からは「一部居住長屋」と認識されるものの現行制度上は空家等に該当せず、対応手法が確立されていない——この課題設定そのものが評価されました。

制度施行の初年度に、その制度を使う実務モデルを作る。新しい制度は、動く人が少ないうちが空いているという一般則が、ここでも成り立っています。

来年度応募するなら、いま決めておくこと

令和8年度の募集は4月20日開始・5月20日締切でした。前年度は4月30日開始・5月30日締切。例年、ゴールデンウィークをまたぐ1か月が募集期間と見ておけば大きく外しません。

時期やること
いま(夏)対象地区を1つに絞る。市町村名ではなく、町丁目まで落とす
自治体の担当課と接触する。テーマ1と5は自治体との連携が前提
空き家の実態を自分の足で数える。採択事業はほぼ全て、独自の実数を持っている
年明け薄いテーマを狙うか厚いテーマで勝負するかを決める。テーマ5は応募7件と最も薄い
4月公募開始。1か月しかないので、この時点で中身は固まっている必要がある

締切直前の1か月で書けるものではありません。採択されている提案は、前年度までの実証や、市の窓口運営の受託実績など、応募時点ですでに積み上げを持っています。

補助金を取らなくても、明日から真似できる3つ

最後に、応募しない会社向けに絞ります。

やること元にした採択事業の考え方
空き家になる瞬間を知らせてくれる相手を、地域に3つ作るガス閉栓・水道閉栓を起点にする発想。中小規模なら、LPガス販売店・新聞販売店・地元工務店で代替できる
相談から次工程への転換率を測り始める相談446件・登録転換率約12%という公表実績。件数ではなく転換率を見る
売却希望の所有者に、賃貸化という選択肢を必ず1回出す売買しづらい空き家を賃貸で流通させ、その後の売買へ接続する手法

いずれも予算がいりません。3つめは既存の賃貸管理の仕組みをそのまま使えるため、管理をやっている会社ほど有利です。

数字の出典と、本稿で計算した派生値

応募数・採択数・テーマ名・評価委員会の記述・採択事業の概要は、すべて国土交通省の公表資料からの引用です。以下は本稿が公表値から計算した派生値であり、国が公表した数字ではありません。

派生値計算
全体の採択率36÷117=30.8%
落選件数117−36=81件
テーマ別・地域別の採択率各行について、採択数÷応募数
前年度の採択率49÷137=35.8%
応募・採択の減少率20÷137=14.6%、13÷49=26.5%
関東の応募シェア40÷117=34.2%。関東と近畿の合計は53.0%
ハードを含む応募の割合24÷117=20.5%
相談の月あたり件数446÷7=約63.7件
現地調査まで進んだ割合38÷446=8.5%
空き家候補の絞込率579÷1200=48.3%

地域別の採択率は、ブロックによって母数が3件から40件まで開きがあり、母数の小さいブロックは1件の増減で大きく振れます。北海道・四国は応募3件、中国は4件です。順位として読むと誤ります。

九州の採択がゼロだった理由は、公表資料に説明がありません。本稿はその理由を推測していません。また採択事業の概要にある数値(リユース率70%、実質利回り17.5%など)は提案書に記載された目標値であり、達成実績ではありません

本稿は応募を勧めるものではありません。実際の応募要件・対象経費・補助率は、公募時に国土交通省が公表する要領で確認してください。

空き家と賃貸管理の実務については、ウルスタのコラムで継続的に書いています。