日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を1.0%程度から1.25%程度へ引き上げると決めました。賛成7・反対2で、新しい方針は翌営業日の9月24日から適用されます。利上げは2025年1月(0.5%)、2025年12月(0.75%)、2026年6月(1.0%)に続く4回目です。前の3回と今回が違うのは、声明文の5項に「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」と書かれたこと、そして日銀が3月の日銀レビューで示した自然利子率の幅(▲0.9%程度〜+0.5%程度)に物価目標の2%を足した中立金利の幅(1.1〜2.5%程度)の下限を、政策金利が初めて超えたことです。中小の賃貸管理会社にとって、これは「利上げがあった」の説明を繰り返す局面ではなく、利上げが続く前提でオーナーの収支表を作り直す局面です。本稿は、政策金利から返済額までの時間差、住宅ローンとアパートローンの動き方の違い、借入1億円で0.25%が1戸あたり月いくらか、家賃に転嫁できるかを借地借家法32条の条文で確かめ、オーナーへの説明の雛形、今週やる5つ、報告書に足す2行までをまとめます。
結論(90秒で読める)
- 日銀は2026年9月18日、政策金利を1.0%程度から1.25%程度へ引き上げました。賛成7・反対2、適用は9月24日からです。声明文には「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と書かれ、物価が2%を超えて上振れるリスクへの警戒が今回の理由です。
- 日銀が3月に公表した自然利子率の推計は▲0.9%程度〜+0.5%程度。これに物価目標の2%を足した名目の中立金利は1.1〜2.5%程度で、1.25%はその下限を初めて超えました。日銀は「政策金利の変更後も、緩和的な金融環境は維持される」とも書いており、上限まではまだ幅があります。
- 短期プライムレート(主要行・最頻値)は、過去3回の利上げでいずれも38〜48日後に0.25%上がりました(2025年1月24日→3月3日、2025年12月19日→2026年2月2日、2026年6月16日→8月3日)。同じ間隔なら次の改定は10月末〜11月上旬が目安で、2.375%が2.625%になります。
- 借入1億円・残25年・元利均等で金利が2.0%から2.25%になると、月の返済は423,854円から436,131円へ12,276円増えます。10戸のアパートなら1戸あたり月1,228円です。0.25%は「たいしたことがない」ではなく「1戸あたり月1,228円」と、戸に割って持って行きます。
- 住宅ローンの変動金利は基準金利を年2回(4月1日・10月1日が多い)見直して返済額の反映はさらに後ですが、アパートローンは契約ごとに違い、短プラ改定の翌月から返済額が変わる契約もあります。オーナーの金銭消費貸借契約書の「金利の見直し」の条項を読むのが最初の仕事です。
- 家賃に転嫁できるかは、借地借家法32条1項の三つの事由(租税その他の負担の増減、価格その他の経済事情の変動、近傍同種の借賃との比較)で決まり、貸主の借入金利は条文に出てきません。増額を求めるなら根拠は近傍同種の賃料に置きます。
- 今週やるのは、管理オーナーの借入を変動・固定・無借入で仕分ける、契約書の金利見直し条項を写す、0.25%と1.0%の2段で戸あたりの数字を出す、固定への借換え相談の答え方を揃える、報告書に2行を足す、の5つです。
9月18日に決まったこと|1.25%・賛成7反対2・9月24日から
日銀の声明文「金融市場調節方針の変更について」は5ページで、決めたことは1ページ目に書いてあります。無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.25%程度で推移するよう促す、補完当座預金制度の適用利率を1.25%、基準貸付利率を1.5%にする、いずれも9月24日から適用、の三つです。反対した2名の理由も注に書かれています。浅田委員は「消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回るなか、経済の状況も必ずしも強いとはいえない」、佐藤委員は「経済・物価情勢が大きく加速している状態にあるわけではない」として据え置きが望ましいとしました。
| 項目 | 9月18日の決定 | 読み方 |
|---|---|---|
| 政策金利(無担保コールレート) | 1.25%程度(1.0%程度から+0.25) | 2025年1月0.5%、12月0.75%、2026年6月1.0%に続く4回目。9月24日から |
| 票 | 賛成7・反対2(浅田委員・佐藤委員) | 6月は賛成7反対1、2025年12月は全員一致。反対は据え置き側で、利上げが早すぎるという反対 |
| 基準貸付利率 | 1.5% | 日銀が金融機関に貸すときの上限側の金利。短プラの目安ではない |
| 物価の現状 | 消費者物価(除く生鮮食品)は「足もとでは1%台後半」 | 2%を下回っているのに上げた。理由は次の行 |
| 物価の見通し | 「2026年度後半以降、2%をはっきりと上回る水準まで伸び率を高めていく」 | AI関連需要に伴う半導体価格の上昇と円安が耐久財の価格上昇につながる、と書いている |
| 今後の方針 | 「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」 | 時期とペースは「見通しが実現する確度やリスクを点検しながら」。次の会合は10月29・30日 |
| 景気の中の住宅 | 「住宅投資は減少傾向にある」 | 設備投資は増加、個人消費は底堅い、の中で住宅だけ減少。住宅の減少の理由は書かれていない(設備投資には「建設コスト上昇の影響」とある) |
| 金融機関の姿勢 | 「金融機関の貸出態度も引き続き積極的」 | 借りにくくなったのではなく、借りる金利が上がった。アパートローンの審査が締まったとは書いていない |
管理会社が押さえるのは、上の表の「今後の方針」の行です。6月の声明にも似た表現はありましたが、今回は「基調的な物価上昇率が2%を超えて上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう」という理由が加わりました。物価が目標を下回っている今の時点で上げたのは、先で超えるのを抑えるためです。次の会合は10月29・30日で、そこで上げるかどうかは声明に書いてありませんが、「引き続き」の文言を読む限り、オーナーに「これで打ち止めです」と言える材料は資料にありません。
「中立金利の下限を超えた」の意味|日銀レビューの▲0.9〜+0.5%に2%を足す
報道で「中立金利の下限を超えた」と書かれているのは、日銀が2026年3月に出した日銀レビュー「自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価」が根拠です。自然利子率は、経済と物価に対して緩和的にも引き締め的にも働かない実質金利の水準で、日銀は6つのモデルで推計し、2025年7〜9月期の値を▲0.9%程度〜+0.5%程度と示しました。同じレビューの注1に、実務では自然利子率に予想物価上昇率や目標インフレ率を足した名目の「中立金利」で議論されることが多い、とあります。物価目標の2%を足すと1.1〜2.5%程度で、この1.1〜2.5%という数字はレビューの本文には無く、本稿が2%を足した値です。
1.25%はこの幅の下限1.1%を超えていますが、上限の2.5%までは1.25ポイントあります。レビュー自身が「推計値には相当なばらつきがある」「かなりの幅をもってみる必要がある」と繰り返し書いており、日銀は幅の中のどこで止まるかを決めていません。声明文にも「政策金利の変更後も、緩和的な金融環境は維持される」とあります。つまり、オーナーに言えるのは「下限を超えたので終わり」でも「上限まで上がる」でもなく、「日銀が緩和的と呼ぶ範囲の中で、まだ上げ幅が残っている」です。
同じレビューに、管理会社がそのまま使える一文があります。「中小企業や有利子負債の大きい業種では、利上げの影響が早期かつ大きめに出やすい」。アパートローンで建てた賃貸経営は、有利子負債の大きい事業そのものです。
政策金利から返済額まで|短プラは過去3回とも38〜48日後に動いた
政策金利が上がっても、オーナーの返済額がその日に変わるわけではありません。間に短期プライムレート(短プラ)があり、その改定日が銀行ごとに違い、さらに商品ごとに基準金利の見直し日と返済額への反映日があります。日銀が公表している主要行の短プラ(最頻値)と、直近4回の利上げ日を並べると、間隔がほぼ揃っています。
| 利上げの決定日(政策金利) | 短プラの改定日(最頻値) | 間隔 |
|---|---|---|
| 2025年1月24日(0.5%) | 2025年3月3日(1.625%→1.875%) | 38日 |
| 2025年12月19日(0.75%) | 2026年2月2日(1.875%→2.125%) | 45日 |
| 2026年6月16日(1.0%) | 2026年8月3日(2.125%→2.375%) | 48日 |
| 2026年9月18日(1.25%) | 未定(同じ間隔なら10月26日〜11月5日) | — |
3回とも利上げ幅と同じ0.25%だけ短プラが上がり、間隔は38〜48日でした。同じなら次は10月末から11月上旬に2.375%が2.625%になります。これは本稿が過去3回から推し量った目安で、銀行が決めることです。ただ、オーナーに「いつ上がるのか」と聞かれて「銀行次第です」と答えるより、「過去3回は5〜7週間後でした。11月上旬までに通知が来る前提で準備しましょう」と言うほうが、次の行動につながります。
長期の側はもう動いています。長期プライムレートは2025年12月10日に2.60%、2026年6月10日に3.15%、9月10日には3.40%です。住宅金融支援機構のフラット35は2026年9月資金受取分で最も多い金利が3.460%(融資率9割以下)、3.570%(9割超)、フラット20で3.140%。固定はすでに3%台半ばで、変動が2%台のうちに固定へ替えると、その日から返済額が上がります。これは後の章で扱います。
住宅ローンとアパートローンは動き方が違う
住宅ローンの変動金利|年2回の見直しと、返済額はさらに後
多くの銀行の住宅ローン変動金利は、短プラを基準にした店頭金利を年2回(4月1日と10月1日が多い)見直し、返済額への反映はそこからさらに数か月後です。しかも5年ごとにしか返済額を変えない、変えるときも前の1.25倍までという運用の商品が多く、上がった分は先に利息に食われて元金の減りが遅くなる形で現れます。短プラが11月に動くと10月1日の見直しには間に合わないので、多くの商品では2027年4月1日の見直し、返済額は2027年夏以降という時間差になります。ここは8月の記事「金利上昇2026|買主の借入可能額と価格改定の実務」で4段の時間差として整理しました。
アパートローン|契約ごとに違う。契約書の「金利の見直し」を読む
オーナーが賃貸物件を建てたり買ったりしたときのアパートローン(事業性の不動産融資)は、住宅ローンのような横並びの運用がありません。短プラに一定の幅を足した金利で、短プラが変わった翌月の約定日から適用が変わる契約、半年ごとに見直す契約、見直しはするが返済額は据え置いて期間を延ばす契約、返済額の上限規定が無い契約、さまざまです。住宅ローンの「5年ルール」「125%ルール」がある前提でアパートローンを説明すると外れます。管理会社が最初にやるのは、オーナーの金銭消費貸借契約書か返済予定表の「利率」「利率の変更」「返済額の変更」の条項を写すことです。金融機関名と借入年だけで想像で答えないでください。
固定期間が終わる借入は、変動より先に動く
もうひとつ見落としやすいのが、当初10年固定のような「固定期間選択型」で、固定期間が2026年度から2027年度に終わる借入です。固定期間が終わると、その時点の店頭金利で変動か再固定を選ぶことになり、10年前の固定金利と比べて上がり幅がそのまま返済額に出ます。短プラの改定を待たずに、期限が来た月に動きます。管理オーナーの借入一覧に「固定期間の終了年月」の列が無ければ、今週足してください。
0.25%は1戸あたり月いくらか|借入1億円・10戸の試算
0.25%という数字はそのままではオーナーに響きません。返済額の増分を月額に直し、さらに戸数で割ります。元利均等・月払いの返済額を、金利が0.25%上がった場合と、2025年1月の利上げ前から今回までの4回分にあたる1.0%上がった場合とで、本稿が計算しました。
| 借入の条件 | 金利 | 月の返済額 | 増える額(月) | 10戸なら1戸あたり(月) |
|---|---|---|---|---|
| 1億円・残25年 | 2.0%→2.25% | 423,854円→436,131円 | 12,276円(年147,316円) | 1,228円 |
| 1億円・残25年 | 1.5%→2.5%(+1.0) | 399,936円→448,617円 | 48,681円(年584,172円) | 4,868円 |
| 1億円・残20年 | 2.0%→2.25% | 505,883円→517,808円 | 11,925円 | 1,193円 |
| 5,000万円・残25年 | 2.0%→2.25% | 211,927円→218,065円 | 6,138円 | 614円(10戸)/1,535円(4戸) |
| 3,000万円・残35年(区分1戸) | 2.0%→2.25% | 99,379円→103,271円 | 3,892円 | 3,892円(1戸) |
ここで注意が一つあります。1億円で0.25%上がると初年度の利息は約25万円(月約2万円)増えますが、上の表の返済額の増分は月12,276円です。差の約8,500円は、返済額の中の元金の割合が減った分、つまり元金の減りが遅くなった分です。返済額だけを見て「月1.2万円で済む」と説明すると、利息の増分を半分しか伝えていません。返済予定表の残高の列が前と比べてどれだけ減らなくなったかまで、一緒に見せてください。
1戸あたり月1,228円という数字は、家賃の側と並べると意味が出ます。前の記事「分譲マンション賃料2026年8月|募集1割高・継続0.7%」で、住んでいる人の家賃はこの1年で0.7%程度しか動いていないと書きました。家賃10万円なら700円です。今回の0.25%だけで1戸あたり月1,228円、4回分の1.0%で4,868円ですから、継続家賃の伸びは借入金利の上昇に追いついていません。この差をオーナーに見せるのが、収支表を作り直す理由です。
家賃に転嫁できるか|借地借家法32条に「貸主の借入金利」は無い
「金利が上がったから家賃を上げたい」という相談は、これから増えます。借地借家法32条1項は、建物の借賃が「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」に、当事者が将来に向かって増減を請求できると定めています。事由は三つで、貸主の借入金利は条文のどこにも出てきません。租税その他の負担は土地や建物にかかるもの、経済事情の変動は土地や建物の価格に代表されるもので、貸主がいくらで借りているかは貸主の側の事情です。
したがって、増額を求めるなら根拠は「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当」に置きます。そのために要るのは、同じ築年・同じ面積の募集事例と成約事例で、金利の話ではありません。手順は「賃料増額請求の実務」で書いたとおりで、同条2項により、協議が調わないうちは借主は相当と認める額を払えば足り、裁判が確定して不足があれば年1割の利息を付けて払うことになります。金利上昇は増額の動機にはなっても、通知書に書く理由にはしないでください。書くと、借主側から「それは貸主の事情です」と正しく返されます。
固定に替える相談|長プラ3.40%・フラット35 3.46%を並べて答える
「今のうちに固定にしたほうがいいか」という相談には、変動の今の金利、固定に替えた場合の金利、上の章の時間差の三つを一枚に並べて答えます。長期プライムレートは9月10日に3.40%、フラット35の9月の最頻金利は3.460%です。変動が2%台前半のオーナーが今固定に替えると、替えた月から1%以上高い返済が始まります。0.25%ずつ4回上がってようやく同じ水準です。一方で、日銀は「引き続き引き上げ」と書き、中立金利の上限までは1.25ポイントの幅があります。どちらが得かは金利の先行きで決まり、資料には答えがありません。管理会社が言えるのは「固定に替えると来月からいくら」「変動のままなら11月の短プラ改定後にいくら、さらに0.25%上がればいくら」の三つの数字で、選ぶのはオーナーです。借換えには手数料と登記費用もかかるので、その金額も同じ紙に書きます。
オーナーに説明するときの言い方(雛形)
利上げの翌週にオーナーへ送る文面です。「上がります」で終わらせず、いつ・いくら・何を一緒にやるかまで書きます。
日本銀行が9月18日に政策金利を1.25%へ引き上げました。適用は9月24日からで、声明文には「引き続き政策金利を引き上げる」と書かれています。過去3回の利上げでは、5〜7週間後に銀行の短期プライムレートが0.25%上がりましたので、今回も10月末から11月上旬に金融機関から金利変更のご案内が届く前提でご準備ください。
お預かりしている【物件名】のご返済は、【金融機関】の変動金利で残高【残高】・残り【年数】と伺っています。0.25%の上昇で月のご返済は【現在の返済額】から【改定後】へ約【増分】円、【戸数】戸で割ると1戸あたり月【戸あたり】円です。いまの入居者様の家賃はこの1年でほとんど動いていませんので、その差を次回の収支表に載せてお持ちします。あわせて、ご契約書の金利見直しの条項と、固定期間があればその終了時期を確認させてください。固定への借換えは、来月からの返済額と手数料を並べた表でご判断いただけるよう準備します。
【 】は借入ごとに埋めます。書いていないことが二つあります。「これで打ち止め」と「家賃を上げましょう」です。前者は資料に無く、後者は借地借家法32条の根拠にならないからです。
中小不動産会社が今週やる5つ
| やること | 具体的に | なぜ今週か |
|---|---|---|
| 1. 管理オーナーの借入を3つに仕分ける | 変動/固定(固定期間の終了年月つき)/無借入。金融機関名と残高、残年数を一覧にする | 短プラ改定の通知が来るのは10月末〜11月上旬。届いてから聞き取ると間に合わない |
| 2. 契約書の「金利の見直し」条項を写す | 見直しの基準(短プラ連動か)、見直し時期、返済額の変更時期、返済額の上限規定の有無 | アパートローンは商品ごとに違う。住宅ローンの5年ルールを前提に答えると外れる |
| 3. 0.25%と1.0%の2段で戸あたりの数字を出す | 本稿の表の式で、借入ごとに月の増分と1戸あたりの増分を計算し、収支表に列を足す | 「引き続き引き上げ」と書かれた以上、1回分だけの試算では足りない |
| 4. 固定への借換え相談の答え方を揃える | 変動の現在・固定に替えた場合・変動のまま0.25%上がった場合の3つの返済額と、借換え費用を1枚に | 担当者ごとに「固定がいい」「変動でいい」と答えが割れると、オーナーは会社を疑う |
| 5. 報告書に2行を足す | 次の章の2行。金利の事実と、戸あたりの数字 | 利上げの翌週に届く報告書に何も書いていないと、「知らないのか」と読まれる |
オーナー報告書に足す2行
今月の報告書に足すのは次の2行です。
1行目:「日本銀行は9月18日に政策金利を1.25%へ引き上げ(9月24日適用)、『引き続き引き上げる』方針を示しました。過去3回は5〜7週間後に短期プライムレートが0.25%上がっています。」
2行目:「本物件のご返済は0.25%の上昇で月約【増分】円、1戸あたり月【戸あたり】円の増加見込みです。契約書の金利見直し条項を確認のうえ、次回、金利上昇後の収支表をお持ちします。」
「金利が上がりました」だけの1行は、テレビと同じです。オーナーが管理会社に求めるのは、自分の物件の数字に直したものです。
この資料が言っていないこと
- 次の利上げの時期は書いていません。「引き続き」とあるだけで、10月の会合で上げるとも上げないとも書いていません。
- 短プラがいつ・いくら上がるかは日銀が決めることではありません。本稿の「10月末〜11月上旬」は過去3回の間隔から推し量った目安です。
- 「1.1〜2.5%」という中立金利の幅は日銀レビューの本文に無く、自然利子率の推計に2%を足した本稿の計算です。レビューは推計の不確実性を繰り返し強調しています。
- アパートローンの金利がいつ返済額に反映されるかは契約ごとに違います。本稿の試算は元利均等・月払いの計算式によるもので、実際の返済額は各契約の規定によります。
- 家賃が上がるかは書いていません。借地借家法32条の根拠は近傍同種の賃料で、金利は根拠になりません。
- 固定と変動のどちらが得かは資料に無く、本稿も答えていません。三つの数字を並べて、選ぶのはオーナーです。
よくある質問
Q1. 政策金利が上がった9月24日から、オーナーの返済額も上がりますか。
いいえ。9月24日から変わるのは銀行同士の翌日物の金利です。オーナーの借入は、短期プライムレートの改定(過去3回は38〜48日後)、契約ごとの金利見直し日、返済額の変更日を経て変わります。住宅ローンでは2027年の夏以降になる商品が多く、アパートローンは契約書次第です。
Q2. 0.25%なら大きな影響はないとオーナーに言ってよいですか。
金額に直してから言ってください。借入1億円・残25年なら月12,276円、10戸で1戸あたり月1,228円です。さらに初年度の利息は約25万円増え、返済額の増分より大きい分は元金の減りが遅くなる形で残ります。「大きくない」かどうかはオーナーが決めることです。
Q3. 金利上昇を理由に家賃の増額を通知できますか。
借地借家法32条1項の事由は、租税その他の負担の増減、価格その他の経済事情の変動、近傍同種の借賃との比較の三つで、貸主の借入金利は含まれていません。増額を求めるなら、同じ築年・面積の募集事例と成約事例で「近傍同種に比べて不相当」を示します。通知書に金利を理由として書かないでください。
Q4. 今のうちに固定へ借り換えるべきですか。
資料には答えがありません。長プラは3.40%、フラット35は3.46%で、変動が2%台のオーナーが固定に替えると来月から1%以上高い返済になります。一方、日銀は「引き続き引き上げ」と書いています。固定に替えた場合、変動のまま0.25%上がった場合、その先も上がった場合の返済額と借換え費用を1枚に並べ、オーナーに選んでもらいます。
Q5. 反対が2名いたのは、利上げが止まる兆しですか。
反対の2名はどちらも据え置きが望ましいという反対で、利上げが早すぎるという意見です。6月は反対1名、今回は2名に増えました。ただし賛成は7名で、声明文の方針は「引き続き引き上げ」です。反対が増えたことを「打ち止め」の根拠にするのは資料の読み過ぎです。
Q6. 日銀は今回、賃貸住宅について何か書いていますか。
別紙に「住宅投資は減少傾向にある」とあるだけで、賃貸住宅や家賃には触れていません。日銀レビューの「有利子負債の大きい業種では、利上げの影響が早期かつ大きめに出やすい」が、借入で建てた賃貸経営に最も近い記述です。
要点は四つです。1.25%は日銀が示した中立金利の幅の下限を超え、声明文に「引き続き引き上げ」と書かれたこと。短プラは過去3回とも38〜48日後に動いたこと。0.25%は借入1億円・10戸で1戸あたり月1,228円であること。家賃への転嫁は借地借家法32条の根拠にならないこと。6月の利上げ時の説明の型は「日銀利上げ2026|政策金利1.0%を賃貸オーナーへどう説明するか」、土地の側は「基準地価2026」をご覧ください。
出典(本文で参照している資料)
本稿の記述は、すべて2026年9月19日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。日銀の声明文と日銀レビューは全文を取得して読み、短期プライムレートの実施日と値は日銀のページから写しました。
| 本稿で使った内容 | 資料 |
|---|---|
| 無担保コールレート1.25%程度(賛成7反対2)、翌営業日9月24日から適用、補完当座預金制度の適用利率1.25%、基準貸付利率1.5%、「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」、「2%を超えて上振れていくリスク」、「政策金利の変更後も、緩和的な金融環境は維持される」、反対2名(浅田委員・佐藤委員)の理由、別紙の「足もとでは1%台後半」「住宅投資は減少傾向」「金融機関の貸出態度も引き続き積極的」「2026年度後半以降、2%をはっきりと上回る」 | 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日・PDF) |
| 短期プライムレート(主要行・最頻値)の実施日と値:2024年9月2日1.625%、2025年3月3日1.875%、2026年2月2日2.125%、2026年8月3日2.375%。長期プライムレート:2025年12月10日2.60%、2026年6月10日3.15%、2026年9月10日3.40% | 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移 2001年以降」(更新日2026年9月16日) |
| 自然利子率の推計値▲0.9%程度〜+0.5%程度(2025/3Q・6つのモデル)、2024年12月の多角的レビューでは▲1.0%〜+0.5%程度、注1「中立金利は…自然利子率に、予想物価上昇率や目標インフレ率を加えた名目ベースで議論されることが多い」、「推計値には相当なばらつきがある」「かなりの幅をもってみる必要がある」、「中小企業や有利子負債の大きい業種では、利上げの影響が早期かつ大きめに出やすい」、「預金、借入の両面から評価する必要がある」 | 日本銀行 日銀レビュー 2026-J-5「自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価」(2026年3月・PDF) |
| 2025年1月24日の利上げ(0.5%程度・賛成8反対1) | 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2025年1月24日) |
| 2025年12月19日の利上げ(0.75%程度・全員一致) | 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2025年12月19日) |
| 2026年6月16日の利上げ(1.0%程度・賛成7反対1) | 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年6月16日・PDF) |
| 2026年の金融政策決定会合の日程(9月17・18日、次回10月29・30日、12月17・18日) | 日本銀行「金融政策決定会合の運営」(2026年の開催日程) |
| フラット35の2026年9月資金受取分の借入金利:借入期間21〜35年・融資率9割以下は年3.460%〜5.690%で最も多い金利3.460%、9割超は3.570%、フラット20(20年以下・9割以下)3.140% | 住宅金融支援機構「金利情報」(2026年9月資金受取分) |
| 借地借家法32条1項(借賃増減請求権の三つの事由と、一定期間増額しない特約)、2項(協議が調わないときは相当と認める額の支払いで足りる、確定後の不足額に年1割の利息) | e-Gov法令検索 借地借家法(平成3年法律第90号)第32条 |
本稿の計算:元利均等・月払いの返済額(1億円・残25年で2.0%→2.25%は423,854円→436,131円、1.5%→2.5%は399,936円→448,617円、残20年は505,883円→517,808円、5,000万円・残25年は211,927円→218,065円、3,000万円・残35年は99,379円→103,271円)、戸あたりの月額、初年度の利息増約25万円、利上げから短プラ改定までの日数(38日・45日・48日)と「10月末〜11月上旬」の目安、自然利子率に2%を足した「1.1〜2.5%」は、資料の数値から本稿が計算・推し量ったものです。「管理会社の仕事は利上げの説明から利上げが続く前提の収支表に変わる」「借入金利は32条の根拠にならない」は本稿の読みです。住宅ローンの見直し時期(4月1日・10月1日)や5年ルール・125%ルールは多くの商品で採られている運用の説明で、個別の契約は各金融機関の規定によります。オーナー説明の雛形、今週やる5つ、報告書の2行は本稿の整理です。