賃貸管理 読了 23分

家賃は上げられるのか2026|物価高・修繕費高騰と地価上昇のなか、借地借家法32条による賃料増額請求の手順・調停前置・継続賃料を中小不動産の実務目線で整理

長く据え置いた家賃を、コスト上昇局面でどう見直すか——賃料増額請求は、通知一本で決まるものではありません。借地借家法32条の要件と、協議から調停・訴訟に至る手順、継続賃料の考え方を、中小不動産の実務目線で解説します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
家賃は上げられるのか2026|物価高・修繕費高騰と地価上昇のなか、借地借家法32条による賃料増額請求の手順・調停前置・継続賃料を中小不動産の実務目線で整理
目次

長いあいだ据え置いてきた家賃を、いまの物価やコストに合わせて見直せないか——2026年に入り、賃貸オーナーからこうした相談を受ける機会が、中小不動産や管理会社の現場で目に見えて増えています。資材や人件費の高騰で修繕費と管理コストは上がり続け、2026年7月1日に公表された路線価は全国平均で前年比2.9パーセントの上昇と、5年連続で上向きました。地価の上昇は、やがて固定資産税など公租公課の負担にも表れます。それでも家賃は、貸主の一存で自由に上げられるわけではありません。建物の賃料の増減には借地借家法32条という枠組みがあり、通知一本で決まるものではないからです。本記事は、ウルスタ代表として宅地建物取引業を営む立場から、賃料増額請求の考え方と、中小不動産・管理会社が現場で踏むべき手順を、宅地建物取引士の目線で整理します。

なぜいま「家賃の増額」が現実の相談になっているのか

この十数年、住宅の家賃はおおむね横ばい、あるいは緩やかに下がる局面が続いてきました。人口が減り、空室を埋めることが最優先だった時代には、家賃を上げるという発想そのものが現場にほとんどありませんでした。ところが2026年のいま、風向きははっきり変わっています。修繕に使う資材の価格、職人の人件費、清掃や設備管理の委託費、火災保険料、そして光熱費までが軒並み上がり、同じ家賃で同じ品質の管理を続けることが難しくなってきました。オーナーの手取りは、家賃が同じでもコストの上昇分だけ確実に目減りしています。

そこへ地価の上昇が重なります。2026年7月1日に公表された路線価は全国平均で前年比2.9パーセント上昇し、5年連続の上昇となりました。都市部では上げ幅がさらに大きく、地価が上がれば固定資産税や都市計画税といった公租公課の負担も、時間差を置いて増えていきます。貸す側から見れば、負担は増えるのに家賃だけが据え置かれている状態です。こうした背景から、長く動かさなかった家賃を見直したいというオーナーの相談が増えています。ただし、その気持ちをそのまま通知書にして送るのは危うい。家賃の増減は、貸主借主どちらの一存でも完結しない仕組みになっているからです。

【要点】賃料増額請求をめぐる論点を一枚で

細部に入る前に、賃料増額請求という手続の全体像を俯瞰します。押さえるべき論点は、根拠となる法律の要件、特約の有無、支払と効力の関係、そして手続の順序の四つです。

論点内容実務の勘所
根拠と要件借地借家法32条により、租税負担の増減・経済事情の変動・近傍同種の賃料との比較で家賃が不相当になったとき、将来に向けて増減を請求できる主観ではなく客観的な事情で「不相当」を説明できるかが出発点
特約の扱い一定期間増額しない特約があれば増額請求はできない。減額しない特約は普通借家では効力が認められにくいまず契約書を読み、特約の有無と種類(普通借家か定期借家か)を確認する
支払と効力協議が調うまで、借主は自らが相当と認める額を支払えば足りる。裁判で増額が確定したら不足額に年1割の利息を付す増額を通知しても、確定までは差額が宙に浮く点を貸主に説明しておく
手続の順序いきなり訴訟はできず、まず協議、次に調停、それでも調わなければ訴訟という順を踏む訴えの前に調停を要する調停前置を前提に、時間軸を長く見込む

四つの論点は、ばらばらの知識ではなく一本の流れです。まず要件を客観的に満たしているかを確かめ、契約書の特約で入口がふさがっていないかを見て、支払と効力のずれをオーナーに理解してもらったうえで、協議から順に手続を進める。この順序を踏まないまま強い言葉で通知を送ると、賃借人との関係を壊し、かえって解決を遠ざけます。増額は勝ち負けではなく、据え置いてきた家賃を適正な水準へ戻すための、丁寧な合意形成の作業だと捉えるのが実務の勘所です。

借地借家法32条とは——「不相当」を決める三つの物差し

建物の家賃の増減は、借地借家法32条が根拠になります。条文は、建物の借賃が、土地建物に対する租税その他の負担の増減により、土地建物の価格の上昇や低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比べて不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって借賃の額の増減を請求できる、と定めています。つまり増額を求められる物差しは、公租公課の増減、経済事情の変動、近隣相場との比較という三つです。いずれも貸主の懐事情や主観ではなく、外から検証できる客観的な事情である点が重要です。

この三つの物差しは、いまの局面とよく噛み合います。地価上昇による固定資産税の増加は一つ目の租税負担の増減に、物価や建築費の上昇は二つ目の経済事情の変動に、周辺の募集賃料が上がっていれば三つ目の近傍同種の賃料との比較に、それぞれ当てはまり得ます。逆に言えば、これらを裏づける資料をそろえられなければ、増額の主張は説得力を持ちません。感覚的に「もう十年も上げていないから」ではなく、固定資産税の納税通知書、修繕費や管理委託費の推移、近隣の募集事例といった数字で、なぜ不相当なのかを語れる状態を作ることが第一歩になります。

「不増額特約」と「不減額特約」——特約で結論が変わる

増額請求を検討したら、まず賃貸借契約書の特約を確認します。借地借家法32条には但書があり、一定の期間は建物の借賃を増額しない旨の特約があるときは、その定めに従うとされています。つまり不増額特約が有効に結ばれていれば、その期間中は増額請求ができません。定期借家では賃料の改定に関する特約を置くことが多く、その内容によって増額の可否や方法が左右されます。契約書を読まずに増額の話を進めると、特約で入口がふさがっていることに後から気づく、という失敗が起きます。

ここで実務上重要なのが、増額と減額で特約の扱いが対称ではないという点です。一般に、普通借家では借主を保護する観点から、賃料を減額しないとする特約は借主に不利な範囲で効力が認められにくいと理解されています。他方で定期借家については、賃料の改定に関する特約が優先し、32条の適用が排除される場面があるとされます。増額しない特約は有効だが、普通借家で減額しない特約は通りにくい——この非対称を知らないと、貸主に有利だと思って結んだ特約が実は機能しない、という誤解が生じます。特約の効力の最終的な判断は、契約の文言と個別事情により、弁護士など専門家の領域です。まずは契約書に何が書いてあるかを正確に読み取ることが、私たちの出発点になります。

増額請求は「通知一本」では終わらない——相当と認める額と年1割

賃料増額請求は、法的には形成権と呼ばれ、請求の意思表示が相手に届いた時点で、客観的に相当な範囲で効力が生じるとされます。ここだけを見ると、通知を送れば翌月から家賃が上がるように思えます。しかし条文は続けて、増額に当事者が合意できないときの扱いを定めています。借地借家法32条2項によれば、増額について協議が調わないときは、借主は増額を正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と認める額の家賃を支払えば足ります。多くの場合、それは従来どおりの家賃です。

そのうえで、裁判で増額が認められた場合には、確定までに支払われていた額に不足があるとき、その不足額に年1割の割合による利息を付して支払うことになります。逆に、増額が認められなければ、貸主が受け取っていた超過分は利息を付して返す扱いになります。要するに、増額を通知しても、合意や確定までは差額が宙に浮いた状態が続くわけです。この構造をオーナーに説明しないまま「通知すれば上がります」と請け合ってしまうと、期待と現実のずれから不信を招きます。増額請求は、送って終わりの一手ではなく、そこから協議が始まる合図だと理解しておく必要があります。

手順の全体像——協議・調停・訴訟と「調停前置」

賃料増額の手続は、大きく協議、調停、訴訟という三段で進みます。最初はあくまで当事者間の協議です。なぜ増額が必要かを客観的な資料とともに示し、賃借人の理解を求めます。ここで合意できれば、覚書や新しい契約書で条件を確定させ、それ以上の手続は要りません。協議が調わなかったときに、初めて法的手続へ進みます。ただし、いきなり裁判を起こすことはできません。

賃料増減額の争いは、訴訟の前にまず調停を要する(調停前置)
賃料の増減額をめぐる争いは、訴えを提起する前に、まず民事調停の申立てをしなければならないとされています。これは調停前置と呼ばれ、話し合いによる解決の機会を先に置く趣旨です。調停では、調停委員を交えて双方の主張と資料を突き合わせ、折り合いを探ります。調停でも合意に至らなければ、訴訟へ進みます。訴訟では、継続中の契約の適正な家賃、すなわち継続賃料がいくらかが争点となり、不動産鑑定士による鑑定評価が重要な役割を果たします。協議から調停、訴訟へと進むほど時間も費用もかかるため、実務ではできる限り協議段階での合意を目指すのが基本です。手続の細部や見通しは、事案により弁護士に相談してください。

「継続賃料」と「新規賃料」は別物——鑑定の考え方

増額の議論でつまずきやすいのが、いま争っているのは継続中の契約の家賃だという点です。これを継続賃料と呼び、これから新たに募集する場合の新規賃料とは、評価の考え方が異なります。近隣で同じような部屋が高い家賃で募集されているからといって、その水準がそのまま既存の入居者への適正な家賃になるわけではありません。長く住んでいる方との契約には、これまでの経緯や合意の積み重ねがあり、そこを踏まえて適正額を求めるのが継続賃料の考え方です。

不動産鑑定の実務では、継続賃料を求める手法として、貸主と借主が本来分け合うべき差額に着目する差額配分法、投下資本に対する利回りから考える利回り法、従前の家賃を経済事情の変動に応じて修正するスライド法、類似の継続事例と比べる賃貸事例比較法などが用いられます。これらを組み合わせて相当な家賃を導くのは、宅地建物取引士ではなく不動産鑑定士の専門領域です。私たち中小不動産の役割は、鑑定そのものを行うことではなく、鑑定や交渉の土台となる客観的な事実を集め、貸主借主の双方に分かりやすく橋渡しすることにあります。継続賃料と新規賃料の違いを理解しておくだけでも、根拠のない過大な要求で交渉が壊れるのを防げます。

増額を切り出す前に——中小不動産が整える客観資料

増額の相談を受けたら、通知書の文面を考える前に、まず根拠となる資料をそろえます。柱になるのは、固定資産税と都市計画税の納税通知書です。数年分を並べれば、公租公課がどれだけ増えたかが一目で分かります。次に、修繕費や管理委託費、火災保険料、共用部の光熱費など、物件にかかるコストの推移をまとめます。さらに、周辺で募集されている同種同規模の部屋の家賃事例を集め、対象の家賃が相場に対してどの位置にあるかを示せるようにします。これらは、いずれも三つの物差しに対応する客観的な材料です。

資料がそろったら、いきなり内容証明を送るのではなく、まずは面談や手紙で、なぜ増額をお願いしたいのかを誠実に伝えるところから始めます。据え置いてきた期間、その間に増えた負担、周辺の状況を、数字を添えて丁寧に説明する。この順序を踏むだけで、賃借人の受け止め方は大きく変わります。強い言葉で権利を振りかざすより、事実を渡して納得を得るほうが、結果的に早く合意に至ります。そして、いつ誰にどんな資料を示し、どのようなやり取りをしたかを、必ず記録に残しておきます。後日の調停や訴訟になったとき、この記録が誠実に協議を尽くした証拠になります。

賃料改定の交渉は、物件ごとの履歴が残っているほど強くなる
ウルスタは、中小不動産会社の物件・オーナー・入居者・対応履歴を一元管理できる業務クラウドを提供しています。どの物件がいつからいくらの家賃で、直近の改定はいつ、修繕や管理費がどう推移し、オーナーや入居者とどんなやり取りをしてきたか。こうした履歴がひとつの画面に整っていれば、増額の相談を受けたときにすぐ根拠を組み立てられますし、担当者が代わっても交渉の経緯が途切れません。据え置きの理由も改定の根拠も、記録があってこそ説明できます。詳しくは https://ulsta.jp をご覧ください。

オーナーへの助言——「上げる」より「据え置きの理由を説明できる」状態に

オーナーに対して私たちが果たせる役割は、増額を煽ることではありません。むしろ、上げるべきか据え置くべきかを、事実に基づいて一緒に考えることです。増額には、家賃収入が増える利点の一方で、長く住んでくれている入居者との関係が揺らぐ、退去や空室のリスクが生じるといった側面もあります。とくに、いまの入居者が退去して次を募集した場合に、原状回復費や広告費、空室期間の逸失家賃まで含めて本当に手取りが増えるのかは、冷静に試算しておく必要があります。増額分より退去コストのほうが大きいなら、据え置いて長く住んでもらうほうが合理的なこともあります。

だからこそ、目標は必ずしも家賃を上げることではなく、なぜこの家賃なのかを説明できる状態を作ることに置きます。相場より低い家賃で据え置くにしても、それが長期入居への配慮という経営判断であると整理できていれば、オーナーは納得して選べます。逆に、増額を選ぶなら、客観的な根拠と丁寧な手順をそろえて臨む。どちらに転んでも、判断の材料と経緯が記録に残っていることが、オーナーの信頼につながります。値上げの提案そのものより、判断を支える情報の質で選ばれる——それが、コスト上昇局面での賃貸管理の実務です。

やってはいけない対応——自力救済と受領拒否

増額をめぐって、絶対に避けたい対応があります。まず、合意も確定もないうちに、貸主の判断だけで鍵を交換する、荷物を運び出す、電気や水道を止めるといった自力救済は、法律で厳しく禁じられています。家賃が思うように上がらないからといってこうした手段に出れば、貸主のほうが損害賠償などの責任を問われます。増額の主張が正しいかどうかと、実力行使が許されるかどうかは、まったく別の問題です。

次に、賃借人が従来どおりの家賃を支払ってきたとき、それを増額請求の妨げになると考えて受け取りを拒むのも得策ではありません。前述のとおり、協議や裁判で確定するまで、借主は相当と認める額を支払えば足りるとされています。貸主が受け取りを拒めば、賃借人は法務局へ供託することができ、支払は有効に済んだ扱いになります。従来額を受け取ったからといって、増額請求そのものが失われるわけでもありません。受け取りつつ、差額は協議や手続で確定させるのが筋です。感情的な対応や実力行使は、正当な増額の主張まで台無しにします。丁寧な協議と記録こそが、遠回りのようで最短の道です。

確認チェック七つ——賃料改定を丁寧に進めるために

賃料増額の相談を、流れに沿った七つの確認に落とし込みます。第一に、賃貸借契約書を読み、不増額特約の有無、普通借家か定期借家か、賃料改定に関する定めを確かめる。第二に、固定資産税と都市計画税の納税通知書を数年分そろえ、公租公課の増加を数字で示せるようにする。第三に、修繕費や管理費、保険料、光熱費などコストの推移を整理する。第四に、周辺の同種同規模の募集賃料を集め、対象の家賃の位置を把握する。第五に、増額した場合と据え置いた場合で、退去リスクや空室コストまで含めた手取りを試算する。第六に、内容証明の前に面談や手紙で誠実に協議し、その経緯を記録に残す。第七に、協議が調わない場合は、いきなり訴訟ではなく調停から進むことを前提に、時間軸と費用を見込む。家賃の適正額や手続の見通しなど個別の判断が必要な場面では、不動産鑑定士や弁護士への相談を前提に案内します。

現場メモ——「10年据え置いた家賃」をどう切り出したか

先日も、10年以上家賃を動かしていないという単身向けアパートについて、オーナーから増額を検討したいと相談を受けました。この10年で固定資産税は上がり、屋根や外壁の修繕にもまとまった費用がかかっていました。ただ、入居者はいずれも長く住んでくれている方ばかりです。私はまず、増額の通知を出す前に、退去が出た場合の原状回復と募集にかかる費用を一緒に試算しました。すると、数千円の増額分は、一度の退去で吹き飛ぶ規模だと分かりました。

そのうえで、全戸に一律で通知を送るのではなく、更新の時期に合わせて、固定資産税の納税通知書と近隣の家賃事例を示しながら、一件ずつ事情を説明してはどうかと提案しました。長く住んでくれていることへの感謝を伝えたうえで、負担が増えている現実を数字で渡す。結果として、多くの方が小幅な改定に納得してくださり、関係を保ったまま家賃を適正な水準へ近づけることができました。増額は、勝ち取るものではなく、説明して受け入れてもらうものだと、あらためて感じた一件でした。据え置きにも改定にも理由がある。その理由を数字で語れる会社が、これからのオーナーに選ばれます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 家賃は貸主の判断だけで自由に上げられますか。
いいえ。建物の家賃の増減は借地借家法32条の枠組みによります。租税負担の増減、経済事情の変動、近隣相場との比較で家賃が不相当になったときに、将来に向けて増額を請求できるにとどまり、貸主の一存で当然に上がるわけではありません。合意できないときは調停や訴訟を経ることになります。

Q2. 増額の通知を出したら、翌月から新しい家賃になりますか。
必ずしもそうはなりません。協議が調うまで、借主は自分が相当と認める額、多くは従来の家賃を支払えば足りるとされています。裁判で増額が確定した場合に、確定までの不足額へ年1割の利息を付して精算する扱いです。通知は交渉の出発点であり、確定までは差額が宙に浮くと理解してください。

Q3. 契約書に「家賃は増額しない」とあります。増額できますか。
一定の期間家賃を増額しない特約があるときは、その定めに従うとされ、原則として期間中の増額請求はできません。まず契約書の特約を確認してください。なお、減額しない特約は普通借家では効力が認められにくいとされ、増額と減額で扱いが対称でない点に注意が必要です。

Q4. いきなり裁判を起こして増額を認めてもらえますか。
賃料増減額の争いは、訴えの前にまず調停を申し立てる必要があるとされています。これを調停前置と呼びます。実務では、その前段としてまず当事者間の協議を尽くすのが通例です。協議、調停、訴訟の順に時間も費用もかかるため、できる限り協議段階での合意を目指します。

Q5. 近隣の募集家賃が上がっています。同じ水準まで上げられますか。
近隣の募集家賃は新規賃料であり、継続中の契約の適正額である継続賃料とは評価の考え方が異なります。募集相場は一つの参考にはなりますが、そのまま既存入居者の適正家賃になるわけではありません。継続賃料の算定は不動産鑑定士の専門領域で、複数の手法を組み合わせて求められます。

Q6. 増額に応じない入居者が従来の家賃を払い続けています。受け取るべきですか。
受け取って差し支えありません。確定までは相当と認める額を支払えば足りるとされ、従来額を受け取っても増額請求そのものは失われません。受け取りを拒むと、賃借人は供託でき、支払は有効に済んだ扱いになります。従来額を受け取りつつ、差額は協議や手続で確定させるのが基本です。

Q7. 中小不動産や管理会社は、どこまで関与できますか。
私たちが担えるのは、契約書の確認、公租公課や相場などの客観資料の整理、オーナーへの選択肢の提示、誠実な協議と記録の支援です。家賃の適正額の鑑定や訴訟の代理は、不動産鑑定士や弁護士の領域です。役割の線を引き、専門家と連携しながら、事実の橋渡しに徹することが信頼につながります。

まとめ:家賃改定は「交渉」ではなく「説明」から始まる

物価と修繕費の高騰、そして2026年の地価上昇が重なり、長く据え置いてきた家賃を見直したいというオーナーの相談は、これから確実に増えていきます。けれど、家賃は貸主の一存で上げられるものではなく、借地借家法32条という枠組みのなかで、客観的な根拠と丁寧な手順を積み上げて初めて動くものです。増額を通知一本で押し切ろうとすれば、賃借人との関係を壊し、かえって解決を遠ざけます。まず契約書の特約を確かめ、固定資産税や相場などの資料をそろえ、据え置いた場合の合理性まで含めて考える。そのうえで、面談や手紙で誠実に事情を説明し、経緯を記録に残す。判断が難しい局面では、不動産鑑定士や弁護士と連携する。増額は勝ち取るものではなく、説明して受け入れてもらうものです。まずは自社が管理する物件の台帳に、現行家賃、直近の改定時期、固定資産税と修繕費の推移という数行を加え、いつでも根拠を語れる状態を整えるところから始めてみてください。

著者: 馬場生悦(宅地建物取引士)。ウルスタ代表。中小不動産会社向けの実務メディアを運営する傍ら、自社で宅地建物取引業を営み、賃貸住宅の管理・客付けおよび戸建て・区分マンションを含む売買仲介と、オーナー・入居者の相談に携わる。本記事は、建物の賃料の増減に関する借地借家法32条の枠組みと、賃料増額請求をめぐる手続について、2026年7月時点の公開情報と自社での実務経験に基づき整理したものである。継続賃料の鑑定評価、特約の効力、調停や訴訟の見通しなど個別の法的判断は、不動産鑑定士・弁護士などの専門家にご確認いただきたい。本記事は特定の増額や減額を勧めるものではなく、判断の材料を整理することを目的としている。

参考: 借地借家法第32条——建物の借賃の増減請求権、増額請求時の支払と確定後の年1割の利息に関する規定 / 民事調停法——賃料増減額請求に関する訴えの調停前置に関する規定 / 借地借家法第38条——定期建物賃貸借と賃料改定特約に関する規定 / 国土交通省・国税庁——2026年分路線価の公表および地価動向に関する公表資料 / 不動産鑑定評価基準——継続賃料を求める手法(差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法)に関する解説 / いずれも2026年7月時点の公開情報および自社の不動産実務をもとに整理