国税庁は2026年7月1日に令和8年分の路線価を公表しました。2026年1月1日から12月31日までの相続・贈与の土地評価にはこの路線価を使うので、賃貸オーナーは公表された路線価で手元の物件の評価を一度計算し直し、貸家建付地の評価や小規模宅地等の特例の要件を確かめておくことが準備の中心になります。この記事では、国税庁と総務省の公表資料で確かめた内容だけを使い、路線価・固定資産税評価額の違い、賃貸物件の評価の計算方法、不動産会社がオーナーと一緒に整える資料を整理します。
令和8年分の路線価の公表
国税庁の「令和8年分の路線価等について」によると、令和8年分の路線価等は2026年7月1日に公表されました。路線価は、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格等をもとにした価格の80%程度を目途に評価されています。国税庁の財産評価基準書のページでは、この基準は2026年1月1日から12月31日までの間に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に適用すると説明されています。
国税庁が同時に公表した「令和8年分都道府県庁所在都市の最高路線価」から、いくつかの都市を抜き出します。単位は1㎡当たりの千円です。
| 都市 | 最高路線価の所在地 | 令和8年分 | 令和7年分 | 対前年変動率 |
|---|---|---|---|---|
| 東京 | 中央区銀座5丁目 銀座中央通り | 53,360 | 48,080 | 11.0% |
| 大阪 | 北区角田町 御堂筋 | 21,200 | 20,880 | 1.5% |
| 名古屋 | 中村区名駅1丁目 名駅通り | 13,040 | 12,880 | 1.2% |
| 福岡 | 中央区天神2丁目 渡辺通り | 9,920 | 9,680 | 2.5% |
| 仙台 | 青葉区中央1丁目 青葉通り | 3,740 | 3,700 | 1.1% |
| 福島 | 栄町 福島駅前通り | 205 | 200 | 2.5% |
最高路線価は各都市で最も高い1地点の値です。オーナーの物件がある場所の路線価は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、物件の前面の道路ごとに確かめます。都心の上がり方が、そのまま郊外や地方の物件に当てはまるわけではありません。
路線価と固定資産税評価額の違い
オーナーからは「固定資産税の評価額と路線価はどう違うのか」という質問がよく出ます。国税庁と総務省の資料をもとに整理します。
| 項目 | 路線価(相続税・贈与税) | 固定資産税評価額 |
|---|---|---|
| 使う税金 | 相続税・贈与税の土地評価 | 固定資産税など |
| 決める機関 | 国税庁(国税局) | 市町村 |
| 評価の水準 | 地価公示価格等をもとにした価格の80%程度が目途 | 宅地は地価公示価格等の7割が目途 |
| 見直しの頻度 | 毎年(1月1日時点。令和8年分は7月1日公表) | 3年ごとに評価替え。それ以外の年度は原則据置き |
| 家屋の扱い | 相続税では家屋は固定資産税評価額をもとに評価 | 家屋も評価替えの対象 |
総務省の通知「令和9年度固定資産の評価替えに関する留意事項について」では、令和9年度の評価替えの価格調査基準日は2026年(令和8年)1月1日とされています。令和8年分の路線価と同じ時点の地価が、次の固定資産税の評価替えにも反映される流れです。路線価が上がった地域では、2027年度の固定資産税の評価額の動きにも注意が必要です。
なお、路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に、財産評価基準書の評価倍率表で示された倍率を掛けて土地を評価する倍率方式が使われます。どちらの方式かは、財産評価基準書で確かめます。
賃貸物件の評価のしくみ
貸家建付地(アパート・マンションの敷地)
国税庁のタックスアンサー「No.4614 貸家建付地の評価」では、貸家建付地の価額を次の式で求めます。
貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合
借地権割合は路線価図に記号で示され、Aが90%、Bが80%、Cが70%、Dが60%、Eが50%、Fが40%、Gが30%です。借家権割合は財産評価基準書で確かめます。国税庁の確定申告書等作成コーナーの説明では、令和6年分の借家権割合は全ての都道府県で30%と定められています。最新の年分は財産評価基準書で確かめてください。
貸家(建物)
財産評価基本通達89では、家屋は固定資産税評価額に定められた倍率を掛けて評価します。貸家は通達93で、家屋の価額から「家屋の価額 × 借家権割合 × 賃貸割合」を差し引いて評価します。
賃貸割合と一時的な空室
賃貸割合は、建物の各独立部分の床面積の合計のうち、課税時期(相続の時点など)に賃貸されている部分の床面積の割合です。空室が多いと賃貸割合が下がり、評価額は上がります。
ただし、国税庁のNo.4614では、次の条件をすべて満たす一時的な空室は、賃貸されているものとして扱えると説明されています。課税時期の前から継続的に賃貸されてきたこと、退去後速やかに新しい入居者の募集が行われ、空室の間ほかの用途に使っていないこと、空室の期間が課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的であること、課税時期の後の賃貸が一時的なものでないことの4つです。ここで効いてくるのが、入居と退去の日付、募集を始めた日などの記録です。
仮の数字で計算例を示します
以下はすべて仮の数字です。路線価と面積から求めた自用地としての価額が1億円、借地権割合60%(D)、借家権割合30%、建物の固定資産税評価額が5,000万円のアパートを考えます。
| 前提 | 土地(貸家建付地) | 建物(貸家) |
|---|---|---|
| 賃貸割合100% | 1億円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 1.0)= 8,200万円 | 5,000万円 ×(1 − 0.3 × 1.0)= 3,500万円 |
| 賃貸割合80% | 1億円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 0.8)= 8,560万円 | 5,000万円 ×(1 − 0.3 × 0.8)= 3,800万円 |
同じ物件でも、相続の時点の空室の状況によって、土地と建物の評価額の合計がこの例では660万円変わります。空室がある場合に一時的な空室と認められるかどうかは、記録の有無が判断材料になります。
小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)
国税庁の「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」では、貸付事業用宅地等について、200㎡までの部分の評価額を50%減額できるとされています。主な要件は次のとおりです。
- 被相続人の貸付事業に使われていた宅地等の場合、その貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を行っていること。
- その宅地等を相続税の申告期限まで持ち続けていること。
- 相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使われた宅地等は原則として対象外です。ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の、その特定貸付事業に使われた宅地等は除かれます。
- 特定居住用宅地等や特定事業用等宅地等と一緒に使う場合は、限度面積の調整計算が必要です。
先ほどの仮の例で、敷地が400㎡、賃貸割合100%の貸家建付地評価が8,200万円だったとすると、200㎡分(4,100万円)の50%、つまり2,050万円が減額される計算になります。実際には、ほかの宅地との選び方や併用の調整で結果が変わるので、税理士に試算してもらいます。
あわせて確かめたい相続税のルール
- 基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人の数(国税庁 No.4152)。
- 申告と納付の期限:被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内(国税庁 No.4205)。
- 相続した不動産を売ったときの取得費の特例:相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合、その財産に対応する相続税額を取得費に加算できます(国税庁 No.3267)。
- 分譲マンションの評価:2024年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した居住用の区分所有財産は、評価乖離率をもとにした区分所有補正率を使って評価します(国税庁「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」)。
- 通達による評価が著しく不適当な場合:財産評価基本通達6では、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するとされています。評価額を下げることだけを目的にした取引は、この点も踏まえて慎重に考えます。
オーナーと一緒に整える資料と手順の例
ここからは、公表資料をもとにした手順の例です。税額の計算や申告の判断は税理士の領域なので、不動産会社は資料をそろえて正確な前提を渡す役割を担います。
手順1 物件の一覧をつくる
所在地、地積、建物の床面積、登記名義、固定資産税の課税明細書の評価額を物件ごとにまとめます。名義が亡くなった人のままの物件がないかもここで確かめます。
手順2 令和8年分の路線価で評価し直す
財産評価基準書で前面の路線価、借地権割合、路線価方式か倍率方式かを確かめ、前年との違いを一覧に書き込みます。
手順3 賃貸割合の記録をそろえる
建物ごとの各独立部分の床面積、入居中・空室の状況、空室の退去日と募集開始日を記録します。一時的な空室かどうかの判断材料になります。
手順4 小規模宅地等の特例の候補を整理する
いつから貸付事業に使っているか、相続人のうち誰が事業を引き継ぎ、申告期限まで持ち続ける予定かを聞き取ります。
手順5 税理士に試算を依頼する
手順1から4の資料を税理士に渡し、基礎控除や納税資金を含めた試算を依頼します。売却や組み換えを検討するときは、取得費の特例の期限や通達6の考え方も含めて相談します。
| 資料 | 使い道 | どこで確かめるか |
|---|---|---|
| 令和8年分の路線価・借地権割合 | 自用地としての価額、貸家建付地の計算 | 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」 |
| 固定資産税の課税明細書 | 建物の評価、倍率方式の土地の評価 | 市町村から届く納税通知書 |
| 各独立部分の床面積と入居状況 | 賃貸割合、一時的な空室の判断 | 賃貸借契約書、入退去と募集の記録 |
| 貸付事業の開始時期 | 小規模宅地等の特例の3年以内貸付の判定 | 賃貸借契約書、確定申告の資料 |
| 登記事項証明書 | 名義、相続登記の要否 | 法務局 |
ウルスタくんでは、物件・入居者の管理の中で部屋ごとの入居状況を記録でき、オーナーへの送金明細も残せます。賃貸割合や一時的な空室の判断に使う入退去の記録を、税理士に渡す資料の土台として使えます。
相続登記の期限は相続登記の義務化から2年の実務で、相続で空き家になった物件の管理は空き家の管理ビジネスの記事で整理しています。
よくある質問
Q1. 2026年に相続が起きたら、どの年の路線価を使いますか。
2026年1月1日から12月31日までの相続・遺贈・贈与には、令和8年分(2026年7月1日公表)の財産評価基準を使います。
Q2. 路線価は時価の何割くらいですか。
国税庁は、地価公示価格等をもとにした価格の80%程度を目途に評価していると説明しています。実際の取引価格との関係は物件ごとに違います。
Q3. 相続の時点で空室があると、評価は上がりますか。
賃貸割合が下がると、貸家建付地と貸家の評価額は上がります。ただし、退去後すぐに募集しているなど一時的な空室と認められる部分は、賃貸されているものとして扱えます。
Q4. 相続の直前にアパートを建てれば小規模宅地等の特例を使えますか。
相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使われた宅地等は、原則として貸付事業用宅地等の対象外です。3年を超えて特定貸付事業を行っていた場合の例外があるので、税理士に確かめてください。
出典(本文で参照している資料)
- 国税庁「令和8年分の路線価等について」
- 国税庁「令和8年分都道府県庁所在都市の最高路線価」
- 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」
- 国税庁「路線価図の説明」
- 国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」
- 国税庁「財産評価基本通達 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利」
- 国税庁「財産評価基本通達 第1章 総則」
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「借家権割合」
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
- 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
- 国税庁「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」
- 総務省「固定資産税の概要」
- 総務省「令和9年度固定資産の評価替えに関する留意事項について」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。