国土交通省の建築着工統計では、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の貸家の新設着工は308,906戸で前年度より13.5%減り、2026年の春の繁忙期は新しい賃貸住宅の供給が細った状態で迎えたことが確かめられます。一方、2026年4月以降の貸家着工は前年同月を上回る月が続いています。この記事では、公的な統計で確かめられることと確かめられないことを分け、次の繁忙期(2027年1〜3月)に向けて管理会社が秋から冬にかけてやっておく実務をまとめます。
繁忙期の振り返りは「公的統計」と「自社の記録」を分ける
繁忙期が終わると、「今年は部屋が足りなかった」「家賃が上がった」という声がよく聞かれます。ただ、こうした実感は地域や物件の種類によって大きく違います。オーナーに説明するときは、だれでも確かめられる公的な統計と、自社が管理する物件の募集記録とを分けて示すと、話の根拠がはっきりします。
この記事では、公的な統計として国土交通省の「建築着工統計調査報告」と総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を使います。募集賃料の相場や空室率については、この記事では数字を示しません。民間の調査会社がさまざまな指数を出していますが、調査の対象や方法がそれぞれ違うため、使う場合は出典と調査方法を明記したうえで、自社の記録とあわせて読む必要があります。
令和7年度の貸家着工は13.5%減
国土交通省が2026年4月30日に公表した「建築着工統計調査報告(令和7年度計)」によると、令和7年度の新設住宅着工戸数は711,171戸で、前年度より12.9%減りました。利用関係別に見ると、賃貸住宅にあたる「貸家」は308,906戸で13.5%減となり、前年度の増加から再び減少に転じています。
| 利用関係 | 令和7年度の戸数 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 新設住宅 合計 | 711,171戸 | 12.9%減 |
| 持家 | 195,111戸 | 12.6%減 |
| 貸家 | 308,906戸 | 13.5%減 |
| 分譲住宅 | 200,563戸 | 12.6%減 |
地域別に見ると首都圏の減り方は小さい
同じ報告で、貸家の着工を地域別に見ると、減り方には大きな差があります。
| 地域 | 令和7年度の貸家着工 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 首都圏 | 129,226戸 | 4.5%減 |
| 中部圏 | 28,082戸 | 11.6%減 |
| 近畿圏 | 57,114戸 | 13.7%減 |
| その他地域 | 94,484戸 | 23.6%減 |
首都圏の減少は4.5%にとどまる一方、三大都市圏以外の「その他地域」では23.6%減っています。地方で管理をしている会社にとっては、新築の競合物件が出にくくなっている可能性がある一方、同じ統計からは需要の強さまでは分かりません。自社のエリアについては、地域の数字と自社の募集記録をあわせて見る必要があります。
2026年の月次の動き|3月は大きく減り、4月以降は増加が続く
月次の報告を見ると、繁忙期の前後で動きが変わっています。
| 対象月 | 貸家の着工戸数 | 前年同月比 | 首都圏の貸家 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月 | 42,706戸 | 51.2%増 | 14,789戸(32.5%増) |
| 2026年3月 | 27,678戸 | 35.2%減(5か月連続の減少) | 11,458戸(22.5%減) |
| 2026年8月 | 28,309戸 | 6.5%増(5か月連続の増加) | 12,030戸(15.2%増) |
2026年3月の35.2%減は大きな数字ですが、比べる相手の2025年3月が前年同月比51.2%増と大きく伸びた月だったことに注意が必要です。前年同月比だけを見ると、減少の大きさを実際より強く受け取ってしまうおそれがあります。オーナーに説明するときは、戸数そのものと前年同月比の両方を示すのが公平です。
2026年8月分では、民間資金による貸家が25,667戸(3.5%増)、公的資金による貸家が2,642戸(47.7%増)で、貸家全体では4月から5か月連続の増加とされています。着工した住宅が完成して募集に出るまでには工事の期間があるため、着工の増加が次の繁忙期の供給にどこまで表れるかは、地域ごとに見ていく必要があります。
人の動き|東京圏の転入超過は縮小
総務省統計局が2026年2月3日に公表した「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」によると、2025年の市区町村間移動者数は519万548人、都道府県間移動者数は251万5731人でした。東京圏の転入超過数は12万3534人で、前年より1万2309人縮小しています。転入超過となったのは東京都など7都府県でした。
同じ報告では、国外からの転入者数が78万2165人、国外への転出者数が40万9592人とされています。外国人の入居申込が多い地域では、在留カードの確認など申込時の手順を整えておくことも、次の繁忙期の準備になります。
人口移動報告は年次のほか月次でも公表されています。自社のエリアの市区町村の転入・転出を毎年同じ時期に記録しておくと、繁忙期の反響の増減を説明する材料になります。
統計で言えないことは、自社の記録で確かめる
着工統計と人口移動報告から言えるのは、「新しい賃貸住宅の着工が減った」「東京圏への人の流入は続いているが縮小した」という大きな流れまでです。次のようなことは、これらの統計からは分かりません。
- 自社の管理エリアで募集賃料が上がったかどうか
- 空室期間が短くなったかどうか
- どの間取りや設備の部屋に申込が集まったか
これらは、自社の募集と成約の記録で確かめるしかありません。振り返りのために、次の項目を物件ごとに残しておくと、オーナーへの説明に使えます。
| 記録する項目 | 何に使うか |
|---|---|
| 募集開始日と申込日、契約日 | 空室期間を物件ごとに比べる |
| 募集賃料と成約賃料、前の入居者の賃料 | 賃料の改定幅を説明する |
| 反響の数と経路(ポータル、自社サイト、業者間流通) | 次の繁忙期の募集方法を決める |
| 申込が入らなかった理由(内見後の声) | 設備の更新や条件の見直しを提案する |
| 退去の理由と予告の時期 | 退去が集中する時期を見込む |
次の繁忙期に向けて秋から冬にやること
更新の通知の時期を確かめる
借地借家法26条1項は、期間の定めがある建物賃貸借について、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に更新をしない旨などの通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなすと定めています。2027年春に満了する契約で条件の変更を考えている場合、通知の期限がすでに近づいている契約があるかもしれません。満了日の一覧で時期を確かめておきます。
賃料の見直しは借地借家法32条の要件にそって
借地借家法32条1項は、租税その他の負担の増減、土地や建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較で賃料が不相当となったときに、当事者が将来に向かって増減を請求できると定めています。既存の入居者の賃料を見直すときは、この要件にそった資料を用意し、合意で進めるのが基本です。手順は賃料増額請求の手順の記事で整理しています。新規の募集賃料は、前の入居者の賃料ではなく、周辺の募集事例と自社の成約記録から決めます。
原状回復の基準を先にそろえる
繁忙期の直前に退去が重なると、原状回復の見積もりと工事が募集開始を遅らせます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、原状回復を、賃借人の故意・過失や通常の使用を超える使用による損耗・毀損を復旧することと定義し、経年変化や通常損耗の修繕費は賃料に含まれるとしています。負担区分の考え方をオーナーと事前に確認しておくと、退去後の判断が早くなります。
保険や修繕の費用も見直しの材料にする
建物の維持にかかる費用は、募集条件やオーナーの収支に直結します。火災保険の更新時期が近い物件は、火災保険の料率改定の記事も参考に、補償の内容と保険料を棚卸ししておきます。
10月から3月までの準備の順番
次の繁忙期に向けた作業を、時期ごとに並べると次のようになります。月は目安で、管理している契約の満了月や地域の動きに合わせて前後させてください。
| 時期 | やること | 確かめるもの |
|---|---|---|
| 10月〜11月 | 春の募集の記録を物件ごとにまとめ、オーナーに振り返りを報告する | 募集・成約の記録、着工統計、人口移動報告 |
| 10月〜11月 | 2027年春に満了する契約の一覧を作り、条件変更の通知が必要な契約を洗い出す | 契約書、借地借家法26条1項の通知期間 |
| 11月〜12月 | 退去が見込まれる部屋の原状回復の負担区分と、設備の更新をオーナーと決めておく | 原状回復ガイドライン、修繕の見積もり |
| 12月〜1月 | 募集図面と写真を先に用意し、退去予告が来たらすぐ募集を始められるようにする | 解約予告の期間(契約書)、募集図面 |
| 1月〜3月 | 反響と申込の状況を週ごとに記録し、条件の見直しが必要な部屋を早めにオーナーへ相談する | 反響の数と経路、内見後の声 |
入居申込書の書式も、繁忙期に入る前に見直しておくと安心です。申込金の扱い、個人情報の同意欄、新しい在留カードに合わせた欄については入居申込書の作り方の記事で整理しています。
オーナーへの振り返り報告の組み立て
| 報告の段 | 内容 | 使う資料 |
|---|---|---|
| 全体の流れ | 貸家の着工が令和7年度に13.5%減ったこと、地域による差 | 国土交通省 建築着工統計調査報告 |
| エリアの人の動き | 都道府県や市区町村の転入・転出 | 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 |
| 物件の結果 | 空室期間、成約賃料、反響の経路 | 自社の募集・成約記録 |
| 次の繁忙期の提案 | 募集賃料、設備の更新、更新時の条件 | 自社の記録、借地借家法26条・32条、原状回復ガイドライン |
統計の数字と自社の記録を混ぜずに、段ごとに出典を書いておくと、オーナーが後で読み返したときにも根拠をたどれます。
ウルスタくんでは、物件・入居者の管理と更新が近い契約の一覧で満了日を確かめられ、募集図面(マイソク)の作成、業者間流通(ウルスタBB)、お部屋探しサイト(ヘヤスタ)への掲載もまとめて扱えます。募集から成約までの記録を同じ場所に残しておくと、次の振り返りに使えます。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 2026年の繁忙期は新築の賃貸住宅が少なかったのですか。
国土交通省の建築着工統計では、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の貸家の着工は308,906戸で、前年度より13.5%減りました。着工から完成までには工事期間があるため、着工の減少がいつの募集に表れるかは物件によって違います。
Q2. 首都圏も大きく減ったのですか。
令和7年度の首都圏の貸家着工は129,226戸で、前年度比4.5%減でした。三大都市圏以外の「その他地域」は23.6%減で、地域による差が大きくなっています。
Q3. 2026年3月の35.2%減はどう読めばよいですか。
比べる相手の2025年3月が前年同月比51.2%増と大きく伸びた月でした。前年同月比だけでなく、戸数そのものも合わせて見るのが適切です。
Q4. 家賃相場が上がったかどうかはどの統計で分かりますか。
この記事で使った着工統計と人口移動報告からは分かりません。自社の管理エリアの募集賃料と成約賃料の記録で確かめ、民間の指数を使う場合は出典と調査方法を明記します。
Q5. 次の繁忙期に向けて、まず何を確かめればよいですか。
2027年春に満了する契約の一覧と、更新しない旨や条件変更の通知の期限(借地借家法26条1項の期間満了1年前から6か月前まで)を確かめるところから始めると、後の作業が組み立てやすくなります。
Q6. 着工統計や人口移動報告は、どのくらいの頻度で見ればよいですか。
建築着工統計調査報告は毎月、年度の合計は年に1回公表されます。住民基本台帳人口移動報告も月次と年次の結果があります。繁忙期の振り返りでは年度や年の合計を使い、月次の数字は前年同月の水準とあわせて読むと、一時的な増減に振り回されにくくなります。
出典(本文で参照している資料)
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年度計)」2026年4月30日公表
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年3月分)」
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年8月分)」2026年9月30日公表
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年3月分)」
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
- 借地借家法(e-Gov法令検索)26条・32条
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。