オーナーが将来の大規模修繕に備えて自分の口座へ毎月お金を移しても、それは経費になりません。資金が自分の中を移動しただけで、支払という事実がないからです。ところが区分所有マンションの修繕積立金には、要件を満たせば支払った年の経費にできる道がある。この非対称を埋めるために作られたのが賃貸住宅修繕共済で、累計契約が2,000棟を超えました。公表されている数字だけで、輪郭と限界を測ります。
2,000棟という数字から始める
全国賃貸住宅新聞の2026年8月10日号1面に、賃貸住宅修繕共済の累計契約棟数が6月末時点で2,000棟を突破したと載りました。将来の工事費用にあたる契約高は114億円。国土交通大臣の認可が2021年10月ですから、4年半あまりでここまで来たことになります。
この種の記事はたいてい「普及が進んでいます」で終わります。ですが実務者が知りたいのは、オーナーに勧めていい制度なのか。勧めるとして何を言い、何を言わないのか。そして自社が代理店になる価値があるのか、です。
材料は共済組合の公表資料と加入データ、業界紙の報道、国税庁の質疑応答事例だけ。公表されていないことは、公表されていないと書きます。
【要点】オーナー提案に使う前に押さえる3点
| 押さえること | 根拠・数字 |
|---|---|
| 掛け捨てである。満期時も中途解約時も返戻金はない | 制度概要に「返戻金 なし(満期時および中途解約時)」と明記。修繕をしなければ戻らない |
| 拠出した額がそのまま請求できるわけではない | 契約事務手数料が初年度掛金の10%、システム利用料が毎年請求限度額の1%。年30万円を20年拠出する本稿試算では、請求限度額は累計拠出の約89.7% |
| 出口の実績が、まだ薄い | 3月末時点の工事実績は20件。6月末の契約2,000棟に対し約1.0%(時点は異なる)。支払フェーズの検証材料はまだ少ない |
自分で積み立てた金が、経費にならない理由
10年後に外壁塗装で800万円かかる。だから毎年80万円ずつ別口座に移す。行動としては正しい。ですが税務上、この80万円は経費になりません。自分の資産が、自分の別の資産に姿を変えただけで、支払う債務が生じていないからです。経費になるのは10年後、実際に施工会社へ払ったとき。しかもその工事が資本的支出と判定されれば、その年に落とすことすらできません。
| 局面 | キャッシュ | 経費 |
|---|---|---|
| 積立期間(10年) | 毎年80万円が出ていく | ゼロ |
| 工事の年 | 800万円が出ていく | 修繕費なら800万円/資本的支出なら減価償却で分割 |
| 工事の翌年以降 | 動かない | 資本的支出の場合のみ、償却が続く |
キャッシュは10年かけて平らに出ていくのに、経費は最後の1年に固まる。事業の実態と、申告の姿がずれます。
区分所有マンションには、例外の道がある
ところが、区分所有マンションの1室を貸しているオーナーには別の扱いがあります。国税庁の質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」で、結論は二段構えです。原則としては、実際に修繕が行われた年の必要経費。ただし次の4要件をすべて満たす場合には、支払った年の必要経費に算入して差し支えないとされています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること |
| 2 | 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと |
| 3 | 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他に流用できないものであること |
| 4 | 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること |
関係法令通達は所得税法第37条と所得税基本通達37-2。4要件に共通しているのは「その金が、もはや自分のものではなくなっているか」という一点です。支払義務がある。返ってこない。他に使えない。金額は裁量ではなく計画と持分で決まる。ここまで揃えば支払時点で手を離れたと見てよい、という整理です(マンションの修繕積立金と大規模修繕の記事)。
一棟オーナーだけが取り残される、という非対称
この4要件を、一棟のアパートを持つオーナーに当てはめてみます。
| 要件 | 区分所有オーナー | 一棟オーナーの自己積立 |
|---|---|---|
| 支払義務がある | 管理規約で負う | 誰に対しても負わない |
| 返還義務がない | 組合に返還義務なし | いつでも自分で引き出せる |
| 他に流用できない | 規約で修繕目的に限定 | 制約なし |
| 金額が合理的に算出 | 長期修繕計画と持分で決まる | 自分で決める |
4つとも成立しません。同じ建物を同じ目的で同じ額だけ備えているのに、区分所有なら経費になりうる金が、一棟所有だと経費にならない。所有形態の違いが、税負担を平準化できるかどうかを分けている。これが制度の出発点です。
共済という迂回路——制度の骨格
共済は自己積立と構造が違います。組合という他人に掛金を払い、対価として、劣化が生じたときに共済金の支払を受ける権利を得る。資産の付け替えではなく、役務に対する支払だから掛金は支払った年の経費になる、というのが制度の説明です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 認可 | 2021年10月(国土交通大臣)。運営は全国賃貸住宅修繕共済協同組合 |
| 加入対象 | 賃貸住宅オーナー(個人・法人いずれの名義も可) |
| 対象築年数 | 木造・軽量鉄骨造は築50年以内(51年に満たない)/RC造等は築60年以内(61年に満たない) |
| 共済期間 | 10年から50年の範囲で1年ごとに設定。累計50年の継続加入が可能 |
| 対象物件 | 賃貸住宅(戸建て含む)。店舗等併用は店舗部分が延床の50%以下に限る。社宅・学生寮・有料老人ホームも対象 |
| 補償対象部位 | 屋根、外壁、軒裏およびすべての共用部(外構含む)。解体工事(一部解体含む)も対象 |
| 掛金の払方 | 月払または年払の平準払いのみ。一括払い・複数年分の前納は不可 |
| 返戻金 | なし(満期時および中途解約時) |
| 契約者変更 | 可能。売却・相続等による名義人変更に伴い変更できる |
経理処理は、個人事業主なら青色決算書または収支内訳書(いずれも不動産所得用)の「損害保険料」、法人なら「保険料」として計上するよう案内されています。
普及の実数——2,000棟・114億円・工事20件
| 指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 累計契約棟数 | 2,000棟を突破 | 2026年6月末 |
| 契約高(将来の工事費用) | 114億円 | 2026年6月末 |
| 工事実績 | 20件 | 2026年3月末 |
| 登録共済代理店 | 約600社(うち税理士事務所43社) | 2026年7月末 |
| 代理店500社到達 | 500社 | 2024年11月13日 |
2つの公表値を突き合わせると、棟数が見える
組合は加入期間中の積立予定額の全棟平均が約520.7万円だと公表しています。業界紙が報じた契約高は114億円。出所は違いますが意味は近い。割ると114億円 ÷ 520.7万円 = 約2,189棟で、「2,000棟を突破」と整合します。
実務的な含意は別にあります。1棟あたりの積立予定額が約520万円という水準感です。構造別では木造(軽量鉄骨を含む)が約300.5万円、非木造が約748.8万円。差は448.3万円で、非木造は木造の約2.5倍を積む設計。外壁面積と足場の量を考えれば妥当な開きです。
工事実績20件を、どう読むか
ここが本稿でいちばん正直に書くべきところです。3月末時点の工事実績は20件。6月末の契約2,000棟に対して約1.0%。時点が3か月ずれるので厳密な率ではありませんが、桁は変わりません。
これを「使われていない制度だ」と読むのは早い。共済期間は10年から50年で、加入時の築年数は20年から30年が30.2%、10年以下が28.3%。まだ拠出のフェーズにいる契約が大半だという説明は自然です。
ただし実務者としてはこうも読みます。支払われた事例が20件しかない制度を勧めている。請求手続きの実際、査定の厳しさ、支払までの日数。運用の勘所は事例が積み上がって初めて分かる。これは欠陥ではなく若い制度に伴う不確実性です。説明では「出口の実績はまだ薄い」ことも同じ声量で伝える。それが後で効きます。
補償範囲は、3回広がっている
| 時期 | 改定内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 2023年から順次 | 補償対象を、外壁と屋根裏・軒裏のみからすべての共用部へ拡大 | 外階段、廊下、手すり、外構まで入る。木造アパートで実際に傷むのは鉄部と外階段なので効く |
| 2025年 | 老朽化した物件の解体費用を共済金の支払対象に追加 | 直すか壊すかを、加入後に選べるようになった |
| 2026年3月 | 請求上限を改正。従来は1年単位の区切りで、契約から2年半でも請求できるのは2年分のみ。新ルールでは直近の掛金支払分は全額請求できる | 契約応当日を待たずに済む。台風被害のように時期を選べない修繕で効く |
経営判断に最も効くのは2025年の解体費用の追加です。築40年超のアパートのオーナーの本音は、たいてい「直すべきか壊すべきか決めきれない」。解体が対象に入ったことで掛金を払い始める時点で出口を確定させなくてよくなりました。修繕にも解体にも使える資金として積み、10年後に判断する。意思決定が遅れがちな高齢オーナーの実態に合った設計です。
ただし、途中で取り壊して契約を終わらせる場合も返戻金はありません。解体費用として共済金を請求する形をとらないと拠出は回収できない。なお組合は水回りへの対象拡大を目指すとしていますが、方針の表明であって決定ではありません。
諸経費——初年度10%と、毎年1%
| 費目 | 料率 | 控除のタイミング |
|---|---|---|
| 契約事務手数料 | 初年度掛金額の10% | 初年度のみ |
| システム利用料 | 毎年、請求限度額の1% | 毎年 |
| 請求事務手数料 | 一定額(料率は非公表) | 加入後5年未満の共済金請求時のみ |
制度上、請求できる上限額は「掛金拠出額の累計から諸経費を引いた額」と定義されています。つまり払った額の全部が請求できるわけではない。ここを曖昧にしたまま「積立が経費になります」とだけ言うと、後で必ず揉めます。
20年拠出したとき、いくら請求できるか
料率が分かっているので概算はできます。以下は本稿が置いた仮定にもとづく試算で、組合の公表値ではありません。仮定は、年払で毎年30万円、共済金の請求なし、システム利用料は各年の掛金加算後の請求限度額に課される、の3つ。
| 拠出年数 | 累計拠出額 | 請求限度額(試算) | 累計拠出に対する比率 | 目減り額 |
|---|---|---|---|---|
| 10年 | 3,000,000円 | 約2,812,721円 | 約93.8% | 約187,279円 |
| 20年 | 6,000,000円 | 約5,383,627円 | 約89.7% | 約616,373円 |
| 30年 | 9,000,000円 | 約7,708,708円 | 約85.7% | 約1,291,292円 |
読めることが2つ。ひとつ、期間が長いほど比率は下がります。システム利用料が請求限度額の定率で毎年かかるため、残高が積み上がるほど控除の絶対額が増える。30年契約では拠出の1割強が手数料に消える。長ければ得ではありません。
ふたつ、それでも掛金は全額が経費になります。目減りするのは請求限度額であって経費算入額ではない。税務上の効果と回収額は別の軸です。
「経費になる」は「得をする」ではない
掛金が全額経費になるのは事実です。ですがそこから「節税になる」と言うのは、少なくとも二段階の飛躍があります。
| 言われがちなこと | 実際 |
|---|---|
| 掛金の分だけ税金が減る | 減るのは掛金に税率を掛けた額。限界税率30%なら30万円の掛金で減るのは約9万円。21万円は現金として出ていく |
| 払った金は修繕で返ってくる | 返るのは請求限度額まで、かつ所定の劣化が確認された工事に対してのみ |
| やめたくなったら解約すればいい | 中途解約でも返戻金はゼロ。それまでの拠出は戻らない |
| 余った分は満期で戻る | 余剰は更新後の契約に繰り越されるだけ。更新しなければ返戻はない |
正確には、この制度の税務上の効果は費用計上のタイミングを前に倒すことです。生涯の総税額を減らすものではない。そのうえで前倒しには価値があります。所得が毎年出ているオーナーにとって、費用が平らになることは資金計画そのもの。この効用を正しく説明できるかが提案の質を分けます(修繕費をオーナーに説明する記事)。
共済金の行き先と、資本的支出という論点
制度資料に、見落とされがちな一行があります。共済金の支払いは家主ではなく、工事施工業者に支払われます。現金で渡す形にすると修繕をせずに受け取る運用が生まれかねないため、工事の実施と支払を紐づけている。
| 影響 | 内容 |
|---|---|
| 資金繰り | 立て替えは原則不要だが、超える部分は自己負担。共済金だけで工事費が賄えるとは限らない |
| 施工業者の選定 | 請求の流れでは代理店が施工業者を紹介する形。付き合いのある業者を使えるかは事前確認事項 |
| 会計処理 | 共済金の受入と工事代金の支払をどう記帳するかは、顧問税理士の判断領域 |
3点目が重い。掛金の経理処理は明示されている一方、共済金を受け取った側の処理は公表資料に明示がありません。ここを管理会社が代わりに判断してはいけません。
さらに踏み込むと、大規模修繕は工事内容によっては資本的支出と判定され、耐用年数にわたって減価償却することになる。ところが共済では掛金は拠出した各年に全額費用となる。つまり本来なら長期に配分されたはずの支出が、掛金という形で前倒しに費用化されるという結果になりうる。制度の効果の核心であり、最も慎重に扱うべき部分です。本稿は税務判断を示しません。加入前に顧問税理士へ、掛金の処理と共済金受入時の処理をセットで確認してもらってください(修繕発注と建設業法の記事)。
誰が入っているのか——公表データで見る加入者像
| 指標 | 内訳 |
|---|---|
| 構造 | 木造51.7% / 鉄骨造12.3% / RC造36.0% |
| 加入時の築年数 | 20年から30年が30.2% / 10年以下が28.3% / 30年超が20.5% |
| 一棟あたりの部屋数 | 1から6部屋が39.9% / 12から23部屋が25.7% / 7から11部屋が20.3% / 24部屋以上が14.1% |
| 物件用途 | 住宅のみ86.9% / 店舗併用13.1% |
| 加入属性 | 個人事業主52.0% / 法人48.0% |
| 加入時の年齢 | 70代30.3% / 60代23.5% / 80代20.3%(全平均68.7歳) |
| 家主あたりの加入件数 | 3棟以上41.3% / 1棟38.0% / 2棟20.7% |
| 掛金の払方 | 年払56.7% / 月払43.3% |
1から11部屋の物件が60.2%。大規模なRC一棟ではなく、木造アパートや戸建てが主戦場です。中小の管理会社が抱えている物件像とよく重なります。加入時に大規模修繕の実施歴がある人は40.6%で、実施時期の平均は約5.5年前。一度払った人が次に備えている構図で、提案先の優先順位に直結します。年払は56.7%。組合は「年末・決算直前に加入される方は、ほぼ100%年払です」と注記しており、加入時期が決算対策と結びついていることを運営側も認識しています。
年齢構成も見ます。60代以上で74.1%、全平均68.7歳。加入時に70代なら、共済期間の途中で相続が発生する可能性が現実的にあります。制度上は契約者変更ができますが、問題はそれを相続人が知っているかです。引落口座、共済証書、代理店の連絡先が承継されなければ契約は宙に浮く。推定相続人にも制度の存在を伝えておくことを提案に含めてください(オーナーの判断能力低下と賃貸管理の記事)。
管理会社が代理店になる、ということ
この制度は代理店を通じてのみ加入します。代理店の役割は、公表されている契約と請求の流れから読み取れます。
| 局面 | 代理店の役割 |
|---|---|
| 加入時 | 家主へ重要事項の説明を行い、申込書類を受領して組合へ提出する |
| 毎年 | 加入1年経過後から年1回の定期検査を実施し、所定のチェックリストに該当する劣化を確認する |
| 修繕発生時 | 家主へ報告し、施工業者を紹介して見積を依頼する |
| 請求時 | 家主の共済金請求書を組合へ取り次ぎ、手続きをフォローする |
重要事項の説明を行う立場になる点は軽く見ないでください。返戻金がないこと、諸経費が控除されること、対象部位の範囲、加入後5年未満の請求には手数料がかかること。説明した記録がなければ、後から「聞いていない」と言われたときに立つ瀬がありません。また年1回の定期検査を全契約について回し続けられるかが、代理店になるかの実質的な分かれ目です。契約100棟なら年間100回の建物検査が固定業務になる。人が足りないまま手を挙げると検査が形骸化し、請求できるはずの共済金が請求されないまま満期を迎える。
競合構造も見ておきます。組合は2025年7月に税理士法人の代理店登録を開始し、2026年7月末時点で約600社の代理店のうち43社が税理士事務所、約7.2%です。絶対数は多くありませんが、方向ははっきりしています。
管理会社は建物の状態を知り定期検査を実施できる一方、税務の説明では踏み込めず、決算期の会話にも入っていない。税理士事務所はその逆で、決算対策の文脈から自然に切り出せるが、劣化診断や施工業者との接点は持たない。両者は補完関係にあります。顧問税理士と組んで提案するのが、中小の管理会社にとって現実的な形でしょう。逆に言えば管理会社が単独で税務メリットを語ることには危うさがあります。税理士法は税務相談を含む税理士業務を税理士以外が行うことを制限しています。「経費になります」という制度の説明と、「あなたの場合はこうすると有利です」という個別の判定は線が違う。この線を超えないでください。なお本共済は中小企業等協同組合が国土交通大臣の認可を受けて行うもので、保険業法上の保険募集とは別の枠組みです(保険業法改正と不動産会社の記事)。代理店の登録要件や手続きの詳細は公表資料から読み取れないため、組合へ直接確認してください。
年1回の定期検査が、修繕提案の入口になる
慎重な話が続いたので、前向きな面も。賃貸管理で最も難しいのは修繕の合意形成です。オーナーは「まだ大丈夫」と言い、こちらは「そろそろ危ない」と思う。この平行線が雨漏りまで続く。共済に入っていると構図が変わります。年1回、所定のチェックリストに沿って建物を見る工程が制度として組み込まれる。しかも劣化が確認されれば工事の資金はすでに積み上がっている。「お金がないから」という最大の反論が、あらかじめ潰れているわけです。
| 合意形成の壁 | 共済がない場合 | 共済がある場合 |
|---|---|---|
| 点検の機会 | 管理会社の任意。後回しになりやすい | 年1回の定期検査が制度上の工程になる |
| 劣化の判断 | 担当者の主観になりがち | 所定のチェックリストという共通の物差しがある |
| 資金 | 「今は出せない」で止まる | 請求限度額の範囲ですでに手当てされている |
| タイミング | 雨漏り等の事後対応になりやすい | 劣化の確認時点で検討が始まる |
税務メリットよりも、この「点検と資金がセットで先に決まっている」という効果のほうが管理会社にとっての価値は大きいかもしれません(築20年のサブリース賃料減額への対応の記事)。
オーナーに説明するとき、言ってはいけない5つ
| 言ってはいけない | 代わりに言うこと |
|---|---|
| 「節税になります」 | 「修繕費を、修繕の前の各年に分けて費用にできます。生涯の税額が減る仕組みではありません」 |
| 「払った分は戻ります」 | 「掛け捨てです。戻るのは、所定の劣化が確認された工事の費用としてだけです」 |
| 「途中でやめても大丈夫」 | 「中途解約でも返戻金はゼロです。共済期間は慎重に決めてください」 |
| 「そのうち水回りも対象になります」 | 「現在の対象は屋根・外壁・軒裏・共用部と解体工事です。拡大は方針であって決定ではありません」 |
| 「税務上こうすれば有利です」 | 「制度上はこういう扱いです。ご自身の申告への当てはめは顧問税理士にご確認ください」 |
5つ目が最も重要です。管理会社は制度を説明する立場であって、税務判断を代行する立場ではありません。この一線が、結局は自社を守ります。
加入前に確認する12項目
| 確認項目 | 確認先 |
|---|---|
| 1. 対象築年数に収まっているか(木造・軽鉄50年、RC等60年) | 登記簿・建築確認 |
| 2. 店舗等併用なら店舗部分が延床の50%以下か | 図面・登記簿 |
| 3. 共済期間を何年にするか(長いほど手数料の累計は増える) | オーナーと協議 |
| 4. 掛金の水準が長期修繕計画と整合しているか | 修繕計画・代理店 |
| 5. 掛金の経理処理(損害保険料・保険料)の了解 | 顧問税理士 |
| 6. 共済金受入時の処理を加入前に確認したか | 顧問税理士 |
| 7. 予定している工事が修繕費か資本的支出かの見立て | 顧問税理士 |
| 8. 返戻金がないことを書面で説明したか | 自社の記録 |
| 9. 諸経費(初年度10%・毎年1%)を書面で説明したか | 自社の記録 |
| 10. 付き合いのある施工業者を使えるか | 代理店・組合 |
| 11. 推定相続人に制度の存在を伝えたか | オーナー |
| 12. 年1回の定期検査を自社が回し切れるか | 自社の人員計画 |
よくある質問
Q. グレードアップ工事も対象になりますか。
A. なりません。制度資料に「本共済は修繕のみを対象とします」と明記されています。一方、共用部の修繕に必要な足場代・養生代は対象に含まれます。
Q. 築47年の木造でも入れますか。
A. 入れます。新規加入時は築50年以内という制限がありますが、更新時の築年数は問われません。共済期間は10年から選択でき、加入から50年の継続契約が可能とされています。
Q. 複数棟を持っている場合、まとめて1契約にできますか。
A. できません。契約は一棟ごとです。実際、家主あたりの加入件数は3棟以上が41.3%で、複数物件をそれぞれ契約する例が多いようです。
数字の出典と、書かなかったこと
| 項目 | 出典 |
|---|---|
| 累計契約2,000棟突破・契約高114億円・工事実績20件・代理店約600社・税理士事務所43社・2026年3月の請求上限改正・解体費用の追加 | 全国賃貸住宅新聞 2026年8月10日号1面「修繕共済、契約物件2000棟突破」 |
| 制度概要(認可時期・対象築年数・共済期間・補償対象部位・返戻金・掛金の払方・諸経費・請求の流れ)および加入データ | 全国賃貸住宅修繕共済協同組合の公表資料 |
| 修繕積立金の必要経費算入の4要件 | 国税庁 質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」(所得税法第37条、所得税基本通達37-2) |
| 代理店500社到達(2024年11月13日)・税理士法人の代理店登録開始(2025年7月) | 同組合のニュースリリース |
本稿で計算した派生値は次のとおりです。契約高114億円を全棟平均520.7万円で割った約2,189棟。工事実績20件を契約2,000棟で割った約1.0%(時点は3月末と6月末で異なります)。税理士事務所43社を代理店600社で割った約7.2%。60代以上の合計74.1%。非木造748.8万円を木造300.5万円で割った約2.5倍と、差の448.3万円。1から11部屋の合計60.2%。築20年以上の合計50.7%。
諸経費の試算は、年払30万円・共済金請求なし・システム利用料は掛金加算後の請求限度額に各年課される、という本稿が置いた仮定にもとづく概算です。控除の基準時点や計算方法は公表資料から特定できないため実額は異なります。
書かなかったことも明示します。掛金の料率表は公表資料から読み取れないため触れていません。共済金を受け取った年の会計処理も、税理士の判断領域なので示していません。加入すべきか否かの結論も出していません。物件ごとに修繕の意思と計画が違い、一般化すると誰かを誤らせるからです。書いたのは公表されている数字と、そこから機械的に導ける比だけ。制度が若いとは判断材料が少ないということで、そのときほど分かっていることと分かっていないことの線を引く作業が効きます。オーナーに勧めるなら、この線もいっしょに渡してください。
本稿は一般的な整理であり、個別の税務判断ではありません。加入の可否と会計処理は顧問税理士にご確認ください。賃貸管理と仲介の実務はウルスタのコラムで継続的に書いています。


