帝国データバンクと東京商工リサーチは2026年9月14日、不動産開発会社と関係会社の建築工事業者が8月31日に大阪地裁から破産手続開始決定を受けたと公表しました。2社合計の負債は約108億9,535万円、債権者は約138名で、大阪の不動産会社としては過去10年で最大の負債額です。設立は2021年9月。地主や不動産業者から土地を仕入れ、企画・開発してハウスメーカーなどに販売する会社で、千葉・大阪・東京に本店を置き、自社の物件ポータルも運営していました。2025年1月期の売上高は約15億7,600万円、翌2026年1月期は投資用不動産の売買で約67億2,600万円へ急拡大しましたが、借入は90億円近くに達し、販売が止まった時点で資金繰りが尽きています。本稿は、この会社の内側を推測する記事ではありません。中小の不動産会社が日常的に持っている「取引の相手」——土地を買ってくれる開発業者、仲介の相手方、賃貸人、管理会社、工事業者——のどれかが破産したとき、自分の立場では何がどうなるのかを、条文を実際に開いて確かめた記事です。
結論(90秒で読める)
- 2026年8月31日、不動産開発会社(2021年9月設立・資本金2,500万円)と関係会社の建築工事業者(2024年3月設立・資本金50万円)が大阪地裁から破産手続開始決定を受け、9月14日に信用調査会社2社が公表しました。負債は本体が約107億6,283万円(債権者約138名)、関係会社が約1億3,252万円(同約4名)、合計約108億9,535万円です。
- 売上高は2025年1月期に約15億7,600万円、2026年1月期に約67億2,600万円(本稿の計算で約4.3倍)。借入は90億円近くで、2025年1月期の売上の約5.7倍にあたります(本稿の計算)。投資用不動産の販売が想定どおり進まず、滞納していた税や社会保険料の支払いを求められて限界に達した、というのが両社の報告です。
- 取引の相手が破産すると、まだ決済していない売買契約や管理受託契約は、破産管財人が「解除するか履行するか」を選びます(破産法53条)。こちらから期限を切って返事を求めることはでき、返事が無ければ解除とみなされます(同条2項)。
- 賃貸人が破産しても、引渡しを受けている入居者の賃貸借は管財人に解除されません(借地借家法31条・破産法56条)。敷金は、管財人に賃料を払うときに敷金の額まで「寄託」を請求すれば守れます(破産法70条)。物件が売られれば、敷金の返還義務は買主が引き継ぎます(民法605条の2第4項)。
- 仲介手数料や売買代金の残金は、原則として一般の破産債権で、配当を待つ立場です。宅建業者どうしの取引は営業保証金・弁済業務保証金の還付対象になりません(宅建業法27条・64条の8)。税や社会保険料の滞納分は、一般の取引先より先に扱われます(破産法98条・148条)。
- 管理会社が今週やるのは、決済前の売買案件の相手の与信を「売上に対する借入」で見ること、預り金の分別管理を自社で月次確認すること、入居者向けの「賃貸人が変わっても敷金は引き継がれる」説明文を用意すること、工事は出来高払いにすること、公租公課の滞納・本店移転・支払サイト延長の3つを取引先の兆しとして見ることの5つです。
何が起きたか|2社・108億円・138名・4年11か月
信用調査会社2社の報告を突き合わせると、事実関係は次のとおりです。会社名は両社の公表資料に出ていますが、本稿は個別の会社を論じる記事ではないので、以下「本体」「関係会社」と呼びます。
| 項目 | 本体(不動産開発) | 関係会社(建築工事) |
|---|---|---|
| 設立 | 2021年9月(大阪市) | 2024年3月(成田市) |
| 資本金 | 2,500万円 | 50万円 |
| 事業 | 地主や不動産業者から土地を仕入れ、企画・開発してハウスメーカー等に販売。事業用物件・投資用不動産の売買。自社ポータルで物件情報を提供 | 本体の開発案件の施工 |
| 拠点 | 千葉本社(登記上は大阪)・大阪本店・東京本店・成田支店 | 成田市 |
| 売上高 | 2025年1月期 約15億7,600万円 → 2026年1月期 約67億2,600万円 | - |
| 借入 | 一般企業や金融機関などから90億円近く | - |
| 経過 | 販売停滞で資金繰り悪化 → 公租公課の滞納分の支払いを求められる → 2026年5月18日 事後処理を弁護士に一任 → 8月31日 大阪地裁 破産手続開始決定 | 本体に連鎖 |
| 負債 | 約107億6,283万円(債権者約138名) | 約1億3,252万円(債権者約4名) |
| 今後 | 破産管財人が選任済み。財産状況報告集会は12月7日 | |
設立から開始決定まで4年11か月、弁護士に一任してから開始決定まで105日、開始決定から信用調査会社の公表まで14日です(本稿の計算)。取引先の側から見ると、5月18日に事務所の電話が通じなくなってから、9月14日に「破産した」と公に分かるまで4か月近くあったことになります。この間、決済を待っていた売主、手数料を待っていた仲介業者、家賃の送金先を失った入居者は、それぞれ自分で動くしかありませんでした。
数字の読み方|売上15億円に借入90億円、公租公課の滞納
この件で管理会社が覚えておく数字は3つです。
借入90億円は、2025年1月期の売上高15億7,600万円の約5.7倍です(本稿の計算)。売上の5倍を超える借入が成り立つのは、仕入れた土地や建物を売れば一度に回収できる、という前提があるときだけです。翌期に売上が約67億円へ4.3倍になったのは、その前提どおりに売れた年があったからで、その年の売上に対しては借入は約1.3倍に見えます。開発業者の借入は、売れた年には軽く、売れない年には重く見えます。取引先の与信を「直近の売上」で見ると、売れた年の数字に騙されます。
債権者は約138名で、負債を割ると1名あたり約7,800万円です(本稿の計算)。両社の報告は債権者の内訳を書いていませんが、「一般企業や金融機関などから」借りていたという記述は、金融機関以外の会社——土地の売主、投資家、取引業者——が貸し手に含まれていたことを示します。土地を売って代金の一部を後払いにした地主や業者は、そのまま貸し手になります。
3つ目は「滞納していた公租公課の支払いを求められた」という一文です。税や社会保険料は、金融機関の返済や取引先への支払いより後回しにされやすく、滞納が表に出るのは資金繰りの最終段階です。破産手続では、納期限が来ていない租税や納期限から1年以内の租税は財団債権として手続によらず随時弁済され(破産法148条1項3号)、それ以外の租税も優先的破産債権として一般の債権より先に扱われます(同法98条)。税を滞納している取引先は、破産したときに一般の取引先へ回る財産が最初から少ない、と読んでください。
破産手続の基本|管財人・破産債権・財団債権の3語
5つの立場を読む前に、3つの言葉だけ押さえます。破産管財人は裁判所が選ぶ弁護士で、破産した会社の財産を集め、換価し、債権者に配る人です。開始決定の後、会社の財産の処分も契約の解除・履行の判断も、管財人が行います。破産債権は、開始決定より前の原因で生じた債権で、手続の中で届け出て、配当を待つものです(破産法2条5項)。仲介手数料、売買代金の残金、工事代金、損害賠償は、原則としてここに入ります。財団債権は「破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権」(同条7項)で、配当を待たずに払われます。管財人が契約の履行を選んだときの相手方の債権(148条1項7号)や、対抗要件のある賃借人の請求権(56条2項)がここに入ります。同じ「債権」でも、破産債権か財団債権かで、回収の順番と見込みがまったく違います。本稿の表は、この区別を軸に組んであります。
5つの立場で何が起きるか|売主・仲介・入居者・オーナー・工事発注
中小の不動産会社は、同じ相手と複数の立場で取引していることが珍しくありません。土地を売り、その仲介もし、完成した建物の管理を受け、入居者を紹介する。相手が破産すると、立場ごとに違う条文が動きます。
| 自分の立場 | 相手の破産で何が起きるか | 根拠 | できること |
|---|---|---|---|
| 土地・建物を売った(決済前) | 売買契約は「双方未履行の双務契約」。管財人が解除するか、代金を払って履行を求めるかを選ぶ。解除されたときの損害賠償は破産債権。手付として受け取った金銭を返す義務は、契約の定めと管財人の判断による | 破産法53条1項・54条 | 管財人に相当の期間を定めて「解除か履行か」の確答を求める(53条2項)。確答が無ければ解除とみなされ、物件は手元に残る |
| 土地・建物を売った(所有権移転済み・代金未収) | 残代金は一般の破産債権。配当を待つ | 破産法2条5項 | 債権届出。売買契約に所有権留保や解除特約が無ければ、物件は戻らない |
| 仲介した宅建業者 | 仲介手数料は一般の破産債権。宅建業者どうしの取引は、営業保証金・弁済業務保証金の還付対象にならない | 宅建業法27条・64条の8(「宅地建物取引業者に該当する者を除く」) | 債権届出。相手が宅建業者でない一般の買主なら、営業保証金(主たる事務所1,000万円・その他500万円)の還付を検討 |
| 破産した会社から部屋を借りていた入居者(賃貸人の破産) | 引渡しを受けていれば対抗要件があり、管財人は賃貸借を解除できない。入居者の請求権は財団債権。物件が売られれば賃貸人の地位と敷金返還債務は買主へ移る | 借地借家法31条・破産法56条・民法605条の2 | 賃料を管財人に払うとき、敷金の額を限度に「寄託」を請求する(破産法70条)。新しい所有者が決まるまで賃料の支払先を管財人に確認する |
| 管理を任せていたオーナー(管理会社の破産) | 管理受託契約は双方未履行の双務契約。管財人が解除か継続かを選ぶ。預り家賃・敷金は、分別管理されていれば取り戻せる余地があり、固有財産と混ざっていれば破産債権。登録は管財人の届出で失効 | 破産法53条・賃貸住宅管理業法16条・9条 | 管財人に確答を求め、入居者への送金先変更の案内を自分で出す。分別管理の口座と帳簿の写しを管財人に請求する |
| 工事を頼んでいた発注者(工事業者の破産) | 工事途中なら双方未履行。管財人が解除すれば、前払金の返還請求は、財団に現存すれば返還、無ければ価額を財団債権。出来高に応じた精算は管財人との協議 | 破産法53条・54条2項 | 現場の出来高を写真と数量で記録し、管財人に確答を求める。残工事は別の業者へ |
売主の立場|「解除か履行か」を待たない
今回の会社は、地主や不動産業者から土地を仕入れる側でした。仕入れの契約を結び、決済を待っていた売主がいれば、その契約は破産法53条の「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していない」ものにあたります。管財人が代金を払って履行を選ぶことは、財団に資金があり転売の見込みがあるときに限られ、多くは解除です。売主の側から見れば、解除されれば土地は手元に残るので、代金を先に払っていた買主より立場は強い。ただ、管財人の判断を待つ間、その土地は他に売れません。53条2項の催告は、この待ち時間を自分で区切る手段です。「相当の期間」を定めて確答を求め、期間内に返事が無ければ解除とみなされます。売買契約書に「買主の破産手続開始を解除事由とする」条項があっても、開始決定後の解除権の行使は管財人の53条の権限と重なるため、管財人への催告と並行して弁護士に確認してください。売買契約書の条項の組み方は売買契約書の雛形の記事に整理してあります。
仲介の立場|業者間取引は保証金で守られない
宅建業法27条は、営業保証金の還付を受けられる者を「宅地建物取引業者と宅地建物取引業に関し取引をした者(宅地建物取引業者に該当する者を除く。)」と定め、64条の8の弁済業務保証金も同じ除外を置いています。宅建業者が宅建業者と取引して受けた損害は、保証金の対象外です。今回の会社の取引相手の多くは地主・不動産業者・ハウスメーカーで、業者間の取引でした。仲介手数料の未収は一般の破産債権として届け出るしかなく、配当率は財団の中身で決まります。仲介手数料の請求が「契約成立時」か「決済時」かは媒介契約の定めによりますが、いずれにせよ開始決定前の原因で生じた債権です。仲介業の倒産の統計と、営業保証金・分別管理の仕組みは仲介業の倒産86件の記事にまとめてあります。
入居者の立場|賃貸借は続き、敷金は寄託で守る
今回の会社は自社ポータルで物件を紹介し、事業用物件を扱っていました。その会社が自ら賃貸人になっていた部屋の入居者は、どうなるか。借地借家法31条は「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる」と定めます。引渡しを受けて住んでいる入居者は対抗要件を備えており、破産法56条1項により、管財人は53条の解除権を使えません。賃貸人が破産しても、入居者は追い出されません。入居者が賃貸人に対して持つ請求権(修繕など)は財団債権です(56条2項)。
問題は敷金です。敷金は退去時に精算して返る金銭で、賃貸人が破産すると、返還請求権は将来の請求権として破産債権になりかねません。破産法70条は、「敷金の返還請求権を有する者が破産者に対する賃料債務を弁済する場合」に、後で相殺するため、敷金の額を限度に弁済額の寄託を請求できると定めています。入居者が管財人に賃料を払うとき、「敷金の額まで寄託してください」と申し出れば、その分は配当を待たずに退去時の精算に使えます。管理会社が入居者に代わって伝えられる、最も実務的な一文です。そして物件が管財人によって売却されれば、民法605条の2第1項で賃貸人の地位は買主に移り、同条4項で敷金の返還債務も買主が承継します。退去時の精算の手順は退去精算の記事のとおりです。
オーナーの立場|管理会社が倒れたら、分別管理の有無で決まる
管理受託契約も53条の双務契約です。管財人が継続を選ぶことは少なく、解除が普通です。オーナーにとっての問題は、管理会社が預かっていた当月の家賃と、入居時に預かった敷金です。賃貸住宅管理業法16条は、管理業者が受領する「家賃、敷金、共益費その他の金銭」を、自己の固有財産および他の管理受託契約の金銭と分別して管理することを義務づけています。分別された口座に残っていれば、それはオーナーの金銭として管財人と協議する余地があります。固有財産の口座と混ざっていれば、オーナーは一般の破産債権者です。登録は、管財人が30日以内に届け出ることで失効します(同法9条1項3号・2項)。管理会社の側から言えば、自社の分別管理が帳簿と口座で「直ちに判別できる」状態にあることが、オーナーに対する最大の信用です。自社の状態を確かめる手順は立入検査の自己点検の記事にあります。サブリースの場合は、賃貸人であるサブリース業者の破産で入居者の賃貸借は56条で守られる一方、オーナーとサブリース業者の間の賃貸借(マスターリース)は、オーナーが対抗要件の話ではなく賃貸人側なので、53条の判断に服します。賃料減額の話とは別の論点で、サブリースの記事と合わせて読んでください。
工事発注の立場|前払いは「財団に残っているか」で決まる
関係会社は本体の開発案件を施工していた建築工事業者で、設立から2年5か月、資本金50万円で連鎖しました。管理会社が原状回復や共用部の修繕を頼む工事業者も、同じ形で倒れることがあります。工事途中で業者が破産すると、契約は53条の双務契約で、管財人が解除を選べば、発注者が払っていた前払金は、54条2項により「破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について財団債権者としてその権利を行使することができる」となります。前払金が口座に残っていれば返還、材料に化けていれば財団債権、使われていれば財団債権として請求はできるが財団の中身次第です。出来高払いにしておけば、失うのは「払った分と出来高の差」だけで済みます。見積りの労務費内訳の読み方は改正建設業法の記事にあります。
倒産の前に見える4つのこと
両社の報告に書かれた経過から、取引先の側で見えたはずのことを4つ拾います。これは本稿の整理で、この会社で実際にどう見えたかを述べるものではありません。
- 売上が1年で4倍になった。仕入れを借入で賄う業態で売上が急に増えるのは、借入も同じ速さで増えたということです。翌期の売上が同じ水準で続かなければ、借入だけが残ります。
- 本店・支店が短期間に増えた。設立5年で3本店と支店を持ち、登記上の本店と実際の本社が別でした。拠点の数は取引先への見え方を大きくしますが、固定費も大きくします。
- 公租公課の滞納。取引先からは直接見えませんが、社会保険料や税の納付証明を決済時に求めれば分かります。売買の相手方に、未納の無いことを示す納税証明書を決済の条件として求めることはできます。
- 支払サイトの延長、決済日の延期の申し出。「決済を来月に」「手数料は決済後に」が2回続いたら、その相手との新規案件は止める、と社内で決めておきます。
管理会社が今週やる5つ
| やること | 具体的に | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 1. 決済前の売買案件の相手を「売上に対する借入」で見る | 決済を待っている案件を全部書き出し、相手の直近2期の売上と借入を聞く。答えない相手とは、決済と所有権移転を同時にする以外の条件を飲まない | 借入が売上の5倍を超える業態は、売れない年に一度で倒れる(本稿の計算・約5.7倍) |
| 2. 自社の分別管理を月次で確かめる | 預り金口座の残高と、オーナー別の預り金台帳の合計が一致するかを月末に照合し、記録を残す | 賃貸住宅管理業法16条。管理会社が倒れたときにオーナーを守るのは、この一致だけ |
| 3. 入居者向けの説明文を1枚用意する | 「賃貸人が変わっても、引渡しを受けているあなたの賃貸借は続きます。敷金は新しい所有者が引き継ぎます。賃貸人が破産した場合は、賃料を払う先と敷金の寄託を管財人に確認します」 | 借地借家法31条・破産法56条・70条・民法605条の2第4項 |
| 4. 工事は出来高払い、前払いは保証付きに | 工事の前払いを原則やめ、出来高で払う。前払いが必要なら、前払金保証か材料の所有権を発注者に置く条項を入れる | 破産法54条2項。前払金は「財団に現存するか」で運命が決まる |
| 5. 取引先の兆しを3つに絞って共有する | 公租公課の滞納・本店移転や拠点の急増・支払サイトの延長。どれか1つが出たら営業会議で名前を挙げる | 今回の報告に書かれた経過から本稿が整理 |
オーナー報告書に足す2行
今月の報告書に、次の2行を足してください。オーナーが最も知りたいのは「管理会社が倒れたら私の家賃はどうなるのか」で、それに先回りして答える形です。
9月14日に負債108億円の不動産会社の破産が公表されました。当社がお預かりしている家賃・敷金は、賃貸住宅管理業法16条に基づき当社の固有財産と分けた口座で管理し、毎月末にオーナー様別の台帳と残高を照合しています。
入居者様には、万一賃貸人や管理会社が変わっても賃貸借は続き、敷金は引き継がれることを、契約時の書面で説明しています。
登録番号と管理受託契約書の記載事項は登録番号と書類の記事に、修繕費の説明の型は修繕費のオーナー説明の記事にあります。
この記事が言っていないこと
両社の報告に無いことは書いていません。債権者138名の内訳(金融機関・一般企業・地主の別)、土地を売った地主や仲介した業者の被害額、ポータルに載っていた物件の入居者の数、配当率の見込み、代表者個人の債務は、公表資料にありません。「売上が4倍になった」「拠点が増えた」を兆しとして挙げたのは本稿の整理で、この会社の取引先がそれを見て何をすべきだったかを述べるものではありません。破産法の条文は原則を示すもので、個別の契約書の特約や管財人の判断で結果は変わります。決済前の案件を抱えている方は、条文を読んだうえで弁護士に相談してください。
よくある質問
Q1. 取引先が「弁護士に一任した」と聞いたら、破産が決まったのですか?
決まっていません。今回は5月18日に弁護士へ一任し、開始決定は8月31日で、105日あります。この間は破産手続開始前なので管財人はおらず、契約の解除・履行の判断は誰もできません。売主なら、契約書の解除条項に基づいて自分で解除できるかを弁護士に確認し、催告の内容証明を先に出しておきます。
Q2. 買主が破産した売買契約で、手付金は返さなければなりませんか?
契約書の定めと管財人の判断によります。管財人が53条で解除した場合、相手方(売主)の損害賠償は破産債権(54条1項)で、手付金の扱いは契約の解除条項と手付の性質(解約手付か違約手付か)で変わります。手付を没収できる条項があっても、管財人が争う場合があります。弁護士に契約書を見せてください。
Q3. 入居者は、賃貸人が破産したら家賃を払わなくてよいのですか?
払います。賃貸借は続いており(破産法56条)、賃料は管財人に払います。払わなければ債務不履行で解除の理由になります。払うときに敷金の額まで寄託を請求すれば(70条)、敷金分は守られます。新しい所有者が決まったら、賃料の支払先はその人に変わります(民法605条の2)。
Q4. 管理会社が破産したら、オーナーは入居者に何を言えばよいですか?
「家賃の振込先が変わります。新しい振込先は書面でお知らせします。管理会社からの案内があっても、書面で確認できるまで振り込まないでください」の3文です。管理会社の口座に振り込まれた家賃は、分別管理の口座であれば協議の余地がありますが、固有財産の口座に入れば破産債権になります。
Q5. 宅建業者どうしの取引で損をしたら、保証協会に請求できますか?
できません。宅建業法27条と64条の8は、還付を受けられる者から「宅地建物取引業者に該当する者」を除いています。営業保証金と弁済業務保証金は、業者でない取引の相手(一般の買主・売主・借主)を守る制度です。
Q6. 12月7日の財産状況報告集会には行くべきですか?
債権者であれば、行くと財団の中身と配当の見込みが分かります。報告集会は管財人が財産の状況を報告する場で、出席は義務ではありません。債権届出の期限は開始決定の通知書に書いてあり、届出が無ければ配当は受けられません。まず届出、次に集会です。
まとめ
2026年9月14日に公表された不動産開発会社の破産は、売上15億円の会社が90億円近くを借り、売上が1年で4倍になった翌年に、販売が止まって倒れた、という形です。負債108億9,535万円、債権者138名。中小の不動産会社にとっての教訓は、この会社の内側ではなく、自分の取引先がこの形をしていないかを見ることと、相手が倒れたときに自分の立場で何が起きるかを条文で知っておくことです。売主は53条2項の催告で待ち時間を区切れる。仲介手数料は破産債権で、業者間取引は保証金で守られない。入居者は56条で守られ、敷金は70条の寄託で守れる。オーナーは管理会社の分別管理の有無で運命が分かれ、工事の前払いは財団に残っているかで決まる。今週やることは5つ、報告書に足すのは2行です。
出典(本文で参照している資料)
本稿の記述は、すべて2026年9月15日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。条文はe-Gov法令検索の該当条のみを取得して読みました。
| 本稿で使った内容 | 資料 |
|---|---|
| 公表日2026年9月14日、2社の設立・資本金・登記上の所在地・事業内容・3本店体制、2025年1月期売上高約15億7,600万円、90億円近い借入、販売停滞と公租公課の滞納、8月31日大阪地裁の破産手続開始決定、破産管財人の選任、財産状況報告集会12月7日、負債(本体約107億6,283万円・債権者約138名、関係会社約1億3,252万円・同約4名、合計約108億9,535万円)、大阪の不動産会社では過去10年で最大 | 帝国データバンク 倒産速報「株式会社Hatch Outなど2社」(2026年9月14日) |
| 千葉本社(登記上は大阪)・大阪本店・東京本店・成田支店、事業用物件の取扱いと自社ポータル、2025年1月期売上高15億7,659万円、2026年1月期約67億2,600万円(投資用不動産の売買)、2026年5月18日付で事後処理を弁護士に一任、関係会社の所在地(成田市)と設立、2社合計約108億9,400万円 | 東京商工リサーチ TSR速報「(株)Hatch Outほか1社」(2026年9月14日) |
| 2条5項・7項(破産債権・財団債権の定義)、53条(双務契約:管財人の解除・履行の選択、相手方の催告と確答なき場合の解除みなし)、54条(解除の場合の損害賠償は破産債権、反対給付が現存すれば返還・現存しなければ価額を財団債権)、56条(対抗要件を備えた賃借権には53条1・2項を適用せず、請求権は財団債権)、70条(敷金返還請求権を有する者の寄託請求)、98条(優先的破産債権)、148条1項3号・7号(租税等・管財人が履行を選んだ場合の相手方の請求権は財団債権) | 破産法(平成16年法律第75号)|e-Gov法令検索 |
| 605条の2(対抗要件を備えた賃貸借の不動産が譲渡されたときの賃貸人たる地位の移転、4項の敷金返還債務の承継) | 民法(明治29年法律第89号)|e-Gov法令検索 |
| 31条(建物の引渡しによる賃貸借の対抗力) | 借地借家法(平成3年法律第90号)|e-Gov法令検索 |
| 27条(営業保証金の還付。宅地建物取引業者に該当する者を除く)、64条の8(弁済業務保証金の還付。同じく宅建業者を除く) | 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)|e-Gov法令検索 |
| 2条の4(営業保証金の額:主たる事務所1,000万円、その他の事務所ごとに500万円) | 宅地建物取引業法施行令(昭和39年政令第383号)|e-Gov法令検索 |
| 9条1項3号・2項(破産手続開始の決定により解散したときは破産管財人が30日以内に届け出、登録は効力を失う)、16条(受領する家賃・敷金・共益費その他の金銭の分別管理) | 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)|e-Gov法令検索 |
本稿の計算:借入の売上倍率(約5.7倍・約1.3倍)、売上の伸び(約4.3倍)、債権者1名あたり(約7,800万円)、設立から開始決定まで(4年11か月)、弁護士一任から開始決定まで(105日)、開始決定から公表まで(14日)は、資料の数字から本稿が出したものです。「5つの立場」の表、「倒産の前に見える4つ」、「今週やる5つ」、報告書の2行、入居者向けの説明文は本稿の整理です。債権者の内訳、被害額、入居者数、配当率、代表者個人の債務は資料に無いので書いていません。本稿は破産法の原則を条文で示したもので、個別の契約や事案についての法的助言ではありません。
