旭化成ホームズのマンション建替え研究所は2026年9月7日のメディア懇談会で、4月1日に施行された改正区分所有法のあと、同社が携わる建替え決議が13件にのぼり、過去10年平均の約4倍になったと報告しました(R.E.port 9月8日報道)。決議済み5件のうち1件は賛成の議決権割合が77.0%で、旧法の5分の4のままなら成立しなかった案件です。築40年以上の分譲マンションは2025年末で約158.8万戸、10年後には約313.1万戸になる見込みです(国土交通省)。決議が身近になるということは、管理や仲介をしている区分所有の1室について、ある日「建替え決議が可決した」と管理組合から連絡が来るということです。そのとき、入居中の賃貸借はどうなるのか。区分所有法には第64条の2「賃貸借の終了請求」という条文があり、答えはそこに書いてあります。本稿はその条文と、反対したオーナーに来る売渡し請求(第63条)、7種類に増えた決議の要件を、管理・仲介会社が押さえる日付の順に整理します。
結論(90秒で読める)
- 改正区分所有法は2026年4月1日施行(令和7年法律第47号)。旭化成ホームズが携わる建替え決議は施行後13件で、過去10年平均の約4倍。決議済み5件のうち1件は賛成77.0%で、改正で4分の3に緩和された要件が効いた案件です(R.E.port 2026年9月8日)。
- 建替え決議の要件は原則区分所有者と議決権の各5分の4(第62条第1項)。耐震性・火災安全性・外壁剥落・配管劣化・バリアフリー基準の5つの事由のどれかに当たれば4分の3(同条第2項)。決議の種類は建替え・建物更新・建物敷地売却・建物取壊し敷地売却・取壊し・再建・敷地売却の7種類です。
- 賃貸中の専有部分は、第64条の2により、決議に賛成した区分所有者等または当該専有部分の区分所有者が賃借人に賃貸借の終了を請求でき、請求の日から6か月の経過で賃貸借は終了します。区分所有者は通常生ずる損失の補償金を払い、賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒める(同条第3項・第5項)。
- この規定は建物敷地売却決議(第64条の6第3項)や取壊し決議(第64条の8第3項)にも準用されます。使用貸借(第64条の3)と配偶者居住権(第64条の4)にも同じ建て付けが及びます。
- 反対したオーナーには、催告から2か月以内に回答しなければ不参加とみなされ、その満了から2か月以内に時価での売渡し請求が来ます(第63条第3項〜第5項)。裁判所が明渡しの期限を最長1年許与できる(同条第6項)、2年以内に取壊し工事に着手しなければ買戻しを請求できる(同条第7項)という調整もあります。
- 管理・仲介会社がやることは、決議の可否を左右することではなく、日付を落とさないことです。招集通知(会日の2か月前)、説明会(1か月前)、決議、催告、回答期限、売渡し請求、終了請求、6か月、補償金、明渡し。この順で、入居者とオーナーに同じ表を見せます。
施行5か月の実績|決議13件・約4倍・賛成77.0%
2026年9月7日、旭化成ホームズ マンション建替え研究所は東京都千代田区で「高経年マンション再生問題メディア懇談会」を開き、同研究所所長の重水丈人氏が「法改正後、決議数4倍に」と題して講演しました。R.E.portの9月8日の記事によると、4月の改正法施行後に同社が携わる建替え決議は13件で過去10年平均の約4倍、その多くで改正法によって緩和された議決要件が適用されているとのことです。すでに決議が行われた5件のうち1件は賛成議決権の割合が77.0%で、法改正による緩和がなければ議決できなかったケースでした。同氏は「区分所有者が少なく一人当たりの議決権割合の大きい小規模なマンションでは、新制度の恩恵は大きい」と述べています。
77.0%という数字を要件に当てると、旧法の5分の4(80.0%)には届かず、改正で認められた4分の3(75.0%)は超えています。つまり、この1件は改正法があって初めて可決した決議です。13件のうち他の案件が5分の4を超えていたのか、4分の3の範囲だったのかは報道に書かれていないので、本稿もそこは書きません。なお、旭化成ホームズの研究所のウェブサイトには本稿執筆時点で8月22日の懇談会までの資料しか掲載されておらず、9月7日の講演資料は未公開です。本稿の13件・4倍・77.0%はR.E.portの報道に拠ります。
東京都の数字:203万戸、築40年以上は25年後に3.4倍
同じ懇談会で、東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課長の井上公之氏は、都内の分譲マンションの総戸数が2024年度末で約203万戸、都内総世帯数の約4分の1に相当すること、築40年以上のマンションは2023年時点で42万8,000戸で25年後には146万1,000戸になる見込みであること、1983年以前に建築されたマンション1万1,200件のうち管理不全の兆候があるマンションが1,776棟あることを説明しています(R.E.port同記事)。都は2025年度からマンション管理士を一定期間無料で派遣する「管理不全予防・改善支援事業」を始め、派遣された管理士が外部管理者として管理組合の立て直しに入る仕組みを用意しています。
全国の数字:築40年以上は158.8万戸、10年で2倍
国土交通省が公表している「築40年以上の分譲マンション数の推移(2025年末現在)」を、そのまま表にします。
| 時点 | 築40年以上の戸数 | 対象となる築年 |
|---|---|---|
| 10年前(2015年末) | 53.3万戸 | 1976年以前 |
| 現在(2025年末) | 158.8万戸 | 1986年以前 |
| 10年後(2035年末) | 313.1万戸(約2.0倍) | 1996年以前 |
| 20年後(2045年末) | 503.6万戸(約3.2倍) | 2006年以前 |
この10年で53.3万戸から158.8万戸へ2.98倍になり、次の10年でさらに2倍です。一方、建替えの実績は2025年3月31日時点で累計323件(約26,000戸)、マンション建替円滑化法にもとづく敷地売却等は累計17件(約1,300戸)です(国土交通省「マンション建替え等の実施状況」)。158.8万戸に対して2.6万戸。管理や仲介をしている1室が決議の側に入ることは稀ですが、入ったときに条文を知らないと入居者もオーナーも守れない、という構えで読んでください。
決議は7種類、要件は5分の4か4分の3
改正前の区分所有法にあった再生の決議は、建替え決議と、マンション建替円滑化法上のマンション敷地売却でした。改正後の区分所有法は、建物の状態や区分所有者の意向に応じて選べるよう、決議の種類を増やしています。条文の番号と要件を並べます。
| 決議 | 条文 | 要件(区分所有者・議決権の各) | 賃貸借の終了請求 |
|---|---|---|---|
| 建替え決議 | 第62条 | 5分の4。5つの事由のどれかに当たれば4分の3 | 第64条の2が直接適用 |
| 建物更新決議 | 第64条の5 | 5分の4(4分の3への緩和を準用) | 第3項で準用 |
| 建物敷地売却決議 | 第64条の6 | 区分所有者・議決権・敷地利用権の持分価格の各5分の4(4分の3への緩和を準用) | 第3項で準用 |
| 建物取壊し敷地売却決議 | 第64条の7 | 区分所有者・議決権・敷地利用権の持分価格の各5分の4(4分の3への緩和を準用) | 第3項で準用 |
| 取壊し決議 | 第64条の8 | 5分の4(4分の3への緩和を準用) | 第3項で準用 |
| 再建決議(建物滅失時) | 第75条 | 建物が滅失した場合の敷地共有者等の決議 | 建物が無いので対象外 |
| 敷地売却決議(建物滅失時) | 第76条 | 同上 | 同上 |
建替え決議の要件を4分の3に下げる5つの事由は、第62条第2項に列挙されています。地震に対する安全性、火災に対する安全性、外壁・外装材の剥離・落下のおそれ、配管設備の劣化による衛生上の有害のおそれ、バリアフリー基準への不適合の5つで、いずれも法務大臣が国土交通大臣と協議して定める基準に当てはめます。築40年以上のマンションの多くは、このどれかに当たる可能性があります。
もう一つ、条文の括弧書きに注意してください。第62条第1項は「区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各五分の四以上」と書いています。第86条の裁判で除外された所在等不明の区分所有者を分母から外して数える建て付けで、改正の柱の一つです。詳しくは区分所有法改正2026の全体像で整理しています。
賃貸中の部屋はどうなるか|第64条の2の5つの項
ここが本稿の中心です。管理している区分所有の1室に入居者がいる。オーナーは決議に賛成した。あるいはオーナーは反対したが決議は可決した。そのとき入居者との賃貸借契約はどうなるのか。第64条の2「賃貸借の終了請求」は5つの項でできています。順に読みます。
第1項:誰が請求できるか
建替え決議があったときは、建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(承継人を含む)、これらの者の全員の合意により賃貸借の終了を請求できる者として指定された者、または賃貸されている専有部分の区分所有者が、当該専有部分の賃借人に対し、賃貸借の終了を請求することができます。請求できるのは「その部屋のオーナー」だけではありません。賛成した他の区分所有者や、指定された者(実務では事業者になるでしょう)も請求できます。管理会社が知らないところで、入居者に終了請求が届くことがあり得る、ということです。
第2項:請求から6か月で終了する
第1項の請求があったときは、当該専有部分の賃貸借は、その請求があった日から6か月を経過することによって終了します。条文には正当事由という言葉は出てきません。借地借家法第28条の正当事由の判断や、期間満了の6か月前から1年前までの更新拒絶通知(同法第26条)とは別の経路で、区分所有法が期間を6か月と決めています。入居者に説明するときは、「立退きの交渉」ではなく「法律で6か月と決まっている終了」だと、条文を見せて伝える必要があります。
第3項:補償金は区分所有者が払う
第1項の請求があったときは、当該専有部分の区分所有者は、賃借人(転借人を含む)に対し、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければなりません。払うのは「請求した人」ではなく「その部屋の区分所有者」です。他の区分所有者が請求した場合でも、補償金の第一次的な支払義務はオーナーにあります。額については条文は「通常生ずる損失」としか書いておらず、本稿も金額の目安を書きません。引越費用や新しい住居の契約費用など、終了によって通常発生する損失が中身になる、というところまでが条文から読める範囲です。
第4項:請求した人は連帯して弁済する
第1項の請求をした者(当該専有部分の区分所有者を除く)は、当該専有部分の区分所有者と連帯して前項の債務を弁済する責任を負います。賛成した他の区分所有者や指定された者が請求した場合、その人たちもオーナーと連帯して補償金を負担します。オーナーにとっては、自分が請求していなくても補償金の債務者になり、請求した側もそれを連帯する、という関係です。
第5項:補償金の提供を受けるまで明渡しを拒める
専有部分の賃借人は、第2項により賃貸借が終了したときであっても、補償金の提供を受けるまでは、当該専有部分の明渡しを拒むことができます。6か月が経って賃貸借が終了しても、補償金が提供されていなければ入居者は出なくてよい。入居者を守る規定であり、同時に、事業を進めたい側にとっては「補償金を先に用意しないと建物が空かない」という順番を決める規定です。管理会社の立場では、入居者に対して「6か月で出てください」とだけ伝えるのは条文の半分しか伝えていません。「補償金の提供が先」まで伝えて初めて、条文どおりの説明になります。
使用貸借、配偶者居住権、他の決議への準用
第64条の3は、専有部分が使用貸借の目的物とされている場合(民法第598条第1項・第2項の場合を除く)について第64条の2第1項・第2項を準用します。親族に無償で貸している部屋も、6か月で終了する建て付けに乗ります。第64条の4は配偶者居住権が設定されている場合(民法第1035条第1項ただし書の場合を除く)について第64条の2を準用します。そして、第64条の5第3項(建物更新決議)、第64条の6第3項(建物敷地売却決議)、第64条の7第3項(建物取壊し敷地売却決議)、第64条の8第3項(取壊し決議)は、いずれも第63条から第64条の4までの規定を準用し、「建替えに」を「建物の更新に」「売却に」「取壊しに」と読み替えます。建替えではなく更新・売却・取壊しになった場合も、賃貸借の終了請求と補償金の建て付けは同じです。
オーナーが反対したとき|第63条の売渡し請求
管理している部屋のオーナーが決議に反対した、あるいは総会に出ずに反対扱いになった場合、次に来るのは第63条の手続です。日付が3つ続くので、順に書きます。
| 段階 | 条文 | 期限 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 催告 | 第63条第1項・第2項 | 決議後、遅滞なく | 集会を招集した者が、賛成しなかった区分所有者に、建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面(承諾があれば電磁的方法)で催告する |
| 回答 | 第63条第3項・第4項 | 催告を受けた日から2か月以内 | 期間内に回答しなければ、参加しない旨を回答したものとみなされる |
| 売渡し請求 | 第63条第5項 | 回答期間満了の日から2か月以内 | 賛成者・参加者・買受指定者が、不参加のオーナーに区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できる |
| 明渡しの期限の許与 | 第63条第6項 | 代金の支払または提供の日から1年を超えない範囲 | 明渡しで生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさない顕著な事由があるとき、裁判所が期限を許与できる |
| 買戻し | 第63条第7項 | 決議の日から2年以内に取壊し工事に着手しない場合、期間満了から6か月以内 | 売り渡した者が、買主が支払った代金に相当する金銭で買い戻すよう請求できる |
管理会社として気をつけたいのは、「回答しない」が「反対」ではなく「不参加」になることです。オーナーが高齢で書類を読んでいない、海外にいて郵便が届いていない、相続でオーナーが誰か決まっていない。こういう部屋は、2か月が過ぎた時点で自動的に売渡し請求の対象になります。管理会社は決議の可否に口を出す立場ではありませんが、催告の書面が届いたことをオーナーに伝え、回答期限を管理することはできます。それをしないと、オーナーは「知らないうちに時価で売ることになっていた」と受け取ります。
決議から明渡しまでの日付を並べる
ここまでの条文の期間を、管理・仲介会社が押さえる日付として1本に並べます。実際の案件の期間ではなく、条文に書かれた期限だけを並べたものです。
| いつ | 何が起きるか | 自社がすること |
|---|---|---|
| 集会の会日の2か月前まで | 招集通知の発出(第62条第6項)。建替えを必要とする理由、建替えをしない場合の修繕費用、修繕計画、修繕積立金の額を通知(同条第7項) | 通知の写しをオーナーから受け取り、賃貸中の部屋であることをオーナーと確認する |
| 会日の1か月前まで | 説明会の開催(第62条第8項) | オーナーの出欠を確認。出られないなら議決権行使の方法を確認する |
| 決議の日 | 5分の4または4分の3で可決 | 可決を確認したら、入居者に第64条の2の建て付け(6か月・補償金・提供まで明渡し不要)を条文つきで伝える |
| 決議後、遅滞なく | 賛成しなかった区分所有者への催告(第63条第1項) | オーナーが反対・欠席なら、催告の到着日を記録し、回答期限(2か月)を共有する |
| 催告から2か月 | 回答期限。無回答は不参加とみなす(第63条第3項・第4項) | 期限の2週間前にオーナーへ再確認する |
| 回答期限から2か月以内 | 売渡し請求(第63条第5項) | 時価の根拠資料の有無をオーナーと確認する。売買仲介として関与する場合は自社の立場を書面で明確にする |
| 終了請求の日 | 賃借人への賃貸借の終了請求(第64条の2第1項)。請求者はオーナーとは限らない | 入居者に届いた請求書面の写しを受け取り、6か月後の日付を計算して入居者・オーナーに同じ表で伝える |
| 終了請求から6か月 | 賃貸借の終了(第64条の2第2項) | 補償金の提供の有無を確認。提供が無ければ入居者は明渡しを拒める(第5項)ことを双方に伝える |
| 決議から2年 | 取壊し工事に着手しなければ、売り渡した者が買戻しを請求できる(第63条第7項) | 売渡しに応じたオーナーに、着工の有無と2年の期限を伝える |
条文の期間だけを足すと、催告から回答期限まで2か月、売渡し請求まで2か月、終了請求から終了まで6か月です。実際には決議から終了請求までの間隔は案件ごとに違うので、「決議から最短で何か月で退去」という数字は本稿では出しません。日付は、届いた書面の日付から自社で数えてください。
仲介で古い区分所有マンションの部屋を扱うとき
賃貸仲介で築40年以上の区分所有マンションの1室を扱うとき、建替え決議の有無や、決議に向けた説明会の予定は、宅建業法第35条の重要事項説明の列挙事項そのものではありません。しかし、宅建業法第47条第1号ニは、第35条の列挙事項のほかに「建物の現在若しくは将来の利用の制限」などで「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について、故意に事実を告げない行為を禁じています。第64条の2により賃貸借が6か月で終了し得る状態にある部屋を、それを知りながら告げずに貸すことは、ここに当たり得ます。管理組合の総会議事録に建替え決議や説明会の記載があるかは、修繕積立金や長期修繕計画と同じく、募集前にオーナー経由で確認する項目です。売買仲介であれば、修繕積立金の不足を仲介がどう説明するかと同じ棚に、決議の状況を置いてください。
9月中にやること5つ
- 管理・仲介している区分所有の部屋を、築年で並べる。1986年以前に建築された部屋(2025年末で築40年以上)を抽出し、棟ごとに管理組合の連絡先を控えます。棟単位で決議が起きるので、部屋単位ではなく棟単位の一覧にします。
- その棟の直近の総会議事録を、オーナー経由で入手する。建替え・売却・取壊しの検討、説明会の予定、第62条第2項の5事由に関する調査(耐震診断など)の記載があるかを見ます。記載があれば、その部屋の募集条件と入居者への説明を見直します。
- 第64条の2の説明を1枚にしておく。誰が請求できるか、6か月で終了、補償金は区分所有者が払う、提供を受けるまで明渡し不要、の4点を条文番号つきで書いた紙を用意します。決議が出てから作るのでは遅く、入居者からの最初の電話に答えられません。
- オーナーの連絡先と意思決定者を確かめる。第63条の催告は2か月で自動的に不参加になります。オーナーが高齢・海外・相続未了の部屋は、催告が届いたときに誰が読むのかを今のうちに決めておきます。
- 自社の立場を決めておく。決議が出た棟で、自社は管理受託者として入居者とオーナーの間に立つのか、売渡し請求の場面で売買仲介として関与するのか、あるいは事業者の側に立つのか。同じ案件で複数の立場を持つと利益相反になります。関与の範囲を、決議の前に社内で決めて書面にします。
現場メモ|「6か月で出てください」だけでは半分
私たちの会社は賃貸住宅を210戸保有し、約100戸を自主管理していますが、区分所有マンションの1室を預かる場面は、一棟の管理とは違う緊張があります。一棟なら建替えはオーナー1人の判断です。区分所有の1室では、オーナーが反対しても棟の5分の4、場合によっては4分の3で決まってしまう。しかもその決議を、管理会社は議事録が回ってくるまで知らないことがあります。
第64条の2を初めて読んだとき、入居者に伝えるべきことは「6か月で出てください」ではなく「補償金の提供を受けるまでは出なくていい」のほうだと思いました。前者だけを伝えると、入居者は管理会社を事業者の側の人間だと見ます。後者まで伝えると、条文が入居者のためにも書かれていることが伝わります。正当事由と立退料の整理は借地借家法の話で、本稿の第64条の2は区分所有法の別の経路です。どちらの経路の話かを、最初に区別して伝えるようにしています。
よくある質問
Q1. 建替え決議が可決したら、入居者との賃貸借契約は自動的に終わりますか?
自動的には終わりません。第64条の2第1項の請求があって初めて、その日から6か月の経過で終了します(第2項)。請求が無ければ賃貸借は続きます。請求できるのは、決議に賛成した区分所有者、参加を回答した区分所有者、全員の合意で指定された者、またはその部屋の区分所有者です。
Q2. 補償金はいくらですか?
条文は「賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金」(第64条の2第3項)としか書いていません。本稿は金額の目安を示しません。払う義務があるのはその部屋の区分所有者で、請求した他の区分所有者等がいれば連帯して弁済します(第4項)。
Q3. 6か月が経っても補償金が払われていない場合、入居者は出なければなりませんか?
出なくてよい、と条文に書いてあります。第64条の2第5項は、賃貸借が終了したときであっても、補償金の提供を受けるまでは明渡しを拒むことができる、と定めています。
Q4. 建替えではなく、建物と敷地を売却する決議でも同じですか?
同じ建て付けが準用されます。建物敷地売却決議は第64条の6第3項、取壊し決議は第64条の8第3項で、第63条から第64条の4までを準用し、「建替えに」を「売却に」「取壊しに」と読み替えます。
Q5. オーナーが総会の催告に返事をしなかったらどうなりますか?
催告を受けた日から2か月以内に回答しなければ、建替えに参加しない旨を回答したものとみなされます(第63条第3項・第4項)。その後、回答期限の満了から2か月以内に、賛成者等から区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求されることがあります(第5項)。
Q6. 「決議数が4倍」というのは全国の数字ですか?
違います。旭化成ホームズ マンション建替え研究所が携わる案件の数で、施行後13件が同社の過去10年平均の約4倍という報告です(R.E.port 2026年9月8日)。全国の建替え決議の件数を集計した統計は本稿執筆時点で公表されていません。国土交通省の累計は建替え323件・敷地売却等17件(2025年3月31日時点)で、これは決議ではなく竣工・売却の実績です。
まとめ|決議の可否ではなく、日付と補償金の建て付けを両方に見せる
改正区分所有法の施行から5か月で、旭化成ホームズが携わる建替え決議は13件、過去10年平均の約4倍になり、賛成77.0%で可決した案件も出ました。築40年以上のマンションは158.8万戸、10年後に313.1万戸です。管理・仲介している区分所有の1室で決議が出る日は、稀ですが、来ます。そのとき賃貸借は第64条の2で「請求から6か月で終了」し、区分所有者は補償金を払い、入居者は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒めます。反対したオーナーには第63条の催告・2か月・売渡し請求が来ます。
管理会社ができることは、決議を左右することではなく、招集通知から明渡しまでの日付を落とさず、入居者とオーナーの両方に条文の全部を見せることです。ウルスタくんでは、部屋ごとの築年・オーナーの連絡先・届いた書面の日付を同じ画面に置けるので、本稿の時系列表はそこから作れます。関連する記事として、区分所有法改正2026の全体像、第三者管理方式の開示、管理計画認定制度も合わせてお読みください。
出典(本文で参照している資料)
本稿の記述は、すべて2026年9月9日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。
| 本稿で使った内容 | 資料 |
|---|---|
| 施行後の建替え決議13件・過去10年平均の約4倍・決議済み5件のうち1件が賛成77.0%・7種類の決議・小規模マンションでの恩恵(重水丈人氏の講演)、都内分譲マンション約203万戸(2024年度末)・築40年以上42万8,000戸(2023年)→25年後146万1,000戸・1983年以前1万1,200件のうち管理不全の兆候1,776棟(井上公之氏の講演) | R.E.port「旭化成H、法改正でマンション建替え決議数が急増」(2026年9月8日) |
| 第62条(建替え決議・5分の4・4分の3の5事由・招集通知2か月前・説明会1か月前)、第63条(催告・2か月・みなし不参加・売渡し請求・時価・明渡し期限の許与・買戻し)、第64条の2(賃貸借の終了請求)、第64条の3(使用貸借)、第64条の4(配偶者居住権)、第64条の5〜第64条の8(建物更新・建物敷地売却・建物取壊し敷地売却・取壊しの各決議と準用)、第75条・第76条、第86条 | e-Gov 法令検索「建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)」令和8年4月1日施行版 |
| 第47条第1号ニ(建物の現在若しくは将来の利用の制限など、相手方等の判断に重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げない行為の禁止) | e-Gov 法令検索「宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)」 |
| 令和7年法律第47号の成立(5月23日)・公布(5月30日)、区分所有法部分の施行日(令和8年4月1日)、「2つの老い」の背景 | 法務省民事局「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」 |
| 築40年以上の分譲マンション:2015年末53.3万戸・2025年末158.8万戸・2035年末313.1万戸(約2.0倍)・2045年末503.6万戸(約3.2倍) | 国土交通省「築40年以上の分譲マンション数の推移(2025年末現在)」(PDF) |
| 建替え累計323件(約26,000戸)、マンション建替円滑化法にもとづく敷地売却等累計17件(約1,300戸)(2025年3月31日時点) | 国土交通省「マンション建替え等の実施状況(2025年3月31日現在)」(PDF) |
| 上記2資料の掲載ページ | 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」 |
| 管理不全の兆候があるマンションへのマンション管理士の無料派遣、外部管理者方式等の導入支援(令和7年度・令和8年度募集) | 東京都マンションポータルサイト「管理不全予防・改善支援事業(伴走型)」 |
本稿の計算:53.3万戸から158.8万戸は2.98倍、158.8万戸から313.1万戸は1.97倍(資料の表記は約2.0倍)、503.6万戸は3.17倍(同 約3.2倍)。東京都の42万8,000戸から146万1,000戸は3.41倍。賛成77.0%を4分の3(75.0%)と5分の4(80.0%)に当てはめたのは本稿です。旭化成ホームズの9月7日の講演資料は本稿執筆時点で同社サイトに未掲載のため、決議13件・約4倍・77.0%と東京都の数字はR.E.portの報道に拠ります。補償金の額、借地借家法の正当事由との関係、個別案件の所在地は本稿では扱っていません。