賃貸管理 読了 22分

カスタマーハラスメント対策義務化2026|10月施行に向け中小不動産会社が現場スタッフを守る体制を整える実務SOP

「督促で長時間どなられた」「緊急でもない深夜に呼び出される」「根拠のない無償修繕を毎日迫られる」——賃貸管理の現場で担当者が一人で抱えてきたこうした理不尽に、2026年10月施行の改正労働施策総合推進法(カスハラ対策の義務化)が一つの転機をもたらします。本記事はウルスタ代表として宅建業を営み自社で210室を管理・客付けする立場から、(1)法改正で何が変わるのか、(2)なぜ今の現場に効くのか、(3)経営と現場に効く論点、(4)現場で整える実務SOP5ステップ、(5)場面別の対応指針、(6)避けるべき5つのNG、(7)よくある質問7問までを、現場が今日から準備できる粒度で整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
カスタマーハラスメント対策義務化2026|10月施行に向け中小不動産会社が現場スタッフを守る体制を整える実務SOP
目次

「家賃の督促で電話をしただけなのに、一時間以上どなり続けられた」「緊急でもない用件で、深夜や早朝に呼び出される」「根拠のない無償修繕を、応じるまで毎日電話してくる」——賃貸管理や仲介の現場に立った人なら、こうした理不尽な要求や暴言に、担当者が一人で消耗していく場面を一度は見てきたはずです。2025年6月4日、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策を事業主の義務とする改正労働施策総合推進法が成立し、2026年10月1日から施行されます。従業員を一人でも雇うすべての会社が対象で、中小企業に猶予期間はありません。賃貸管理は、入居者・オーナー・近隣という複数の相手と日々向き合う、いわばカスハラの最前線です。本記事は、ウルスタの代表として宅建業を営みつつ、自社で210室規模の賃貸住宅を管理・客付けする立場から、(1)今回の法改正で何が変わるのか、(2)なぜ今、不動産の現場でカスハラ対策が要るのか、(3)自社の経営と現場に効いてくる論点、(4)現場で整える実務SOP(5ステップ)、(5)場面別の対応指針、(6)避けるべき5つのNG、(7)よくある質問7問までを、現場が今日から準備できる粒度で整理します。指針の細目は今後示されるため、導入時は必ず厚生労働省など提供元の最新情報を確認してください。

カスハラ対策義務化で「何が」変わるのか — 3つのポイント

まず押さえたいのは、この改正が「悪質なクレーマーを排除できる新しい権限が会社に与えられた」という話ではなく、従業員をカスハラから守るための体制づくりが、会社の義務になったという点です。中小不動産会社がまずやるべきことは、今回の内容を「義務化」「全企業が対象」「賃貸管理は最前線」の3つで整理し、自社の現場対応のどこに穴があるかを点検することです。現場に効いてくるのは、おおむね次の三つに集約されます。

ポイント1:対策が「努力」から「義務」へ格上げされた

ひとつめは、位置づけの変化です。これまでカスハラへの対応は各社の判断に委ねられていましたが、改正法によって、事業主が雇用管理上の措置を講じることが法律上の義務になりました。具体的には、カスハラを防ぐ方針を定めて社内に周知すること、相談に応じる体制を整えること、被害を受けた従業員へ配慮することなどが求められます。施行は2026年10月1日です。「うちは小さいから関係ない」では済まなくなる、という認識の切り替えがまず必要です。

ポイント2:中小企業も猶予なく対象になる

ふたつめは、対象範囲の広さです。今回の義務は、従業員を一人でも雇用しているすべての企業に適用され、企業規模による適用猶予は設けられていません。パワハラ防止措置のときには中小企業に猶予期間がありましたが、カスハラ対策については大手も中小も同じ施行日です。数名で回している管理会社や仲介会社であっても、施行日までに方針と相談体制を整えておく必要があります。準備に使える時間は、施行まで逆算して動くべき性質のものです。

ポイント3:賃貸管理は構造的にカスハラの最前線にある

みっつめは、業種特性です。賃貸管理や仲介は、入居者・オーナー・近隣住民という複数の相手と、契約から退去後まで長く関わり続ける仕事であり、要求や苦情が持ち込まれる接点がそもそも多いのが特徴です。家賃の督促、設備故障の対応、騒音の苦情、退去時の精算など、感情がぶつかりやすい場面が日常的に発生します。だからこそ、他業種以上に「どこからがカスハラか」の線引きと、担当者を一人にしない体制が効いてきます。

現場感覚で言うと
正直に言うと、第一印象は「ようやく会社として線を引いていい根拠ができた」でした。当社でも、家賃督促の電話で長時間どなられたり、緊急性のない用件で深夜に呼び出されたり、無償の修繕を応じるまで毎日電話で迫られたりといったことは、珍しくありませんでした。駆け出しの頃は「お客様商売だから」と何でも飲み込むのが当たり前で、担当者が一人で抱えて疲弊し、辞めていく姿も見てきました。理不尽な要求にどこまで応えるかを個人の我慢に委ねている限り、現場は守れません。会社が方針として線を引き、対応を仕組みにする。今回の義務化は、その背中を押してくれる動きだと受け止めています。

なぜ今、不動産の現場でカスハラ対策が要るのか — 3つの背景

背景を理解しておくと、社内の合意形成にもオーナーへの説明にも説得力が出ます。カスハラ対策が今の中小不動産の現場に効く要因は、(1)法改正で会社の義務になったこと、(2)深刻化する人手不足と離職防止、(3)入居者とオーナーの二方向からの圧力の3つです。いずれも一過性ではなく構造的なものなので、「うちは大丈夫」と構えるより、施行を前提に準備を整えておくのが正解です。

背景1:対応しないこと自体が会社のリスクになった

第一に、法的な位置づけです。義務化された以上、方針も相談体制も整えないまま放置することは、会社としての対応不備につながりかねません。従業員が著しいハラスメントで体調を崩した場合、会社が安全配慮を尽くしていたかが問われる場面もあり得ます。罰則の有無や運用の細目は今後の指針で示されますが、「やらなくてもよい」が「やらなければならない」に変わったという事実は、経営判断として重く受け止めるべきです。

背景2:人手不足のなか、離職を防ぐ実利がある

第二に、人手不足です。理不尽な要求に一人で耐え続ける現場は、担当者の心身を削り、離職の引き金になります。採用が難しく、一人当たりの担当戸数が増えがちな中小ほど、一人辞めたときの打撃は大きい。カスハラ対策は、コンプライアンスのためだけでなく、貴重な人材を守り、定着させるための投資でもあります。「困ったときは会社が間に入る」と明示されているだけで、現場の安心感はまるで違います。離職防止という実利の面からも、整える価値があります。

背景3:入居者とオーナー、二方向から圧力がかかる

第三に、業種特有の板挟みです。管理会社は、入居者からの過度な要求と、オーナーからの厳しい注文の両方を受け止める立場にあり、双方向の圧力が現場に集中します。入居者対応では督促や苦情、オーナー対応では空室や収益への不満が、しばしば担当者個人にぶつけられます。どちらの相手であっても、業務の範囲を超えた理不尽な言動には会社として線を引く——この姿勢を持たないと、現場は両側から消耗していきます。相手がオーナーであっても、守るべきは自社の従業員だという原則を見失わないことが大切です。

自社の経営と現場に効いてくる論点

ここまでの動きが、現場の実務にどう跳ね返るのかを整理します。結論から言えば、効いてくるのは「人材の定着」「対応品質の安定」「オーナーへの説明責任」の3点です。賃貸を扱う中小会社なら、いずれも必ず当たります。

論点1:スタッフが辞めない会社になる

カスハラ対策が機能している会社は、担当者が「困ったときに会社が守ってくれる」と感じられます。理不尽な要求を個人の我慢に委ねず、会社が方針として線を引き、複数で対応する仕組みがあるだけで、現場の心理的な負担は大きく下がります。限られた人数で回す中小会社にとって、一人の離職が業務に与える影響は甚大です。人を守る体制づくりは、結果として採用コストや引き継ぎの負担を抑えることにつながります。

論点2:「線引き」が対応品質を底上げする

どこまでが正当な要望で、どこからがカスハラかを社内で定義しておくと、担当者ごとにバラバラだった対応が揃い、正当な苦情には丁寧に、理不尽な要求には毅然と、という品質が安定します。線引きがない現場では、声の大きい相手ほど得をする不公平が生まれがちです。基準を共有することは、まじめに対応している多くの入居者やオーナーを公平に扱うことにもつながります。線を引くことは、サービスを下げることではなく、対応を適正化することです。

論点3:オーナーへの説明責任にも関わる

意外と見落とされがちですが、カスハラ対応は管理委託の信頼にも関わります。入居者トラブルが起きたとき、感情的なやり取りではなく、事実の記録に基づいて経緯を説明できる管理会社は、それだけでオーナーから信頼されます。逆に、担当者個人の主観や言った言わないの応酬で報告すれば、オーナーの不安をかえって増やします。カスハラ対策として記録と対応手順を整えることは、オーナーへの説明責任を果たす土台にもなります。新しい体制を自社の標準に組み込み、オーナーに説明できる状態にしておくことが、管理受託の競争力にもつながります。

現場感覚で言うと
当社でこの種の体制を整えるとき、いつも痛感するのは「対応そのものより、記録と段取りが現場を救う」ということです。督促や苦情のやり取りが担当者の記憶だけに残っていると、あとで「言った言わない」になり、オーナーへの説明もできません。逆に、いつ・誰が・どんな要求を受け、どう対応したかが物件や入居者に紐づいて残っていれば、上司もすぐ状況を把握でき、複数で守る判断が早くなります。新しいルールを入れたときに「現場が回らない」となるか「むしろ楽になった」となるかは、ルールの厳しさではなく、記録が一か所に集まっているかで決まる——これが10年やってきた実感です。線を引く前に、まず事実を残す癖をつけることをおすすめします。

現場で整える実務SOP(5ステップ)

では、この義務化を自社の業務にどう落とし込むか。大切なのは、立派な規程を一気に作ることより、現場が実際に動ける手順を、今日から整えられる順番で用意することです。施行は2026年10月1日。逆算して、無理なく定着させられる5つのステップに整理します。

ステップ1:カスハラの定義と線引きを社内で決める

まず、どこからがカスハラかを自社の言葉で定義します。正当な苦情・要望と、業務の範囲を超えた理不尽な言動を切り分け、暴言・脅迫・長時間の拘束・人格否定・土下座などの強要・SNSでの中傷といった類型を、現場が判断しやすい形でまとめておくのが出発点です。完璧な線引きは難しくても、目安があるだけで担当者は迷いません。厚生労働省の指針や、日本賃貸住宅管理協会が示している賃貸管理業向けの考え方も参考に、自社の現場に合わせて整えていきましょう。

ステップ2:相談窓口と報告ルートを作る

次に、担当者が一人で抱えないための相談窓口と報告ルートを決めます。困ったときに誰へ、どう伝えれば会社が動いてくれるのかが明確になっていないと、現場は結局一人で我慢してしまいます。専任の担当者でも、上長への報告ルールでも構いません。小さな会社なら、社長や管理者が窓口を兼ねる形でも十分です。大事なのは「迷ったら上げてよい」という空気と、上げたあとに会社がきちんと間に入るという実績を積むことです。

ステップ3:対応マニュアルを用意する

三つめに、現場で使える対応マニュアルを用意します。通話の録音や記録を残すこと、悪質な訪問には複数名で対応すること、緊急性のない要求には対応時間の範囲を伝えること、といった具体的な動き方を、あらかじめ決めておくと、いざというとき担当者が迷いません。マニュアルは分厚くする必要はなく、よくある場面ごとに一枚にまとまっていれば実用的です。複数対応のルールや、社用携帯の取り扱いなど、業界で実践されている工夫も取り入れていきましょう。

ステップ4:記録を一元化し、事実ベースで対応する

四つめに、やり取りの記録を物件・入居者にひもづけて一元管理します。いつ・誰が・どんな要求を受け、どう対応したかが一か所に集まっていれば、担当者が代わっても経緯を引き継げ、オーナーへの説明も事実ベースでできます。記録がスタッフ個人のメモや記憶に散らばっていると、対応の判断もオーナー報告も後手に回ります。督促や苦情の経緯が案件とつながって残る状態を保つことが、毅然とした対応と、後々のトラブル防止の前提になります。

ステップ5:研修と振り返りで体制を回す

最後に、整えた体制を一度きりにせず回し続けます。管理職向けに「現場で起きたときにどう守るか」を共有し、実際に起きた事例を振り返って手順を更新することで、対策は形だけのものになりません。年に数回でも、最近の対応事例を持ち寄って「あの線引きで良かったか」を話す場があるだけで、判断の精度は上がります。施行に向けて一度整えたら、運用しながら自社に合う形に育てていく。地味ですが、これが定着の近道です。

場面別の対応指針

賃貸管理の現場で起こりやすい4つの場面について、対応の方向性を整理します。いずれも、正当な要望には誠実に応じつつ、理不尽な言動には会社として線を引く、という原則は共通です。自社の体制に合わせて取り入れてください。

ケースA:家賃督促時の暴言・脅迫

督促は感情がぶつかりやすく、長時間どなられたり脅されたりしやすい場面です。支払いの相談には冷静に応じる一方で、暴言や脅迫が始まったら通話を記録し、対応を一人に背負わせず上長や窓口に共有します。滞納の事実への対応と、言動への対応を切り分けることが要点です。早期の連絡と記録の徹底については、滞納対応のSOPもあわせて整えておくと現場が動きやすくなります。

ケースB:緊急性のない深夜・早朝の対応要求

本当の緊急対応と、緊急でない要求を切り分けることが大切です。設備の重大な故障など真に急を要するものには体制を整えて対応しつつ、緊急性のない用件については対応できる時間帯を明確に伝えます。深夜・早朝の呼び出しに個人の善意で際限なく応じていると、担当者が疲弊します。受付の窓口や時間の範囲をあらかじめ決め、入居者にも周知しておくことで、無理のない線引きができます。

ケースC:根拠のない無償修繕・金銭の要求

契約や原状回復の考え方に照らして、応じるべき範囲かどうかを事実で判断します。正当な修繕義務には速やかに対応する一方、根拠のない無償要求や過大な金銭要求には、契約内容と経緯の記録に基づいて毅然と説明します。応じるまで毎日電話で迫る、といった行為が続く場合は、窓口を一本化し、複数で対応する体制に切り替えます。判断の根拠を記録で示せることが、現場の毅然さを支えます。

ケースD:SNS・口コミでの誹謗中傷

事実に基づく不満の表明と、虚偽や個人攻撃を含む誹謗中傷は分けて考えます。サービスへの正当な批判は真摯に受け止めて改善につなげ、事実に反する中傷や担当者個人への攻撃については、記録を保全したうえで会社として対応方針を決めます。担当者個人が感情的に反応せず、会社として落ち着いて対処することが、二次的なトラブルを防ぎます。深刻な場合は、専門家への相談も選択肢に入れておきましょう。

カスハラ対策で避けるべき5つのNG

最後に、対策を進める場面で現場がやりがちな失敗を5つ挙げておきます。いずれも「お客様商売だから」という思い込みや、体制を作らないまま現場任せにすることから生じるものです。

NG1:すべてを個人の我慢で処理させる

理不尽な要求への対応を担当者の忍耐に委ねると、心身を削り、離職につながります。会社が方針として線を引き、困ったら上げてよいと明示することが第一歩です。

NG2:正当な苦情まで「カスハラ」と切り捨てる

線引きを口実に、本来応えるべき正当な要望まで遠ざけては本末転倒です。誠実に応じるべき苦情と、業務の範囲を超えた言動を、事実で見極める姿勢を保ちましょう。

NG3:記録を残さず「言った言わない」にする

やり取りを記録せず記憶任せにすると、対応の判断もオーナー報告も後手に回ります。いつ・誰が・何を、を案件にひもづけて残す習慣を、対策の土台に据えましょう。

NG4:相手がオーナーだと線引きをやめてしまう

相手がオーナーでも、業務の範囲を超えた理不尽な言動には会社として向き合う必要があります。守るべきは自社の従業員だという原則を、相手によって曲げないことが大切です。

NG5:規程を作って終わりにする

立派な規程を作っても、現場が動けなければ意味がありません。簡単な手順書と相談ルート、研修と振り返りまでをセットで回し、実際に使える体制に育てましょう。

よくある質問

Q1. カスハラ対策の義務化は、いつから始まりますか。
カスタマーハラスメント対策を事業主の措置義務とする改正労働施策総合推進法は2025年6月に成立し、2026年10月1日から施行されます。具体的に講ずべき措置の細目は国の指針で示されるため、導入時は厚生労働省など提供元の最新情報を必ず確認してください。

Q2. 従業員が数名の小さな会社も対象ですか。
対象です。今回の義務は、従業員を一人でも雇用しているすべての企業に適用され、企業規模による適用猶予は設けられていません。数名で回す管理会社や仲介会社であっても、施行日までに方針と相談体制を整えておく必要があります。

Q3. 具体的に何を整えればよいのですか。
大きくは、カスハラを防ぐ方針を定めて周知すること、相談に応じる窓口や報告ルートを整えること、被害を受けた従業員へ配慮することです。あわせて、現場で使える対応マニュアルと、やり取りの記録を一元管理する仕組みを用意しておくと実用的です。

Q4. 正当なクレームとカスハラは、どう区別すればよいですか。
サービスへの正当な苦情・要望は誠実に受け止めるべきものです。一方、暴言・脅迫・長時間の拘束・人格否定・土下座などの強要・事実に反する中傷といった、業務の範囲を超えた言動はカスハラに当たり得ます。自社で類型を定義し、事実に基づいて見極める姿勢が大切です。

Q5. 相手がオーナーの場合も、カスハラ対策の対象になりますか。
相手が誰であっても、従業員を守るという原則は変わりません。オーナーは大切な取引先ですが、業務の範囲を超えた理不尽な言動には、会社として落ち着いて線を引く必要があります。事実の記録に基づいて経緯を説明できる体制が、その支えになります。

Q6. 体制を整えると、入居者対応の質が下がりませんか。
むしろ上がります。線引きを共有すると、正当な苦情には丁寧に、理不尽な要求には毅然と、という対応が揃い、声の大きい相手ほど得をする不公平が減ります。線を引くことはサービスを下げることではなく、まじめな多くの入居者やオーナーを公平に扱うための適正化です。

Q7. まず何から始めればよいですか。
やり取りの記録を案件にひもづけて残すことと、困ったら上げてよいという相談ルートを決めることからです。立派な規程より先に、現場が実際に動ける土台を整えるほうが効果が出ます。数件の対応事例を振り返りながら、自社に合う形へ育てていくのが現実的です。

まとめ:線を引く根拠ができた今こそ、現場を守る体制を整える

カスハラ対策の義務化は、「お客様商売だから」と理不尽な要求まで個人の我慢で飲み込んできた中小不動産の現場に、会社として線を引いてよいという根拠を与えてくれる動きです。2026年10月1日の施行に向け、カスハラの定義を社内で決め、相談窓口と報告ルートを作り、現場で使える対応マニュアルを用意し、やり取りの記録を一元管理し、研修と振り返りで回していく。この5つを整えた会社は、スタッフが辞めにくくなり、対応品質が安定し、オーナーへの説明責任も果たせるようになります。ただし、義務化が現場を守ってくれるわけではありません。守ってくれるのは、線を引き、記録を残し、複数で対応する——つまり制度を活かせるよう体制を整えた会社だけです。施行までの数か月は、規程を一気に作る時間というより、現場が実際に動ける土台を、今日から一つずつ整えるための時間です。まずは、督促や苦情のやり取りを案件にひもづけて残すところから始めてみてください。地味な整備ですが、新しいルールを現場の安心に変えられるかどうかは、結局この土台で決まります。今日も一件、丁寧に積み上げていきましょう。

著者: 馬場生悦(宅地建物取引士)。ウルスタ代表。中小不動産会社向け実務メディアを運営する傍ら、自社で210室規模の賃貸住宅を管理・客付けする。本記事は自社運用の実感と、カスタマーハラスメント対策を事業主の措置義務とする改正労働施策総合推進法(2025年6月成立・2026年10月1日施行)、および賃貸住宅管理業界向けのカスハラ対策の考え方に関する公開情報に基づく実務整理として執筆。講ずべき措置の細目は国の指針で示されるため、導入時は必ず厚生労働省など提供元の最新情報を確認すること。

参照: 厚生労働省「令和7年 労働施策総合推進法等の一部改正について」(カスタマーハラスメント対策の措置義務化・2026年10月1日施行) / 政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容」 / 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 賃貸住宅管理業界向けカスタマーハラスメント対策の考え方(2025年公表) / 各社報道(2025〜2026年時点の公開情報)