不動産市場の「K字型の二極化」は、公的統計でも、物件の種類と地域による値動きの差としてあらわれています。国土交通省の不動産価格指数(2025年12月分)では、マンション(区分所有)が2010年平均を100として225.1なのに対し、住宅地は119.8、戸建住宅は121.9です。空き家は900万2千戸と過去最多になり、日本銀行は2026年9月に政策金利を引き上げました。中小不動産会社は、伸びている市場を追いかけるより、自分の地域で続く収益を積み上げ、金利と空室に備える方向で考えるのが現実的です。
K字型の二極化とは
「K字型」は、同じ時期に上向く部分と、横ばい・下向きの部分に分かれていく様子を、アルファベットのKの形にたとえた言い方です。統計上の正式な用語ではありません。この記事では、不動産の市場で「物件の種類」「地域」「事業者の規模」によって動きが分かれている状態を指して使います。
大事なのは、二極化を印象で語らないことです。以下では、国土交通省、総務省、日本銀行の資料で確かめた数字だけを使って、何が分かれているのかを見ていきます。
公的データで見る二極化
物件の種類による差:不動産価格指数
国土交通省が2026年3月31日に公表した不動産価格指数(2025年12月分、季節調整値、2010年平均=100)の全国の値は次のとおりです。
| 区分 | 指数(2010年平均=100) | 読み取れること |
|---|---|---|
| 住宅総合 | 148.0 | 住宅全体では2010年の約1.5倍の水準 |
| 住宅地 | 119.8 | 土地の上昇は比較的ゆるやか |
| 戸建住宅 | 121.9 | 住宅地と近い水準 |
| マンション(区分所有) | 225.1 | 2010年の2倍を超える水準で、ほかの区分との差が大きい |
同じ「住宅」でも、マンションと戸建・土地では上がり方がまったく違います。マンションの売買が多い都市部の会社と、戸建や土地の取引が中心の地方の会社では、同じ数年間でも見えている景色が違うということです。
地域による差:地価調査と人口移動
国土交通省が2026年9月15日に公表した令和8年都道府県地価調査では、全国の全用途平均・住宅地・商業地のいずれも5年連続で上昇し、地方圏でも4年連続で上昇しました。一方で、国土交通省は地域や用途によって差があるとしています。全国平均が上がっていても、自社の商圏の地点が同じように動いているとは限りません。
人の流れも偏っています。総務省の住民基本台帳人口移動報告(2025年結果、2026年2月3日公表)では、東京圏は12万3534人の転入超過でした。前年からは1万2309人縮小していますが、転入超過は続いています。
ストックの余り:住宅・土地統計調査
総務省の令和5年住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在)では、総住宅数は6504万7千戸で過去最多、空き家は900万2千戸で過去最多、空き家率は13.8%で過去最高でした。このうち賃貸用の空き家は443万6千戸、賃貸・売却用と二次的住宅を除く空き家は385万6千戸(総住宅数の5.9%)です。
賃貸用の空き家が多いということは、入居者が物件を選べる立場にあるということです。築年数や設備、管理の質で選ばれる物件と選ばれない物件の差が、空室として表に出やすくなります。
金利:日本銀行の政策金利
日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.25%程度で推移するよう促す方針に変更しました。7月31日の会合時点では1.0%程度でした。借入れのある会社やオーナーにとって、金利は規模を問わずかかってくるコストです。
| 指標 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| マンション(区分所有)の価格指数 | 225.1(2025年12月分、2010年平均=100) | 国土交通省 不動産価格指数 |
| 住宅地の価格指数 | 119.8(同) | 国土交通省 不動産価格指数 |
| 地価(全国・全用途平均) | 5年連続上昇(令和8年地価調査) | 国土交通省 都道府県地価調査 |
| 東京圏の転入超過 | 12万3534人(2025年) | 総務省 住民基本台帳人口移動報告 |
| 空き家数・空き家率 | 900万2千戸・13.8%(2023年) | 総務省 住宅・土地統計調査 |
| 政策金利 | 1.25%程度(2026年9月18日決定) | 日本銀行 |
中小不動産会社が受けやすい影響
ここからは、上の数字をもとにした考え方の整理です。効果や確率を示すものではありません。
- 売買仲介の収益が一件ごとに途切れる:売買の手数料は成約したときにしか入りません。取引が多い市場の会社と少ない市場の会社で、受ける影響が分かれます。
- 賃貸の空室が増えやすい地域がある:賃貸用の空き家が多い中では、選ばれにくい物件の空室が長引き、管理料の収入にも響きます。
- 金利が借入れのコストに効く:自社の借入れだけでなく、管理を任されているオーナーの返済にも効きます。オーナーの資金繰りが苦しくなると、修繕の先送りや売却の相談につながります。
- 人件費や外注費の上昇を価格に移しにくい:管理料や手数料は簡単には上げられないため、一件あたりの手間が利益を左右します。
中小不動産会社の戦略の考え方
継続して入る収益を厚くする
売買の手数料は大きい一方で、時期によって波があります。賃貸管理の管理料のように毎月入る収益を積み上げると、市場の波を受けても固定費を払い続けやすくなります。管理を受けるときは、管理受託契約で業務の範囲と管理料を明確にし、契約外の業務は別に見積もる形にしておくと、手間と収入が見合わなくなるのを防げます。
自分の地域のストックに向き合う
空き家が過去最多という統計は、地域の会社にとっては相談の種でもあります。相続した家の売却や賃貸化、古いアパートの修繕と募集の見直し、建替えか売却かの判断など、地域の建物を長く見てきた会社だからこそ受けられる相談があります。全国平均の地価が上がっていても、地域の実際の取引事例を一件ずつ説明できることが信頼につながります。
一件あたりの事務を標準化する
契約書・重要事項説明書の作成、入金の確認、オーナーへの送金、更新の案内といった定型の業務は、手順を決めて同じ形で回すほど、人が増えなくても件数を受けられるようになります。担当者が辞めても業務が止まらないことは、小さな会社ほど大事です。
金利と資金繰りを点検する
自社の借入れが変動金利か固定金利か、次の見直しはいつか、返済額が増えた場合に月々の資金がどうなるかを確かめます。オーナーには、事実と見通しを分けて説明することが大切です。説明の組み立ては日銀利上げを賃貸オーナーへどう説明するかで整理しています。
オーナーへの提案に出典を添える
賃貸用の空き家が443万6千戸ある中では、入居者は物件を比べて選びます。設備の更新や募集条件の見直しをオーナーに提案するときは、「周りも上げているから」ではなく、どの統計のどの数字にもとづく提案なのかを資料名とあわせて示すと、判断の材料として受け取ってもらいやすくなります。根拠の弱い数字を使わないことは、オーナーとの長い関係を守ることにもつながります。
自社の商圏の数字を集める手順の例
全国の数字だけでは、自社の地域の動きは分かりません。次の順で、商圏の数字を集めておくと、オーナーへの説明や自社の計画に使えます。
- 都道府県地価調査と地価公示で、商圏にある地点の価格と変動率を確かめる。
- 国土交通省の不動産情報ライブラリで、周辺の不動産の取引価格や地価公示などの価格情報を地図から確かめる。
- 住民基本台帳人口移動報告で、自社の都道府県が転入超過か転出超過かを確かめる。
- 住宅・土地統計調査で、都道府県の空き家率と、賃貸用の空き家の状況を確かめる。
- 集めた数字を、資料名・公表日とあわせて1枚にまとめ、年に1回更新する。
毎月見直す経営のチェックリスト
数字の目標値は会社ごとに違うため、ここでは「何を見るか」だけを挙げます。
| 軸 | 確認すること | 見る資料の例 |
|---|---|---|
| 収益の構成 | 売上のうち、毎月入る収益(管理料など)と一回限りの収益(仲介手数料など)の割合 | 月次の試算表、管理受託契約の一覧 |
| 空室 | 管理物件の空室の数と、空室が続いている期間 | 物件・入居者の台帳 |
| 更新と解約 | 更新が近い契約、解約の予告が出た契約 | 契約の一覧 |
| 入金 | 家賃の未収と督促の状況 | 入金の記録 |
| 一件あたりの手間 | 契約や送金の業務に何時間かかっているか、どこで手戻りが出ているか | 業務の手順書、担当者への聞き取り |
| 資金繰り | 3か月先までの入出金の見込み、借入れの金利と見直し時期 | 資金繰り表、金銭消費貸借契約書 |
| 地域の市場 | 自社の商圏の地価、人口の動き、空き家の状況 | 都道府県地価調査、住民基本台帳人口移動報告、住宅・土地統計調査 |
ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、入金の記録、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を扱えます。チェックリストのうち空室・更新・入金の欄は、こうした日々の記録から拾うと、月次の見直しの手間が減ります。
この局面で避けたい判断
- 全国平均の地価上昇を、そのまま自社の商圏の見通しとしてオーナーに伝える。
- 出典を確かめていない数字や「相場」を、提案書や広告に使う。
- 金利の見通しを断定的に説明する。日本銀行の決定は会合ごとに変わり得ます。
- 手数料や管理料を下げて件数を取りにいき、一件あたりの手間で赤字になる。
- 定型業務を担当者の記憶に頼ったままにする。
よくある質問
Q1. 「K字型」は国の統計で使われている言葉ですか
統計上の正式な用語ではありません。この記事では、物件の種類や地域によって値動きが分かれている状態を説明するために使っています。
Q2. 地方の不動産会社は不利なのですか
令和8年地価調査では地方圏も4年連続で上昇しています。一方で、地域や用途による差があるとされているため、自社の商圏の地点を個別に確かめることが大切です。不利かどうかは地域と事業の組み立てによります。
Q3. 金利が上がったら、まず何を見直せばよいですか
自社と主なオーナーの借入れが変動金利か固定金利か、見直しの時期はいつかを把握することから始めます。返済額の試算は金融機関の条件で行います。
Q4. 統計の更新はどこで確かめればよいですか
地価は国土交通省の地価公示(毎年3月ごろ)と都道府県地価調査(毎年9月ごろ)、価格の動きは国土交通省の不動産価格指数、人口の動きは総務省の住民基本台帳人口移動報告、金利は日本銀行の金融政策決定会合の公表資料で確かめられます。
Q5. 不動産業の倒産が増えているという報道はどう扱えばよいですか
倒産件数の集計は民間の調査会社が公表しているものが多く、この記事では公的資料で確かめた数字だけを使いました。報道の数字を使うときは、調査会社名と集計の対象・期間を確かめてから引用してください。
まとめ
公的データを見ると、マンションと戸建・土地の価格の差、東京圏への人の集中、過去最多の空き家、政策金利の引き上げという形で、二極化は数字にあらわれています。中小不動産会社にとって大切なのは、上側の市場を追うことより、自分の地域で継続収益を積み上げ、一件あたりの手間を減らし、金利と空室に備えることです。毎月同じチェックリストで自社の数字と地域の統計を並べて見ることが、その出発点になります。
筆者は宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士です。自社で賃貸住宅210戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。
出典(本文で参照している資料)
- 国土交通省「不動産価格指数(令和7年12月・令和7年第4四半期分)を公表」(2026年3月31日)
- 国土交通省「全国の地価動向は全用途平均で5年連続上昇~令和8年都道府県地価調査」(2026年9月15日)
- 国土交通省 令和8年都道府県地価調査の概要(報道発表資料)
- 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果の要約
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)
- 日本銀行「当面の金融政策運営について」(2026年7月31日)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。