消費者庁は2026年9月18日、水回りの給排水管工事と害虫駆除を訪問販売する株式会社HOPE Group(東京都新宿区)に対し、関東経済産業局が特定商取引法にもとづく9か月の業務停止命令と指示を出し、代表取締役にも9か月の業務禁止を命じたと公表しました。公表資料の事例は、「詰まりトラブル今すぐお電話を 980円〜」の広告を見て呼んだ作業員が、3万円までのつもりだった消費者に想定より30万円以上高い契約をさせ、「今日、現金で預かっていきますよ」と銀行のATMまで連れて行き、後日のクーリング・オフには「工事は終わっているので応じられないが、減額には応じる」と答えた、というものです。トイレ・水漏れ・鍵・害虫の「暮らしのレスキューサービス」の相談は年5,000件を超え、消費者委員会のアンケートでは被害に遭った人の4人に1人が賃貸住宅に住んでいます。賃貸の水回りと鍵は貸主の設備で、修繕は貸主の義務です。入居者が「980円〜」を検索する前に管理会社の番号が目に入っていれば、この商法は成立しません。処分の中身、相談の数字、民法606条と特定商取引法26条6項1号の読み方、契約してしまった入居者の8日間、入居者に配る一枚の雛形、今週やる5つ、オーナー報告書に足す2行までをまとめます。
結論(90秒で読める)
- 関東経済産業局は9月17日、水回り工事と害虫駆除の訪問販売業者に2026年9月18日から2027年6月17日までの9か月間、勧誘・申込受付・契約締結を止める業務停止命令を出しました。違反は、契約書面に会社名と代表者名が無い、クーリング・オフに「訪問販売には該当しない」と嘘を言った、一部しか返金しなかった、意に反してATMへ連行した、の4つです。
- 事例は2つとも、消費者の側から広告の番号に電話して呼んでいます。「550円〜」で1万円までのつもりが10万円以上上回る契約に、「980円〜」で3万円までのつもりが30万円以上上回る契約になりました。自分から呼んでも、その金額で契約する意思が無かったのなら訪問販売で、クーリング・オフができます(特商法26条6項1号・消費者庁Q&A)。
- 国民生活センターのPIO-NETでは、トイレ修理の相談が2023年度2,316件(平均約14万円)、鍵が2024年度の12月末までで1,334件(前年度通年を超過)、害虫駆除が同2,205件(同・平均約23万円)。契約者の平均年齢は50歳前後で、分電盤の点検商法(80代が中心)とは違い、働き盛りの入居者が遭う商法です。
- 消費者委員会のアンケート(被害経験者700人)では、賃貸に住む人が27.6%、きっかけはスマートフォン検索34.0%・パソコン検索22.4%、決め手は「安い金額」38.6%・「見積もり無料」36.1%・「検索の一番上」33.4%。約6割が困ったその日のうちに電話し、広告5,000円→想定9,000円→請求20,000円が中央値です。
- 賃貸の給排水設備と鍵は貸主の設備で、修繕は貸主の義務です(民法606条1項)。入居者が自分で修繕できるのは、通知しても相当の期間内に直されないときか、急迫の事情があるときに限られます(607条の2)。入居者が先に管理会社へ電話すれば、レスキュー業者の出番はありません。
- 管理会社の仕事は、入居者が検索する前に目に入る場所に自社の緊急連絡先を置くことです。入居時の書類だけでは足りません。トイレのタンク横、玄関ドアの内側、冷蔵庫のマグネットの3か所に「詰まり・水漏れ・鍵・虫は、まず当社へ」の一枚を置きます。
- 今週やるのは、一枚を作って全戸に配る、夜間・休日の一次受けを決める、水回り・鍵・害虫の手配先を決めて単価を控える、8日の動き方を全員で共有する、報告書に2行足す、の5つです。
9月18日に公表されたこと|業務停止9か月・違反4つ・事例2つ
処分をしたのは、消費者庁長官から権限委任を受けた関東経済産業局長です(特商法69条3項)。命令は9月17日、公表は18日、停止期間は18日から始まります。対象は「水回りの給排水管工事」と「害虫駆除及び駆除後の予防措置」を消費者宅で契約する事業者で、設立2023年5月8日・資本金500万円。設立から2年の会社です。
| 項目 | 資料の記載 | 読み方 |
|---|---|---|
| 業務停止命令(8条1項) | 2026年9月18日〜2027年6月17日の9か月。勧誘・申込みの受付・契約の締結を停止 | 消費者委員会は「会社名を変えて同じ勧誘を繰り返すケース」を課題に挙げている。社名で覚えても防げない |
| 指示(7条1項) | 法令遵守体制の整備、2025年7月1日〜2026年9月17日に契約した全員へ10月19日までに処分内容を書面等で通知し報告 | この期間に契約した入居者がいれば、業者から通知が届く。届いた入居者が管理会社に相談に来る可能性がある |
| 業務禁止命令(8条の2第1項) | 代表取締役が同じ9か月間、同じ業務を新たに始めること(役員になることを含む)を禁止 | 別会社を立てて続ける道を、代表者個人について塞いだ |
| 違反1(5条1項) | 2025年2〜6月、契約書面に会社の名称と代表者の氏名を記載していなかった | 書面に会社名が無ければ、消費者はクーリング・オフの通知をどこに送ればよいか分からない |
| 違反2(6条1項5号) | 2025年7月、クーリング・オフを申し出た消費者に「訪問販売には該当しない」と不実を告げた | 自分から呼んだ客には適用されない、という言い分。次章と「請求した者」の章で崩す |
| 違反3(7条1項1号) | 2025年2〜7月、「○円の返金は可能」「既に工事は終わっているのでクーリング・オフには応じられないが、減額には応じる」と、全額返還を拒否 | クーリング・オフは全額返還。工事が終わっていても関係ない |
| 違反4(施行規則18条6号ロ) | 2025年2月、代金を払わせるため、消費者の意に反して金融機関のATMへ連行 | 「振込みだと大変だし手数料もかかる。一緒にATMまで行った方が楽」が資料に書かれた文言 |
「980円〜」が30万円になるまで|事例の流れを分解する
公表資料の事例2は、そのまま入居者説明に使える流れです。消費者Cは親族Dに「トイレの修繕工事をしてくれる業者を探してほしい」と頼み、Dは「詰まりトラブル今すぐお電話を 980円〜」の表示を見て電話しました。金額の説明は受けておらず、Cは「高くても3万円程度」の意思しか持っていませんでした。その日に来た作業員Xは想定より30万円以上上回る契約を締結させ、Cが「現金では払えない」と言ったのに「今日、現金で預かっていきますよ」とATMへ連れて行き、出金させました。Cがクーリング・オフを通知すると、Xは消費生活センターの相談員に「既に工事は終わっているのでクーリング・オフには応じられないが、減額には応じる」と告げ、一部だけ返しました。
| 段階 | 事例2で起きたこと | 賃貸ならここで止まる |
|---|---|---|
| 1. 困る | トイレが詰まる。本人ではなく親族が業者を探す | 入居者・家族の目に入る場所に管理会社の番号があれば、検索が始まらない |
| 2. 検索する | 「980円〜」の表示を見て電話。内容も金額も聞いていない | 「詰まり・水漏れは貸主の設備。まず管理会社へ」を知っていれば、電話の相手が変わる |
| 3. 来る | その日に作業員が来て、想定より30万円以上高い契約を勧誘 | 管理会社の手配先なら、単価を管理会社が知っている。入居者が金額を判断する場面が無い |
| 4. 払う | 現金が無いと言うとATMへ連行し、即日で出金 | 貸主負担の修繕なら、入居者はそもそも払わない |
| 5. 気づく | クーリング・オフを通知。業者は「工事は終わっている」と一部返金のみ | ここに来た入居者を、8日のうちに188へつなぐ(後述) |
事例1(害虫駆除)も同じ形です。「関東エリア最安値に挑戦!550円(税込)〜」を見て電話し、1万円までのつもりが10万円以上上回る契約になり、クーリング・オフを申し出ると「訪問販売には該当しない」と言われました。どちらも消費者が広告の金額で契約する程度の意思しか持っていなかったと資料に明記されています。この一文が、あとで効きます。
相談は年5,000件超|鍵と害虫は9か月で前年度を超えた
国民生活センターが2025年2月18日の消費者委員会に出した資料は、PIO-NETに2024年12月末までに登録された相談を、サービスの種類ごとに年度で並べています。2024年度は12月末までの9か月分です。
| 種類 | 2021年度 | 2023年度 | 2024年度(12月末まで) | 平均契約購入金額 | 平均年齢・職業 |
|---|---|---|---|---|---|
| トイレ修理 | 2,677件 | 2,316件(うち電子広告1,345) | 1,279件(同740) | 約14万円 | 51.3歳・給与生活者48.8% |
| 水漏れ・排管の詰まり | 931件 | 792件(同253) | 503件(同186) | 約13万円 | 62.3歳・無職36.8% |
| 鍵の修理・交換 | 1,335件 | 1,114件(同604) | 1,334件(同802)=前年度通年を超過 | 約7万4,000円 | 50.1歳・給与生活者49.9% |
| 害虫・害獣の駆除 | 1,147件 | 2,115件(同1,234) | 2,205件(同1,450)=前年度通年を超過 | 約23万円 | 51.9歳・給与生活者44.7% |
4種類を足すと2023年度は6,337件で、2016年度の2,437件(国民生活センター2021年公表)から2.6倍です。電子広告がきっかけの割合は、消費者委員会の意見によれば2014年度の約15%から2024年度は約55%になり、害虫駆除は2024年度分だけで65.8%です。契約者の平均年齢は水漏れを除いて50歳前後、給与生活者が半分近くです。3日前に扱った分電盤の点検商法は契約者の8割が70歳以上で、電話から始まる商法でした。こちらは働き盛りの入居者が、自分のスマートフォンで自分から呼ぶ商法です。見守りの対象が違います。
被害者の4人に1人は賃貸に住んでいる|消費者委員会のアンケート
内閣府消費者委員会は2025年3月、不当な請求を受けて支払った経験のある18歳以上700人(5類型×140人)にインターネット調査をし、8月4日の意見に結果を付けました。住居形態は、持ち家の一戸建て55.4%、分譲マンション16.1%に対し、賃貸の一戸建て5.1%・マンション14.4%・アパート8.0%で、賃貸の合計は27.6%です(本稿の合算)。
業者と連絡を取ったきっかけは、スマートフォンでの検索34.0%、パソコンの検索22.4%、バナー広告12.1%で、電子的なものが7割近くです。マグネット広告は5.6%、「家族、知人、家主等からの助言」は4.7%。決め手(3つまで)は「安い金額」38.6%、「見積もり無料」36.1%、「検索結果の一番上」33.4%。連絡したタイミングは「すぐ」30.9%・「同日中」31.3%で、約6割がその日のうちに電話しています。時間帯は午後49.7%、夜間(18〜24時)20.7%、深夜3.3%です。
広告に書かれていた金額の中央値は5,000円、そのとき想定した費用は9,000円、実際に請求された金額は20,000円でした。トラブルの内容は「想定より高額な請求」37.1%、「現金での支払いを強要された」23.4%、「クーリング・オフできないと説明された」17.7%、「ATM等で現金を用意するように迫られた」11.1%。9月18日の処分は、この4つを一社で全部やった事例です。
自由記述には、管理会社に向けた一文があります。「賃貸物件なので入居時に事前に説明があればトラブルに遭わない。管理体制側からの指示対応」。国民生活センターの事例4も、賃貸アパートに深夜ゴキブリが出て「約500円から」の広告に電話し、約10万円をカードで払った翌日、管理会社の委託業者に「料金が相場よりかなり高い」と言われた、というものです。その夜に管理会社へ電話していれば済んだ話です。
賃貸では最初の電話の相手が違う|民法606条・607条の2・608条
持ち家の人がトイレの業者を自分で探すのは当然ですが、賃貸は違います。民法606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定め、ただし書で賃借人の責めに帰すべき事由による場合を除いています。給排水管、便器、蛇口、玄関の鍵は賃貸物の一部です。入居者が最初に電話する相手は業者ではなく貸主か管理会社で、業者の選定と発注は貸主側の仕事です。
入居者が自分で修繕できる場面は、607条の2が2つに限っています。「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき」と「急迫の事情があるとき」です。夜中に水が止まらない、鍵が開かず家に入れない、は急迫の事情に当たりうるので、自分で業者を呼ぶこと自体は否定されません。そのとき払った費用は、貸主の負担に属する必要費なら608条1項で「直ちにその償還を請求することができる」となります。
ここに、管理会社が先に動く理由があります。入居者がレスキュー業者に30万円を払い、翌日オーナーに「必要費として償還してほしい」と言ってきたとき、その30万円が「貸主の負担に属する必要費」の額なのかは争いになります。管理会社の手配先なら3万円で済んだ作業に30万円を払った入居者と、3万円しか認めたくないオーナーの間に、管理会社が立つことになります。まず管理会社の緊急番号にかける、つながらなければ管理会社が指定した手配先にかける、という順番を入居時に決めておくのが、606条から608条までを一度に片づける方法です。夏の休業中の緊急対応で書いた一次受けと業者手配の型が、そのまま通年の型になります。
害虫は、原因が入居者の生活にあるのか建物にあるのかで費用の負担が分かれます。ただ、それを決めるのも入居者ではなく管理会社です。事例4のように翌日に委託業者が見に来るなら、その業者に最初から来てもらえばよかったのです。
自分から呼んでも訪問販売|特商法26条6項1号の「請求した者」
今回の業者は、クーリング・オフを申し出た消費者に「訪問販売には該当しない」と告げて処分されました。言い分の根拠は特商法26条6項1号でしょう。同号は、「その住居において…契約を締結することを請求した者に対して行う訪問販売」には4条から10条まで(書面交付、クーリング・オフを含む)を適用しないと定めています。自分から呼んだ客は保護しない、と読める条文です。
消費者庁の「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」は、この「請求した者」を狭く読んでいます。「契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした場合が該当」し、「鍵の修理 3,000円〜」のチラシを見て依頼したら数万円になった事例では、「表示額と実際の請求額に相当な開きがあることから、消費者は、当初修理依頼をした段階では、安価なチラシの表示額で契約を締結する程度の意思しか有しておらず」、「請求した者」とはいえず適用除外の対象とはならない、と書いています。9月18日の資料が「高くても3万円程度の料金で契約する意思しか有していなかった」と書いているのは、この判断の材料です。
訪問販売に当たれば、契約書面を受け取った日から起算して8日を経過するまで、書面または電磁的記録で申込みの撤回・解除ができます(9条1項)。事業者が不実を告げて消費者が誤認したときは、その8日は進みません。そして今回の書面には会社名も代表者名もありませんでした。入居者が「980円のつもりが30万円だった」と言ってきたら、「自分で呼んだからクーリング・オフはできない」と諦めさせないでください。判断は消費生活センターがしますが、管理会社は諦めない側に立ちます。
契約してしまった入居者に管理会社がやること|8日の動き方
管理会社が法律相談をする必要はありません。やるのは、日付を確かめる、書面を見る、188につなぐ、設備を見る、オーナーに報告する、の5つです。
| いつ | やること | 確かめること |
|---|---|---|
| 相談を受けた当日 | 契約書面を写真で送ってもらう。受け取った日付、会社名、代表者名、住所、電話番号、金額 | 会社名・代表者名が無ければ、今回の処分と同じ書面不備。8日の起算がどうなるかは188で確認 |
| 当日 | 入居者に消費者ホットライン188へ電話してもらう。管理会社が同席・同行してもよい | 「自分で呼んだのでクーリング・オフはできない」と言われていたら、消費者庁Q&Aの考え方を相談員に伝える |
| 当日〜翌日 | クーリング・オフは書面または電磁的記録。相談員の指示で、内容証明かメールで送る。控えを残す | 「工事が終わっている」「減額なら応じる」は理由にならない(7条1項1号の指示対象) |
| 翌日〜3日目 | 管理会社の手配先に設備を見てもらい、作業の内容と、自社手配ならいくらだったかを記録 | 蛇口を取り外したまま帰るケースがある(国民生活センター事例2) |
| 3日目まで | オーナーに報告。貸主の設備に他社の作業が入ったこと、償還の話が出るかもしれないこと | 払った額をそのまま必要費と認めるかはオーナーの判断。手配先の単価を並べて示す |
| 8日を過ぎていたら | 諦めずに188。不実告知で誤認していれば8日は進んでいない | 2025年7月1日〜2026年9月17日にこの業者と契約した人には、10月19日までに処分の通知が届く |
入居者に配る一枚(雛形)
入居時の書類に入れるだけでは、困った夜に思い出せません。トイレのタンク横、玄関ドアの内側、冷蔵庫のマグネットの3か所に貼れる大きさで作ります。数字と連絡先は自社のものに差し替えてください。
詰まり・水漏れ・鍵・虫は、まず当社にお電話ください
お部屋の便器・排水管・蛇口・給湯器・玄関の鍵は建物の設備です。修理は貸主が手配し、費用は原則として貸主が負担します。ご自身で業者を探す前に、当社【電話番号】にご連絡ください。夜間・休日は【緊急連絡先】につながります。
インターネットで「980円〜」と表示された業者に電話をすると、その日に来た作業員から数十万円の契約を求められる相談が、全国で年5,000件を超えています。2026年9月には、想定より30万円高い契約をさせてATMまで連れて行った業者が9か月の業務停止を受けました。
もし当社につながらず、ご自身で業者を呼ばざるを得ないときは、作業の前に「作業内容と合計金額」を書面で受け取り、その場で現金を払わないでください。作業員と一緒にATMへ行く必要はありません。
もし契約してしまった場合でも、契約書を受け取った日から8日以内であれば、理由なく解除(クーリング・オフ)できることがあります。ご自身から業者を呼んだ場合も対象になります。すぐに当社【電話番号】と、消費者ホットライン188(お住まいの地域の消費生活センターにつながります)にご連絡ください。
この文面には、「まず当社へ」と「つながらなかったときの守り方」の両方が入っています。前半だけだと、深夜に当社がつながらなかった入居者は結局検索します。後半を削らないでください。
管理会社が今週やる5つ
- 上の一枚を作って全戸に配る。入居時の書類に足すだけでなく、既存の入居者にも郵送か投函する。配った日を管理台帳に書く。
- 夜間・休日の一次受けの番号を決める。自社の携帯、駆けつけサービスの委託先、どちらでもよいが、入居者が「つながらない」と感じる時間帯を無くす。つながらない時間があるなら、一枚の「つながらなかったとき」の段落を厚くする。
- 水回り・鍵・害虫の自社手配先を1社ずつ決め、標準的な作業の単価を控える。トイレの詰まり、蛇口の水漏れ、鍵の開錠、シリンダー交換、害虫駆除の5つで十分。入居者が他社で払った額と比べる物差しになる。
- 「契約してしまった入居者の8日」の表を、電話を受ける全員で共有する。「自分で呼んだからクーリング・オフはできない」と社員が言ってしまうのが一番まずい。
- オーナー報告書に2行足す。次の章の文面を、今月の報告書に入れる。
オーナー報告書に足す2行
消費者庁が9月18日に公表した水回り工事・害虫駆除の訪問販売業者の処分(9か月の業務停止)を受け、本物件の入居者様に「詰まり・水漏れ・鍵・虫は、まず当社へ」の案内を【配布日】に配布しました。便器・配管・鍵は貸主様の設備ですので、修理の手配と業者の選定は当社が行い、入居者様が高額な業者を呼んで償還を求める事態を防ぎます。
この2行は、「入居者を守る」だけでなく「オーナーの財布を守る」文です。入居者が30万円を払ってから償還を求めてくるより、管理会社が3万円で直す方が、オーナーにとっても安く済みます。
この資料が言っていないこと
処分の資料は、事例2の消費者が賃貸住宅の入居者かどうかを書いていません。国民生活センターの相談件数も住居形態を集計していないので、賃貸に限った件数は分かりません。「4人に1人が賃貸」はアンケート700人から本稿が合算したもので、相談全体の割合ではありません。「30万円以上上回る」は差額の下限で、契約金額そのものは書かれていません。適正な作業料金も書かれておらず、「平均約14万円」は相談のあった契約の平均で、相場ではありません。会社名の無い書面でクーリング・オフの起算日がどう扱われるかは資料に無い解釈の問題なので、本稿は「188で確認」としています。害虫駆除の費用を貸主と入居者のどちらが負担するかは原因によるので、本稿は決めていません。
よくある質問
Q1. 入居者が自分でレスキュー業者を呼ぶのは契約違反ですか?
民法607条の2は、貸主に通知しても相当の期間内に直されないときと、急迫の事情があるときに、賃借人が自分で修繕できると定めています。深夜の水漏れや閉め出しは急迫の事情に当たりうるので、呼ぶこと自体を契約違反とは言えません。問題は、そのときに払った額が貸主の負担に属する必要費としていくら認められるかです。だから「まず当社へ」を先に置きます。
Q2. 入居者が払った30万円を、オーナーは償還しなければなりませんか?
608条1項は「賃貸人の負担に属する必要費を支出したとき」に直ちに償還を請求できると定めています。30万円の全額が必要費に当たるかは、作業の内容と相当な額によるので、本稿は答えを出しません。管理会社ができるのは、自社手配なら いくらだったかを示すことと、入居者にクーリング・オフで業者から取り戻す道を先に案内することです。
Q3. 入居者が自分から電話で呼んだのに、クーリング・オフできるのですか?
特商法26条6項1号の「請求した者」は、消費者庁のQ&Aでは「契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした場合」に限られ、広告の表示額と請求額に相当な開きがあれば当たらないとされています。9月18日の処分は、「訪問販売には該当しない」と告げた業者を不実告知で処分したものです。最終判断は消費生活センターに任せますが、諦める理由にはなりません。
Q4. 工事が終わっていてもクーリング・オフできますか?
今回の処分は、「既に工事は終わっているのでクーリング・オフには応じられないが、減額には応じる」と告げて一部しか返さなかった行為を、解除によって生ずる債務の一部の履行拒否(7条1項1号)として指示の対象にしています。工事が終わっていることは、全額返還を拒む理由になっていません。
Q5. 鍵の交換をレスキュー業者にさせた入居者がいます。どうしますか?
玄関の鍵は貸主の設備なので、まず現物を見て、どのシリンダーに替わったかを記録し、合鍵の本数と退去時の扱いをオーナーと決めます。鍵の相談は2024年度の9か月で前年度の通年を超え、平均年齢50.1歳。単身の入居者ほど深夜の閉め出しで検索します。一枚を玄関ドアの内側に貼るのはこのためです。
Q6. 駆けつけサービスに加入している入居者にも、この一枚は要りますか?
要ります。アンケートでは、そうしたサービスに入っていたことがきっかけになった人が4.0%います。番号を覚えていない入居者は、困った瞬間に検索します。一枚に、加入しているサービスの番号を書く欄を作ってください。
まとめ
9月18日に公表された処分は、「980円〜」の広告で呼ばれた作業員が想定より30万円高い契約をさせ、ATMへ連れて行き、クーリング・オフに「工事は終わっている」と答えた業者に、9か月の業務停止を命じたものです。この商法の相談は年5,000件を超え、鍵と害虫は増え続け、被害者の4人に1人は賃貸に住み、6割はその日のうちに検索した業者へ電話しています。賃貸の水回りと鍵は貸主の設備で、修繕は貸主の義務です。入居者が検索する前に管理会社の番号が目に入っていれば、この商法は成立しません。管理会社の仕事は、トイレのタンク横と玄関ドアの内側と冷蔵庫に一枚を置くこと、夜間の一次受けを決めること、自社手配先の単価を控えること、契約してしまった入居者を8日のうちに188へつなぐこと、そしてオーナーに「手配は当社がする」と2行書くことです。
出典(本文で参照している資料)
本稿の記述は、すべて2026年9月20日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。処分の公表資料はPDF全10頁を読み、消費者委員会の意見と国民生活センターの資料は全文を取得して読み、条文はe-Gov法令検索の該当条のみを取得して読みました。
| 本稿で使った内容 | 資料 |
|---|---|
| 処分の日付・期間(2026年9月18日〜2027年6月17日)、対象役務、設立・資本金、違反4つ(5条1項・6条1項5号・7条1項1号・施行規則18条6号ロ)、指示の内容(10月19日までの通知)、事例1「550円(税込)〜」「10万円以上」、事例2「980円〜」「3万円程度」「30万円以上」「今日、現金で預かっていきますよ」「既に工事は終わっているのでクーリング・オフには応じられないが、減額には応じる」、代表取締役への業務禁止命令 | 消費者庁「訪問販売業者【 株式会社HOPE Group 】に対する行政処分について」(2026年9月18日)・同 公表資料(PDF・10頁) |
| 26条6項1号の「請求した者」は「明確な意思表示をした場合が該当」、「鍵の修理 3,000円〜」の事例、「相当な開き」があれば適用除外の対象とはならない | 消費者庁「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」(PDF) |
| 電子広告の割合(2014年度約15%→2024年度約55%)、アンケート(n=700)の住居形態・きっかけ・決め手・タイミング・時間帯・トラブル内容・中央値(5,000円→9,000円→20,000円)、自由記述「賃貸物件なので入居時に事前に説明があれば」、会社名を変えて繰り返すケース、事例4(賃貸アパートのゴキブリ・約10万円・管理会社の委託業者) | 内閣府消費者委員会「レスキューサービスに関する消費者問題についての意見」(2025年8月4日・PDF) |
| 種類別の年度別相談件数と電子広告の件数(2024年度は2024年12月末までの登録分)、平均契約購入金額、契約当事者の平均年齢と職業、事例1〜4の全文 | 国民生活センター「暮らしのレスキューサービスに係る消費者相談の概況」(第453回消費者委員会 資料1-1・2025年2月18日・PDF) |
| 年度別相談件数(2016年度2,437件〜2020年度5,882件)、電子広告が関わる割合(19.2%〜48.1%)、「950円〜」の広告 | 国民生活センター「水回り修理「950円~」のはずが…数十万円の高額請求に!」(2021年10月7日) |
| 2条1項(訪問販売の定義)、5条(書面の交付)、6条1項5号(撤回・解除に関する不実告知の禁止)、7条1項1号(解除によって生ずる債務の履行拒否)、8条1項(業務停止命令)、8条の2第1項(業務禁止命令)、9条1項(書面受領日から起算して八日、不実告知による誤認のときの扱い)、26条6項1号(その住居において契約を請求した者への適用除外) | 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)|e-Gov法令検索 |
| 606条1項(賃貸人の修繕義務・ただし書)、607条の2(賃借人による修繕ができる2つの場合)、608条1項(必要費の償還請求) | 民法(明治29年法律第89号)|e-Gov法令検索 |
本稿の計算:賃貸3区分の合計27.6%(193人÷700人)、4種類の合計6,337件と2016年度からの2.6倍、害虫駆除の電子広告65.8%(1,450÷2,205)は、資料の数字から本稿が出したものです。「賃貸ならここで止まる」の列、8日の動き方の表、一枚の雛形、「今週やる5つ」「報告書の2行」は本稿の整理です。事例の契約金額そのもの、適正な作業料金、賃貸に限った相談件数、会社名の無い書面での起算日の扱いは資料に無いので書いていません。


