賃貸管理 読了 26分

東京都が「貸主向け」に賃料見直しのルールを出しました(2026年9月8日)|特別相談窓口は5か月で約1,900件、1日あたり約21件。借主が都から教わっていることを管理会社側から読み、値上げ通知を出す前に揃える根拠3点と、書いてはいけない一文

東京都住宅政策本部は2026年9月8日、「賃貸住宅を経営されている皆様へ ~賃料見直しのルールをご存じですか?~」を公開し、9月10日には日本賃貸住宅管理協会が会員の管理会社に貸主への案内を依頼しました。2025年10月に開設した賃料値上げ特別相談窓口には、2026年2月末までに約1,900件の相談が寄せられています。借主向けだった啓発が、貸主・管理会社向けに向きを変えた月に、管理会社が知っておくべき条文と実務を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
東京都が貸主に賃料見直しの注意喚起|相談1,900件、通知前の根拠3点
目次

東京都住宅政策本部は2026年9月8日、「賃貸住宅を経営されている皆様へ ~賃料見直しのルールをご存じですか?~」というページを公開しました。宛先は借主ではなく貸主です。9月10日には公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)がこれを会員に転載し、「賃貸住宅管理会社の皆様におかれましても、貸主へのご案内をお願いいたします」と書きました。2025年10月に都が開設した賃料値上げ特別相談窓口には、2026年2月末までに約1,900件の相談が寄せられています。都は1年かけて借主に「応じなくてよい」「従来の家賃を払えば住み続けられる」と教えてきました。その内容を、値上げ通知を出す側の管理会社がどう読むか、という記事です。

結論(90秒で読める)

  • 東京都は2026年9月8日に貸主向けの「賃料見直しのルール」を公開し、日管協は9月10日に管理会社へ「貸主への案内」を依頼しました。2025年6月のオーナーチェンジ注意喚起、10月の特別相談窓口、2026年3月の消費者注意情報はすべて借主向けでした。向きが変わったのが今回です。
  • 特別相談窓口は2025年10月10日の開設から2026年2月末までに約1,900件。都庁の開庁日は90日なので1日あたり約21件、月に400件前後です(本稿の計算)。
  • 都が借主に教えていることは5つ。双方の合意がなければ値上げは認められない/応じる義務はない/従来の家賃を払えば住み続けられる/受領を拒否されたら供託できる/一度同意して署名すると後から変えるのは難しい。加えて「値上げに応じなければ更新しない」という貸主の主張には、借地借家法第28条の正当事由が必要で、それだけでは更新拒絶はできないと明記しています。
  • 条文はこうです。借地借家法第32条第1項は、租税等の負担の増減・経済事情の変動・近傍同種の賃料との比較のいずれかで不相当になったときに増減請求を認め、不増額特約があればそれに従う。第2項は、協議が調わないとき借主は「相当と認める額」を払えば足り、裁判で不足が出れば年1割の利息を付けて払う。民事調停法第24条の2は、訴訟の前にまず調停を申し立てなければならないと定めます。
  • 管理会社がオーナーから「上げてほしい」と言われたら、通知を出す前に根拠を3点そろえます。固定資産税・都市計画税の納税通知書(前年との差額)、消費者物価指数の民営家賃(東京都区部は2026年8月に前年同月比2.0%)、近傍同種の成約賃料3件以上。この3点は第32条の3事由に1つずつ対応します。
  • 通知に書いてはいけないのは「応じなければ更新しない」「値上げか退去かを期限までに選べ」の二択です。都の消費者注意情報に出ている相談事例は、管理会社の書面がまさにこの形でした。二択の書面は、借主を都の窓口に向かわせる書面です。

9月8日に都が出したもの|借主向けから貸主向けへの1年

東京都の賃料値上げに関する動きを時系列で並べると、今回の位置が分かります。

日付出したもの宛先要点
2025年6月26日住宅政策本部「賃貸住宅のオーナーチェンジを契機とした家賃値上げトラブルについて」(2026年3月12日更新)借主新オーナーからの一方的で大幅な値上げには簡単に応じないよう注意。借主の対処法5点、相談例2つ
2025年10月9日報道発表「賃料値上げ特別相談窓口を設置します」(10月10日開設)借主中心「オーナーチェンジ等に伴い、正当事由のない急激かつ過大な賃料の値上げを要求されるなどの相談事例が多数」。不動産業課内に設置、弁護士無料相談を紹介
2026年3月3日消費生活総合センター 消費者注意情報「賃貸住宅の家賃値上げトラブルに注意!」借主「この1年で『突然、家賃を値上げすると通知された』といった相談が増加」。慌てず、理由の説明を求め、納得できなければ調停
2026年3月4日住宅政策本部「不動産相談」ページ更新開設以降、2月末時点で約1,900件の賃料値上げに関する相談
2026年9月8日「賃貸住宅を経営されている皆様へ ~賃料見直しのルールをご存じですか?~」貸主ルール1(双方の合意・理由と根拠の説明)、ルール2(第32条の3事由・不増額特約)、まとまらないときは調停→訴訟
2026年9月10日日管協が会員へ転載管理会社「賃貸住宅管理会社の皆様におかれましても、貸主へのご案内をお願いいたします」

9月8日のページの中身は、3月まで借主に教えていたことの裏返しです。借主には「合意がなければ値上げは認められない」と言い、貸主には「双方の合意が必要」と言う。借主には「理由の説明を求めましょう」と言い、貸主には「理由や根拠を説明していただき」と言う。同じルールを両側から書いただけで、新しい規制はありません。それでも管理会社にとって意味があるのは、入居者が都から何を教わっているかが、貸主向けの文面として確定したことです。値上げ通知を受け取った入居者が窓口に電話をすれば、その内容を聞いて帰ってきます。管理会社はそれを前提に通知を書くことになります。

約1,900件はどのくらいの数か|1日あたり約21件

都の不動産相談ページには「令和7年10月に、賃料値上げ特別相談窓口を開設以降、令和8年2月末時点で、約1,900件の賃料値上げに関する相談を受けております」とあります。開設日の2025年10月10日から2026年2月27日までの都庁開庁日を数えると、10月15日・11月18日・12月20日・1月19日・2月18日で90日です。1,900件÷90日で、1日あたり約21件。約4.6か月で割ると月400件前後になります(本稿の計算)。

この窓口は電話1本(03-5320-4958)と、30分枠の面談です。内訳(貸主からの相談か借主からの相談か、区市町村別、値上げ幅)は公表されていません。電話相談は同じ人が複数回かけることもあるので、1,900件が1,900世帯とは限りません。

比較のために、家賃そのものの動きも置いておきます。総務省統計局の消費者物価指数で、民営家賃の前年同月比は2026年8月の東京都区部(中旬速報値)で2.0%、全国の7月分で0.7%です(消費者物価 家賃 2026年8月|東京都区部2.0%・全国0.7%)。統計上の家賃はゆるやかに上がり、相談窓口に来るのは「倍以上」「2万円」といった個別の通知です。平均と個別の差が、相談件数になっています。

都が借主に教えている5つのこと|通知を受け取る側の知識

管理会社が値上げ通知を出すとき、相手がすでに何を知っているかを知らないまま書くのは不利です。都のオーナーチェンジページと消費者注意情報から、借主向けの説明を抜き出します。

都が借主に教えていること根拠として示している条文・手続管理会社側の読み方
貸主と借主双方の合意がなければ、値上げは認められない借地借家法第32条(増額請求は認められているが、借主は必ずしも応じる必要がない)通知は「請求」であって「決定」ではない。文面を「〜に改定します」と書かない
納得できない場合は値上げを拒否できる同上。増額を認めさせるには貸主が増額請求訴訟を起こし、裁判所に認められる必要がある拒否された時点で「滞納」にはならない。次の手は協議、その次は調停
従来の家賃を支払えば、これまで通り居住できる第32条第2項(相当と認める額を支払えば足りる)従前家賃の入金を受領し続ける。受領拒否は次の行に進ませるだけ
貸主が受け取りを拒否した場合は供託できる供託により支払いの証明が可能受領拒否しても債務不履行にはならない。解除の理由にもならない
一度同意(変更契約・値上げした更新契約)すると、後から取り消すのは難しい署名をもらえば確定する。だからこそ、根拠を示して納得のうえで署名してもらう価値がある
「見直しに応じなければ更新しない」と言われても、更新拒絶はできない借地借家法第28条(正当事由)。更新は原則、従前と同一条件で継続値上げの話と更新拒絶の話を、同じ書面に入れない

消費者注意情報の相談事例はこうです。管理会社から「2か月後の更新時から家賃を2万円値上げする」との書面が届き、値上げに応じて更新契約を締結するか、契約を終了して退去するかを連絡するよう言われている(30歳代男性)。都のアドバイスは、慌てず、直ちに応じる必要はなく、従来の家賃を払っていれば住み続けられる、理由と金額の根拠の説明を求める、納得できなければ調停、というものです。この事例の書面は管理会社が出しています。この形の書面を出しているのが自分たちだという事実を、業界として引き受ける必要があります。

条文で確かめる|32条・28条・調停前置・標準契約書第4条

借地借家法第32条第1項|3つの事由と不増額特約

条文は「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」です。3つの事由は「または」でつながっているので、1つ当たれば請求はできます。ただし「不相当となったとき」という条件がすべてにかかります。固定資産税が上がった、という事実だけでは足りず、その結果いまの家賃が不相当になった、というところまでが要件です。

第32条第2項|相当と認める額と年1割

「建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない」。都が借主に「従来の家賃を払えば住み続けられる」と教えている根拠がここです。同時に、裁判で増額が認められれば、差額に年1割の利息が付くことも書いてあります。借主にとっても、根拠のある請求を放置し続けることには費用がある、という構造です。

民事調停法第24条の2|訴える前に調停

「借地借家法第三十二条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない」。都のページの「①管轄の裁判所に調停の申し立て ②①によっても協議がまとまらない場合は、訴訟」という手順は、この条文をそのまま書いたものです。調停を飛ばして訴えると、裁判所が調停に付します(同条第2項)。

第28条|更新拒絶には正当事由

都のオーナーチェンジページの相談例②は「賃料見直しに応じなければ契約の更新をしない」と言われた借主からのものです。都の回答は「更新後の賃料の見直しに借主が応じないことを理由に、貸主は契約の更新を拒絶することはできません」。第28条は、更新拒絶に、建物の使用を必要とする事情・従前の経過・利用状況・現況・立退料の申出を考慮した正当事由を求めます。値上げに応じないことは、この中に入っていません。立退料と正当事由の考え方は更新拒絶と立退料の記事で整理しています。

標準契約書第4条第3項|契約書にも同じ3事由が書いてある

国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、第4条第3項で「甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる」として、租税その他の負担の増減、価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料との比較、の3つを並べています。第32条の3事由と同じです。つまり、標準契約書に沿った契約書を使っていれば、賃料改定の根拠は契約書の中にすでに書いてあります。値上げの話を切り出すとき、最初に開くのは法律ではなく、その部屋の契約書の第4条です。第4条に改定条項が無い、あるいは「契約期間中は増額しない」と書いてある契約書なら、第32条第1項ただし書の不増額特約として、その定めに従います。

管理会社の実務|オーナーに「上げてほしい」と言われたら

ここからは、都の資料に書いてあることではなく、上の条文と都の説明を前提にしたときに、管理会社が通知を出す前にやることの整理です。増額請求の手順そのもの(協議・調停・訴訟の流れ、継続賃料と新規賃料の違い)は家賃は上げられるのか2026に、通知書の書式と交渉の原則は賃料増額・賃料改定マニュアル2026にあります。本稿は「都の注意喚起が出た月に、通知前に何を揃えるか」に絞ります。

1. 契約書の賃料改定条項と特約を先に読む

オーナーから電話が来た日にやるのは、その部屋の契約書を開いて、賃料改定の条項(標準契約書なら第4条第3項)と、特約欄に増額を制限する文言が無いかを見ることです。定期建物賃貸借で借賃の改定に係る特約があれば、第38条第9項により第32条は適用されず、特約の定めだけで決まります(定期借家の実務)。ここを飛ばして根拠を集めても、特約で止まります。

2. 根拠を3点、紙にする

第32条の3事由に、1つずつ書面を対応させます。

第32条の事由用意する書面見せ方
租税その他の負担の増減固定資産税・都市計画税の納税通知書(今年と前年)、火災保険の更新通知、共用部の電気・清掃・エレベーター保守の請求書年額の差額を、その部屋の持分(戸数割または面積割)に直して月額にする
経済事情の変動総務省統計局の消費者物価指数「民営家賃」の前年同月比(東京都区部2.0%、全国0.7%)。近隣の公示地価・基準地価の推移指数は「家賃全体がどれだけ動いたか」の説明に使う。指数の率をそのまま値上げ率にはしない
近傍同種の賃料との比較同じ建物・近隣の同程度の部屋の直近の成約賃料3件以上(自社の成約、レインズの賃貸成約)。募集賃料ではなく成約賃料いまの家賃との差を金額で示す。継続賃料は新規賃料より低いのが通例なので、差額の全部を請求額にしない

3点そろえる理由は2つです。都が借主に「理由や金額の根拠について具体的な説明を求めましょう」と教えているので、求められたときに紙で渡せること。協議がまとまらず調停になったとき、調停委員会が見るのがこの3点だということ。通知を出してから集めるのではなく、集まってから通知を出します。

3. 額は「不相当の幅」の中で決める

第32条は「不相当となったとき」に「増減を請求できる」条文で、「上がった分だけ上げられる」条文ではありません。固定資産税が年3万円上がったから月2,500円、近傍同種が1万円高いから1万円、という自動計算は成り立ちません。管理会社がオーナーに説明するのは「3点の根拠から見て、いまの家賃はこの幅で不相当と言える」という範囲で、請求額はその中に置きます。都が「正当事由のない急激かつ過大な賃料の値上げ」と呼んでいるのは、この幅の外にある請求です。

4. 通知ではなく協議の申し出として出す

都がルール1に書いているのは「借主の方に、賃料の改定が必要である理由や根拠を説明していただき、話し合いによる解決を図っていただくことが大切です」です。書面の形は「〇月〇日から〇円に改定します」ではなく、「〇円への改定について協議をお願いしたい。根拠は別紙3点。〇月〇日までにご都合のよい日時を」です。回答期限ではなく面談日程を聞きます。改定の希望時期は、更新日を目安にするなら更新の6か月前には最初の書面が出ている状態が、話し合いの時間を確保できる目安です。

5. 断られたら、従前家賃を受け取り続ける

借主が応じない場合、第32条第2項により借主は相当と認める額(通常は従前家賃)を払えば足ります。管理会社がやってはいけないのは、従前家賃の受領を拒否することです。拒否すれば供託されるだけで、滞納にはならず、解除の理由にもなりません。都は借主に供託の存在まで教えています。次の手は協議の継続、それでもまとまらなければ調停です。調停の申立てまで進む案件がいくつあるかは、オーナーへの報告事項になります。

書いてはいけない一文|「応じなければ更新しない」

消費者注意情報の相談事例と、オーナーチェンジページの相談例②は、どちらも「値上げに応じるか、退去するか」という二択を貸主側が提示したものです。この文言が書面にあると、3つのことが同時に起きます。第一に、第28条の正当事由が無い更新拒絶を予告したことになり、書面自体が借主側の証拠になります。第二に、借主はこの一文を見た時点で都の窓口に電話をし、都は「更新拒絶はできない」と答えます。第三に、値上げの根拠が正しくても、二択の文言があるだけで話し合いの前提が崩れ、根拠3点を紙にした作業が無駄になります。

オーナーチェンジで管理を引き継いだ直後は、この一文が出やすい局面です。新オーナーが取得価格から逆算した利回りで「倍にしたい」と言い、管理会社が板挟みになります。都の相談例①はまさに「現在の倍以上の賃料値上げを要求されている」というものです。管理会社がオーナーに伝えるのは、「借主には応じる義務がなく、認めさせるには増額請求訴訟で裁判所に認められる必要がある」という都の回答そのままです。倍の請求は根拠3点のどれとも結びつかず、結びつかない請求を通知として出すことはオーナーの利益にもなりません。

よくある質問

Q1. 東京都のページは都内の貸主向けですが、他県の管理会社にも関係がありますか?

関係があります。ページの中身は借地借家法第32条・第28条と民事調停法第24条の2の説明で、法律は全国同じです。都の特別相談窓口(03-5320-4958)は都の施策ですが、消費者ホットライン188は全国で使えます。都のページは検索で誰でも読めるので、他県の入居者が同じ知識で通知を受け取ることを前提にしてください。

Q2. 入居者から「都の窓口に相談した」と言われました。何を言われて帰ってきていますか?

都が借主に伝えているのは、双方の合意がなければ値上げは認められない、応じる義務はない、従来の家賃を払えば住み続けられる、受領を拒否されたら供託できる、一度同意すると取り消しは難しい、更新拒絶には正当事由が必要、の6点です。これらはすべて条文どおりで、管理会社が反論する余地はありません。対応は、根拠3点を紙で渡し、協議の日程を決めることです。

Q3. オーナーチェンジで新オーナーから「家賃を倍にしたい」と言われました。

都の相談例①がまさにこの形で、回答は「借主には値上げに応じる義務はなく、貸主は賃料増額請求訴訟を提起し、裁判所から増額を認められる必要がある」です。管理会社は、契約書の改定条項と特約を確認したうえで、根拠3点から見た「不相当の幅」をオーナーに示します。倍の請求は根拠と結びつかないので、通知として出す前にオーナーとの間で額を見直す局面です。

Q4. 更新のときに「値上げに応じないなら更新しない」と伝えてよいですか?

都は「更新後の賃料の見直しに借主が応じないことを理由に、貸主は契約の更新を拒絶することはできません」と回答しています。第28条の正当事由に、値上げに応じないことは含まれません。この一文を書面に入れると、借主側の証拠になり、話し合いの前提が崩れます。値上げの協議と、更新の手続は、別の書面にします。

Q5. 値上げの通知を出したあと、入居者が従前の家賃を払い続けています。滞納ですか?

滞納ではありません。第32条第2項により、協議が調わない間は借主は相当と認める額を払えば足ります。受領を拒否せず、従前家賃を受け取り続けてください。裁判で増額が認められた場合は差額に年1割の利息が付きますが、それは裁判が確定してからの話です。次の手は協議の継続と、それでもまとまらなければ調停の申立てです。

Q6. 定期借家契約でも同じですか?

定期建物賃貸借で「借賃の改定に係る特約」がある場合は、第38条第9項により第32条は適用されず、特約の定めだけで決まります。改定特約が無い定期借家なら、第32条が適用されます。まず契約書の特約欄を確認してください。

まとめ|借主が知っていることを、貸主側が知る

東京都は2026年9月8日に貸主向けの「賃料見直しのルール」を公開し、日管協は9月10日に管理会社へ貸主への案内を依頼しました。特別相談窓口には開設5か月で約1,900件、1日あたり約21件の相談が来ています。都が借主に教えてきたことは条文どおりで、管理会社が反論できる余地はありません。だから、やることは反論ではなく準備です。契約書の第4条と特約を読み、根拠3点を紙にし、不相当の幅の中で額を決め、協議の申し出として出し、断られても従前家賃を受け取り続ける。そして「応じなければ更新しない」の一文を書かない。この順番が守られている値上げは、都の窓口に電話されても崩れません。

出典(本文で参照している資料)

本稿の記述は、すべて2026年9月12日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。

本稿で使った内容資料
ルール1(双方の合意・理由と根拠の説明・話し合い)、ルール2(借地借家法第32条の3事由・不増額特約)、まとまらないときの手順(調停→訴訟)、賃料値上げ特別相談窓口の電話番号・受付時間・面談予約。記事ID 109-001-20260908-013555東京都住宅政策本部「賃貸住宅を経営されている皆様へ ~賃料見直しのルールをご存じですか?~」(2026年9月8日)
日管協による会員への転載と「賃貸住宅管理会社の皆様におかれましても、貸主へのご案内をお願いいたします」の依頼文公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「【東京都】賃貸住宅を経営されている皆様へ ~賃料見直しルールについて~」(2026年9月10日)
「オーナーチェンジ等に伴い、正当事由のない急激かつ過大な賃料の値上げを要求されるなどの相談事例が多数」、2025年10月10日開設、不動産業課内、弁護士無料相談の紹介、面談30分東京都 報道発表資料「賃貸住宅における『賃料値上げ特別相談窓口』を設置します」(2025年10月9日)
「令和7年10月に、賃料値上げ特別相談窓口を開設以降、令和8年2月末時点で、約1,900件の賃料値上げに関する相談」(2026年3月4日更新)東京都住宅政策本部「不動産相談」
相談事例(管理会社から「2か月後の更新時から家賃を2万円値上げする」書面、値上げして更新か退去かの二択、30歳代男性)、「この1年で相談が増加」、アドバイス4点(慌てず・理由の説明を求める・調停・消費生活センター188)東京都消費生活総合センター 消費者注意情報「賃貸住宅の家賃値上げトラブルに注意!」(2026年3月3日)
借主の対処法5点(双方合意・応じる必要なし・拒否できる・従来の家賃で居住継続・供託)、相談例①「倍以上の値上げ」への回答、相談例②「応じなければ更新しない」への回答と第28条の正当事由5項目。初出2025年6月26日、2026年3月12日更新東京都住宅政策本部「賃貸住宅のオーナーチェンジを契機とした家賃値上げトラブルについて」
第28条(更新拒絶の正当事由)、第32条第1項(3事由・契約の条件にかかわらず・不増額特約)、第2項(相当と認める額・年一割の利息)、第38条第9項(定期建物賃貸借の借賃改定特約があるとき第32条を適用しない)e-Gov 法令検索「借地借家法(平成3年法律第90号)」
第24条の2(借賃増減請求事件は訴えの前にまず調停の申立てをしなければならない。申立てなく訴えた場合は受訴裁判所が調停に付す)e-Gov 法令検索「民事調停法(昭和26年法律第222号)」
第4条第3項(協議の上、賃料を改定することができる3つの場合)国土交通省「『賃貸住宅標準契約書』について」(本文PDF 第4条)

本稿の計算:2025年10月10日から2026年2月27日までの都庁開庁日は、10月15日・11月18日・12月20日・1月19日・2月18日の合計90日(土日祝と12月29日〜1月3日を除く)。約1,900件÷90日≒1日あたり約21件。約4.6か月で割ると月400件前後。相談件数の内訳(貸主・借主の別、区市町村別、値上げ幅)は公表資料に無いため書いていません。個別の物件でいくら上げられるかの判断、裁判所が認める増額幅の予想、値上げの是非も本稿では書いていません。消費者物価指数の民営家賃(東京都区部2.0%・全国0.7%)は本サイトの記事で総務省統計局の公表値を整理したものです。

実務に役立つコラムを、週1回メールで

賃貸管理・反響対応・法改正の記事を、月曜の朝を目安にお届けします。無料。いつでも解除できます。