夏の閑散期の空室対策は、賃料を下げる前に、空室の原因を分け、広告の表示と募集条件を正しく整え、退去から募集までの期間を短くすることから始めます。総務省の住民基本台帳人口移動報告では、2025年の市区町村間移動者数は3月が90万5179人、7月が39万8417人、8月が34万8602人でした。動く人が少ない時期に条件を変えるときは、おとり広告やフリーレントの表示、原状回復の扱いで誤解を生まないことが大切です。
夏に動く人はどれくらい少ないか
総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告(月報)から、2025年の市区町村間移動者数を並べます。
| 月(2025年) | 市区町村間移動者数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 3月 | 90万5179人 | 2万6692人増(3.0%増) |
| 7月 | 39万8417人 | 6371人減(1.6%減) |
| 8月 | 34万8602人 | 7316人減(2.1%減) |
7月と8月の移動者数は、3月の半分に届きません。ただし、これは住民票の異動の数で、賃貸住宅の成約数ではありません。持ち家への転居も含まれ、住民票を移さない人は含まれません。地域や物件の種類によって動き方は違うため、自社の問い合わせや内見の記録と合わせて見るのが確実です。
夏に動く人がいないわけではありません。転勤、転職、家族構成の変化、更新時期に合わせた住み替えなど、時期を選べない事情で探している人は一定数います。少ない問い合わせを取りこぼさないことが、夏の対策の土台になります。
空室の原因の分け方
夏の空室を「閑散期だから」とまとめると、打つ手を間違えます。部屋ごとに原因を分けてから対策を選びます。
| 原因 | 確かめ方 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 見られていない | ポータルサイトでの閲覧数、業者からの問い合わせが少ない | 写真・間取り図・設備の表示を直す。業者間の流通に載せる |
| 見られているが内見に来ない | 閲覧はあるが問い合わせや内見の予約が少ない | 周辺の競合と募集条件(賃料、初期費用、入居可能日)を比べる |
| 内見に来るが決まらない | 内見後の断りの理由を記録する | 臭い、汚れ、設備の不具合など部屋の状態を直す |
| まだ募集できない | 退去後の工事や精算が終わっていない | 退去から募集開始までの工程を短くする |
原因が「見られていない」なのに賃料を下げても、効果は出にくくなります。逆に、状態や条件に原因があるのに広告だけ直しても、内見で断られます。
広告の見直しと表示規約・おとり広告
夏は写真を撮り直し、募集図面を作り直すのに向いた時期です。そのときに守るべきルールを確認します。
おとり広告(表示規約第21条)
不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)第21条は、次の表示を「おとり広告」として禁止しています。
- 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示
- 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示
- 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示
閑散期に問い合わせを増やそうと、成約済みの部屋の広告を残しておく、条件のよい部屋を載せて別の部屋を勧める、といったことは、この規定に触れます。表示規約第24条は、継続して広告をしている場合に内容に変更があったときは、速やかに修正し、又は表示を取りやめなければならないとしています。成約したら、自社サイト、ポータルサイト、業者間の流通サイトの掲載を同じ日に止める手順を決めておきます。
初期費用と支払条件の表示(表示規約第23条、宅地建物取引業法第32条)
表示規約第23条は、不当表示として、権利金、礼金、敷金、保証金、償却費等の額について実際のものよりも少ないと誤認されるおそれのある表示や、価格、賃料、権利金等の支払条件について実際のものよりも有利であると誤認されるおそれのある表示を挙げています。宅地建物取引業法第32条も、借賃等の対価の額やその支払方法について、著しく事実に相違する表示や、実際のものよりも著しく有利であると人を誤認させるような表示を禁じています。
「礼金0円」と大きく載せて、別の名目の費用を小さく書く、といった表示は避けます。賃料、共益費、礼金、敷金、保証会社の費用、鍵交換費用など、入居時にかかる費用を同じ大きさで並べると、誤認を防げるうえ、比べる人にも親切です。
フリーレントを出すときの表示と契約
フリーレント(入居後一定期間の賃料を無料にする条件)は、賃料を下げずに初期の負担を軽くできるため、閑散期の選択肢の1つになります。出すときは、広告と契約の両方で次の点をそろえます。
- 対象:無料になるのは賃料だけか、共益費や駐車場代も含むか。
- 期間と起算日:「1か月」が契約開始日からか、入居日からか。日割りの月をどう数えるか。
- 条件:入居の期限、契約期間の最低年数など、フリーレントの条件があるか。
- 短期解約の違約金:一定期間内に解約した場合に、無料にした賃料相当額などを払ってもらう特約を置くか。置くなら金額の決め方。
広告では、フリーレントの対象・期間・条件を明記し、短期解約の違約金がある場合はそのことも示します。条件を書かずに「フリーレント」とだけ大きく載せると、表示規約第23条の「支払条件について、実際のものよりも有利であると誤認されるおそれのある表示」に当たるおそれがあります。契約書、重要事項説明書、募集図面で同じ書き方になっているかも確かめます。
原状回復と、退去から募集までの期間
夏に空室が長引く理由の1つは、退去後の精算と工事に時間がかかり、募集を始めるのが遅れることです。原状回復のルールを先に整理しておくと、精算でもめる時間を減らせます。
民法第621条は、賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷がある場合、賃貸借が終了したときにその損傷を原状に復する義務を負うとし、その損傷から通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化を除いています。損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときも、義務を負いません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、この考え方と、費用負担の区分、経過年数の考慮の仕方などを示しています。
- 退去の連絡を受けたら:立会いの日を決め、契約書の原状回復の特約と入居時の記録(写真・チェック表)を確かめる。
- 立会いのとき:損傷の箇所を写真で残し、通常損耗か借主の負担かを、ガイドラインの考え方で仮に分ける。
- 見積りと精算:工事の見積りを取り、借主負担分の根拠を示して精算する。
- 工事と募集の並行:工事の完了予定日を入居可能日として、写真の撮影前でも募集を始められるかを検討する。その場合は、工事前であることを広告で明示する。
空室の夏の管理と、退去を減らす工夫
空室の夏の管理(手順の例)
締め切った部屋は、夏の暑さと湿気で臭いやカビが出やすくなります。内見で印象を落とさないための手順の例です。
- 定期的に窓を開けて換気し、水回りの排水口に水を流す(排水トラップの水が切れると下水の臭いが上がることがあるため)。
- エアコンを短時間動かして、異音や臭いがないか確かめる。
- 虫の死骸、ベランダの落ち葉や鳥の糞を取り除く。
- 見回りの日付と状態を写真で記録し、オーナーへの報告に使う。
退去を減らす工夫
空室を埋めるのが難しい時期ほど、今の入居者に住み続けてもらう価値は大きくなります。更新が近い入居者には早めに案内を送り、設備の不具合の相談にすぐ対応する、といった基本を落とさないことが、夏の空室を増やさない対策になります。
少ない問い合わせを取りこぼさない
夏に探している人は、転勤や転職などで入居の時期が決まっていることが多く、候補を早く絞り込みます。問い合わせの数が少ない時期ほど、1件ごとの対応の差が結果に出ます。見直す点の例です。
- 返信の速さ:ポータルサイトや業者からの問い合わせに、営業時間内なら当日中に返す担当と手順を決める。夏季休業の期間は、自動返信で再開日と連絡先を示す。
- 空室の確認:業者からの空室確認に、正しい状況(申込みが入っているか、入居可能日はいつか)をすぐ答えられるよう、台帳を最新にしておく。
- 内見の受け方:鍵の受け渡し方法、現地での立会いの有無、遠方の人への動画や写真の追加送付をあらかじめ決めておく。
- 入居可能日:工事の予定と合わせて、いつから住めるかを具体的な日付で示す。
- 申込みから契約までの流れ:必要書類、審査にかかる日数の目安、契約手続の方法を、問い合わせの段階で伝えられるようにしておく。
こうした点は費用をかけずに直せます。賃料や初期費用を変える前に、自社の対応で失っている問い合わせがないかを、記録で確かめてみてください。
オーナーへの提案の作り方
オーナーに条件の変更や工事を提案するときは、空室が続いた場合の損失と、対策にかかる費用を同じ表に並べます。仮の数字で計算例を示します。
| 項目 | 仮の数字 |
|---|---|
| 月額賃料 | 60,000円 |
| 空室がさらに2か月続いた場合に入らない賃料 | 120,000円 |
| フリーレント1か月を付けた場合の費用 | 60,000円 |
| 賃料を3,000円下げた場合の、2年間の減収 | 72,000円 |
この表は、どの対策が正しいかを示すものではありません。フリーレントは期間が限られ、賃料の値下げは契約が続く限り、更新後も影響が残ることがあります。オーナーが比べやすいように、それぞれの費用と、効果が出なかった場合に次に何をするかを並べて示します。どの対策が効くかは物件ごとに違うため、効果の見込みを数字で約束しないことも大切です。
ウルスタくんでは、募集図面(マイソク)の作成、業者間流通(ウルスタBB)やお部屋探しサイト(ヘヤスタ)への掲載、更新が近い契約の一覧の確認を同じ物件情報から行えます。募集条件を変えたときに、図面と掲載の内容を一度に直せるため、表示のずれを防ぎやすくなります。
よくある質問
Q1. 夏は賃料を下げないと決まりませんか。
下げる前に、原因を分けて確かめます。見られていない、状態に問題がある、退去から募集までが長い、といった原因なら、賃料を下げても解決しません。条件が原因の場合も、フリーレントや初期費用の見直しなど、賃料以外の方法と比べてから決めます。
Q2. 成約した部屋の広告は、いつまでに取り下げればよいですか。
表示規約第24条は、継続して広告をしている場合に内容に変更があったときは、速やかに修正し、又は表示を取りやめなければならないとしています。成約したら、掲載しているすべての媒体を同じ日に止める手順にしておくと安全です。
Q3. フリーレントに短期解約違約金は付けたほうがよいですか。
付けるかどうかは貸主の判断です。付ける場合は、広告と契約書の両方に記載し、重要事項説明でも説明します。金額の決め方に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談してください。
Q4. 原状回復の工事が終わる前に募集を始めてもよいですか。
工事前であることと入居可能日を明示すれば、募集を始めることはできます。写真が工事前の状態なら、そのことも分かるようにし、実際より良く見える表示にならないよう注意します。
Q5. 写真や設備の表示を直すとき、気をつけることは何ですか。
現況と違う写真や、今はない設備の表示を残さないことです。別の部屋の写真や、工事前の古い写真を使い回すと、実際より良く見える表示になるおそれがあります。宅地建物取引業法第32条は、建物の形質や利便などについて、実際のものよりも著しく優良であると人を誤認させるような表示を禁じています。写真を撮り直したら、撮影日を社内の記録に残し、どの媒体の写真を差し替えたかも分かるようにしておきます。
出典(本文で参照している資料)
- 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 2025年3月の概況
- 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 2025年7月の概況
- 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 2025年8月の概況
- 不動産公正取引協議会連合会 不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則(第21条、第23条、第24条)
- 宅地建物取引業法(第32条)
- 民法(第621条)
- 国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。

