賃貸管理 読了 30分

総務省統計局は2026年9月18日、消費者物価地域差指数(2025年結果)を公表した|「住居」は東京都129.8・岡山県79.1で最大都道府県間倍率1.64倍(2024年1.56倍から最も広がった費目)。水準の統計を「上がった」と読まず、転勤者の相場説明・法人契約・遠隔オーナーの3場面で使い、借地借家法32条の増額根拠にはしない

総務省統計局は2026年9月18日、小売物価統計調査(構造編)2025年結果として消費者物価地域差指数を公表しました。全国平均を100とした「総合」は東京都104.2で13年連続の1位、最低は群馬県96.2で、倍率は1.08倍。10大費目のなかで地域差が最も大きいのは「住居」で、東京都129.8に対して岡山県79.1、倍率は1.64倍でした。2024年の1.56倍から0.08広がり、10費目のなかで最も広がった費目です。賃貸管理会社がこの数字を使うとき、最初に押さえるのは「地域差指数は水準の統計で、変化の統計ではない」ことです。倍率が広がったことは東京の家賃が上がったことを意味しません。変化を見るなら同日公表の消費者物価指数で、8月の民営家賃は全国+0.7%、設備修繕・維持は+4.0%です。本稿は、都道府県別・都市別の数字、家賃が総合を何ポイント動かしているか、転勤・移住の申込者への相場説明、法人契約の社宅家賃、遠隔地オーナーへの説明という使える3場面、借地借家法32条の増額請求には使えない理由、オーナー説明の雛形、今週やる5つ、報告書に足す2行までをまとめます。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
住居の物価地域差1.64倍|東京129.8・岡山79.1、管理会社の使い方3つ
目次

総務省統計局は2026年9月18日、小売物価統計調査(構造編)の2025年結果として、消費者物価地域差指数を公表しました。全国平均を100とした「総合」は東京都104.2で13年連続の1位、最低は群馬県96.2で倍率は1.08倍。10大費目のなかで地域差が最も大きいのは「住居」で、東京都129.8に対して岡山県79.1、倍率は1.64倍です。2024年の1.56倍から0.08広がり、10費目のなかで最も広がった費目でした。新聞では「東京の住居費は岡山の1.6倍」と見出しになります。賃貸管理会社がオーナーや入居者に使う前に、一つ確かめることがあります。地域差指数は「水準」を比べる統計で、「変化」を測る統計ではないということです。倍率が広がったことは、東京の家賃が上がったことを意味しません。家賃の変化は同じ9月18日に出た消費者物価指数で見るもので、8月の民営家賃は全国+0.7%、設備修繕・維持は+4.0%でした。本稿は、都道府県別・都市別の数字、管理会社がこの指数を使える3つの場面と使えない1つの場面、オーナー説明の雛形、今週やる5つ、報告書に足す2行までをまとめます。

結論(90秒で読める)

  • 「総合」の物価水準は東京都104.2で2013年の調査開始から13年連続の1位、次いで神奈川県103.3。最低は群馬県96.2。倍率は1.08倍で2024年と同じです。
  • 10大費目で地域差が最も大きいのは「住居」の1.64倍(東京都129.8÷岡山県79.1)。次いで「教育」1.60倍、「光熱・水道」1.30倍。最も小さいのは「保健医療」の1.05倍です。
  • 「住居」の倍率は2024年の1.56倍から0.08広がり、10費目のなかで最も広がりました。ただし資料は「指数値の変化は、当該地域における物価水準の時系列変化を表すものではない」と注記しています。倍率の拡大を「東京の家賃が上がった」と読んではいけません。
  • 「住居」が100以上なのは東京・千葉・神奈川・埼玉・京都・宮崎の6都府県。大阪府は98.0で7位です。下位は岡山79.1、石川82.0、滋賀83.3、岐阜83.4、新潟83.8。
  • 「総合」と「家賃を除く総合」の差が、家賃が物価水準を何ポイント動かしているかを示します。東京都は2.0ポイント、東京都区部は2.6ポイント。北海道や岡山県では家賃を除いたほうが指数が高く、家賃が総合を押し下げています。
  • 家賃の変化は同日公表の消費者物価指数で見ます。2026年8月の民営家賃は全国で前年同月比+0.7%(木造+0.2%、非木造+0.9%)、設備修繕・維持は+4.0%です。
  • 使える場面は、転勤・移住の申込者への相場説明、法人契約の社宅家賃上限の会話、遠隔地に住むオーナーへの説明の3つ。使えない場面は借地借家法32条の増額請求の根拠。32条の比較対象は「近傍同種の建物の借賃」で、都道府県の指数ではありません。

9月18日に公表された数字|総合1.08倍・住居1.64倍

消費者物価地域差指数は、全国の物価水準を100として、地方10区分・都道府県・都道府県庁所在市と政令指定都市の物価水準を指数で示したものです。小売物価統計調査の構造編として2013年から毎年作っています。公表は通常、調査年の翌年6月までですが、消費者物価指数の基準年(西暦の末尾が0か5の年)の結果は翌年9月頃になる決まりで、2025年結果が9月に出たのはそのためです。管理会社が押さえる数字を表にします。

10大費目最も高い都道府県最も低い都道府県倍率(2025年)倍率(2024年)
総合東京都 104.2群馬県 96.21.081.080.00
住居東京都 129.8岡山県 79.11.641.56+0.08
教育大阪府 124.7富山県 78.11.601.59+0.01
光熱・水道北海道 117.8大阪府 90.61.301.37▲0.07
被服及び履物北海道・石川県 107.3鹿児島県 88.71.211.25▲0.04
諸雑費神奈川県 105.6青森県 89.31.181.16+0.02
教養娯楽神奈川県 107.3鹿児島県 91.91.171.170.00
家具・家事用品愛媛県 104.7茨城県 92.31.131.12+0.01
食料沖縄県 106.6長野県 95.01.121.11+0.01
交通・通信東京都 103.5鹿児島県 97.21.061.060.00
保健医療東京都・山口県 101.7宮崎県 97.11.051.06▲0.01

表の読み方は二つです。一つ目、10費目のなかで「住居」の1.64倍が最も大きく、次の「教育」1.60倍を除けば他はすべて1.3倍以下だということ。食料は1.12倍、保健医療は1.05倍で、全国どこでもほぼ同じ値段です。二つ目、総合の倍率1.08倍のうち、東京都を全国平均から2.16ポイント押し上げているのが「住居」で、10費目のなかで最大の寄与だということ。東京の物価が高いのは、ほぼ住居費の話です。反対に、岡山県を1.50ポイント、新潟県を1.27ポイント、石川県を1.26ポイント押し下げているのも「住居」です。

「住居」に何が入っているか|家賃と修繕、帰属家賃は含まない

この指数の「住居」は、消費者物価指数の10大費目の「住居」と同じ区分で、家賃と設備修繕・維持からなります。資料の注意書きにあるとおり、「総合」と「住居」は持家の帰属家賃を含みません。帰属家賃は、持ち家に住む人が仮に家賃を払ったらいくらか、という計算上の数字で、ここでは外してあります。つまり「住居」の指数は、実際に家賃を払っている借家の家賃と、持ち家・借家を問わない修繕費の水準を映しています。

もう一つの見方が「家賃を除く総合」です。統計表利用上の注意によれば、これは民営家賃、公営・都市再生機構・公社家賃、持家の帰属家賃の三つを除いた総合で、「総合」から「家賃を除く総合」を引いた差が、家賃が物価水準を何ポイント動かしているかを示します。東京都は総合104.2に対して家賃を除く総合が102.2で、差は2.0ポイント。家賃を除けば東京都は3位に下がり、1位は北海道の103.2、2位は神奈川県の102.7になります。北海道は総合102.4に対して家賃を除く総合が103.2で、家賃が総合を0.8ポイント押し下げているということです。

岡山県の79.1は「岡山の家賃は全国平均の8割」ではなく、「家賃と修繕費を合わせた住居費の水準が全国平均の79.1%」です。家賃だけの都道府県別指数は、この資料には載っていません。

都道府県別の「住居」|100以上は6都府県、下位は岡山・石川・滋賀

別表1から「住居」の上位7と下位7を抜き、「総合」と「家賃を除く総合」の差を並べます。差がプラスなら家賃が総合を押し上げ、マイナスなら押し下げています。

順位都道府県住居総合家賃を除く総合差(家賃の効き)
1東京都129.8104.2102.2+2.0
2千葉県111.8100.5100.4+0.1
3神奈川県110.7103.3102.7+0.6
4埼玉県104.5100.2100.0+0.2
5京都府102.2101.1101.0+0.1
6宮崎県101.398.098.9▲0.9
7大阪府98.099.999.8+0.1
41大分県85.497.498.6▲1.2
42香川県85.198.799.4▲0.7
43新潟県83.897.898.0▲0.2
44岐阜県83.497.297.7▲0.5
45滋賀県83.397.798.2▲0.5
46石川県82.099.4100.1▲0.7
47岡山県79.197.798.3▲0.6

この表で目を引くのは三つです。一つ目、「住居」が100以上なのは東京・千葉・神奈川・埼玉・京都・宮崎の6都府県だけで、大阪府は98.0にとどまること。二つ目、宮崎県が101.3で6位に入っていること。宮崎県は総合では98.0で、「家賃を除く総合」のほうが0.9ポイント高く、家賃は総合を押し下げています。住居が高いのは設備修繕・維持の側と読めますが、資料に内訳が無いので言い切りません。三つ目、下位の岡山・石川・滋賀・岐阜・新潟は、いずれも「総合」は97〜99台で全国平均に近いのに「住居」だけが80前後だということ。物価は全国並みで住居費だけが安い県が、下位に並んでいます。

東京都区部は家賃で2.6ポイント上がる|都市別の総合と家賃を除く総合

都市(都道府県庁所在市と5つの政令指定都市)については、「総合」「家賃を除く総合」「食料」の3つだけが公表されています。「住居」の都市別指数はありません。管理会社が転勤者に説明するときは都道府県より都市の数字のほうが伝わるので、主な都市の「総合」と「家賃を除く総合」の差を並べます。

都市総合(順位)家賃を除く総合(順位)差(家賃の効き)
東京都区部105.3(1)102.7(2)+2.6
川崎市103.7(3)102.3(4)+1.4
横浜市103.8(2)103.1(1)+0.7
大阪市100.6(9)100.0(22)+0.6
さいたま市101.2(6)100.7(11)+0.5
京都市101.1(7)100.8(8)+0.3
岡山市98.0(43)98.3(46)▲0.3
前橋市96.5(52)96.9(52)▲0.4
鹿児島市96.6(51)97.1(51)▲0.5
札幌市102.1(5)102.7(2)▲0.6
金沢市99.6(23)100.2(18)▲0.6
那覇市101.1(7)101.8(6)▲0.7

東京都区部は総合で1位ですが、家賃を除くと横浜市に抜かれて2位になり、札幌市と並びます。東京都区部の物価が高いのは、家賃の2.6ポイント分だということです。反対に札幌市・金沢市・那覇市は、家賃を除いたほうが指数が高い都市です。転勤者に「東京から金沢へ移ると生活費はどうなるか」と聞かれたら、物価はほぼ同じで家賃の分だけ下がる、とこの表で答えられます。

1.56倍から1.64倍を「東京の家賃が上がった」と読まない|水準と変化は別の統計

本稿でいちばん伝えたいのはこの章です。「住居」の倍率は2024年の1.56倍から2025年の1.64倍へ0.08広がりました。これを「東京の住居費が1年で8%上がった」と読むのは間違いです。資料の表1の注は、「消費者物価地域差指数は、年次ごとに全国平均に対する当該地域の物価水準を相対的に表すものであるため、指数値の変化は、当該地域における物価水準の時系列変化を表すものではない」と書いています。倍率が広がったのは、東京都の指数が上がったからかもしれないし、岡山県の指数が下がったからかもしれないし、指数の計算に使う品目やウエイトが基準年の見直しで動いたからかもしれません。資料はその理由を書いていません。2025年は消費者物価指数の基準年にあたり、地域差指数の公表が6月ではなく9月に回った年です。

家賃が上がったかどうかを見る統計は、同じ9月18日に公表された消費者物価指数のほうです。2026年8月分(全国)の家賃(持家の帰属家賃を除く)は前年同月比+0.7%、民営家賃も+0.7%で、木造が+0.2%、非木造が+0.9%です。設備修繕・維持は+4.0%で、外壁塗装費が+6.4%。住居全体では+1.0%です。二つの統計の役割を表にします。

統計何を測るか2026年9月18日の数字管理会社の使い方
消費者物価地域差指数(構造編)水準。同じ年に、地域ごとの物価が全国平均の何%か住居:東京都129.8・岡山県79.1(1.64倍)「東京と岡山でどれくらい違うか」の説明。転勤・移住・法人契約・遠隔オーナー
消費者物価指数(動向編)変化。同じ地域で、前年の同じ月から何%動いたか民営家賃:全国+0.7%(木造+0.2%・非木造+0.9%)、設備修繕・維持+4.0%「去年からどれくらい動いたか」の説明。家賃改定の背景、修繕費の説明

「東京は岡山の1.64倍」と「家賃は前年比0.7%」を同じ口で言うと、オーナーは「東京は上がっているのに、うちはなぜ上げないのか」と受け取ります。前者は場所の違い、後者は時間の変化です。7月分の民営家賃と東京都区部の動きは「消費者物価 家賃 2026年8月|東京都区部2.0%・全国0.7%」に書きました。8月分の全国は7月分と同じ+0.7%です。

管理会社がこの指数を使える3つの場面

水準の統計だと分かったうえで、管理会社が実際に使える場面を三つ挙げます。いずれも「別の地域と比べて説明する」場面です。

場面1|転勤・移住の申込者への相場説明

東京から地方へ、地方から首都圏へ動く申込者は、前の住まいの家賃を基準に部屋を探します。東京都区部から岡山市へ転勤する人に「東京の家賃感覚のままだと広すぎる部屋を選びます」と言うとき、根拠として「住居」の指数を使えます。東京都129.8に対して岡山県79.1なので、本稿の計算では0.61倍、東京で10万円の住居費に相当する水準が岡山では6万円強です。千葉県111.8と神奈川県110.7は東京都の0.86倍と0.85倍です。ただしこれは家賃と修繕費を合わせた都道府県の平均水準であって、その部屋の家賃の根拠ではありません。「目安」と言い添え、実際の家賃は募集条件で示します。

場面2|法人契約の社宅家賃上限を決める総務担当との会話

法人契約で借り上げ社宅を探す総務担当は、本社所在地の家賃上限を全国一律で運用していることがあります。東京本社の上限を岡山の支店に当てると広すぎ、岡山本社の上限を東京の支店に当てると部屋が見つかりません。「都道府県で1.64倍の差があります」と示し、地域別の上限を設ける提案に使えます。国の統計なので、社内の稟議に付けやすい数字です。

場面3|遠隔地に住むオーナーへの説明

東京に住んでいて地方の物件を相続したオーナーは、自分の住む地域の家賃感覚で物件の家賃を判断しがちです。東京在住のオーナーが岡山の物件を「安すぎる」と言うとき、「岡山県の住居費の水準は東京都の6割です」と指数で答えられます。家賃を上げない理由ではなく、その地域の水準がそもそも違うという説明です。オーナーが相場そのものを疑っているときに、管理会社の言葉ではなく総務省の数字で答えられるのが使いどころです。

使えない場面|借地借家法32条の増額請求の根拠にはならない

反対に、この指数を家賃の増額請求の根拠に使うことはできません。借地借家法32条1項は、建物の借賃が「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」に増減を請求できると定めています。比較の対象は「近傍同種の建物の借賃」、つまり近所の似た建物の実際の家賃です。都道府県の「住居」の指数は、近傍でも同種でもありません。「東京都の住居費は全国平均の1.3倍だから」は、増額の根拠にならないということです。

「その他の経済事情の変動」に当てはめるのも無理があります。資料自身が「時系列変化を表すものではない」と書いている統計は、変動の根拠になりません。増額請求の手順そのものは「家賃は上げられるのか2026|借地借家法32条による賃料増額請求の手順」に書きました。東京都が2026年9月8日に貸主向けに出した「賃料見直しのルール」の注意喚起は「東京都が貸主に賃料見直しの注意喚起|相談1,900件」のとおりで、根拠の無い通知が相談の元になっています。地域差指数を通知に書けば、その根拠の無い通知の一つになります。

修繕費は全国で4.0%上がっている|地域差より先に効く数字

管理会社の収支に今すぐ効くのは、地域差の1.64倍ではなく、消費者物価指数の設備修繕・維持+4.0%のほうです。家賃が+0.7%しか動かないあいだに、修繕費は4.0%上がっています。外壁塗装費は+6.4%です。家賃10万円の部屋で年間の修繕引当を家賃の1か月分(10万円)と置いている物件なら、修繕費が4.0%上がると引当は年4,000円足りなくなり、家賃が0.7%上がっても700円しか埋まりません(本稿の計算)。

「住居」の指数が低い県では、家賃が安いまま修繕費だけが全国と同じ率で上がるので、家賃に対する修繕費の割合が高くなります。岡山・石川・滋賀・岐阜・新潟の管理会社は、家賃の水準が全国の8割で、修繕費の上がり方は全国と同じです。工事費の側は「建築着工統計 令和8年7月|貸家1戸1,517万円」に、募集家賃と継続家賃の差は「分譲マンション賃料2026年8月|募集1割高・継続0.7%」に書きました。

オーナーに説明するときの言い方(雛形)

東京在住のオーナーから、地方の物件について「新聞で東京は岡山の1.6倍と出ていた。うちの家賃は安すぎないか」と聞かれたときの答え方です。水準と変化を分けて答えます。

総務省が9月18日に公表した消費者物価地域差指数では、住居費の水準は東京都が129.8、岡山県が79.1で、たしかに1.64倍の差があります。ただしこれは「同じ年に、場所によってどれくらい違うか」を示す数字で、岡山の家賃が安すぎるという意味ではなく、岡山の水準がそもそも東京の6割だという意味です。〇〇様の物件の家賃〇万円は、近隣の同種の物件の募集家賃〇〜〇万円の範囲に収まっています。

家賃が去年からどう動いたかは別の統計で、8月の民営家賃は全国で前年比0.7%の上昇、設備修繕・維持は4.0%の上昇です。当物件で先に効くのは修繕費の側ですので、次回の更新時に近隣の募集家賃を改めて調べ、増額を求める根拠があるかを近傍同種の家賃でご報告します。地域差指数は増額の根拠にはなりませんので、通知には使いません。

この雛形で大事なのは、「安すぎるのではない、水準が違う」を先に言い、「上げる根拠は近傍同種で別に調べる」を後に言う順番です。オーナーの疑問は「安すぎるのか」で、答えは「違う統計を見ている」です。

中小不動産会社が今週やる5つ

やること具体的になぜ今週か
1. 自社の県の「住居」の指数と順位を控える別表1から自社の営業エリアの都道府県の住居・総合・家賃を除く総合の3つを写し、営業担当が見られる場所に置く「東京は岡山の1.6倍」の見出しが出た週に、自社の県の数字を聞かれて答えられないと、知らないと読まれる
2. 転勤者向けの説明文に1行足す「住居費の水準は東京都の〇割です(総務省 2025年結果)」を、他地域からの申込者への案内に入れる9月末から10月は下期の人事異動で転勤の申込が増える時期
3. 法人契約先の家賃上限が全国一律かを確かめる取引のある法人の総務担当に、地域別の上限があるかを聞き、無ければ指数を添えて提案する上限が合わないと物件が決まらず、法人契約の反響が流れる
4. 値上げ通知の雛形に地域差指数が無いかを確かめる担当者が作った通知文に「東京は全国平均の1.3倍」のような文言が入っていないかを見る。入っていれば近傍同種の家賃に差し替える東京都の注意喚起のとおり、根拠の無い通知は相談窓口に持ち込まれる
5. 報告書に2行を足す次の章の2行。地域差の事実と、自社物件の修繕費の上がり方オーナーが新聞の見出しを見た週に、管理会社の読み方を先に届ける

オーナー報告書に足す2行

今月の報告書に足すのは次の2行です。

1行目:「総務省の9月18日の公表で、住居費の水準は東京都129.8・岡山県79.1(全国平均100)と地域で1.64倍の差があります。これは場所による水準の差で、家賃の値上がりを示す数字ではありません。家賃の変化は8月の民営家賃で全国+0.7%、設備修繕・維持は+4.0%です。」

2行目:「本物件の所在する〇〇県の住居費の水準は〇〇(全国〇位)です。本物件の家賃〇万円は近隣の同種物件の募集家賃〇〜〇万円の範囲にあり、次回更新時に改めて近傍の募集家賃を調べてご報告します。修繕費は全国で4.0%上がっていますので、修繕引当の見直しをご相談します。」

「東京は岡山の1.64倍でした」だけの1行は、新聞と同じです。オーナーが求めるのは、自分の物件がその数字とどう関係するか、しないかです。

この資料が言っていないこと

  • 家賃だけの都道府県別指数は載っていません。「住居」は家賃と設備修繕・維持を合わせた区分です。「家賃を除く総合」との差から家賃の効きを読むのが、この資料でできる限界です。
  • 都市別の「住居」は公表されていません。都市は「総合」「家賃を除く総合」「食料」の3つだけです。
  • 倍率が1.56倍から1.64倍に広がった理由は書かれていません。資料は指数の変化が時系列変化を表さないと注記しており、東京都の住居費が上がったとも、岡山県が下がったとも言っていません。
  • 宮崎県の「住居」が101.3で6位である理由も書かれていません。家賃の効きはマイナス0.9ポイントなので修繕費側と読めますが、内訳は資料にありません。
  • 「東京で10万円の住居費は岡山で6万円強」「千葉・神奈川は東京の0.86倍・0.85倍」は、指数の比から本稿が計算した目安で、資料に無い数字です。個々の部屋の家賃には当てはまりません。
  • 消費者物価指数の家賃+0.7%は継続中の契約を含む全国の平均で、募集家賃の動きではありません。

よくある質問

Q1. 「東京は岡山の1.64倍」は、東京の家賃が岡山の1.64倍という意味ですか。

厳密には違います。1.64倍は「住居」の指数の比で、住居には家賃と設備修繕・維持が入っています。家賃だけの都道府県別指数は資料にありません。家賃が物価水準を動かしている大きさは「総合」と「家賃を除く総合」の差で見ることができ、東京都は2.0ポイント、東京都区部は2.6ポイントです。

Q2. 倍率が1.56倍から1.64倍に広がったので、東京の家賃は上がったと言ってよいですか。

言えません。資料は「指数値の変化は、当該地域における物価水準の時系列変化を表すものではない」と注記しています。家賃の変化は消費者物価指数で見ます。2026年8月の民営家賃は全国で前年同月比+0.7%です。東京都区部の家賃の動きは別途、東京都区部の消費者物価指数で確かめます。

Q3. 家賃の値上げ通知に「東京都の住居費は全国平均の1.3倍」と書いてよいですか。

本稿では勧めません。借地借家法32条の比較対象は「近傍同種の建物の借賃」で、都道府県の指数ではありません。通知に書くなら、近隣の同種物件の募集家賃、固定資産税の通知、修繕費の見積りの推移といった、その物件に結びつく根拠です。

Q4. 転勤者に説明するとき、都道府県と都市のどちらの数字を使えばよいですか。

「住居」の指数は都道府県のみ、都市は「総合」と「家賃を除く総合」のみ公表されています。住居費の水準を言うなら都道府県の「住居」、生活費全体の違いを言うなら都市の「総合」と「家賃を除く総合」の差を使います。

Q5. 自社の県の指数が低いことを、オーナーにどう伝えればよいですか。

「安い」ではなく「水準が違う」と伝えます。岡山・石川・滋賀・岐阜・新潟は総合が97〜99台で全国並みなのに住居だけが80前後です。そのうえで、修繕費は全国で4.0%上がっているので家賃に対する修繕費の割合が高くなること、修繕引当の見直しが先に必要なことを伝えます。

Q6. この指数はどのくらいの頻度で出ますか。次はいつですか。

毎年1回です。通常は調査年の翌年6月までに公表され、消費者物価指数の基準年(西暦の末尾が0か5)の結果だけは翌年9月頃になります。2025年結果が9月に出たのはそのためで、2026年結果は2027年6月頃の見込みです。調査は奇数月に89市で57品目を調べています。

要点は四つです。「住居」の地域差は1.64倍で10費目のなかで最も大きく、東京の物価が高いのはほぼ住居費の話であること。地域差指数は水準の統計で、倍率の拡大を家賃の上昇と読まないこと。使える場面は転勤者の相場説明・法人契約・遠隔オーナーへの説明の三つで、借地借家法32条の増額根拠には使わないこと。今すぐ収支に効くのは地域差ではなく、全国で+4.0%の設備修繕・維持であること。家賃の変化の側は「消費者物価 家賃 2026年8月」、地価の側は「基準地価2026|住宅地の上昇は20都府県」をご覧ください。

出典(本文で参照している資料)

本稿の記述は、すべて2026年9月21日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。地域差指数の結果の概要は16ページのPDFを全文取得して読み、別表1・別表2・別表3の数値を転記しました。消費者物価指数は8月分の全国の冊子から家賃・民営家賃・設備修繕・維持の行を写し、条文はe-Gov法令検索で32条のみ取得して読みました。

本稿で使った内容資料
公表日(令和8年9月18日)、「総合」東京都104.2(13年連続)・神奈川県103.3・群馬県96.2・鹿児島県96.4、倍率1.08倍(2024年と同倍率)、100以上が10都道府県、10大費目別の最高・最低の都道府県と倍率(住居1.64倍=東京都129.8÷岡山県79.1、2024年1.56倍、差+0.08、教育1.60倍、光熱・水道1.30倍、保健医療1.05倍ほか表2の全行)、10大費目別寄与度(東京都の住居2.16、岡山県▲1.50、新潟県▲1.27、石川県▲1.26ほか別表3)、都道府県別の総合・家賃を除く総合・住居(別表1)、都市別の総合・家賃を除く総合(東京都区部105.3・102.7、横浜市103.8・103.1、川崎市103.7・102.3ほか別表2)、表1の注(指数値の変化は時系列変化を表すものではない)、調査の概要(2013年から、89市、奇数月、57品目、基準年の結果は翌年9月頃に公表)総務省統計局「消費者物価地域差指数-小売物価統計調査(構造編)2025年(令和7年)結果-」結果の概要(2026年9月18日・PDF)
2025年結果の公表日(2026年9月18日)、過去の結果の公表日(2024年結果は2025年6月27日、2020年結果は2021年9月17日、2015年結果は2016年9月16日)総務省統計局「小売物価統計調査(構造編) 調査結果」
「総合」及び「住居」は持家の帰属家賃を含まない、「家賃を除く総合」は民営家賃・公営・都市再生機構・公社家賃・持家の帰属家賃を含まない、都市は総合・家賃を除く総合・食料の指数に限り公表総務省統計局「小売物価統計調査(構造編)統計表利用上の注意(2025年結果~)」(PDF)
2026年8月分(全国):総合+1.9%、住居+1.0%、家賃(持家の帰属家賃を除く)+0.7%(指数100.8)、設備修繕・維持+4.0%(外壁塗装費+6.4%)、民営家賃+0.7%(木造+0.2%・非木造+0.9%)、公営・都市再生機構・公社家賃+0.8%、7月分の民営家賃+0.7%、公表日(令和8年9月18日)総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)8月分」(2026年9月18日・PDF)
32条1項(租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較により不相当となったとき、将来に向かって借賃の増減を請求できる。一定期間増額しない特約があればそれに従う)e-Gov法令検索 借地借家法(平成3年法律第90号)第32条

本稿の計算:79.1÷129.8=0.61(東京で10万円の住居費に相当する水準が岡山では6万円強)、111.8÷129.8=0.86、110.7÷129.8=0.85、「総合」から「家賃を除く総合」を引いた差(東京都2.0、東京都区部2.6、川崎市1.4など)、修繕引当の年4,000円と700円は、資料の数値から本稿が計算した目安です。「地域差指数は水準の統計で変化の統計ではない」「使える場面は転勤・法人契約・遠隔オーナーの3つ」「32条の増額根拠には使えない」「宮崎県の住居は修繕費側と読める」は本稿の読みです。オーナー説明の雛形、今週やる5つ、報告書の2行は本稿の整理です。

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