公正取引委員会は2026年9月28日、関東地区のマンションの管理組合が設計コンサルタント業者に委託して発注した大規模修繕工事について、延べ51社(実数38社)に排除措置命令を、延べ50社(実数37社)に総額16億3788万円の課徴金納付命令を出しました。違反事業者は施工業者55社と設計コンサルタント業者2社の計57社です。翌29日、国土交通省は「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の設置を公表し、第1回を2026年10月19日に開きます。この命令の名宛人に賃貸管理会社は入っていません。ただし「発注者が第三者の専門家に業者選定を任せ、その専門家の報酬が実は受注者から出ていた」という構図そのものは、賃貸の修繕発注でも成り立ちます。本稿は、公表された事実、日程、対象の範囲、まだ決まっていないこと、相談窓口、今週できる5つを整理します。
結論(90秒で読める)
- 公正取引委員会が2026年9月28日に命令を出しました。排除措置命令の名宛人は延べ51社(実数38社)、課徴金納付命令は延べ50社(実数37社)・総額16億3788万円です。適用されたのは独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)です。
- 違反事業者は計57社。内訳は施工業者55社と設計コンサルタント業者2社で、コンサルタント業者ごとに37社・20社の2つのグループに分かれています。
- 手口はこうです。設計コンサルタント業者が、設計コンサルタント業務の過程で入手した設計予算等の情報を受注予定者に提供し、受注予定者の意向を踏まえて設計コンサルタント業務を行っていました。受注した施工業者は、契約価格の5%を目安とする金額をコンサルタント業者に支払っていました。
- 翌29日、国土交通省が検討会を設置しました。「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」で、第1回は2026年10月19日(月)15:00〜17:00です。前日の28日には、関係団体を通じて管理組合等へ相談窓口の周知を行っています。
- 賃貸管理会社に新しい義務は課されていません。期限が決まっているのは、名宛人が課徴金を納める2027年4月30日だけです。検討会の結論はまだ出ていません。
- それでも今週できることがあります。設計コンサルタントの報酬が誰から出ているかを書面で確認すること、業者名簿に発注者側が1社足すこと、見積比較表を残してオーナーに渡すこと。この3つは、この命令を待たずにできます。
何が公表されたか|9月28日の命令と、9月29日の検討会設置
公正取引委員会は2026年9月28日、「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」を公表しました。マンションの管理組合が、設計コンサルタント業者に設計と工事監理を委託したうえで施工業者を選ぶ、いわゆる設計監理方式で発注された工事が対象です。
公正取引委員会が認定したのは、施工業者と設計コンサルタント業者が、特定の工事ごとに受注予定者を決め、受注予定者以外は協力するという合意のもとで、受注予定者が受注できるようにしていたという行為です。適用された条文は独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)です。
翌9月29日、国土交通省住宅局は「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の設置を公表しました。設置の趣旨は「管理組合によるマンション大規模修繕工事の適正な発注等を推進するため」で、検討事項は「管理組合が留意すべき事項」および「マンション大規模修繕工事に係る適切な事業者の確保に向けた方策等」です。その前日の9月28日には、関係団体を通じて管理組合等に対し、相談窓口や専門家の活用に係る情報と、発注等における留意点等の周知を行っています(国住参マ第168号・国不建第83号)。
日程と期限
公表資料に書かれている日付だけを並べます。賃貸管理会社に課された法令上の対応期限は、この一連の発表のなかにはありません。
| 日付 | 誰が | 何を | 期限の有無 |
|---|---|---|---|
| 2026年9月28日 | 公正取引委員会 | 排除措置命令(延べ51社・実数38社)および課徴金納付命令(延べ50社・実数37社/総額16億3788万円) | — |
| 2026年9月28日 | 国土交通省 住宅局 | 相談窓口の周知等(国住参マ第168号・国不建第83号)を関係団体を通じて管理組合等へ | — |
| 2026年9月29日 | 国土交通省 住宅局 | 「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の設置を公表 | — |
| 2026年10月19日(月)15:00〜17:00 | 同検討会 | 第1回(中央合同庁舎2号館低層棟1階共用会議室5・オンライン併用)。資料と議事要旨は後日、国土交通省HPに掲載予定 | — |
| 2027年4月30日 | 課徴金納付命令の名宛人 | 課徴金の納付 | 期限あり(名宛人のみ) |
| 未定 | 国土交通省 | 検討会の結論、管理組合が留意すべき事項の取りまとめ | まだ決まっていません |
手口の中身|設計予算の情報が渡り、契約価格の5%が戻っていた
公表資料から読み取れる構図は、次の3つが組み合わさったものです。
一つ目は情報の流れです。設計コンサルタント業者は、設計コンサルタント業務の過程で入手した設計予算等に係る情報を、受注予定者等に提供していました。設計予算は、管理組合が「いくらまでなら出せるか」を決めるための数字です。その数字を見積りを出す側が先に知っていれば、見積りはその範囲に収まる形で出せます。
二つ目は業務の向きです。設計コンサルタント業者は、受注予定者の意向を踏まえて設計コンサルタント業務を行っていました。本来は管理組合の側に立って仕様を決め、工事を監理する立場です。
三つ目はお金の流れです。受注した施工業者は、契約価格の5%を目安とする金額をコンサルタント業者に支払っていました。管理組合から見れば、設計コンサルタント業者には設計監理の報酬を払っています。その同じ業者に、工事を受注した側からも金が流れていたということです。
違反行為の時期は、公表資料によると一方のグループが遅くとも令和3年(2021年)9月27日以降、もう一方が遅くとも令和3年(2021年)11月16日以降で、事業者ごとに終了時期は異なります。排除措置命令では、受注予定者を決める行為の取りやめ、管理組合への措置内容の通知、独占禁止法の遵守に関する行動指針の作成、従業員への定期的な研修の実施などが命じられています。
発注する側から見ると、問題の芯は「見積りを比べた」かどうかではありません。比べる相手を誰が選んだか、そして選んだ人の報酬がどこから出ていたかです。複数社から見積りを取っていても、その複数社を同じ人が用意していれば、比較は成り立ちにくくなります。
誰が対象で、誰が対象でないか
ここは正確に書きます。この命令の名宛人は、関東地区のマンションの管理組合が設計コンサルタント業者に委託して発注した大規模修繕工事の施工業者と設計コンサルタント業者です。賃貸管理会社も、賃貸の一棟物を所有するオーナーも、名宛人には入っていません。国土交通省が周知した相談窓口の案内も、対象は管理組合等です。
したがって「賃貸管理の業界で談合があった」という話ではありませんし、賃貸管理会社が何かを届け出たり是正したりしなければならない、という発表でもありません。
一方で、発注の形は共通します。賃貸の一棟物でも、外壁や屋上防水の工事では、設計事務所やコンサルタントに仕様づくりと業者選定を任せ、その人が集めた数社から相見積りを取る、という進め方があります。そこで確認できるのは、今回の資料がはっきり書いている一点です。その専門家の報酬が、発注者から出ているのか、受注者から出ているのか。これは契約書と見積書を見れば分かることで、検討会の結論を待つ必要がありません。
賃貸管理の現場で今週できる5つ
- 設計コンサルタント・設計事務所の報酬の出どころを、契約書と見積書で確認する。発注者が直接払う形になっているか。工事費のなかに含まれていないか。今回の事案では、受注した施工業者が契約価格の5%を目安とする金額をコンサルタント業者に払っていました。
- 施工業者の名簿を、設計コンサルタント任せにしない。発注者側(オーナー、または管理会社)が自分で声をかけた業者を、最低1社は見積りに入れる。これだけで「比べる相手を誰が選んだか」が変わります。
- 見積比較表を残して、オーナーに渡す。何社から取り、各社いくらで、どの項目に差があり、なぜその1社にしたのか。工事が終わってから聞かれたときに出せる形にしておきます。
- 相談窓口を案内できるようにしておく。国土交通省が9月28日に周知した窓口を下の表にまとめました。住まいるダイヤルには無料の見積チェックサービスがあります。管理組合向けの案内ですが、分譲マンションの区分所有住戸を預かっている管理会社であれば、オーナーから相談されたときに渡せます。
- 10月19日の第1回検討会の資料を見る。国土交通省は「検討会資料及び議事要旨は、後日、国土交通省HPに掲載予定」としています。管理組合が留意すべき事項が示されれば、賃貸の修繕発注でもそのまま使える確認項目になる可能性があります。
このうち3番目の「何社から取り、各社いくらで、なぜその1社にしたか」を残す部分は、ウルスタくんの修繕のオーナー承認(見積と承認のやりとりが記録として残ります)とオーナーレポートで扱えます。工事そのものの適否を判定する機能ではなく、あとから経緯を出せるようにしておくための記録です。
まだ決まっていないこと
公表資料に書かれていないことを、書かれていないものとして挙げておきます。
- 検討会がいつ結論を出すかは、決まっていません。公表されているのは第1回の日時だけで、回数も取りまとめの時期も示されていません。
- ガイドラインの改定があるかどうかも、決まっていません。検討事項は「管理組合が留意すべき事項」と「適切な事業者の確保に向けた方策等」で、それがどういう形(通知・ガイドライン・手引き)で示されるかは書かれていません。
- 設計監理方式そのものの是非は示されていません。国土交通省の資料にも公正取引委員会の資料にも、方式を変えるべきだという記述はありません。
- 賃貸管理業に新しい義務が課されるという発表はありません。
国土交通省が案内した相談窓口
国土交通省が2026年9月28日に周知した窓口です。いずれも公益財団法人で、電話での相談を受け付けています。
| 窓口 | 電話 | 受付時間 | 扱う内容 |
|---|---|---|---|
| (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル」 | 03-3556-5147 | 月曜日〜金曜日 10:00〜17:00(祝日、年末年始を除く) | 大規模修繕工事の発注等に関する相談。見積チェックサービス(無料)があります |
| (公財)マンション管理センター | 03-3222-1519 | 月曜日〜金曜日 9:30〜17:00(祝日、年末年始を除く) | 建物・設備の維持管理等について |
国土交通省が今回案内したのは管理組合等に向けたものです。賃貸のオーナーからの相談を受け付けてもらえるかどうかは資料に書かれていないため、各窓口に確認してください。
よくある質問
Q1. 自社が管理している賃貸一棟物の大規模修繕も、この命令の対象ですか。
いいえ。今回の命令の対象は、関東地区のマンションの管理組合が設計コンサルタント業者に委託して発注した大規模修繕工事です。賃貸管理会社も、賃貸の一棟物のオーナー発注工事も、名宛人には入っていません。ただし、設計コンサルタントに業者選定を任せるという発注の形そのものは、賃貸でも使われます。
Q2. 設計監理方式はやめたほうがいいのですか。
公表資料にそういう記述はありません。国土交通省が設置した検討会は「管理組合が留意すべき事項」と「適切な事業者の確保に向けた方策等」を議論するとしており、方式そのものの是非は示されていません。今回の資料からはっきり確認できるのは、設計コンサルタント業者の報酬が誰から出ているかという一点です。
Q3. 課徴金16億3788万円は、誰がいつ払うのですか。管理組合に戻るのですか。
課徴金納付命令の名宛人(延べ50社・実数37社)が、2027年4月30日までに納付するよう命じられています。課徴金は国庫に納められるもので、発注した管理組合に支払われる性質のものではありません。発注者側が金銭を取り戻す手続については、公表資料には何も書かれていません。
Q4. 過去に発注した工事が対象だったかどうかは、どう調べられますか。
公正取引委員会の報道発表に別表1・別表2が添付されており、名宛人が掲載されています。また排除措置命令では、名宛人が管理組合に対して措置内容を通知することも命じられています。
Q5. 検討会の内容はどこで見られますか。
国土交通省は「検討会資料及び議事要旨は、後日、国土交通省HPに掲載予定」としています。第1回は2026年10月19日(月)15:00〜17:00、中央合同庁舎2号館低層棟1階共用会議室5(オンライン併用)です。
Q6. 自社は関東ではないので関係ありませんか。
今回の命令の対象は関東地区の工事です。他の地域について同種の行為があったかどうかは、公表資料には書かれていません。地域にかかわらず確認できるのは、本稿で挙げた「設計コンサルタントの報酬の出どころ」「業者名簿を誰が作ったか」の2点です。
要点は三つです。公正取引委員会が2026年9月28日に、マンション大規模修繕工事の受注調整について延べ51社に排除措置命令・延べ50社に総額16億3788万円の課徴金納付命令を出したこと。問題の芯は見積りを比べたかどうかではなく、比べる相手を誰が選び、その人の報酬がどこから出ていたかであること。賃貸管理会社は名宛人ではないが、設計コンサルタントの報酬の出どころと業者名簿の出どころの確認は、検討会の結論を待たずに今週できること。修繕の見積りと内訳の実務は「改正建設業法の全面施行で修繕と原状回復の見積りが変わる」、オーナーへの説明は「オーナーへの修繕費説明 完全マニュアル 2026」をご覧ください。
この記事は 2026-10-02 時点の情報です。検討会の進行により、記載内容は変わる可能性があります。
出典(本文で参照している資料)
本稿の記述は、すべて2026年10月2日に実際に開いて読んだ次の資料にもとづきます。報道各社が伝えている対象物件数や発注金額の合計は、一次情報(本文PDF・概要PDF)に記載を確認できなかったため、本稿では使っていません。
| 本稿で使った内容 | 資料 |
|---|---|
| 公表日(2026年9月28日)、件名、違反事業者の構成(施工業者55社・設計コンサルタント業者2社の計57社)、違反行為の態様(受注予定者の決定、設計予算等の情報提供、受注予定者の意向を踏まえた設計コンサルタント業務)、適用法条(独占禁止法第3条) | 公正取引委員会「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(2026年9月28日) |
| 排除措置命令の名宛人(延べ51社・実数38社)、課徴金納付命令の名宛人(延べ50社・実数37社)と総額16億3788万円、納付期限(令和9年4月30日)、違反行為の期間(遅くとも令和3年9月27日以降/令和3年11月16日以降)、命令の主文(受注予定者決定の取りやめ、管理組合への通知、独占禁止法遵守の行動指針の作成、定期的な研修) | 同 本文(PDF) |
| 受注者がコンサルタント企業へ支払っていた「契約価格の5%を目安とする金額」、コンサルタント業者ごとの違反事業者数(37社・20社) | 同 本件の概要(PDF) |
| 相談窓口の周知等(2026年9月28日・国住参マ第168号・国不建第83号)、周知の対象(管理組合等)、周知した内容(相談窓口や専門家の活用等に係る情報、発注等における留意点等) | 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について」(2026年9月28日) |
| 検討会の設置(2026年9月29日)、名称、趣旨、検討事項(管理組合が留意すべき事項/適切な事業者の確保に向けた方策等)、第1回の日時・場所(令和8年10月19日15:00〜17:00、中央合同庁舎2号館低層棟1階共用会議室5、オンライン併用)、資料と議事要旨の公開予定 | 国土交通省「『マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会』の設置・開催について」(2026年9月29日) |
| 相談窓口2つの名称・電話番号・受付時間・扱う内容(住まいるダイヤル 03-3556-5147/月〜金10:00〜17:00・見積チェックサービス無料、マンション管理センター 03-3222-1519/月〜金9:30〜17:00) | 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口について」 |
本稿の整理:「問題の芯は、比べる相手を誰が選び、その人の報酬がどこから出ていたかである」という読み方、賃貸管理会社が名宛人でないことと発注の構図が共通することの切り分け、「今週できる5つ」、相談窓口の使いどころは、いずれも本稿の整理であり、公表資料そのものの主張ではありません。課徴金が国庫に納められるものであることは独占禁止法の仕組みによるもので、今回の報道発表に記載があるものではありません。


